H17. 7.11 神戸地方裁判所 平成17年(わ)第339号 強盗致傷被告事件(認定罪名 窃盗,傷害)

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H17. 7.11 神戸地方裁判所 平成17年(わ)第339号 強盗致傷被告事件(認定罪名 窃盗,傷害)」(2005/08/18 (木) 11:06:57) の最新版変更点

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判示事項の要旨: 暴行の程度により,強盗致傷罪を認定せず,窃盗罪と傷害罪を認定した事案 主       文 被告人を懲役2年6月に処する。 未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理       由 (罪となるべき事実)  被告人は, 第1 平成16年11月5日午後4時10分ころ,神戸市a区bc丁目d番地のe所在のAb店において,同店店長Bが管理する胡瓜2本等16点(時価合計4958円相当)を窃取し 第2 同日時ころ,同区bc丁目f番地のg先路上において,第1の犯行を目撃した同店警備員C(当時54歳)から呼び止められるや,同女を路上に仰向けに押し倒した上,手で同女の頚部を押さえつけるなどの暴行を加え,よって,同女に加療約1週間を要する頚椎捻挫,両肘打撲の傷害を負わせ たものである。 (証拠の標目)  省 略 (事実認定の補足説明) 1 本件公訴事実の要旨は,被告人が,判示第1の窃盗を犯し,被害店舗を出て逃走しようとしたところ,同店付近の路上において,前記犯行を目撃した同店警備員C(以下「被害者」という。)から呼び止められるや,逮捕を免れるため,被害者を路上に仰向けに押し倒した上,手で被害者の首を絞めるなどの暴行を加え,よって,被害者に加療約1週間を要する頚椎捻挫,両肘打撲の傷害を負わせたというものであり,検察官は,被告人には事後強盗による強盗致傷罪が成立する旨主張するのに対し,被告人は,当公判廷において,被害者を故意に押し倒したわけではなく,背負っていたリュックサックを被害者に引っ張られたことから,もつれるように一緒に倒れてしまった,立ち上がろうとした際に被害者の首の辺りを押してしまったのであって首を絞めたわけではないなどと供述するので,被告人の暴行態様及びその暴行が被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるといえるか,以下,検討する。 2 関係証拠によれば,以下の各事実が認められる。  (1) 被告人は,平成16年11月5日午後3時40分ころ,判示窃盗の被害店舗を訪れ,同店備付けの買物かごを載せた買物用カートを押しながら,同店1階の売り場を回る間に,商品である胡瓜2本等16点を買物かごの中に入れていったが,同日午後4時10分ころ,レジ係の店員が被告人の方に背を向けていたことから,そのすきに,レジの前を通らずに,商品を袋に入れるために用意された,いわゆるサッカー台に至り,持っていたリュックサック等の中に商品をしまい込むと,買物用カート等を所定の場所に戻し,同店北側出入口から店外に出た(判示第1の犯行)。  (2) 被害者は,平成14年ころから,警備員として稼働しており,兵庫県下にある本件被害店舗の系列店等のほか,被害店舗にも月に1,2回の割合で派遣され,万引き犯人を捕まえるため,防犯警備に従事していたものであるが,同日午前11時ころから,私服姿で同店1階の売り場を巡回し,防犯警備に当たっていたところ,以前に万引きをしたとの疑いを抱いていた被告人を見かけたことから,店内での被告人の行動を注視していた。  (3) 被害者は,判示第1の犯行を現認すると,直ちに被告人の後を追いかけ,被害店舗の北側出入口から8.5メートルほど離れた歩道上で,被告人の後方から,その左肩を軽くたたいて,「ちょっとすいません。お客さん,まだ払っていませんね。」と声をかけたところ,被告人が,「何が。」と言うだけで,被害者を振り切るように歩いていったことから,右手で被告人が背負っていたリュックサックの肩掛けの部分を,左手で被告人の左腕をつかんで,被告人を止めようとした。  (4) しかし,被告人が,被害者の左手を振り払ったり,「ちょっと来てくれますか。」と声をかけられても,これを無視し,止まろうとしなかったことから,被害者は,被害店舗の北側出入口から約25メートル離れた路上において,被告人が逃げるのを阻止しようとして,被告人の前に回り込み,右手で被告人の左腕を,左手で被告人の右腕をつかんだ。  (5) すると,被告人が,右手で被害者の首の辺りを,左手で被害者の右肩付近を押してきたことから,被害者は,倒されまいとして,両手で被告人の背負っていたリュックサックの右側の肩掛けをつかむなどして,こらえていたものの,結局,その場に仰向けに倒れ,両肘を地面に打ち付けるとともに,地面で後頭部付近を打った。他方,被告人も,前記のとおり,被害者がリュックサックの肩掛けをつかんでいたことから,被害者が転倒したはずみに体勢を崩し,覆いかぶさるような格好で被害者の上に倒れ込んだ。    なお,被告人は,前記のとおり,当公判廷において,被害者を故意に押し倒すつもりはなかった旨供述し,また,警察官調書(乙3)においても,被害者の体にぶつかった拍子に被害者が倒れてしまい,自分もつられて被害者に覆い被さるように倒れた旨供述しているが,これに対し,被害者は,捜査段階の当初から一貫して,被告人から首の辺りや右肩付近を押されて倒された旨述べており(甲8,9,11),その供述の信用性に疑いを容れるような事情は認められないし,被告人自身も,検察官調書において,「手でCさんの首のあたりを押すと,Cさんが後ろに倒れました。」(乙4)とか,「私がCさんの首のあたりを押したため,Cさんが倒れたのです。」(乙5)などと供述しており,その各検察官調書における供述には,特に任意性,信用性に疑いを容れるような事情はないことからすれば,被告人の当公判廷における供述及び警察官調書における供述はにわかに信用することができず,被害者の供述や被告人の検察官調書における供述によれば,被害者が被告人のリュックサックの肩掛けをつかんだままの状態で,被告人が被害者を押し倒したものと認めることができる。  (6) 被害者は,通行人に向かって,「私は警備員です。店長か副店長を呼んでください。」と大声で叫び,その周りに2,3名の人が集まってきたところ,被告人は,「この人,変なんです。」などと言うとともに,起き上がって逃げようとした。  (7) しかし,被害者が,被告人を逃がすまいとして,なおも被告人のリュックサックの肩掛けをつかんでいたため,被告人は,手で被害者の首の辺りを押さえつけたり,手を被害者の顔面に押し当てるなどして逃げようとしたものの,結局,逃げることはできなかった。 この点,検察官は,被告人が被害者の「首を絞める」などしたと主張しているが,被害者は一貫して,被告人は,右手で喉輪をするようにして被害者の首を押していた旨供述し(甲1,7,9,11),被告人も,「のどのあたりなどに手や肘をついて」(乙3)とか,「手で,Cさんの顔や首の辺りを押さえ付けました」(乙4)などと供述していることからすれば,「首を絞めた」というよりは,首の辺りを押さえつけるにとどまっていたというべきである。  (8) 間もなくして,被害店舗の副店長と従業員がその場に駆けつけ,副店長が被害者の上に覆いかぶさるような姿勢になっていた被告人を引き離したところ,被害者は,副店長らに対し,「逃げるから捕まえとって。」などと言うとともに,被告人が逃げないようにするため,なおも足を被告人の足に絡ませていたが,副店長から,「もういいよ。」と言われて,ようやくその力を緩めた。  (9) 被害者は,起き上がると,被告人の右斜め後ろに立ち,被告人が背負っていたリュックサックの肩掛けの部分をつかんで,副店長とともに,被害店舗の2階にある事務所に被告人を連れて行き,その後も,副店長がリュックサック等の中に同店の商品が入っていた理由を被告人に追及したりするところに立ち会っていた。  (10) 被害者は,同日中に医師の診察を受けたところ,約1週間の安静加療を要する頚椎捻挫,両肘打撲であると診断された。 3 被告人が被害者に加えた暴行は以上のとおりであるが,その暴行が被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるといえるか否かを検討するに,次の諸点を勘案すると,被告人の暴行は,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度に至っていたとは認め難いというべきである。  (1) 被害者は,身長152ないし153センチメートルの54歳の女性であり,一方,被告人は,身長167センチメートル,体重63キログラムの40歳の女性であって,ある程度の体格差があるけれども,被害者は,警備員として2年余りの経験があり,万引き犯人への対処方法につき,警備員として必要な素養を有していたものと考えられるところ,被告人を捕まえようとした場合には,被告人に抵抗され,何らかの暴行を加えられるかもしれないことを十分に予想していたであろうし,被告人の行動をある程度の時間注視した上で被告人に声を掛けているのであるから,被害者にはそれなりの心の準備があったものと認められる。  (2) 被告人の暴行の態様をみると,①被害者を仰向けに押し倒した点については,被害者は,その際,両肘や後頭部付近を路面に打ちつけているものの,頭部には傷害を負っていないこと,両肘の負傷は打撲傷にとどまっている上,本件から1週間後に撮影された写真(甲5)をみる限り,両肘に顕著な皮下出血があったことをうかがわせる痕もみられないことなどからすると,被告人がそれほど強い力で被害者を押し倒したものとは認められず,被害者が激しく転倒したものとも認められない。また,②手で被害者の首の辺りを押さえつけたり,手を被害者の顔面に押し当てるなどした点については,その部位からすれば,軽微な暴行とはいい難いものの,これにより,被害者が掛けていた眼鏡が外れるようなことはなかったこと,その際に負傷したと思われる頚椎捻挫は約1週間の安静加療を要する程度にとどまっていることなどからすれば,②の暴行がさほど激しいものであったとみることもできないし,その態様からして,顔面を殴打するといったような積極的,攻撃的な暴行と同視するのは相当でない。  (3) 前認定したとおり,被害者が,被告人から前記のような暴行を受けても,なおも被告人のリュックサックの肩掛けをつかむなどして被害者を逃がさないようにしていたこと,被害者は,54歳の女性とはいえ,警備員として必要な訓練を受けていたと思われることからすると,被告人と被害者の間に前示のような年齢差や体格の違いがあるとしても,両者の力の差はさほど大きなものではなかったとみることができるし,また,転倒後,通行人に向かって,警備員であることを告げた上,被害店舗の店長か副店長を呼ぶように求めたのは,自らの救助を求めるというよりも,店長らの協力を得て,被告人を捕まえようとする趣旨の発言であると解されること,その後も,副店長らに被告人への対応を任せてしまうのではなく,副店長とともに被害店舗の事務所まで被告人を連れて行くなどしていることなども考え合わせると,被告人の暴行によって,被害者の逮捕遂行の意思が弱められるような状況になっていなかったものと認められる。  (4) 判示第2の犯行現場は被害店舗付近の歩道上であり,被告人を捕まえるのに,被害店舗の関係者らの協力を求めるのは容易であるといってよく,被害者がそのことを十分に認識していたことは,転倒後,実際に店長らの応援を求めていることからも明らかである。    そして,現場付近には通行人があったこと,午後4時10分ころという時間帯であったことも考慮すると,周囲の状況には,特に被告人の逮捕を困難にさせるような事情は存しなかったということができる。   以上の諸点を総合勘案すると,被告人の暴行は,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度に至っていたとは認め難いから,被告人を強盗致傷罪に問うことはできないというべきである。 4 したがって,被告人には,窃盗罪と傷害罪が成立するにとどまり,これらは併合罪の関係にあると解するのが相当である。 (法令の適用) 罰条  判示第1の所為について 刑法235条  判示第2の所為について 行為時  平成16年法律第156号による改正前の刑法204条  裁判時  その改正後の刑法204条  刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 刑種の選択  判示第2の罪につき懲役刑 併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重) 未決勾留日数の算入  刑法21条 刑の執行猶予  刑法25条1項 訴訟費用の負担  刑事訴訟法181条1項本文 (弁護人の主張に対する判断)  弁護人は,被告人が,判示各犯行当時,飲酒の影響により,心神耗弱の状態にあった旨主張する。  関係証拠によれば,被告人は,平成14年8月ころ,兵庫県立D病院において,アルコール依存症,境界型人格障害であるとの診断を受け,同病院に2度入院して治療を受けたほか,退院後も,平成16年6月ころまで,同病院に通院するなどして,治療を受けていたこと,被告人は,本件の1週間ほど前から,再び飲酒をするようになり,本件当日も,朝から昼過ぎにかけて,500ミリリットル缶の発泡酒を5,6本飲んだこと,犯行から約1時間半後に実施された飲酒検知の結果,その当時,被告人が呼気1リットルにつき0.45ミリグラムのアルコールを身体に保有していたことが認められる。  しかし,被告人は,捜査段階及び当公判廷において,本件犯行に至るまでの状況について時系列に沿って具体的に供述しており,記憶に欠落やあいまいな点は格別なく,意識も清明であったこと,本件各犯行の動機はいずれも了解可能であり,不自然でないこと,本件の前後における被告人の言動には,精神状態に異常をうかがわせるようなものは見当たらないこと,被告人は,被害者から呼び止められ,万引きを指摘されるや,「何が。」などと言ってとぼけて無視して歩き続け,被害者を振りきってそのまま逃げようとし,また,被告人は,覚えていないと述べているけれども,被害者の検察官調書(甲9)によれば,事務所に連れて行かれた後も,金を払って買ったなどと弁解するなど,自己の刑事責任を免れるための言動をしていることが認められるのであって,被告人は,自己の行為の意味を理解し,それに従って合理的な言動をしていることなどからすれば,被告人が,判示各犯行当時,相当量のアルコールを摂取していたとしても,さほど酩酊していなかったことは明らかであり,事物の是非を弁別し,これに従って行動する能力を欠いていたとかこれが著しく減退した状態にはなかったものと認められる。  よって,弁護人の主張は理由がない。 (量刑の理由)  被告人は,短絡的で身勝手な動機から判示各犯行に及んでおり,酌量の余地はない。被告人は,捕まえようとしてきた被害者を路上に仰向けに押し倒した上,手で被害者の頚部を押さえつけるなどの暴行を加えたものであって,暴行の態様は悪質である。窃盗による被害額は5000円近くにのぼり,この種事犯としては少額ではないし,また,被害者は,加療約1週間を要する頚椎捻挫,両肘打撲の傷害を負っており,その肉体的苦痛は小さくない。  これらの諸点に照らすと,被告人の刑事責任は軽くない。  他方,判示第2の犯行は,万引きが発覚して気が動転する中で引き起こした偶発的なものといえること,被害者の傷害の程度は比較的軽いこと,被害品はすべて被害店舗に還付されていること,事実関係を概ね認め,反省の態度を示していること,被害者に治療費等として5万円を支払っていること,被害者の処罰感情は厳しくないこと,夫が被告人の更生に協力する旨を述べていること,前科前歴がないこと,3か月余りの期間身柄拘束を受けていることなど,酌むべき事情も認められる。 以上の諸事情を総合考慮して,今回は刑の執行を猶予することとし,主文のとおり判決する。 (求刑 懲役6年) (国選弁護人 E)   平成17年7月11日 神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官  佐の哲生 裁判官  川上 宏 裁判官  酒井孝之

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