H17.11.24 名古屋地方裁判所 平成16年(行ウ)第58号 所得税決定処分等取消請求事件

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 風俗営業を営む店舗の経営者であることを理由に,被告から推計の方法による所得税の決定及び重加算税の賦課決定の処分を受けた原告が,一部期間を除いて経営主体を誤っており,経営者であった一部期間についても経営権の購入代金を必要経費として認めず,また,推計の必要性及び合理性は存在しないなどと主張して,上記決定処分の取消しを求めた抗告訴訟について,経営権の購入代金の支出は認められず,本件店舗への出資や売上金の管理等の実態から経営者は原告であり,推計の必要性及び合理性も認められることから,上記決定処分は適法であるとして,原告の請求が棄却された事案。 平成17年11月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成16年(行ウ)第58号 所得税決定処分等取消請求事件 口頭弁論終結日 平成17年9月5日 判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求 1 被告が平成15年3月12日付けで原告に対して行った以下の各処分をいずれも取り消す。 (1) 平成9年分所得税の決定及び重加算税の賦課決定 (2) 平成10年分所得税の決定及び重加算税の賦課決定 (3) 平成11年分所得税の決定及び重加算税の賦課決定 (4) 平成12年分所得税の決定及び重加算税の賦課決定 (5) 平成13年分所得税の決定及び重加算税の賦課決定 2 被告が平成15年3月12日付けで原告に対して行った以下の各処分をいずれも取り消す。 (1) 平成11年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の各決定並びにこれらの重加算税の各賦課決定 (2) 平成12年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の各決定並びにこれらの重加算税の各賦課決定 (3) 平成13年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の各決定並びにこれらの重加算税の各賦課決定 第2 事案の概要 本件は,風俗営業を営む店舗の経営者であることを理由に,被告から推計の方法による前掲各課税処分を受けた原告が,①一部期間を除いて,経営主体の判断を誤っており,②経営者であった一部期間についても,経営権の購入代金を必要経費として認めず,③推計の必要性及び合理性は存在しないなどと主張して,それらの取消しを求めた抗告訴訟である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実等) (1) 風俗店の営業と所得申告 後記の風俗営業を営む7店舗(以下,これらを「本件全店舗」と,本件全店舗から平成13年10月に開店したプレイガールを除いたものを「本件6店舗」とそれぞれ総称する。なお,各店舗の名称は,特に断らない限り,平成13年12月31日現在の店名で表記する。)は,平成13年12月31日当時,愛知県西三河地方である岡崎市,知立市及び安城市にて風俗営業を営んでいたが,その経営者から所得申告はなされていなかった。 (2) 本件全店舗の状況 ア 各店舗の開店等の経緯(甲43,乙1の1・2,4)。 (ア) ダイナマイト ダイナマイトは,岡崎市a町b-cに所在するピンクサロンである。同店は,もともと,A(以下「A」という。)が昭和62年ころに「ビバアメリカ」との名称で開業したピンクサロンであったが,昭和63年4月ころ,Aが売春防止法違反の罪で逮捕されたため,休業するに至った。その後,同店は,「フレンド」と名称を変更して営業を再開し,更に「ダイナマイト」と名称を変更したが,平成15年1月に閉店した。 (イ) ホワイトハウス ホワイトハウスは,平成元年8月,安城市a町b-c-dにおいて,「USA」の店名で開店したピンクサロンである。同店は,平成6年に「ホワイトハウス」に店名を変更したが,平成15年1月に閉店した。 (ウ) タイムボカン タイムボカンは,平成2年1月,岡崎市a町b-cにおいて,「パラダイス」の店名で開店したピンクサロンである。同店は,平成10年6月,店名を「ミニスカポリス」に,業態をカラオケパブに変更し,更に平成13年11月には,店名を「タイムボカン」に変更した。 (エ) 夢の国 夢の国は,平成3年8月,知立市a町b-cにおいて開店したピンクサロンである。 (オ) プレイボーイ プレイボーイは,平成4年1月,岡崎市a町b-cにおいて開店したピンクサロンである。 (カ) ミニスカポリス ミニスカポリスは,平成10年11月,知立市a町b-cにおいて開店したカラオケパブである。 (キ) プレイガール プレイガールは,平成13年10月,岡崎市a町b-cにおいて開店したピンクサロンである。 イ 関連する店舗 本件全店舗に関連する店舗として,平成14年11月ころに開店した「モンテカルロ」という名称のピンクサロンが,知立市の夢の国に隣接して所在している(甲43,乙4,6)。 ウ 本件全店舗の売上げ及び酒の仕入れ 本件全店舗のうち,クレジットカード加盟店契約を締結していないプレイガールは現金売上のみ,その他の本件6店舗の売上げは,①現金売上げと,②クレジットカード会社からの立替払金による売上げ(以下「カード売上げ」という。)から成っている(甲43)。 また,本件全店舗は,酒類をB有限会社(以下「B」という。)から仕入れていた(乙6,証人C)。 (3) 原告による事業 原告は,ビバアメリカが休業し,フレンド(ダイナマイト)として再開された昭和63年秋ころ,フィリピン人女性のコンパニオン派遣業を営んでいた。また,原告は,グァム島において,「ラッキーリムジン」の名称で現地法人を設立し,リムジンによる送迎業を営んでいた(甲11,原告本人)。 また,原告は,後記のとおり,平成12年9月1日から同年12月31日までの間,本件6店舗(当時プレイガールは開店していない。)の経営者であったことを自認している。 なお,Dは,原告が事業を営む際に使用している屋号であり,現在は,岡崎市a町b-c-dに事務所を構えているが,平成13年7月以前においては,ダイナマイトの2階にあった(甲43,乙1の2)。 (4) 名古屋国税局による税務調査 名古屋国税局課税第一部資料調査第一課所属の係官(以下「調査担当者」という。)は,平成15年1月14日,原告に対する税務調査に着手したが,しばらく原告と接触することができないでいるうち,同月22日,原告が居所としている岡崎市a-b所在のc-d号室(以下「本件マンション」という。)を訪問したところ,原告と面会することができ,同日以後,本件マンションのほか,Dの事務所などにおいても調査を行った(以下,これら一連の調査を「本件調査」という。乙13)。 (5) 被告による課税処分 被告は,平成15年3月12日付けで,別表1の「決定等」欄記載のとおり,原告の平成9年分ないし平成13年分(以下,個別には「平成9年分」などといい,全部を「本件各係争年分」と総称する。)の所得税の決定(以下「本件各所得税決定処分」という。)及びこれに係る重加算税の賦課決定の各処分を行うとともに,別表2の「決定等」欄記載のとおり,原告の平成11年1月1日から同年12月31日まで,平成12年1月1日から同年12月31日まで及び平成13年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下,個別には「平成11年課税期間」などといい,全部を「本件各課税期間」と総称する。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の決定(以下「本件各消費税等決定処分」という。)並びにこれらに係る重加算税の賦課決定(以下,所得税に係る重加算税の賦課決定処分を併せて「本件各重加算税賦課決定処分」といい,以上の全処分を併せて「本件各処分」という。)の各処分を行い,そのころ,原告に通知した(甲1ないし8)。 (6) 原告による不服申立てと本訴提起 原告は,本件各処分を不服として,平成15年4月8日付けで,異議申立てをしたところ,国税通則法43条3項に基づき,被告から原告の本件各係争年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の徴収の引継ぎを受けた名古屋国税局長は,同年6月27日付けで,原告の異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をし,そのころ,原告に通知した(甲9)。原告は,さらに,同年7月24日付けで,国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成16年7月7日付けで,原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし,そのころ,原告に通知した(甲10)。以上の不服申立ての経緯は,別表1及び2の「異議申立」,「異議決定」,「審査請求」及び「裁決」欄記載のとおりである。 そこで,原告は,平成16年10月6日,本訴を提起した。 2 被告の主張に係る本件各処分の処分理由 (1) 本件各所得税決定処分 被告は,推計の方法により,別表3⑥欄記載のとおり,本件各係争年分における原告の事業所得を算出したが,原告には他の所得がないことから,これをもって総所得金額とし,ここから同表⑦欄記載の所得控除額を控除して,同表⑬欄記載のとおり,課税総所得金額を算出し,これに関係法条を適用して,原告が納付すべき所得税額を,同表⑰欄のとおり算出した。 (2) 本件各消費税等決定処分 被告は,推計の方法により,別表4①欄記載のとおり,本件各課税期間における原告の課税売上高を算出し,これに関係法条を適用して算出した原告の納付すべき消費税等の金額を,同表⑫欄のとおり算出した。 (3) 本件各重加算税賦課決定処分 原告には,国税通則法68条2項にいう「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の……一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出していなかったとき」に該当する事由が認められたところ,被告は,原告が納付すべき所得税額(別表3⑰欄)に同項所定の割合を乗じた重加算税額を,平成9年分が56万8000円,平成10年分が523万6000円,平成11年分が614万8000円,平成12年分が642万4000円,平成13年分が357万2000円と算出した。 また,被告は,原告が納付すべき消費税等額(別表4⑫欄)に同項所定の割合を乗じた重加算税額を,平成11年課税期間が791万2000円,平成12年課税期間が729万2000円,平成13年課税期間が572万円と算出した。 3 本件の争点 (1) 本件全店舗の事業に係る所得の帰属先 具体的には, ア 平成12年8月31日以前の経営者(本件6店舗)は,原告か,Aか。 イ 平成13年1月1日以降の経営者(プレイガールが開店した平成13年10月以降は本件全店舗)は,原告か,各店舗の店長か。 (2) 原告が本件6店舗の経営権を購入する代金として,Aに6000万円を支払ったか。 (3) 推計課税の必要性の有無 (4) 推計課税の合理性の有無 具体的には, ア ピンクサロンとカラオケパブを区別して推計すべきか否か。 イ プレイボーイの酒の仕入額の正確性 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(本件全店舗の事業に係る所得の帰属先)について (被告の主張) ア 事業所得の帰属の確定手法 税法上,ある税が納税者の担税力に即して課税されるべきことは,租税一般に通ずる基本原理の一つであるところ,所得税法27条に定める事業所得は,基本的には,その営む事業から生ずる所得に着目して課せられる税としての基本的性格を有するから,その納税義務者は,その事業を開始し,維持・継続する権限を有する者,すなわち,経営者と一致すると考えられる。したがって,事業収益が誰に帰属するかは,当該事業が営まれている事業所を巡る法律関係,事業から生じた売上金の管理形態,経費の負担状況,従業員に対する指揮監督状況などを総合して判断されるべきである。 イ 本件における事業所得の帰属 上記のような観点からみると,以下のとおり,本件全店舗の経営者は原告にほかならず,本件全店舗に係る事業所得も原告に帰属するとみるのが相当である。 (ア) 本件全店舗を巡る法律関係 本件全店舗の賃貸借契約,行政上の許可及びクレジットカード加盟店契約に関する法律関係を整理すると,別表5のとおりとなる。 すなわち,本件全店舗はいずれも賃貸店舗を利用して営まれており,その賃借人は,タイムボカン及びホワイトハウスを除く5店舗につき原告とされている上,タイムボカンについても,原告がその連帯保証人となっている(なお,ホワイトハウスの賃借人は,本件調査によっても不明であったが,DからEに対して家賃が支払われている事実は確認されている。)。 他方,風俗店ないし飲食店である本件全店舗に対する行政上の営業許可の名義人は,いずれも原告ではない。 さらに,ダイナマイト,ホワイトハウス,タイムボカン,夢の国及びプレイボーイについては平成6年5月に,ミニスカポリスについては平成10年10月に,それぞれ締結されたクレジットカード加盟店契約(以下「本件加盟店契約」と総称する。)の契約名義人も原告ではない。 (イ) 本件全店舗の売上金の管理状況 本件全店舗に係る収益は,以下のとおり,すべて原告の下へ集積される関係にある。 a 本件全店舗の事業形態等 本件全店舗は,岡崎市を中心に,知立市,安城市に点在する店舗群であるが,いずれの店舗にも責任者(店長)が配置され,各店舗の運営は,この店長によって行われている。 また,原告は,Dという屋号で事業を営んでいるところ,その事務所は,当初はダイナマイトの2階に設けられていたが,現在は,岡崎市a町b-c-dに設けられている。 b 本件全店舗の売上金について 本件全店舗の利用客は,現金払の者とクレジットカードを利用する者とがおり,これに照応して,本件全店舗の売上げも,現金売上げとカード売上げの2種類ある。そして,本件全店舗における現金売上げ及びカード売上げに係る売上金の管理の仕組みは,以下のとおりであり,いずれも原告の下に集積されることになっている。 (a) カード売上げについて まず,カード売上げについてみると,本件6店舗におけるクレジットカード会社からの立替払金が入金される預金口座は,主として,原告以外の者の名義となっている名古屋銀行岡崎南支店(以下「本件支店」という。)の普通預金口座であり,これを整理すると,別表6のとおりとなっているところ,これらの銀行口座のうち,F名義の口座を除くすべての口座の通帳と届出印鑑が,本件調査の際に,原告の居所である本件マンションにおいて発見されている。 加えて,これらの口座はすべて,平成6年5月の本件加盟店契約の締結の際に開設されたものであるか,平成10年10月の同契約の契約者名義変更に伴って開設されたものであるが,平成6年5月に開設された口座は,すべて原告自身によって開設されており,平成10年10月の名義変更に伴って開設された口座についても,当該名義人に開設してもらった上で,原告がその通帳と印鑑を保管しているというものであった。 このように,プレイガールを除いて,本件6店舗に関するカード売上げに係る売上金が入金される預金口座は,原告の管理下にあったと認められる。 (b) 現金売上げについて また,現金売上げに係る売上金についても,以下のとおり,カード売上げの場合と同様,原告の管理下にあった。 平成12年8月まで原告の下で稼働していたAの供述によれば,同時期までの間における本件6店舗の現金売上げに係る売上金については,各店舗の店長が,営業のあった日の翌日に,売上金及び売上集計表を直接又はAを通じてDの事務所に持参し,原告がこれを受け取り,パソコンを使用して管理していた。 さらに,調査担当者に対する原告の事情説明によれば,本件全店舗の日々の売上金は,まず,①各店舗の店長が,売上金,客入状況,従業員の出勤状況及び当日の経費が記載された営業日報を作成し,各店舗の営業終了後,当日の売上金から,当日の経費を差し引いた後の現金とともに,各店長の中で最も年長者であるG(以下「G」という。)の自宅へ持参し,②Gが,その翌日,これらの現金と営業日報をDの事務所に持参し,原告の実弟であるH(以下「H」という。)を通じて,若しくは原告に直接交付し,③原告はこれを自宅に持ち帰り,自宅の金庫で保管するというものであった。 原告は,上記のようにして届けられた各店舗の営業日報を,パソコンへ入力した後,Dの事務所で処分し,その入力したデータを,翌月の月初めには消去していた。また,事務所に届けられた本件全店舗の経費に係る請求書や領収書は,受領後3か月程度で処分されていた。 そして,Aが原告の下で稼働していた平成12年8月以前の処理と同年9月以降の処理の違いは,Aが担当していた事務部分をG又はHが担当することになったことだけで,本件全店舗の売上金の回収方法が若干変わったにすぎない。 このように,Aや原告の供述を総合すると,本件全店舗の日々の現金売上げに係る売上金については,各店舗の店長によって集計された後に,現金及びその計算資料が原告の下へ集積する仕組みとなっていたと認められる。 c 売上集計表ないし営業日報 上記のとおり,原告の下へは,本件全店舗の売上集計表ないし営業日報が集積する仕組みとなっているが,実際,調査担当者が,本件マンション及びDの事務所に臨場した際,①本件マンションにあった原告の所持するパソコンから,本件全店舗のうち,平成9年当時営業していた各店舗に関する同年5月から同年12月までの収支計算表とみられる表の一部(別表7ないし14。乙12。以下「本件復元データ」という。)や,②Dの事務所において,原告の所持するパソコンから,プレイガールについての平成14年12月分の営業月報及び収支明細書(乙4号証の別紙1ないし5),ホステスの出勤,指名状況などを確認するための帳票(乙4号証の別紙6),ホステスの報酬一覧表(乙4号証の別紙7ないし11),その他,モンテカルロのホステス募集用のちらし,ミニスカポリスの平成12年の年末特別給前払証等,重要事項説明書,モンテカルロの収支計算表のひな形,夢の国の料金体系の一覧表,取引先の電話番号を記載したメモ,従業員用の金銭借用書のひな形,本件全店舗のホステスや従業員の氏名,住所,入店日,雇用経過などが記載された名簿,本件全店舗のホステスの雇用状況,面接状況を記載した表,本件全店舗のホステスの退店状況,本件全店舗やホステス等の寮として利用している建物の家賃の支払先一覧表などの複数の書類データが発見されている。 そして,関係資料を基にこれらの復元データを分析した結果は,以下のとおりである。 (a) 本件復元データ ⅰ 本件全店舗の酒の仕入額   本件全店舗に酒類を納品しているBへの反面調査の結果,Bが保管する「得意先台帳」等には,本件全店舗に対する酒類の真実の取引金額の2分の1に相当する金額が記載されており,Bの本件全店舗に対する酒類納品に関する真実の取引額は,上記帳簿類記載の額を2倍したものであることが明らかになっている。 ⅱ 本件復元データとの照合   ところで,本件復元データの「sak」欄(別表7ないし11)及び「酒代」欄(別表12ないし14)の数値を,Bの得意先台帳上の数値を整理した表(別表15ないし17。乙31号証の2)と照合すると,平成9年5月分から同年12月分の期間における記号「¥1」の数値と,ダイナマイトの酒類の取引金額が完全に一致し,以下同様に,記号「¥2」とホワイトハウス,記号「¥3」とパラダイス,記号「¥4」と夢の国,記号「¥5」とプレイボーイについても,一致することが認められる。   なお,「¥4」の数値と「夢の国」の酒類の仕入金額は,平成9年5月分のみ一致しないが,本件復元データ上の28万5130円という数値が「¥5」の「sak」の数値と同じであることから,誤記であると思料される。 ⅲ 小括   このように,本件復元データは,本件全店舗のうち,5店舗の平成9年5月ないし12月分の収支データであることは疑う余地がないのであって,かかるデータが,原告の所持するパソコン内から復元されたということは,原告が本件全店舗の収支を管理していたことを如実に示すものである。 (b) 他の復元データの解析 さらに,上記②に記載した複数のデータ(乙4の別紙1ないし11,乙14ないし29)によれば,これらのデータに表示された年が,2001年(平成13年)ないし2003年(平成15年)となっているため,すべてが本件各係争年分に直接関わるものではないものの,この中には,各店舗のホステスや,従業員の氏名,住所,入店日,雇用経過等を記載した名簿(乙24),本件全店舗のホステスの雇用状況,面接状況を記載した表(乙25,26),本件全店舗のホステスの退店状況(乙27)及び本件全店舗やホステス及び従業員の寮として使用していると認められる建物に係る家賃等の支払先等を記載した表(乙28,29)といったものが含まれており,これらは,いずれも本件全店舗を一括管理することを目的とした管理資料とみるのが相当であって,通常,経営者によって保有されるものであることを踏まえると,本件全店舗の経営者は原告であると認めるのが相当である。 (ウ) 本件全店舗の経費負担の状況 また,本件全店舗の経費の負担も,以下のとおり,原告の計算と責任においてされていたと認められる。 a 人件費等 本件全店舗の業態からすると,その経費の主要部分がホステス等に係る人件費であると推察されるところ,本件全店舗のホステスに対する報酬や従業員に対する給料は,各店舗の店長がそれぞれ報告書を作成し,当該報告書が原告に提出されることで,原告から各店舗の店長に支払われるものとされている。 b その他の経費関係 加えて,本件全店舗及びDに係る経費の請求書は,すべて原告が主宰するDの事務所に届くことになっており,ガス,水道,電気,電話料金,家賃,その他の支払については,Dの事務所の事務員であるI(以下「I」という。)が支払一覧表を作成していた。そして,原告は,各店舗及びDの支払合計金額が記載された当該一覧表を基に,自己が保管する現金から必要な金額をIに渡し,Iが本件全店舗及びDの経費の支払を行っていた。 なお,本件全店舗に対して,酒類を納品しているBの代表者であるC(以下「C」という。)は,Bの本件全店舗に対する酒類の請求書を,一括して「六名の事務所へまとめて持って行きます。」と供述しているが,この「六名の事務所」とは,Dの事務所を指している。 c Aの供述 以上のような経費支払の仕組みについては,Aも,概略的ではあるものの,同様のことを述べている。 (エ) 小括 このように,本件全店舗を巡る法律関係の名義は必ずしも統一されたものであるとはいえないが,事務所経営者が行政上必要とされる許可などにおいて他人名義でこれを営む事態があることはまれではなく,この点を経営者が誰であるかの判断において重要視すべきではない。 むしろ,誰が経営者であるかを決するには,その事業による計算と責任が誰に帰属しているかを事業の実態に照らして判断する必要があり,本件においては,本件全店舗の事業による売上金はすべて原告に集積される仕組みになっており,また,その事業による経費もすべて原告から本件全店舗に流れる仕組みとなっている。 他方,原告に集積された売上金が,更に第三者へ移動していることや,原告から各店舗へ流れた経費分の資金につき,他の者がその原資を拠出していることをうかがわせる形跡も全く見られないのであるから,結局,本件全店舗の事業に係る利潤や損失の負担の淵源は,原告にあるとみるのが相当である。 よって,本件全店舗の経営者は原告とみるのが相当である。 (原告の主張) 被告の主張は否認する。 ア 本件全店舗の経営者について 本件全店舗の経営者は,平成9年から現在まで,A,原告,各店舗の店長と変遷しており,その経緯等は,以下のとおりである。 (ア) 原告とAの関係 原告は,約20年前に,岡崎市内にあったキャバレーで,ウェイターとして勤務していたことがあったが,そのとき,同じ店で主任として勤務していたAと知り合った。 Aは,昭和62年ころ,独立してビバアメリカという名称のピンクサロンの営業を始めた。同店の店長はJ(旧姓「J」。以下「J」という。)であり,原告は同店の経営に関与していなかった。ところが,AとJは,昭和63年5月ころ,売春防止法違反の罪で逮捕・起訴され,執行猶予付きの有罪判決を受けたため,ビバアメリカは休業に追い込まれ,同人らは,その後,表面上,同店を経営することができなくなった。 (イ) 平成12年8月31日まで そこで,Aは,ビバアメリカを再開するに当たって,旧知の原告に,マネージャーとして稼働するよう要請し,昭和63年11月,店名をフレンドと変更してピンクサロンの営業を再開した。このときの原告の役職は,マネージャー(各店舗の店長を統括する地位にあった。)であり,あくまでAの従業員にすぎなかった。原告は,以後,Aと二人三脚で働いて事業を拡大していったところ,経営者であるAを頂点とし,その下にマネージャーである原告,更にその下に各店舗の店長が位置する組織が形成され,このような関係は,平成12年8月31日まで続いた。 以上のように,平成12年8月31日までの本件6店舗の経営者はAであり,原告は,Aに雇用された従業員(マネージャー)であったにすぎない。この間の本件6店舗の収支データ等は,経営者であるAが所持していた。 (ウ) 平成12年9月1日から同年12月31日まで 原告は,平成12年8月31日,本件6店舗の経営者であったAから,これら店舗の経営権を6000万円で購入した。 なお,原告はAの下でマネージャーとして稼働し,その運営方法を知悉していたため,その後の本件6店舗の運営については,Aと同じ方法を採用したものである。 したがって,平成12年9月1日から同年12月31日までは,原告が本件6店舗の経営者であった。この間の本件6店舗の帳簿書類やデータ等については,原告が1型糖尿病に罹患し体調不良に陥ったため,管理することができなかった。 (エ) 平成13年1月1日以降 原告は,平成12年9月ころから,1型糖尿病に罹患して,本件全店舗の経営者としての仕事をすることができなくなった。そこで,原告は,同年11月ころ,体調が悪くても安定した収入を得られるように,本件6店舗の店長を独立させ,自分は経営のアドバイスなどをして各店舗の店長から一定の顧問料を受け取るという内容のロイヤリティーシステムを採用することとした。原告は,同年12月ころには,ロイヤリティーシステムの採用について各店舗の店長と話し合い,平成13年1月1日以降,このような経営形態とすることで合意した。したがって,各店舗においては,同日以降,従来店長をしていた者が,経営者として独立し,自己の計算で営業をしており,原告は経営者ではなくなった。原告は,同日以降,本件6店舗の各経営者から顧問料として月10万円を取得していたにすぎない。 また,プレイガールについても本件6店舗と同様,店長であるGが経営者として自己の計算で営業を行っており,原告は,Gから顧問料として月20万円を取得していたにすぎない。これら顧問料は現金で受領されており,領収書等の資料は作成・交付されなかった。 同日以降の原告の業務内容は,本件全店舗の経営者である各店長から,経理事務及び経費支払等の代行を委任され,その事務処理を行うことであったが,その便宜のため,原告は,従前に引き続き,クレジットカード会社からの立替払金が入金される預金口座の通帳と印鑑を預かっており,また,事務処理の一環として,各店舗の経費に関する請求書や領収書等を受領するなどしていた。このように受領した請求書や領収書は,3か月間保管された後,処分されていた。原告が,各経営者に支払う利益も現金で交付しており,これについても領収書等の受け取りはなかった。 (オ) 小括 以上のとおり,本件全店舗の利益の帰属については,十分な資料が残っておらず,基本的に現金が移動する形態であるため,その帰属主体が特定しにくくなっている。しかし,本件全店舗の経営者は,上記のとおり変遷しており,原告が本件各係争年分すべてを通じて本件全店舗の経営者であったことはなく,これを前提とする本件各処分は違法である。 イ 被告の主張に対する反論 (ア) 預金通帳及び印鑑の保管について 被告は,原告に対する質問応答書(乙4)を根拠として,本件6店舗におけるクレジットカード会社からの立替払金が入金される預金口座の開設等に原告が関与し,その通帳と印鑑を原告が管理・保管していると主張する。 しかし,同質問応答書は,後記のとおり,平成15年1月23日に作成されたものであるところ,その内容は,Aから脅迫を受けた原告が,Aをかばうためにした虚偽の供述をとりまとめたものである。 また,平成6年5月に開設された預金口座は,すべてAが開設に関わっており,その通帳と届出印鑑もAが管理していた。Aがこれら通帳と届出印鑑を管理していたころは,A自身によって,Aの住所地である高浜市に所在する銀行の窓口において払戻しがなされているところ,岡崎市に事務所を構える原告が,わざわざ高浜市に所在する銀行の窓口で払戻しを受けることは不自然であるから,このことは,A自身が経営者であることの証左である。 その後,原告は,平成12年8月31日,Aから本件6店舗の営業権を6000万円で購入したが,その際,Aから前記通帳と届出印鑑を受け取り,同年12月31日まで,本件6店舗の経営者としてこれらを管理していた。 平成13年1月1日以降は,原告は,各店舗の経営者から経理事務及び経費支払等の代行を委任されていたため,その事務処理の便宜上,前記通帳と届出印鑑を預かっていたにすぎない。 以上のとおりであるから,原告が,通帳及び届出印鑑を保管していたことを根拠に,原告が本件全店舗の経営者と判断することはできない。 (イ) 現金売上げに係る売上金の管理状況について 被告は,Aの供述を基に,平成12年8月31日以前の本件6店舗の現金売上げに係る売上金の管理についても,原告が経営者となった同年9月1日以降と同様,各店舗の店長によって集計された後,原告に集積される仕組みになっていた旨主張するが,Aは,自己への多額の課税がなされるのを避けるため,虚偽の供述をしている。Aと同趣旨の供述をするK(以下「K」という。)も,Aから連絡を受け,その意に沿うような虚偽の供述をしている。 また,平成13年1月1日以降の現金売上げに係る売上金の流れは,原告が経営者であった時期と基本的に変わっていないが,原告はあくまで経理事務及び経費支払等の代行のために取り扱ったものにすぎず,経費等を支払った残金は,各店舗の経営者である店長に交付されていた。 (ウ) 売上集計表及び営業日報について 被告は,原告が管理するパソコンや,原告の自宅にあったパソコン用の保存媒体から,本件復元データや,プレイガールの平成14年12月分の営業月報(乙4号証の別紙1ないし11)等が発見されたことから,原告が本件全店舗の経営者であるなどと主張する。 しかし,本件復元データは,単なるメモにすぎないし,その入手経路も不明である。仮に,本件復元データが,被告の主張するように,原告が提出したZIPディスク(磁気を用いて記録再生する外見上フロッピーディスクに似た,リムーバブルタイプの記憶装置)から復元されたものであれば,他の復元データ(乙4号証の別紙1から11)と同様,原告が指印するなどの確認作業が行われているはずであるが,本件復元データについては,このような確認作業は一切なかった。 また,プレイガールの営業月報は,調査担当者が,Dの事務所に臨場した際に,Hの机の上にあった同人のパソコンから発見したものであり,原告のパソコンから発見された資料ではない。Hのパソコンについては,プレイガールの経営者であるGが,時々,Hから借りて使用することもあったため,同資料もGが作成したものと思われる。 被告は,本件復元データやプレイガールの営業月報等を根拠に,原告が本件全店舗の経営者であることを基礎づけようとするが,これらの資料は,一部の店舗の,しかもごく短期間の不完全な資料にすぎない。 したがって,これらの資料のみで本件全店舗の経営者が原告であること基礎づけることは到底できない。 (エ) 関係者の供述について 被告は,平成15年1月23日に作成された質問応答書(乙4)の記載に基づいて,本件6店舗におけるクレジットカード会社からの立替払金が入金される預金口座の開設すべてに原告が関与し,その通帳と印鑑を原告が管理・保管していると主張する。 しかし,原告は,平成15年1月中旬,名古屋国税局の本件調査が始まったことを知ったAとその知り合いの暴力団組員により,「絶対に俺たちの名前を出すな。6000万円の話もするな。もし国税に俺たちが調査されるようなことになったらおまえを殺す。」と脅迫された結果,本件調査の際に調査担当者に真実を話すことができず,Aをかばった内容の質問応答書が作成された。したがって,同応答書の記載内容は,このような脅迫に基づく虚偽のものである。 また,Aは,自己への多額の課税を逃れるため,その質問応答書(乙1の1ないし3)において,虚偽の供述をしており,実際,Aが原告に対して提起した出資金返還請求訴訟(名古屋地方裁判所岡崎支部平成14年(ワ)第225号。以下「別件訴訟」という。)では,Aは,本件6店舗について,原告との共同経営者であったと主張しており,上記応答書の内容と明らかに矛盾している。国税不服審判所長の裁決においても,上記応答書は証拠として採用されていない。したがって,Aの供述から,原告を経営者であると判断することはできない。 また,K,L(以下「L」という。)及びCの各質問応答書については,Aから連絡を受けた上記3名が,Aの意に添うように虚偽の陳述をしたものである。 (2) 争点(2)(原告が本件6店舗の経営権を購入する代金として,Aに6000万円を支払ったか)について (原告の主張) 原告は,平成12年8月31日,Aから本件6店舗の経営権を6000万円で購入し,代金を支払った。 このことは,金額があらかじめ印字された領収証(甲17)にAが署名捺印していることからも明らかである(Aは,その作成を否定するが,本人の字体と特徴が一致している。)。なお,領収証のただし書が「退職金として」となっているのは,Aから,経営権の譲渡の対価と記載すると,これまで風俗店である本件6店舗をAが経営してきたという違法行為が警察関係者に発覚しないとも限らないため,これが発覚しないよう退職金名目にしてもらいたいと懇願されたためである。 よって,原告が本件6店舗の経営者であった平成12年9月1日から同年12月31日までの間についても,Aからの営業権の購入代金6000万円を支払った事実を認めず,営業権の償却を必要経費として考慮していない点で,本件各処分は違法である。 (被告の主張) 原告の主張は否認する。 原告は,経営権譲受けの対価として出捐したと主張する6000万円について,毎月100万円を目標として全額現金にて蓄えたとか,代金は鞄に入れて持参したなどと供述するが,それ自体合理的な内容とはいい難い上,審査請求時における説明とも矛盾している。加えて,6000万円で合意した根拠についても,頑張れば何とかなると思ったとか,1年で1200万円,5年で6000万円になると計算したなどと,あいまいな供述をしており,信用できるものではない。 また,原告提出の領収証には,経営権の譲渡対価であることをうかがわせる記載や,譲渡対象に関する記載は一切存在しない。そもそも,原告の主張によれば,本件6店舗の経営者であったAが,従業員である原告から退職金を受領すること自体不自然である。 (3) 争点(3)(推計課税の必要性の有無)について (被告の主張) ア 本件調査の経緯 (ア) 調査担当者は,平成15年1月14日に本件調査に着手したものの,その日から1週間もの間,原告の居所である本件マンション,原告の肩書地,Dの事務所のいずれにおいても応答がなく,原告と接触することができなかった。また,本件調査の着手当日には,本件全店舗が臨時休業し,臨場調査ができなかった。 このように,調査担当者は,原告との接触ができないことから,本件マンションや肩書地の留守番電話へ伝言を入れたり,文書を差し置くなどの方法により,原告から調査担当者に対して連絡するよう依頼するも,これらに対する連絡も全くなく,調査協力が得られない状況が続いた。 そして,調査担当者が,本件調査着手後1週間経過した同月22日,本件マンションを訪問したところ,ようやく原告と面会することができ,当日以降,本件マンションのほか,Dの事務所の調査を実施するに至った。 (イ) ところが,原告は,自分が管理していた本件全店舗の営業に関するデータをすべて消去していた。そこで,調査担当者は,原告の了承を得た上で,本件マンションにおいて,原告が管理するパソコンや,パソコン用の保存媒体などのデータを復元ソフトを使用して復元を試みたが,収支データの一部である本件復元データが確認されるにとどまった。 また,本件全店舗の経費に係る請求書や領収書も原告が主宰するDで管理されていたことが認められたが,これらの書類は,受領後3か月間保管した後に処分されており,また,Dの事務所内で帳簿書類やパソコン及びパソコン用の保存媒体のデータを確認するも,原告の所得を把握できるような帳簿書類やデータを把握するには至らなかった。 なお,原告は,平成15年3月4日,調査担当者に対し,平成12年9月から平成13年12月分の本件全店舗の収支に関するデータ(乙32及び33の各1)を提示したものの,このデータは,平成15年3月1日と同月2日に更新されていることが判明しており,提示直前に内容が改ざんされたおそれがある。 イ 推計の必要性について 以上の経過からも明らかなように,原告は,過去の売上げデータをすべて消去し,また,経費に関する請求書や領収書についても受領後3か月間経過後に処分しているため,本件各係争年分における原告の事業の収益状況を明らかにする資料は存在しない。さらに,調査担当者は,本件マンション及びDの事務所のパソコンに保存されていたデータの復元を試みたものの,これにも限界があった。 このように,本件調査によっても,本件全店舗の日々の売上げが記載された売上集計表や営業日報を入手することができなかったため,原告の所得を実額で計算することは到底不可能であった。 以上から,被告は,原告の本件における所得金額を実額で把握することができなかったため,推計の方法により原告の所得を算定したものであって,推計課税の必要性に欠けるところはない。 (原告の主張) 被告の主張は争う。 原告には,以下のとおり,被告の主張するような本件調査に協力しなかった事実などなく,推計課税の必要性は存在しない。 ア 原告は,本件調査の着手日に本件全店舗を臨時休業したことはなく,また,被告の調査担当者に連絡をしなかったのは,同担当者が差し置いた文書に平成15年1月22日に原告宅に来訪する旨記載されていたためにすぎない。 イ 本件各係争年分における本件全店舗の事業の収益状況を明らかにする資料が存在しないことは認めるが,平成12年8月末までの請求書及び領収書については,経営者であるAがすべて所持していたものであって,原告は関知せず,平成12年9月1日から同年12月31日までのものについては,前述したとおり,原告の体調不良のため管理・保管されておらず,平成13年1月1日以降のものについては,事務代行をしている限りのものである。 また,被告が主張するように,原告は,平成12年9月から平成13年12月分の本件全店舗の収支に関するデータ(乙32及び33の各1)を提示したことがあったが,このようなデータは,もともと存在していたものではなく,調査担当者からデータの不存在は重大な結果を招くと言われて困惑し,急遽作成したものにすぎない。 (4) 争点(4)(推計課税の合理性の有無)について (被告の主張) 本件において,被告が採用した推計の方法は,以下のとおりであり,推計課税の合理性は優に認められる。 ア 基礎データの採用 本件においては,原告の事業所得金額の算出に当たり,原告が営む本件全店舗の事業に係る収入金額及び必要経費の額を実額で把握することが不可能であったため,本件調査により取得した資料のうち,最も確実な数値を示していると認められたBの帳簿書類から把握できる酒類の取引金額を基礎として,原告の事業所得を推計することとした。 すなわち,Bの帳簿書類は,収入のあった時点を基礎とする現金主義で記載されており,また,本件全店舗に対する酒類の現実の取引額は,同社が保管する帳簿書類記載の取引金額を2倍したものであったので,必要な調整を行い,別表18の「本件店舗の酒類の仕入金額表」のとおり整理した(以下,ここに記載された金額を「売上原価」という。)。 イ 類似同業者比率法の採用 推計の方法としては,比率法のほか,効率法,資産増減法及び消費高法などが考えられるところ,本件においては,上記効率法,資産増減法及び消費高法による推計の基礎となるべき数値の把握が困難であったが,上記のとおり,原告の売上原価の額が実額で把握されたため,比率法のうちの類似同業者比率法を採用した。 すなわち,上記の売上原価を基礎としつつ,原告が営む事業と同一の事業を営んでいると認められ,かつ業態,事業規模,立地条件等において,原告と類似する同業者を抽出して,平均売上原価率及び平均所得率を算出した上,本件各係争年分の事業所得の額を算出することとしたが,このように,類似同業者の平均売上原価率及び平均所得率を用いて収入金額及び所得金額を推計する方法は,経験則上,同業者であれば,収入金額に対する売上原価の額,必要経費の額,所得の額の比率が同様であると考えられ得ることから,合理的であり,また,信頼性も高いものである。 ウ 類似同業者の選定基準 類似同業者については,以下のとおり,原告の業種,業態,事業規模,立地条件を基礎として,別紙19記載の「風俗営業の類似同業者の選定基準」(以下「本件選定基準」という。)により選定した。 (ア) 業種,業態の類似性について 原告が複数の店舗を経営しており,個人事業者の中では大規模であることを考慮し,本件選定基準においては,飲食業(風俗営業)を営む個人事業者のほか,法人事業者をも含めることとした。また,業種,業態の類似性については,これら個人・法人事業者のうち,原告と同様,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項2号に規定する風俗営業で,名称の如何にかかわらず,個室を設けずに酒を提供しながら客を接待して,客に時間制で単価を決めて遊興又は飲食させる事業を営む事業者と設定した。 これは,本件全店舗が,個室を設けずに酒の提供をしながら客を接待し,客に時間制で単価を決めて遊興又は飲食させる形態であることを考慮した結果である。 (イ) 立地条件の類似性について 原告との立地条件の類似性を担保するため,同業者抽出対象地域を同一経済圏を形成すると思われる名古屋国税局管内とし,ここにおいて事業を営む事業者とした。 (ウ) 事業規模の類似性について 原告との事業規模の類似性については,事業所が2店舗以上あって,平成9年から平成13年の間を通じて事業を継続して営んでいる事業者とし,かつ抽出対象者の売上原価が,原告の各年分の売上原価の倍額以下で,かつ半額以上である者(いわゆる「倍半基準」)を抽出することとした。 (エ) 比較資料の正確性について 本件選定基準において,比較資料としての正確性を担保するため,原告の類似同業者としてそれぞれ抽出された事業者は,いずれも青色申告をしている事業者で,年間を通じて事業を継続して営んでいる者に限定した。 エ 通達回答方式による同業者比率 以上を踏まえて,名古屋国税局長は,同国税局管内(愛知県,静岡県,三重県及び岐阜県下の48税務署)の各税務署長に対し,通達(「『平成9年分ないし平成13年分の飲食業(風俗営業)の同業者調査報告書』の提出について(指示)」。以下「本件通達」という。)を発遣し,本件選定基準に該当すると認められる類似同業者を機械的に抽出し,その売上原価及び必要経費の額につき回答するよう指示した。したがって,類似同業者の抽出過程において恣意性は全くない。 その上で,各税務署長からの回答に基づいて,類似同業者に係る平均売上原価率及び平均所得率を別表20「同業者比率表」のとおり整理したところ,いずれの年分においても類似同業者として2,3件が抽出されており,売上原価から推知される原告の事業規模が非常に大きいという事情を考慮すれば,十分に合理性を担保し得る件数であるとともに,類似同業者の個別性を平均化するに足りるものである。 オ 原告の事業所得金額の推計 被告は,把握した本件各係争年分ごとの原告の売上原価(別表3④欄)を別表20の平均売上原価率で除して収入金額(別表3②欄)を算出し,これに別表20の平均所得率を乗じて事業所得金額(別表3①ないし⑥欄)を算出した。 同様に,被告は,把握した本件各課税期間ごとの原告の売上原価を平均売上原価率で除して課税売上高(別表4①欄)を算出した。 (原告の主張) 被告の主張は争う。 被告による推計課税は,全体として合理性に欠けるというべきである。 ア 本件選定基準の不合理性(カラオケパブとピンクサロンの業態の相違の無視) (ア) 被告が推計課税を行うに当たって設定した本件選定基準,すなわち「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号に規定する風俗営業で,名称の如何にかかわらず個室を設けずに酒の提供をしながら客を接待して,客に時間制で単価を決めて遊興又は飲食させる事業を営む事業者」という基準は,その業態の限定の仕方が非常に広くかつあいまいなことから不十分であり,酒類を基礎とする売上原価率及び所得率において本件全店舗の実態と大きく乖離している。したがって,被告による推計課税には合理性がない。 (イ) すなわち,もとピンクサロンであったパラダイスは,平成10年6月からミニスカポリスに店名を変更した上,その業態を飲み放題のカラオケパブに変更し,それ以後,酒類仕入金額が極端に増えている(なお,同店は,平成13年11月ころ,店名をミニスカポリスからタイムボカンに変更しているが,業態に変更はない。)。また,同様に飲み放題のカラオケパブとして平成10年11月頃から営業を開始した知立市のミニスカポリスも,酒類の仕入金額がタイムボカンと同様の金額になっている。 このように,本件全店舗には,業態ひいては酒類を基礎とする売上原価率及び所得率,さらにはホステスの給与体系が全く異なるカラオケパブ2店舗とピンクサロン5店舗とが混在している。 (ウ) 具体的には,①カラオケパブでは,飲み放題であるために酒等の飲食の提供が中心となっており,酒類の仕入金額がピンクサロンと比べて非常に多く,売上原価率が大きい。これに対し,ピンクサロンではホステスによる接待が中心となるため,酒類の追加注文をする客は少なく,したがって酒類の仕入金額は少なく,売上原価率は小さい。また,②カラオケパブ及びピンクサロンとも時間制で単価を決めているが,提供するサービスの内容の違いに応じて,ピンクサロンではカラオケパブと比べて単位時間当たりの単価が非常に高額になっている。さらには,③カラオケパブでは,ホステスの給与は固定給で支払われるが,ピンクサロンでは,完全歩合制が採用されており,ホステスの給与体系が全く異なる。そのため,ホステスの報酬が固定給で支払われるカラオケパブの方が,経費率が大きい。 したがって,カラオケパブとピンクサロンでは,酒類の仕入代金が同じ場合,ピンクサロンの方が当然に利益が大きく,カラオケパブでは非常に小さくなる。特に,カラオケパブの酒類の仕入代金に基づき,ピンクサロンと同程度の利益率を適用して,所得を推計された場合には,その不合理は著しい。 (エ) 以上のとおり,本件においては,業種・業態の類似性を判断する上で,ピンクサロンとカラオケパブという業態を明確に区別することが必要不可欠であり,それぞれの業態についてサンプルを収集し,ピンクサロンの店舗群とカラオケパブの店舗群との売上原価を区別して考察しなければ,本件全店舗の正確な推計は到底不可能である。 しかるに,被告による推計の方法は,タイムボカンが平成10年6月よりピンクサロンからカラオケパブに業態変更して以降,酒類を基礎とする売上原価率が極端に高くなり,かつ所得率が低くなっていること,及びミニスカポリスが平成10年11月からカラオケパブとして営業し,タイムボカン同様,酒類を基礎とする売上原価率が極端に高くなり,かつ所得率が低くなっていることを看過して,平成10年分から平成13年分の売上原価に,他のピンクサロンのものと区別することなく,そのまま算入している点で不合理である。 イ プレイボーイにおける酒類仕入額の不正確性 プレイボーイは,ピンクサロンであるが,別表18において,同店の平成9年1月から同年9月までの酒類仕入金額をみると,他の時期の酒類の仕入金額と著しく異なっており,他の同一店舗では酒類の仕入金額の変動がそれほどないのが通常であることと比較すると不自然である。また,同じピンクサロンであるダイナマイト,タイムボカン(当時はパラダイス),ホワイトハウス,夢の国の同時期の仕入金額と比較しても著しく相違している。 B自体も税務調査を受け,課税処分を受けていることに照らすと,Bにおいては,上記時期のプレイボーイの酒類納品額を正確に帳簿に記載しなかった可能性が高く,プレイボーイの上記期間の酒類仕入金額は正確性に欠けるというべきである。 しかし,被告は,プレイボーイの上記期間における酒類仕入金額の適否を何ら検討することなく,別表3の平成9年分の売上原価に計上して,事業所得や課税売上高を推計しており,かかる方法は合理性に欠けるというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件全店舗の事業に係る所得の帰属先)について (1) 事業所得の帰属者の判断基準について 所得税の課税物件は,個人の所得,すなわち個人が収入等の形で新たに取得する経済的価値であり,その帰属する者が納税義務者となるところ,所得税法は,所得の性質や発生の態様などから生ずる担税力の相違にかんがみ,租税の公平負担の観点から,所得を10種類に分類し(所得税法23条以下),それぞれの所得の性質に応じて,所得金額の計算方法,総合課税・分離課税の別,損益通算の可否,累進税率の緩和などにつき,相応の配慮をしている。このように分類された所得のうち,事業所得については,個人が自己の計算と危険の下,継続的に行う営利活動から生じた一切の収入の合計額を総収入金額とし,ここから事業を遂行するのに要した必要経費を差し引くことによって,その金額を算出することとしている(所得税法27条)。 したがって,事業所得の帰属者は,自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ,ある者がこのような事業者に当たるか否かについては,当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより,当該事業への出資の状況,収支の管理状況,従業員に対する指揮監督状況などを総合し,経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきである。 ところで,本件においては,平成9年以降の本件全店舗から生ずる所得の帰属者が継続して原告であるか否かが争点となっているところ,本件全店舗において行われている風俗営業が事業所得を生ずる事業に当たることは明らかであるので,それらの経営主体が事業所得の帰属者である事業者に当たることになる。 そこで,以下,原告が本件全店舗の経営主体たる実体を有するか否かについて検討する。 (2) 本件調査の結果について 前記前提事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア 各店舗を巡る法律関係等について(甲43,乙1の1ないし3,2,3の1ないし10,4,5,7ないし11,13) (ア) ダイナマイト a 風俗営業の許可等 Aは,昭和62年ころ,その名義で風俗営業の許可を得,岡崎市a町b-c所在の建物において,ビバアメリカの名称のピンクサロンを開業したが,ほどなくして,売春防止法違反容疑で逮捕,起訴され,有罪判決を受けたため,同店は休業に追い込まれた。 しかし,昭和63年秋ころ,新たに,店舗の賃貸人であるL名義で風俗営業許可が取得され,同年11月ころには,フレンドの名称で

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