H17.11.30 広島高等裁判所 平成17年(う)第134号 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

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H17.11.30 広島高等裁判所 平成17年(う)第134号 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件」(2006/02/08 (水) 14:07:26) の最新版変更点

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殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について,被告人は妄想性人格障害に羅漢していたこと,本件犯行後,警察官に本件犯行を自供し,凶器の発見に協力したこと,71歳の高齢であり,前科がないことなど,被告人のため斟酌すべき諸事情に徴すると原判決の量刑は重すぎて不当として,原判決を破棄した上で,懲役10年を言い渡した事案             主         文       原判決を破棄する。       被告人を懲役10年に処する。       原審における未決勾留日数中600日を上記刑に算入する。       岡山地方検察庁で保管中の刺身包丁1丁(平成15年領第1106号の1)を没収する。             理         由 1 本件控訴の趣意は,弁護人稲田陽一作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。   そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討し,次のとおり判断する。 2 論旨は,要するに,事実誤認及び法令適用の誤りを主張するものであり,原判決は,被告人が刺身包丁で被害者を刺した後,その場を離れたと認定し,自首の事実を認定していないが,被告人は,警察官に出会って本件犯行を申告して凶器の所在を教えたのであるから,原判決は,自首に関する事実を誤認し,かつ刑法42条の解釈適用を誤っており,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある,というのである。 しかしながら,原判決に上記事実誤認及び法令適用の誤りは存しない。すなわち,緊急逮捕手続書及び捜査報告書(原審検察官請求番号1,2)等の関係証拠によると,被害者の妻は,平成15年7月19日午前9時16分ころ,110番通報して,夫がA(被告人の氏)という男に殴られ意識不明である旨申告したこと(なお,被害者は,同日午前10時15分ころ死亡した。),警ら用無線自動車で警ら中の警察官は,同日午前9時42分ころ,殺人未遂事件の犯人であるAという男が逃走中であるとの無線指令を傍受して現場へ急行し,同日午前10時ころ,手配に酷似した被告人を発見して職務質問しようとした際,被告人が自ら「わしがやった」「わしがAじゃ」などと本件犯行を自供したことなどが認められ,これらの事実に徴すると,被告人が警察官に本件犯行を申告したときには,被告人が本件犯行の犯人であることが既に捜査機関に発覚しているのであるから,自首の成立を認定せず,刑法42条を適用しなかった原判決に事実誤認及び法令適用の誤りは存しない。 論旨は理由がない。 3 次に,職権で量刑について判断する。 本件は,被告人が,平成15年7月19日午前9時15分ころ,岡山県玉野市内の当時64歳の男性被害者方北側において,殺意を持って,同人の胸部を刃体の長さ約22センチメートルの刺身包丁で突き刺し,胸部刺創,大動脈切損の傷害を負わせ,そのころ同所において同人を失血により死亡させて殺害したという,殺人及び上記包丁の不法携帯の事案であるが,被告人は,高さ1メートル余のブロック塀を隔てて相対していた無防備の被害者に対し,隠し持った刺身包丁で,いきなりその胸部を突き刺し,大動脈切損を伴う深さ約19センチメートルに及ぶ胸部刺創を負わせたものであり,その態様は冷酷非情で,残虐であったこと,また,被告人は,平成13年11月ころから被害念慮に起因して被害者に不当な不信感を抱き,被害者から度重なる嫌がらせを受けたとして逆恨みした挙げ句,近隣から孤立した被告人を日頃から気に掛けてくれていた隣家の被害者を一方的に殺害したもので,その動機には全く酌量の余地がないこと,更に,被害者は,何ら落ち度がないだけでなく,被告人を慮る心情を蔑ろにされた末,唐突に生命を奪われたもので,その無念さは察するに余りあり,被害者と長年連れ添ったその妻が受けた衝撃は甚大で,その悲嘆の程度は筆舌に尽くし難く,遺族である妻子の処罰感情は極めて厳しいことなどを考慮すると,被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。 しかしながら,被告人は,本件犯行時,責任能力の著しい低下はなく是非善悪を区別し,これに従って行動することが一応できていたものの,妄想性人格障害に罹患していたため,被害者の友好的な行動を敵意のあるものと歪曲して恨みを抱き続けたと考えられ,この人格の偏りに関する限り,生育歴や環境要因に起因するもので,被告人に帰責事由があるとはいい難いこと,上記のとおり,被告人には自首が成立しないとはいえ,被告人は,本件犯行後すぐ交番に向かうなど,警察官に本件犯行を申告しようとする行動に出ており,現に警察官に出会った際に自ら進んで本件犯行を自供し,凶器の発見にも協力したこと,被告人は,現在71歳と高齢であり,これまで前科がないことなど,被告人のため斟酌すべき諸事情に徴すると,本件が理不尽な動機に基づく冷酷非情な犯行で,その結果が重大かつ悲惨であることを考慮してもなお,被告人を懲役13年(求刑懲役15年)に処した原判決の量刑は,組織的でなく利欲的な目的もない同種事犯の量刑と比較して重過ぎて不当というべきである。 4 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。 原判決が認定した罪となるべき事実に原判決が掲げる法令(刑種の選択,併合罪の処理を含む。)を適用し,上記諸事情を勘案して被告人を懲役10年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中600日を上記刑に算入し,岡山地方検察庁で保管中の刺身包丁1丁(平成15年領第1106号の1)は,原判示第1の殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,原審及び当審における訴訟費用については,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。   平成17年11月30日    広島高等裁判所岡山支部第1部             裁判長裁判官   安   原       浩                裁判官   河   田   充   規                裁判官   吉   井   広   幸

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