H17.11.29 名古屋簡易裁判所 平成17年(少コ)第344号 損害賠償請求事件

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 被告が加工販売した加熱不足のロースカツを食した結果,原告が急性大腸炎に罹患したとする損害賠償請求事件について,摂食と発病との間の因果関係が認められないとして,製造物責任,債務不履行,不法行為のいずれも認めることはできないとされた事例 平成17年(少コ)第344号 損害賠償請求事件(通常移行) 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は原告に対し,30万0000円及びこれに対する平成14年7月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。  2 訴訟費用は被告の負担とする。  3 仮執行宣言 第2 事案の概要  1 請求原因(原告の主張)   (1) 被告は加工食料品であるいわゆる「お惣菜」を販売する会社である。   (2) 平成14年7月1日(以下「本件当日」という。)午後7時頃,原告は原告の父を使者として訴外Aストアa店内所在のB食品a店(以下「本件店舗」という。)で被告が加工した「やわらかロースカツ」を380円で購入した(以下原告が購入したものを「本件ロースカツ」という。)。   (3) 本件当日午後7時30分頃原告は本件ロースカツを数切れ食べたため,激しい腹痛並びに発熱に見舞われた。特に下痢がひどく,1日に15回以上もトイレに行かなければならないような状態がその後数日間続いた。そのため,数回の通院及び相当の治療・静養を余儀なくされ,仕事の能率が低下し,治癒した後もそれまでの仕事の遅れを取り戻すため相当の激務を強いられ,苦痛と不安という肉体的及び精神的損害を被った。   (4) 被告は,本件ロースカツに十分な加熱処理をしなかったため,本件ロースカツは加熱不足の商品であった。   (5) 同年7月3日に原告から連絡を受けた名古屋市b保健所(以下「b保健所」という。)職員が原告宅で保管していた本件ロースカツの一部を持ち帰り検査したところ食中毒起因菌である黄色ブドウ球菌及びセレウス菌が検出された。   (6) 原告の腹痛,発熱及び下痢は被告が本件ロースカツを加熱不足のまま販売したことによるものである。   (7) 被告は,以上の経過にもかかわらず,単に「治療費を支払ったことにより責任は果たした。」と述べるにとどまり,5000円の見舞金のみを支払うことにより問題を解決しようとする不誠実な対応をした。のみならず,原告が5000円の受領を拒否し,被告の対応に難色を示すと「以前にも,自分で異物を混入しておきながら,クレームを言ってきた人物がいた。」と原告をそれと同様に扱って侮辱した。   (8) 原告の(3)及び(7)による肉体的及び精神的損害の慰謝料としては30万0000円が相当である。   よって,原告は被告に対し,一次的に,その加工し,引き渡した製造物の欠陥による損害の賠償として慰謝料30万0000円の支払を求め,二次的には,本件ロースカツは原告がその父を使者として被告から購入したものであり,被告は原告と契約関係にあるから互いに双方の生命・身体の安全を害さないように注意する信義則上の義務があるとして被告に対し同義務に反して原告に腹痛,発熱及び下痢を起こさせた債務不履行による損害賠償として同額の支払を,三次的に一般不法行為による責任として,同額の支払を求める。  2 被告の認否及び主張   被告は請求棄却の判決を求め,請求原因事実中(1),原告が本件当日原告の父を使者として本件店舗で本件ロースカツ1枚を380円で購入したこと,本件ロースカツが加熱不足であったこと,原告がその一部を食べたこと,b保健所が原告宅で保管されていた本件ロースカツの一部を採取し検査したところ黄色ブドウ球菌及びセレウス菌が検出されたことは認め,その余は否認する。  b保健所職員が本件ロースカツの一部を原告方から採取した日付は7月2日である。   原告方で保管していた本件ロースカツの一部から検出された黄色ブドウ球菌及びセレウス菌は調理前の材料に付着していたものでもなければ加熱不足のために死滅しなかったものでもなく,原告方で保管されるに至った後に付着したものである。しかも,これらの菌は食中毒を発生させる毒素であるエンテロトキシンを産生しない「毒素非産生株」の菌であったから,仮に原告がこれらの菌が付着した本件ロースカツの一部を食べたとしてもこれによって原告主張の身体的被害は発生しない。 第3 中心的争点及び当裁判所の判断  1 本件の中心的争点は,本件ロースカツが加熱不足のまま原告に販売されたこと(当事者間に争いがない)と原告が平成14年7月2日の夕刻から発症した急性大腸炎(原告本人尋問の結果及び甲第1号証で認められる。)との間の因果関係の有無である。  2 当裁判所の判断 証拠及び当事者間に争いのない事実によれば次の事実が認められる。 (1) 被告は食料品であるいわゆる「お惣菜」を加工販売する会社である。本件当日本件店舗では,夕食用に追加でロースカツを5枚揚げたが,それらのロースカツはいずれも加熱が不十分で中心部分が半生状態であった。 (2) 原告は,本件当日夕刻被告店舗で父親を使者として前記ロースカツの内1枚(本件ロースカツ)を購入し,加熱不足に気付かずに自宅で当日の夕食としてその一部を一口食べてしまった。 (3) (1)のロースカツ5枚の内,原告が購入した本件ロースカツ1枚以外に他の1枚が別の顧客に販売されたが,残りの3枚は店頭に置かれたものの売れ残ったため,販売されることはなかった。 (4) 本件店舗では本件当日午後6時40分ころ原告から苦情の電話を受け,店長が原告宅に赴き,謝罪して原告から本件ロースカツの一部を回収したが,原告は本件ロースカツの一部については回収に応ぜずこれを自宅で保管した。 (5) 本件店舗では販売された他の一枚の顧客(この顧客は食べる前に加熱不足に気付いた。)からもロースカツを回収し,そのロースカツ,原告から回収した本件ロースカツの一部,売れ残った3枚のロースカツを本件当日午後8時30分ころそれぞれ別の紙袋に入ったままで冷凍保管した。 (6) b保健所は原告及び被告から連絡を受け,平成14年7月2日午前11時ころ原告方に赴き,同所で保管されていた本件ロースカツの一部を採取し,名古屋市衛生研究所に検査を委託した。 (7) 被告は7月2日午後5時30分ころ原告から腹の調子が悪いとの連絡を受けて,同日午後8時ころ原告方を訪れて再び謝罪するとともに医師の診察を受けることを勧めたが,その時点では軽い下痢で大したことはなかったので原告は病院には行かず,7月3日になってから下痢がひどくなり,同日午後6時ころ初めてa病院で診察を受け,急性大腸炎であると診断された。 (8) b保健所は平成14年7月4日午後に本件店舗に立ち入り,本件店舗で冷凍保管していた(5)の3種類のロースカツ(他の顧客からの回収商品,本件ロースカツの一部及び売れ残り商品),本件店舗内のロースカツ以外の調理済み商品及び調理前の冷凍ロースカツ(ただし,本件ロースカツと同じ箱に入っていたものはその時点では残っていなかったので,別の箱に入った同一冷凍ロースカツ)並びに冷凍庫棚・冷蔵庫取手などの保管設備,調理器具・調理設備及び調理担当者の手指をふき取り採取し,その検体を前記研究所に委託して検査した。 (9) (6)の検査の結果,同ロースカツの一部から食中毒起因菌である黄色ブドウ球菌及びセレウス菌が検出されたが,これらの黄色ブドウ球菌及びセレウス菌は食中毒を発生させる毒素であるエンテロトキシンを産生しない毒素非産生株であった。 (10) (8)の検査の結果,これらの検体のいずれからも黄色ブドウ球菌やセレウス菌をはじめとする食中毒起因菌は検出されなかった。 2 以上の事実によれば,黄色ブドウ球菌及びセレウス菌が検出された検体は,結局,原告が食べたと認められる本件ロースカツのうち,原告が自宅で保管していた本件ロースカツの一部のみであり,反面,被告が原告方から持ち帰った本件ロースカツの一部からは黄色ブドウ球菌及びセレウス菌が検出されておらず,原告に対するのとほぼ同時刻ころに別の顧客に販売されたロースカツや本件店舗内の商品等からも黄色ブドウ球菌及びセレウス菌は検出されていないのであって,原告が自宅で保管していた本件ロースカツの一部から検出された黄色ブドウ球菌及びセレウス菌は原告方で保管中に付着したものと考えるのが合理的である。   さらに,検出された黄色ブドウ球菌及びセレウス菌は食中毒を発生させる毒素であるエンテロトキシンを産生しない毒素非産生株であったこと,原告が腹痛,下痢及び軽度の発熱を発症したのは,本件ロースカツを食べてから24時間近く経過した後であることを併せ考えると,原告が食べた本件ロースカツが加熱不足の商品であった事実を前提にしても,本件ロースカツが加熱不足のまま原告に販売されたことと原告が平成14年7月2日の夕刻から発症した急性大腸炎との間に因果関係を認めることはできない。   したがって,その余の点について判断するまでもなく原告が被告の加工し,引き渡した製造物の欠陥による損害の賠償を求める主張は理由がない。 3 原告は,二次的に本件ロースカツの売買における被告の債務不履行責任を主張し,三次的に被告の一般不法行為による責任を主張するが,2で述べたとおり本件ロースカツが加熱不足のまま原告に販売されたことと原告が平成14年7月2日の夕刻から発症した急性大腸炎との間に因果関係を認めることはできないので,その余の点について判断するまでもなく,原告のこれらの主張はいずれも理由がない。 以上によれば原告の請求は理由がない        名古屋簡易裁判所             裁 判 官  矢 倉 章 三

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