「H17. 6.16 松山地方裁判所 平成15年(ワ)第849号 損害賠償請求事件」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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判 決
主 文
1 被告は,原告に対し,2723万2538円及びこれに対する
平成13年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2 被告は,原告に対し,81万1958円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し,その3を原告の,その余を被告の
負担とする。
5 主文第1,2項は仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,4184万7767円及びこれに対する平成13年10月6日から支払済みまで年5分の割 合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,81万1958円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
ア 発生日時
平成13年10月6日午後7時30分ころ
イ 発生場所
松山市a町b番地先路上
ウ 加害車両
被告運転の普通貨物自動車(以下「被告車両」という。)
エ 事故態様
直線道路である本件事故現場において,道路を横断しようとしていた原告に被告が運転する被告車両が衝突し,よって,原告に後記傷害を負わせた。
(2) 責任原因
被告は,車両を運転して道路を走行するときには前方を注視し,横断しあるいは横断しようとする歩行者が存するときには,その横断を妨げないよう徐行ないし停止すべき義務があるのにこれを怠り,上記道路を横断しようとしていた原告に後記傷害を負わせた過失がある。 よって,被告は,民法709条に基づき,本件事故により原告に発生した後記損害の賠償責任を負う。
(3) 原告の傷病の内容及び治療経過
ア 傷病名
頭部外傷,脳挫傷,急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血,左顔面神経麻痺,左聴の障害,症候性てんかん
イ 治療状況
(ア) A病院
入院 平成13年10月6日から同年10月22日まで
通院 平成13年10月23日から平成14年7月24日まで
(イ) B病院耳鼻咽喉科
入院 平成13年10月26日から同年10月29日まで
通院 平成13年10月24日から平成14年8月2日まで
(ウ) C病院
入院 平成14年10月1日から平成14年10月3日まで
通院 平成14年9月12日から平成14年10月1日まで
(エ) B病院精神科・神経科
通院 平成15年1月14日から平成15年2月20日(症状 固定日)まで
事故日から症状固定日まで 503日間(入院日数24日)
ウ 後遺障害の内容・等級
(ア) 9級10号(神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限される もの)
(イ) 9級9号(一耳の聴力を全く失ったもの)
(ウ) (ア),(イ)により,併合8級
(4) 原告の損害
ア 治療関係費 87万9320円
(ア) 治療費 38万6550円
(イ) 入院雑費 3万6000円
1日1500円,24日間
(ウ) 通院交通費 19万2370円
病院へのタクシー代
(エ) 付添看護料 26万4000円
入院期間中の24日間は毎日付添看護を要した。近親者付添費の日額は8000円が相当である。したがって,入院中の付添看護料は,19万2000円となる。
さらに,通院の際も付添が必要であった。近親者通院付添費の日額は,4000円が相当であり,通院実日数は18日であるから,通院付添費は7万2000円となる。
(オ) 文書料 400円
イ 逸失利益 3452万6225円
(ア) 基礎収入 565万9100円
原告は,本件事故時満10歳であったが,今後成長して就労すれば,賃金センサスの平成13年男子労働者学歴計全年齢平均賃金である565万9100円程度の収入を得られる蓋然性があった。
(イ) 労働能力喪失率 45パーセント
原告の後遺障害等級は第8級であり,自賠責保険も認定するとおり,精神障害によって今後就労可能な労務が制限され,かつ左耳の用廃によってもさらに労働能力が制限される。
これを割合で評価すれば,原告は45パーセントの労働能力を喪失したものといえる。
(ウ) 労働能力喪失期間 49年間
原告は,高校を卒業する満18歳から満67歳に至るまでの49年間就労が可能であった。
(エ) 中間利息控除 ライプニッツ係数13.5578
原告は,症状固定時満12歳であったから,労働開始可能な満18歳までは6年間の非就労期間が存する。したがって,用いるべきライプニッツ係数は,12歳から67歳までの55年間のライプニッツ係数から,18歳までのライプニッツ係数を引いたものになる。
18.6334-5.0756=13.5578
(オ) 計算式
5,659,100×0.45×13.5578=34,526,225.7
ウ 慰謝料 1191万円
(ア) 傷害慰謝料 191万円
上記のとおり,症状固定日までの入院期間は約1か月間であり、その余の通院期間は約15か月に及ぶ。
したがって,傷害慰謝料としては上記金額が相当である。
(イ) 後遺障害慰謝料 1000万円
原告の後遺障害は,精神障害と左聴力障害によって併合8級であり,それ以外にも等級認定はされていないものの,本件事故を原因として顔面麻痺なども発症している。これらの慰謝料増額事由を考慮すれば,後遺障害慰謝料としては,1000万円が相当である。
エ 損害の填補
(ア) 自賠責保険 859万4540円(被害者請求)
(イ) 任意保険 67万7580円
自賠責から任意保険会社が回収した金額
(ウ) 上記損害額の合計は4731万5545円であり,上記損害填補の結果,損害額は3804万3425円となる。
オ 弁護士費用 380万4342円
カ 損害合計 4184万7767円
(5) 確定遅延損害金等
ア 自賠責保険からの給付分について
原告は,自賠責保険金859万4540円を受領しているが,これは後遺障害分819万円と傷害分40万4540円の2回に分けて振り込まれた。
上記保険金の給付は,本件事故による損害の填補に当たり,上記金員に対する本件事故発生日から上記支払日までの民法所定年5分の割合による確定遅延損害金についても,原告は請求権を有している。
本件では,後遺障害分819万円は平成15年8月26日に,障害分40万4500円は平成15年9月9日に支払われている。よって,確定損害金は,81万1958円となる。
〔計算式〕
後遺障害分 8,190,000×0.05×689÷365=773,001.36
傷害分 404,540×0.05×703÷365=38,957.75
計 811,958
イ 残損害賠償金について
事故発生日から支払済みまでの遅延損害金について,原告は請求権を有している。
(6) よって,原告は,被告に対し,次の支払を求める。
ア 民法709条に基づく損害賠償請求権として,4184万7767円及びこれに対する本件事故日である平成13年10月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
イ 上記損害賠償請求権の一部(自賠責保険による填補分)である859万4540円に対する確定遅延損害金81万1958円
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)〔本件事故の発生〕は認める。
(2) 同(2)〔責任原因〕は認める。
(3)ア 同(3)ア〔原告の傷病名〕は認める。
イ 同(3)イ〔治療状況〕は認める。
ウ 同(3)ウ〔後遺障害の内容・等級〕について,原告主張のとおりの自賠等級が認定されていること,原告が左耳の聴力を完全に失っていることは認めるが,神経系統の機能又は精神の障害が自賠等級9級10号に該当することは争う。原告の症状は,9級10号より軽いものである。
(4)ア(ア) 同(4)ア(ア)〔治療費〕は認める。
(イ) 同(4)ア(イ)〔入院雑費〕は認める。
(ウ) 同(4)ア(ウ)〔通院交通費〕は認める。 (エ) 同(4)ア(エ)〔付添看護料〕は否認ないし争う。付添看護料は,入院1日当たり4000円,通院1日当たり2 000円が相当である。
(オ) 同(4)ア(オ)〔文書料〕は認める。
イ(ア) 同(4)イ(ア)〔基礎収入〕は争う。
(イ) 同(4)イ(イ)〔労働能力喪失率〕は争う。原告の労働 能力喪失率は,35パーセントが相当である。
(ウ) 同(4)イ(ウ)〔労働能力喪失期間〕は認める。
(エ) 同(4)イ(エ)〔中間利息控除〕は争う。本件では,逸失利益の現価算定の基準時として,事故時と考えるのが妥当であり,中間利息控除に当たっては,事故時から逸失利益発生期間の終期までのライプニッツ係数から,事故時から逸失利益発生期間の始期までのライプニッツ係数を引いたものを係数として用いるべきである。これによれば,ライプニッツ係数としては12.298が相当である。
(オ) 同(4)イ(オ)〔計算式〕は争う。
ウ(ア) 同(4)ウ(ア)〔傷害慰謝料〕は争う。
(イ) 同(4)ウ(イ)〔後遺障害慰謝料〕は争う。
エ(ア) 同(4)エ(ア)〔自賠責保険〕は認める。
(イ) 同(4)エ(イ)〔任意保険〕は認める。
(ウ) 同(4)エ(ウ)〔損害額合計〕は争う。
オ 同(4)オ〔弁護士費用〕は争う。
カ 同(4)カ〔損害合計〕は争う。
(5) 同(5)〔確定遅延損害金等〕について,原告主張のような計算方法があることは認めるが,その余は争う。
3 被告の主張(過失相殺)
原告には,夜間,南方約37メートルに近接する信号機のある横断歩道を渡らず,また北側40メートル先の横断歩道も渡らず,被告車両が走行していることを知りながら,その前に道路を横断できると判断し,突然被告車両の前方を斜めに走って横断した過失がある。
原告の過失割合は50パーセントとするのが相当である。
4 被告の主張に対する認否及び反論
被告の主張は争う。本件事故現場には横断歩道はないから,本件事故はいわゆる横断歩道のない交差点又はその直近における横断時の事故であり(原告の基本的過失割合20パーセント),これに原告が児童であること(5パーセントの減算),被告車両の著しい過失(10パーセントの減算)の修正要素を加味すれば,原告の過失割合は5パーセントを上回ることはない。なお,当時は夜間であったとはいえ,本件事故現場は明るかったから,夜間であることを理由に過失割合を修正すべきではない。また,原告には斜め横断,直前横断の過失もなかった。