H17. 6.28 神戸地方裁判所 平成14年(ワ)第2435号,同15年(ワ)第1455号 損害賠償請求事件

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H17. 6.28 神戸地方裁判所 平成14年(ワ)第2435号,同15年(ワ)第1455号 損害賠償請求事件」(2005/08/18 (木) 11:13:15) の最新版変更点

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主文 1 被告らは,連帯して,別紙認容金額一覧表2の「原告」欄記載の各原告に対し,同「認容額合計」欄記載の各金員及びこれらに対する平成13年7月21日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。【別紙省略】 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用(補助参加費用を含む。)の負担は,次のとおりとする。  (1) 原告T,原告U及び原告Vを除く原告らと被告ら及び補助参加人との間において生じた訴訟費用は,これを5分して,その3を被告ら及び補助参加人の負担とし,その余を同原告らの負担とする。  (2) 原告Uと被告ら及び補助参加人との間において生じた訴訟費用は,これを3分して,その2を被告ら及び補助参加人の負担とし,その余を原告Uの負担とする。  (3) 原告X及び原告Yと被告ら及び補助参加人との間において生じた訴訟費用は,同原告両名の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 判決要旨 第1 事案の概要 1 第32回明石市民夏まつり(本件夏まつり)の2日目にa海岸で開催された花火大会(本件花火大会)の終了後,b歩道橋(本件歩道橋)内において,多数の参集者が折り重なって転倒するなどして,11名の死者及び247名の負傷者を生じる雑踏事故(本件事故)が発生した。 2 本件は,10名の死者の遺族である原告らが,本件夏まつりの主催者である明石市,雑踏警備計画の策定・実施に当たったニシカン【民間警備会社である。】及び警察【被告となっているのは,兵庫県である。】に対し,損害賠償金の連帯支払を求めた事案である。 3 本件の争点は,①被告らの事前準備段階における過失の有無及び内容,②被告らの本件花火大会当日における過失の有無及び内容,③原告らの損害額の3点である。 4 上記争点に関し,ニシカンは,原告らの主張する過失をほぼ全面的に認め,損害額のみを争っている。 明石市は,事前準備段階及び本件花火大会当日において,過失があったこと自体は認めているものの,原告らの主張する具体的な過失の内容及び損害額については争っている。 兵庫県(警察)は,本件花火大会当日の午後7時26分ころ以降の段階における過失のみを認め,それ以前の段階における過失については全面的に争い,損害額についても争っている。 第2 当裁判所の判断 1 被告らの注意義務の発生根拠 (1) 明石市について 明石市は,本件夏まつりの主催者として,条理上ないしは社会通念上,当然に,参集者の生命,身体等の安全を確保すべき注意義務を負う。 (2) ニシカンについて ニシカンは,本件夏まつりの主催者である明石市から雑踏警備業務を請け負った者として,明石市とともに,参集者の生命,身体等の安全を確保すべき注意義務を負う。 (3) 警察について 警察は,警察法2条,警備実施要則,「雑踏警備実施要領について(例規)」等により,個人の生命,身体等を保護することをその責務とする者として,参集者の生命,身体等の安全を確保すべき注意義務を負う。 2 被告らの注意義務相互の関係 (1) 警察の実施する雑踏警備は,主催者側の自主警備を補完するものにすぎないと解すべきではなく,主催者側が自主警備を実施することにより,警察の雑踏警備に関する責任が軽減・免除されることはない。 (2) 他方,明石市も,本件夏まつりの主催者として,本来的に,参集者の生命,身体等の安全を確保すべき注意義務を負う以上,警察が雑踏警備を実施することにより,自主警備を実施する責任が軽減・免除されることはない。 また,明石市が,警察との関係において,自主警備を実施すべき責任が軽減・免除される関係にない以上,ニシカンも,警察との関係において,自主警備を実施すべき責任が軽減・免除されることはない。 (3) さらに,主催者側である明石市とニシカンとの間にも,責任の軽重関係はない。 (4) 以上のとおり,被告らが負う雑踏警備に関する責任は,いずれかの者が,主位的ないしは副位的な責任を負うという関係にあるのではなく,少なくとも,対参集者との関係においては,すべての者が,第一次的かつ全面的にその責任を負い,被告らそれぞれの責任について軽重関係はない。 3 本件事故の予見可能性 被告らは,いずれも,本件花火大会においては,本件歩道橋付近が混雑し,しかも,その混雑がカウントダウンをはるかに上回るものであることを認識していたか認識可能であったといえる。 したがって,被告らは,本件花火大会において,適時の適切な規制措置を実施することなく放置すれば,雑踏事故が発生するということについても認識可能であったといえ,被告らには,本件事故の予見可能性があったものと認められる。 4 被告らの事前準備段階の過失 (1) 事前準備の重要性 雑踏事故を防止するためには,事前準備段階における適正な雑踏警備計画の策定こそが最も重要である。 したがって,本件においては,被告らの事前準備段階における雑踏警備計画の策定等の不備が,本件事故発生の最も大きな原因であるととらえるべきであり,この点を過失として評価するのが相当である。 (2) ニシカンの過失 ア ニシカンには,参集者の安全に十分に配慮した適正な雑踏警備計画を策定し,これを各警備員に周知徹底すべき注意義務があった。 イ ところが,ニシカンのAは,カウントダウンの際には雑踏事故が発生しなかったことから,本件花火大会においても雑踏事故など発生するはずがないと軽信し,何らの検討も行わないまま,極めて安易に1,2次導線を設定し,これといった対策を何ら雑踏警備計画に盛り込まなかった。 また,Aは,本件花火大会と同一会場で開催されたカウントダウンの際の雑踏警備計画上の工夫点や問題点を検討することはおろか,その前提となるカウントダウンの際の混雑状況や規制の実施状況に関する情報の収集さえ満足に行わないまま,実質的には何も策定していないにも等しいといえるほど,極めてずさんな雑踏警備計画を策定した。 しかも,Aは,各警備員に対する雑踏警備計画の周知徹底を各警備会社任せにした結果,かかるずさんな雑踏警備計画でさえ,各警備員に周知徹底されることはなかった。 ウ したがって,Aには,上記注意義務に違反した過失があることは明らかであり,ニシカンは,原告らに対する民法715条1項に基づく損害賠償責任を免れない。 (3) 明石市の過失 ア 明石市には,イベントの開催場所やイベント内容の決定など,主催者でなければ決定できない事項について,参集者の安全に十分に配慮しつつ決定すべき注意義務があった。 また,明石市には,警備会社の選定に当たっても,参集者の安全を確保するに足るだけの人的,物的能力を備えた警備会社を選定すべき注意義務があった。 さらに,明石市には,ニシカンが雑踏警備計画を策定するに際しても,同社と十分な協議を行うとともに,同社が雑踏警備計画を策定した後は,かかる計画が参集者の安全に配慮された適切なものとなっているかを自ら検討し,不備があればこれを改善させるべき注意義務があった。 イ ところが,明石市のB,C,D,E及びFは,参集者の安全よりも市の体面や世間体を重視して,準備作業量及び作業効率の面で負担が大きく,かつ,参集者の安全を確保することの困難なa海岸を本件花火大会会場に選定し,参集者の滞留し易い場所に夜店の出店場所を決定するなどして,参集者の安全を確保することが困難な状況を自ら進んで作出した。 そして,Bらは,参集者の安全を確保することの困難な状況を自ら進んで作出しておきながら,その準備作業の大半をG一人に負担させ,統括警備会社の選定については,何らの実質的な検討を行わないまま,極めて安易にニシカンを選定し,しかもその選定時期は遅く,下請警備会社の選定については,市議会議員の意向を重視して,安易に明石市内の警備会社を選定した。 さらに,Bらは,参集者の安全を確保するために最も重要となる雑踏警備計画の策定,とりわけ本件歩道橋及びその周辺の参集者の安全の確保については,そのすべてをニシカンに丸投げし,ニシカンの策定した雑踏警備計画の適否については,一切検討していないばかりか,関心さえ抱かなかった。 Bらの上記対応は,本件夏まつりの主催者としてあるまじき行為であり,本件夏まつりの主催者としての責任意識は全く欠落しているといわざるを得ず,極めて無責任というほかない。 ウ したがって,Bらには,上記注意義務に違反した過失があることは明らかであり,明石市は,原告らに対する民法715条1項に基づく損害賠償責任を免れない。 (4) 警察の過失 ア 警察には,主催者側の自主警備について,参集者の安全の確保という観点から,積極的かつ具体的に指導・助言を行うとともに,雑踏警備を主催者側の自主警備のみに委ねることなく,自らも適正な雑踏警備計画を策定すべき注意義務があった。 イ ところが,明石署の警察官の大半が,カウントダウンの際には雑踏事故が発生しなかったことから,本件花火大会においても雑踏事故など発生するはずがないと軽信し,カウントダウンの際の危険な混雑状況を真摯に受け止めなかった。 また,明石署の警察官は,暴走族対策ばかりに目を奪われ,雑踏警備については主催者側が自主警備により実施するものであり,自らが実施する責任はないとして,いわば,雑踏警備に関していえば,参集者の生命,身体の安全を確保すべき警察の責務を放棄するという態度に終始した。 ウ その結果,明石署のHは,本件歩道橋直下付近に夜店を出店させると,本件歩道橋南端部付近において雑踏事故が発生する危険性が高まるという点を全く軽視し,民活地に夜店の出店場所を変更したいとの明石市の申入れに強く反対した。 また,HやIらは,主催者側の自主警備について,非常に抽象的な指導・助言しかおこなわず,完成した主催者側の雑踏警備計画についても,何らの検討を行わなかった。 さらに,明石署は,自らの策定する警備計画について,暴走族対策には細心の注意を払い,万全の対策を講じながらも,雑踏警備に関しては,極めてお粗末な対策しか講じなかった。 エ H以下の明石署の警察官の対応が,上記のとおり,暴走族対策に著しく傾斜し,雑踏警備を軽視することとなった原因は,署長であるJの責めによるところが大きいものと認められる。 すなわち,Jは,本件夏まつりの警備方針について,当初から暴走族対策を強く打ち出し,雑踏警備は自主警備により実施させればよいので,軽視しても構わないとの考えを有していたものであり,上命下服が尊ばれる警察社会において,Jの意向が強く反映された結果,明石署の警備計画は,非常に充実した暴走族対策が講じられる一方,雑踏警備については極めてお粗末な対策しか講じられなかったものである。 そして,かかる警察の姿勢は,自らの警備計画策定の場面のみならず,主催者側の自主警備に対する指導・助言の場面においても,色濃く表れたものと認められる。 オ したがって,Jを始めとする明石署の警察官には,上記注意義務に違反した過失があることは明らかであり,兵庫県は,原告らに対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を免れない。 5 被告らの本件花火大会当日における過失 (1) ニシカンの過失 ア ニシカンには,自ら又は下請警備会社の警備員をして,本件歩道橋付近に混雑を発生させないようにし,混雑が発生した場合には,迂回路への誘導や分断規制などの規制措置を執ることにより,これを解消させ,また,警備員のみによる規制では混雑が解消できない場合には,警察官の出動を要請すべき注意義務があった。 イ ところが,Aは,明石市職員や各警備員から,本件歩道橋付近の混雑状況に関する報告を受けるなどしていながら,各警備員に対し,具体的な混雑解消措置を指示することはなく,結局,本件事故が発生するまで,本件歩道橋上の異常な混雑状態を放置した。 ウ したがって,Aには,上記注意義務に違反した過失があることは明らかであり,ニシカンは,原告らに対する民法715条1項に基づく損害賠償責任を免れない。 (2) 明石市の過失 ア 明石市には,自らないしはAら警備員をして,本件歩道橋付近に混雑を発生させないようにし,混雑が発生した場合には,Aら警備員をして,迂回路への誘導や分断規制などの規制措置を執らせることにより,これを解消させ,また,警備員のみによる規制では混雑が解消できない場合には,警察官の出動を要請すべき注意義務があった。 イ ところが,B以下本件夏まつりの計画策定メンバーは,いずれも,本件歩道橋付近の混雑状況を目撃したにもかかわらず,本件歩道橋付近の混雑状況に危機感を持ったのはFとGのみであり,B,C,D及びEについては,何ら危機感を持っておらず,混雑解消については,Aら警備員に任せておけばよいなどと安易に考え,事態を放置した。 上記Bらの対応からは,本件夏まつりの主催者としての責任意識は全く感じられず,極めて無責任かつ不適切というほかない。 特に,C及びDについては,Hから本件歩道橋の混雑について怒鳴られるとともに,Fから,本件歩道橋上の混雑への対処方法についての相談を受けながら,歩道橋上の混雑状況を放っておけなどと暴言を吐いているのであって,驚くばかりの職務懈怠である。 ウ したがって,B,C,D及びEには,上記注意義務に違反した過失があることは明らかであり,明石市は,原告らに対する民法715条1項に基づく損害賠償責任を免れない。 (3) 警察の過失 ア 警察には,警察官をして,本件歩道橋付近に混雑を発生させないようにし,混雑が発生した場合には,迂回路への誘導や分断規制などの規制措置を執ることにより,これを解消させるべき注意義務があった。 イ ところが,雑踏警戒班のKは,本件歩道橋を通行し,歩道橋内の混雑状況を直接目にしていながら,花火打ち上げ開始までの間に,自ら歩道橋内の混雑を解消するための措置を執ることも,かかる措置をHやJに進言することもしなかった。 ウ また,Hは,本件歩道橋上の混雑状況について,自ら目撃したり,部下から無線連絡等を受けるなどしていながら,花火打ち上げ開始までの間に,雑踏警戒班に混雑解消措置を指示することはなく,午後8時ころには,Aから,分断規制の依頼をほのめかす発言をされ,Kから,本件歩道橋上の混雑状況及び管区機動隊の投入の必要性を訴える報告を受けたにもかかわらず,それでもなお分断規制を実施しようとはせず,事態を放置した。 エ 署警備本部のJ及びLは,各警察官からの無線連絡や,本件歩道橋南端部付近の混雑状況を映し出すテレビモニターの映像等により,本件歩道橋南端部付近の危険な混雑状況を認識し,または容易に認識し得たにもかかわらず,Hらに対し,分断規制等の混雑解消措置を何ら指示しなかった。 オ したがって,Jを始めとする明石署の警察官には,上記注意義務に違反した過失があることは明らかであり,兵庫県は,原告らに対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を免れない。 6 原告らの損害額 (1) 犠牲者の損害について ア 逸失利益 本件事故の犠牲者の逸失利益については,一律に,平成13年の賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計による全労働者の全年齢の平均賃金502万9500円(ただし,Mについては年金収入208万8894円)を基礎に,ライプニッツ方式により中間利息を控除し,生活費控除割合を45パーセント(ただし,Mについては50パーセント)として算定すべきである。 イ 慰謝料 犠牲者が死亡により受けた精神的苦痛を慰謝するためには,年少犠牲者につき2200万円,Mにつき2000万円をもって相当と認める。 (2) 原告ら固有の損害(固有の慰謝料)について ア 基本となる慰謝料 犠牲者と親子関係にある原告らの遺族固有の慰謝料額は,諸般の事情を考慮して,各150万円(ただし,原告N及び原告Oについては各300万円)をもって相当と認める。 イ 慰謝料の増額事由 ①本件事故当時,本件歩道橋内で,犠牲者とともに,ないしは犠牲者の近くで,本件事故に巻き込まれ,かつ,②本件事故後,兵庫教育大学,兵庫県心のケアセンターのいずれかにおいて,PTSDの診断を受けている者(8名)については,諸般の事情を考慮して,各100万円(ただし,原告N及びOについては各150万円)の増額を認める。 上記基準に該当しない者のうち,原告P,原告Q,原告R,原告Sについては,諸般の事情を考慮して,各50万円の増額を認める。 それ以外の者については,増額は認められない。 ウ 原告T,原告U及び原告Vについて (ア) 原告Uについては,実質的にWの母親代わりを務めていたと評価できるため,諸般の事情を考慮して,100万円の限度で,遺族固有の慰謝料請求権を認める。 (イ) 原告T及び原告Vについては,証拠上,実質的に犠牲者と親子関係があると同視できるだけの事情が認められず,遺族固有の慰謝料請求権は認められない。 第3  結 論 1 本件花火大会において,被告らのうちのいずれか一者でも,自己の責務を果たすべく,万全の準備を行っていれば,本件事故の発生は防げた可能性があり,そのことを考えると,被告らのいずれもが不適切な対応に終始したことは,まことに残念といわざるを得ず,被告らの責任,とりわけ事前準備段階における責任は,極めて重いものといわざるを得ない。 2 以上の次第で,原告らの本訴請求は,被告らが,T及びVを除くその余の原告らに対し,民法715条1項ないしは国家賠償法1条1項に基づき,別紙認容金額一覧表2の「認容額合計」欄記載の各損害賠償金及びこれに対する平成13年7月21日(本件事故日)から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余の請求は理由がないから,これをいずれも棄却する。

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