H18. 2. 9 東京地方裁判所 平成13年(行ウ)第375号,平成15年(行ウ)第555号 公害防止事業費負担決定取消請求事件

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平成18年2月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官          平成13年(行ウ)第375号 公害防止事業費負担決定取消請求事件     平成15年(行ウ)第555号 公害防止事業費負担決定取消請求事件     口頭弁論終結日 平成17年9月8日                               判          決    東京都千代田区丸の内二丁目5番2号       原告   三菱ガス化学株式会社 同代表者代表取締役   小高英紀       同訴訟代理人弁護士   山口信夫       同               笠 井 盛 男       同               笠井直人       同               小笹勝章       同               竹内章子    東京都新宿区西新宿二丁目8番1号       被告   東京都知事                       石 原 慎太郎       同訴訟代理人弁護士   西 道  隆 同               伊東健次       同指定代理人   中 村 次 良       同               平 野 善 彦       同               貫 井 彩 霧 同               直 井 春 夫 同               保 家   力 同               清 水 澄 男 同               石 原   肇 同               佐々木 裕 子 同               村 上 隆 弘      主       文  1 原告の請求をいずれも棄却する。    2 訴訟費用は原告の負担とする。    事実及び理由 第1 請求   1 平成13年(行ウ)第375号事件  被告が原告に対し,平成13年10月18日付け13環改有第172号「公害防止事業に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)」と題する通知及び同日付け同号「公害防止事業に係る管理費の事業者負担金の額(平成13年度分)について(通知)」と題する通知に係る公害防止事業費事業者負担の各決定を取り消す。 2 平成15年(行ウ)第555号事件 被告が原告に対し,平成15年8月22日付け15環改有第220号「公害防止事業(第二次)に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)」と題する通知及び同日付け同号「公害防止事業(第二次)に係る管理費の事業者負担金の額(平成15年度分)について(通知)」と題する通知に係る公害防止事業費事業者負担の各決定を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,平成12年に大田区大森南四丁目付近一帯の地中から発見されたダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する公害防止事業について,被告において,原告が,公害防止事業費事業者負担法3条の規定する「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者に当たると認定し,原告に対し,平成13年と平成15年の2回にわたり,同法9条に基づき当該公害防止事業費を負担させる決定をしたのに対し,原告が,上記各処分の違法性を主張して,その取消しを求めている事案である。 なお,被告は,上記各処分をした理由について次のとおり主張する。すなわち,発見された上記ダイオキシン類は,かつて同所で化学品製造工場(以下「本件工場」という。)を操業し,ナフタレンを原料として,無水フタル酸(プラスチックの可塑剤の原料)を製造し,熱媒体としてダイオキシン類の一種であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有するカネクロール400(鐘淵化学工業株式会社製造のPCB製品名。以下「KC400」ともいう。)を使用していた共栄化成工業株式会社(以下「共栄化成」という。)が,昭和39年から昭和40年にかけて本件工場を閉鎖して跡地(以下「本件工場跡地」という。)を更地化した際に地中に排出したものであり,その当時,同社の全株式を保有する最大の債権者で,同社の従業員を再雇用するなどしていた日本瓦斯化学工業株式会社(以下「日本瓦斯化学」という。)が三菱江戸川化学株式会社と合併して原告が発足したことから,原告は前記事業者に当たると主張する。 1 関係法令の定め等   (1) 公害防止事業  公害防止事業費事業者負担法(昭和45年法律第133号。以下「負担法」という。)は,公害防止事業に要する費用の事業者負担に関し,公害防止事業の範囲,事業者の負担の対象となる費用の範囲,各事業者に負担させる額の算定その他必要な事項を定めることを目的とし(1条),同法2条1項において,同法にいう公害の定義を環境基本法2条3項に規定する「公害」(環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭によって,人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること)と規定した上,負担法2条2項において,「公害防止事業」として1号から5号までの事業を列挙し,その3号に,ダイオキシン類により土壌が汚染されている土地について実施されるものであって,客土事業,施設改築事業「その他政令で定める事業」を掲げている。これを受けて,同法施行令1条3項3号は,「その他政令で定める事業」として,ダイオキシン類による土壌の汚染の状況がダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)7条の基準のうち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,当該地域内の土壌のダイオキシン類による汚染の除去等をする必要があるものとして,政令で定める要件(人が立ち入ることができる地域(工場又は事業場の敷地の区域のうち,当該工場又は事業場に係る事業に従事する者以外の者が立ち入ることができないものを除く。))に該当する地域(同法29条1項,同法施行令5条)として,都道府県知事により指定された「ダイオキシン類土壌汚染対策地域」(以下「対策地域」という。)内にある土地について行う,同法31条2項1号イ及びロ並びに2号に規定する事業,すなわち,「ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業」及び「その他ダイオキシン類により汚染されている土壌に係る土地の利用等により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な事業」並びに「ダイオキシン類により土壌の汚染を防止するための事業」(事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合において実施されるものに限る。)を挙げている。 (2) ダイオキシン類の意義 ダイオキシン法2条は,同法における「ダイオキシン類」の範囲を,①ポリ塩化ジベンゾフラン,②ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン,③コプラナーポリ塩化ビフェニルの3つと規定している。   (3) ダイオキシン類に関する環境基準 ダイオキシン法7条は,政府は,ダイオキシン類による大気の汚染,水質の汚濁(水底の底質の汚染を含む。)及び土壌の汚染に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとすると規定している。これを受けて,「ダイオキシン類による大気の汚染,水質の汚濁及び土壌の汚染に係る環境基準について」(平成11年環境庁告示第68号)は,上記基準(以下「環境基準」という。)に関し,同告示の別表の媒体の項に掲げる媒体ごとに,同表の基準値の項に掲げるとおりとし,環境基準の達成状況を調査するため測定を行う場合には,別表の媒体の項に掲げる媒体ごとに,ダイオキシン類による汚染又は汚濁の状況を的確に把握することができる地点において,同表の測定方法の項に掲げる方法により行うものとし,同告示の別表において,媒体「土壌」,汚染の基準値「1000pg-TEQ/g以下」の場合の測定方法を,土壌中に含まれるダイオキシン類をソックスレー抽出し,高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計により測定する方法と規定している。 (4) 公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者  負担法3条は,公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者を,「当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行ない又は行なうことが確実と認められる事業者」と規定している。   (5) 公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額 負担法4条1項は,公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額(以下「負担総額」という。)について,公害防止事業に要する費用で政令で定めるもの(以下「公害防止事業費」という。)の額のうち,費用を負担させるすべての事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じた額とすると規定し,同条2項は,公害防止事業が2条2項1号から3号まで又は5号に係る公害防止事業である場合において,その公害防止の機能以外の機能,当該公害防止事業に係る公害の程度,当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情により前項の額を負担総額とすることが妥当でないと認められるときは,同項の規定にかかわらず,同項の額からこれらの事情を勘案して妥当と認められる額を減じた額をもって負担総額とする旨規定している。   (6) 公害防止事業につき各事業者に負担させる負担金 負担法5条は,公害防止事業につき各事業者に負担させる負担金(以下「事業者負担金」という。)の額は,各事業者について,公害防止事業の種類に応じて事業活動の規模,公害の原因となる施設の種類及び規模,事業活動に伴い排出される公害の原因となる物質の量及び質その他の事項を基準とし,各事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じて,負担総額を配分した額とする旨規定している。   (7) 費用負担計画  負担法6条は,施行者(地方公共団体が公害防止事業を実施する場合にあっては当該地方公共団体の長-同法2条3項)が,公害防止事業を実施するときは,審議会の意見を聴いて,当該公害防止事業に係る費用負担計画を定めなければならないとする(6条1項)。費用負担計画には,①公害防止事業の種類,②費用を負担させる事業者を定める基準,③公害防止事業費の額,④負担総額及びその算定基礎並びに⑤前各号に掲げるもののほか,公害防止事業の実施に必要な事項を定めなければならず,上記公害防止事業費の額及び負担総額を定める場合においては,これらの額のうちに当該公害防止事業に係る施設の管理に要する毎年度の費用(以下「管理費」という。)が含まれているときは,当該施設の設置に要する費用(以下「設置費」という。)と管理費とに区分するものとし(同条4項),施行者は,第1項の規定により費用負担計画を定めたときは,遅滞なく,その要旨を公表しなければならない旨(同条5項)規定している。   (8) 事業者負担金の額の決定及び通知 施行者は,負担法6条1項の規定により費用負担計画を定めたときは,同法9条2項に規定する者を除き,当該費用負担計画に基づき費用を負担させる各事業者及び事業者負担金の額(負担総額が設置費と管理費とに区分されているときは,設置費に係る事業者負担金の額)を定めて,当該各事業者に対し,その者が納付すべき事業者負担金の額及び納付すべき期限その他必要な事項を通知しなければならない(負担法9条1項)。また,施行者は,6条2項2号の費用を負担させる事業者を定める基準に該当する事業者で,同条1項の規定により費用負担計画を定める際現に当該公害防止事業に係る区域に工場又は事業場が設置されていないものについては,当該工場又は事業場の設置後遅滞なく,同項の費用負担計画に基づき事業者負担金の額を定めて,当該事業者に対し,その者が納付すべき事業者負担金の額及び納付すべき期限その他必要な事項を通知しなければならない(負担法9条2項)。 (9) ダイオキシン法に基づくダイオキシン類土壌汚染対策地域の指定  ダイオキシン法29条は,都道府県知事は,当該都道府県の区域内においてダイオキシン類による土壌の汚染の状況が7条の基準のうち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,当該地域内の土壌のダイオキシン類による汚染の除去等をする必要があるものとして政令で定める要件に該当するものを対策地域として指定することができると規定するとともに(1項),対策地域を指定しようとするときは,環境基本法43条の規定により置かれる審議会その他の合議制の機関及び関係市町村長の意見を聴かなければならないと規定し(3項),都道府県知事は,対策地域を指定したときは,遅滞なく,環境省令で定めるところにより,その旨を公告するとともに,環境大臣に報告し,かつ,関係市町村長に通知しなければならないと規定している(4項)。 (10) ダイオキシン法に基づくダイオキシン類土壌汚染対策計画の策定    ダイオキシン法は,都道府県知事は,対策計画を定めようとするときは,関係市町村長の意見を聴くとともに,公聴会を開き,対策地域の住民の意見を聴かなければならず(31条3項),また,環境大臣に協議し,その同意を得なければならない(同条4項)とし,その決定後,遅滞なく,その概要を公告するとともに,関係市町村長に通知しなければならない(同条6項)としている。 なお,同法31条1項は,都道府県知事は,対策地域を指定したときは,遅滞なく,ダイオキシン類土壌汚染対策計画(以下「対策計画」という。)を定めなければならないとし,同条2項において,対策計画においては,次に掲げる事項のうち必要なものを定めるものとしている。 1号 対策地域の区域内にある土地の利用の状況に応じて,政令で定めるところにより,次に掲げる事項のうち必要なものに関する事項 イ ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業の実施に関する事項 ロ その他ダイオキシン類により汚染されている土壌に係る土地の利用等により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な事業の実施その他必要な措置に関する事項 2号 ダイオキシン類による土壌の汚染を防止するための事業の実施に関する事項 (11) ダイオキシン法所定の対策計画に基づく事業と負担法の関係  ダイオキシン法31条7項は,対策計画に基づく事業については,負担法の規定は,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に,適用するものとする旨規定している。 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 本件工場跡地付近区道下におけるダイオキシン類の発見   東京都下水道局が,平成12年2月ころ,共栄化成の工場跡地である東京都大田区大森南四丁目81番地(地番表記)に接する大田区道(12-171号線)において行った工事の掘削土からPCBが検出されたため,大田区において,上記区道敷につきボーリング調査を行い,3地点についてダイオキシン類を測定するとともに,7地点(3つの深度)についてPCB濃度を測定したところ,高濃度のPCB及び土壌環境基準(1000pg-TEQ/g)の16倍に当たる16000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出された。これを受けて,東京都環境局は,同年9月13日付けで大田区道におけるダイオキシン汚染の概要について公報した。(乙5,107の資料1,2) (2) 被告による調査   ア 被告は,平成12年9月22日,大田区のボーリング調査結果を踏まえ,諮問機関である市街地土壌汚染対策検討委員会(委員長T立正大学地球環境科学部教授,委員H東京農工大学工学部教授を含む計7名)において,ダイオキシン汚染の概況について説明するとともに,周辺の環境への影響の有無についての調査(以下「周辺環境調査」という。)の実施方法,詳細調査の考え方等について,同委員会の意見を聴いた(乙107,117)。 イ 被告は,平成12年11月20日,市街地土壌汚染対策検討委員会において,周辺環境調査の実施状況及び地歴調査の結果を報告するとともに,詳細調査計画の実施について同委員会の意見を聴いた(乙6,108)。 ウ 被告は,平成12年10月から同年12月にかけて,大田区道下のダイオキシン類が周辺地域の環境に及ぼす影響の有無を把握するため,大田区道に係るダイオキシン類環境調査(「周辺環境調査」)を株式会社島津テクノリサーチ(以下「島津テクノリサーチ」という。)に委託して実施し,その結果を基に,東京都環境局において,平成13年1月9日,大田区道下におけるダイオキシン類による汚染は,周辺環境に影響はない旨の報道発表を行った(乙109の1及び2)。 エ 被告は,平成13年1月から3月にかけて,株式会社テルム(調査機関の所在地神奈川県横浜市鶴見区寛政町20-1,分析機関の所在地群馬県太田市西新町14-7,計量証明事業登録番号群馬県濃度環第23号(以下,同社を「テルム」という。))に委託してダイオキシン類の汚染に関する詳細調査(以下「詳細調査」という。)を行った。テルムは,別紙1-1の図面中のNo.1ないしNo.31の各地点から土壌や油分等の試料を採取し,ダイオキシン類及びPCBの有無や濃度等を分析した。(乙8) オ 被告は,上記詳細調査の結果,区道に接する区域を中心に土壌環境基準を超える高濃度(最大570000pg-TEQ/g)の汚染地域を確認したとして,平成13年4月20日,市街地土壌汚染対策検討委員会に詳細調査の結果を報告した(甲69,乙7,9)。      被告は,さらに,平成13年5月から6月にかけて,上記調査を補充し,ダイオキシン法に基づく対策地域の指定を行うため,テルムに委託して,ダイオキシン類の調査,分析等(以下「策定調査」という。)を行った(乙10)。テルムは,策定調査において,新たに抽出した3地点(後記(3)エで指定された対策地域の外延より外の部分であるA,B,Cの3地点)においてボーリング調査を実施し,ダイオキシン類について,同地点から採取された土壌試料とともに,詳細調査時にNo.6,No.7,No.8,No.16-2,No.19,No.21の各地点の一定の深度から採取された保存試料について測定,分析を行った(A,B,C等の地点と対策地域との関係につき,別紙1-2の図面参照)。 カ 他方,東京都職員は,平成12年11月ころから12月ころにかけて,原告従業員らから事情を聴取し,資料の提出を受けるなどして調査をした(乙16,22,33,37,38)。 キ 上記調査の過程で,原告は,自らの調査の結果等を基に,平成12年11月8日,同月10日,同月16日,同月17日,同月22日に,それぞれ,被告に対して関係資料を提出し,同年12月27日に,これまでの調査結果を整理した上,原告は共栄化成に資本参加し子会社としていたが,経営に関与したことも,土地を利用したことも,廃棄物を埋めた事実もない旨記載した書面を提出した(甲85,86,乙38,108)。 ただし,上記場所においては,かつて,共栄化成が本件工場を操業し,ナフタレンを原料として,無水フタル酸(プラスチックの可塑剤の原料)を製造し,熱媒体としてダイオキシン類の一種であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有するKC400を使用していたが,昭和39年から昭和40年にかけて本件工場を閉鎖して本件工場跡地を更地化したという経緯はあった。 ク 被告は,平成13年4月20日,詳細調査の結果と汚染に係る範囲,汚染原因の検討,環境影響の評価,今後の対応について等を議題とし,市街地土壌汚染対策検討委員会の意見を聴いた上,詳細結果の概要と汚染原因者に費用の負担を求めていく旨今後の対応について公報した(乙9,113)。 ケ 以上の経緯を経て,被告は,平成13年4月23日,原告に対し,本件工場跡地周辺で発見されたダイオキシン類による土壌汚染について,詳細調査の結果等から,原告が承継した日本瓦斯化学が汚染原因者に当たるとして,原告において汚染土壌を処理するよう求め,同年5月14日までに実施する旨の意思表示がない場合には,負担法に基づき,被告が施行者となり,原告を事業者として公害防止事業を実施し,これに要する費用の負担を求める旨通知をしたが,原告は,被告の判断は承服できないとして,上記要請を拒否する旨の回答をした。 (3) 対策計画及び費用負担計画の策定までに至る経緯 ア 被告は,平成13年5月24日,東京都環境基本条例25条2項2号の規定に基づく東京都環境審議会(会長Y国立公衆衛生院顧問)に対し,ダイオキシン法29条の規定による対策地域の指定について諮問し,同月25日,同審議会会長から水質土壌部会(部会長F東洋大学教授)に付議された(乙40,41)。 イ 東京都環境審議会は,平成13年6月8日,東京都環境審議会水質土壌部会の審議を経て,同月12日,対策地域の指定について審議し(第16回東京都環境審議会),被告に対し,その範囲を別図(別紙2-1の図面中の斜線を施した部分と一致する。)のとおりとすることは適当であると認める旨答申した(乙42,43,50,71)。 ウ 被告は,平成13年6月8日,大田区長に対しダイオキシン類土壌汚染対策地域の指定についての意見を照会し,同月13日,被告提案の指定地域の範囲(上記イに同じ)で異存ない旨の回答を得た(乙44,45)。 エ 被告は,平成13年6月14日,上記答申及び回答に基づいて,東京都大田区大森南四丁目11番(住居表示の表記)並びに大田区道12-146号線及び12-171号線の土地の各一部の区域(別紙2-1の図面中の斜線を施した範囲)を,ダイオキシン法29条1項の規定に基づき対策地域として指定し(以下「本件対策地域」という。),同月20日,その旨を,東京都告示第824号をもって公告し,併せて,環境大臣に報告するとともに,大田区長に通知した(乙46,47の1及び2)。 オ なお,被告は,平成14年3月29日,東京都告示第395号をもって,本件対策地域の地番の表記(大田区大森南四丁目81番(地番の表記)4並びに同番9,同番11及び同番12の各一部並びに大田区道12-146号線及び12-171号線の各一部),別図(別紙2-2の図面中の斜線を施した部分)を改めて公告するとともに,原告に対して同公告について通知した(乙48,49,59の1及び2)。  カ 被告は,平成13年6月20日,東京都環境審議会に対し,負担法6条1項に基づく費用負担計画について諮問し,同案件は,同月25日,同審議会会長から水質土壌部会に付議された(乙60,61)。 キ 東京都環境審議会水質土壌部会は,平成13年7月30日に対策地域を視察し,同年8月6日に原告と被告の双方から意見を聴取し,同月24日に大田区大森南四丁目における本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第一次)について審議した(甲71の2,72の1)。  なお,同部会においては,原告から提出された同年7月16日付けの見解書が提出され,原告にこれを説明する機会が与えられた(甲85)。 ク 一方,被告は,平成13年8月10日,ダイオキシン法31条3項に基づき,対策計画の策定に当たって大田区長に意見を照会し,同月30日,同区長から,対策計画の策定に当たっては,住民への安全性や健康への影響に十分留意するとともに,環境に及ぼす影響が生じた場合には,迅速かつ適切に対処するよう要望する旨の回答を得た(乙52,53)。 ケ 被告は,平成13年8月25日,ダイオキシン法31条3項に基づき,住民の意見を聴くために公聴会を開催した(乙54)。 コ 東京都環境審議会(第18回)は,平成13年9月14日,上記カの費用負担計画について審議し,被告に対し,東京都大田区大森南四丁目における本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第一次)は適当である旨答申した(甲73の1,乙62)。 サ 被告は,平成13年9月18日,ダイオキシン法31条4項の規定に基づき,対策計画について環境大臣に協議し,同年10月2日に環境大臣の同意を得た(乙55,56)。 (4) 対策計画(第一次)の策定(乙23,46) 被告は,平成13年10月10日,ダイオキシン法31条1項の規定に基づき,以下のとおり,ダイオキシン類土壌汚染対策計画(第一次)を定め(以下「第一次対策計画」という。),同月17日,同条6項の規定に基づき,東京都告示1259号をもって,その概要を公告するとともに,大田区長に対して第一次対策計画につき通知した(乙57,58)。 ア 対策計画の名称  東京都大田区大森南四丁目地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画(第一次)  イ 事業の実施地域  平成13年東京都告示第824号(平成13年6月20日付け)により告示した本件対策地域の全域  ウ 事業の内容  実施地域の汚染土壌を掘削により除去し,良質土で埋め戻す。掘削した汚染土壌を搬出し,一時保管施設において保管する。  エ 事業費の額 (ア) 汚染土壌除去工事 4億5600万円 (イ) 一時保管施設の設置及び管理 ① 設置費 7300万円 ② 管理費(年間) 3500万円 オ 事業を実施する者 東京都 カ その他  一時保管施設において保管する汚染土壌の無害化のための処理に係る対策計画については,大田区大森南四丁目地域対策計画(第二次)において定める。 (5) 費用負担計画(第一次)の策定 被告は,平成13年10月10日,前記(3)コの答申を受けて,負担法6条1項に基づき,公害防止事業に係る費用負担計画(以下「第一次費用負担計画」という。)を定め,同条5項に基づき,東京都告示第1260号をもって,以下のとおり,その要旨を公表した(乙57,63,65)。 ア 費用負担計画の名称  東京都大田区大森南四丁目地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(第一次) イ 公害防止事業の種類  ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業 ウ 費用を負担させる事業者を定める基準  ダイオキシン法29条1項の規定に基づき本件対策地域に指定された大田区大森南四丁目の区域を含む土地を所有し,当該土地に所在するPCBを使用していた工場の建物及び設備を昭和39年から昭和40年にかけて除却し,当該土地を更地にした際に,PCBを排出して土壌の汚染を引き起こした事業者              エ 公害防止事業費の額         (ア) 汚染土壌除去工事         4億5600万円         (イ) 一時保管施設の設置及び管理    ① 設置費 7300万円 ② 管理費(年間) 3500万円 オ 負担総額及びその算定基礎 (ア) 汚染土壌除去工事 a 負担総額 3億4200万円 b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=4億5600万円×(1-1/4)=3億4200万円 (イ) 一時保管施設の設置及び管理 ① 設置費 a 負担総額     5475万円 b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=7300万円×(1-1/4)=5475万円 ② 管理費(年間) a 負担総額 2625万円 b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=3500万円×(1-1/4)=2625万円 カ 公害防止事業の実施に必要な事項 物価の変動その他やむを得ない事由により,公害防止事業費の額に変更を生じたときは,変更後の公害防止事業費の額を基礎として算定した額を負担総額とする。 キ その他 一時保管施設において保管する汚染土壌の無害化のための処理に係る費用負担計画については,大田区大森南四丁目地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(第二次)において定める。 (6) 事業者負担金の額の決定(第一次) ア 被告は,平成13年10月18日,原告に対し,第一次費用負担計画に基づき,負担法9条1項により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(管理費を除く。)を3億9675万円,納付すべき期限を各年度ごとに別途通知すると決定し,同日付け13環改有第172号「公害防止事業に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)」と題する通知書をもって,これを通知した。 イ また,被告は,第一次費用負担計画に基づき,負担法10条1項の規定により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(平成13年度分)を600万円,納付すべき期限を別途通知すると決定し,平成13年10月18日付け13環改有第172号「公害防止事業に係る管理費の事業者負担金の額(平成13年度分)について(通知)」と題する通知書をもってこれを通知した(以下上記ア,イの各決定を併せて「本件第一次決定」という。)(甲1,2,乙65ないし68)。 ウ 被告は,平成14年3月29日,原告に対し,本件第一次決定の通知に基づき,平成13年度分の管理費について,納付すべき期限(平成14年4月30日)を通知するとともに事業者負担金の額を302万9908円に変更した旨を通知した(乙69)。 (7) 第一期及び第二期工事 本件第一次決定後,第一次対策計画に基づき,本件対策地域における汚染土壌の掘削除去工事,本件対策地域における汚染土壌除去工事が,平成13年11月ないし平成14年3月(第一期)及び平成14年6月ないし平成15年3月(第二期)にかけて実施された(以下,それぞれ「第一期工事」,「第二期工事」という。)(乙23,81の1及び2,82の1ないし5)。 (8) 費用負担計画(第二次)の策定 東京都環境審議会水質土壌部会は,平成15年7月7日及び同月28日に大田区大森南四丁目における本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第二次)について審議し,同月30日,東京都環境審議会は,被告に対し,東京都大田区大森南四丁目における本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第二次)について答申した。なお,同負担計画は,汚染土壌の無害化処理に関する第二次対策計画(以下,第一次対策計画と併せ,「本件各対策計画」という。)に伴うものである(甲87)。 被告は,この答申を受けて,平成15年8月22日,負担法6条1項の規定に基づき,費用負担計画(以下「第二次費用負担計画」といい,第一次費用負担計画と併せて「本件各費用負担計画」という。)を定め,同条5項の規定に基づき,東京都告示第974号をもって,以下のとおりその要旨を公表した。 ア 費用負担計画の名称  東京都大田区大森南四丁目地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(第二次) イ 公害防止事業の種類 ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業 ウ 費用を負担させる事業者を定める基準  ダイオキシン法29条1項の規定に基づき本件対策地域に指定された大田区大森南四丁目の区域を含む土地を所有し,当該土地に所在するPCBを使用していた工場の建物及び設備を昭和39年から昭和40年にかけて除却し,当該土地を更地にした際に,PCBを排出して土壌の汚染を引き起こした事業者 エ 公害防止事業費の額 (ア) 汚染土壌からPCBを分離する処理に係る額 ① 処理費   9億0700万円 ② 管理費(年間)   6200万円 (イ) 分離したPCB液を無害化する処理に係る額 ① 処理費 8900万円 ② 管理費(年間) 500万円 オ 負担総額及びその算定基礎 (ア) 汚染土壌からPCBを分離する処理に係る額 ① 処理費 a 負担総額 6億8025万円 b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=9億0700万円×(1-1/4)=6億8025万円 ② 管理費(年間) a 負担総額 4650万円 b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=6200万円×(1-1/4)=4650万円 (イ) 分離したPCB液を無害化する処理に係る額 ① 処理費 a 負担総額 6675万円 b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=8900万円×(1-1/4)=6675万円 ② 管理費(年間) a 負担総額 375万円  b 算定基礎 負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=500万円×(1-1/4)=375万円 カ 公害防止事業の実施に必要な事項 物価の変動その他やむを得ない事由により,公害防止事業費の額に変更を生じたときは,変更後の公害防止事業費の額を基礎として算定した額を負担総額とする。 (9) 事業者負担金の額の決定(第二次) ア 被告は,平成15年8月22日,原告に対し,第二次費用負担計画に基づき,負担法9条1項により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(管理費を除く。)を7億4700万円,納付すべき期限を各年度ごとに別途通知すると決定し,同日付け15環改有第220号「公害防止事業(第二次)に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)」と題する通知をもってこれを通知した(甲92)。 イ また,被告は,同日,第二次費用負担計画に基づき,負担法10条1項により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(平成15年度分)を825万円,納付すべき期限を別途通知すると決定し,同日付け15環改有第220号「公害防止事業(第二次)に係る管理費の事業者負担金の額(平成15年度分)について(通知)」と題する通知をもってこれを通知した(以下上記ア,イの各決定を併せて「本件第二次決定」といい,本件第一次決定と併せて「本件各処分」という。)(甲93)。 (10) PCB,ダイオキシンの意義,特性とカネクロール等(乙1,87,90,93,105,127,128)    ア PCBの意義,化学構造  PCBは,2つのベンゼン環がつながったビフェニル(C6H5-C6H5)を基本骨格とし,この基本骨格上の1ないし10個の水素原子が塩素原子に置換された分子(塩化ビフェニル)の総称で,天然には存在しない合成化学物質である。  PCBには,置換した塩素原子の数及び位置によって,10種類の同族体と209種類の異性体が存在する。同族体とは塩素数が同じPCBを,異性体とは更に詳細に塩素の置換する位置の違いによってPCBの種類を分類したものを指す。 イ コプラナーPCBとダイオキシン  ダイオキシン法は,200種類を超えるPCB異性体のうち,基本骨格と塩素数の関係から,構造的に扁平的な構造をとることができ,その扁平な構造が,ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD),ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)と類似し,これらと同様の毒性を示す12種類のPCB異性体を,「コプラナーPCB」として,PCDD,PCDFとともにダイオキシン類として規定している。  なお,ダイオキシン法及び環境基準では,最も強い毒性をもった2,3,7,8TCDD(4塩化ジベンゾーパラージオキシン)を基準に,他の異性体の毒性の強さを表すことになっており,これを,毒性等価量(TEQ)という。我が国における環境基準値(汚染対策の発動基準)は,大気につき0.6pg-TEQ/立方メートル以下,水質につき1pg-TEQ/リットル以下,土壌につき1000pg-TEQ/g以下(250pg-TEQ/g以上の場合は調査実施)とされている(pg=ピコグラム=1兆分の1グラム)。 ウ PCBの性質  PCBは,常温では無色透明の液体で,熱に強く,沸点の高い化学物質である(沸点は210ないし420℃といわれている。)。  また,PCBは,親油性が強く,水にはほとんど溶解せず(溶解度は0.55ないし2400μg/?),土壌中の有機炭素に吸着しやすい。 エ 我が国におけるPCB製品の種類,製造,利用の状況等とカネクロール(ア) PCBは,昭和4年(1929年)に米国で初めて工業化され,日本 国内においては,昭和25年ころから使用され始め,昭和29年に鐘淵化学工業株式会社がカネクロール(KC)の商品名でPCBの国内生産を開始した。カネクロールには同族体組成(塩素数の異なるPCBの割合)が異なる数種類の製品があり,KC200,KC300,KC400,KC500,KC600の順に塩素含有量が増え,例えば,KC300は三塩化ビフェニル,KC400は四塩化ビフェニル,KC500は五塩化ビフェニル,KC600は六塩化ビフェニルが,それぞれ最も多く含まれる。 (イ) 三菱モンサント株式会社も,昭和44年から,アロクロールの名称でPCB製品を市販するようになった。その商品名に付された番号の下2桁の数字は塩素含有量にほぼ対応しており,KC300,400,500,600の組成は,それぞれAr1242,1248,1254,1260の組成に相当する。 (ウ) PCBは,上記ウの性質等から,工業材料として優れた特徴を持つため,熱媒体,トランス又はコンデンサ用の絶縁油,ノンカーボン紙のほか,潤滑油,塗料,シーラント剤等に広く使用されるようになった。カネクロール製品についてみると,KC300やKC400は絶縁油や熱媒体として,KC500は絶縁油や接着剤の可塑剤として,使用されていた。 (エ) ところが,昭和43年6月ころから,福岡県を中心に西日本一帯の23府県に特異な皮膚症状(油症)を主訴とする患者が続発し,その後の調査の結果,カネミ倉庫株式会社が製造する米糠油(カネミ油)の製造工程のひとつである脱臭工程において,熱媒体として使用していたKC400がカネミ油に混入したため,患者らがカネミ油とともにKC400を経口摂取することにより引き起こされた中毒症状であることが判明した(いわゆる「カネミ油症事件」)。同事件を契機としてPCBは生態・環境への影響があることが明らかになり,昭和47年までに製造が中止され,昭和49年度までに製造・輸入,新規使用等が禁じられた。 (オ) PCBは,上記製造中止となるまでの間に,5万8787トンが生産されたが,このうちカネクロールが5万6326トンと生産量の約96パーセントを占めていた(乙90)。  3 争点(争点に関する当事者の具体的主張は,後記第3「争点に対する判断」において必要な限度で摘示するとおりである。) (1) 本件各費用負担計画に係るPCBは,共栄化成が昭和39年から40年にかけて本件工場跡地を更地化した際に地中に排出したものか否か。 (2) 原告が,負担法3条の規定する「事業者」に該当するか否か。 (3) 本件各処分に至る審議会の過程において,手続に処分の取消事由となる違法があるか否か。 第3 争点に対する判断 1 前記前提事実並びに証拠(甲4ないし31,32の1及び2,33の1及び2,34,35ないし37,38の1及び2,44,45ないし48(甲45ないし48については,後記認定に反する部分を除く。),49,50の2の1,81,83ないし86,95,乙4,8ないし12,13の2,14,15ないし23,25,26,28,29,30(ただし,後記認定に反する部分を除く。),31ないし37,48,50の2の2ないし50の2の8,51の1及び2,64,73,76,77,85,88,99,100,103,104,108,109の1及び2,証人M,同K(後記認定に反する部分を除く。),同P(後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,認定経過が理解しやすいように証拠を示しておくべき箇所については,必要な限度で適宜証拠を掲記する。 (1) 本件工場におけるPCBの使用並びにこれにかかわる共栄化成及び原告の事業の沿革,経緯等  ア 共栄化成は,昭和25年8月,化学工業品の販売を目的として設立され(本店東京都中央区日本橋通1-5東海ビル),昭和28年,東京都大田区森ケ崎町81番所在の本件工場において,プラスチックの可塑剤の原料である無水フタル酸の製造(月産約30トン),販売を開始した。 イ 原告は,昭和46年に,三菱江戸川化学株式会社と日本瓦斯化学(昭和26年に,天然ガス化学工業品の製造・販売等を目的として設立された。)が対等合併し,三菱瓦斯化学株式会社として発足したものである。 ウ 本件工場においては,当初,爆発事故が複数回起きたことから,共栄化成は,昭和35年ころ以降,無水フタル酸の製造工程において,原料であるナフタレンを容器内で加熱して液状にするための熱媒体として,燃えにくいPCBであるKC400を使用するに至った(甲86,乙15,16)。   なお,共栄化成では,同じく熱媒体として,アルキルナフタレンを主成分とするSKオイル(綜研化学株式会社が製造,販売する熱媒体油。現在の製品名KSKオイル)も使用していた(乙99,104)。 エ 日本瓦斯化学は,無水フタル酸の安定供給を確保することを目的として,昭和35年10月,共栄化成の株式10万株を取得し,共栄化成の負担する原料代金1000万円余を立替払するなどして金融支援を行うとともに,昭和36年10月,日本樹脂化学株式会社を吸収合併し,岡山県倉敷市所在の同社水島工場(昭和35年に無水フタル酸を原料とする可塑剤及びキシレン樹脂の製造設備が完成していた。以下,同工場を「水島工場」という。)を自社の一部門とした。水島工場では,カネクロールを,可塑性製造設備の可塑剤蒸発釜及びキシレン樹脂製造設備の反応釜の加熱用の媒体として使用していた。 オ 日本瓦斯化学が昭和35年10月に共栄化成の株式10万株を取得した後,本件工場は,月産約300トンの設備に増強された。昭和37年当時,共栄化成の敷地には,5つのプラントが設置されており,無水フタル酸の製造プラントは3系列あって,そのうちの1系列において熱媒体としてKC400が使用されていた(乙16)。なお,昭和36年ころ,本件工場においては,無水フタル酸の原料であるナフタレンが品薄で入手困難なときに,ナフタレンを含有するコールタール中の中質油留分を購入し,蒸留することによりナフタレンを得ていた。 カ 日本瓦斯化学は,昭和37年4月から同年10月にかけて,共栄化成の株式30万株を取得し(甲20),同社を100パーセント子会社化し,同月,日本瓦斯化学の専務取締役であるAが共栄化成の代表取締役に就任した。 キ 本件工場の敷地である東京都大田区森ケ崎町81番(昭和39年9月,森ケ崎町は町名変更により大森南四丁目となる。)の土地(967坪7合2勺)及び同所82番の土地(1381坪2合8勺)は,昭和25年4月からB(共栄化成設立後,その代表取締役となる。)が所有し,共栄化成設立後同社に賃貸していたものであるところ,日本瓦斯化学は,昭和37年7月3日,Bから,上記各土地及び同土地上の共栄化成所有の工場等の建物の約半分(建坪275坪6合)を買い受け,共栄化成に賃貸した(甲81,乙11,12,16,33,34,35)。 ク 共栄化成は,銀行から派遣された常務取締役が一部の取引先に対して融通手形を濫発するなどして,昭和38年秋ころから業績が悪化し,日本瓦斯化学から度々金融支援を受けるようになった。   (2) 共栄化成の整理と本件工場跡地の更地化の状況 ア 共栄化成は,昭和39年2月末,支払手形の不渡りによって事実上倒産し,工場を閉鎖して私的整理を進めることとなり,旧代表取締役に代わり,日本瓦斯化学の管理課長Cが共栄化成の代表取締役に就任するに至った(乙29,証人P)。 イ 昭和39年3月28日,共栄化成の債権者の申立てにより同社財産の一部につき仮差押決定がされ,同年4月ころ開催された共栄化成の債権者会議において,債権者から日本瓦斯化学の責任追及を求める意見が出されたことなどから,日本瓦斯化学は,同月23日,常務会において,共栄化成の債権者に対してその債権の約6割相当額(1億2376万円)を負担(補填)することを承認した(甲5)。 ウ このような経緯の下で,昭和39年4月ころ,本件工場の操業が停止され,同年5月1日付けで,共栄化成の従業員の多数(製造課長K,業務課長を含む。)が,日本瓦斯化学やその関連会社に採用されるに至った。その結果,共栄化成には,同社の整理の事務を担当する経理課長と女性従業員1名,工場装置の除却を行うまでの工場の管理に当たる業務課長と運転手等が残留することとなった。なお,共栄化成の元業務課長は,日本瓦斯化学の従業員に採用された後も現地にとどまり,工場装置の除却を行うまでの工場の管理に当たるとともに,共栄化成の残務整理及び解体工事の監督を務めた。(乙30) エ 日本瓦斯化学は,昭和39年5月ころ,共栄化成の債権者会議において共栄化成の各債権者から債権額の60パーセントの価格で全債権を買い取り,整理を進める方針を提案し,この方針に沿って各債権者と交渉を進め,同年8ないし9月ころ,各債権者から全債権を買い取った。  こうして,日本瓦斯化学は,共栄化成の従業員に対する給与支払等の整理費用の貸付けや,共栄化成の金融機関に対する借入金の代位弁済,一般の債権者からの債権の買取り等の結果,共栄化成に対する唯一の私債権者となった。(乙29) オ 債権者問題が解決したのに伴い,本件工場の機械装置等の処分が進められるに至った(甲49)。 カ 一方,日本瓦斯化学は,昭和39年夏ころ,水島工場において,キシレン樹脂製造設備を増設するとともに,反応釜XR-1を1基増設し,運転することになった。このように,日本瓦斯化学は,水島工場で無水フタル酸の精製増加を計画していたことから,共栄化成からの精製装置の一部を買い取ることとした(甲42の8,48,83,乙36)。 キ 日本瓦斯化学の昭和39年9月28日開催の常務会において,共栄化成の資産処分に関する件が議題とされ,共栄化成の代表取締役として同社倒産後に派遣されたCが,原告の総合企画室管理課長として提案説明を行った。同常務会では,SKオイル約8トンやカネクロールタンクを含め,30を超える品目について,査定価格が示された。(甲6) ク 昭和39年9月から10月ころ,日本瓦斯化学は,共栄化成のプラント解体撤去工事に際して,解体・撤去に当たり事故を予防し安全を確認する等の理由から,共栄化成製造課長として水島工場への機器類の移転を担当していたKを現場に出張させ,水島工場へ移す機器の選定や輸送の手配を行わせた(甲45)。 ケ 日本瓦斯化学は,昭和39年12月,共栄化成の所有物件の処分について常務会に提案した上,共栄化成において,同月から昭和40年3月にかけて,三菱瓦斯化学の斡旋・選定に係る外部業者に委託して,本件工場の建物等の解体作業を行った。なお,上記常務会に提出された提案書には,卓球台,実験台を含む計277の物件が記載されていたが,KC400の記載はなかった(甲8)。 コ 以上の経緯を経て,共栄化成の工場設備は撤去され,本件工場跡地は更地化された。なお,上記撤去工事当時,本件工場跡地上には,東側に,粗製無水フタル酸精製工場3棟,オルソキシレンタンク,事務所が,西側に,粗製ナフタレンの蒸留設備,無水フタル酸の精製装置,倉庫が,それぞれ北から南に向けて配置されていた(乙17ないし22)。 サ 上記更地化後の昭和40年2月6日,共栄化成の工場建物12棟について滅失登記(昭和39年12月20日取壊しを原因)がされ,昭和41年9月には,日本瓦斯化学において本件工場の敷地の借地権を坪約10万円(2億1141万円)で買い取り,その代金債務を共栄化成に対する貸付金残金債権(2億9900万円)の一部に相殺充当した上,共栄化成の清算結了による解散登記がされた(甲9ないし11)。 (3) 本件工場跡地(特に本件対策地域及び周辺)の所有,使用状況(甲12ないし14,乙11,13の2,28,48,88) ア 本件工場跡地のうち,本件対策地域の対象地は,大田区大森南四丁目81番4,同番9,同番11及び同番12の各土地(以下,同所所在の土地については,所在は略して称する。)の一部並びに大田区道12-146号線及び12-171号線の各一部であり,81番4,9,11及び12の土地は,いずれも,日本瓦斯化学の所有する81番の土地の一部であったところ,昭和41年12月,東京都大田区大森南四丁目81番の土地のうち,現在の81番9の土地を含む西側約760平方メートルの部分については,日本瓦斯化学から東鋼工業株式会社に対し,ケーブルドラム置き場として賃貸された。  イ その後,日本瓦斯化学の所有する81番の土地は,昭和42年11月に同番1と同番2の土地に分筆され,昭和43年3月に同番1の土地から同番4,5及び6の土地が分筆された後,81番4の土地については,同年8月に大田区に売却され,81番6の土地については,日本酸素株式会社(以下「日本酸素」という。)に売却された。81番5の土地は,昭和43年7月30日,有限会社羽田ハウジングに売却され,81番1の土地は,昭和42年12月30日,82番の土地と共に日本酸素に売却された。   また,81番9の土地については,81番5の土地から分筆された上,昭和42年10月に株式会社石川運送(以下「石川運送」という。)に売却され,81番11及び12の土地については,昭和44年12月に81番6の土地から分筆された上,81番11の土地が雨宮産業株式会社(以下「雨宮産業」という。)に,81番12の土地が株式会社巴商会(以下「巴商会」という。)にそれぞれ売却された。 ウ 81番4の土地は,大田区道12-146号線と12-171号線の交差点の隅切り部分として使用されて現在に至っている。 エ 分筆後の81番11及び12の土地を含む81番6番の土地は,昭和43年7月以降,高圧ガスの製造(充填)所,販売事業所,貯蔵所として使用され,現在,81番11の土地は,高圧ガスを配送するトモエ運輸株式会社の駐車場として使用され,81番12の土地には,ジャパンガス株式会社の事務所が建てられている。なお,高圧ガスの製造(充填),貯蔵,販売の過程には,PCBを使用する工程等はない(乙14)。 オ 81番9の土地上には,昭和46年に,石川運送所有の3階建てビルが竣工し,当初1階事務所・車庫,2,3階社宅として使用されていたが,現在,1階倉庫,2,3階住宅として使用されている。 カ 昭和43年ころ,石川運送の所有する81番9の土地と,雨宮産業の所有する81番11及び日本酸素が所有する81番6の土地との間及び両土地と北側区道との境には,共栄化成存続時から塀が存在した(乙21,88-昭和46年4月25日撮影の写真)。 (4) PCBの発見から本件各処分に至る経緯 ア 土壌汚染の発見と調査 (ア) 大田区が,本件工場跡地である東京都大田区大森南四丁目81番地に接する大田区道(12-171号線)において行ったボーリング調査の結果,高濃度のPCB及び土壌環境基準(1000pg-TEQ/g)の16倍に当たる16000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出されたのを受けて,被告は,以下のとおり,土壌汚染の範囲,程度その他汚染の状況,汚染された土地の履歴及び関係者からの事情聴取等の調査を進めた(乙6,7)。 (イ) 周辺環境調査   被告は,平成12年10月から同年12月にかけて,大田区道下のダイオキシン類が周辺地域の環境に及ぼす影響の有無を把握するため,周辺環境調査を島津テクノリサーチに委託して実施した。  上記周辺環境調査の結果報告書によれば,土壌(表土が露出している土壌)6か所,大気1か所,地下水3か所,水底の水質底質3か所について,ダイオキシン類及びPCB等の濃度を測定した結果,すべての地点で環境基準を下回り,本件工場の敷地内の調査地点(北西側の地表付近2地点)における土壌のダイオキシン類濃度については,63pg-TEQ/g及び38pg-TEQ/g,同PCB濃度については,0.22mg/kg,0.072mg/kgと,環境基準を大幅に下回る数値が測定された。  上記結果を基に,被告は,周辺環境調査の結果,大田区道下のダイオキシン類が周辺環境に影響を及ぼしていないことが判明したとして,平成13年1月9日に上記周辺調査結果の要旨を公表した。

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