H17.11.16 東京地方裁判所 平成16年(ワ)第14643号 損害賠償請求事件

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平成17年11月16日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成16年(ワ)第14643号 損害賠償請求事件 平成17年9月28日口頭弁論終結 判          決 原     告                  A 同訴訟代理人弁護士       近藤広明 被     告             株式会社  長  沼 同代表者代表取締役            B 同訴訟代理人弁護士       篠島正幸 同上                  坂入髙雄 同訴訟復代理人弁護士       金塚彩乃 主          文 1 被告は,原告に対し,24万6400円及びこれに対する平成16年4月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを24分し,その23を原告,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。    事実及び理由 第1 請求  被告は原告に対し,600万円及びこれに対する平成16年4月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要   本件はキャバクラ嬢であって,被告の経営する美容室において,カット,カラーリングを受けた原告が,求めたデザインと異なるカットをされ,カラーリングによって頭皮に傷害を負ったことによって,そのヘアスタイル等についての後遺障害を負い,キャバクラにおける売上げが低下し,精神的損害を被ったなどと主張して,債務不履行または不法行為に基づき,治療費,後遺障害に基づく逸失利益,後遺障害慰謝料,通院慰謝料等について,主位的主張における計算方法ではその一部につき,予備的主張における計算方法ではその全部につき,損害賠償及びこれに対する不法行為日以降である平成16年4月5日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実 (1) 原告(昭和a年b月c日生まれ,女性)は,新宿区にあるキャバクラ・Cのキャバクラ嬢であり,その源氏名はDである(甲1,乙4)。  被告は,東京都渋谷区において美容室Eを経営している。 (2) 原告は,平成16年4月4日午前11時45分,Eを訪れ,被告の店長であるFに対し,その頭髪に関するカット,カラーリング等を依頼し,被告はこれを税込み代金1万6500円(内訳:ポイントストレートパーマ3000円,カラーリング9000円,カット4500円)で承諾した(以下「本件美容契約」という。その契約の性質・内容には争いがある。)。 (3) 原告は,同日,上記カット(以下「本件カット」という。),カラーリング(以下「本件カラーリング」という。)の結果が希望と異なったので,本件カットの途中で退席した。 (4) 被告は,平成16年4月16日,原告に対し,本件カット,本件カラーリングに関連して,10万3600円を支払った。 2 争点 (1) 本件美容契約の具体的内容,関連して,美容室においてカット等を依頼する契約の性質 (2) 本件美容契約上の債務不履行ないし不法行為の成否 (3) 損害 3 当事者の主張 (原告の主張) (1) 本件美容契約の具体的内容,関連して,美容室においてカット等を依頼する契約の性質 ア 美容業の顧客との契約における基本的合意事項は,合理的反証がない限り,美容業の監督官庁である厚生労働省の認可にかかる「美容業に関する標準営業約款規程集(財団法人全国生活衛生営業指導センター発行)」(以下「標準約款」という。)及び適正な取引慣行によって形成されるものと推定されるべきである。  なお,頭髪美容施術は,仕事の完成を目的とするので,あえていえば委任型ではなく,請負型である。  仮に委任型であっても,受任者には善管注意義務があり,それによって,請負型における仕事の完成に等しい事務処理が要求されるので,委任の立論は無意味である。即ち,委任型であるからといって自由裁量ではない。 イ 原告は,本件美容契約締結時,被告担当者Fに対し,巻き髪やカールが必要であることを伝えた上,カット及びカラーリングを次のとおり指示して依頼した。 ① 髪の毛の全体の長さは巻いたりするので長いままにする。  ここで「長いまま」とは,「ベースを残して細かくカットすること」をいう。「スキばさみ」などをつかうこともあれば,縦にはさみをいれ,細かくポイントカットをすることもあり,「間引く」感じである。これを「アプローチカット」という。  また,巻くことも想定しているため,長いままにするとは,ある程度頭髪のトップとサイドに髪の量を残すことを意味する。 ② 髪の毛全体を軽くする。  ここで「軽く」とは,「スキばさみ」を用いたりして,数本ずつ髪の毛を間引くように切ることをいう。  「セニングはさみ」を用いることもある。そのはさみには細かさがいろいろあり,髪の毛を落とす量によって,はさみの種類を変える。 ③ 髪の毛の上部はヘアメイク師がカールしやすいように流れるようにする。  「流れるように」とは,「見た目が流れる」ということで,髪の毛に「束感」をつけたり,根元から毛先にかけて,細かくカットをいれると「流れ」が出る。流れの出し方は人それぞれだが,例えば,普通のはさみで,「長方形」の髪の束に「長三角」ないし「翼型」になるカットを細かくいれて「流れ」を作るのも一方法である。  また,流れるようにするとは,ある程度頭髪のトップとサイドに髪の量を残すことを意味する。 ④ 雑誌光文社発行の美容雑誌「ジェイ・ジェイ」平成16年5月号14ページ右側に掲載された写真の被写体である女性の髪型(以下「JJ記載の本件髪型」という。)を参考にしてカット,カラーリングをする。  本件髪型を参考にするとは,ロングレイヤーの基本形を維持するということである。 ⑤ カラーリングは自然な赤オレンジにする。 (2) 本件美容契約上の債務不履行ないし不法行為の成否 ア 義務違反ないし違法行為の有無 (ア) 具体的施術の経過  本件カラーリングは午後4時30分までかかり,本件カットが終了したのが閉店間際の午後9時近くであった。本件カラーリングについては,4回やり直しとなり,シャンプーも6回された。  午後5時近くに,本件カットが開始されたが,本件カット開始直後から,原告に確認もなく,Fによりいきなり「バッサバサ」と髪の毛が切られていった。Fのカットは原告に確認しながらのものではなかった。カットの途中,40㎝近くもの切られた髪の毛を見た原告は,後ろの毛も相当減らされたことがわかり,左半分のカットを中断させた。 (イ) 本件カットについて  Fは,本件美容契約に基づき,上記(1)ア記載するとおりに適正なカットをし,その間,原告にカットの状態を確認すべき注意義務があった。  しかし,本件カットにおいて,Fは,原告にカットの状態の確認はしなかった。  また,本件カットにおいて,髪を軽くするため,スキばさみが用いられる,アプローチカットがされる,セニングばさみが用いられるなどによる一般的なカットの手法が取り入れられておらず,パネルとパネルが繋がっておらず,髪の一部が他の部分と比べて短くなっており穴や陥没があった。  更に,本件カット後の原告の頭髪は,頭頂部が5~10㎝程度であって,側頭部に極端な短髪があり,巻き髪やアップの髪型ができないものであった。  また,本件カット後の原告の顎下の髪の毛の先端部分10~20㎝の毛髪量は,手でつかんで束ねても,細い一握り程度しかなくなった。 (ウ) 本件カラーリングについて  Fら被告の美容師は,本件美容契約に基づき,本件カラーリングの際に頭皮ケアをすべき注意義務があった。  そうであるのに,予定されていた自然な赤オレンジとならなかったため,カラーリングを4回に亘って行い,その度に色が三転四転し,カラー剤を洗浄せず,これを頭髪に残したまま終了することとなった。Fらはカラーリングを4回しているが,最終カラーリングの後,カットに移行する際,原告の頭髪,頭皮にカラー剤が付着したままであり,一部は白い粉として消しゴムのカス状として付着していた。かかる場合,被告美容師らはカラー剤を洗い流すべきであったのに,タオルで拭き取るだけで,数時間原告の頭髪頭皮につけたカラー剤を残存させた。 (エ) なお,本件カラーリング,本件カットには,正午頃から午後9時前まで要した。 イ 傷害 (ア) 原告は,本件カラーリングによって,原告の頭皮に,すずめの卵大の円形脱毛症様のただれを生じさせた。 (イ) 原告は,本件カットによって,必要以上に髪が切られ,その一部が40㎝近く短くなり,エクステンションが必要となった。 ウ 後遺障害  原告には,円形脱毛症(長期の通院加療を要する。),頭皮炎症及び頭髪損傷(約40㎝,数百本)の後遺障害が残存した。 (3) 損害 ア 主位的主張 合計629万9008円 (ア) 治療費 9280円  円形脱毛症の治療費 (イ) 後遺障害による逸失利益 319万9728円  原告は,d町の高級キャバクラ・Cの人気キャバクラ嬢であり,時給2万円で,1日6時間,週5~6日出勤し,月平均出勤が25日であった(1日あたり1万3000円費用負担)。  上記後遺障害,特に頭髪損壊は,女子の外貌を著しく変貌させるものであり,今後の頭髪の伸び(5年後に回復と想定)を考慮しても,その高級キャバクラ嬢としての活動の遂行に重大な支障を生じさせることはさけられない。具体的には仕事中はエクステンションをして外見をカバーしているがその費用は多額である。また,出勤前は,Cのヘアメイク師にエクステンションをつけてもらっていない状態だが,この状態を顧客に悟られないようにするために,原告は,「同伴」営業活動ができなくなった。そのため,原告目当ての客が事件以来減少傾向にあり,その売上が日増しに落ちている。原告の収入は売上比例であり,その収入に対する打撃は大きい。したがって,逸失利益は次のとおりとなる。  (2万円×6(時間)-1万3000円)×25×12×0.14(後遺障害等級12級相当)×0.712(25歳から30歳までのライプニッツ係数)=319万9728円 (ウ) 後遺障害慰謝料 200万円(後遺障害等級12級相当) (エ) 通院慰謝料 52万円  通院月1回5年分 (オ) 弁護士費用 57万円 イ 予備的主張 (ア) 治療費 9280円  主位的請求と同じ。 (イ) 後遺障害による逸失利益 99万8088円  原告の基礎収入,後遺障害の程度は,主位的主張どおりである。  ただし,その外貌は,頭髪の伸びによって,もとの状態に戻りうる。そして,頭髪は1月当たり約1㎝伸び,本件で約40㎝程度の頭髪切断があったことからすると,頭髪が完全な状態に至るには,3年4か月程度を見込めばよく,その労働能力喪失率は頭髪の伸びに従って3年4か月後まで漸減するから,その逸失利益は次のとおりとなる。  3210万円×0.14×0.457(25歳から3年4か月後までのライプニッツ係数)÷2=99万8088円(ママ) (ウ) 後遺障害慰謝料 8万3333円  後遺障害12級として290万円を3年4か月と期間限定であって,漸減型の労働喪失であること等から以下の修正が必要である。  290万円×(3年4か月/58年(25歳女子の平均余命))÷2 =8万3333円 (エ) 通院慰謝料 52万円  3年4か月間で頭髪の修正のために,美容院に通院を最低月1回繰り返す。 (オ) 弁護士費用 上記合計の1割 ウ エクステンション費用(上記ア,イの補完)  原告が,エクステンションにより,頭髪の長さを修正し,一定のカバーをするには,2か月に1回,5万円程度のエクステンションを用いればよく,現に,ある程度エクステンションの使用によって対応していた。  5万円×(3年4か月/2か月)=100万円  これによって一定のカバーをしても,元の頭髪そのものになるわけではなく,ドレスアップデー等催し物の際に要求される,特別のヘアスタイルへの対応に支障が生じ,原告は平成16年4月を境に現実に20~70%の収入減少が生じている。  したがって,エクステンションの実費で計算するのでは,損害のすべてを反映することができないため,これは,上記損害計算を補完するものとして主張する。 (被告の主張) (1) 本件美容契約の具体的内容,関連して,美容室においてカット等を依頼する契約の性質 ア 本件美容契約は,頭髪美容施術に関する業務委託契約であり,その法的性質は準委任契約である。すなわち,頭髪の状態,性質には個人差があり,また同一個人であっても年齢や頭髪のコンディションによっても変化する。したがって,美容師は,顧客から指定された髪型に向けて行う施術につき,カット等の程度・方法や一定の整容などに関して相当程度広範な裁量権を有する。  Eは,標準営業約款に関する登録を行っていない。なお,都内5200を超える美容室のうち,その登録を行っている店舗は平成16年3月現在161に過ぎない。 イ 原告が,Fに指示した業務内容は,原告から随時受けた具体的指示を守りつつ,頭髪全体の外観をJJ記載の本件髪型を原告に似合った様子で模倣することであり,カットする際の技法としては具体的には次の内容を有する。 ① 部位に応じて頭髪の長さに変化を付けるいわゆる「レイヤーカット」を行い,頭髪の外観に躍動感(あるいは頭髪方向の一定の「流れ」感)を与える。 ② ①に付随し,頭頂部付近の頭髪を短く切除し,または剥くなどして頭髪の総量を減らす(毛量を少なめに調整する。)。  また,原告が具体的に指示した内容は次のとおりである。 ③ 頭髪全体の外観上の長さは維持する。 ④ 原告が「カラーチャート(色見本)」で示した髪色に染色する。 (2) 本件美容契約上の債務不履行及び不法行為の成否 ア 義務違反ないし違法行為の有無 (ア) 本件におけるFの具体的施術 a カットまで  原告来店後,Fは原告に問診を行い,問診の際,Fは原告の髪質,毛量を確認し,毛髪を相当短く切らなければない旨を原告に告知した。問診の後,Fは助手に原告頭髪の洗髪作業を行わせ,その後,原告に対し,再度,希望の髪型を確認し,カット作業に入った。 b カットの手順 (a) Fは,同日正午頃からベースカット作業に入った。その具体的な作業は次のとおりである。 ⅰ 前髪を徐々にカットして前髪を作る。 ⅱ トップ,バック,そしてサイドにかけて,頭髪を引き出し,適宜の長さにカットしていく。頭髪はトップほど短めに切除する。ただし,細部を調整しながら形を整えるという手順をとるため,やや長めに切除する。  Fは,これらの作業をほぼ15分ほどで終了した。なお,切除の際,切る長さを具体的に示し,適宜原告の承諾を得た。なお,これらのカットの際,Fは,原告の前髪にストレートパーマをかけた。 (b) セニング等による毛量の調整  上記のとおり,若干長めにレイヤーカットを行った後,Fは,午後12時45分ころ以降,徐々にセニング等によって毛量を調節した。原告の髪質は太く,毛量も多であったため,原告希望の髪型にするためには,相当程度根元からセニングを行い,毛量を減らす必要があった。  Fは,自己の技術に従い,頭髪全体につき適宜セニングを行い,徐々に毛量を減らしていった。これにより,同じトップから生える頭髪でもその個々の長さに差が出るようになった。これは,サイドもボトムも同じである。  被告Fは,原告の希望した髪型が,サイドが膨らまずにフェイスラインに沿ってまとまる丸みを帯びた髪型であるため,これに合わせたセニング手法,即ち,頭髪の表面部分を長めに,その内側を短めにするセニングを行い,他方,首より下にたれる毛髪は,頭髪の長さについては不一定であるが若干広がりを持つという形状であったため,上記サイドとはまったく逆のセニング手法を採用した。  ただし,毛髪の最下部,いわゆる裾部分については,長いままにするという原告の希望を容れ,毛先を整える程度の修正のみ行い,位置を維持した。 c カラーリング  ベースカット及び毛髪調節の為のセニング作業の大枠が終了した段階で,カラーリングを開始した。全体を単色で染色した後の午後3時前ころFはさらに髪型の細部調整をするためセニングを行い,また顎部のあたりからシャギーカットを行い,髪の毛の軽い質感を出した。  Fの予定では,その後にカラーリングを完成させ,さらに細部の微調整の為のカットを行う予定であったが,その際,原告のクレームが発生したので,結局髪型は完成しなかった。 d 原告によるクレーム  Fは原告が依頼した雑誌写真の色調に合わせて,オレンジ・グレー系で毛根付近を染色し,色調を確認した後に上記雑誌の写真の色調に合わせて全体のカラーリングを始めた。ところがこれに対し,原告は「色が暗い」などと苦情を述べ始めた。そこで,Fは,従前のイエロー系に比較し,オレンジ系の染色は若干暗めになる旨を原告に伝え,原告の承諾のもと,さらに染色を継続した。かかる説明の後も,原告から暗いとの指摘がされた為,Fは当初予定されていた染色の方針を変更することにした。具体的にはFは原告に確認の上,原告頭髪にハイライト処理(毛髪に立体感を出すために頭髪の流れにそって明色部分を加える処理)を行った。  しかし,これでも原告は不満を述べた。そこでFは原告と協議の上,再施術を行うことを決定した。この決定に基づき原告頭髪に明るめの脱色を行い,仕上げとしてオレンジ系のカラー染色を行った。  ところが,原告は,カラーリング後のカットの際に,原告が「カラーも暗いし,髪も短くなった。」と騒ぎ出したものである。 イ 傷害及び後遺障害について (ア) 原告の主張する後遺障害以外の損害は,結果の発生及び行為との因果関係をいずれも否認する。 (イ) 原告の頭皮に円形脱毛症様のやけど状のただれが発生したとの事実は否認し,円形脱毛症となったことは知らない。  円形脱毛症の原因には多様な要素が含まれており,施術と発症には因果関係がない。 (ウ) 原告の主張する後遺障害は,症状固定日がなく主張自体失当である。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実に証拠(甲9,乙14,16,証人G,証人F,原告本人及び後掲各証拠)並びに弁論の全趣旨によると次の事実を認めることができる。なお,事実認定の補足説明も後掲括弧内に記載する。 (1) 原告(昭和a年b月c日生まれ,女性)は,新宿区にあるキャバクラ・Cのキャバクラ嬢であり,その源氏名はDである。原告の給料の仕組みは,基本的には売上比例である。原告がCから受け取った給与は平成16年1月度が約189万円,同年2月度が約199万円,同年3月度が約82万円で,平均約157万円であった。 (甲1,8,10,11,16,18,31,乙4)。 (2) 原告は,平成16年4月4日午前11時45分,Cの同僚と共に被告が東京都渋谷区において経営するEを訪れ,被告の店長であるFに対し,原告の頭髪に関するカット,カラーリング等を依頼し,Fは被告の店長としてこれを税込み代金1万6500円(内訳:ポイントストレートパーマ3000円,カラーリング9000円,カット4500円)で承諾した。 (3) Fは,原告が接客業務に携わっていることを知っていた。Fは,原告に髪型の希望を聞いたが,その際,原告は,Fに対し,JJ記載の本件髪型を参考にカラーリングとカットをする,巻き髪やアップが可能な髪型とするため最も長い部分の長さは残す,頭頂部が短いウルフレイヤーであるHのような髪型は避けると依頼し,他に,スタイルはロングレイヤー,フロントの長さは鼻頭,トップの長さは17~20㎝,サイドの長さはセミロング(肩にかかる位),ネープの長さは肩甲骨下部~腰,シルエットは◇型との趣旨の希望をした(乙3,4,なお,巻き髪やアップの点,Hの点については,証人Fも認めている。)。また,原告は,カラーリングについては赤オレンジとすることを依頼した。 (4) 被告従業員が,原告にシャンプーをした。その後,Fは,約15分,予定されているカットについて長めに大まかにカットをするベースカットをした。その際,大きな段をつけたロングレイヤーとするため,頭頂部,即ち外側の髪を比較的短めに,内側の髪を長めに,段をつける形にカットをした。また,Fは,この時点で,原告の毛量をある程度減量するカットをした。その時点では,原告は,Fにクレームをつけなかった。また,この際,被告従業員が,原告の前髪にストレートパーマをかけた。 (なお,甲9,原告本人には,ベースカットについての部分がないが,乙14,16,証人G,証人Fによると,ベースカット,カラーリング,ドライカットという手順がEで一般的であったと認められること,それは順序として合理的であること,ベースカットの時間は長くとも15分程度でその施術も大まかなものであるから原告本人が陳述書を作成する時点や本人尋問の時点で記憶していなくとも不自然とは言い難いことから,上記の通り認めることとする。) (5) その後,被告従業員は,原告にカラーリングをしたが,原告は,より明るい色を依頼したため,やり直しのため,4回カラーリングが施された。最後のカラーリングが終了後,少なくとも最終的にはシャンプーがされた(原告がその本人尋問で認めている。)。 (6) Fは,その後,原告に対し,ドライカットをし,全体の形を整えるため,毛量を落とすカットや段をより強く入れるカットをした。しかし,その過程で,原告は,期待していた髪型に比べ,肩からループまでの毛量が少なく,全体的に剥く量が多いと判断したこと,会う予定をしていた原告の交際相手から再々携帯電話に連絡が入ったこと,カラーリングも暗く気に入らないことなどから,同日午後7時頃,その中止を求め,Fはそれを了承した。  なお,Fは,ベースカットないしドライカットの際,おれに任せろ,おれには何かこのデザインが見えていると述べていた。  被告は,原告から本件美容契約代金を受領せず,かえって,トリートメントをプレゼントした。 (7) 原告の交際相手は,職業はホストであるが,同日,本件カットが終了後,原告と会い,原告の髪型を見て,激怒して,Fに電話をし,強く抗議した。翌日,原告の交際相手,CのI,原告は,Fと交渉した。Iの強い要求を入れる形で,Fは,原告に対し,「本人の希望する髪の長さを私が誤ってカットしてしまいました。」,「私が責任を持って本人が納得するまで無料でケア到します。尚,他社でケアした場合の費用も私が責任を持って負担到します。」などと記載した念書を差し入れた。  原告の交際相手は,Fに対し,同月15日エクステ代7万円とヘアアイロン購入代3万3600円を原告に払うよう要求し,同月16日,Fと被告の部長Jは,Cに訪れ,合計10万3600円を支払った。 (甲6,7,30,乙5の1・2,15,証人K) (8) 原告は,同月19日,はげが出来たためLへ行き,円形脱毛症との診断を受け,治療を受けた。一般的に円形脱毛症はストレスによっても発症する(原告本人も認めている。)。 (甲4,5,27,28) (9) 本件カットにおいて,頭頂部には髪の長さが7~8㎝のものが一束以上ある(証人Fは,長さが7~8㎝のものは頭頂部前部にあり,頭頂部中央にはない旨供述するが,甲3によるとその中央にあると認められ,証人Fは採用しない。)。また,本件カットにおいては,側頭部,後頭部では,内側の髪について,比較的広く根元近くまで,何か所かカットする手法が採用されていた(カットの手法については証人Fも認めている。)。また,側頭部,後頭部に大きく段が入っていた。なお,本件カラーリングの最終的な結果は,表面は茶で,内部は比較的黒く色むらが認められるものであった(甲3を精査すると髪を挙げている写真の内部の髪が外部の髪に比べて黒いと認められる。)。本件カット後のヘアスタイルがカットによってJJ記載の本件髪型になることができる期間は約1,2年間である(証人M)。 (甲3,甲13,甲14の1~4,甲19ないし21,甲23の1~20,甲30,32,証人M) (10) 原告は,本件カットについて,主に,頭頂部を初め多くの場所に短い頭髪があること,短い頭髪と長い頭髪が馴染んでいないこと,全体的に毛量が少ないこと,それらによって巻き髪やアップにすることが困難なことに強い不満がある。また,原告は,本件カラーリングの結果にも不満があった。 (11) 原告は,自分のキャバクラ嬢としてのアピールポイントは長い髪が美しい点であると考えていたため,納得いかない本件カット,本件カラーリングのままでの接客に自信がもてなかった。そこで,本件カット,本件カラーリング後,エクステンションをつけ,髪の量をカバーし,1か月後新たにカラーリングをした。原告は,エクステンションを購入,装着するため,少なくとも,平成16年4月7万円,同年6月5万円,同年8月5万円,同年10月5万円を費やし,その後も,エクステンションの購入,装着に費用を支出している。 (甲25の1~3,甲20,22,30~32,証人M) (12) 原告の給与所得は,平成16年4月度約65万円,同年5月度約91万円,同年6月度約74万円,同年7月度約66万円であって,その間の平均は月約74万円であって,平成17年3月度約200万円,同年4月度百二,三十万円,同年5月度約70万円であった。 (甲16) 2 本件美容契約上の債務不履行ないし不法行為の成否 (1) 本件美容契約の性質については当事者間に争いがあるが,本件美容契約上の被告の債務として,原告の求めたデザイン,カラーに基づき,カットし,カラーリングすること,その過程で,デザインに見合ったカット手法を採用すること,デザイン,カラー等に疑義が生じれば原告に確認することであることがあることについては,実質上当事者に争いがない。また,加えて,刃物や染髪料等を用いる美容契約の性質上,併せて,原告の生命,身体を害しない安全配慮義務があると解される。  しかし,ここで,デザインについての原告の求めはある程度抽象的であること,頭髪の状態,性質には個人差があり,また同一個人であっても年齢や頭髪のコンディションによっても変化するため,同じカットを施しても,結果が同じとなるとは限らないことを勘案すると,その抽象的に求められたデザインの髪型とするために合理的なカット手法を採用すれば,被告において,本件美容契約上の義務違反や違法行為は問題とならないと解すべきである。 (2) そこで,本件において,その具体的内容を検討すると,前記のとおり,Fは,原告が接客業務に携わっていることを知っていたこと,原告がFに,JJ記載の本件髪型を参考にカラーリングとカットをする,巻き髪やアップが可能な髪型とするため最も長い部分の長さは残す,頭頂部が短いウルフレイヤーであるHのような髪型は避けると依頼し,他に,スタイルはロングレイヤー,フロントの長さは鼻頭,トップの長さは17~20㎝,サイドの長さはセミロング(肩にかかる位),ネープの長さは肩甲骨下部~腰,シルエットは◇型との趣旨を伝えたと解される。 (3) そうすると,原告が主張する点のうち,①本件カットは頭頂部が7㎝ないし8㎝と短く,ウルフレイヤーに近く,トップの長さ17~20㎝とも一致しないことについては,本件美容契約上の義務違反ないし違法行為に該当する。なお,証人Fはこの点,前髪を作るために必要であったと供述するが,その目的と位置や長さが合致せず,合理的なカット手法と解されないので,上記判断を左右しない。  次に,②側頭部,後頭部の毛髪量や側頭部の短髪部分については,原告は,巻き髪,アップを予定していたことをFに伝えていたことからすると,その真意は,ある程度の毛髪量の残存を希望していたもので,本件カットの結果は原告の希望に比べ毛髪量が少なかったと窺われるが,他方,本件美容契約の締結の際,原告はFに対しJJ記載の本件髪型を示していて,それによると側頭部,後頭部の毛髪量はかなり少ないものであって,原告の上記真意と矛盾するものであるから,事後的,客観的に見て,原告がFに対し,その真意を伝えていたと解することはできない。そうすると,その原告の真意は,本件美容契約の内容を構成するとは解することはできない。なお,原告は,この点に関連して,カットの手法も問題とするが,本件カットが原告の希望で中断したこと,証人Fが空気感を出すための手法であると一応合理的な説明をしていることに鑑みると,現段階で,本件カットの手法が,適不適又は上手下手の問題を超え,違法であったとまで断定することは困難である。  最後に,③本件カットにおいて,Fが,原告にカットを示し,その確認をしなかったかについては,例えば上記①,②のように,現に違法,あるいは,原告の真意に副わない結果が生じていること,前記認定のとおり,現に原告が本件カット中に中止を求めたこと,前記認定のとおり,Fは自分に任せろ等と述べていたことを総合すると,少なくとも,Fが原告の希望について,充分な確認を得ていないことは容易に推認できる。そうすると,被告には,この点においても,本件美容契約上の注意義務違反があり,違法な行為がある。 (4) なお,本件カラーリングが債務不履行ないし不法行為に該当するかについては,後記のとおり,本件において,本件カラーリングに基づく損害を認定することはできない。  したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告のこの部分の請求は理由がない。 3 損害について (1) 本件カラーリングについて  円形脱毛症の原因が本件カラーリングであることを認めるに足りない。前記1(8)記載によると,かえって円形脱毛症の原因はストレス等があり,担当医も本件カラーリングとの関係を積極的に述べているとは窺われない。そうすると,原告の主張する本件カラーリングによる損害は認められない。  そして,治療費(主位的主張,予備的主張)は,本件カラーリングによる損害であるから,認められない。 (2) 本件カットについて ア 後遺障害(主位的主張,予備的主張)に基づく請求について  髪型の問題は髪が伸びることによって解消するから,半永久的に残存することを前提とする後遺障害に基づく逸失利益ないし慰謝料請求はありえない。  ただ,原告は,一定期間その意に副わない髪型であることによって過ごさなければならないので,その慰謝料が問題となるが,それは通院慰謝料として検討する。  また,それによって明白な減収がある場合には,休業損害として肯定すべきであるが,前記1(1),(12)によると,原告の収入は月によって差があり,本件カット後に直前月の収入から比べて大きく落ち込んだとも認められない。そうすると,この点について肯定することはできない。しかし,他方,原告はキャバクラ嬢という容姿の美しさが重視される職業に携わっており,髪型は容姿に大きく影響するものであって,現に,原告がエクステンションでカバーしていることも明白な減収を防いでいること,明らかな形ではないが大まかな傾向としては減収も窺えることから,これらの点は,通院慰謝料で考慮する。 イ 通院慰謝料 30万円  前記前提事実のとおり,原告は髪をアピールポイントとしていたキャバクラ嬢であったのに,ウルフレイヤーに近い髪型となり,職業上巻き髪やアップをする必要があることもあって,エクステンションの装着を余儀なくされ,裏付けがあるだけでも約30万円の支出が認められること,髪に自信が持てなくなったため接客にも自信が持てなくなった時期もあったこと,しかし,他方,髪型の問題は時期がくれば解消するものであって,その期間も,原告が主張するように従前の髪型における長さを前提とするのではなく,本件美容契約の依頼の内容であるJJ記載の本件髪型を前提とすべきであって,そうであれば1,2年で足りることを勘案すると,30万円をもって相当と認める。 ウ 損益相殺 10万3600円 エ 弁護士費用 5万円  本件の結論,審理の経過,本件の難易度等を勘案すると,上記をもって相当と認める。 オ 損害合計 24万6400円 4 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由がある。 東京地方裁判所民事第14部 裁 判 官  水 野 有 子

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