H18. 1.18 広島地方裁判所福山支部 平成17年(わ)第198号 殺人被告事件

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長年にわたり覚せい剤を使用し,被告人夫婦に暴力を振るうなどしていた被害者(長男)を,金属バットで殴打するなどして殺害した被告人(父親)に対し,自首減軽の上,懲役3年6月の刑が言い渡された事例 判     決 主     文 被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。 理     由 (犯行に至る経緯)  被告人は,昭和40年に婚姻し,1男2女をもうけた。被告人の長男Aは,小学生のころから問題行動を繰り返し,中学3年生のころから素行の悪さが著しくなって,窃盗やシンナーの吸引といった非行により2度少年院に送致され,その後,一時職に就くことがあったものの長続きせず,成人してからは覚せい剤を使用するようになり,以後,覚せい剤取締法犯等により何度も服役した。被告人夫婦は,Aを覚せい剤から切り離そうと,何度か,Aが覚せい剤に手を出している旨を警察に通報し,それを切っ掛けとして検挙されたAが刑務所で服役するということもあったが,Aの更生を期待し,服役先に面会に行くなどしていた。そうであるにもかかわらず,Aは,何度服役しても,出所後程なく覚せい剤の使用を再開するということを繰り返し,被告人夫婦の忠告に耳を傾けなかったばかりか,警察へ通報されたことを恨んで,「おまえらが言わなけりゃあ捕まらんのじゃ。警察に言うたら,殺すぞ。」などと言うようになり,被告人夫婦は,Aの覚せい剤使用に気付いても,警察に相談することは困難になった。さらに,平成7年ころ以降,Aは,被告人らに注意された際などに,家の中の物を投げたり壊したりして暴れ,被告人夫婦に暴力を振るうようにもなった。  被告人は,平成11年6月にAが刑務所から出てくると,再びAを被告人方に同居させたが,Aは,これまでと同様,出所後程なくして覚せい剤の使用を再開し,家の中の物を壊して暴れるなどした。さらに,Aは,被告人に対し,時折,激しい暴行を加え,そのために,被告人が前歯を折ったり,肋骨を骨折するということもあった。もっとも,Aは,平成15年2月から知人が営む会社で働き始め,しばらくはまじめに出勤したため,その間は,被告人も,ある程度落ち着いた時間を確保することができた。ところが,平成17年になると,Aは,ほとんど仕事に出なくなって,覚せい剤にふけるようになり,被告人夫婦に対し,頻繁に金を要求しては乱暴な振る舞いに及ぶなどし,さらに,深夜,頻繁に,2階で不気味な物音を立てたり,叫び声を上げるようになった。被告人夫婦は,神経をすり減らし,安心して寝ることもできず,不安を感じながら堪え忍ぶ日々を過ごし,同年5月には,いくつかの病院に対し,Aを入院させられないかと相談したが,結局,Aを受け入れてくれる病院は見付からなかった。このような状況の下で,疲弊し,絶望感を深めた被告人は,同年7月10日ころには,Aを殺して自分も死のうなどと漠然と考えるようになっていた。  同月15日午前零時ころ,Aは急に起き出して被告人の妻に食事を作るように要求し,同女から少し待つように言われると,突然,大声を出して暴れ始め,同女を思い切り突き飛ばすなどした。これを見た被告人は,「どうにもならん。このままでは私か妻のどちらかが殺される。いずれ私たちが死ねば,残されたAが親戚などに迷惑を掛けるだろう。このままAをこの世に置いていってはいけない。」などと考え,Aを殺害しようと決意した。そして,同日の朝,被告人は,妻が仕事に出掛けた後,金属バットを持って,Aがいる被告人方2階に赴いた。 (罪となるべき事実)  被告人は,平成17年7月15日午前8時30分ころ,広島県三原市a町bc番地d被告人方2階において,長男A(当時39歳)を殺害しようと企て,就寝中の同人の頭部等を金属バットで多数回殴打するなどし,よって,そのころ,同所において,同人を頭部打撲傷に基づく脳挫傷により死亡させて殺害したものである。なお,被告人は,本件犯行が捜査機関に発覚する前に自ら110番通報して本件犯行を申告するなどし,自首したものである。 (証拠の標目)   省略 (法令の適用)   省略 (量刑事情)  本件は,被告人が,長年にわたり覚せい剤を使用し,近年は被告人夫婦に対してしばしば暴力を振るうようになった長男との生活に疲弊し,絶望感を抱くとともに,被告人夫婦の亡き後に長男が親戚などに迷惑をかけることを危ぐし,長男を殺して自らも死のうと考えて,就寝中の長男の頭部などを金属バットで多数回殴打し,そのころ同所において頭部打撲傷に基づく脳挫傷により死亡させたという事案である。  被告人は,就寝中で無防備の状態であった被害者の頭部を重量のある金属バットで何度も殴打し,同人がうめき声を上げながらベッドから床に転がり落ちた後もなお多数回殴打しているものであり,本件は強固な殺意に基づく残虐な犯行というべきである。もとより,結果は誠に重大であり,尊い人命を奪うことで問題を解決しようとした被告人の態度は厳しく非難されなければならない。寝込みを襲われ,抵抗らしい抵抗もできぬまま,実の父親により殺害され,39歳の若さでその生涯を終えることとなった被害者の無念は計り知ることができない。したがって,被告人の刑事責任は相当に重い。  しかしながら,他方で,以下のとおり被告人のために酌むべき事情がある。  判示のとおり,被害者である被告人の長男は,長年にわたり,覚せい剤を使用しては問題行動を繰り返し,被告人夫婦を苦慮させていたものであり,殊に,本件直前の被害者の行状はかなり悪く,被告人らの精神的苦悩は相当大きかったと察せられる。被告人夫婦は,ただ長男を恐れて耐える日々を送っていたのではなく,当初は,何とか長男に覚せい剤をやめさせようとして,長男が覚せい剤に手を出していることを警察に通報し,本件直前には,医療機関に相談して長男に入院治療を受けさせようと試みるなど,種々の手段を講じ,検討していたのであって,それにもかかわらず,事態は好転しなかったのである。また,本件に至るまでの長男の行状にかんがみれば,近所に住む被告人の兄や既に自立している被告人らの娘に,有効な助力を期待することは現実的でなく,むしろ,同人らに対して,被告人夫婦亡き後に残された長男が迷惑をかけることを被告人が案じたとしても,仕方のない状況であったというべきである。あれこれと検討してみても,被告人が,もはや八方ふさがりという心境になったのは,やむを得ないことであったというほかない。本件の経緯には,同情の余地は多分にある。  そして,本件犯行後,被告人は,自ら110番通報して本件犯行を申告するなどして自首し,公判廷において反省の言葉を述べている。被告人は,前科もなく,中学校卒業後,平成10年に定年退職するまでの間,縫製や造船関係の職場でまじめに働き,これまでまっとうな一社会人としての人生を送ってきたものであって,再犯の可能性はほとんどない。加えて,被告人は高齢で緑内障などを患っていること,妻及び二女が情状証人として出廷し,被告人を責める気持ちはない旨述べ,被告人の出所を待っていること,近所の住民や情状証人として出廷した実兄が中心となって多数の嘆願書を集めたことなどの事情も存する。  以上の事情をあわせ考慮し,自首減軽の上,主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑懲役7年) 平成18年1月18日 広島地方裁判所福山支部 裁判長裁判官    岡田 治 裁判官    中島経太 裁判官     優子

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