H17. 7.22 青森地方裁判所 平成16年(わ)第239号,平成17年(わ)第19号 殺人,詐欺未遂被告事件

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H17. 7.22 青森地方裁判所 平成16年(わ)第239号,平成17年(わ)第19号 殺人,詐欺未遂被告事件」(2005/08/05 (金) 11:38:41) の最新版変更点

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判示事項の要旨:  被告人Aの共犯者Cに対する借金返済のため,被告人両名が共犯者Cと共に被告人Aの実父であり被告人Bの夫であった被害者を殺害することを共謀し,保険金詐取の目的で,Cの暴行により重篤な傷害を負っていた被害者を必要な救護等をせずに放置して殺害し,その後,被害者にかけられていた生命保険金の支払を請求したが未遂に終わった事案 (主 文) 被告人Aを懲役16年に,被告人Bを懲役14年にそれぞれ処する。 被告人両名に対し,未決勾留日数中各150日を,それぞれその刑に算入する。 (犯行に至る経緯)  被告人Aは,被害者及び被告人B夫婦の長男として出生し,青森県内の高等学校を卒業後,タイヤ製造業や木材加工業等に従事し,平成14年12月ころからは仏壇清掃業を営んでいたが,売上げが少ないことから,平成15年8月ころには商売をたたんで,以降は特に仕事をしていなかった。Bは,被害者の妻であり,平成7年ころから平成14年9月ころまで温泉旅館等で稼働したこともあったが,平成15年ころからは自宅近くの民宿の手伝いをしていた。  Bは,温泉旅館に勤めていた際に客として来たCと知り合い,その後,被害者やAに仕事を世話してもらうためCを2人に紹介した。Cは,平成15年8月初旬ころ,Aに対し,年老いた犬を預かって世話することを業とする老犬ハウス事業(以下「老犬ハウス事業」という。)を行う旨の架空の儲け話を持ちかけた。Aは,Bの話からCのことを元々信頼できると思っていた上,Cの老犬ハウス事業計画の具体性等から,Cの話が真実であると信じると共に,同事業に魅力を感じ,同月下旬ころにはそれまで営んでいた仏壇清掃業をやめ,老犬ハウス事業を業とする会社の設立を計画し,Cとの間で会社設立依頼兼受注書を取り交わし,老犬ハウス事業についてのコンサルタントを依頼した。ところが,その後,被告人両名は,Cから,会社設立や老犬ハウス事業に関連して金銭の支払を要求されるようになり,親族や知人から借金をするなどして何とか支払っていた。にもかかわらず,Cは,平成16年1月9日,Aに対し,同人が約束していた電話をCにかけなかったことをきっかけに,突然,老犬ハウス事業計画の中止を一方的に告げ,以降,被告人両名に対し,それまでの立替払金の清算等と称して,1億7300万円を支払うよう強く求めるようになった。被告人両名は,Cに言われるがままに,親族,知人及び消費者金融から借金をして少しずつこれを支払ってきたが,同年6月までには返済が困難になった。Aは,Cから返済を強く迫られ,同月初旬ころ,Cとの間で,被害者を車に飛び込ませて死亡させ,事故の相手から自動車損害賠償保険金を得る話になり,Aは,被害者及びBにその旨伝え,承諾させた。その後,Aは,被害者を青森県内各所に連れて行き,走行中の自動車に飛び込ませようとしたが,被害者が怖じ気づいて実行できなかったため,被告人らの当初の意図は実現されなかった。  すると,Cは,Aに対し,同年7月下旬ころ,被害者を生命保険に加入させ,同人を自動車に飛び込ませて死亡させて保険会社から死亡保険金をだましとることを持ちかけ,これをA及び同人を通じてBに承諾させ,少なくともこの時点で,被告人両名及びCの間に被害者を殺害することについての共謀が成立した。そして,C及び被告人両名は,平成16年8月上旬から同年9月上旬ころまでの間,被害者に,同人と保険会社2社及び日本郵政公社との間で,被害者を被保険者,Bを死亡保険金受取人とする死亡保険金額合計8800万円の生命保険契約を3口締結させた。その後,Aは,被害者を殺害すべく,同人を青森県内だけでなく秋田県内にも連れ出し,交通事故死を装って死亡させようとしたが,被害者が抵抗したため,同人を殺害できなかった。Cは,そうした被害者に業を煮やし,被害者が走行中の自動車に飛び込むことができなかった都度,同人に対し,殴る蹴るの暴行を加えた。そして,Cは,同年9月30日に被害者が自動車に飛び込むことができなかったことから,被害者に暴行を加えた上,翌日必ず死ぬように強く迫った。翌10月1日,Cは,被害者がまたしても自動車に飛び込むことができなかったことから,同日午後7時40分ころから午後8時40分ころまでの約1時間にわたり,青森県南津軽郡a町大字b字c所d番地e広場において,被害者の四肢を鉄パイプ様の物で多数回殴打した。これにより被害者はその四肢から皮下出血し,自力では歩くことができず,Aが運転する車にかろうじて乗ることができるほどの重傷を負ったため,被害者は,Aに連れられて自宅に戻った後,被告人両名に対し,救急車を呼ぶよう求めた。Aは,Cに電話をして相談したところ,Cがそのまま死んでしまうならその方が都合がよいなどと述べたため,Aもこれに応じて救急車を呼ぶなどしないこととし,Bにもその旨伝えて同人も了承した。 (罪となるべき事実)  被告人両名は,Cと共謀の上, 第1 前記のとおり,被告人AのCに対する借金返済資金調達のため,被害者を殺害し,同人を被保険者,妻である被告人Bを保険金受取人とする生命保険契約に基づく保険金をだまし取ろうと企て,被害者殺害の機会をうかがっていたものであるが,Cが平成16年10月1日午後7時40分ころから同日午後8時40分ころまでの間,青森県南津軽郡a町大字b字c所d番地e広場において,被害者(当時60歳)の四肢を鉄パイプ様の物で多数回殴打し,それによって自力で行動することができなくなるほどの瀕死の傷害を負わせ,被告人Aが被害者をその運転する車に乗せて青森県東津軽郡今別町大字f字g所h番地iの被告人両名方に連れ帰ったところ,被害者を直ちに最寄りの病院に搬送して適切な医療措置を講じれば,同人の死亡の結果を防止することが可能であり,かつ,同人を救護すべき義務があったのに,そのまま放置すれば同人が死亡することを知りながら,同人を死亡させて保険金をだまし取るため同人を遺棄して殺害しようと企て,同月2日午前零時30分ころ,同人を救護することなく,自宅1階の居間に放置し,よって,そのころ,同所において,同人を四肢多発打撲傷による外傷性ショックにより死亡させて殺害した 第2 被害者が日本郵政公社との間で同年9月8日に締結した,被害者を被保険者,被告人Bを死亡保険金受取人とする簡易生命保険契約(75歳満期2倍型特別養老保険)に基づく死亡保険金をだまし取ろうと企て,真実は,被告人両名及びCが被害者を殺害していたのに,これを秘し,あたかも,同人は,第三者に殺害されたかのように装い,同年10月14日午前10時ころ,同町大字j字k所l番地m所在のn郵便局において,同郵便局局員Dに対し,上記保険契約に基づく保険金の支払を請求する旨の保険金支払請求書等の書類を提出して800万円の死亡保険金の支払を請求し,その旨同人を誤信させ,日本郵政公社から上記死亡保険金の交付を受けようとしたが,被告人両名及びCが被害者を殺害した容疑で逮捕されたことから,その目的を遂げなかった ものである。 (量刑の理由)  本件は,被告人両名が,AのCに対する借金返済に充てるため,Cと共にAの実父でありBの夫であった被害者を殺害することを共謀し,被害者がCの暴行により重篤な傷害を負っていたにもかかわらず,保険金詐取の目的で,殺意をもって必要な救護等をせずに放置して殺害し(判示第1),その後,被害者にかけられていた生命保険金の支払を請求したが,上記殺人が発覚して被告人両名及びCが逮捕されたため,未遂に終わった(判示第2)という事案である。  被告人両名は,Cから老犬ハウス事業に関連して様々な名目で金銭の支払を要求され,これに応じられなくなるや,Cと共に,被害者を殺害して保険金をだまし取ることを安易に計画し,その後被害者を約3か月にわたり,青森県内外に連れ出しては走行中の自動車に飛び込むよう繰り返し迫り,恐怖から実行できない被害者を責めるだけでなく繰り返し暴行を加え,躊躇することなく被害者を殺害したばかりか,被害者殺害後も何ら後悔することなく保険金請求をしており,保険金を得るため手段を選ばない顕著な姿勢が看てとれるのであって,本件犯行の動機は身勝手かつ自己中心的で,戦慄さえ覚えさせるものであって,酌量の余地は全くない。また,被告人両名は,鉄パイプ様の物で激しく殴打され,瀕死の重傷を負って苦しみ,救急車を求めつつ次第に弱っていく被害者を確定的殺意をもって見殺しにしており,犯行態様も冷酷で悪質である。1人の尊い命が奪われたという結果が重大であることはもちろんのこと,被害者には,人生半ばで他人の手によって命を奪われることについての落ち度は全くなく,父親として,また,夫として,その人生の半分以上をともに過ごしてきた上,誰よりも信頼し,信用していた家族である被告人両名に対し,やっとの思いで救急車を呼ぶことを求めたにもかかわらず,冷たく無視され,手当もしてもらえずに放置され命が消えゆくのを待たれていたのであって,被害者の絶望感,理不尽さへの怒り,無念さは計り知れず,A以外の被害者の子らが本件犯行自体について強い怒りを覚えているのも無理からぬところである。さらに,被告人らは,被害者殺害後,口裏合わせをして被害者が第三者に殺害されたかのように装い,被害者に締結させていた保険契約に基づく死亡保険金の請求を行っているのであって,被害者殺害後の保険金詐取に向けた犯行態様も非常に悪質である。  Aは,Cとの連絡を密に取り,同人の意思をB,被害者その他の家族に伝えると同時に,Cに話を持ちかけられたとはいえ,被害者に自ら走行中の自動車に飛び込むよう指示し,被害者を青森県内外に連れ回し,早く飛び込むように強く命令するなどして被害者を精神的に追いつめた他,被害者を自己の運転する車両に乗せてその保護を引き受けながら,Cと相談した上被害者のために救急車を呼ばないこととし,被害者死亡の約1週間後には,生命保険金の請求を行うことをBに促すなど被害者の殺害及び生命保険金の詐取について自ら主体的に行動していたものである。被害者はAの実父であり,それまで慈しみ育ててくれた父親を自らの借金返済資金取得のためという理由で情け容赦なく殺害したAには,子としての親に対する尊敬や愛情のかけらも見られない。  Bについては,被害者は30年以上もの間連れ添った夫であり,お互いの人生で最も長く一緒に生活してきた相手を,保険金詐取という目的のために見殺しにしたものであって,被害者の信頼を裏切ったものである。また,保険金詐取に関しては,Bが死亡保険金受取人となっており,被告人らの保険金取得実現のために欠くことのできない役割を果たしている。  以上を総合すると,被告人両名の刑事責任はいずれも重大である。  他方で,本件は,被告人両名がCに言葉巧みに騙され,AがCに対して1億7300万円という極めて高額の借金を負っていると思い込まされ,Cによって精神的に追い詰められたことによるものであって,Cによって1つの家族が壊された結果の惨事であると見ることもできないわけではないこと,また,保険金詐取については幸いにして未遂に終わっていること,被告人両名は,本件について深く反省していること,A以外の被害者の他の子らの怒りはもっぱらCに向けられていること,Aについては,その供述が本件の事案解明に役立ったといえること,これまでに罰金前科があるのみであること,元妻が今後の監督を誓約していること,Bについても,瀕死の被害者に対して,消毒液をかけたりタオルで患部を冷やすなど,Bなりの救護措置を行ったこと,前科前歴がないことなど,被告人両名にとって有利な情状も認められる。  よって,以上の諸事情を考慮して,被告人両名に対しては,主文掲記のとおりの刑を科すのが相当と判断した。 (求刑 被告人Aにつき懲役18年,被告人Bにつき懲役16年) 平成17年7月22日宣告 青森地方裁判所刑事部         裁判長裁判官  髙 原    章             裁判官  室 橋 雅 仁             裁判官  香 川 礼 子

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