H17. 9.16 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第604号 強制わいせつ被告事件

「H17. 9.16 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第604号 強制わいせつ被告事件」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

H17. 9.16 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第604号 強制わいせつ被告事件」(2005/12/16 (金) 16:12:30) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

判示事項の要旨: 強制の有無 主 文 被告人を懲役1年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実) 被告人及び死亡前の相被告人A(以下,「A」という。)は,かつての部下であり,本件当時も同じC県庁に勤めていたB(当時28歳)に対し,強いてわいせつな行為をしようと企て,共謀の上,平成16年2月6日午前零時過ぎころから同日午前4時ころまでの間,C県a市b町c番d所在のDe号のA方において, 1 同女に対し,被告人及びAが,乳房を見せるよう要求し,被告人が,同女に近づき同女の着衣を脱がせようとするとともに,Aが,「脱がされるのが嫌だったら,自分で脱ぐように。」「時間もないし,さっさと脱げや。」などと強い口調で言って,もしこれに応じなければ力づくでも着衣を脱がせるような気勢を示して脅迫し,同女をしてやむなく自ら着衣を脱がせて上半身を裸にさせ,さらに,Aが,いきなり同女の乳房を触り出し,「やめて下さい。」などと言って体をねじったり,被告人らの手を払いのけようとする同女に対し,被告人及びAが,同女の手を押しのけ,Aが,「うるさい。」「じっとしとけ。」などと強い口調で言い,同女のベルトの腰付近をつかむなどの暴行・脅迫を加えた上,こもごも同女の乳房をもむなどしてもてあそび 2 次いで,Aが,同女に対し,ズボンを脱ぐよう要求し,被告人が,同女のベルトのバックルをつかんでこれを外そうとする暴行を加えた上,Aが,「外せないみたいやから,自分で脱いで。」「上も脱いだんやから,下も脱いでも変わらんやろ。」などと強い口調で言い,もしこれに応じなければ同女に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同女をしてやむなく自らズボンを脱がせた上,同女のパンツに手をかけてこれをずり下げて脱がそうとし,さらに,同女の両手首をガウンの腰ひもで後ろ手にくくる暴行を加えて,背後から乳房をもむなどしてもてあそび 3 その後,着衣の上こたつに入って横になっていた同女に対し,被告人が,手で同女の肩を抑え付けて強いて接ぷんし,さらに,同女の手をつかんで着衣の上から陰茎に触れさせたり,同女のパンツの中に手を差し入れるなどし,次いで,被告人及びAが,こもごも抵抗する同女の着衣の下に手を差し入れて乳房をもむなどしてもてあそび もって,強いてわいせつな行為をした。 (証拠の標目) 省略 (事実認定の補足説明) 第1 弁護人は,公訴事実記載の日時ころ,A方において,被告人が被害者B(以下,「被害者」という。)と風呂に入ったこと,被害者が上半身裸となり,被告人及び死亡前の相被告人A(以下,両名を指す場合,単に「被告人ら」という。)がその乳房を触ったことは認めるものの,これらは3人で飲酒の上雑談していた際にふざけあって行ったことであり,被害者に強制したことはなく,被告人らの強制わいせつについての共謀は勿論,被害者に対する暴行,脅迫はなかったとして無罪を主張し,被告人らも,公判廷においておおむねこれに沿った供述をする。 そこで,以下,当裁判所が判示のとおり,強制わいせつ罪が成立するとした理由を補足して説明する。 第2 本件の事実経過のうち,証拠により明らかに認められる事実及び特に争いのない事実は以下のとおりである。 1 被告人らと被害者の関係等 (1) 被告人らは,いずれもC県職員として稼働し,平成14年4月以降,本件当時は,Aは,E部F局G課(以下,「G課」という。)主幹兼O係長,被告人は,同課課長補佐として勤務していた。 (2) 被害者は,臨時職員や日々雇用職員として1年ごとに雇用期間を更新しながら,C県職員として稼働していたが,平成14年4月から平成15年3月までは,被告人らと同じG課において,臨時職員として勤務し,このころ,同課における上司であった被告人らと知り合った。そして,被害者は,本件当時は,H部I局J課(以下,「J課」という。)に日々雇用職員として勤務していた。  2 被告人らが被害者を呼び出した状況 (1) 被告人らは,平成16年2月5日午後6時過ぎころから同日午後9時ころまで,仕事帰りに職場の近くの居酒屋で2人で酒を飲み,その後,被告人が,Aの自宅に泊まりたいと言い出したため,被告人らは,本件当時,Aが単身で暮らしていたマンションである,C県a市b町c番dDe号室へ向かった。 (2) 被告人らは,Aのマンションに着くと,2人でウイスキーの水割りを飲んでいたが,30分ほどして,被害者を呼び出して一緒に飲もうという話になった。そこで,被告人が,職場の同僚らに電話をかけて被害者の自宅の電話番号を調べ,同日午後10時30分ころ,被害者宅に電話をかけた。被告人は,電話に出た被害者に対し,Aのマンションに今すぐ来て,一緒に飲もうと誘ったが,被害者は,「時間も遅いですし,行きません。」と断った。しかし,被告人は,あきらめずに説得をし,また途中でAに電話を替わるなどして,結局,被害者は,Aのマンションに行くことになった。 (3) 被害者は,同日午後11時ころ,母親に呼んでもらったタクシーで自宅を出発し,Aが自宅近くの目印として教えたK会館付近に向かった。被害者は,K会館手前でタクシーを降り,コンビニエンスストアに寄って,ジュースなどを買った後,被害者を迎えに出ていた被告人らと合流し,Aのマンションへ行った。 3 被害者が被告人とともに浴室に入った状況 (1) 被告人らと被害者は,Aのマンションに着くと,リビングルームのソファーに座るなどして,被害者が来年はまた「土木の仕事」に戻りたいと思っていることや仕事の話,Aが飼っていた熱帯魚の話などの雑談をして過ごした。この際,被告人らはウイスキーの水割りを飲んでいたが,被害者はAが用意したウイスキーの水割りを一口飲んだだけで,あとは自分が持ってきたジュースを飲むなどしていた。 (2) Aは,翌6日午前零時ころ,浴槽に湯を張って,被告人に入ってくるように勧めるとともに,被害者に対し,被告人の背中を流してやるように言った。被害者は,脱衣場に行き,着ていたセーター,ブラジャー,ジーパンを脱ぎ,パンツははいたままで,上半身と下半身に一枚ずつバスタオルを巻いて浴室に入り,被告人が先に裸になって浸かっていた浴槽の縁に腰掛けて,足だけを湯につけた。 (3) 被告人は,浴室から出た後,脱衣場において,被害者に「体をふいてくれ。」と言い,両手を上げて近づいたので,被害者は,被告人の上半身をふいた。  4 被告人らが被害者の胸を触った状況 (1) Aは,浴室から戻った被告人及び被害者とリビングルームで雑談するうち,被害者に対し,胸を見せるよう求めた。 (2) 被害者は,着ていたセーターとブラジャーを脱いで,上半身裸になった。 (3) Aは,その前後にリビングルームの電気を消した上,リビングルームに置かれた電気ストーブの前に立った状態の被害者に対し,被害者の右前方付近から,その右乳房を触ったりもんだりし始めた。 また,被告人も,被害者の左斜め前方から,その左乳房を触ったりもんだりした。 5 被害者がズボンを脱いだ状況 (1) Aは,被害者の乳房を触るなどした後,同女に対し,ズボンも脱ぐように言い,被害者は,自分でズボンを脱いだ。 (2) その後,Aは,ガウンの腰ひもで被害者を目隠ししたところ,被害者が嫌がったため,次に,被害者の両手を後ろ手に交差させ,同じガウンの腰ひもをその腕に巻き付け,さらに被害者の乳房を触った。 6 和室のこたつの付近での状況 (1) 被害者は,Aの勧めもあって同人方に泊まることになった。Aは,被告人や被害者が横になれるよう,リビングルームの隣にある和室のこたつ布団を整えるなどした上,一人でふろに入りに行き,他方,被害者と被告人は,こたつに入って横になり,被告人は,被害者に接ぷんをしたり,トレーナーの中に手を入れて乳房を触わったりし,さらに,ズボンの中に手を入れたが,被害者が嫌がったためズボンの中から手を抜いた。 (2) 被告人らは,Aがふろから上がった後,和室のこたつ付近で被害者を真ん中にして横になった後,被害者の両側からその乳房を触ったりもんだりしたが,Aは,すぐに寝てしまい,その後,被告人,被害者の順で寝入った。 7 犯行後の状況 (1) 被害者は,同日午前6時40分ころに目を覚まして,ブラジャーとセーターを身につけた上,同日午前7時ころ,タクシーで自宅に戻り,いつもとおりの時間に出勤した。 (2) 被害者は,同日午後6時30分過ぎ,被告人から携帯電話に「昨日はお疲れ,また一緒に飲みましょう。」というメールを受け取った後,同日ころから,本件被害に遭ったという相談を,いとこや知人にした。同月9日には,被告人らが,被害者宅を訪れ,被害者を夜遅くに呼び出したことなどを謝罪して菓子折を置いていったが,被害者は,いとこを通じて菓子折を返した。 また,このころ,被害者は,当時の上司に本件被害を報告し,その後,弁護士を通じて,被告人らと示談交渉を行うなどしたが,被告人らは,被害者が裸にもなっていないし,ふろにも入っていない,体を触ったこともないなどとわいせつ行為をしたことを一切認めなかった。 (3) そこで,被害者は,被告人らを強制わいせつ罪で刑事告訴し,同年6月1日,被告人らは,本件により逮捕された。 第3 強制わいせつ罪の成否等 1 被害者の公判供述の概要 被害者は,本件被害を受けたとする状況について,公判廷において,概要以下のとおり供述する。 (1) 被告人と浴室に入った状況 ① Aのマンションで,3人で雑談していたところ,午前零時ころになって,Aから,突然,「もう時間も遅いし,Lさん(注・被告人のこと)とふろに入ってきたらどないや。」と言われ,「嫌です。」と断ったが,さらに「彼氏ともふろ入ってるんやろう。」「電気消してあげるから,それやったら入れるやろ。」と言われた。 「(交際相手とは一緒にふろに)入ってません。」などと言って,被告人とふろに入ることを拒否したが,Aは,「うるさい,近所迷惑だ。」などと言って,耳を貸さなかった。被告人も,このやりとりを聞いていたが,途中で,先にふろ場に向かった。 ② そのうち,Aに手を引っ張られてソファーから立ち上がらされ,さらに「早くしろ。」と背中を押され,脱衣場の中に連れて行かれた。その後,Aは,浴室の電気を消して,脱衣場の廊下側のドアを勢いよく閉め,出て行ってしまった。被告人が,「ほんまに入っていいんかなあ。」と言ったので,「いいわけないじゃないですか。A主幹に止めるように言って下さい。」と言い返したが,被告人は,これを無視して服を脱ぎ,浴室に入って行った。 ③ そこで,仕方なく自分も浴室に入り,浴槽に足だけつけていたところ,被告人から,体を洗って欲しいと言われ,一度はこれを断ったが,被告人が両手を上げて近づいてきたことから,上半身を洗った。しかし,下半身だけは絶対に洗いたくないと言って,断った。脱衣場でも,被告人が,体をふいてくれと言って,両手を上げて近づいてきたので,仕方なく,上半身だけをふいた。 (2) 被告人らに胸を触られた状況 ① ふろから上がり,雑談していると,Aは,アダルトビデオの話などをするようになり,さらに,「大きい胸してるな,一遍見てみたいわ。」と言い出し,被告人も,「僕も前から思ってたんですよ。」などと相づちを打ったので,「絶対に嫌です。」と拒否した。すると,Aから,「見せるぐらい別にええやろ。」などと,服を脱いで胸を見せるよう何度も迫られ,また,「電気を消した方が見せやすいんやないか。」「さっさと脱げ。」「このぐらい暗いほうが立体的に見える。」と言って,リビングルームの電気を消されたり,「ここやったら脱げるやろ,さっさと脱げよ。」と言ってリビングルームに置かれた電気ストーブの前まで連れて行かれたりした。 それでも,服を脱ぐことを拒否していたところ,Aは,「自分で脱げないようやから,Lさん,脱がしてあげて。」と言い,被告人が服を脱がそうとしたため,体をねじり,「やめてください。」と抵抗した。すると,Aは,「脱がされるのが嫌だったら,自分で脱ぐように。」と言い,台所カウンター側に置かれたテーブルの上で何かカチカチと音を立てていた。被告人らが何か暴力を振るってくるのではないかと思い,仕方なくセーターを脱いだが,Aから,「まだ着とるやないか。」とブラジャーも脱ぐように言われたため,ブラジャーも脱いだ。脱いだブラジャーは被告人に取り上げられた。 ② 被告人らから,上半身裸の状態で,それぞれ左右の乳房を触ったりもんだりされたため,「やめて下さい。」と何度も言って,被告人らの手を払ったり,押したり,体をねじったりしていたが,Aから,「うるさい。」「じっとしとけ。」「近所迷惑。」などと言われ,さらに,乳首をなめられるなどした。また,その間,Aから,ズボンのベルトの腰の辺りの部分をつかまれていた。 (3) ズボンを脱いだ状況 ① こうして乳房を触られた後,Aから,ズボンも脱ぐように言われたが,これを拒んだところ,Aの指示で,被告人が,ズボンのベルトを外そうとしてきたが,外せなかった。Aは,さらに,「外せないみたいやから,自分で脱いで。」「上も脱いだんやから,下も脱いでも変わらんやろ。」などと,しつこくズボンを脱ぐように言ってきたことから,あまり抵抗すると被告人らに暴行されるのではないかと怖くなり,結局,自分でズボンを脱いだ。 ② すると,今度は,Aが,パンツの横に付いていたフックの部分を持って,何度かひざの辺りまでずり下げようとしてきたので,すぐにパンツを引き上げるということを何度か繰り返していると,Aは,パンツから手を離した。 ③ その後,Aに頼んで,何とかズボンだけははかせてもらったが,Aから,再び乳房を触ったりもんだりされたので,押したり,手を払ったりして抵抗していたところ,Aが,いきなり「くくる。」と言い出し,両手を後ろ手に交差させられ,ガウンの腰ひもでくくられた上,後ろから両手で両胸を触ったりもんだりされた。 ④ その後,Aは手を離し,被告人が,被害者の手をくくっていたガウンの腰ひもをほどいたので,被告人に,服を返してくれるよう頼んだが,セーターやブラジャーは返してもらえず,Aの家にあったトレーナーを渡され,それを着た。 (4) 和室のこたつ付近で被告人らに胸などを触られた状況 ① Aがふろに行った後,被告人に背を向けて横になっていたが,被告人が,肩に手をかけるなどして自分の方を向かせ,接ぷんをしてきた。驚いて,被告人の胸あたりを押して突き放し,再び被告人に背を向けたが,また,接ぷんをされたため,同じように抵抗して,被告人に背を向けた。 その後,被告人から,トレーナーの中に手を入れられて乳房を触ったりもんだりされ,また,被告人の性器に手を押し付けられたので,やめてくれるよう頼み,手を払うなどして抵抗していた。さらに,被告人は,ズボンとパンツの中に手を入れてきたことから,その手を引き抜こうとしたが,被告人はさらに力を入れ,今生理なのでやめて欲しいと言うと,ようやくズボンとパンツから手を抜いてくれた。 ② そのうち,ふろから上がってきたAが,顔を触り,また,首を絞めてきたので,「やめてください。」と言って,Aの手をたたくと,手を緩めたが,今度は,耳や鼻に指を入れてきた。 Aが,被告人と反対側に横になると,被告人は,「A主幹は,右胸で,僕は左胸でお願いします。」などと言い,被告人らから,また両胸を触ったりもんだりされたので,「やめてください。」と言って,被告人らの手を払いのけたり,押したりしていた。 その後,Aは,寝てしまったが,被告人からは,同日午前4時ころに同人が寝入るまで,さらに胸を触られていた。 2 被害者の供述の信用性 (1) 被害者は,①被告人とふろに入った状況,②セーターやブラジャーを脱いで被告人らから乳房を触られた状況,③ズボンを脱いだ状況,④こたつに入った後,被告人らから乳房などを触られた状況のいずれについても,自らがどのように拒否する態度を示し,これらに対して,被告人らがどのような対応をしたかについて,具体的に供述している。特にセーターやブラジャーを脱いだ経緯については,Aが,「見せるぐらい別にええやろ。」と執拗に服を脱ぐように迫り,「電気を消した方が見せやすいんやないか。」「このぐらい暗い方が立体的に見える。」などと言ってリビングルームの電気を消したこと,ズボンを脱いだ経緯については,被告人らがズボンのベルトのバックルを外すことができず,自分でズボンを脱ぐように言われたこと,その後,Aがパンツのフック部分を引っ張って下ろそうとしたこと等,被害者が拒否する態度を示していたにもかかわらず,被告人らの執拗な要求に徐々に追いつめられていく様子が具体的に供述されており,また,その供述内容は自然,かつ合理的であって,特段不自然な点はみられない。 (2) また,被害者の供述及び関係各証拠によれば,被害者は,①Aのマンションから帰宅した直後は,同性である母親に被害を打ち明けることができずにいたが,当日6日の夕方,知人と会った際,A方で一夜を過ごしたことは言ったものの,具体的な被害状況は言い出せず,その後,被告人からのメールをきっかけに,このままではまた同じ事をされるのではないかと思い,メールでその知人に被害を打ち明けたこと,②翌7日の土曜日から8日の日曜日にかけて,親しい友人やいとこに被害を打ち明けて相談したこと,③さらに,週明けの9日には,勤務先の上司に相談をしたこと,④翌10日,いとこを通して,被告人らが持参した菓子折を返してもらったものの,被告人がわいせつ行為を否定したと聞くやいなや,憤慨してすぐに被告人のところに行き,どういうことか詰め寄ったことなどの経過が認められ,その経過は,このような被害にあった者の行動として非常に自然なものであり,作為性は感じられない。加えて,上記の相談の内容を含め,本件後,母親や知人,示談交渉を依頼した弁護士に話した被害の内容は,相手によっては断片的なものにとどまってはいるが,おおむね一貫しており,公判廷での供述とも合致すること等にも照らせば,被害者の供述は十分信用に値する。 (3) 他方,弁護人は,被害者が,Aのマンションから帰宅することなく,翌朝まで滞在していたことなどから,強制的にふろに入らされたり,胸を触られるなどした旨の被害者の供述は,不自然で,信用性がないと主張する。 確かに,被害者は,ふろから上がった後も,被告人らに引き留められもしないのにそのまま残って雑談に加わり,Aが用意した焼き芋を平らげるなどし,また,その後の一連のわいせつ行為が一段落して服を着ることを許され,Aが浴室に行って被告人と2人になっても帰宅しようとせずにA方に泊まった上,こたつに横になった際に被告人らから胸を触られたりした後もこたつから抜け出すこともなくそのまま寝入っている。 (4) これらの点について,被害者は,①ふろから上がった後帰らなかったのは,被告人らがまた雑談を始めたので,話の腰を折って帰ろうとすると怒られたり,また腹を立てた被告人らが,後日,職場であらぬ噂をたてるなどするのではないかと思って帰れなかった旨,②A方に泊まることになった経緯については,Aからタクシーを呼べる時間帯ではないと言われ,また,本件直前,付近で深夜に強盗事件があったと聞いていたこと等から,歩いて帰ることや途中でタクシーを拾うことを断念し,また,被告人らがこれ以上ひどいことはしないだろうと思ったなどと供述している。 このうち①については,異性との入浴を強いられた者が物理的には可能であったにもかかわらず直ちに現場を離れなかった理由としてはいささか希薄とはいえるものの,被告人らは,元上司であり,犯行当時も,被害者と同じ県庁に勤めていたこと,被害者は,雇用期間が1年の日々雇用職員という不安定な立場にあり,かつ,翌年度は,また,「土木の仕事」をしたいと思っていたことに照らせば,被害者が被告人らとの関係悪化を回避しようとした心情は理解できないではない。また,②についても,被害者は,被告人らから,執拗なわいせつ行為を受けたとはいえ,手荒い暴行を受けた訳ではないこと,女性1人での外出がためらわれる深夜の時間帯であったことからすれば,必ずしも不自然な行動ともいえない。 3 被告人らの弁解等について   (1) 被告人らの公判供述の信用性 ① これに対し,被告人らは,公判廷において,被害者に暴行,脅迫を加えてわいせつ行為を強制したことはなく,3人でふざけあって行ったことであるなどと供述する。 ② しかしながら,被告人らの供述には,被害者の胸を触った経緯について,被告人らと被害者がわい談をしていた際,被害者の胸の話になり,被告人らが,「(胸が)そんな大きいんだったら,1回見せてよ。」などと,二,三回言うと,被害者が進んでセーターやブラジャーを脱いだ,などと供述するが,なぜこれだけの会話で,被害者が,セーターだけでなく,ブラジャーまでも脱いだのか,しかも,胸を見せるだけの話をしていたのに,どのようなきっかけで胸を触ることになり,被害者はどのようにそれを承諾したのか等,まさにわいせつ行為が行われることになった状況について,被告人らは,合理的かつ具体的な説明をしていない。特に,被害者と被告人らは,被告人と被害者が,以前同じ課にいた際,職場の宴会の帰りに一度2人で飲みに行った程度で,特に個人的な関係はなく,3人だけで酒を飲むのは,初めてであったこと等に照らせば,その都度拒絶の態度を示していた被害者が,わいせつ行為をされることを容易に承諾したかのような被告人らの供述は,内容的に不自然といわざるを得ない。 また,被告人らは,本件により逮捕される前には,県庁における処分等を恐れ,2人で相談の上,被害者の関係者,県庁関係者のみならず,後に本件裁判におけるAの弁護人となったM弁護士にまで,被害者を触ったことは一切ないなどと,公判供述と著しく異なる虚偽の話をし,他方で,被害を訴える被害者に対して,当初,自ら進んでふろに入ったり,セーター等を脱いだではないかなどという反論はほとんどしていなかったこと,後述するとおり,捜査段階でも,当初は,被害者に触ったことは一切ない旨供述したが,徐々に本件犯行を認めるに至ったこと等の供述経過に照らすと,被告人らの供述内容は,これまで大きく変遷している。 ③ 以上のような被告人らの供述経過及びその内容に照らせば,被告人らの公判供述は,いずれも信用することができない。 (2) 被告人らの捜査段階での供述について ① 被告人らは,捜査段階の供述調書において,当初は,被害者の体に触れたことはない,被害者とふろには入ったことはないなどと供述していたが,その後,被害者の体を触ったことを認め,最終的には,嫌がっている被害者に無理矢理わいせつ行為をしたことを認めている。 ② これに対し,弁護人は,被告人は自分の言い分を全く聞いてもらえないまま,長時間にわたって取調べを受け,相当のストレスを抱えていたところ,「Aは自白したぞ。」「お前の妻や娘を徹底的に調べてやる。」などと言われたことから,上申書の作成や自白を余儀なくされたなどとして,被告人の供述調書の任意性,信用性はないと主張する。 また,弁護人は,Aは,取調べ検事から,触ったという行為自体が問題で,女性が触ってくれと明言しない限りは強制わいせつになるなどと言われ,飲酒歓談中,盛り上がって,その場の雰囲気から触ったという経緯を話しても無視されていたところ,上申書を書けば早く帰れるなどと言われたことから,犯行を認める旨の上申書を作成した,その後は,取調べ検事が勝手に供述調書を作成し,Aが修正を求めても聞いてもらえなかったことからあきらめて署名指印したなどとして,Aの供述調書についても任意性,信用性がないと主張する。 ③ 確かに,被告人らは,本件で初めて身柄を拘束され,また,地方公務員という社会的立場もあったことなどからすれば,取調べに大きな精神的葛藤を感じ,かつ本件による最終的な処分に強い関心を持っていたことは容易に推測され,また,他方,被告人らが,当初,本件犯行を完全に否認していたことから,ある程度厳しい取調べが行われた可能性もあったと思われる。 しかしながら,関係各証拠によれば,①被告人らについて,当初は,それぞれ,被害者に触ったが強制ではなかった旨の供述調書や酒に酔ってよく覚えていない旨の弁解についての供述調書(乙20,30)も作成されており,徐々に事実を認めていった経過は自然であること,②事件後,供述を変遷させてきた経緯及びその理由についても,それぞれの被告人が,各供述調書において詳細に供述しており,その内容には非常に迫真性があること(乙8,15,49等)が認められ,その供述経過に特段不自然な点は認められない。 また,③自白調書(乙6,14,38,46等)においても,詳細かつ具体的に供述されている部分もあれば,よく覚えていない旨の供述や,被害者や他方の被告人とも異なった供述等もなされており,ある程度被告人らの記憶に従った供述調書が作成されたことがうかがわれ,これらによれば,取調べ検事が,被害者の供述を基に勝手に供述調書を作ったとする被告人らの公判廷での供述は信用できない。 以上に加え,被告人らと各弁護人との捜査段階における接見状況等に照らせば,被告人らの捜査段階での自白調書について任意性を疑わせる事情は認められず,また,信用性についても,十分に認められる。 4 強制わいせつ罪の成否について (1) 上記のとおり被害者の公判供述及び被告人らの捜査段階における自白は,その根幹部分において信用することができ,これらの各証拠によれば,被害者が浴室から出て,被告人らと雑談した後,被告人らが被害者に対し判示のとおりの暴行及び脅迫を加えることによってその反抗を制し,胸を触ったり,ズボンを脱がせるなどのわいせつ行為を行ったものであることは明らかであり,この範囲で強制わいせつ罪の成立を優に認めることができる。 (2) なお,上記のとおり,被害者が,結局被告人らの言うなりになっていた原因には,被告人らの暴行,脅迫に加え,被害者と被告人らとの人間関係等により,被害者に心理的圧力がかかっていたことも一因となっており,被告人らの暴行,脅迫自体は必ずしも強度のものとまではいえず,また,被害者は完全に反抗を抑圧された状態に至っていたとまでは認められない。 しかしながら,強制わいせつ罪の暴行,脅迫は,被害者の意に反してわいせつ行為をする程度で足りるのであり,また,被告人らは,被害者が,わいせつ行為を嫌がっていたことを認識していたのは勿論,被害者にこのような心理的圧力がかかっていたことをも了知していたはずであるから,強制わいせつ罪の故意にも欠けるところはない。   (3) これに対し,被害者が被告人と入浴するにあたり,被害者は,Aから,強い口調で要求され,手を引っ張られたり,背中を押されたりして脱衣場に連れて行かれたが,その後は,Aはリビングルームに戻り,被告人は浴室に入り,以後は,被告人らによる直接的な強制は受けていない。にもかかわらず,被害者は,脱衣場を出ることなく,パンツを残して着衣を脱いだ上,上半身と下半身に1枚ずつバスタオルを巻き付けて浴室に入り,被告人がすでに身を沈めている浴槽に両脚を入れてその縁に腰をかけ,その後,被告人から体を洗うように求められて,「嫌です。」と言ったとはいうものの,それ以上特段の抵抗もせずにその上半身を洗うなどしている。さらに,前記のとおり,浴室から出た後も帰宅しようとせず,被告人らの雑談に加わった上,Aの用意していた焼き芋を平らげている。 これらの事実からすると,被害者にとって,被告人と入浴したことは,決して本意ではなかったとしても,被告人ら(特にA)の暴行又は脅迫に基づく畏怖心によるものと見るのは困難であって,被告人らの強引さ,身勝手さに対し困惑ないし憤慨をしつつも,被告人らとの関係悪化を回避するため渋々ながらその要求に応じたものと見る余地がある。 そうすると,本件公訴事実中,被告人らが被害者に対し被告人との入浴をさせた部分については,強制わいせつ罪の成立を認めるには合理的疑いが残る。 (法令の適用) 省略 (量刑の理由) 本件は,被告人らが,Aの自宅マンションに呼び出した被害者に対し,その意に反して乳房を触るなどした強制わいせつの事案である。 被告人らは,判示のとおり,被害者に対し,長時間にわたって,断続的にわいせつ行為をし,特にリビングルームにおいては,被害者の上半身を裸にさせ,こもごも被害者の乳房を触ったりもんだりした上,さらにはズボンまで脱がせるなど,欲求の赴くままに,わいせつ行為をエスカレートさせており,犯行態様は悪質である。 被害者は,繰り返し「嫌です。」などと抵抗する姿勢をみせながら,被告人らがほとんどこれを意に介さなかったため,結局は,当時も同じ県庁に勤めており,かつ元上司であった被告人らから,後日嫌がらせを受けることをも恐れ,被告人らの言いなりにならざるを得なかったのであって,被害者の受けた恐怖感,屈辱感などの精神的苦痛には,多大なものがあったと推察される。 にもかかわらず,被告人は,当初から,被害者の関係者や県庁関係者らに対し,被害者を触ったことは一切ないなどと虚偽の事実を申告し,捜査段階において,いったんは罪を認めたものの,公判廷においては,被害者にわいせつ行為を強制したことはなく,むしろ進んでそのような行為に応じたなどと不合理な弁解に終始し,本件について内省を深めていない上,事件から1年半以上経った現在においても,被害者に対する謝罪等慰藉の措置は,何らなされていない。 以上の事情に照らせば,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 これに対し,本件においては,上記のとおり,被害者が,その立場上,被告人らに抵抗することが困難な心理状態にあったとはいえ,強制の程度は,この種事犯としては,必ずしも強度のものとまではいえないこと,計画的な犯行とは認められないこと,被告人は,県庁職員として,長年にわたり,まじめに稼働していたこと,本件により,職を失う可能性が極めて高いこと,前科がないこと,本件により,9か月以上身柄拘束されていたことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるが,上記の事情,特に,本件犯行態様の悪質さや,被告人が,犯行後,自己の罪責を逃れることに汲々としており,被害者に対する謝罪などは一切なされていないことなどの事情に照らせば,本件は執行猶予を付すのが相当な事案とは認められず,主文の実刑は免れない。 (求刑 懲役2年)     平成17年9月16日 神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官  笹野明義 裁判官  佐茂 剛 裁判官  小山裕子

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。