H17.12.22 名古屋地方裁判所 平成16年(ワ)第567号 損害賠償請求事件

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 大腸癌が肝臓に転移した患者について,被告Y1の開設する病院(被告病院)に勤務する医師の被告Y2が,肝臓を切除する手術を施行した際,不法なリンパ節郭清を行い,また,術前に必要とされる説明がなかったとして,患者の遺族が,Yらに対し,損害賠償を求めた事案において,Y2が行ったリンパ節郭清は医師の合理的な裁量の範囲内として許されるものであり,説明義務違反も認められないとして,請求が棄却された事例。 平成16年(ワ)第567号損害賠償請求事件      判    決      主    文 1原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告らの負担とする。      事実及び理由 第1請求 被告らは各自, (1)原告Aに対し,4148万5000円及びこれに対する平成11年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を, (2)原告B及び原告Cに対し,各々2074万2500円及びこれに対する平成11年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を それぞれ支払え。 第2事案の概要 本件は,Dが被告愛知県の開設する愛知県がんセンター(平成17年4月1日以降,「愛知県がんセンター中央病院」と改称されている。以下「被告病院」という。)において,被告E医師(以下「被告E」という。)により,不法なリンパ節郭清手術を説明なく受けた結果死亡したと主張して,Dの相続人である原告らが,被告愛知県に対し,主位的に不法行為に基づき,予備的に債務不履行に基づき,被告Eに対し,不法行為に基づき,損害賠償及びこれに対する上記手術を受けた日である平成11年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 以下,原則として,平成11年については,月日のみで表記する。 1前提となる事実 以下の事実は,当事者間に争いがないか,当該箇所に掲記の証拠(特に記載のない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により認めることができる。 (1)当事者 ア原告AはDの妻であり,原告B及び原告CはDの子である。 イ被告Eは,平成11年当時,被告愛知県に雇用されて,被告病院消化器外科医として勤務していた。 (2)診療に係る事実経過 アDは,平成10年1月21日,木沢記念病院にて大腸癌と診断され,同病院で直腸低位前方切除術を受けた。術後の経過は順調で,Dは,同年2月21日,退院した。 イ3月26日,木沢記念病院でDに対し,CT検査が実施された。その結果,肝臓に1.5㎝大の腫瘤が認められ,大腸癌肝転移が疑われた。 ウそこでDは,4月5日,被告病院を受診し,以後,被告EがDの診療に当たることとなった(乙A1号証14頁)。 エDは,4月19日,検査目的で,被告病院に入院した。その際,CT検査で,肝臓S8領域に約2㎝大の空間占拠性病変が確認されたが,肝転移の確診には至らなかったため,Dは5月1日に退院した(乙A1号証16及び17頁)。 オDは,7月1日,被告病院で,CT検査を受け,その結果,上記空間占拠性病変が2.5㎝に拡大しており,肝転移と診断されるに至った(乙A1号証17頁)。 カDは,7月19日,手術目的で,被告病院に入院した(乙A1号証18頁)。 キ7月26日,午前10時10分から,執刀医被告E,助手F医師及びG医師により,Dの手術が行われた(以下「本件手術」という。)。この際,被告Eは,上膵頭後部リンパ節から門脈周辺リンパ節,総肝動脈周囲リンパ節から固有肝動脈リンパ節及び肝門部リンパ節を郭清した。引き続き系統的肝切除である肝中央2区域切除を行った。手術は同日午後3時40分ころ終了した(乙A1号証85ないし88頁)。 ク手術終了後に,郭清した脂肪内にあるリンパ節を個々に取り出したところ,リンパ節には肉眼的に転移は認められず,その後の病理検査においても転移は認められなかった(乙A1号証86及び119頁)。 ケ同日午後10時過ぎから血圧が下がり,頻脈となった。冷感を訴え,呼吸困難が認められた(乙A1号証19頁)。 コ同日午後11時ころ,頻脈・腹部軽度膨満があった。呼吸不良であったため,気管内挿管がされ,人工呼吸器が装着された(乙A1号証19頁)。 サ7月27日午前1時35分から被告EによるDの開腹止血術が行われた。この際,後上膵十二指腸動脈(PSPD)分枝から出血していたので(以下「本件出血」という。),これを結紮止血した。総胆管や右門脈尾状葉枝などから出血があり,これを止血し,閉腹した(乙A1号証90及び91頁)。 シ同日昼ころより翌28日にかけて,毎時100ミリリットルの出血が持続していたことから,7月28日午後4時40分再開腹手術が開始された。このときは,総胆管周囲の静脈・肝外側区域の小網付着部・脾臓背面に出血が認められたので,それぞれ止血した(乙A1号証93及び94頁)。 ス8月22日午後11時45分,Dは,敗血症性ショックに伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)により死亡した。 2争点 (1)本件リンパ節郭清の不法性 アリンパ節郭清が許される条件 イ本件リンパ節郭清の経緯 ウ因果関係 (2)説明義務違反 ア説明義務の内容 イ行われた説明の内容 ウ因果関係 (3)損害 (4)消滅時効 3争点に対する当事者の主張 (1)リンパ節郭清が許される条件(争点(1)アについて) (原告らの主張) ア大腸癌肝転移において,術前にリンパ節転移が判明した場合には,そもそも肝切除の適応外とすべきであるから,リンパ節郭清も許されない,というのが標準術式である。 イ術前にリンパ節転移が認められない場合の予防的リンパ節郭清については,予後に対する寄与は認められないから,無用である。 ここで,リンパ節郭清の実施は,肝臓から離隔して位置する肝門部にまで侵襲範囲を拡張することになるから,大量出血・血管損傷等の危険性を格段に高めるものである。 さらに,リンパ節郭清は,血管損傷等の合併症を回避するために,高度の技術と細心の注意を要する手術手技であって,決して100パーセント安全な手術手技ではない。 したがって,予防的リンパ節郭清も許されない,というのが標準術式である。 ウ例外的に,リンパ節郭清が許されるのは,術前にはリンパ節転移が見られず,開腹したところ,リンパ節が腫大していた場合のみである。この場合は,将来の閉塞性黄疸を予防する観点からリンパ節郭清が許される。 ただし,この場合に,郭清が許されるリンパ節は,腫大していたリンパ節のみであり,それ以外のリンパ節まで郭清することは許されない。 (被告らの主張) アリンパ節郭清は,リンパ節に癌が転移しているかをチェックするとともに,微細な癌細胞を可及的に切除してリンパ節転移による癌の再発を防ぐ,という治療的意義を有する。 イ消化器癌において臓器所属のリンパ節郭清を行うことは安全な手術手技として確立しており,大腸癌肝転移に対して実施される場合であっても,その安全性に変わりはない。 ウ大腸癌肝転移手術においてリンパ節郭清を実施するかという点について,標準術式というものはいまだ確立されていない。したがって,リンパ節郭清を実施するかの選択は医師の裁量にゆだねられている。 エ被告病院では20年来系統的肝切除とリンパ節郭清を術式として採用し,これらの実施によって治療成績が向上した実績がある。また,リンパ節郭清の治療的意義を認める報告も多い。 オ系統的肝切除を選択した時点で,肝切除前に血管処理をする必要が生じる。そして,血管処理のために必然的に一定範囲のリンパ節郭清が行われることになる。 上記の血管処理に伴うリンパ節郭清以外に,どこまでの範囲につきリンパ節郭清を実施するか,については,リンパ節腫大の有無・場所・個数などを考慮して決定する。 (2)本件リンパ節郭清の経緯(争点(1)イについて) (原告らの主張) ア被告Eは,大腸癌肝転移の患者について,肝転移巣をSN型(辺縁平滑で内部構造は比較的均一の形態の単純結節型)とCN型(辺縁不整で内部構造は多結節で融合したような形態の融合結節型)に分類し,SN型で肝転移巣が3㎝未満の場合には肝部分切除を行い,それ以外の場合では系統的肝切除及びリンパ節郭清を行うという術式を採っていた。 すなわちこの術式は,リンパ節腫大の有無に関わらず,術前あるいは開腹後に肝転移の状態のみを判断してリンパ節郭清の実施を決定するものであり,標準術式に反している。被告Eの上記術式は,治療目的の範囲を逸脱した治験行為にすぎない。さらに,上記術式を支持する客観的エビデンス(根拠資料・データ等)も存在しない。 なお,系統的肝切除の術式をとる場合に,必ずリンパ節郭清が伴うという関係にはないから,両者の治療効果は区別して論じられるべきである。 イ本件においても,上記の方針に従い,腫大の有無に関係なくリンパ節郭清の実施が決定された。 Dには,リンパ節腫大は認められなかったのに,被告Eはリンパ節郭清を実施した。 したがって,本件リンパ節郭清は許されない不法なものであるといえる。 ウ本件で仮に,被告らの言うような腫大が認められたとしても,郭清が許されるのは,被告Eが視認したと主張する総肝動脈リンパ節のみである。 しかし,被告Eは,総肝動脈リンパ節以外にも,肝十二指腸間膜リンパ節,膵頭後部リンパ節まで広範囲にわたり郭清を実施した。 したがって,やはり本件リンパ節郭清は許されない不法なものであるといえる。 (被告らの主張) ア本件手術では,開腹したところ,当初の予想と異なり肝転移巣がCN型であったことから系統的肝切除を選択した。この時点で血管処理のために必然的に肝門部リンパ節を郭清することになった。 イまた,開腹直後に,総肝動脈から肝十二指腸間膜にかけて,脂肪組織の間に,腫大したリンパ節を1個確認した。 ウ上記の腫大が認められたことから,リンパ節郭清の範囲を総肝動脈リンパ節までと決定した。 リンパ節転移は,肝門部から膵後部・総肝動脈周囲に達するという経過をたどるため,実際に郭清する範囲としては,上膵頭後部リンパ節から門脈周辺リンパ節,総肝動脈周囲リンパ節,固有冠動脈周囲リンパ節,肝門部リンパ節とすることにした。 (3)因果関係(争点(1)ウについて) (原告らの主張) ア手術後まもなく本件出血が確認されていること,及び,本件出血の部位と肝門部リンパ節の位置が近接していることから,本件リンパ節郭清の手技により,PSPD分枝が損傷されたか,若しくはPSPD分枝に対して破綻の契機となりうる物理力が作用した結果,本件出血が起きた。 イ本件出血が原因で,敗血症性ショックを伴うDIC(汎発性血管内凝固症候群)が発生した結果,Dは死亡した。 (被告らの主張) アPSPD分枝から出血したことは認めるが,本件リンパ節手技中に損傷したのではない。出血の原因としては,上膵頭後部リンパ節を郭清する際にPSPD分枝を結紮し,切離しているところ,①電気メスの凝固栓が取れた,②血管が脆弱化しており結紮していた血管そのものが脱落した,③嘔吐・しゃっくりなど横隔膜が大きく動くようなことがあったため血管結紮糸が脱落した,などが考えられるが,不明である。 本件リンパ節郭清をしなければPSPD分枝から出血しなかったという意味で両者の間に条件関係があることは認める。しかし,本件手術以前に本件出血のような出血を生じた事例は皆無であり,本件出血の原因も不明であるから,相当因果関係があるとは認められない。 イDには7月27日に止血した本件出血以降,同月28日に開腹止血した外は,死亡した8月22日までの22日間に出血は認められなかったのであるから,本件出血が直接の原因となって死亡するに至ったと考えることはできない。 (4)説明義務の内容(争点(2)アについて) (原告らの主張) 被告Eは,Dから本件手術の承諾を得るに際し,以下の事項について,説明する義務があった。 ①被告Eの術式にのっとり,リンパ節郭清を実施する予定であること ②当該リンパ節郭清については,一般的な標準術式として認められているものではないこと ③その治療効果については,リンパ節転移がある場合は,治療効果がなく,逆に,リンパ節転移がない場合は,その治療効果・意義を支持するエビデンスがなく,医科学的には十分に実証されていないこと。その意味で,確たるリンパ節腫大の術中所見なくしてリンパ節郭清を実施することは,研究目的の施術といった色彩が濃厚であること ④したがって,リンパ節郭清を実施するか否かは予後にほとんど影響しないため,それを実施しないという選択肢もあり,むしろ,それを実施しない方が,一般的であること ⑤肝門部から肝十二指腸間膜にかけてのリンパ節郭清を徹底的に施行した場合,合併症として,大量出血,血管損傷(肝門部や門脈),肝障害(肝不全),腸管損傷,胆道損傷,リンパ瘻などの危険性も考えられること (被告らの主張) ア被告Eに要求される説明は以下の事項である。 ①当該疾患の診断,患者の現症状と原因 ②実施予定手術の内容,選択可能な治療方法等 ③手術に付随する危険性 ④実施予定手術の効果,改善の程度,予後内容 イ大腸癌肝転移症例に対するリンパ節郭清の治療効果は公表・実証されており,治験目的ではないから,治験目的であるとの説明をする義務はない。 ウ大腸癌肝転移について,標準的治療方法は確立されていないので,本件術式が標準術式でないことを説明する義務はない。 エ リンパ節郭清は手術手技としての安全性が確立しており,その実施によって合併症のリスクが特に増すことはないから,リンパ節郭清を個別に取り上げて説明する義務はない。 (5)行われた説明の内容(争点(2)イについて) (原告らの主張) 被告Eは,Dから本件手術の同意を得るに際し,(4)原告らの主張①ないし⑤について,全く説明をせず,Dの自己決定権を侵害した。 (被告らの主張) ア被告Eは,7月22日,Dから本件手術の同意を得るに際し,以下の説明を行った。 (ア)Dの疾患が大腸癌肝転移であること (イ)大腸癌肝転移治療は肝切除が最も有効な治療方法であること,被告病院では小さい肝転移には部分的切除を行い,大きいか悪いタイプのものは系統的肝切除とリンパ節郭清をしていること,Dの腫瘍の大きさが2.5㎝程度であったことから部分肝切除をすること,もしも腫瘍が良性のときは切除しないこと (ウ)出血があることなど肝切除に伴う一般的な説明 ただし,肝十二指腸間膜リンパ節郭清に伴う出血あるいは重篤な合併症等については,Dの手術以前の15年間に皆無であったことから認識外のことであったので話していない。 (エ)被告病院で治療を受けた人の成績として3㎝未満で良いタイプ(SN型で3㎝未満)の肝転移は5年生存率90%となっていること (オ)部分肝切除の場合の手術時間は2時間程度であること イ被告Eは,7月8日にも,Dに対し,以下の説明を行った。 (ア)被告病院では,大腸癌肝転移症例に対しては,系統的肝切除とリンパ節郭清を基本術式としているが,Dの場合,肝転移が3㎝未満のSN型と思われるので,肝部分切除を予定していること (イ)肝部分切除の予定であっても開腹後に腫瘍の状態によって術式を変更することもあること (6)因果関係(争点(2)ウについて) (原告らの主張) 仮に,(4)原告ら主張の説明を被告Eが行っていれば,Dは,リンパ節郭清を承諾せず,腫瘍の完全切除に必要十分な範囲・限度での肝部分切除を希望したことは明らかである。 (被告らの主張) 原告ら主張に係る説明義務を前提としても,Dは今回の肝切除術を受けたものと強く推測され,原告ら主張の説明義務違反とDの死亡という結果との間には因果関係がない。 (7)損害(争点(3)について) (原告らの主張) ア逸失利益 Dは,死亡当時57歳であり,10年は就労が可能であった。 そこで,毎年の収入額を平成10年度の収入額である840万8672円とし,生活費控除を30パーセントとした上で,10年に対応するライプニッツ係数(7.7217)により中間利息を控除して逸失利益を算出すると,4545万円(1万円以下切り捨て)となる。 イ慰謝料 Dは,生前,町役場職員として勤務し,原告らと共に平穏・円満な家庭生活を営んできた。それが,本件手術を原因として,3日間で3回もの開腹手術を受けた挙げ句,不慮の死に至ったものである。Dが一家の大黒柱であったこと,Dの精神的苦痛に照らせば,死亡による慰謝料は2800万円を下らない。 ウ葬儀費用 葬儀費用の支出金額は150万円を下らない。 エ調査費 本件に関する証拠保全に際し,診療録の複写費用として2万円(端数切り捨て)を要した。 オ弁護士費用 原告らは,原告ら代理人との間で訴訟委任契約を締結した。本件による損害として被告らに負担させるべき弁護士費用としては,800万円が相当である。 カ相続 以上合計8297万円につき,原告Aは2分の1の4148万5000円,原告B及び原告Cは,それぞれ4分の1の2074万2500円を相続した。 (被告らの主張) 争う。 (8)消滅時効(争点(4)について) (被告Eの主張) ア医事関係訴訟における消滅時効の起算点は,医師の医療行為を受けたことにより結果が発生し,それが医師の過失によって生じたことを患者側が知った時点である。 イ本件において,原告らは,Dの死亡当時すでに,本件における事実関係を認識し,かつ,被告Eの行為が違法であるとの認識を有していた。 したがって,消滅時効の起算点は,Dの死亡時である平成11年8月22日である。 ウ被告Eは,上記時効を援用した。したがって,原告らの被告Eに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅した。 (原告らの主張) ア医療過誤訴訟における消滅時効の起算点は,合理的な方法で挙証しうる程度に具体的な資料に基づいて医療機関の責任を認識し得た時点をいう。 イ本件においては,Dが死亡した時点では原告らは死亡の原因について明確な説明を受けていなかったのであり,この時点は消滅時効の起算点とはならない。 ウ原告ら代理人は被告Eに対し,質問状を出し,その回答を得たのが平成15年2月18日ころである。本件において,合理的な方法で挙証しうる程度に具体的な資料に基づいて医療機関の責任を認識し得たのは,上記回答の当否を検討するに足る相当期間経過後である。 エしたがって,被告Eの不法行為責任の消滅時効の起算点は,平成15年4月20日ころであり,本件訴訟提起日は平成16年2月13日であるから,消滅時効は完成していない。 第3当裁判所の判断 1争点(1)ア(リンパ節郭清が許される条件)について (1)本件では,Dに対する手術の当否の前提として,大腸癌肝転移に対する肝切除におけるリンパ節郭清が許される条件が争われているので,まずこの点について判断する。 上記の点に関し,当該箇所に掲記の証拠及び弁論の全趣旨から,以下の事実を認めることができる。 ア大腸癌肝転移に対する手術様式としては,できる限り非癌肝物質を温存し,腫瘍部分のみを切除する方法(以下「肝部分切除」という。)と,肝の一定区域を切除する方法(以下「系統的肝切除」という。)の2種類が存在する。我が国では,肝部分切除が中心であるが,欧米では系統的肝切除が基本術式となっており,どちらの方式を採用すべきか,という点については我が国においても定まっているとはいえない状況にある(甲B1号証92頁,甲B3号証242頁)。 イ肝所属のリンパ節は,肝十二指腸間膜内や総肝動脈等に沿って存在する(乙B10号証,乙B15号証)。 ウリンパ節郭清とは,リンパ節を切除し,摘出することをいう。 エリンパ節郭清の是非について,否定的な見解としては,文献上,以下の記載が存在する。 (ア)「肝十二指腸間膜内や総肝動脈に沿ったリンパ節の郭清は通常行わない。」,「肝門部リンパ節郭清を標準術式とすることは,残肝再発が多い大腸癌肝転移では,むしろ弊害となる。」(甲B1号証94頁) (イ)「術前すでに肝門部リンパ節転移が明らかな症例に対しては肝切除の治療効果はないものと思われる。」,「肝門部リンパ節転移陽性例の予後は非常に不良であることから肝十二指腸靭帯郭清の必要はないと考える。」(甲B2号証129頁,同131頁) (ウ)「大腸直腸癌肝転移では,肝門部リンパ節転移のある場合は手術適応が無い。」(甲B4号証726頁) (エ)「多くの報告者は『肝門部リンパ節郭清は生存率向上に貢献しない』と結論付けた。」(甲B14号証1672頁) (オ)「予防的肝所属リンパ節郭清については,予後に対する寄与を認めず,また治療効果についても不明である。また肝門部リンパ節郭清を標準手術術式にすることは,残肝再発の多い大腸癌肝転移では,再手術時の切除が難しくなるため,障害となることがある。」(甲B16号証166頁) (カ)「現時点(2003年)では,肝切除時に系統的にリンパ節の一括切除を行うことの治療効果は証明されていない。」,「肝門部リンパ節郭清の意義は,肝切除時に肝門部リンパ節郭清を行う場合と行わない場合とを比較した前向きのくじ引き割付臨床実験を行わない限り,証明できない。」,「系統的にリンパ節の一括切除を行うことは,予後改善に何ら寄与しないし,治療的意義も証明されていない。」(甲B18号証) オ リンパ節郭清の是非につき,肯定的な見解としては,文献上,以下の記載が存在する(ただし,被告病院及び被告Eの実績を中心とした文献は除く)。 (ア)「肝門部リンパ節郭清は初期の頃は全例に行う方針であったが,転移陽性率が20%以下で,全例に行う必要がないと考えるに至ってから肝十二指腸間膜内に触診で大きいか,あるいは硬いリンパ節を触知できるもののみにリンパ節郭清を行うこととした。」(甲B10号証288頁) (イ)「肝切除時にリンパ節郭清(特に肝門部および肝十二指腸間膜リンパ節)を施行する必要性が示唆された。」,「肝切除時の肝門部および肝十二指腸間膜リンパ節郭清は,手術成績の向上を目指すためには必要条件であろう。」(甲D6号証) (ウ)「肝所属リンパ節転移例であっても,特に異時性では切除,郭清により良好な予後が得られる可能性がある。」(甲D7号証47頁) (エ)「肝切除後の局所リンパ節郭清は安全な手技であり,それは原発性であれ,転移性であれ肝腫瘍の患者には常に行うべきである。」,「リンパ節郭清を伴う肝切除は,肝悪性腫瘍患者において安全な術式であり,合併症および死亡の危険性増加も認められない。原発であれ転移であれ肝硬変のない肝腫瘍の患者にはこの手技はルーチンに実施されるべきである。」(乙B5号証) (オ)「肝十二指腸間膜のリンパ節郭清はルーチンに行われた。」(乙B23号証) カ リンパ節郭清につき,被告病院又は被告Eの関係する治療実績,論文内容は以下のとおりである。 (ア)被告Eは,被告病院において,昭和58年(1983年)以来,残肝再発を減らし,肝転移の進展様式や生物学的特性を検討するため,系統的肝切除とリンパ節郭清を基本術式としてきた。 被告病院においては,部分切除例の5年生存率は系統的肝切除例全体より統計学的に良好であったが,同じ大きさの転移巣で比較すると,系統的肝切除を行った症例の生存率は部分切除より良好であった(乙B3号証692頁)。 (イ)被告病院における系統的肝切除後の残肝再発率が19.8%と他の報告より低いなどの実績を踏まえ,被告Eらは,「肝転移に肝所属リンパ節転移を伴うときは,予後不良であるから肝切除しないという意見もある。しかし,大腸癌肝転移よりも予後不良な胆嚢・胆管癌などにリンパ節郭清を行うことは外科医の常識になっているのであるから,肝転移でもリンパ節転移陽性で郭清可能であれば,閉塞性黄疸を防ぎ患者のQOLを良好に維持するためにも郭清を行うべき」であるとする論文を平成15年に発表している(乙B2号証243頁)。 (ウ)そして,被告Eの論文は他の文献にも引用され,評価されている(乙B16及び17号証)。 キ リンパ節郭清は,他臓器からの転移ではなく当該臓器に原発した癌の切除手術の際には,多く行われている(乙B14,18及び19号証)。 クまた,リンパ節郭清後に特記すべき合併症は認められないとする文献が存在する(乙B11号証)。 (2)上記のとおり,原告らの主張するようにリンパ節郭清に治療的意義を認めず,これを行うべきではないとする知見が存在することが認められる。しかし,これらの知見を述べる文献の中には,術前にリンパ節転移が認められる場合のみを想定していると解されるものもないではなく,術中にリンパ節転移が疑われる場合におけるリンパ節郭清もすべきではない,とまで語る知見は見当たらない。 また,上記のとおり,リンパ節郭清に意義を認める知見が存在するだけでなく,基本的にはリンパ節郭清を実施しない医師であっても,術前にリンパ節転移が認められず,術中にリンパ節腫大が発見された場合には,リンパ節郭清を行うことがある旨の知見も少なからず存在する(甲B6ないし9号証)。 加えて,被告病院では,リンパ節郭清を伴う系統的肝切除を積極的に実施してきた結果,上記認定のとおり,良好な治療成績を得ている。この点について被告病院では,リンパ節郭清と系統的肝切除を必ず合わせて実施してきたことから,上記の治療成績が系統的肝切除によるものか,あるいはリンパ節郭清によるものか,厳密にいえば判然としないところがあるため,リンパ節郭清に治療的意義があることの証明が完全にできているとはいえない状況にあると解される。しかし,リンパ節郭清を実施した場合に良好な治療成績を得ていることは,リンパ節郭清に治療的意義があることを示す一つの資料にはなり得るものと解される。 また,リンパ節郭清の手術は,原発癌の際にはよく行われるものであり,特記すべき合併症はないとする文献も存在することからすれば,格別危険性の高い手術とまでいうこともできない。 以上をみると,大腸癌肝転移におけるリンパ節郭清の是非をめぐる医学的知見については,本件当時から現在に至るまでいまだ評価が定まっていない状況にあるということができる。 このように,当該治療法の是非につき評価の定まっていない状況においては,医師は,患者の状態など具体的状況を踏まえた上で,自らの専門的知識,及び経験などに基づいて治療法を選択すべきであり,その選択が,合理的な裁量の範囲内でされていれば,医師に求められる注意義務を果たしたものということができる。 (3)さらに,どの範囲のリンパ節郭清が許されるか,という点については,文献上の特段の記載は見られず,この点についても,患者の状態など具体的状況を踏まえた上で,医師の合理的な裁量の範囲内で決定されるべきものと解される。 2争点(1)イ(本件リンパ節郭清の経緯)について (1)本件手術の経緯については,当該箇所に掲記の証拠のほか乙A4号証,被告E本人尋問の結果及び弁論の全趣旨から,以下の事実が認められる。 ア被告Eが採用していた術式 (ア)被告Eは,被告病院において,昭和58年から大腸癌肝転移症例に対して,肝切除を行ってきた。その中で得られた統計データから,転移予後因子と手術成績の関係を検討した結果,「YASUI分類」を定立するに至った(甲D5号証及び乙B1号証616頁)。 「YASUI分類」とは,転移巣の肉眼型を,辺縁が平滑で内部構造が比較的均一なものをSN型(単純結節型),辺縁が不整で内部構造は多結節が融合したような形態のものをCN型(融合結節型)として分類するものである。CN型はSN型よりも,癌の浸潤進展傾向が強く,生物学的悪性度が高いと考えられるものである(乙B1及び2号証,甲D4,5号証)。 (イ)その上で,被告Eは,平成7年以降,転移巣の肉眼型がSN型と予測され,最大径が3㎝未満であれば部分切除を行い,すべてのCN型及び転移巣が3㎝以上あるいは占拠区域数が2区域以上のSN型であれば系統的肝切除とリンパ節郭清を行う,という基準を立てていた(甲D5号証及び乙B1号証618頁)。 (ウ)被告Eが,系統的肝切除に合わせてリンパ節郭清を行う目的は,リンパ節に転移しているか否かをチェックするとともに,微細な癌細胞を可及的に切除してリンパ節転移をできる限り防止し,治癒を目指すことにある(甲A8号証2及び3頁)。 リンパ節郭清を実施する範囲について,被告Eは,①系統的肝切除を選択した症例では,必ず肝門部リンパ節(12p)は郭清し,②それ以上に,どの範囲まで郭清を行うかについては,リンパ節腫大の有無・場所・個数などを考慮して,腫大のある箇所から肝臓に近い部分までを決定する,という方針を持っていた(被告Eの調書9及び10頁)。 (エ)被告病院においては,胃癌手術において597例の肝十二指腸間膜リンパ節郭清を実施してきたが,そのうちリンパ節郭清に関して出血した例は1例であり,この例についても,当該患者は,止血手術を受けた後,退院するに至っている。 大腸癌肝転移切除例では,本件以前にリンパ節郭清に関する出血例は存在しなかった(被告Eの調書12頁)。 イ本件手術の経緯 (ア)Dの場合,術前の検査で予測された転移巣は大きさ2.5㎝のSN型であった。したがって,被告Eは,上記(イ)の基準にこれを当てはめ,部分肝切除を実施する予定でいた。 (イ)ところが,実際に開腹してみると,Dの転移巣は辺縁が不整であり(乙A1号証120頁),被告Eは,これをCN型と判断した。そこで,被告Eは,術式を系統的肝切除に切り替えることを決定した(乙A1号証86頁)。 (ウ)さらに,被告Eは,総肝動脈周囲のリンパ節(8a)が腫大しているのを視認した。続けて脂肪に埋まったリンパ節を触ると,奥のほうでもリンパ節に触ることができた。 ここで,被告Eは,癌細胞が肝からリンパ節に転移する進展様式を考え,本件リンパ節郭清の範囲につき,腫大したリンパ節からそれよりも肝臓に近い部位のリンパ節までを郭清することとした。そして,上膵頭後部リンパ節(13a),門脈周辺リンパ節(12p),総肝動脈周囲リンパ節(8a),固有肝動脈周囲リンパ節(12a),肝門部リンパ節(12h)の順でリンパ節郭清を実施した(乙A1号証86頁)。 (2)被告Eが定立した「YASUI分類」及び,それに基づく術式選択基準が,医師の裁量の範囲内の選択といえるか,について検討する。 これらの分類ないし術式選択基準が,被告病院における具体的な事例を検討した結果定立されたものであること,その検討経緯については,公刊物に発表され,これを評価する医師も存在することなどの事情に照らすと,上記の分類ないし基準を採用することは,医師の合理的な裁量の範囲内の選択ということができる。 この点,原告らは,被告Eの術式は系統的肝切除を行う際に無差別にリンパ節郭清を行うものであり許されないと主張する。しかし,被告Eは,上記認定のとおりの基準を立ててリンパ節郭清を実施する症例を選択した上,さらに,患者の状態がリンパ節郭清を許さない場合や,開腹してリンパ節がきれいに郭清できないと判断される場合には郭清しないとしているのであり(被告E本人尋問の結果(同人の調書17ないし19頁)),無差別に行っているものとは評価できないから,上記の原告らの主張は理由がない。 (3)次に,実際に行われた手術が,医師の合理的な裁量の範囲内においてされたものといえるか,について検討する。 上記に認定したところによれば,本件手術は,平成7年以降被告Eが採用していた術式選択基準に従ったものであると認めることができる。 原告らは,被告Eが腫大したリンパ節を確認したとの主張事実を否認している。確かに,手術記録には被告Eが腫大を視認した旨の記載がない。しかし,実際に総肝動脈周囲において郭清した中から取り出したリンパ節は腫大していたこと(甲A9号証の1),本件手術直後に被告EがDの家族らに対し,腫大の存在について話していたこと(乙A1号証241頁)からすれば,総肝動脈周囲にリンパ節腫大を視認したという被告Eの供述(乙A4号証6頁及び同人の調書8頁)は信用することができ,上記のとおり被告Eは術中にリンパ節腫大を視認したと認められる。 さらに,原告らは,リンパ節腫大を視認した場合にも,郭清が許されるのは腫大しているリンパ節のみであると主張する。この点,癌に対するリンパ節郭清の手技としてはリンパ節を個々に取り出すのではなく,郭清領域のリンパ節,リンパ管,脂肪織,神経,血管すべてを含めて,切り込むことはあってもちぎれることはなく一塊となる状態で切除するのが理想的とされていること(乙B13号証1445頁),被告Eの行うリンパ節郭清の目的が上記認定のとおり肝臓からリンパ節への癌転移の防止・除去にあることを考えれば,腫大したリンパ節から肝臓に近い部位のリンパ節を郭清するという被告Eが行った術式は合理的なものということができる。 なお,原告らは,特に上膵頭後部リンパ節(13a)の郭清は不必要であるとの主張もするようであるが,PSPDと総肝動脈は近接した位置にあることから(乙B13号証1452頁図8),同リンパ節と腫大が認められた総肝動脈周囲のリンパ節とは近接して位置していたものと推認されること,郭清前に被告Eは腫大した総肝動脈リンパ節の奥の方でリンパ節に触っていること(被告E本人尋問の結果(同人の調書8頁)),実際に郭清した上膵頭後部リンパ節(13a)は腫大していたこと(甲A9号証の3)等を併せ考えると,これを郭清したことも被告Eの医師としての合理的裁量の範囲内の選択として許されるものと解される。 3争点(2)(説明義務違反)について (1)被告Eの説明義務の内容について ア原告らは,本件において,被告Eがリンパ節郭清を実施する予定であることを説明すべきであったと主張する。 しかし,上記認定事実によれば,被告Eは当初,部分肝切除を実施し,リンパ節郭清は実施しない予定であり,開腹所見が術前所見と異なる場合にのみ系統的肝切除及びリンパ節郭清に術式を変更するにすぎなかったのである。 このように,術前の説明の段階で実施することが不確実である術式の説明については,それが極めて危険であるとか,患者の予後の生活を大きく変えるおそれがあるというような場合でない限り,その説明が患者の自己決定権行使に影響する度合いは,実施を確実に予定している手術についての説明に比すると小さいものと考えられ,医師による術前の説明がある程度包括的になることも許されるものと解される。 イまた,原告らは,リンパ節郭清の治療効果が十分実証されていないことを説明すべきであったと主張するが,前述のとおり,リンパ節郭清に一定の治療効果を認める論文,実績が存在することによると,原告らの上記主張を直ちに採用することはできない。 ウさらに,原告らは,リンパ節郭清を実施しない選択肢を説明する義務があったとも主張する。しかし,上記認定のとおり,リンパ節郭清の実施につき,標準的治療法が定まっていない状況において,原告らの主張するような説明を患者にしたとしても,患者はいかなる基準で術式を選択すればいいのか,判断に困ることになる。そして,本件においては,上記のとおり,被告Eは被告病院における事例の集積からリンパ節郭清の治療的意義を確信しており,それには相応の理由のあることが認められること,リンパ節郭清は格別危険性の高い手術ということはできないことに照らすと,リンパ節郭清を実施しない選択肢まで説明する必要があったとは認められない。 (2)行われた説明について アこの点については,以下の事実が認められる。 (ア)7月8日,被告Eは,Dに対し, ①被告病院では,大腸癌肝転移症例に対しては系統的肝切除とリンパ節郭清を基本術式としているが,D氏の場合,肝転移が3㎝未満の大きさであるので,部分肝切除でも十分良い予後が期待できること, ②部分肝切除の予定であっても開腹して腫瘍の状態から,病変が術前診断と異なる場合には術式を変更することもあるし,腹膜転移など他の病変がある場合は肝切除を行わない場合もあること, などを説明した(乙A4号証4及び5頁)。 (イ)7月22日,被告Eは,被告病院のG医師と共に,Dに対し, ①4月の検査では2㎝だった腫瘍が7月1日の検査では2.5㎝と拡大しており,大腸癌の転移と診断されたこと, ②手術には解剖学的切除(系統的肝切除)と肝部分切除があり,系統的肝切除の場合には,癌が残らないように周囲も全部取ること, ③術前の画像から判断されるDの腫瘍のタイプと3㎝未満という大きさから,1割程度の肝部分切除でよいと思われること, ④3㎝未満の腫瘍であれば,術後の5年生存率は約90%であること, ⑤部分肝切除の場合の手術予定時間は2時間程度であること, ⑥開腹してみて,癌の転移や進展の範囲などの状況が術前の診断と異なれば,術式を変更し,肝臓を大きく取ることもあり得ること,その場合には肝臓の右の部分約60%を切除することになること, ⑦肝臓の手術をする際の一般的なリスク などを説明した(甲A2号証42頁,乙A1号証239頁,4号証5頁,5号証,被告E本人尋問の結果(同人の調書2ないし6頁))。この説明を受け,Dは本件手術に同意した(乙A1号証97頁)。 イ以上の事実によれば,被告Eらは,本件手術前に,Dに対し,Dの病状,手術の方法,手術に関する危険性,予後の見通しなどにつき説明を行ったと認められる。 リンパ節郭清については,被告Eはそれ自体を取り上げて説明していないが,「肝臓を大きく取ることもあり得る」という表現で包括的に説明しており,上記に検討したところに照らすと,変更の可能性のある術式の説明としては十分であると解される。 手術の危険性についても,一般的な肝切除についての危険性は説明しているところ,リンパ節郭清の危険性が極めて高いというものでもないことは上記認定のとおりであるから,リンパ節郭清の危険性を格別に取り上げて説明する必要も認められない。 ウ以上に検討したところによると,被告Eの説明は,Dが手術を受けるか否かを決定するための情報として十分なものということができる。したがって,被告Eには,本件手術に関する説明義務の履行において,義務違反があったとは認められない。 第4結論 以上によれば,被告Eには,原告らの主張する各注意義務違反は認められず,その余の点について判断するまでもなく,被告らには,不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償責任はいずれも認められない。 よって,原告らの請求には理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官佐久間邦夫 裁判官樋口英明 裁判官大野千尋

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