H17.12.22 東京地方裁判所 平成15年(ワ)第825号,第4024号,第12026号,第15208号,第16270号 損害賠償等請求事件

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 公訴提起後の被告人に対する弁護人からの接見申出に対し,捜査担当の司法警察職員及び留置主任官らが,被告人が余罪捜査のためポリグラフ検査中であったことを理由として即時の接見を認めなかった措置について,上記弁護人が京都府に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償請求を行った事案において,司法警察職員の行為の違法性が認められ,請求が一部認容された事例。 主文 1 被告は,原告に対し,15万円及びこれに対する平成16年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成16年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,京都府警察の警察署附属の留置場に勾留中の刑事被告人の国選弁護人である原告が,警察署の留置担当官及び刑事被告人の余罪捜査のためポリグラフ検査を実施していた司法警察職員により被告人との接見を妨害されたとして,被告京都府に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償として150万円及びこれに対する不法行為の日である平成16年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 原告は,京都弁護士会所属の弁護士であり,平成16年11月19日C(以下「被告人」という。)に対する出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下,「出資法」という。)違反被告事件の国選弁護人に選任された。 (2) 被告は,京都府五条警察署(以下「五条署」という。)の代用監獄である留置場(以下「本件留置場」という。)を設置管理して留置担当官(留置主任官及び留置係員)をして留置管理業務を遂行させ,司法警察職員をして捜査を遂行させる等して公権力の行使にあたらせていた。 (3) 被告人は,平成16年10月27日,貸金業の規制等に関する法律違反と出資法違反の被疑事実で逮捕され,本件留置場に勾留された。被告人は,同年11月16日,出資法違反により公訴を提起され,同年11月24日には本件留置場に勾留中であった(乙5,6)。 (4) 被告人は,平成16年11月24日(以下,日付を記載せず,時刻のみ記載している場合は,平成16年11月24日の出来事である。),別件銃砲刀剣類所持等取締法違反及び器物損壊事件(以下「別件余罪事件」という。)の捜査のため,午後1時6分,本件留置場から出場し,午後1時14分から午後2時53分まで,五条署5階情操室で京都府警察本部(以下「府警本部」という。)刑事部科学捜査研究所のD技術吏員によるポリグラフ検査を受け,午後3時1分,本件留置場に入場した(乙2の2,乙10)。この検査には,捜査を担当する府警本部刑事部捜査第4課のE警部補が立ち合い(乙2の3),同課のF警部及びG巡査部長,京都府山科警察署(以下「山科署」という。)のH巡査部長及びI巡査(いずれも当時の役職名。)が五条署2階の応接室で待機していた(乙4ないし6,8,9)。 (5) 原告は,午後1時40分ころ,五条署に来署し,同署4階留置管理係受付でJ巡査部長に対し,被告人との接見を申し込んだ。同署警務課留置管理係長K警部補(留置主任官)(以下「K係長」という。)は,被留置者の出場と入場の時刻及び出場先等が記録されている被留置者出入簿で,被告人がポリグラフ検査中であることを確認し,原告に対し,現在被告人がポリグラフ検査のため出場中である旨を告げた。 (6) 原告は,これを聞いて「すぐに会わせなさい。」などと強い口調で接見を要求したことから,K係長の要請により,G巡査部長とI巡査が,午後1時50分ころ,留置事務室前の西側通路に来て原告と面会した。原告は,G巡査部長に対し,被告人との即時の接見を申し入れたが,G巡査部長は,ポリグラフ検査中であることを理由に接見を待つように求めた。 (7) K係長は,原告とG巡査部長とが即時接見を行うかポリグラフ検査の終了を待つかでやりとりをしている間,留置事務室に戻り,電話応対などの日常事務に戻った。 (8) 原告は,起訴検事に電話をすると言って留置事務室に行き,面会・差入受付室の電話で,被告人の起訴担当検事であった京都地方検察庁L検察官(以下「L検事」という。)に電話をかけ,同検事に対し,被告人との接見を直ちに認めるように申し入れた。同検事は,調査してから連絡すると答えた(甲2,3)。G巡査部長とI巡査は,原告がL検事に電話をしている間,五条署2階の応接室に戻っていた。 (9) 原告は,K係長に対し,強い口調で,G巡査部長らを呼び戻すように要求したことから,K係長の要請により,G巡査部長とI巡査が,午後2時5分ころ,留置事務室前の西側通路に来て原告と面会した。原告は,G巡査部長に対し,被告人との即時の接見を申し入れたが,G巡査部長は,ポリグラフ検査中であることを理由に接見を待つように求めた。 (10) 原告は,午後2時13分,接見を果たせないまま五条署を出た。 (11) L検事は,午後2時45分,H巡査部長に電話をし,公訴提起後の余罪取調中であっても弁護人が接見に来た場合には接見させなければならない旨の判例があり,申出を延ばすことはできないので直ちにポリグラフ検査を中止して接見させるよう指示した(乙6,8)。 (12) H巡査部長は,午後2時50分ころ,原告の所属するN法律事務所(以下「原告事務所」という。)に電話をしたが,原告は留守であるとの回答であったので,女性事務員に接見が可能である旨を伝えた。 (13) 原告は,午後8時10分ころ,再び五条署に来署し,午後8時20分から午後9時32分まで,被告人との接見を行った(乙3)。 第3 争点及び争点に関する当事者の主張 1 司法警察職員の行為の違法性の有無 (原告の主張) (1) 接見交通権は,実質的に有効な弁護活動を受ける権利を守るため保障された憲法上の権利として位置付けられる重要な権利であり,捜査機関は,接見の申出が弁護人からあったときはいつでも接見の措置を講じなければならないのであって,接見を制限したこと自体,弁護人の弁護権,被告人の防御権双方を侵害するものである。 刑事訴訟法39条3項は,違憲の疑いが強いものであるが,仮に同条にしたがった場合でも,同条は,公訴の提起前に限り必要やむを得ない例外措置として捜査機関が接見を制限できることを認めているに過ぎないのであって,起訴後の本件で接見を制限できる正当化根拠はない。 したがって,余罪について捜査の必要がある場合でも,起訴後は接見を制限できないのは当然である。 (2) しかるに,G巡査部長は,即時の接見を要求する原告に対し,ポリグラフ検査中であることのみを理由に,検査が終わるまで接見を待つよう要請した上,F警部及びG巡査部長は共にこれが違法な接見妨害であることは十分認識していたというのであるから,被告は,組織的に本件接見妨害を行ったものといえる。 また,そもそもポリグラフ検査自体が自白強要の手段として用いられる極めて危険な捜査手法であること,このときの接見は原告と被告人にとって特に重要性の高い初回接見であったことに鑑みれば,本件接見妨害行為の違法性は重大である。 (3) G巡査部長の要請は,理解と協力を求めたものではなく,断固として接見を拒否する態度であった。 また,G巡査部長らが理解と協力を求めたか否かにかかわらず,被告人との接見を強く求める原告に対し警察機関がポリグラフ検査を理由にポリグラフ検査を終えるまで接見させない措置をとったのであり,接見指定にほかならない。 夜間に接見ができたとしても,即座に接見の機会を与えなかった警察機関の違法性は重大である。 (被告の主張) (1) 被告は,被告人がポリグラフ検査中であったことから,やむを得ず同検査が終了するまで原告に接見を待ってもらうように懇願し,理解と協力を求めたのであり,接見を妨害する意図を持っていたものではなく,ひいては接見を妨害したものではない。 (2) ポリグラフ検査は,特定の質問刺激に対して生じる被検査者の呼吸,皮膚電気反射などの生理的変化を機械で測定し,供述の真偽を吟味する科学的検査法であり,被告人の同意もとっていて適法なものであったから,自白強要の手段であるという原告の主張は失当である。 2 留置担当官の行為の違法性の有無 (原告の主張) (1) 留置担当官は,代用監獄において,留置業務に関し捜査機関から独立してその職務を遂行する権限を有している。捜査官が被疑者の身柄を常時捜査のために利用し,違法不当な取調による自白強要を防止して被疑者や被告人の権利を保障する捜査・留置業務の分離原則の趣旨からすれば,留置担当官は接見についての権限を行使するにあたり,独自の権限と責任においてその権限を行使すべきであり,捜査を担当する司法警察職員との関係でも,不当な接見妨害や捜査から被告人,弁護人の接見交通権を擁護する職責を負う。 本件では,被告人に対し公訴の提起がされており,他の事件での身柄拘束がない以上,接見指定権の行使はあり得ず,直ちに接見を認めるべきことは明らかであったのであるから,K係長は,G巡査部長による接見妨害行為を排除すべき措置をとることを要請すべき職務上の義務を負っていた。しかるに,K係長は,その対応をG巡査部長に任せ,その職責を放棄した。よって,K係長が原告に即座に接見をさせず,また接見に向けた措置をとらなかったことは違法である。 (2) 原告は,接見に行く前にあらかじめK係長に電話をし,これから接見に行くことを伝えていたにもかかわらず,接見をさせなかった。 (被告の主張) K係長は,原告からの電話で被告人の外出予定の有無を聞かれただけであったため,在署しているといっただけで,接見に来るという連絡は受けていない。 3 損害 (原告の主張) 原告は,本来自由であるべき接見交通権を侵害され,適切な弁護活動を確保できない危険にさらされ,また円滑な業務の遂行に支障が生じ著しい精神的苦痛を受けたのであり,これを慰謝するには130万円が相当である。また,本件訴訟遂行のための弁護士費用は20万円が相当である。 (被告の主張) G巡査部長らは,被告人からポリグラフ検査の同意を得て検査を行っていたところに,偶然,原告が接見の申込みをしたため,検査の信用性を担保するために接見開始の猶予を懇願したのであって,積極的に接見を妨害したものではない。また,H巡査部長において,午後2時50分には原告の事務所に接見が可能となった旨電話をし,可及的速やかに対応した結果,原告は6時間40分後には接見を実現したのであるから,実質的に弁護権が侵害される結果となることはなかった。 したがって,仮に違法な接見妨害行為が認められたとしても,その程度は低く,原告に実質的な損害はなかったのであるから,損害の算定には上記事情が斟酌されるべきである。 第4 当裁判所の判断 1 前記認定の事実(前提となる事実),証拠(甲2,3,乙3ないし6,8,9,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成16年11月24日,別件余罪事件の捜査のため,午後1時6分,本件留置場から出場し,午後1時14分から五条署5階情操室で府警本部刑事部科学捜査研究所のD技術吏員によるポリグラフ検査を受け始めた。 (2) 原告は,被告人の国選弁護人に就任して5日目の同日午後1時20分,五条署留置管理係に電話をし,K係長に対し,「今から接見に行くのですが,C(被告人)はいますか。」と尋ねた。 K係長は,護送予定表を見て,署外への護送の予定がないことを確認の上,在署している旨を答えた。原告は,K係長の回答を聞いて,今から五条署に向かえば,午後2時15分ころまで接見をして午後2時半から京都地方裁判所で行われる破産事件の審尋期日に間に合うと考えて五条署に赴いた(なお,被告は,原告から被告人の在署の有無を確認されただけであり今から接見に行くとは聞かされていない旨主張するが,原告は限られた時間の中で接見を行いたいと考えていたのであり,できる限り円滑に接見を行うため,被告人の在署の有無のみならず接見に向かうことも告げることが自然であるに照らし,原告主張のとおり,原告は,今から五条署に接見のため向かう旨述べたものと認められる。)。 (3) K係長は,午後1時40分ころ,五条署留置管理係を訪れた原告から被告人との接見の申込みを受け,捜査担当者に連絡すべくポリグラフ検査を実施中の情操室に赴いた。K係長は,情操室前で,部屋の外からノックをして小声で呼び掛けたが,返事がなかった。 K係長は,ポリグラフ検査への影響を危惧し,それ以上の呼び掛けを断念し,午後1時43分ころ,事件捜査担当の警察署である山科署のM警部補に対し,国選弁護人である原告が接見のため五条署に来ているから捜査担当者に留置管理係まで来てほしいと伝えた。 (4) M警部補は,午後1時48分ころ,五条署2階の応接室で待機中のI巡査の携帯電話にその旨連絡した。 I巡査は,電話の内容をG巡査部長に伝え,G巡査部長がF警部に指示を仰いだところ,F警部は,起訴後の接見指定ができないことは十分承知していたものの,ポリグラフ検査の実施中であったことから,中断は困難であると判断し,検査が終わるまで待ってもらえないか頼めば弁護士からも理解を得られるのではないかと考えて,G巡査部長とI巡査に対し,「弁護士と会い,ポリグラフ検査中なのでポリグラフ検査終了まで待ってもらうようにお願いしてこい。」などと指示した(乙5,6,9)。 (5) G巡査部長とI巡査は,午後1時50分ころ,留置事務室前の西側通路で原告と面会したが,このときのやりとりは,以下のようなものであった。 まず,G巡査部長が「現在ポリグラフ検査中であり終了まで待ってほしい。」と述べたところ,原告は「待てない。起訴後の捜査であり,追起訴予定なしと書いてあるのに何でポリグラフ検査なのか。その事案は本件とは別か。逮捕など身柄拘束はされているのか。」などと問い質した。 これに対し,G巡査部長が「本件とは別件であり,身柄拘束はされていない。任意捜査として本人の同意を得ている。終わるまで待ってほしい。」などと述べたところ,原告は「待てない。話にならない。担当検事に電話する。」といって,留置事務室に入り,K係長に対し,「担当検事に電話をかけたい。」と申し入れた。K係長は,原告が面会・差入受付室の電話を使用することを認めた。 G巡査部長とI巡査は,原告がL検事に電話をしている間,五条署2階の応接室に戻り,F警部に対し,原告に対しポリグラフ検査の終了まで接見を待つように依頼しても原告がこれに納得せず,起訴検事に電話をしていることを報告していた(乙5,6)。 (6) K係長は,原告とL検事との電話により検事からG巡査部長らに対し何らかの指示がされ,G巡査部長らが再度原告と応対するものと思って待っていたところ,原告から,強い口調で,G巡査部長らを呼び戻すように要求されたことから,午後2時ころ,再度山科署に連絡をして,G巡査部長らに連絡をとり,G巡査部長に対し,電話で,「原告がまた捜査員を呼んでほしいと言っています。来てもらえますか。」と要請した。 G巡査部長は,電話の内容をF警部に伝え,指示を仰いだところ,F警部は,G巡査部長に対し,「再度弁護士さんにポリグラフ検査の特殊事情を説明し,あとしばらく待ってもらうよう低姿勢でお願いしてこい。」などと指示した(乙5,6,9)。 (7) G巡査部長とI巡査は,午後2時5分ころ,再度,留置事務室前の西側通路で原告と面会したが,このときのやりとりは,以下のようなものであった。この時点ではL検事からG巡査部長らに対する指示はされていなかった。 まず,原告が「検事から連絡があったでしょ。」と尋ねたが,G巡査部長は「いやありませんけど。」と答え,原告が再度「とにかく会わせなさい。すぐに会わせなさい。」と要求したが,やはり,G巡査部長は「ポリグラフ検査が終わるまで待ってほしい」と述べた。 そこで,原告は,接見させない法的根拠を問い質したところ,G巡査部長は,「本人の同意を得ている。」と答えたため,原告は,「本人に弁護士が来ていることを告げて接見するかどうか確認してほしい。」と要求したが,G巡査部長は,「検査中なのでそれはできない。」と答え,原告が,「そんなことも確認しないのに本人同意の任意捜査だということが接見拒否の理由になるはずがない。直ちに接見させなさい。」と述べても,G巡査部長は,「検査終了まで待ってほしい。」と答えた。 そして原告が,「検査終了を待つ義務はないがあとどれくらいかかる予定か。」と尋ねたところ,G巡査部長は,「あと1時間程度で3時ころには終わると思う。」と答えた。原告は,「私は2時30分に裁判所に着いていないといけない。検査終了を待つことはできない。」と述べたが,G巡査部長は「検査終了まで待ってほしい。」と繰り返した。そこで,原告が「あくまで接見させないということですね。」と述べると,G巡査部長は「させないとは言っていない。検査終了まで待ってほしい。」と答えた。 このようなやりとりを行っている間に,京都地方裁判所で行われる破産事件の審尋期日の開始時刻(午後2時30分)が迫ってきたことから,原告は,G巡査部長に対し「接見妨害として受け取る。国家賠償請求をする。」と述べ,午後2時13分ころ,接見を果たすことのできないまま,G巡査部長の名前を聞いた上で,五条署を出た。 なお,原告は,道路が混雑していたことから,公共交通機関(地下鉄)で京都地方裁判所に向かい,午後2時35分から40分ころ到着した。 (8) 原告は,京都地方裁判所で破産事件の審尋期日が終了した後,原告事務所に電話をした際,接見が既に可能となっている事実を知った。しかし,原告は,午後3時30分から京都弁護士会で委員会の会議の予定が,その後大阪で弁護団の会議の予定があったことから,直ちに接見に行くことはせず,これらの業務に全て出席した後の午後8時10分ころ,五条署を訪れ,午後8時20分から午後9時32分まで,被告人との接見を行った。 2 司法警察職員の行為の違法性の有無  (1) 憲法34条前段は,「何人も・・・直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されない」と規定し,憲法37条3項は,「刑事被告人は,いかなる場合も,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼できないときは,国でこれを附する」と規定する。この両規定は,公訴を提起された被告人に対し,単に,弁護人を依頼することを妨害されないことを保障するだけではなく,弁護人から援助を受けることを実質的に保障するものと解するのが相当である。そして,刑事訴訟法39条1項は,憲法34条前段及び37条3項の趣旨をふまえ,弁護人からの援助を受ける機会を確保するため,「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は,弁護人又は弁護人を選任できる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては第31条2項の許可があった後に限る。)と立会人なくして接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができる。」と規定している。この意味において,刑事訴訟法39条1項は,憲法の保障に由来するものである(最高裁判所大法廷平成11年3月24日判決・民集53巻5号514頁参照)。そして,検察官,検察事務官又は司法警察職員は,公訴の提起後は,たとえ余罪捜査のため必要があるときであっても,被告人が余罪について逮捕・勾留されていない場合には,刑事訴訟法39条3項に基づく接見指定権を行使することができないから(最高裁判所第一小法廷昭和55年4月28日決定・刑集34巻3号178頁参照),既に公訴が提起されている被告人について,弁護人から接見等の申出がされた場合,捜査機関としては,余罪について逮捕・勾留がされていない限り,可及的速やかに接見実現のため必要な措置をとらなければならないのであり,この理は,申出のされた接見等が弁護人選任後初回のものであるか否かを問わないものと解するのが相当である。 (2) 本件において,被告人に対するポリグラフ検査を現場で指揮していたのはF警部であるから,F警部は,原告が接見に来ていることを知った時点で,被告人のポリグラフ検査を一旦中止して,速やかに原告と被告人との接見を実現すべく手配する義務があった。したがって,F警部は,原告に対し,被告人の同意を得て開始したポリグラフ検査が終了するまで接見を待つことを依頼することは許されるとしても,原告にはこれに応じる義務はないのであるから,原告が即時の接見を求める姿勢を明確にした場合には,直ちに原告と被告人との接見を実現すべく手配しなければならなかった。それにもかかわらず,F警部は,上記認定のとおり,起訴後であり接見指定権行使の余地がないことを知りながら,G巡査部長に,原告に対しポリグラフ検査の終了まで接見を待つように依頼することだけを指示し,原告が即時の接見を求めた場合にとるべき措置を指示しておらず,また,原告が起訴検事と電話をしている間に一旦戻ってきたG巡査部長らから,原告に対しポリグラフ検査の終了まで接見を待つように依頼しても原告がこれに納得せず,起訴検事に電話をしていることの報告を受けたにもかかわらず,原告と再度話し合うため留置事務室前に赴くG巡査部長らに対し,原告に対しポリグラフ検査の終了まで接見を待つように依頼することだけを指示し,原告が即時の接見を求めた場合にとるべき措置を指示しておらず,その結果,F警部は,原告を,少なくとも,五条署に到着した午後1時40分ころから,L検事がH巡査部長に対し電話でポリグラフ検査を中止して原告と接見させるよう指示した午後2時45分までの1時間余りの間,被告人と接見できない状態に置き,所用で午後2時13分ころ五条署を出た原告の接見を妨害したものと評価するほかはない。また,G巡査部長は,F警部の指示に従って,原告に対しポリグラフ検査の終了まで接見を待つように依頼したのに対し,原告が即時の接見を求めたにもかかわらず,これをF警部に報告してその了承を得た上で接見実現のために必要な措置をとることを怠っていることが認められるのであるから,同様に,原告の接見を妨害したものと評価するほかはない。 被告は,接見を待ってほしいとの協力依頼をしていただけであって,拒否したものではない旨主張するが,上記認定のとおり,F警部はG巡査部長に対し,原告が即時の接見を求めた場合の措置を指示しておらず,また,G巡査部長は,原告が被告のいう協力依頼を拒絶し,即時の接見を求めているにもかかわらず,接見実現のために必要な措置をとろうとしていないのであるから,被告の上記主張を採用することはできない。 被告は,ポリグラフ検査の特殊性や,本人の同意を得た上での捜査である点を縷々述べるが,そもそも余罪取調による接見指定ができないことは既に説示したとおりであるから,接見交通権の重要性に鑑み,被告指摘の事実が仮に存したとしても,上記結論が左右されるものではない。 3 留置担当官の行為の違法性の有無 (1) 留置担当官(留置主任官及び留置係員)は,留置管理業務を遂行するにあたり,刑事訴訟法,監獄法その他関係法規を遵守してその職務を遂行すべき義務を負うから,接見事務に関しては刑事訴訟法39条1項に定める接見交通権を侵害するような取扱いをしてはならない反面,同条3項の検察官等の接見指定権を失わせるような事務の遂行をすることも許されないと解される。また,留置担当官は,弁護人から被疑者又は被告人に対する接見の申出を受けたときは,接見を実現するため必要な措置を講じなければならない(被疑者留置規則29条1項,35条1項)。 以上によれば,接見申出を受けた留置担当官は,被留置者が被疑者である場合には,刑事訴訟法39条3項による捜査機関の行う接見指定の可能性があるものの接見日時の指定につき権限がないため,権限のある捜査官に対して接見申出のあったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続をとる必要があり(最高裁判所第二小法廷平成12年3月17日判決・裁判集民事197号397頁参照),かつそれで足りるというべきであるが,被留置者が公訴提起後の被告人である場合には,別件の被疑者として逮捕・勾留されていない限り,刑事訴訟法39条3項による接見指定はあり得ないのであるから,直ちに接見を実現させるため接見場所を提供し身柄を同行するなどの措置をとらなければならない。そして,被留置者が余罪取調のため既に留置場から出場している場合には,留置担当官は,被留置者の勾留と留置場の管理の権限を有するにとどまるから,捜査と留置の分離及び捜査の流動性に鑑み(捜査に介入することは許されないし,余罪について逮捕・勾留などの措置がいつとられるかわからない。),現に被留置者に対する任意捜査を行っている捜査担当者に対し,速やかに接見申出の事実を連絡し,接見が円滑に行われるように配慮する義務があり,かつ,それで足りるものと解するのが相当である。 (2) 前記認定の事実関係によれば,K係長は,午後1時40分ころ,原告から接見の申出を受けた際には,そのことを捜査担当者に伝えるため,ポリグラフ検査が実施されている部屋まで赴き,小さくノックをし小声で呼び掛けていること,それにもかかわらず中から返事がないため,山科署に電話をし,捜査担当者を原告の待機している留置事務室前の西側通路まで呼んでいること,また,原告が検事に電話をしたいと申し出たときは面会・差入受付室の電話の使用を認めていること,さらに,原告が捜査担当者を呼び戻すよう要求した際も直ちに山科署に連絡をとって同人らを呼び戻していることが認められる。以上によれば,K係長は,原告からの要求の都度,捜査担当者への連絡を迅速に行って,原告が捜査担当者と協議ができるよう手配し,現に原告は捜査担当者と留置事務室前の西側通路で話合うことができているのであるから,K係長の措置には,違法な点は見出し難い。 これに対し,原告は,K係長が独自に接見を実現させるべきであったとし,G巡査部長に原告との協議を任せ職責を放棄していた旨主張する。しかしながら,原告がK係長に対し接見の申出をした時点では,被告人は捜査のために本件留置場を出場し,捜査担当者の協力がなければ身柄を留置場に戻すことはできない状況にあったこと,前判示のとおり,捜査と留置が分離され,K係長には捜査を中断することはもとより,流動的な捜査の内容を把握することもできなかったこと(したがって,この時点では,被告人が弁護人から接見申出がされたことを知った上でポリグラフ検査の継続を希望する可能性もあったが,K係長には,これを知ることはできなかった。),原告が任意にポリグラフ検査終了まで待つことを了承する可能性もあったこと,仮に原告と捜査担当者との協議がまとまらなかったとしても,原告が既に被告人の起訴検事に善処方を申し入れており,起訴検事から捜査担当者に対して速やかに連絡があり原告と被告人との接見が円滑に実施できるものと考えたことにも無理からぬところがあること等の事実関係に照らせば,K係長が,少なくとも原告が五条署にいた30分あまりの間,接見を即時に始めるかどうかを,原告と捜査担当者との間の協議に委ね,これにより接見が円滑に実施されるものと考え,協議の結果が出るのを待っていた対応にもそれなりの合理性があり,K係長の対応が職責を放棄した違法な行為であるとまではいえないものというべきである。 なお,前記認定のとおり,K係長は,あらかじめ原告から接見に赴く旨の電話連絡を受けていたことが認められるが,ポリグラフ検査のため本件留置場を出場させた時点では,いまだ電話連絡を受けていないことが認められるから,被告人を出場させた措置をもって接見を妨害したと認めることはできない。また,K係長は,上記電話の際,原告に対し被告人がポリグラフ検査中であることを告げていないけれども,前判示のとおり,弁護人にはポリグラフ検査中であっても接見する権利があるのであり,弁護人が接見のため来署してから適切に対応することができるから,電話で被告人がポリグラフ検査中であることを告げていないことをもって,原告の接見交通権を妨害したものと評価することもできない。 4 原告の損害について 被告は,F警部及びG巡査部長をして公権力の行使にあたらせていたのであるから国家賠償法1条1項により原告の被った損害を賠償すべき義務があるところ,前記認定の一切の事情を考慮すると,原告がF警部及びG巡査部長の接見妨害の違法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料は12万円が相当であり,違法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては3万円が相当である。 5 以上の次第で,原告の請求は,主文1項の限りで理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用につき民訴法61条,64条本文を適用し,仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。           京都地方裁判所第4民事部               裁判長裁判官 池  田  光  宏    裁判官 土  井  文  美    裁判官 岩  橋  照  美
 日本トータルネット株式会社からテレビ,文字放送受信表示器等を組み合わせたテレテキストビジョンシステムをクレジット又はリース契約を利用して購入した原告らが,クレジット又はリース料に見合う広告放映料が支払われ,無料又はほとんど費用を負担することなく同システムを取得できると勧誘されたために同システムを購入したのに,広告放映料が途中で支払われなくなったことから,同システムの販売が詐欺的商法であったなどとして,不法行為等に基づき,既払のクレジット又はリース料等から受領済みの広告放映料を差し引いた損害の賠償請求をした事案につき,同社(破産)の取締役又は販売代理店であった被告らに対する請求が一部認容された事例 平成17年12月22日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官 平成15年(ワ)第825号,第4024号,第12026号,第15208号,第16270号各損害賠償等請求事件 口頭弁論終結の日 平成17年7月21日            判            決     当    事    者     別紙当事者目録のとおり(※省略) (以下,法人である当事者の会社の種類の表示を省略する。他の再掲会社名についても同様とする。)            主            文 1 別紙認容額目録(※省略)記載の各被告は,同目録の対応する原告氏名欄記載の各原告に対し,同目録の金額欄記載の各金員(ただし,「¥0」と記載のものは除く。)及びこれに対する該当する別紙遅延損害金起算日目録(※省略)記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 前項の各原告の各被告に対するその余の請求並びに別紙認容額目録の金額欄に「¥0」と記載されている各被告に対する同目録の対応する原告氏名欄記載の各原告らの請求及び原告らの被告大明通産に対する各請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,被告大明通産と原告らとの間では原告らの負担とし,その余の被告らと原告らとの間ではこれを2分し,その1を被告らの,その余を原告らの各負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。            事実及び理由 第1 請求  別紙請求額目録(※省略)記載の各被告は,同目録の対応する原告氏名欄記載の各原告に対し,同目録の金額欄記載の各金員及びこれに対する別紙遅延損害金起算日目録記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,日本トータルネット株式会社(以下「トータルネット」という。)からテレビ,文字放送受信表示器等を組み合わせた後記のテレテキストビジョンシステムをクレジット契約又はリース契約を利用して購入した原告らが,トータルネットの取締役,販売代理店であった被告ら(ただし,被告大明通産については,トータルネットの承継者として)に対し,同システムの販売が詐欺的商法であるなどとして不法行為(被告大明通産に対しては選択的に債務不履行)に基づき既払のクレジット又はリース料等相当額の損害賠償及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めた事案である。  2 前提事実(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認めることができる。)   (1) 当事者等  ア トータルネットは,平成7年7月に設立され(平成8年8月,株式会社コマースネットメディアから商号変更),電光掲示板の開発,組立て,販売,レンタル及びメンテナンス業務等を目的として営業していたが,平成15年4月30日午後5時に東京地方裁判所において破産宣告を受けた。  イ 被告Y1,同Y2,同Y3,同Y4及び同Y5は別紙取締役目録(※省略)記載のとおりトータルネットの取締役であり(ただし,被告Y3は平成12年12月末ころ退任したと主張する。),被告Y1は,平成11年2月15日に代表取締役に就任した。 ウ 株式会社ジェイネットは,平成10年9月,トータルネットの子会社として,その広告部門が独立して設立されたもので,被告Y3がその代表取締役に就任した。  エ 被告エコジャパン,同ピアワン企画,同コモスジャパン,同東京文字ニュース中央,同ダイシン及び同ウィンテックは,後記のテレテキストビジョンのトータルネットの販売代理店であった(また,原告らは,被告大明通産はテレテキストビジョンの販売にかかわったほか,トータルネットのテレテキストビジョンシステムに関する営業実施権の承継者であると主張する。)。 (2) テレテキストビジョンシステム   テレテキストビジョンシステムとは,テレビ(映像ディスプレー),DVDプレーヤー,映像DVDソフト及びテレビの上に設置する文字放送受信表示器の4つの主要機器(以下,一括して「本件機器」という。)から構成される商品であって,テレビに付属のDVDソフトの映像を表示しつつ,第三者である文字放送会社が送信する文字ニュースをテレビの上に設置した文字放送受信表示器でスクロール表示し,この文字ニュースの合間に,電話回線で送信する文字広告を挿入するというシステムを組み込んだものである。  トータルネットは,文字放送受信表示器に有料広告を流すことによって,原告らがジェイネットから広告放映料の支払を受けることができるとして,本件機器の販売を行っていた(以下,本件機器と広告放映料の授受等を総合した仕組みを一体として「本件システム」という。)。  (3) 原告らとクレジット会社又はリース会社との契約関係及び債務状況   別紙債務状況表(※省略)の原告氏名欄記載の各原告(ただし,後記記載のものを除く。)は,同表の対応するクレジット・リース会社名欄記載の各クレジット会社又はリース会社との間で,同表の債務状況欄の契約年月日欄記載の各年月日に,本件機器の代金に手数料等を加えた同表の債務総額欄記載の金額のクレジット料又はリース料を分割払する内容のクレジット契約又はリース契約を締結し,本件機器を購入した。原告らは,同表の職業等欄記載のとおり病院,医院,診療所,理美容院,飲食店等を経営しているもので,その待合室,店舗等に本件機器を設置して,これを顧客の観覧の用に供していた。 その後,本件口頭弁論終結時までに,原告らは,上記各クレジット・リース会社に対し,同表の債務状況欄の既払金総額欄記載の金額のクレジット・リース料を支払っている。ただし,原告X1(原告通し番号251)は,契約締結者の権利義務を相続した者である。   なお,原告X2(原告通し番号4)及び同X3(同112)については,各原告が対応すると主張する弁論分離前の相被告株式会社オリエントコーポレーションがクレジット契約の締結及びクレジット料の支払を否定しているところ,当裁判所の求釈明にもかかわらず,同原告らは,その締結及び支払を認めるに足りる証拠を提出しないから,これを認めることができない。 (4) 原告らの広告放映料受領状況 別紙債務状況表の原告氏名欄記載の各原告は,ジェイネットから,原告の主張する請求額の内訳欄の放映料受領金額欄記載の金額を広告放映料として受領した。  3 争点及び当事者の主張  争点は,①トータルネットの本件システム開発・販売の違法性の有無,②これに関する各被告の個別の責任の有無,③各原告の損害額と各被告の賠償すべき金額であって,当事者の主張は,上記①,②に関しては別紙主張整理表のとおりであり,上記③に関しては別紙債務状況表の原告の主張する請求額の内訳欄の損害額欄記載の金額(各原告主張の既払金総額欄記載の金額から放映料受領金額欄記載の金額を差し引いた額),弁護士費用欄記載の金額(損害額欄記載の金額の1割)及び請求額欄記載の金額(損害額欄記載の金額と弁護士費用欄記載の金額の合計額)のとおりである(ただし,別紙債務状況表の既払金総額欄記載の金額は本件口頭弁論終結時点のものであり,一部の原告について訴え提起時より同金額が増加しており,これは前記のとおり争いのないところであるが,当裁判所の求釈明にもかかわらず,同原告らはこれに応じた損害額の主張及び請求金額の変更をしない。)。 第3 当裁判所の判断  1 本件機器の販売に係る経緯    前提事実並びに証拠(甲総114,115,被告Y1,被告Y3のほか括弧書きしたもの)及び弁論の全趣旨によれば,本件機器の販売に係る経緯として,以下の事実を認めることができる。   (1) 本件機器の販売開始までの経緯 ア トータルネットは,平成10年4月ころ,同年5月から本件機器を病院,医院,診療所,理美容院,飲食店等を経営する顧客に対し,クレジット・リース契約を締結させた上で販売し,その販売促進策として,文字放送受信表示器に有料広告を表示することによる広告放映料を顧客に支払うことによって,そのクレジット・リース料の負担を軽減又は無料化するという内容の事業(以下「本件システム事業」という。)を企画して,本件機器を3年間で3万5670台販売するという事業計画(以下「本件事業計画」という。)を立てた(乙182の1(甲総38))。  イ トータルネットは,平成10年4月20日,NHKの関連会社である株式会社日本文字放送との間で,年間電波料1800万円と年間制作費1000万円を毎年4月1日までに1年分前払いする約定で,同社が制作する文字放送番組を本件機器に送信して二次利用することを骨子とする契約を締結し,同年5月から番組の配給を受けて,本件機器への文字情報の放映を開始した(乙9(甲総69))。     しかしながら,トータルネットは,本件機器を構成する文字放送受信表示器の製造のために必要な前渡金の調達ができず,機器の製造が遅れたなどの事情により,実際に本件機器の販売が開始されたのは同年10月ころからであったため,それ以前の文字情報の放映に係る費用は不要な支出となった。  ウ トータルネットは,平成10年8月21日,東邦電機工業株式会社との間で,同社に本件機器を構成する文字放送受信表示器を製造させて購入するとの契約を締結した(乙11(甲総67))。  エ トータルネットは,平成10年9月ころ,本件機器の販売を開始するに先立ち,取扱クレジット・リース会社から,売主と同じ会社が代金相当額を広告放映料の名目で支払うことを保証する販売方法には問題があるとの指摘を受けた。    このため,トータルネットは,同月25日,前提事実(1)ウの記載のとおり同社の広告部門を独立させてジェイネットを設立し,トータルネットの広告本部長であった被告Y3がその代表取締役に就任した。  オ また,トータルネットは,平成10年中に,日本文字放送に対し,本件機器を構成する映像DVDの制作も依頼し,同社から合計2万枚の映像DVDの引渡しを受けて,制作費として5430万円を支払った(甲総66)。  カ トータルネットは,平成10年10月ころ,本件機器の本格的な販売を始めた。    本件機器の販売に当たっては,ジェイネットが顧客に対し,実際に有料広告の配信があったか否かにかかわらず,月々2万ないし3万円程度の広告放映料を5ないし6年にわたって支払うとの文字情報放映契約が併せて締結された(甲総2,40,59,乙273(甲総93))。  (2) 広告放映料の支払停止までの経緯  ア ジェイネットは,株式会社日立製作所との間で,平成11年3月26日,本件機器を構成する文字放送受信表示器への広告の配信を同社に委託し,ジェイネットが同社に所定の広告配信料を支払う旨の委託役務請負契約を締結した(乙21(甲総71))。  ジェイネットは,平成11年4月から7月にかけて,日立製作所に依頼して,神奈川地区における広告配信テストを実施した(乙25の1ないし3(甲総73))。その結果,設置工事の不具合,既存の電話回線との切替不調,設置者が配線を変えてしまうなどの理由で,既に設置した同地区の300台強の本件機器の中で文字広告を配信できたものは,わずか5,60台程度しかなかった。    ジェイネットは,その後の同年8月から平成13年5月まで,日立製作所に対し,延べ19万1401件(毎月1回指定された文字広告1件を文字放送受信表示器1台に配信する毎に1件として計算)を配信したとして,広告配信料として合計5310万3897円(消費税込み)を支払った(甲総72)。  イ 平成11年6月25日,本件機器の販売に関して消費者相談センターに苦情が寄せられて大きなトラブルになっているとして,クレジット会社である国内信販株式会社のクレジットの提供が停止されたことがあった(甲総113)。 ウ トータルネットは,平成12年夏ころ,取扱クレジット・リース会社から,割賦販売法の改正があるところ,本件システムはいわゆるココ山岡事件において問題となった保証販売に該当するおそれがあるなどとして,本件システム事業による本件機器の販売をやめるよう指導された(甲総45)。  エ トータルネットは,平成12年9月ころ,日本文字放送に替えて,テレビ朝日系列の文字放送サービス会社である朝日レタービジョン株式会社から文字放送の提供を受けることとし,同社との間で新たに文字放送利用契約を締結した。これに伴い,同年12月に日本文字放送からの文字放送番組の提供が停止された(乙107(甲総90))。  オ トータルネット及びジェイネットは,平成12年9月11日付けのインフラ整備プロジェクトとして,本件機器の広告配信の改修(整備)工事スケジュールの優先エリアとしていくつかの地域を指定していた。これによれば,同年7月末現在の神奈川県の設置台数(広告放映料を支払っている台数。以下同じ)1102台のうち599台,埼玉県の597台のうち258台,静岡県の266台のうち118台,新潟県の195台のうち175台,長野県の101台のうち43台,九州地方の169台のうち43台,東京の1262台のうち783台が通信不可となっており,実際には広告が送信できない状態だった(乙304(甲総74))。   また,同月13日現在で,本件機器の全国の設置台数5046台中,2626台は工事の不備,操作の不手際等の原因により広告配信不能の状態であった(乙ソ全12(甲総112))。   さらに,同年10月の調査によっても,約6000箇所の設置箇所のうち,広告配信可能な設置先はわずか2,3割にとどまっていた(乙111の1(甲総76))。  カ トータルネットは,平成12年12月ころ,クレジット・リース会社の多数から与信を停止されて収益がほとんど上がらなくなり,その経営状態は急速に悪化した。     この多数のクレジット・リース会社からの与信停止を受けて,平成13年に入り,トータルネット及びジェイネットは,文字情報放映契約につき,従前の有料広告の配信の有無に関係なく5ないし6年間一定の広告放映料を支払うという従前の方式に替えて,有料広告が実際に掲載された場合のみ広告放映料を支払うか,又は,1年間だけ有料広告の配信の有無にかかわらず広告放映料を支払い,その後は有料広告が掲載された場合のみ広告放映料を支払うという方式に切り替えること(トータルネット及びジェイネットは,従前の方式をA方式,切替え後の方式をB方式と呼んでいた。)を計画したが,本件機器の売れ行きは低迷した(乙273(甲総93),乙275(甲総89),乙277の3(甲総92),乙278(甲総91))。  キ そして,ジェイネットから支払われていた本件機器の設置者に対する広告放映料は,平成13年2月分を最後に支払われなくなった。 (3) 広告放映料の支払停止からトータルネットの破産までの経緯  ア トータルネットは,平成13年4月中旬ころ,テレテキストビジョンの設置者に対し,今後の広告放映料はトータルネットが直接に支払うこととし,同年9月からその支払を再開する旨通知したが(甲総4),結局,その後も広告放映料は支払われないまま,トータルネットは,前提事実(1)アのとおり平成15年4月30日に破産宣告を受けた。  イ この間の平成13年6月27日付けで,トータルネットの代表取締役である被告Y1と,被告大明通産の取締役である訴外Pとの間で,トータルネットが同被告に対して広告販売事業を含む本件機器に関する販売実施権と企画開発を譲渡し,同被告がロイヤルティー及び手数料として販売価格の14%をトータルネットに支払うことを骨子とする文字放送に関わる事業協約書(本件協約書)が調印された(乙143(甲総33))。  その後の同年7月4日,被告大明通産は,本件機器をフォースビジョンという名称で販売する旨を関係者に通知したが,同被告からも,原告らに対する広告放映料の支払はなかった(甲総45,乙145(甲総34))。  2 本件システム事業の違法性について (1) 以下に指摘する諸点に照らせば,本件システム事業は,その開始の当初から破綻必至の詐欺的なもので違法であったというべきである。 (2) 広告放映料の支払額と有料広告の獲得状況  ア 本件事業計画(乙182の1(甲総38))によれば,本件システム事業を開始するに当たり,平成10年5月から3年間で本件機器を全国で約3万5000台(うち首都圏で約1万台)販売して広告を配信する状況を整えれば,有料広告を提供するスポンサーが集まる見込みがあるとされており,被告Y1の供述によれば,これに沿って経営が行われていたというのである。そして,被告Y1は,本件システム事業の生命線は広告(の獲得)であることを自認している(同被告11頁)。    しかるに,前記認定のとおり,本件機器の販売に当たっては,顧客に対しジェイネットから月々2万ないし3万円程度の広告放映料が5ないし6年にわたって支払われるとの文字情報放映契約が併せて締結されていたところ,本件事業計画に従って,本件機器の販売台数が同率で増加して3年後に3万5000台になり,この間1台当たり2万5000円の広告放映料を支払うものとして試算すると,3年間で支払う広告放映料の総計は,およそ157億円(2万5000円×3万5000台×36か月÷2=157億5000万円。甲総81)となる。     そして,そもそも,前記認定のとおり,ジェイネットは,トータルネットが,取扱クレジット・リース会社から本件機器の販売と広告放映料の支払を同一会社が行うのは問題があるとの指導を受け,その広告部門を分離して設立したものにすぎず,証拠(甲総47,48,99,乙25の1ないし3(甲総73),乙46(甲総26)の8枚目,乙111の1(甲総76),乙132(甲総27),乙304(甲総74),乙ソ全12(甲総112),被告Y1,被告Y3)によれば,広告放映料支払のための費用は,トータルネットがジェイネットに対して支払うことによって負担し,広告獲得に関する活動も,少なくとも平成13年3月の広告放映料の支払停止前までは両社が足並みをそろえて行っていたことが認められる。そうすると,広告放映料の顧客への支払及び有料広告の獲得・配信は,文字情報放映契約上はジェイネットが行うように記載されているものの,実際は,トータルネット及びジェイネットの両社がこれらに関し実質的に一体のものとして活動していたものというべきである(以下,両社を一括して「トータルネットら」ということがある。)。     ところで,本件事業計画に基づく事業開始後3年間の本件機器の販売による利益は,約50億円弱程度(甲総61上の1台当たりの粗利益の平均13万7480円×3万5000台=48億1180万円)にとどまると推定されるから,トータルネットらは,本件事業計画を達成するためには,上記利益の全額を広告放映料の支払に充てると仮定しても,3年間で100億円以上の収入になる有料広告を獲得しなければならない状況であったことになる。 イ もっとも,本件機器の販売開始からクレジット・リース会社の与信停止までの約2年半の間の販売台数は,被告Y1の陳述するところによっても,実際には約7000台にとどまっていたというのである(乙300)。これに対し,トータルネットらが広告放映料として支出した費用は,トータルネットの決算報告書によれば,平成11年4月1日から平成12年3月31日までは6億8643万9970円,平成12年4月1日から平成13年3月31日までは18億9691万9167円となっており(甲総99,乙46(甲総26)の8枚目,乙132(甲総27)),合計で20数億円にのぼっている。そうすると本件機器の実際の販売台数を前提としても,本件機器の販売利益は,3年間で9億円強(13万7480円×7000台=9億6236万円)と推定されるところ,その全額を広告放映料の支払に充てたとしても,なお約16億円以上の収入になる有料広告を獲得しなければならない状況であったことになる。 ウ ところが,実際の有料広告の獲得状況についてみると,ジェイネット作成の広告放映料請求明細書,広告製作確認報告書(甲総8の1ないし9,9の1ないし6,乙303の1ないし15)には,ジェイネットに年間数百万円程度の有料広告収入があったかのような記載があるにとどまる。このような有料広告の獲得状況は,本件事業計画に基づく約100億円はもとより,本件機器の実際の販売台数を前提として試算した約16億円という多額の広告放映料の支払をするには,微々たるものといわざるを得ず,このような状況は,後述の有料広告獲得のための体制について検討するまでもなく,それ自体において,トータルネットらが結果的に有料広告獲得に失敗したというよりも,当初から実現不可能な計画のもとで,本件システム事業を開始して継続していたことを推認させるものである。 (3) トータルネットらの有料広告獲得のための体制  ア 人的体制について (ア) 証拠(被告Y1,被告Y3)によれば,トータルネットらの広告獲得の担当者の人数は,ジェイネットに分離する前は10人以下で,ジェイネットに移管後も4,5名より多くなることはなかったことが認められる。   そして,被告Y3は,この人員では,採算を維持するために必要な広告の90%以上は広告代理店に依頼して獲得してもらわなければならない状態であったこと,しかるに,実際に広告代理店とそのための契約を締結したことはなかったことを認めており(同被告12頁等),トータルネットらの広告獲得のための人的体制は,不十分なものであったといわざるを得ない。  (イ) これに対し,被告Y1及び同Y3は,広告に関するマーケティング等を専門家に委託するなどして広告業務を実際に行っていたなどと主張する。    しかしながら,広告獲得のために,被告Y1の発案で,トータルネットらにおいて,奇広隊という名称で広告営業を外部委託したことがうかがわれるが,これも人員は合計7名にとどまり,期間も平成12年3月1日から20日までというごく短期間であった上,訪問店数841件をまわりながら,獲得した有料広告はゼロであった(乙192(甲総30),被告Y1)。    また,被告Y1の発案で,平成12年12月に,タイガー作戦という名称で本件機器の設置先に有料広告の紹介を依頼することが計画されたが(乙119(甲総84)),これが実際に有料広告の獲得に結びついたと認めるに足りる証拠はない。    さらに,トータルネットらにおいて,本件機器の販売代理店の一部に対し,有料広告を獲得した場合には報奨金を出すことを約していた例があったようであるが(乙33),これによって実際に有料広告が獲得できたことを認めるに足りる証拠はない。     その他,ジェイネットにおいて,複数の個人又は会社との間でコンサルティング業務委託契約を締結して,広告に関するマーケティングや営業活動をさせていたことがうかがわれるものの(乙15,35,66,67,83,110),これらにより具体的にどのような活動が行われ,どの程度の広告獲得の実績に結びついたのかは不明である。そもそも,被告Y3自身,真に有料広告を獲得しようとすれば,これでは足りず,広告代理店と契約を締結して広告獲得を図らなければならなかったところ,そのような状態にはなっていなかったことを自認しているのであって,これをもって,有料広告獲得のための人的体制が整っていたとは到底評価できない。  また,被告Y1は,原告らを含む本件機器の顧客についても,当初から事業参画者と位置付けて有料広告獲得に協力してもらう人員と考えていたと主張し,供述する。しかし,トータルネット又はその販売代理店が,顧客に対し,本件機器の販売の際に逐一そのような説明をしていたと認めるに足りる証拠はない。仮にそのような説明を受けた顧客がいるとしても,前記1(2)カ認定のとおり,少なくとも平成12年末までは有料広告配信の有無にかかわらず広告放映料が支払われる約定となっていたのであって,このような状況のもとで,顧客が積極的に有料広告を獲得するための営業活動をすることなど,そもそも考え難いところである。現に広告獲得の責任者であった被告Y3自身,これは有望な広告獲得方法とは思っていなかったというのであって(同被告40頁),トータルネットらにおいて,有料広告獲得のための従業員等を確保すべきであったことに変わりはなく,被告Y1の上記供述は,前記(ア)の認定判断を左右するものではない。  (ウ) したがって,被告Y1及び同Y3の主張は採用することができず,トータルネットらの広告獲得のための人的体制は,不十分なものであったといわざるを得ない。 イ 有料広告の配信体制(いわゆるインフラ)について  次に,有料広告を獲得するに足りる広告配信体制が整備されていたか否かについて検討するに,前記1(2)で認定したところによれば,平成11年4月から7月にかけての広告配信テストで,300台強の本件機器の中で文字広告を配信できるものは5,60台程度と多くても2割程度しかなく,平成12年9月ないし10月ころになっても,全国の設置台数のうち工事等の不備により広告配信が不可能なものが実に過半数又は7,8割に及んでいたというのであり,この両時点の間の広告配信状況についても,大同小異であったものと推認され,現に被告Y3自身,有料広告を獲得するに足りるだけの広告配信可能な状況に何とかするように被告Y1に求めていたが,被告Y3が本件システム事業にかかわっていたという平成12年12月末までは基本的に状況は変わらなかった旨供述しているのであって,有料広告の配信体制及びその整備のための活動も不十分なものであったといわざるを得ない。 ウ 以上からすれば,前記のとおり,トータルネットらの有料広告獲得のための体制は,本件基本計画による約100億円はもとより,実際の本件機器の販売台数を前提としても約16億円という多額の広告放映料の支払をするには,あまりに貧弱であり,これによる活動も申し訳程度の不十分なものにとどまっていたといわざるを得ない。  そして,前記(2)で認定の有料広告の獲得実績と本件システム事業の実施のために必要とされる有料広告の量との著しい乖離も併せ考えれば,トータルネットらにおいては,一定の有料広告獲得のための活動をしたが,結局うまくいかなかったというのではなく,そもそも,当初から,本件基本計画を達成し,あるいは,実際の販売台数に対応する広告放映料を支払うに足りるだけの原資を獲得するための体制をとっておらず,また,その後もこのような体制をとろうとしていなかったものというべきである。 (4) 本件機器の販売価格と原価の不均衡    証拠(甲総61,乙182の1(甲総38),乙313)によれば,本件機器は,これを構成するテレビその他の機器の種類によって金額に違いがあるものの,平均して1台百数十万円程度で販売されていたものであるところ,そのうち本件機器を構成するテレビ,文字放送受信表示器,DVDプレーヤー,DVDソフトの原価の割合は,3割ないし4割強程度にとどまり,トータルネット及びその販売代理店は,これに本件機器の工事料,ロイヤリティ,販売手数料等を上乗せして販売していたことが認められる。  そうすると,本件機器の原価に比べ,経費等を踏まえた販売価格はかなり高額のものであったというべきところ,被告Y1自身,広告放映料の支払の必要も折り込んで高めに販売価格を設定したことを認める一方(同被告31頁),購入者に支払うべき広告放映料の額と獲得できる有料広告の額のバランスが崩れれば,同被告自身の表現を借りれば「たこが自分の足を食う」ような状態となって,本件システム事業は破綻することを認識していたことも自認している(同被告30,45頁)。そして,前記認定のとおり,トータルネットらは実際には有料広告を獲得して広告放映料の支出をまかなえる体制にはなかったことにも照らすと,トータルネットは,広告放映料の支払が早晩破綻することを認識していたにもかかわらず,広告放映料の支払をうたい文句として,本件機器を原価を大幅に超える高額の販売代金で顧客に売りつけ,種々の経費やロイヤリティ等の名目で多額の販売利益を得ていたものであると推認することができる。  これに対し,被告Y1は,広告放映料の支払を受けることができるのであるから,その分本件機器の販売価格を高額に設定しても不自然ではないと供述する。しかし,トータルネットらに真に有料広告による収益を図る意図があり,有料広告獲得のために本件機器の販売台数を増やしたかったというのであれば,むしろ,広告放映料の支払を伴わないか,あるいは,これを支払うにしても低額に見積もることによって,本件機器の販売価格を低額に抑えることも可能であったし,そのような扱いにすることが自然であったとも考えられ,上記のY1の供述は,採用することができない。  また,被告Y1は,本件機器のうち,文字放送受信表示器の価値を強調し,特許ないし実用新案を得ていること(乙14,18,43)等を指摘するが,同表示器の原価はたかだか十数万円であったことを被告Y1自身が認めており(乙313),前記認定判断を左右するものではない。 (5) 本件機器の販売の際の広告放映料の支払に関する説明 前記認定のとおり,本件機器の販売に当たっては,顧客に対しジェイネットから月々2万ないし3万円程度の広告放映料が5ないし6年にわたって支払われる旨の文字情報放映契約が併せて締結されており,これは,少なくとも平成12年末までは,実際に有料広告の配信があったかどうかにかかわらず定額の支払を約束する内容のものであった。そして,証拠(甲総12,13,17ないし22,24,60の33頁)によれば,トータルネットら及び販売代理店は,本件機器を販売するに当たり,支払われる広告放映料の月額が本件機器の購入に係るクレジット・リース料の分割支払金の月額とほぼ同額か,又はこれを若干上回る程度であるなどとして,クレジット・リース料の支払がないか,又はほとんど不要になるかのようにうたっていたことが認められる。前記認定の有料広告の獲得状況等を踏まえれば,このような販売形態は,広告放映料の支払が早晩破綻必至であるにもかかわらず,本件機器を売って利益を稼ごうとするもので,不当というほかない。     これに対し,被告Y1は,少なくとも途中からは,そのようなことを顧客に申し向けて本件機器の販売をしたことはないかのように供述し,トータルネットが作成した本件機器に係る平成11年9月付けの販売員セールスマニュアルとされる乙31号証には,既に広告が集まっているので広告放映料の支払でリース代が無料となる旨のセールストークをしてはならないとする記載がある(6頁)。    しかし,そもそも,有料広告の配信の有無にかかわらず,一定額の広告放映料の支払が約され,その支払額が,これによってクレジット・リース料の支払負担がないか,又は極めて少額となるように設定されていたこと自体は,少なくとも平成12年末までは変わりがない。そして,前掲乙31号証自体も,一方では広告放映料の支払によって顧客のリース料の負担が軽減されることを特記事項として記載している(15頁)上,同年8月時点のものと思われるトータルネットの指導員研修資料(甲総60)によれば,本件機器の「セールス・トークの実践編」として,リース料に見合う広告放映料が支払われることにより「無料で設置したことと同じになります。」との記載がある(33頁)ことが認められ,トータルネット自体が,広告放映料の支払によるクレジット・リース料の負担軽減を強調する販売方法を指導していたことが認められ,被告Y1の上記供述は採用することができない。少なくとも,被告Y1においても,その供述するような指導が販売代理店において徹底されていなかったことを自認している。    もっとも,前記1(2)カで認定のとおり,平成13年に入り,それまでの有料広告の配信の有無にかかわらず広告放映料を支払う方式(A方式)を,有料広告が実際に掲載された場合のみ広告放映料を支払うか,又は当初1年間のみ有料広告の配信の有無にかかわらず広告放映料を支払うが,その後は有料広告が掲載された場合のみ広告放映料を支払うという方式(B方式)に切り替えることが計画されたことが認められる。しかし,この時期において,A方式からB方式への切替えが実際にどの程度行われたかを認めるに足りる証拠はない。したがって,上記の点も,前記認定判断を左右するものではない。 (6) クレジット・リース会社からの指導とトータルネットの対応  前記1で認定のとおり,トータルネットは,平成10年9月ころに本件システム事業を開始するに当たり,取扱クレジット・リース会社から,売主と同じ会社が分割支払金相当額を広告放映料の名目で支払うことを保証する販売方法には問題があると指摘されたため,トータルネットの広告部門を独立させてジェイネットを設立し,また,平成12年夏ころ,同じく取扱クレジット・リース会社から,割賦販売法の改正に伴い,本件システムはココ山岡事件において問題となった保証販売に該当するおそれがあるなどとして,本件システムによる本件機器の販売をやめるように指導された。  しかるに,トータルネットは,平成12年12月ころにクレジット・リース会社の多数から与信を停止された後の平成13年に入って,ようやく前述のA方式からB方式への切替えを計画したにとどまり,実際にこのような切替えがどの程度行われたかは判然としない。  このように,トータルネットは,本件機器の販売開始の当初から,広告放映料の支払を保証する販売方法に問題があるとの指摘を受けていたにもかかわらず,広告放映料の支払をするジェイネットを形式上別会社とするのみで,その後も問題を指摘されながら,何ら販売方法には変更を加えず,クレジット・リース会社の多数から与信を停止された後の平成13年に入って,ようやく定額の広告放映料の支払期間の短縮や廃止といったB方式への切替えを計画したものの,このような切替え自体が現実に行われたと認めるに足りる証拠もないのであって,これ自体,多分に体裁を整えようとしただけで,実体を伴ったものではなかったというべきであるし,結局,本件機器の販売に当たり広告放映料の支払を約する販売方法自体は,最後まで改められなかったものである。  これらの事実によれば,トータルネットは,広告放映料の支払を保証することによって本件機器の販売を促進するという本件システム事業に問題があることを認識しながら,これを最後まで改めなかったというべきである。 (7) 以上の事実を総合すると,本件システム事業の生命線は広告であり,顧客に支払う広告放映料に見合う有料広告が獲得できなければ,本件システム事業は被告Y1の表現を借りれば「たこが自分の足を食う」ものに等しく,早晩破綻必至であったにもかかわらず,有料広告獲得の点でそもそも実現可能性のない本件事業計画を策定した上,十分な有料広告獲得のための体制の整備や活動も行わないまま,本件機器にその原価を大幅に上回る高額の販売価格を設定する一方,広告放映料の支払を受けることによって顧客のクレジット・リース料の支払がないか,又はほとんど不要になることをうたって本件機器を販売していたものであって,平成10年10月の販売開始の時点から既に,取扱クレジット・リース会社から,このような販売方法には問題があるとの指導を受けていたこと等も併せ考えれば,トータルネットにおいては,そもそも本件システム事業を真に成立させる意思も能力もないまま,本件機器を高額で販売して利益を得ようとしたものであって,本件システム事業は,本件機器販売開始の当初から,破綻必至の詐欺的なものであり,違法であったというべきである。 (8)ア 以上に対し,被告Y1は,本件事業の開始に当たり,株式会社電通に相談したところ,首都圏で1万台,全国で3万台に達すれば広告枠を買い取るといった話があり,本件機器が本件事業計画どおりの販売台数に至っていれば有料広告の獲得は可能であって,本件事業は採算性のないものではなかったなどと陳述する(乙301)。   しかしながら,証拠(甲総94)によれば,平成9年ころトータルネットの関係者が電通を訪問したことはあるものの,同社の側から,本件機器に関して,広告を提供する旨の具体的な話をし,あるいは何らかの約束をしたことはないことが認められる。そもそも,前述のとおり,トータルネットらの有料広告獲得状況は,単に結果的に販売台数が伸び悩み,採算が合わずに失敗に終わったというには,あまりに少ないものであって,そのような見込みが立ち得たと評価することは到底できないものであり,被告Y1の上記陳述は採用することができない。 イ また,被告Y1は,トータルネットが文字ニュースに関して文字放送会社と現実に契約を締結してそのための費用を支払い,株式会社すかいらーく等と本件システムの提供や文字情報の放映に関する契約を締結するなど,実際に営業活動を行っていたこと,監査法人の監査上特に問題は指摘されていなかったこと,本件システム事業の末期においても被告大明通産に対して本件システムの販売実施権を譲渡するなどの延命努力を行っていたこと,被告Y1らトータルネット関係者において不当な収入を得たことはないこと等を主張する。  しかしながら,前記のとおり,本件事業の生命線であるはずの有料広告の獲得の見込みがなく,そのための体制すら整備されていなかったこと等を踏まえれば,上記の諸点は,前記認定を左右するものではない。むしろ,上記のような活動は,本件機器の販売を続けていくために体裁を整えていたにすぎないものというべきである。したがって,被告Y1の上記主張も採用することができず,その他前記認定を覆すに足りる証拠はない。 3 各被告の個別責任について (1) 被告Y2,同Y5,同コモスジャパン,同ダイシン及び同ウィンテックについて    同被告らは,いずれも適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない(なお,被告Y2は,同被告個人に対する訴えが提起される前の当初の段階で,後記の被告東京文字ニュース中央の代表者として出頭したことがあるが,その後は出頭せず,同被告個人としての答弁書その他の準備書面は提出していない。)。したがって,同被告らは,原告ら主張の請求原因事実を争うことを明らかにしないので,これを自白したものとみなす。  そうすると,同被告らは対応する原告らに対し,不法行為責任を負う。   (2) 被告Y1について   被告Y1は,トータルネットの取締役(平成11年2月からは代表取締役)として本件システム事業を中心的に企画して実行した者であり,被告Y1自身,広告の獲得や,本件機器の広告配信のシステムの開発が当初想定していたように進展していなかったことを自認していたばかりか,本件機器の販売開始の当初から,定額の広告放映料の支払を約した上で,本件機器の販売を続けることは,本件機器の売上利益を広告放映料につぎ込む結果となり,「たこが自分の足を食う」に等しい経営状態となることを自認していたものである。そうすると,被告Y1は,本件システム事業の開始当初から同事業の破綻が必至であることを予見しながら,あるいは少なくとも容易に認識することができたにもかかわらず,原価を大幅に上回る高額の販売代金を設定して本件機器の販売を続けていたものであるから,悪意又は重大な過失があり,商法(平成17年法律第86号による改正(廃止)前のもの。以下同じ)266条の3第1項に基づき,その取締役在任中に本件機器の販売契約を締結した原告らに対して損害賠償責任を負うというべきである。 (3) 被告Y3について   被告Y3は,平成12年6月30日にトータルネットの取締役に就任したところ,前記認定のとおり,平成10年9月からジェイネットの代表取締役として本件システム事業における広告部門の責任者という立場にあった者であり,本件システム事業を正常に存続させていこうとするのであれば,有料広告の獲得が不可欠であることを知悉していたと認められる。しかるに,同被告は,有料広告を獲得するに足りる十分な体制を整えなかった一方,上記トータルネットの取締役就任時点において,実際にトータルネットらが獲得できた有料広告はわずかで本件機器の販売利益を広告放映料の支払に充てざるを得ない状態にあり,本件機器の販売を中止すれば,広告放映料の支払ができなくなる自転車操業の状態にあることも知悉していたことを自認している。そうすると,被告Y3には,トータルネットの取締役として,被告Y1が適切な経営を行うよう監視し,取締役会等を通じてその経営の是正を図るべき義務があったにもかかわらず,これを怠って本件システム事業が早晩破綻必至であることを予見し,あるいは少なくとも容易に認識しながら,これを漫然と継続させたものというべきであるから,その職務の執行について悪意又は重大な過失があったものといわざるを得ず,商法266条の3第1項に基づき,その取締役在任中に本件機器の販売契約を締結した原告らに対して損害賠償責任を負うというべきである。   これに対して,被告Y3は,同被告自身は広告獲得のために努力したものの,結果的に被告Y1と対立して平成12年12月末に辞任することになったもので,取締役としての任務を怠ったことはないと主張する。   しかしながら,被告Y3が広告活動を十分に行っていたと認めるに足りる証拠はない。また,被告Y3は,クレジット・リース会社から,トータルネットが本件機器を販売するとともに広告放映料を支払うのが問題であるとの指導を受け,別会社としてジェイネットが設立された経緯を遅くとも平成10年末までには知っていたと自認しており(同被告7頁),クレジット・リース料に見合う広告放映料の支払と本件機器の販売を組み合わせること等の問題性を認識していたはずであるし,前記認定のとおり本件システム事業が破綻必至であることは自ずと明らかであったというほかなく,同被告の上記主張は採用することができない。   また,被告Y3は,平成12年12月末にトータルネットの取締役を辞任したとも主張する。しかし,その旨の登記はなく,他にこれを裏付けるに足りる証拠はない。仮に,同被告がその時点で辞任した事実があったとしても,その後辞任の登記をするようトータルネットに対し求めたといった事情もうかがわれないから,商法12条ないし14条が類推適用され,いずれにしても,その後の本件機器の購入者に対しても責任を免れることはできないというべきである。 (4) 被告Y4について     被告Y4は,トータルネットの従業員として取締役就任以前から,トータルネットにおけるローン管理部及び本件機器のユーザーサポートを担当し,平成12年6月30日から平成14年1月11日までトータルネットの常勤取締役として在任した者である(甲総113,乙132,190の7・8(甲総35,36),乙273(甲総93))。     同被告は,そのような立場に照らして,本件機器の販売の問題性を十分認識し,少なくともその破綻を予見し得たというべきであって,トータルネットの取締役としての在任期間中,被告Y1が適切な経営を行うよう監視し,取締役会等でその経営の是正を図るべきであったにもかかわらず,これを怠って本件システム事業を漫然と継続させたものというべきであるから,その職務の執行について悪意又は重大な過失があったものといわざるを得ず,商法266条の3第1項に基づき,その取締役在任中に本件機器の販売契約を締結した原告らに対して損害賠償責任を負うというべきである。  これに対し,被告Y4は,自身は名目上の取締役になっていたにすぎず,実際の経営に関与していないから責任がないと主張する。  しかし,同被告が取締役に就任している以上,同被告が取締役として実際の経営に関与することが不可能であったといった特段の事情がない限り,取締役としての責任を免れるものではないというべきところ,この点に関する同被告の主張は抽象的なものにとどまっており,このような特段の事情を認めるに足りる主張立証はない。したがって,同被告の主張は採用することができない。 (5) 被告大明通産について     原告らは,被告大明通産は本件機器の50ないし100%近くの出荷に関与するなどその販売に深く関与しており,本件機器の販売をトータルネットとともに全面にわたって行っていたものであり,また,本件協約書を締結した平成13年6月27日以後は,トータルネットの事業を事実上承継し,これに伴って原告らに対する広告放映料の支払債務を含む一切の役務もすべて承継(重畳的債務引受け)しながら,その後に事業の承継を否定してトータルネットを破綻させたなどとして,原告ら全員に対する不法行為又は債務不履行責任を負うものと主張する。  しかしながら,被告大明通産は,トータルネットの一販売代理店として本件機器を販売したことがあることはうかがわれるものの,原告らの主張するように,販売代理店としての立場を離れて,本件機器の販売の全面にわたって関与したことを認めるに足りる証拠はない。  また,債務の承継の点についても,平成13年6月27日にトータルネットと被告大明通産が締結した本件協約書(乙143(甲総33))の内容は前記1(3)イで認定したとおりであって,それが同被告の取締役訴外Pの無権代理行為であるとする同被告の主張はひとまずおくとしても,トータルネットらから広告放映料の支払債務まで重畳的債務引受けをするとの趣旨をうかがわせる記載はなく,他に同被告がトータルネットの債務引受けをしたと認めるに足りる証拠はない。  なお,被告大明通産は,トータルネットの一販売代理店として活動していたことがうかがわれるが,原告らは,当裁判所からの求釈明にもかかわらず,原告らのうちの誰が被告大明通産を販売代理店として本件機器を購入したのか明らかにせず,同被告に対して販売代理店としての損害賠償請求をしていない。   以上のとおりであるから,原告らの被告大明通産に対する請求はすべて理由がない。   (6) 被告エコジャパン及び同ピアワン企画について     同被告らは,トータルネットの販売代理店として原告らの一部に本件機器を販売した者であるところ,本件機器の販売により,1台当たり30万円というかなり高額の代理店販売手数料を取得するものとして,広告放映料の支払によってクレジット・リース料の支払がないか,又はほとんど不要になる旨を申し向けて本件機器の購入を勧誘し,販売していたことが認められる(甲総12,13,20,22,24,61,乙182の1(甲総38))。  そして,本件機器の販売価格や実際に獲得できていた有料広告の有無,金額については,トータルネットに問い合わせれば当然に同被告らにおいても知り得る状況であったのであって,同被告らは,本件システム事業による本件機器の販売に前記のとおりの問題があり早晩破綻が必至であることを認識しながらトータルネットと一体となって本件システム事業に参画したか,又は少なくともこれを認識しなかったことに過失があったというべきであるから,不法行為責任を免れない。  同被告らは,トータルネットの言動を信じて販売したにすぎないとか,原告らを欺罔したことはないなどと主張するが,前述したとおり,これをもって不法行為責任を免れるものではない。  もっとも,原告X3(原告通し番号83),同X4(同86),同花ノ木製作所(同109のオリックス㈱契約分・債務状況表参照),同X5(同249),同X6(同264)及び同X7(同323)については,別紙債務状況表中の対応する販売会社名欄中の分離前の相被告クレジット・リース会社から販売会社が異なるとされたものの会社名欄に記載のとおり,弁論分離前相被告のクレジット・リース会社から同原告ら主張の被告ら販売会社とは取引をしていないと主張されており,同被告らが包括的にせよ請求原因事実を否認している以上,同原告らにおいて同被告らとの取引の存在を立証する責任がある。しかるに,同原告らは,当裁判所の求釈明にもかかわらず,契約書その他これを裏付けるに足りる証拠を提出しないから,同原告らの同被告らに対する請求を認めることはできない。なお,前記の欄に記載のあるもののうち,原告らが被告エコジャパンと主張するのに対し,株式会社ファンクとの取引であるとされるものについては,ファンクは被告エコジャパンの商号変更前の旧商号にすぎないから,被告エコジャパンが販売会社であると認められる。 (7) 被告東京文字ニュース中央について    同被告は,対応する原告X8(原告通し番号113の㈱オリエントコーポレーション契約分)との間の本件機器の販売契約がないと主張するが,同原告は平成13年10月4日養子縁組による改姓前の姓で同被告と販売契約を締結したものと認められる(甲Cウ16,弁論の全趣旨)。  そして,同被告は,同原告主張の請求原因に対し,その余の反論をしないから,同請求原因事実を認めることができ,同被告は,同原告に対して不法行為責任を負うというべきである。 4 損害賠償額について   原告らは,クレジット・リース会社に支払ったクレジット・リース料の既払金総額が損害額であると主張し,これから損益相殺として原告らが受領した広告放映料を差し引き,これに1割に相当する弁護士費用を加えた金額を請求する。    しかしながら,本件は,無価値物を売り付けたという事案とは異なり,本件機器は,それ自体固有の商品価値を有するものであり,特にテレビやDVDプレーヤー,DVDソフトは文字放送の送信の有無にかかわらず,通常の形態での使用が可能なものであって,原告らは,本件機器の引渡しを受けて使用を開始し,現にこれを占有していることが認められ,その所有権を確定的に取得しているといえるか否かはともかくとしても,弁論分離後のクレジット・リース会社との間の事件の帰すう等によっては,将来的にその所有権を取得する蓋然性があるし,その全部ないし一部を現在まで使用している(少なくともクレジット・リース料を支払っていた期間は使用していたと推認される。)か,使用し得る状態にあって,引渡し時点以降の使用による利益を得ていることは明らかであるから,このような点を全く考慮しないまま,原告らが支払ったクレジット・リース料(既払金総額)をそのまま損害額と認定することは,公平を欠くというべきである。  そこで,本件機器の原価の割合は販売価格の3割ないし4割強程度であり,原告らにおいて販売価格の平均33%が本件機器の原価相当額であると自認していること(平成17年3月24日付け原告ら第8準備書面21頁),原告らは本件機器の所有権を必ずしも確定的に取得しているわけではないが,少なくとも現在まで(又はクレジット・リース料支払期間中)その使用によって利益を得ている上,将来その所有権を取得する蓋然性があること,その他本件にあらわれた諸般の事情を総合的に考慮して,損益相殺の規定の基礎にある公平の理念に照らし,既払金総額から40%を除いた金額をもって相当損害額と認め,これから上記の観点とは別個の損益相殺として,放映料受領金額を差し引いた金額を被告らが原告らに対し賠償すべき損害額と認めるのが相当である(以上の損害額の認定は,原告らの主張に照らして認められるところであるから,原告らの主張を争わず,擬制自白が成立する被告らに対する関係でも認められる。)。  また,弁護士費用については,同金額の1割とするのが相当である。  以上により,各被告が対応する各原告に賠償すべき損害額を次式のとおり算定すると,別紙認容額目録に記載のとおりとなる。  (既払金総額

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