H17.12.28 東京地方裁判所 平成17年特(わ)第3838号 関税法違反

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輸入豚肉に関するいわゆる差額関税をほ脱した食肉輸入会社に対し求刑の10倍の罰金刑が科されたほか,同会社の代表者らに対し懲役刑の実刑が科された事例 平成17年12月28日宣告  平成17年特(わ)第3838号            判       決 本店の所在地 兵庫県P市(以下省略)                      株式会社A                      (代表者代表取締役B) 本籍 兵庫県P市(以下省略) 住居 静岡県Q市(以下省略)                 会社役員                      B 本籍 埼玉県R市(以下省略) 住居 東京都S区(以下省略)                 無職                      C  上記の者らに対する各関税法違反被告事件について,当裁判所は,検察官伊藤文規並びに弁護人松江康司(被告人株式会社A及び被告人B関係)及び同石川雅巳(被告人C関係)各出席の上審理し,次のとおり判決する。            主       文 被告人株式会社Aを罰金5000万円に,被告人B及び被告人Cをいずれも懲役10月及び罰金1000万円に処する。 被告人B及び被告人Cにおいてその罰金を完納することができないときは,いずれも金10万円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。            理       由 【罪となるべき事実】  被告人株式会社A(以下「被告会社」という)は,兵庫県P市(以下省略)に本店を置き,食肉及び畜産物の輸入等の事業を営む株式会社,被告人Bは,被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたもの,被告人Cは個人事業者として食肉の輸入等を業としていたものであるが,被告人B及び被告人Cは,共謀の上,被告会社の業務について,被告会社がアイルランド等から外国産冷凍豚部分肉を輸入するに当たり,不正に関税(差額関税)を免れようと企て,別表(省略)記載のとおり,平成14年4月1日から平成15年10月14日までの間,前後161回にわたり,東京都大田区(以下省略)東京税関大井出張所ほか3か所において,同出張所長らに対し,情を知らない通関業者の従業員を介し,被告会社が輸入する同豚部分肉の1キログラム当たりの単価を分岐点価格近くまで水増しした価格を記載した仕入書を提出して,関税額を過少に偽った内容虚偽の輸入申告を行い,その都度,輸入許可を受けた上,当該貨物を保税地域から引き取り,もって,不正の行為により,関税合計9億4087万9300円を免れたものである。 【証拠の標目】省略 【予備的訴因を認定した理由】 1 検察官は,被告会社と被告人Cとの関係について,主位的訴因においては被告人Cを被告会社の「従業者」(平成16年法律第15号による改正前の関税法117条1項)として位置付ける一方,予備的訴因においては被告人Cは被告会社の「従業者」ではなく,独立の事業者であって,身分なき共犯として本件犯行に加功したものと位置付ける。他方,被告会社及び被告人Bの弁護人は,予備的訴因に沿う主張をし,被告人Cの弁護人は,被告会社と被告人Cの関係については,裁判所の評価に任せる旨述べる。そこで,当裁判所が判示のとおり予備的訴因を採用した理由を説明する。 2 関係証拠によれば,以下の各事実を認めることができる。  (1) 被告人Cは,長年にわたって食肉輸入業界に身を置き,かねてから外国産豚肉を不正に輸入し国内の食肉加工業者らに販売して利益を得ることを繰り返していたところ,被告会社の代表者である被告人Bと誘い合わせて,被告会社を輸入会社とする本件各犯行を開始した。  (2) 本件においては,被告人Cが,海外の食肉生産者,国内の食肉加工業者らとの交渉及び取引条件の設定などを担当し,被告人Bが,ダミー会社の名義を利用した通関手続の実施及び複数のダミー会社を介在させての輸入豚肉の名義変更などを担当していたもので,被告人Cと被告人Bとの間でその役割が明確に分けられていた。  (3) そして,被告人Cは,上記の役割を果たすに当たり,被告会社の代表者である被告人Bの指示,監督を受けることなく,独自の判断で行動していた。国内の食肉加工業者らとの交渉に際しても,被告会社の従業者であることを示す肩書きを用いた様子はなく,交渉の相手方も被告人Cを個人のブローカーであると認識していた。  (4) 被告人Bと被告人Cの間では,被告会社が輸入豚肉を転売して得た差益の一部を被告会社の利益とした上,その余の7割を被告人Cが,3割を被告人Bが取得する旨の取り決めがなされていた。実際にも,本件各犯行により,被告会社及び被告人Bは合計2600万円余り,被告人Cは1400万円余りの利益を取得した。 3 前記2の各事実に照らせば,被告人Cは,被告会社からは独立した事業者として本件各犯行に関与したものと評価すべきであって,被告会社の「従業者」には該当しないと認められる。   なるほど,被告人Cと被告会社との間には,被告人Cを被告会社の顧問とし,月額50万円の顧問料を支払う旨の平成13年1月1日付け顧問契約書が存在する。しかしながら,上記顧問契約書は,前記2(2)のような被告人Cと被告人Bの役割分担が確立されてからしばらく後に税務調査を意識して作成されたものであるとうかがわれる上,そこに記載された顧問料は被告人Cが本件各犯行の分け前として取得した金額に比べて些少であることなどからすれば,多分に形式的なもので,実質を伴っていないものといわざるを得ない。そうすると,この顧問契約書の存在をもって,被告人Cが,被告会社の「従業者」であるということはできない。 【法令の適用】 (被告会社) 罰条   別表番号1ないし161の各行為ごとにいずれも平成16年法律第15号による改正前の関税法117条1項,刑法60条,平成17年法律第22号による改正前の関税法110条1項1号 併合罪の処理   刑法45条前段,48条2項 (被告人B) 罰条   別表番号1ないし161の各行為ごとにいずれも平成16年法律第15号による改正前の関税法117条1項,刑法60条,平成17年法律第22号による改正前の関税法110条1項1号 刑種の選択   懲役刑及び罰金刑を選択 併合罪の処理   刑法45条前段          (懲役刑について)刑法47条本文,10条(犯情の最も重い別表番号32の罪の刑に法定の加重)          (罰金刑について)刑法48条2項 労役場留置   刑法18条 (被告人C) 罰条   別表番号1ないし161の各行為ごとにいずれも平成16年法律第15号による改正前の関税法117条1項,刑法65条1項,60条,平成17年法律第22号による改正前の関税法110条1項1号 刑種の選択   懲役刑及び罰金刑を選択 併合罪の処理   刑法45条前段          (懲役刑について)刑法47条本文,10条(犯情の最も重い別表番号32の罪の刑に法定の加重)          (罰金刑について)刑法48条2項 労役場留置   刑法18条 【量刑の事情】 1 本件は,食肉の輸入等の事業を営む被告会社の代表者であった被告人B及び個人事業者であった被告人Cが,共謀の上,被告会社の業務について,不正の行為により輸入豚肉に関するいわゆる差額関税をほ脱した事案である。 2 本件の全体的な犯情として,次の各事情が認められる。  (1) 本件各犯行は,約1年半の間に前後161回にわたって繰り返され,ほ脱税額の合計は実に9億4000万円を超えている。国家の租税債権を著しく侵害した点において犯行の結果は極めて重大であり,まずはこの点が特筆されるべきである。  (2) 次に,犯行の態様をみると,本件各犯行は,上記のとおり常習的に反復継続された営業的犯行といえるほか,被告人B及び被告人Cは,台湾の業者に偽造してもらったインボイスを利用して輸入価格を偽った上,ダミー会社の名義を利用して通関手続を行い,さらに,複数のダミー会社を介在させて輸入豚肉の名義変更を重ねていたのであって,巧妙に隠蔽された計画的な犯行ともいえる。  (3) 被告人B及び被告人Cは,海外の食肉生産者から買い受けた豚肉を,過少申告分の関税(通算すると,納付すべき額の約10分の1)を納付しただけで通関した上,それらを分離前の相被告人であった国内の大手食肉加工品製造会社らのエンドユーザーに販売して多額の利益を上げており,本件各犯行は,このような転売利益を獲得するために行われたもので,その利欲的動機に酌量の余地はない。 (4) 前記(1)のとおり,犯行の結果が重大であるにもかかわらず,税関が被告会社やダミー会社名義の預金7500万円余りを差し押さえたほかは,被告会社らにおいて,ほ脱した関税につき事後の納付を何ら行っておらず,今後それがなされる見込みも乏しい。  (5) 以上によれば,本件の犯情は甚だ芳しくない。    もっとも,前記エンドユーザーの会社らは,本件ほ脱に係る輸入豚肉を買い受けることを予め約束し,安定した転売先の役割を引き受けることにより,本件各犯行を助長し,維持していたということができる。また,同会社らが取得した利益も多大であったと認められる。これらは,本件の犯情を評価する上で軽視できない事情であるが,元々被告人Cが同会社らの担当者と接触して転売先になることを承知させた上で,本件の一連の犯行が開始されたことにかんがみると,それほど多くを酌むことはできない。 3 次に,被告人らの個別の情状を検討する。  (1) 被告会社及び被告人B   ア 被告会社は,納税義務者として,本件各犯行について重い責任を負うべき立場にあるのはいうまでもない。   イ 被告人Bは,被告会社の代表者として,ダミー会社の名義を利用し,偽造インボイスを使って虚偽の輸入申告を行うなどして,外国産豚肉の通関手続を実施し,さらに,複数のダミー会社を介在させて輸入豚肉の名義変更を重ねることも行っている。なるほど,本件の全体的なスキームを考案したのは被告人Cであるが,被告人Bは,これに呼応して,被告会社や自己の利益のために,積極的に本件の実行行為を担当したのであって,本件各犯行において中心的な役割を果たしたと評価することができる。   ウ 被告会社及び被告人Bは,本件各犯行により,合計で2600万円余りの利益を直接的に取得している。そして,被告会社が被告人Bのワンマン経営に係る会社であることに照らすと,同利益の相当部分は実質的に被告人Bが取得したものと目することができる。   エ 以上によれば,被告会社及び被告人Bの各刑事責任は重いが,他方,前記のとおり被告会社やダミー会社の預金が差し押さえられたこと,被告人Bは,事実について「認めざるを得ないでしょうね」と述べ,反省の態度を一応示していること,その妻が公判廷において今後の監督を誓約していること,被告会社に前科はなく,被告人Bには交通罰金以外の前科はないことなど,被告会社又は被告人Bのために酌むべき事情も認められる。  (2) 被告人C   ア 被告人Cは,本件の全体的なスキームを考案した上,被告会社からは独立した事業者として,海外の食肉生産者及び国内の食肉加工業者の双方と交渉し,輸入豚肉の部位,数量,買付価格及び転売価格などの条件を詰めて取引を成立させていたもので,この成立した取引の内容に沿って本件各犯行は敢行されている。そうすると,被告人Cは,実行行為を直接担当していないとはいえ,本件各犯行において被告人Bに優るとも劣らない重要な役割を果たしたと評価することができる。   イ 被告人Cは,本件各犯行により1400万円余りの利益を直接的に取得している。   ウ 被告人Cは,昭和49年に豚肉の輸入に伴う関税法違反の罪により,懲役1年・2年間執行猶予となった前科があり,かなり古いものではあるが,同種前科として看過することができない。   エ 以上によれば被告人Cの刑事責任は重いが,他方,前記のとおり被告会社らの預金が差し押さえられたことのほか,被告人Cは事実を認め,それなりに反省の態度を示していること,健康状態が優れないこと,その妻が公判廷において今後の監督を誓約していることなど,被告人Cのために酌むべき事情も認められる。 4 ところで,弁護人らは,現行の差額関税制度は不合理であり,被告人らには同情の余地があると主張する。   たしかに,差額関税制度については,豚肉の輸入価格をより低くすればするほど基準輸入価格との差が開き,より多額の関税が課されるという点で,輸入業者の経営努力が報われないなどの批判があるほか,現実に流通している外国産豚肉のほとんどが差額関税を免れているものであるため,国内市場価格が基準輸入価格を下回って形成されているとの指摘がされていることは,関係証拠からもうかがわれるところである。しかしながら,差額関税制度は,国内養豚業者の保護育成に加えて,豚肉の供給及び価格の安定化を図るという目的の下に設けられているのであって,上記のような批判や指摘を踏まえて,この制度を維持するのか又は改変するのかは,立法府ひいては広く国民一般の判断に委ねられるべきものである。   そして,かかる制度が設けられている以上は,一部の者がこれを遵守していないからといって,他の者が遵守しなくてよいといえないのはもちろんである。加えて,被告人B及び被告人Cは,被告会社の業務について経営努力をしていた者というよりは,むしろ差額関税制度に巣くって不正な利益を貪っていた者といえるのであるから,そのような被告人らには,差額関税制度の是非を論ずる資格などないというべきである。 5 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,特に本件各犯行によるほ脱税額の大きさにかんがみると,検察官の被告会社に対する求刑は余りにも低きに失するというべきであって,被告会社には主文の罰金刑を科するのが相当であり,また,被告人B及び被告人Cの各刑事責任の重さに照らすと,両名とも主文のとおり各懲役刑の実刑は免れず,さらに,主文の各罰金刑を併科するのが相当であると判断した。 (求刑-被告会社に対して罰金500万円,被告人Bに対して懲役1年及び罰金1500万円,被告人Cに対して懲役1年及び罰金1000万円)  平成17年12月28日      東京地方裁判所刑事第8部         裁判長裁判官   飯  田  喜  信             裁判官   大  川  隆  男            裁判官   溝  口     優

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