H18. 2. 3 鹿児島地裁 平成12(ワ)615,863,935 産業廃棄物埋立処分場建設工事差止等請求事件

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H18. 2. 3 鹿児島地裁 平成12(ワ)615,863,935 産業廃棄物埋立処分場建設工事差止等請求事件」(2006/03/13 (月) 13:19:08) の最新版変更点

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1 人格権に基づく産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)の建設差止請求を認容した事例 2 上記処理施設の建設に対し反対した住民らに対する損害賠償請求が棄却された事例             主    文 1 甲事件原告A,同B,同C及び同Dの請求をいずれも棄却する。 2 甲乙事件被告は,前項の4名とEを除く甲事件原告ら及び乙事件原告らに対する関係で,別紙物件目録記載の土地について,産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)を建設してはならない。 3 甲事件のうち原告Eに関する部分は,平成17年9月8日同原告の死亡により終了した。 4 丙事件原告の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,第1項の原告4名について生じたものを同原告らの負担と するほか,すべて甲乙事件被告・丙事件原告の負担とする。             事実及び理由 第1 請求 1 甲乙事件原告ら(以下,単に「原告ら」という。)の請求 甲乙事件被告(丙事件原告。以下「被告会社」という。)は,別紙物件目録記載の土地(以下,一括して「本件予定地」という。)について,産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)を建設してはならない。 2 被告会社の請求(丙事件) 丙事件被告らは,被告会社に対し,連帯して,金5268万0786円及びこれに対する平成12年10月4日から(ただし,別紙「丙事件被告目録」に表示の番号21の被告については同月5日から,同22の被告については同月6日から,同23の被告については同月11日から,同24の被告については同月31日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 本件事案の要旨(一部判断を含む。) 1 本件の甲乙事件は,鹿児島県鹿屋市内のa町などに居住する原告らが,被告会社が本件予定地において建設を進めている産業廃棄物処理施設(管理型最終処分場)(以下「本件処分場」という。)につき,同施設から有害物質を含む浸出液が漏洩して地下水に混入することなどにより,原告らが飲用を含む生活水として使用している井戸水が汚染されるおそれがあるとして,人格権に基づいて,その建設の差止めを求めた事案である。 2 一方,丙事件は,F,B及びGを除く丙事件被告ら21名と亡E(承継前丙事件被告。その訴訟承継の点については次の3参照。以下,この計22名を「Eら22名」という。)の実力行使により本件処分場の建設を妨害されたと主張する被告会社が,上記22名による共同不法行為を理由に損害賠償を求めた事案である(なお,被告会社が主張する損害額は前記請求額を上回っているが,これは,一部請求の趣旨である。また,附帯請求は,訴状送達日の翌日からの,民法所定の割合による遅延損害金の請求である。)。 3 なお,甲事件原告(丙事件被告)の1人であったEが平成17年9月8日に死亡したとして,夫のH(甲事件原告・丙事件被告)及び二男のB(甲事件原告)のほか,長男のF(甲事件原告の1人であったが,訴えを取り下げていた。)及び三男のGから受継の申立てが行われているが,丙事件の関係で訴訟が承継されたことに問題はないものの(ただし,本来であれば,子である承継人に対しては,その相続割合の限度で他の21名の被告との連帯支払が求められるべきであるが,被告会社は,その旨の補正をしなかった。),人格権に基づく差止請求権を訴訟物とする甲事件の関係では,それがE自身の生命・身体の安全等に対する妨害を予防するための一身専属的な請求権であって,相続の対象となるものではないと解されることから,訴訟承継の余地はなく,甲事件のうち同原告に関する部分は,その死亡に伴い当然に終了したものというべきである。 よって,この点を明確にするため,主文において,いわゆる訴訟終了宣言を行うこととする(したがって,以下における「原告ら」という表記についても,その死亡後のことに関してはEを除く意味で用いるものである。)。 第3 基礎となる事実 1 当事者等 (1) 原告らはいずれも鹿屋市民であり,そのほとんど(甲事件原告A,同B,同C及び同D以外)は,本件予定地から約1.5キロメートルの範囲内にある同市b町か,本件予定地から肝属川沿いに約3ないし4.5キロメートル下流に位置する同市a町に居住している(弁論の全趣旨)。 (2) 被告会社は,平成元年にソフトウェアの開発及びその販売等を目的として設立された後,平成6年に産業廃棄物の収集運搬及び処理業等がその目的に追加された株式会社である(争いのない事実)。 (3) 被告会社と,本件予定地内に産業廃棄物の安定型最終処分場(以下「本件旧処分場」という。)を設置した上,平成9年4月までこれを運営していた南日本建設工業株式会社(以下「南日本建設」という。)とは,平成11年3月まで代表取締役(I。以下「I」という。)が共通であったほか,Iに代わって南日本建設の代表取締役に就任したのも,従前から被告会社の取締役も務めていた人物であるなど,役員構成を含めて極めて密接な関係にあったところ,被告会社(その後,複数の代表取締役を置くようになっており,本件訴訟の関係ではJが代表者となっている。ちなみに,同人は弁護士経験を有する人物である。)は,遅くとも平成7年1月ころから,本件予定地に本件処分場(産業廃棄物の管理型最終処分場)を建設することを計画しており,その設置について廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)15条1項の規定に基づく鹿児島県知事の許可を平成10年7月2日付けで取得した後の平成11年4月に着手した建設工事を現在は中断しているものの,なお続行する意思を有している(甲2,甲3,甲21の1及び2,乙187,乙230,弁論の全趣旨)。 2 産業廃棄物の処分に関する法的規制の概要等 (1) 産業廃棄物とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類などをいい(廃掃法2条4項,同法施行令2条),その処理については事業者が自ら行うのが原則であるが,許可を受けた処理業者に収集,運搬及び処分を委託することもできるところ,いずれにせよ,その収集,運搬及び処分に関しては,同法12条1項にいう「産業廃棄物処理基準」又は12条の2第1項にいう「特別産業廃棄物処理基準」に従って行わなければならないこととされている(同法11条1項,12条1項,3項,12条の2第1項,第3項,14条12項,14条の4第12項)。 そして,上記各基準を定めた同法施行令6条及び6条の5によれば,産業廃棄物の中でも特に有害なもの(正確には,6条1項3号ハの(1)から(5)までに掲げる産業廃棄物と,6条の5第1項3号イの(1)から(6)までに掲げる特別産業廃棄物)の埋立処分は,「公共の水域及び地下水と遮断されている場所で行うこと」とされる一方,それ以外の産業廃棄物(その中には,6条1項3号イ所定の「安定型産業廃棄物」も含まれる。)の埋立処分に当たっては,3条3号ロの規定の例により,原則として,埋立地(埋立処分の場所)からの浸出液による公共の水域及び地下水の汚染を防止するために必要な「環境省令で定める設備の設置その他の環境省令で定める措置」を講ずべきこととされており(6条1項3号ニ,ホ,6条の5第1項3号ロ,ハ),この「設備」及び「措置」を定めた廃掃法施行規則1条の7の3及び1条の7の4では,その措置の1つとして,それぞれ一定の条件を備えた①遮水工,②保有水等(廃棄物の保有水及び雨水等をいう。)集排水設備,③浸出液処理設備及び④開渠等の設備を設けることが掲げられている。 (2) 一方,廃掃法15条1項及び同法施行令7条14号によれば,その設置について都道府県知事の許可を受けることが必要な「産業廃棄物の最終処分場」には,①上述の特に有害な産業廃棄物の埋立処分の用に供されるもの(同号イ。遮断型最終処分場)と,②安定型産業廃棄物の埋立処分の用に供されるもの(同号ロ。安定型最終処分場)及び③それ以外の産業廃棄物の埋立処分の用に供されるもの(同号ハ。管理型最終処分場)の3種類があるところ,このような許可制が採られているのも,同法の目的である「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図る」ためである(同法1条参照)。 これらの最終処分場を含む産業廃棄物処理施設の設置に関する許可の基準については,同法15条の2第1項に規定があり,当該施設の設置に関する計画が「環境省令で定める技術上の基準」に適合していること(同項1号)などが要件とされているほか,許可後における施設の維持管理に関しても,「環境省令で定める技術上の基準」及び当該施設の許可に係る申請書に記載した維持管理に関する計画に従ってこれを行うべきことを定めた規定(同法15条の2の2)が設けられている。 もっとも,被告会社が本件処分場の設置について許可の申請をした当時においては,上記で引用した許可要件の内容は「厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については,総理府令,厚生省令)で定める技術上の基準に適合していること」(平成9年6月18日法律第85号による改正前の廃掃法15条2項1号)というものであったところ(なお,上記改正前の施設の維持管理に関する規定は「産業廃棄物処理施設の設置者は,厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については,総理府令,厚生省令)で定める技術上の基準に従い,当該産業廃棄物処理施設の維持管理をしなければならない」(15条5項)というものであった。),ここでいう「総理府令,厚生省令」である「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令」(昭和52年3月14日総理府令・厚生省令第1号。これは,現在の廃掃法15条の2第1項1号にいう「環境省令」に該当するものである。以下「共同命令」という。)についても,被告会社が許可申請をした後に,平成10年6月16日総理府令・厚生省令第2号による改正が行われており,上記申請については,本来,この改正前の共同命令への適合性が許可要件の1つとして問われるべき関係にあったが,実際には,鹿児島県側から改正後の基準に適合する計画内容にするようにとの指導があり,被告会社のほうもこれを受け入れたことから,改正後の共同命令による基準に基づいて審査・許可が行われたという経緯がある(乙166,弁論の全趣旨)。 ちなみに,上記共同命令の改正は,例えば管理型最終処分場の遮水シートから汚水が浸み出て周辺の生活環境を悪化させるのではないかという不安が持たれていたり,埋立処分を終了した最終処分場からガスの排出等がみられる例もあるなど,最終処分場に対する国民の信頼が損なわれかねない状況にあることから,最終処分場の構造及び維持管理の基準の強化により安全性をより高め,都道府県知事等が行う最終処分場の設置許可の審査や指導監督がこれらの基準に則して厳格に行われるようにするとともに,埋立処分を終了した最終処分場について,その安全性が確認されることなく維持管理が打ち切られて,生活環境の保全上の支障を生じることがないよう,最終処分場の廃止についての監督の強化を図る必要があるとして実施されたものであり,改正の柱の1つであった管理型最終処分場に係る構造基準及び維持管理基準の強化・明確化の関係では,①遮水工に係る基準の強化・明確化,②浸出液の処理等に係る基準の強化・明確化のほか,③地下水等の水質検査の実施や,④維持管理に関する記録の作成及び保存の点が改正の要点であった(以下,上記改正後の共同命令を「改正共同命令」という。)(甲4001)。 (3) 管理型最終処分場について改正共同命令が定める技術上の基準中,本件で問題となるものの概要は,以下のとおりである。 ア 埋め立てる廃棄物の流出を防止するための擁壁等の設備(自重,土圧,水圧等に対して構造耐力上安全であり,かつ,廃棄物,地表水,地下水及び土壌の性状に応じた有効な腐食防止のための措置が講じられたもの)が設けられていること(2条1項4号,1条1項4号)。 〔なお,共同命令の運用に伴う留意事項を掲げた平成10年7月16日付け「環境庁水質保全局企画課海洋環境・廃棄物対策室長」及び「厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長」の通知(以下「留意事項」という。)によれば,擁壁等が埋立地の一部を構成する場合には,保有水等の埋立地からの浸出を防止するために共同命令1条1項5号イ(1)が規定する遮水層と同等の遮水の機能を有する必要がある点に留意すべきものとされている(甲4001)。〕 イ 埋立地からの浸出液による公共の水域及び地下水の汚染を防止するための以下の措置が講じられていること(2条1項4号,1条1項5号柱書)。 ①(遮水工の設置) 保有水等の埋立地からの侵出を防止するため,当該埋立地に不透水性地層がある場合を除き,次の要件を備えた遮水工又はこれと同等以上の遮水の効力を有する遮水工を設けること(同号イ)。〔なお,本件予定地の地層であるシラスは,上記の不透水性地層には該当しないものである(弁論の全趣旨)。〕 (ア) 次のいずれかの要件を備えた遮水層又はこれらと同等以上の効力を有する遮水層を有すること(同号イ(1)の(イ)ないし(ハ))。 1) 厚さが50センチメートル以上であり,かつ,透水係数が毎秒10ナノメートル以下である粘土その他の材料の層の表面に遮水シートが敷設されていること。〔なお,透水係数とは,地盤上の水位が1センチメートルで変動しないと仮定した場合に水が地盤を浸透する速度を意味するものである(乙26)。〕 2) 厚さが5センチメートル以上であり,かつ,透水係数が毎秒1ナノメートル以下であるアスファルト・コンクリートの層の表面に遮水シートが敷設されていること。 3) 不織布その他の物(二重の遮水シートが基礎地盤と接することによる損傷を防止することができるものに限る。)の表面に二重の遮水シート(その間に,埋立処分用の車両の走行等による衝撃などで双方のシートが同時に損傷することを防止することができる十分な厚さ及び強度を有する不織布その他の物が設けられているものに限る。)が敷設されていること。 〔なお,留意事項によれば,遮水シートは,アスファルト系以外のものについては1.5ミリメートル以上の厚さを有することを要し,また,①埋立地内部の保有水等を浸出させない十分な遮水性,②廃棄物等の荷重・車両等による衝撃力・基礎地盤の変位及び温度応力に対応できる性能(強度及び伸び),③紫外線に対する耐候性,④季節の推移や廃棄物の分解反応による温度変化に対する熱安定性,⑤耐酸性及び⑥耐アルカリ性を有すべきものとされている(甲4001)。〕 (イ) 基礎地盤は,埋め立てる産業廃棄物の荷重その他予想される負荷による遮水層の損傷を防止するために必要な強度を有し,かつ,遮水層の損傷を防止することができる平らな状態であること(同号イ(2))。 ②(地下水集排水設備の設置) 地下水により遮水工が損傷するおそれがある場合には,地下水を有効に集め,排出することができる堅固で耐久力を有する管渠その他の集排水設備(地下水集排水設備)を設けること(同号ハ)。 ③(保有水等集排水設備の設置) 埋立地には,保有水等を有効に集め,速やかに排出することができる堅固で耐久力を有する構造の管渠その他の集排水設備(保有水等集排水設備)を設けること(同号ニ)。 〔なお,留意事項によれば,保有水等集排水設備は,埋立地の地形条件,保有水等の流出量等を考慮に入れて施工し,スケール等による断面の縮小にも対応できるよう管路の径を十分に大きくとるべきであるとされ,また,目詰まり防止のため,管渠等の周囲に砕石等の被覆材を敷設することも有効であるとされている(甲4001)。〕 ④(調整池の設置) 保有水等集排水設備により集められ,次の浸出液処理設備に流入する保有水等の水量及び水質を調整することができる耐水構造の調整池を設けること(同号ホ)。 ⑤(浸出液処理設備の設置) 保有水等集排水設備により集められた保有水等に係る放流水の水質を,排水基準を定める総理府令1条に規定する排水基準等に適合させることができる浸出液処理設備を設けること(同号へ)。 〔なお,留意事項によれば,浸出液処理設備を設けるに当たっては,処理する浸出液の量が最小かつ平均的になるようにすべきであり,また,浸出液の質に応じて,沈殿設備,ばっ気設備,ろ過設備等の設備を組み合わせて設置するのが一般的であるとされている(甲4001)。〕 3 本件処分場の設置計画の概要 一方,被告会社による本件処分場の設置計画の概要については,次のとおりである(甲3016,乙1,乙2,弁論の全趣旨)。 (1) 設置場所 本件予定地は,シラス台地である笠野原台地の北端にあり,肝属川上流に位置する。その形状は別紙「現況平面図」のとおりであり,中心付近が低く,北側,東側及び南側が高い,すり鉢状の地形となっている。なお,前記許可における施設用地の面積は7万1150平方メートルであり,そのうち5万1793平方メートルを埋立地として使用する計画となっている。 (2) 予定埋立廃棄物等 埋立処分する産業廃棄物としては,鉱さい,汚泥,燃え殻,ばいじん類,「13号廃棄物」(廃掃法施行令2条13号所定の産業廃棄物),がれき類,金属くず,ガラスくず及び陶磁器くず,ゴムくず,廃プラスチック類が予定されており,上記面積の埋立地を1区画5000平方メートル以下の8ブロックに分割した上,1区画ごとに高さ5メートルの盛土による堤を作って,1番区画から順に埋立てを行い,8番区画まで終了すれば再び1番区画から同様に埋立てを行う方法で処理する計画である。  本件処分場の処理能力は1日あたり37.3立方メートル,総埋立容量は136万5373立方メートルで,稼働後10年で埋立てが終了する計画である。最終的な埋立地内の貯留構造物の高さは最も高い所で約40メートルに達する予定である。 (3) 設備の概要 本件処分場の遮水工は,別紙「遮水シート工断面図」のとおり,不織布と厚さ2ミリメートルのニポロンシートSS(ポリエチレン製の遮水シート)を二重にして用い,その間にマット(保護材)を挿入した上で上下のシートを一体化して敷設し,更にその下部にベントナイト混合土又はベントナイトシートを敷設したものが予定されている。 また,保有水等集排水設備は,遮水シートの上に敷設した直径600ミリメートル(幹線)及び300ミリメートルの高密度ポリエチレン管よりなるものが予定されている。 一方,本件処分場の浸出液調整池(以下「本件調整池」という。)の処理能力は1日あたり390立方メートル,その容量は8141立方メートルの計画である。 また,本件処分場における浸出液の処理過程は,別紙「排水処理装置フローチャート」のとおりであり,この過程を経て処理された水は,本件処分場の西側にある国道504号線を横切る暗渠(排水路)を通じて,1日あたり390立方メートルの割合で肝属川に放流されることになっている。 本件処分場の地下水集排水設備は,直径600ミリメートル(幹線)及び300ミリメートルの高密度ポリエチレン管よりなるもので,地下水は通常は(雨水調整池を経て)そのまま肝属川に放流されるが,センサーによって水質の変動を常時監視し,異常な水質変動を検知した場合には,地下排水を本件調整池に流入させることが可能な構造とする計画になっている。 なお,本件処分場の建設工事は南日本建設が行うことになっており,許可申請の段階においては,着工は平成9年7月とし,樹木等の伐採と掘削・調整池・浸出液処理施設・遮水工に係る工事の全部又は一部を終わらせた上,翌年(平成10年)6月から産業廃棄物の埋立てを始める予定になっていた。 4 本件処分場の設置許可に至るまでの経緯 前記のとおり,被告会社は,本件処分場の設置に関する鹿児島県知事の許可を平成10年7月2日付けで取得しているところ,これを得るまでの主な経過については,以下のとおりである(甲4,甲6,甲27の1から29の6まで,甲41から47まで,甲52,甲55,乙2,乙159,乙162,乙163の1から167まで,乙187,乙212,弁論の全趣旨)。 (1) 事前協議の状況等 平成7年1月25日,被告会社は,本件処分場を設置するため,鹿児島県(以下「県」という。)に対し,「鹿児島県産業廃棄物の処理に関する指導要綱」7条に基づく事前協議書を提出した。 これに対し,県知事は,同年11月16日,上記指導要綱8条に基づき,事前協議を要する「関係地域」として,いずれも鹿屋市b町のc集落及びd集落を指定するとともに,鹿屋市との協議事項を定めた(なお,原告らの多くが居住する上祓川地域については,上記c集落が本件予定地から概ね1キロメートル,原告らの一部が居住するd集落でも概ね1.5キロメートルの範囲にあるのに対し,約3キロメートル以上離れていることから,騒音,振動,悪臭等の影響はないし,本件処分場からの浸出液についても,排水基準を遵守して処理される以上,下流域への環境の問題はないということで,その生活環境に著しい影響はないと判断され,関係地域には指定されなかった。)。 被告会社は,上記指定のあった当日(平成7年11月16日)にc集落に対する説明会を実施し,同年12月12日付けで同集落から本件処分場の設置についての承諾を得たほか,平成8年1月24日には,鹿屋市との協議を実施した。 一方,d集落に対する説明会は,平成7年11月11日に開催され,その後も断続的に協議が行われたが,住民の意見がまとまらず,結局,平成8年3月24日に開かれたd町内会の総会において,反対の意見と,やむを得ないとする意見(心情的には反対の気持ちもあるが,法律的に本件処分場の設置を阻止できないのであれば,被告会社が説明会の中で約束してきたことを誠実に守ることを条件に認めるとの意見)があることを被告会社に伝えることとし,町内会としては賛成又は反対の意思表明は行わずに協議を終了するとの結論に至り,翌25日,その通知を受けた被告会社を通じて県にも報告が行われた(なお,同月には,a町内会長及びe町内会長から提出されていた,本件処分場の建設に反対する旨の陳情が,鹿屋市議会において採択された。)。 そして,平成8年9月3日には,県から鹿屋市及び被告会社に対し,指導要綱に基づく事前協議が完了したことの通知がされたところ,これに対し,本件処分場の建設に反対する住民らは,まだ被告会社との協議は尽くされていないとして,県に上記通知の保留,撤回を求め,鹿屋市長も,同市議会において,事前協議は完了していない,本件処分場を建設するのであれば公共関与型のものを検討すべきである旨の答弁を行うとともに,同月19日には,県知事あてに上記通知の撤回を求める旨の文書を提出したが,県は,撤回はできないとの回答をした。 (2) 許可申請後,公共関与が模索された状況等 被告会社は,南日本建設が平成9年4月10日付けで本件旧処分場の廃止手続をした後の同年5月1日,県知事に対し,本件処分場の設置許可の申請をしたところ,翌2日,県から公共関与方式で本件処分場を運営することについて打診を受けたので,県とその協議を行った。その後も両者間の協議は継続して行われ,同年6月には,c町内会f班から,被告会社が単独で本件処分場を運営することについては,同処分場からの有害物質の流出や,産業廃棄物の不法投棄,埋立終了後の維持管理などの点で住民に不安があるとして,公共関与を求める旨の陳情が県議会及び鹿屋市議会に提出されたが,この陳情は同市議会において不採択とされた。 しかし,その後,同年8月12日にd町内会から公共関与を求める要望書が出されたのに続いて,同月27日には,g町とb町の11の町内会の会長で構成されるh地区町内会長連合会からも同様な要望書の提出があったため,鹿屋市議会は,同月26日に提出されたa町内会からの本件処分場建設反対の決議書とともに,上記c町内会f班の陳情を再び審査することになり,県及び鹿屋市も公共関与への賛成を求めたが,同市議会は,同年9月17日,本件予定地が肝属川の源流にあたり立地条件が悪いとの理由で再び不採択とし,ここにおいて,県及び鹿屋市は公共関与を断念した。 なお,鹿屋市は,同年10月,被告会社に対し,本件予定地の買取り及び本件処分場の建設の中止を申し入れたが,被告会社は,その譲渡を拒否し,単独で建設計画を続行する旨を表明した。一方,鹿屋市議会は,同年11月,その建設に反対する旨の意見書を県知事に提出することを可決した。 (3) その後,設置許可がされるまでの状況等 ところで,原告らの一部は,いずれも南日本建設が本件旧処分場から搬出した土砂で嵩上げをしたとされる鹿児島県曽於郡(現鹿屋市)i町jのK所有の農地(以下「i町の農地」という。)と鹿屋市cのL所有の農地(以下「cの農地」という。)を調査することとし,前者については平成10年1月16日に,後者については同年3月13日にそれぞれ深さ3ないし5メートル程度まで掘削したところ,いずれの農地からもコンクリート塊などの廃棄物が発見されたため,その旨を県に通報した。 これを受けて,県は,i町の農地については,同年1月16日から同年2月24日までの間に計5回,cの農地については,同年3月13日から5月25日までの間に計10回,それぞれ現地調査や関係者からの聞き取り及び関係書類の確認等の調査を実施した。 その間の同年1月27日,被告会社から県知事に対し,本件処分場の建設を遂行するのに必要な,森林法10条の2に基づく林地開発行為の許可申請が行われ,県知事が,同条6項により鹿屋市長に意見照会を行ったところ,鹿屋市長は,同年4月,本件旧処分場の廃棄物処理に関し被告会社の関係者に違法な行為がなかったかどうかについての県の調査が終了するまで,開発許可の審査を留保するとともに,調査結果を報告するよう求める旨の意見書を提出した。 県は,i町の農地の廃棄物については,平成9年7月から9月にかけて南日本建設とともに本件旧処分場から土砂の搬出をして農地の嵩上げをした有限会社森光運輸(以下「森光運輸」という。)が同社の車庫周辺にあったコンクリート塊,タイヤ,木の根などを投棄したものであり,また,cの農地の廃棄物については,その所有者であるLが畜産施設を取り壊した際に生じたコンクリート塊やアスファルトを自ら埋めたものであって,いずれも本件旧処分場から搬出されたものとは認められないという調査結果報告書を作成し,平成10年6月25日に鹿屋市に対しこの調査結果を報告,説明するとともに,原告らの一部に対してもそのころ上記報告書を送付した。 これに対し,原告らの一部は,同月29日に県庁を訪れて,iの農地にあった汚泥状の土砂からシアンが検出された旨を述べるなどして再調査を求めるとともに,本件処分場の設置許可を出さないよう申し入れた。また,翌30日には,鹿屋市議会も,上記調査結果は鹿屋市民が納得し得るものではないとして,再調査と本件処分場の設置許可申請に対する審査の見直しを求める旨の要望書を県知事に提出した。 その後,原告らの一部は,県から被告会社が県職員立会いの下で同年7月2日に話合いをすることを望んでいるという連絡を受けたことから,同日,鹿屋市の合同庁舎において被告会社と協議をもったが,被告会社のほうでは,実質的な話合いは事前協議で尽くしたとして,事業の説明と質疑応答のみを予定していたのに対し,原告らの側は実質的な話合いを行う説明会の日時等に関する協議と理解していたため,同日の協議は物別れに終わったところ,その日の夕刻になって,県知事は,被告に対し,本件処分場の設置及び林地開発行為について許可をするに至った。 なお,これに対し,原告らの一部が翌3日に県庁を訪れて,抗議文を提出するとともに,i町の農地から掘り起こされたコンクリート塊などを積載したダンプカー4台を県庁に横付けして,県知事に対し現地調査をするよう要求したところ,県知事は2週間以内にこれを行うことを約束した。 5 その後の事情 (1) 平成10年7月8日,県は,i町の農地において,地表から深さ3メートルの地点,4メートルの地点及び5メートルの地点の合計3か所から検体となる土壌を採取し,土壌の汚染に係る環境基準に定める24項目の調査を実施したが,同月31日に出された分析結果によれば,全項目が上記基準を下回っており,シアンも検出されなかった(甲55)。 その間の同月14日に県知事が上記農地を視察した際,その所有者からも再調査の要望があったため,県は,再調査を約束し,同年9月8日にこれを実行し,同農地の入口側2か所を縦6メートル,横6メートル,深さ6メートルの範囲で森光運輸に掘り起こさせたところ,10トントラック約1台分のコンクリート塊などが掘り出されたため,翌9日にかけて,森光運輸に,以前掘り出された廃棄物(土砂を含めて10トントラック約9台分,廃棄物のみで約6台分)と共にこれを搬出させた(甲55)。 (2) 平成11年1月22日,鹿屋市長は,原告らの一部を含む,本件処分場の建設に反対する住民と話合いをした際,鹿屋市が本件予定地を買い取るよう求める要望が出されたことから,再び被告会社に対して本件予定地の買取りを申し入れることで反対住民らと合意した(甲20の2,甲61の2)。 被告会社は,同月25日,本件処分場を建設するため,本件予定地の樹木の伐採行為に着手したところ,原告らは,同年2月11日に開催された住民集会で,伐採を着工とみなして直ちに提訴することはせず,引き続き安全性に関する説明会を開催するよう被告会社に求めるとともに,話合いの余地を残す方針を確認した(甲62の1,乙170)。 その間の同年2月5日,鹿屋市長,上記反対住民及び被告会社による三者協議が行われ,被告会社に対して改めて鹿屋市による本件予定地の買取りの申入れがされるとともに,住民への説明会の開催について協議が行われたが,被告会社側が,最初に町内会の役員,班長と話合いをした上で,町民全体に対する説明会を行いたいとしたのに対し,反対住民側は,代表者との話合いをしたことで説明会を開いたことにされるのを恐れ,あくまで住民全体への説明会の開催を求めたことから,両者の主張は平行線をたどり,鹿屋市長も同月25日ころ,説明会の開催に関する両者間の調整を断念した(甲61の1から3まで,甲62の2)。 (3) 平成11年4月18日,被告会社は,本件予定地に立入り禁止の杭打ちを実施して,本件処分場の建設工事(以下「本件工事」という。)に着手した(甲62の3,乙187)。 これに対し,原告らは,本件予定地の入口部分の道路(国道504号線)の反対側に監視小屋を建てた上,日曜日と祝日を除く毎日,21ある町内会の班員が交代で監視を行い,本件工事の作業が始まるとサイレンを鳴らして農作業等をしている仲間を集め,このようにして集った者において,説明会を開くまで工事を中止するよう,口々に作業員に訴えるほか,時には重機を取り囲んで作業ができないようにしたり,あるいは互いに手をつないで本件予定地の入口に立ちはだかってダンプカー等が入るのを阻止するなどの活動を行うようになったところ,Eら22名も,この活動に積極的に参加していた(甲19,乙119,乙172,乙196,弁論の全趣旨)。 その後,梅雨のために重機を使用しての本件工事を中断していた被告会社が同年7月7日に工事を再開したことから,原告らは,再び上記のような工事中止要請のための直接行動を開始したが,8月に入って警察から警告があったため,これを中止したところ,同年8月23日,原告らの大半を含む,本件予定地の周辺住民から本件工事の禁止を求める旨の仮処分の申立てが行われ(鹿児島地方裁判所平成11年ヨ第260号事件),いわゆる訴訟外で,仮処分の申立てに対する決定が出るまで本件工事を中止することが合意されたのを受けて,同年8月31日には工事現場から重機等が引き上げられたが,さらに,平成12年3月31日,上記住民の一部の申立てを認容して工事の禁止を命ずる仮処分決定が出されたことから,本件工事は本件予定地の掘削の段階で中断された状態となって現在に至っている(甲20の2,甲62の5,甲63,甲3016,乙119,乙120,乙187,乙196,弁論の全趣旨)。 なお,原告らの一部が平成17年3月23日にi町の農地を深さ9メートル程度まで掘削したところ,コンクリート塊,鉄くず,ビニールシート,ゴムシート,汚泥などが新たに発見された(甲57,弁論の全趣旨)。 第4 争点 1 本件差止請求に関する主張・立証責任についてどのように考えるべきか。 (原告らの主張) (1) 管理型最終処分場で埋立処分される産業廃棄物の中には,シアン,総水銀,アルキル水銀,鉛,六価クロム,カドミウム,ヒ素,PCB,有機リン等の重金属類,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン(以上の11物質は「有害11品目」と呼ばれ,最も初期の段階から規制されていた有害物質である。)などの,多くの重金属類及び化学物質類が含有されている。 管理型最終処分場で埋立処分される燃え殻は,産業廃棄物を中間処理施設で焼却処理をした時に発生した灰であり,集塵設備を備えている特殊な焼却施設でゴミが焼却された場合,その焼却後に発生する灰は,焼却施設の下側に残されているボトムアッシュと,集塵設備に集められたフライアッシュの2種類に分けられる。 燃え殻は,水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン及びそれらの化合物が,内閣府令に定める基準以上であれば遮断型最終処分場で,基準以下であれば管理型最終処分場でそれぞれ埋立処分されることになっているので,法律自体が,燃え殻に,水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン及びそれらの化合物が含まれていることを前提としている。 一方,フライアッシュ(ばいじん)に関しては,法令により,重金属類が溶出しないように,あるいは酸その他の溶媒に重金属類を十分に溶出させた上で,化学的に安定した状態にして処分又は再生するように規定されていることから,重金属類が含有されていることが想定されている。 また,同じく管理型最終処分場で埋立処分される汚泥については,水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン,シアン,有機リン,PCB,揮発性物質(トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン,四塩化炭素,1,2-ジクロロエチレンなど),チラウム,シマジン,チオベンカルブ等の有害物質が基準値以下であれば管理型最終処分場で埋立処分され,基準値以上であれば遮断型最終処分場で埋立処分されるか,基準値に適合するまで処理された上で,管理型最終処分場で埋立処分されるのであるから,法は上記物質が汚泥に含有されていることを前提にしている。 さらに,テレビの燐光体にはカドミウムが使われているし,水道管は鉛でできており,塗料,酸化剤及びプラスチックの可塑剤には,六価クロム等の重金属類のほか,多くの揮発性物質が含まれているが,これらも管理型最終処分場で埋立処分されるものである。 (2) ダイオキシン類(従来はポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシンとポリ塩化ジベンゾフランの2つとされていたが,近年ではコプラナーポリ塩化ビフォニールをも含むものとされている。)の発生メカニズムは未解明であるが,塩化メチルなどの有機塩素系の成分を含む物質を高温で燃焼したときに発生するものとされているところ,有機塩素系の成分を含むプラスチックや塩化ビニール類は大量に消費され,焼却場で焼却処分されているから,燃え殻やばいじんは,当然,ダイオキシン類を含有している。また,全国各地のゴミ処分場から環境ホルモンとされる化学物質が検出されていることからして,環境ホルモン類を含有していることも明らかである。 ダイオキシン類は,急性毒性,慢性毒性,発ガン性,催奇形性,生殖への悪影響,免疫毒性,内分泌作用攪乱性などの毒性があるとされており,その毒性はごく微量で短期間の曝露であっても人体に悪影響を及ぼすほど強く,耐性の減少などの点で子孫にも悪影響を及ぼす。 ダイオキシン類につき,国は現在,耐用1日摂取量(人が生涯にわたって継続的に摂取しても健康に影響を及ぼすおそれがない1日あたりの摂取量)(以下「TDI」という。)を人の体重1キログラム当たり4ピコグラムと定めているが,ダイオキシン類の毒性に照らすと,一定量以下であれば毎日摂取しても問題がない安全量は存在しないものというべきであり,TDIが1ピコグラムを超えることはあり得ない。そして,日本人は現在においても人体に悪影響を及ぼす高濃度のダイオキシン類を摂取しているのであるから,たとえわずかであっても,ダイオキシン類が含有された浸出液を本件処分場から漏洩させることは決して許されない。 (3) 産業廃棄物中に含まれる有害物質の以上のような危険性を前提にすると,原告らが次の3点,すなわち, ① 本件処分場に搬入される廃棄物には,有機又は無機水銀,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,セレン等の重金属類や,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン等の発ガン性のある揮発性物質,種々の毒性を有するダイオキシン類,環境ホルモン類等の各種有害物質が含まれていること, ② 上記有害物質は,処分場内の浸出液に溶解し,又は浮遊粒子物質として含まれて浸出液とともに移動し,処分場の外に流出して地下水に混入するか,浸出液の処理が不十分なため,それらの有害物質を含有した浸出液が放流されることにより,河川や地下水に混入すること, ③ 原告らは,本件処分場の周辺において,井戸を掘って地下水を生活用水として飲用しているので,上記のような有害物質が地下水に混入すれば,それが原告らの体内に摂取され,原告らの生命,身体に被害が生じ,又は人格権の一内容である,「一般通常人の感覚に照らして飲用及び生活用に供するのを適当とする水を確保する権利」が侵害されること を主張・立証すれば,本件処分場の建設が,原告らの人格権を侵害する一応の蓋然性を主張・立証したことになり,被告会社において「本件処分場からは未処理の浸出液は一滴も漏らさないこと」,「被告会社が放流する浸出液には人を発病させるに足るダイオキシン,環境ホルモン,重金属類等は処理され,除去されていること」を主張・立証しない限り,本件差止請求は認容されることになるものと考えるべきである。 (被告会社の反論) 本件処分場に搬入できる産業廃棄物は,鉱さい,汚泥,燃え殻,ばいじん類,がれき類,金属くず,ガラスくず,陶磁器くず,ゴムくず,廃プラスチック類などに限定されており,そのうち「がれき類」以下の6品目は無害なものとして安定型最終処分場にも埋め立てられ得るものであるから,本件処分場に搬入される廃棄物のすべてが有害であるわけではない。 また,重金属類等が人体にとって有害物質になるのはある濃度以上になったときだけであって,微量のそれは,むしろミネラルとして生物の生存にとって必要不可欠であるとさえ,いえるのである。そして,本件処分場に埋め立てることのできる有害物質の上限濃度(埋立基準)は,「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令」の別表第一において法定されており,無制限に高濃度の有害物質が埋め立てられることはない。 燃え殻,ばいじんは,焼却施設から発生する廃棄物で,本来的に重金属類やダイオキシン類等の有害物質を含んでおり,被告会社としても,ダイオキシン類を含む環境ホルモンについては健康被害の原因となる有害物質であると認識しているので,埋め立てる前にコンクリート固化処理を行うことにより,ダイオキシン類が付着した微粒子を団粒化し,埋立時における飛散や,浸出液への混入を防止することとしているほか,浸出液処理過程に環境ホルモン類を分解除去するための高度処理工程を追加しているところである。 TDIは,ダイオキシン類による健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で重要な指標となるものであって,世界保健機構(WHO)や各国において科学的知見に基づいて設定されているものであるから,ダイオキシン類には安全量がなく,安全量を前提としたTDIの考え方が間違っているとする原告らの主張は失当である。また,本件で問題となり得るのは,水からのダイオキシン類の摂取であるが,ダイオキシン類は油性であって,そもそも水に溶けにくいことから,食品等に比べると水から摂取されるダイオキシン類の量はごくわずかである。 管理型最終処分場では,法定された埋立基準以下の有害物質を含む廃棄物を埋め立てることを目的としており,そのために水処理施設の設置が法定され,浸出液処理により排水基準以下に処理された浸出液が放流される仕組みが採用されるとともに,埋立終了後も,浸出液が無害化されるまで処理が継続されることとされているのであり,未処理の浸出液が,たとえわずかでも漏れることが許されないのは当然である。 そして,本件処分場が改正共同命令に適合していること,本件処分場からは未処理の浸出液は一滴も漏らさないこと,被告会社が放流する浸出液からは,人を発病させるに足るダイオキシン,環境ホルモン,重金属類等が処理され,除去されていることは十分に立証されている。 2 本件差止請求の関係で問題となり得る,本件処分場の公共性・必要性やその立地条件の適否の点については,どのような評価をすべきであるか。 (被告会社の主張) (1) 「鹿児島県産業廃棄物処理計画」(乙72)によれば,平成11年3月の時点で県内に埋立てが可能な管理型最終処分場は1か所もない一方,管理型最終処分場で処分すべき産業廃棄物の量は,平成15年には年間12万9000トンになるものと推計されるため,県としては今後3か所程度の管理型最終処分場の整備に努めるものとされているが,現在においても管理型最終処分場は1か所も建設されておらず,そのため,県内の産業廃棄物の処分は宮崎県などの近隣の処分場に委託されているのが実情である。 全国的に管理型最終処分場が絶対的に不足している状況を考えれば,いつまで県外で埋立処分できるか分からない状況であることは間違いなく,県内に早急に本件処分場のような管理型最終処分場を建設する必要がある。 したがって,本件処分場は,高い公共性・必要性を有する。 (2) 本件予定地の地下水位は地表から約45メートルの深度にあり,20メートルから30メートルの層厚の地下水層がシラス層の中を南東方向に流れているので,仮に未処理の浸出液が漏出したとしても,それがシラス層を通過する際の希釈効果やろ過効果を考慮すれば,水質汚染が生じる可能性はまずないものといえる。 また,本件予定地の南東方向にある集落の中で最も近いk集落まででも約2キロメートルは離れている上,この集落では,ほぼ上水道が使用されており,d集落で上水道が引かれていない居宅については,被告会社が費用を負担して上水道を引くことになっている。 したがって,本件処分場は決して悪い立地条件にあるわけではない。 (原告らの主張) (1) 本件予定地は水源地であるところ,周辺地域住民の生命,健康,日常生活に密接不可分である飲料水などの生活用水の汚染を防止するためには,産業廃棄物の最終処分場の水源地への立地は回避すべきである。 また,本件予定地は,笠野原台地の北西端に位置する傾斜地であり,その地盤はシラスである。シラスは極めて透水性が高く,もろくて崩れやすいとされているので,そのような地盤に最終処分場を建設するのは避けるべきである。のみならず,傾斜地については,地中の水の流れにより火砕流堆積物にトンネルが穿たれ(パイピング現象),上部の火砕流堆積物の崩壊を引き起こす危険性が高い。 したがって,本件予定地は,最終処分場の建設には適しないことが明らかというべきである。 (2) 産業廃棄物の最終処分場一般について社会的存在価値(公共性・必要性)があることは否定しないが,上記の立地条件の悪さなどに由来する危険性に照らすと,本件処分場にそのような価値があるとはいえない。 3 本件処分場について改正共同命令への適合性が認められるかどうか。 (被告会社の主張) (1) 擁壁について 有限要素法による自重・地震解析の結果,本件処分場の擁壁はどの地点をとっても安全率が1.0以上であるので(乙20参照),自重や地震により擁壁が損傷・崩壊する危険性はない。 腐食防止措置としては,透水係数が毎秒10-9センチメートル以下となるような性能を有するベントナイトシートを敷設することで対処する。 (2) 遮水シートについて 本件処分場の遮水層は,別紙「遮水シート工断面図」に示されたとおりのものであって,改正共同命令1条1項5号イ(1)の(イ)及び(ハ)の双方を満たしている。 また,底部の遮水シート工の上部には更に50センチメートル以上の保護砂層を設けて突起物等による破損を防止し,法面の遮水シート工の上部には遮光不織布を敷設して劣化を防止する。このような措置により,不等沈下,突起物,車両走行によるシートの破損を十分に防ぐことが可能である。 なお,ポリエチレンシートが遮水シートとして使用された場合,その実際の耐用年数は様々な要因によって左右されるから,メーカーとしては,実際に使用された場合の耐用年数を明示し,保証できないことは当然であって,メーカーの保証がないことをもって,その性能が悪いと断定するかのような原告らの主張は誤りである。 本件処分場については,稼動後10年で埋立てが終了する計画であるから,これと埋立後の水処理に要する時間を合計した期間だけ,遮水シートが耐用すれば足りるのであり,また,遮水シートの耐用年数は,シート自体の強度の問題よりも,処分場の設計工事方法,開業後の日常の管理方法等によって左右されるものであるから,これらの要因を考慮せずに,遮水シートの耐用年数のみを論じることは余り意味がない。 そして,ニポロンシートSSは,留意事項の規定を上回る2ミリメートルの厚さを有し,低密度,高強度で,しかも低温時においても柔らかいという特性を有する優れた遮水シートであり,そのメーカーである日ケミ商事株式会社がした実験結果によれば,本件処分場で想定される熱,酸,アルカリ等の条件に十分耐用できる性能を有している(乙22参照)。 また,廃棄物の荷重,雨水の重量によって本件処分場の遮水シートが破損する可能性がないことは,株式会社地層科学研究所作成の「廃棄処分場遮水シート安定解析報告書」(乙16)により,本件処分場では上載荷重として1平方メートルあたり200トンを作用させても遮水シートは破損しない旨の報告がされている点から明らかであるし,廃棄物による最大負荷は1平方メートルあたり64.7トンであるから(乙25参照),トラックの荷重分(25トントラックで1平方メートルあたり7.8トン程度)を考慮しても,なお十分な強度を有している。 原告らは,遮水シートの破損事故例を列挙するが,これらはいずれも改正共同命令が施行される前に設置許可がされた施設におけるものであり,改正共同命令はこれらの事故を受けて,遮水シートの破損事故を未然に防止することを最大の目的としているところ,本件処分場はこの改正共同命令に適合しているのであるから,遮水シートの破損事故が生じる可能性はない。 加えて,本件処分場では,遮水シートの損傷検知・補修システムとして,T&OHシステム(負圧式検知システム)を採り入れる予定であるところ,このシステムにおいては,真空圧を利用してシートの損傷を検知し,損傷を発見した場合には,管理ホースで圧縮空気を送り込み,損傷部からの漏水が発生する前にこれを防ぐ応急措置や,同ホースで固化剤を加圧注入して漏水を止める恒久措置が可能で,廃棄物を撤去せずに遮水シートの補修ができ,電気式検知システムのように電極が腐食したりする心配はない。現に,改正共同命令の施行後,T&OHシステムを採用した処分場に関し遮水シートの損傷が報告された事例はない。 (3) 基礎地盤について 本件処分場の埋立地底部となる地面について,スウェーデン式サウンディング試験を実施したところ,3か所の測定点(貫入深さ2.50メートル,3.00メートル,6.75メートル)でそれぞれN値が88.8,89.9,84.5であり,地盤の強度として必要十分とされている20を大幅に超えていた(乙158参照)。また,笠野原台地のシラスに設置されている鹿屋市清掃センター関係の地質調査報告書(乙189)でも,概ね50以上のN値となっている。これらに照らすと,本件予定地の地盤であるシラスが本件処分場を設置するのに必要な強度を有していることは明らかである。 シラスの遮水性能については,通常シラスの透水係数は毎秒10-3センチメートル前後とされているが,上記の地質調査報告書によると,毎秒10-5から同10-6センチメートルとの結果が報告されているところ,本件処分場においては,遮水シートの破損に備えて,埋立地底部にベントナイトを混合した厚さ50センチメートルの改良土層を敷設した上,法面についても下地基盤としてベントナイトシート(透水係数毎秒10-9センチメートル以下)を敷設して,シラスの遮水性能の不足を補っている。 なお,上記の地盤改良に関し,当初に予定していたサンクリート(樹脂)からベントナイト(粘土)に変更した理由は,ベントナイトのほうが弾性に富み,亀裂に対して自己修復能力を有するなどの利点があり,各地の廃棄物最終処分場においても,遮水シートにベントナイトを組み合わせた遮水工が多数造られ,十分な実績を挙げているからである。 (4) 地下水集配水設備について 本件予定地のボーリング調査の結果によれば(乙2参照),地下水位は,西側で38.7メートル(地盤高は60.05メートル),東側で50.3メートル(地盤高は70.08メートル)と深く,湧水による遮水工損傷のおそれはないが,地下水集排水設備は設ける予定である。 (5) 保有水等集排水設備について 保有水等集排水設備は,中央に設置した直径600ミリメートルの主幹,これに20メートル間隔で直線形に敷設する直径300ミリメートルの枝管のそれぞれについて,大日本プラスチック株式会社製のダイプラハウエル管(高密度ポリエチレン管)を採用している。 このダイプラハウエル管が耐圧強度等に優れていることは,その技術資料(乙37)から明らかであり,異常な外的要因がなければ50年以上の耐用年数がある。 そして,本件処分場に敷設される上記集排水管の管径,設置勾配(1.5%),配管等からみてスムーズな排水が可能であることは,本件の保有水等集排水設備に関する検討で解析されているとおりである(乙27参照)。 現在全国の最終処分場の計画・設計のガイドラインとされている「廃棄物最終処分場指針解説」(乙19)(以下「指針解説」という。)によれば,保有水等集排水管の集水機能確保のために管の周囲を覆う「被覆材」選定の留意点として,土砂やゴミ,スケール等による目詰まりの防止が挙げられており,その管径設定に当たっても,スケールなどの成長による断面縮小にも対応し得るものでなければならないとされているところ,本件処分場では,指針解説及び「廃棄物最終処分場技術システムハンドブック」(乙40)等の被覆材の算定式に基づき,被覆材には,粒径50から150ミリメートルの栗石及び単粒砕石(集水管周辺には粒径20から30ミリメートルの単粒砕石)を使用し,万一,目詰まりが生じたときは,排水溝出口からの自走式噴射洗浄機による洗浄又は高圧エアーの吹込み等により修復する予定である。 (6) 調整池について 本件調整池は,遮水性の高いベントナイト及び腐食防止のためのゴムアスファルトシートの二重構造のものであるので,耐水性が高く,日常の適切な管理・補修により,50年以上維持することが可能である。 過去21年間の降雨量から計算すると,本件調整池の容量を超えて浸出液が埋立地内に貯留する日数は172日あるが,最も長く連続して埋立地内に貯留するのは122日で,これは過去117年で最も年間降水量が多かった年(平成5年)に関する計算であり(乙30参照),本件処分場は10年で埋立てが終了するのであるから,上記のような年に遭遇する可能性は極めて低く,本件処分場で埋立地内に浸出液が貯留することは,まずあり得ない。 (7) 浸出液処理設備について 浸出液処理設備については,本件処分場付近の過去の降雨データ及び埋立計画に基づき,1日の水処理量を390立方メートルとし,その水質につきBOD(生物化学的酸素要求量)は1リットルあたり1000ミリグラム,SS(浮遊物質量)は同じく300ミリグラムに設定して設計がされている(乙2参照)。もっとも,

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