H17.11.28 和歌山地方裁判所 平成16年(わ)第426号 殺人、死体遺棄

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自衛官である被告人が職場の上司を金槌で執拗に殴打するなどして殺害し、その死体を自己の車の中に遺棄した事案につき懲役16年が言い渡された事例 判示事項の要旨: 自衛官である被告人が職場の上司を金槌で執拗に殴打するなどして殺害し,その死体を自己の車の中に遺棄した事案につき懲役16年が言い渡された事例              主        文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 押収してある金槌1本及び針金2本を没収する。              理        由 (犯行に至る経緯)  被告人は,平成4年2月に自衛隊に入隊後,各地の会計隊で勤務し,平成8年7月には三等陸曹に昇任し,平成15年8月1日からは,陸上自衛隊A駐屯地B会計隊(以下,「A会計隊」という。)に所属して会計係等の職務に従事し,和歌山県内所在の同駐屯地生活隊舎に居住していた。  被告人は,4名からなるA会計隊において,会計契約班長である一等陸曹のCから指導及び監督を受ける立場にあったが,当初は快く仕事の指導をしてくれていたCが,平成16年に入ったころから,被告人に対し厳しい態度を取り始めたと思っていたところ,その後もCから仕事上のミス等について繰り返し厳しい叱責を受けたことで,なぜそこまで言われなければならないのかなどと憤懣を募らせ,同人と二人きりで残業することを苦痛に感じるようになった。  被告人は,同年6月初めころ,A会計隊の隊長ほか1名が,同年7月12日から同月23日まで出張する予定であることを知り,その間職場にCと二人きりになることから,上記出張予定日が近づくにつれて,次第に憂鬱さの度合いを強めていった。  被告人は,同年7月5日,同年8月1日付けで自衛隊D病院会計課へ異動させる旨の内示を受けたが,通常であれば少なくとも2年間は異動がないはずで,短期で異動させられるのは不祥事を起こした者などに限られると信じていたことから,1年という短期で自分が異動するのは,CがG方面会計隊に被告人の悪評を流してA会計隊から追い出そうとしたからであるに違いないと思い込み,今後は異動する先々で周囲から白い目で見られ続けることになり,もはや自分に自衛官としての将来はない,Cに人生をズタズタにされたなどと考え,同人に対して激しい憎悪の念を抱き,同人を殺害しようと決意した。  被告人は,絞殺すれば出血もなく死体の処分が容易であるので,殺害の手段としては針金を用いることにしたが,Cに抵抗された場合に備えて同人の頭部を殴るための金槌も準備しておくことにし,上記駐屯地内のA会計隊事務室を殺害場所と思い定めて,同人と二人きりで残業する機会を狙うことにし,また,同人を殺害した後は,死体をどこか人目につかないところに捨てるしかないなどと具体的な犯行計画を練っていった。  被告人は,週明けの同年7月12日には上記隊長らが出張に出かけ職場にCと二人きりになってしまうことから,同月9日の夜までに同人を殺害するつもりでいたところ,同月9日,同人が午後2時すぎころに陸上自衛隊E駐屯地より帰隊したことから,その夜残業する見込みであった同人を殺害することにした。 (罪となるべき事実)  被告人は,前記のとおりCを殺害した上,その死体を投棄して犯跡を隠蔽しようと企て 第1 平成16年7月9日午後7時ころ,前記所在のA会計隊事務室において,Cと二人だけになったことから,同人の様子を窺うとともにいったん廊下に出て同事務室のある本部隊舎2階に人がいないことを確認した後,同事務室に戻り,同日午後7時30分ころ,同事務室内の棚に収納されていた金槌1本及びあらかじめ自己の執務机内に隠匿していた針金1本を手に持ち,着席して残業中のC(当時37歳)の近くに忍び寄り,その首に針金を掛けようとしたところ,人の気配に気付いた同人が被告人の方を振り向いたことから,最初に針金を用いてCの首を絞めることはあきらめ,同人に対し,その頭部めがけて上記金槌を力任せに振り下ろして同人の頭部等を繰り返し殴打し,椅子から落ちて床に倒れた同人の頭部等を引き続き数十回にわたり殴打し続け,動かなくなった同人をうつ伏せにして,二重にした上記針金をその頸部に巻き付け絞め付けたものの,辛うじて意識を取り戻した同人が針金を左手で掴んで抵抗する様子を示したため,さらに上記金槌で同人の後頭部を手加減することなく何度も殴打し,同人の左手を針金から外した上,再度上記針金で同人の頸部を強く絞め上げ,よって,同日午後7時50分ころ,同所において,Cを,頭部打撲に基づく脳挫傷及びくも膜下出血により死亡させて殺害し(平成16年法律第156号による改正前の刑法199条) 第2 上記犯行の発覚を防ぐため,同月10日午前4時ころ,二つに折り曲げてビニール袋に詰め込んだCの死体を,上記事務室から上記本部隊舎の西側階段付近路上に駐車した被告人所有の普通乗用自動車まで運搬して,これを同車後部荷台に積み込んで隠匿して死体を遺棄し(刑法190条) たものである。 (事実認定の補足説明) 1 被告人の弁解  被告人は,第1回公判における罪状認否以降,本件各公訴事実をすべて認める旨の供述をしていたが,第5回公判の最終陳述においてこれまで述べてきた本件犯行動機は全くの嘘である旨述べ,証拠調べ再開後の第7回公判では本件殺害行為をしていない旨の供述をするに至っていることから,被告人が本件の犯人であると認めた理由について,当裁判所の見解を補足して説明する。 2 被告人の捜査段階における供述について  被告人は,捜査段階において,Cを殺害してその死体を遺棄したことを認める旨の供述をしていることから,以下,その信用性につき検討する。  被告人の捜査段階における供述調書は,本件各犯行に至る経緯,犯行動機,犯行計画の内容,犯行状況,犯行後の犯跡隠蔽行為等について,自己の赤裸々な心情の推移も織り交ぜられた極めて具体的かつ詳細な内容のもので,とりわけ,Cの頭部等を金槌で何度も殴打した後,床に倒れた同人の首を針金で絞めようとしたが,同人が左手で針金を掴んで抵抗する様子を示したことから,その後頭部を再び金槌で何度も思いきり殴り付けたと述べるなど臨場感が非常に豊かで,話の流れも細部に至るまで破綻のみられないごく自然なものであり,Cの死体をA会計隊事務室から遺棄した際の行動など被告人が自ら進んで語ったのでなければ容易に調書に記載し得ない事柄を含み,職場である上記事務室を犯行場所に選んだ理由をはじめ被告人独自の事実認識が随所にみられ,Cが殺害された翌日の早朝に被告人が上記事務室にいたことを目撃されている状況,Cの死体が所持品等とともに被告人所有の車両内から,犯行に用いられた金槌が被告人の居室からそれぞれ発見されている状況,Cの受傷部位・程度等の客観的な状況にも非常によく合致しており,捜査官は,要所で問答形式も交えながら,被告人の言い分をよく聞いて調書を作成したものとみられ,被告人の意に反するような供述を強いたとは考えられない。  したがって,供述内容の観点からみて,被告人の捜査段階における供述は信用性が極めて高い。  また,被告人の供述経過をみても,被告人は,平成16年7月10日,当日早朝に事件が発覚したことから行われた警察での事情聴取の当初,前夜Cより先に事務室を出て当日朝6時半ころ同室に来たので事件については全く知らない旨述べていたが,前夜の行動について話のつじつまが合わなくなってきたため,警察官の追及を受けて犯行を自白し,被告人の供述に基づきCの死体が発見されたことから同日午後4時50分ころ逮捕され,その後はCを殺害してその死体を遺棄した旨を一貫して明確に供述し,犯行時における自己の一連の行動について詳細に再現した実況見分を経て,記憶違いであったり記憶がよみがえったりした部分は別の調書の中で訂正している。  しかも,被告人は自由な立場で供述できるはずの第1回公判における罪状認否においてはもとより,第2回公判における被告人質問の際にも本件各犯行を認めており,これらの供述を前提に被告人自身も納得した上で,自己の預貯金全額に相当する約3000万円を本件損害賠償金の一部としてCの遺族に支払っているのであって,このような応訴態度も被告人の捜査段階供述の信用性を強固に支えている。  このように,供述経過等の観点からみても,被告人の捜査段階における供述は信用性が非常に高い。 3 弁解の経過及び内容の検討  被告人は,自筆の供述書の中で,A会計隊の同僚であるFがCを殺害したものであり,被告人の本件関与については,事後にCの死体を遺棄するなどの犯跡隠蔽行為に協力したにとどまる旨述べる。  しかし,被告人が第7回公判以降突如として従来の一貫した供述を翻すに至った理由につき何ら説明がない上,仮に被告人の言い分どおりであるとするならば,被告人には殺人罪の重い罪をかぶってまで真犯人をかばう動機や必要性が全く認められないことが明らかであるから,捜査の初期段階から被告人がCを殺害したと供述し続けてきた理由が全く不明のものとなるし,また,被告人が同僚による殺害行為を目撃したにもかかわらず,その後の死体遺棄行為等に協力したとする一方,殺害の実行犯が犯行後何らの後始末もせずに帰宅していたとするなど,その内容は極めて不自然不合理である。しかも,関係証拠を子細に検討しても,被告人以外の第三者が会計隊事務室でCを殺害したことを窺わせるような証拠は全く存在せず,被告人の新たな弁解は客観的裏付けを欠いている。  したがって,弁解の経過及びその内容のいずれの観点からみても,被告人の弁解は信用性が著しく低いとみざるを得ない。 4 結論  以上のとおり,自己が本件各犯行の犯人であることを認める被告人の捜査段階における供述には高い信用性が認められる一方で,被告人の公判段階における弁解はその経過及び内容に照らして信用性が著しく低く,前者と対比して到底信用できないから,被告人が本件の犯人であることに合理的疑いを容れる余地はない。 (量刑の理由)  本件は,陸上自衛官であった被告人が,駐屯地内にある職場の事務室において,所属する会計隊の上司で,当夜残業中であった被害者を,金槌でその頭部等を多数回殴打するなどして殺害し(判示第1),さらに被害者の遺体をビニール袋に詰め込んで,自己の車の中まで運搬して隠匿した(判示第2)という殺人及び死体遺棄の事案である。  被告人は,被害者から仕事上のミス等について厳しく叱責されることが重なって,同人に対する憤懣を募らせていたところ,異動の内示を受けて,自分が通常より短期間で異動させられるのは被害者に自己の悪評を流されたためであると邪推し,同人のせいで自分は自衛官としての将来を奪われ,人生をズタズタにされたなどと思い込み,被害者に対し激しい憎悪の念を抱いたことから,本件各犯行に及んだものである。被告人は,叱責を受ける原因を独りよがりで水準に達しない自己の勤務態度等に求めることなく,自己の異動に被害者の言動が影響していたか否かを確かめることすらしないまま,一方的な被害者意識に基づいて同人に対する憎悪を強めていった挙げ句,同人を絶対に殺してやろうと固く決意するに至っており,このような経緯に照らせば,被告人の犯行動機は誠に短絡的で身勝手極まりないものであって,酌量の余地は寸毫も認められない。  被告人は,事件の数日前から殺害方法等を決めて実行の機会を窺い,当夜も事務室の備品である金槌のほかに,あらかじめ自己の執務机内に隠し持っていた針金を凶器として準備し,犯行現場と同じ階にある各部屋に人がいないことを確認した上,被害者の様子を窺いつつ犯行に及ぶなどしていることから,本件は計画性の高い犯行とみることができる。  被告人は,執務机で残業していて全く無防備状態にあった被害者に対し不意を突いて襲いかかり,金槌という殺傷能力の高い凶器を用いて,その頭部等を狙って躊躇することなく執拗に強打し続け,同人が椅子からその場に転落した後でさえも,強固な殺意に基づく容赦のない打撃を加えていったばかりか,とどめを刺すべく仰向けになった同人をうつ伏せにした上,針金をその頸部に巻き付けて絞め付けようともし,その際,同人が針金を掴んで必死に抵抗する様子を示したことから,さらにその後頭部を金槌で何度も強打して抵抗不能状態に陥れた上,同人の背中を左足で踏みつけながら,両手で掴んだ針金を手前に引き上げつつその頸部を強く締め上げたものである。被告人の被害者に対する殴打攻撃は多数回にのぼり(その頭部の挫裂創からみて50回は下らないとみられる。),現場に多量の血液が飛散して被告人も返り血を浴び,凶器の金槌もその金属製の柄が大きく変形するなど強烈なものであった。このように,殺人事件の犯行態様は冷酷かつ残虐非道で悪質極まりないものである。  さらに,被告人は,殺人事件の犯行後,被害者が残業後失踪したように見せかけて自己の犯跡を隠蔽して平然と日常生活を送ろうともくろみ,現場の血痕を雑巾やモップで拭き取ったり,被害者の制服等のネームタグを切り取りその持ち主がわからなくなるように細工した上で処分したりしており,事後の情状も非常に悪い。被告人は,上記の犯跡隠蔽行為の一環として死体遺棄も企て,被害者の血が外に漏れないようにするため,二つに折り曲げた同人の遺体を大型のビニール製ゴミ袋で何重にも包んで殺害現場より運び出した上,通路を転がすなどして自己のワゴン車まで運搬してその中に隠匿しており,被害者の遺体をあたかも荷物のように取り扱うとともに,遠方に投棄することが容易な状況をも作出しているのであるから,その犯行態様は死者を冒とくし,遺族の心情を一顧だにしない悪質なものというべきである。  以上の犯行の結果,被害者が突如としてかけがえのない尊い一命を奪われたこと自体誠に重大な結果であることはいうまでもないが,被害者は被告人の執拗な攻撃の中で最期の瞬間まで生き延びるべく必死の抵抗を続けたものの,絶命を余儀なくされたもので,この間被害者が味わった驚愕,恐怖と肉体的苦痛には極めて大きなものがあったと考えられる上,本来高い安全性が確保されているはずの自衛隊駐屯地内の職場で残業中に同僚から殺害されるという予想もしなかった形で,妻と幼い子供を残したまま,志半ばにして命を落とさざるを得なかった無念さについては察するに余りある。  被害者の妻は,意見陳述の場において,とても幸福な家庭生活を送っていたのに敬愛する伴侶であり,3歳の息子の父親でもある被害者の命を突然奪い去った被告人を絶対に許せないとして厳しい処罰を強く望んでおり,その心情は十分理解することができる。また,被害者の死は,その他の遺族や職場の同僚をはじめとする被害者の友人・知人にも強い衝撃と深い悲しみを与えている。加えて,本件は,国民の生命・身体・財産等を守るべき職責を担う現職の自衛官が,同僚の自衛官を駐屯地内で殺害したという重大事犯であり,地域社会に動揺を与えた点も軽視できない。  以上に照らせば,犯情は誠に芳しくなく被告人の刑事責任は非常に重大である。  そうすると,被告人が,捜査段階においては事実関係を素直に認めて捜査に協力し,当公判の途中までは,遺族に対して謝罪の言葉を述べるとともに,遺族と合意の上自己の預貯金の全額に当たる約3000万円を損害賠償金の一部として支払うなどの慰藉措置を講じて反省の態度を示していたこと,被告人の実父が当公判廷に出廷して被告人の更生に協力する旨述べていること,被告人に前科前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人に対しては主文掲記の刑をもって臨むのが相当である。  よって,主文のとおり判決する。 (求刑)懲役18年,金槌1本及び針金2本の没収 平成17年11月28日 和歌山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官   樋口裕晃    裁判官   田中伸一    裁判官   下 和弘
自衛官である被告人が職場の上司を金槌で執拗に殴打するなどして殺害し、その死体を自己の車の中に遺棄した事案につき懲役16年が言い渡された事例 判示事項の要旨: 自衛官である被告人が職場の上司を金槌で執拗に殴打するなどして殺害し,その死体を自己の車の中に遺棄した事案につき懲役16年が言い渡された事例              主        文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 押収してある金槌1本及び針金2本を没収する。              理        由 (犯行に至る経緯)  被告人は,平成4年2月に自衛隊に入隊後,各地の会計隊で勤務し,平成8年7月には三等陸曹に昇任し,平成15年8月1日からは,陸上自衛隊A駐屯地B会計隊(以下,「A会計ふ隊」という。)に所属して会計係等の職務に従事し,和歌山県内所在の同駐屯地生活隊舎に居住していた。  被告人は,4名からなるA会計隊において,会計契約班長である一等陸曹のCから指導及び監督を受ける立場にあったが,当初は快く仕事の指導をしてくれていたCが,平成16年に入ったころから,被告人に対し厳しい態度を取り始めたと思っていたところ,その後もCから仕事上のミス等について繰り返し厳しい叱責を受けたことで,なぜそこまで言われなければならないのかなどと憤懣を募らせ,同人と二人きりで残業することを苦痛に感じるようになった。  被告人は,同年6月初めころ,A会計隊の隊長ほか1名が,同年7月12日から同月23日まで出張する予定であることを知り,その間職場にCと二人きりになることから,上記出張予定日が近づくにつれて,次第に憂鬱さの度合いを強めていった。  被告人は,同年7月5日,同年8月1日付けで自衛隊D病院会計課へ異動させる旨の内示を受けたが,通常であれば少なくとも2年間は異動がないはずで,短期で異動させられるのは不祥事を起こした者などに限られると信じていたことから,1年という短期で自分が異動するのは,CがG方面会計隊に被告人の悪評を流してA会計隊から追い出そうとしたからであるに違いないと思い込み,今後は異動する先々で周囲から白い目で見られ続けることになり,もはや自分に自衛官としての将来はない,Cに人生をズタズタにされたなどと考え,同人に対して激しい憎悪の念を抱き,同人を殺害しようと決意した。  被告人は,絞殺すれば出血もなく死体の処分が容易であるので,殺害の手段としては針金を用いることにしたが,Cに抵抗された場合に備えて同人の頭部を殴るための金槌も準備しておくことにし,上記駐屯地内のA会計隊事務室を殺害場所と思い定めて,同人と二人きりで残業する機会を狙うことにし,また,同人を殺害した後は,死体をどこか人目につかないところに捨てるしかないなどと具体的な犯行計画を練っていった。  被告人は,週明けの同年7月12日には上記隊長らが出張に出かけ職場にCと二人きりになってしまうことから,同月9日の夜までに同人を殺害するつもりでいたところ,同月9日,同人が午後2時すぎころに陸上自衛隊E駐屯地より帰隊したことから,その夜残業する見込みであった同人を殺害することにした。 (罪となるべき事実)  被告人は,前記のとおりCを殺害した上,その死体を投棄して犯跡を隠蔽しようと企て 第1 平成16年7月9日午後7時ころ,前記所在のA会計隊事務室において,Cと二人だけになったことから,同人の様子を窺うとともにいったん廊下に出て同事務室のある本部隊舎2階に人がいないことを確認した後,同事務室に戻り,同日午後7時30分ころ,同事務室内の棚に収納されていた金槌1本及びあらかじめ自己の執務机内に隠匿していた針金1本を手に持ち,着席して残業中のC(当時37歳)の近くに忍び寄り,その首に針金を掛けようとしたところ,人の気配に気付いた同人が被告人の方を振り向いたことから,最初に針金を用いてCの首を絞めることはあきらめ,同人に対し,その頭部めがけて上記金槌を力任せに振り下ろして同人の頭部等を繰り返し殴打し,椅子から落ちて床に倒れた同人の頭部等を引き続き数十回にわたり殴打し続け,動かなくなった同人をうつ伏せにして,二重にした上記針金をその頸部に巻き付け絞め付けたものの,辛うじて意識を取り戻した同人が針金を左手で掴んで抵抗する様子を示したため,さらに上記金槌で同人の後頭部を手加減することなく何度も殴打し,同人の左手を針金から外した上,再度上記針金で同人の頸部を強く絞め上げ,よって,同日午後7時50分ころ,同所において,Cを,頭部打撲に基づく脳挫傷及びくも膜下出血により死亡させて殺害し(平成16年法律第156号による改正前の刑法199条) 第2 上記犯行の発覚を防ぐため,同月10日午前4時ころ,二つに折り曲げてビニール袋に詰め込んだCの死体を,上記事務室から上記本部隊舎の西側階段付近路上に駐車した被告人所有の普通乗用自動車まで運搬して,これを同車後部荷台に積み込んで隠匿して死体を遺棄し(刑法190条) たものである。 (事実認定の補足説明) 1 被告人の弁解  被告人は,第1回公判における罪状認否以降,本件各公訴事実をすべて認める旨の供述をしていたが,第5回公判の最終陳述においてこれまで述べてきた本件犯行動機は全くの嘘である旨述べ,証拠調べ再開後の第7回公判では本件殺害行為をしていない旨の供述をするに至っていることから,被告人が本件の犯人であると認めた理由について,当裁判所の見解を補足して説明する。 2 被告人の捜査段階における供述について  被告人は,捜査段階において,Cを殺害してその死体を遺棄したことを認める旨の供述をしていることから,以下,その信用性につき検討する。  被告人の捜査段階における供述調書は,本件各犯行に至る経緯,犯行動機,犯行計画の内容,犯行状況,犯行後の犯跡隠蔽行為等について,自己の赤裸々な心情の推移も織り交ぜられた極めて具体的かつ詳細な内容のもので,とりわけ,Cの頭部等を金槌で何度も殴打した後,床に倒れた同人の首を針金で絞めようとしたが,同人が左手で針金を掴んで抵抗する様子を示したことから,その後頭部を再び金槌で何度も思いきり殴り付けたと述べるなど臨場感が非常に豊かで,話の流れも細部に至るまで破綻のみられないごく自然なものであり,Cの死体をA会計隊事務室から遺棄した際の行動など被告人が自ら進んで語ったのでなければ容易に調書に記載し得ない事柄を含み,職場である上記事務室を犯行場所に選んだ理由をはじめ被告人独自の事実認識が随所にみられ,Cが殺害された翌日の早朝に被告人が上記事務室にいたことを目撃されている状況,Cの死体が所持品等とともに被告人所有の車両内から,犯行に用いられた金槌が被告人の居室からそれぞれ発見されている状況,Cの受傷部位・程度等の客観的な状況にも非常によく合致しており,捜査官は,要所で問答形式も交えながら,被告人の言い分をよく聞いて調書を作成したものとみられ,被告人の意に反するような供述を強いたとは考えられない。  したがって,供述内容の観点からみて,被告人の捜査段階における供述は信用性が極めて高い。  また,被告人の供述経過をみても,被告人は,平成16年7月10日,当日早朝に事件が発覚したことから行われた警察での事情聴取の当初,前夜Cより先に事務室を出て当日朝6時半ころ同室に来たので事件については全く知らない旨述べていたが,前夜の行動について話のつじつまが合わなくなってきたため,警察官の追及を受けて犯行を自白し,被告人の供述に基づきCの死体が発見されたことから同日午後4時50分ころ逮捕され,その後はCを殺害してその死体を遺棄した旨を一貫して明確に供述し,犯行時における自己の一連の行動について詳細に再現した実況見分を経て,記憶違いであったり記憶がよみがえったりした部分は別の調書の中で訂正している。  しかも,被告人は自由な立場で供述できるはずの第1回公判における罪状認否においてはもとより,第2回公判における被告人質問の際にも本件各犯行を認めており,これらの供述を前提に被告人自身も納得した上で,自己の預貯金全額に相当する約3000万円を本件損害賠償金の一部としてCの遺族に支払っているのであって,このような応訴態度も被告人の捜査段階供述の信用性を強固に支えている。  このように,供述経過等の観点からみても,被告人の捜査段階における供述は信用性が非常に高い。 3 弁解の経過及び内容の検討  被告人は,自筆の供述書の中で,A会計隊の同僚であるFがCを殺害したものであり,被告人の本件関与については,事後にCの死体を遺棄するなどの犯跡隠蔽行為に協力したにとどまる旨述べる。  しかし,被告人が第7回公判以降突如として従来の一貫した供述を翻すに至った理由につき何ら説明がない上,仮に被告人の言い分どおりであるとするならば,被告人には殺人罪の重い罪をかぶってまで真犯人をかばう動機や必要性が全く認められないことが明らかであるから,捜査の初期段階から被告人がCを殺害したと供述し続けてきた理由が全く不明のものとなるし,また,被告人が同僚による殺害行為を目撃したにもかかわらず,その後の死体遺棄行為等に協力したとする一方,殺害の実行犯が犯行後何らの後始末もせずに帰宅していたとするなど,その内容は極めて不自然不合理である。しかも,関係証拠を子細に検討しても,被告人以外の第三者が会計隊事務室でCを殺害したことを窺わせるような証拠は全く存在せず,被告人の新たな弁解は客観的裏付けを欠いている。  したがって,弁解の経過及びその内容のいずれの観点からみても,被告人の弁解は信用性が著しく低いとみざるを得ない。 4 結論  以上のとおり,自己が本件各犯行の犯人であることを認める被告人の捜査段階における供述には高い信用性が認められる一方で,被告人の公判段階における弁解はその経過及び内容に照らして信用性が著しく低く,前者と対比して到底信用できないから,被告人が本件の犯人であることに合理的疑いを容れる余地はない。 (量刑の理由)  本件は,陸上自衛官であった被告人が,駐屯地内にある職場の事務室において,所属する会計隊の上司で,当夜残業中であった被害者を,金槌でその頭部等を多数回殴打するなどして殺害し(判示第1),さらに被害者の遺体をビニール袋に詰め込んで,自己の車の中まで運搬して隠匿した(判示第2)という殺人及び死体遺棄の事案である。  被告人は,被害者から仕事上のミス等について厳しく叱責されることが重なって,同人に対する憤懣を募らせていたところ,異動の内示を受けて,自分が通常より短期間で異動させられるのは被害者に自己の悪評を流されたためであると邪推し,同人のせいで自分は自衛官としての将来を奪われ,人生をズタズタにされたなどと思い込み,被害者に対し激しい憎悪の念を抱いたことから,本件各犯行に及んだものである。被告人は,叱責を受ける原因を独りよがりで水準に達しない自己の勤務態度等に求めることなく,自己の異動に被害者の言動が影響していたか否かを確かめることすらしないまま,一方的な被害者意識に基づいて同人に対する憎悪を強めていった挙げ句,同人を絶対に殺してやろうと固く決意するに至っており,このような経緯に照らせば,被告人の犯行動機は誠に短絡的で身勝手極まりないものであって,酌量の余地は寸毫も認められない。  被告人は,事件の数日前から殺害方法等を決めて実行の機会を窺い,当夜も事務室の備品である金槌のほかに,あらかじめ自己の執務机内に隠し持っていた針金を凶器として準備し,犯行現場と同じ階にある各部屋に人がいないことを確認した上,被害者の様子を窺いつつ犯行に及ぶなどしていることから,本件は計画性の高い犯行とみることができる。  被告人は,執務机で残業していて全く無防備状態にあった被害者に対し不意を突いて襲いかかり,金槌という殺傷能力の高い凶器を用いて,その頭部等を狙って躊躇することなく執拗に強打し続け,同人が椅子からその場に転落した後でさえも,強固な殺意に基づく容赦のない打撃を加えていったばかりか,とどめを刺すべく仰向けになった同人をうつ伏せにした上,針金をその頸部に巻き付けて絞め付けようともし,その際,同人が針金を掴んで必死に抵抗する様子を示したことから,さらにその後頭部を金槌で何度も強打して抵抗不能状態に陥れた上,同人の背中を左足で踏みつけながら,両手で掴んだ針金を手前に引き上げつつその頸部を強く締め上げたものである。被告人の被害者に対する殴打攻撃は多数回にのぼり(その頭部の挫裂創からみて50回は下らないとみられる。),現場に多量の血液が飛散して被告人も返り血を浴び,凶器の金槌もその金属製の柄が大きく変形するなど強烈なものであった。このように,殺人事件の犯行態様は冷酷かつ残虐非道で悪質極まりないものである。  さらに,被告人は,殺人事件の犯行後,被害者が残業後失踪したように見せかけて自己の犯跡を隠蔽して平然と日常生活を送ろうともくろみ,現場の血痕を雑巾やモップで拭き取ったり,被害者の制服等のネームタグを切り取りその持ち主がわからなくなるように細工した上で処分したりしており,事後の情状も非常に悪い。被告人は,上記の犯跡隠蔽行為の一環として死体遺棄も企て,被害者の血が外に漏れないようにするため,二つに折り曲げた同人の遺体を大型のビニール製ゴミ袋で何重にも包んで殺害現場より運び出した上,通路を転がすなどして自己のワゴン車まで運搬してその中に隠匿しており,被害者の遺体をあたかも荷物のように取り扱うとともに,遠方に投棄することが容易な状況をも作出しているのであるから,その犯行態様は死者を冒とくし,遺族の心情を一顧だにしない悪質なものというべきである。  以上の犯行の結果,被害者が突如としてかけがえのない尊い一命を奪われたこと自体誠に重大な結果であることはいうまでもないが,被害者は被告人の執拗な攻撃の中で最期の瞬間まで生き延びるべく必死の抵抗を続けたものの,絶命を余儀なくされたもので,この間被害者が味わった驚愕,恐怖と肉体的苦痛には極めて大きなものがあったと考えられる上,本来高い安全性が確保されているはずの自衛隊駐屯地内の職場で残業中に同僚から殺害されるという予想もしなかった形で,妻と幼い子供を残したまま,志半ばにして命を落とさざるを得なかった無念さについては察するに余りある。  被害者の妻は,意見陳述の場において,とても幸福な家庭生活を送っていたのに敬愛する伴侶であり,3歳の息子の父親でもある被害者の命を突然奪い去った被告人を絶対に許せないとして厳しい処罰を強く望んでおり,その心情は十分理解することができる。また,被害者の死は,その他の遺族や職場の同僚をはじめとする被害者の友人・知人にも強い衝撃と深い悲しみを与えている。加えて,本件は,国民の生命・身体・財産等を守るべき職責を担う現職の自衛官が,同僚の自衛官を駐屯地内で殺害したという重大事犯であり,地域社会に動揺を与えた点も軽視できない。  以上に照らせば,犯情は誠に芳しくなく被告人の刑事責任は非常に重大である。  そうすると,被告人が,捜査段階においては事実関係を素直に認めて捜査に協力し,当公判の途中までは,遺族に対して謝罪の言葉を述べるとともに,遺族と合意の上自己の預貯金の全額に当たる約3000万円を損害賠償金の一部として支払うなどの慰藉措置を講じて反省の態度を示していたこと,被告人の実父が当公判廷に出廷して被告人の更生に協力する旨述べていること,被告人に前科前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人に対しては主文掲記の刑をもって臨むのが相当である。  よって,主文のとおり判決する。 (求刑)懲役18年,金槌1本及び針金2本の没収 平成17年11月28日 和歌山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官   樋口裕晃    裁判官   田中伸一    裁判官   下 和弘

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