H17. 6. 1 さいたま地方裁判所 平成16年(行ウ)第32号 損害賠償請求住民訴訟

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判示事項の要旨: 市から補助金の交付を受けた町会において町会費用の一部が私的に消費された場合でも補助金を市に返還すべき義務を負うものではないとされた事例 主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,川口市上青木南町会に対し,173万5883円を支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨    本件は,埼玉県川口市の住民である原告らが,川口市が平成14年度に川口市上青木南町会(以下「上青木南町会」又は「本件町会」という。)に対し支払った補助金,報償金,助成金,手数料等合計173万5883円について,同町会はこれらを不正流用したものであり,返還を求めるべきものであるとして,川口市長である被告に対し,同町会に対して上記金額の返還を求めるよう請求した住民訴訟である。 2 基本的事実関係(争いがないか関係証拠により容易に認められる事実) (1) 当事者等  ア 原告らは,川口市の住民であり,被告は,川口市の執行機関である川口市長である。    イ 上青木南町会は,地縁に基づく任意団体であり,会員数約1880世帯である。 (2) 本件補助金等の支出 川口市は,上青木南町会に対し,次のとおり報償金,補助金,助成金,手数料合計173万5883円を支出した(以下,これらの支出をまとめて「本件補助金等」ということがある。)。 ア 川口市広報活動報償金 支出日平成14年5月24日 28万8650円 イ 川口市環境衛生活動報償金 支出日平成15年3月31日 1万2000円 ウ 川口市町会防犯灯電気料補助金 支出日平成14年5月24日 2万8044円 平成15年2月14日 2万0633円 計 4万8677円 エ 川口市集団資源回収団体助成金 支出日平成14年5月27日 8万3900円 平成14年8月21日 8万7500円 平成14年11月20日 7万8100円 平成15年2月21日 7万0500円 計 32万0000円 オ 川口市公園管理作業奉仕団体報償金 支出日平成14年9月30日 5万3338円 平成15年3月25日 5万3338円 計 10万6676円 カ 川口市広報紙配布手数料 支出日平成14年4月19日 47万9940円 平成14年11月8日 47万9940円 計 95万9880円 キ 以上の合計 173万5883円 (3) 上青木南町会会計部長の横領等 上青木南町会では,Aが平成9年4月から平成14年10月まで会計部長として就任し,同町会の経理を担当していたが,平成14年10月に不正経理が発覚し,同町会の現・預金693万4242円を私的に費消していたことが発覚した。 上青木南町会とAは,平成15年2月12日,それまでの弁済額を控除した残額655万6242円について,平成15年2月から同17年10月まで,毎月末日限り,20万円ずつ(最終月は15万6242円)支払う旨の債務弁済契約公正証書を作成した(甲3)。 Aは,平成16年8月末迄に合計347万8000円を支払ったが,残金345万6242円の支払を怠った。 そこで,本件町会のBがAの債務を引き受け,川口信用金庫から個人的に340万円を借り入れ,これを弁償資金に充てることとした。そして,Bは,平成16年10月5日,本件町会に340万円を支払い,Aは残金5万6242円を支払って,上記公正証書上の債務の弁済は完了した(乙3)。 (4) 監査請求等 原告らは,上青木南町会に対する平成14年度,15年度に支出された本件補助金等の取扱いが違法,不当であるとして,その返還措置を求めて,平成16年6月3日,川口市監査委員に地方自治法242条1項に基づき監査請求した。 同監査委員は,平成16年7月28日,「市から交付された公金及び町会費等からAによって私的に費消されたことが推測されるものであり,すなわち,公金が町会活動費に使用されなかったことが窺われるものであるが,平成14年度の本件町会の会計帳簿等が不備であり,町会活動状況を示す町会費その他の収入状況及び経費等の支出状況の全容が把握できないため,町会活動費として支出された公金の金額を確定するに足る帳票等の存在が確認されず,また,Aが私的に費消した金額についてもその事実を裏付ける帳票類もなく判然としない状況であり,公金が町会活動以外の目的で使用されたと認定する事実関係は確認できなかったものである。よって,本件町会に市から交付された補助金・交付金の取扱いが違法又は不当と判断することは不能 であったので,本件措置要求について市長に勧告することはできない。」等として,監査請求を棄却する旨の決定をし,その頃原告らに通知した。 (5) 本訴提起 そこで,原告らは,平成16年8月26日,本訴を提起した。 3 当事者の主張概要 (1) 原告ら ア 本件補助金等については,すべて川口市補助金等交付規則(昭和50年5月1日規則第24号。以下「川口市補助金規則」又は「本件規則」という。)の適用があるところ,その16条,17条には,次のような定めがある。  「第16条 市長は,補助事業者が次の各号のいずれかに該当するときは,補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。 (1) 偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けたとき。 (2) 補助金等を他の用途に使用したとき。 (3) 前2号のほか補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容及びこれに付した条件に違反したとき,又は市長の指示に従わなかったとき。   (2,3項 省略)   第17条 市長は,補助金等の交付の決定を取り消した場合において,補助事業等の当該取消しに係る部分に関し,既に補助金等が交付されているときは,補助事業者に対し,様式第7号の請求書により期限を定めてその返還を求めるものとする。   (2項 省略)               本件流用は,上記規則16条1項2号「補助金等を他の用途に使用したとき」に該当する行為である。そこで,被告としては,本件規則17条の規定に従い,その返還を求めるべきである。 イ また,上青木南町会は,収入や支出に関する書類や帳簿をほとんど整備しておらず,町会長ら役員は,本件町会の経理をAに任せきりにし,毎年の会計監査における預貯金残高と通帳の照合等の基本的作業すら全く怠っていた。 ところで,上記規則19条には,次の定めがある。 「第19条 補助事業者は,補助事業等に係る経費の収支を明らかにした書類及び帳簿等を常に整備しておかなければならない。」 上記19条の定めは,規則16条1項3号の「交付の決定の内容及びこれに付した条件」に当たるというべきであるから,被告としては,本件規則19条違反の理由によっても,本件補助金等の返還を求めるべきである。 なお,前記のとおり本件町会では会計帳簿の作成がされず,町会長らの管理監督はほとんど有効になされておらず,このような会長等の管理監督が不十分であったためにAの私的費消が発生したのである。そして,この点は,川口市補助金規則16条1項2号に該当するとみるべきである。 (2) 被告 ア 地方自治法232条の2,川口市補助金規則が適用されるのは,川口市が反対給付を受けずに金員を交付するものに限られる。本件補助金等のうち川口市広報活動報償金は町会が川口市の広報活動に対する協力をした場合に,川口市環境衛生活動報償金は町会が道路側溝等の清掃活動等の環境衛生活動を行った場合に,川口市公園管理作業奉仕団体報償金は町会が都市公園その他川口市の設置管理する公園,緑地の清掃等を行った場合に,川口市広報紙配布手数料は町会が川口市の広報紙の配布活動を行った場合に,それぞれ支払われるものであり,これらはいずれも川口市が町会から役務の提供という反対給付を受けて,支払われるものであって,地方自治法232条の2,川口市補助金規則が適用されるものではない。 これに対し,川口市町会防犯灯電気料補助金は,町会の防犯活動を奨励するための補助金であり,また,川口市集団資源回収団体助成金は,廃棄物の減量・再資源化を奨励するための補助金であり,地方自治法232条の2,川口市補助金規則が適用されるものである。 イ 原告らは,Aによる上青木南町会の会計に属する現・預金等の私的費消が川口市補助金規則16条1項2号の「補助金等を他の用途に使用したとき」に該当すると主張する。しかし,上記規則16条1項2号の「補助金等を他の用途に使用したとき」とは,補助金の交付を受けた団体が自ら,すなわち当該団体の組織的意思に基づき,当該補助金等の交付決定において当該補助金を充てるべきと指定された用途以外にこれを使用した場合に市長が交付決定を取り消し得るとしたものである。ところが,本件の場合には,Aにより上青木南町会に属する現金等が私的に費消されたというものであり,同町会は被害者なのであって,そもそも上記規則16条1項2号が適用される場面ではない。 なお,原告らは,本件町会の会長等の管理監督が不十分であったためにAの私的費消が発生したのであるから,川口市補助金規則16条1項2号に該当すると主張するが,川口市補助金規則16条1項2号が適用されるためには,当該用途外使用行為が本件町会の組織的意思に基づく行為と評価し得る場合でなければならないのであって,単なる過失(監督不十分)ではこれに該当しない。 ウ また,川口市補助金規則16条1項2号は,当該補助金等の交付決定において当該補助金等を充てるべき用途が指定されている場合に限って適用されるものである。しかし,上記規則が適用される川口市町会防犯灯電気料補助金は,町会の防犯灯電気料支払の実績に基づいて,後日,同額を補助金として交付する方式をとっており,補助金交付決定において,用途を指定する必要はなく,現にこれをしていない。また,川口市集団資源回収団体助成金は,補助の仕組みとしては,町会の資源回収の実績(資源回収した重量)に応じて交付し,もって資源回収へのインセンティブを与えようとするものであり,当該補助金等を特定の用途に充てさせるというものではなく,交付決定において用途を指定する必要はなく,現にこれをしていない。 エ また,そもそも,上青木南町会では,帳簿上平成14年度において前年度からの繰越金を除いても本件補助金等を含め合計892万1393円の収入があり,一方,町会活動費として合計820万6660円が支出されており,本件補助金等がAにより私的に費消されたとは確認できない。上記の点が確認できない以上,原告ら主張の見解を前提としても,被告としては川口市補助金規則16条1項2号により交付決定を取り消すことができないことは明らかである。 オ 原告らは,本件町会が適切な帳簿類を欠いた管理を行っており,川口市補助金規則19条に違反しており,同規則16条1項3号に該当すると主張する。しかし,同規則19条は補助事業等に係る経費の収支を明らかにした書類及び帳簿類の整備を義務付けた規定で,それ自体は川口市補助金規則16条1項3号所定の条件・指示には当たらない。川口市補助金規則16条1項3号にいう条件・指示とは,同規則7条所定の条件・指示を指すものである。したがって,本件において町会の会計帳簿類の作成が行われていなかったとしても川口市補助金規則16条1項3号の取消事由に該当しない。 なお,上青木南町会では,平成14年度において,A及びC会長の手により,会計帳簿は作成されていた(乙10ないし13)。 カ 仮に,本件補助金等の交付決定に,川口市補助金規則16条1項2号あるいは3号所定の取消事由が存するとしても,同条は「取り消すことができる」と規定し,被告に取り消すか否かの裁量権を認めているものである。本件の場合,町会会計の現・預金の私的費消は組織的になされたものではなく,もとより代表者である町会長も関与しておらず,Aが個人的に行ったものであり,本件町会は被害者である。また,本件町会の町会長らには少なくとも重過失はなく,不正発見後直ちに是正措置をとっているものである。そして,なによりも,既に本件町会にはAの私的費消額全額の賠償がなされ(乙3),町会活動の経費に充てられるべき状態に復しているのである。かかる事情からすれば,もはや被告において交付決定の取消しまでしなければなら ない理由はなく,これをなさないことは裁量の範囲内であり,適法である。 第3 当裁判所の判断 1 本件補助金等のうち,川口市補助金規則が適用される範囲について (1) 本件補助金等のうち,川口市町会防犯灯電気料補助金及び川口市集団資源回収団体助成金については,地方自治法232条の2にいう補助金であって,川口市補助金規則が適用される補助金等に該当することは,当事者間に争いがない。 (2) 本件規則2条1号では,補助金等とは「市が市以外の者に対して交付する補助金,交付金,助成金,利子補給金及び事業共催の場合の負担金その他の給付金で相当の反対給付を受けないものをいう。」と定めている。ところで,乙5,7によれば,川口市環境衛生活動報償金及び川口市公園管理作業奉仕団体報償金については,いずれも町会等の住民団体が自主的に行う用排水や側溝等の清掃等の活動や,奉仕活動としての公園,緑地等の除草,清掃活動に対して一定の基準で交付されるもので,その活動の性格は団体の自主的,奉仕的なものであり,報償金額と市が受ける反対給付との対価関係が必ずしも明らかとはいえない。そこで,上記報償金は,これらの自主的活動や奉仕活動に対する助成金とみるのが相当であり,これらについても川口市補助 金規則が適用されるとみるのが相当である。    また,乙4によれば,川口市広報活動報償金は,川口市が町会の協力を得て市民に対する広報活動を実施した場合に支給されるもので,支給基準は,年間「均等割1町会につき1万5000円,世帯割1世帯につき130円(世帯数は広報紙の月平均配布部数を基準として算定)」とされていることが認められる。これによれば,上記報償金は,市が町会に対し市の広報活動を委託し,町会がその作業を行った場合の報酬として支払われる性格の支出と窺われる部分もあるが,市の支出と反対給付間の対価関係が明確でなく,やはり町会活動に対する一種の補助金等として川口市補助金規則が適用される支出と認めるのが相当である。 (3) しかし,乙8によれば,川口市広報紙配布手数料は町会が川口市の広報紙の配布活動を行った場合に支払われるものであり,支給基準は「配布部数1部につき38円」と明確で,市が町会に対し市の広報紙配布を委託し,町会がその作業を行った場合にその手数料として支払われる性質の支出と認められる。そうすると,これらについては,市の支出と反対給付との間には相当の対価関係が存するというべきであり,川口市補助金規則が適用されるべき支出とは認めがたい。 2 本件において,被告に,上青木南町会に対し本件補助金等(但し,川口市広報紙配布手数料に係る部分を除く。)の返還を求めるべき義務があるか。 (1) 前提事実 川口市が上青木南町会に対し,平成14年度中に,川口市広報活動報償金28万8650円,川口市環境衛生活動報償金1万2000円,川口市集団資源回収団体助成金32万円,川口市公園管理作業奉仕団体報償金10万6676円,川口市町会防犯灯電気料補助金4万8677円(以上の合計77万6003円)を支出したことは争いがない。 また,上青木南町会では,Aが,平成9年4月から平成14年10月まで会計部長として在籍し,平成14年10月の段階で本件町会の現・預金693万4242円を私的に費消していたことが発覚し,上青木南町会とAは,平成15年2月12日,それまでの弁済額を控除した残額655万6242円について,平成15年2月から同17年10月まで,毎月末日限り,20万円ずつ(最終月は15万6242円)支払う旨の債務弁済契約公正証書を作成した(甲3)ことが認められる。 (2) 原告らの主張について(その1) ア 原告らは,Aの横領は,町会長らが十分な管理をしなかったために発生したものであり,川口市補助金規則16条1項2号「補助金等を他の用途に使用したとき」に該当し,被告としては,本件規則17条の規定に従い,その返還を求めるべきであると主張する。 イ 甲6及び弁論の全趣旨によれば,上青木南町会の平成14年度の収入としては,本件補助金等173万5883円のほか,町会費が約306万円,オートレースから44万円,空瓶・空缶交付金約145万円など前年度からの繰越金を除いても892万1393円の収入があることが認められる。そうすると,仮にAが平成14年度単年で693万4242円を横領したとしても,本件補助金等のうち川口市広報紙配布手数料を除いた金額(77万6003円)がそのまま全額横領されたとは必ずしもいえないが,横領金額のうち平成14年度収入において上記金員の占める割合的部分(77万6003円/892万1393円×693万4242円=60万3156円)については,横領されたものとして扱うとしても不合理ではない。 ウ しかしながら,甲5及び弁論の全趣旨によれば,川口市補助金規則16条1項2号は,当該補助金等の交付決定において当該補助金等を充てるべき用途が指定されている場合に限って適用されるものと解される。 しかるに,乙4ないし7,9及び弁論の全趣旨によれば,川口市町会防犯灯電気料補助金は,町会の防犯灯電気料支払の実績に基づいて,後日同額を補助金として交付する方式をとっており,川口市集団資源回収団体助成金は,町会の資源回収の実績(資源回収した重量)に応じて助成金を交付する仕組みとなっており,その他の川口市広報活動報償金,川口市環境衛生活動報償金,川口市公園管理作業奉仕団体報償金についても,年間の活動報告を受けて所定の報償金の支給決定がされる仕組みとなっていることが認められ,上記の補助金,助成金,報償金について,交付決定の段階において当該支給金の使途が特定されているとは本件証拠上認めがたい(むしろ,上記補助金等は,町会の一般財源に繰り入れられ,他の収入と合わせて町会の諸々の 活動費に充てられることが予定されているというべきである。)。 エ そうすると,Aが町会の現・預金693万4242円を横領したことをもって,本件補助金等の流用であり,川口市補助金規則16条1項2号に該当するという原告らの主張は,前提を欠くものであって,採用できないというほかはない。 オ もっとも,それらの補助金等の趣旨・目的は,防犯,資源回収,市の情報伝達,環境衛生,公園管理等に関する民間活動援助のためになされるものであり,その財源は公金であるから,交付決定の段階で使途が特定されていないとしても,いかなる使い道も全く自由というのではなく,直接的または間接的にそのような活動の維持,継続,発展のための一助とするという条理上の制限があることは明らかである。したがって,例えば,町会の収入のほとんどが特定人のために用いられ,当該補助金等が予定していた活動のために全く用いられないなど明らかに補助金等の使途としては不適切という場合には,川口市補助金規則16条1項2号の「補助金等を他の用途に使用したとき」に準ずるものとして,当該補助金等の支給決定を取り消すことも考え られないではない。 しかし,本件はそのような場合ではない(上記規則16条1項2号の「補助金等を他の用途に使用したとき」とは,補助金等の交付を受けた団体が自ら,すなわち当該団体の組織的意思に基づき,当該補助金等を不適切な目的に流用したという場合を指すとみるのが相当である。しかるに,本件の場合は,Aが上青木南町会に属する現金等を私的に費消したというものであって,町会の組織的意思でそのような横領が行われた場合ではもとよりなく,これを町会として黙認したという場合でもないから,上記規則16条1項2号が適用される場面ではない。また,原告らは,本件町会の会長等の管理監督の不十分を指摘するところ,たしかに,本件町会の会計処理についてはより厳格を要請される部分があることは否定できない。しかし,町会長等の監 督不十分の点があったとしても,それ自体は,Aの横領行為を本件町会の組織的意思に基づく行為としたりこれを黙認したものと評価することはできない。)。したがって,いずれにせよ,原告らの主張(その1)は理由がない。 (3) 原告らの主張について(その2) 次に,原告らは,本件町会が適切な帳簿類を欠いた管理を行っており,川口市補助金規則19条に違反しており,同規則16条1項3号に該当すると主張する。     しかし,同規則19条は補助事業等に係る経費の収支を明らかにした書類及び帳簿類の整備を義務付けた規定で,訓示的規定であり,それ自体は川口市補助金規則16条1項3号所定の条件・指示には当たらないとみるのが相当である(同号所定の条件・指示とは,本件補助金規則7条1,2項に定めるような,補助金等の交付決定自体において付せられた条件や指示をいうものと解するのが相当である。)。したがって,本件において仮に町会の会計帳簿類の作成が適切に行われていなかったとしても,それ自体は川口市補助金規則16条1項3号の取消事由に該当しないというべきである。   したがって,その余の点を論ずるまでもなく,この点の原告らの主張も理由がない。 (4) 補足的判断 なお,本件補助金規則16条1項は,「取り消すことができる。」とし,同規則13条1項は,補助金等交付決定の内容に適合しない場合に是正のための措置をもって対処しうることを定めている。そして,一般に,補助金等の交付決定に,川口市補助金規則16条1項各号所定のような事由が認められるときであっても,長としては,必ず当該交付決定を取り消さなければならないものではなく,補助目的達成の可否について補助関係の全過程を通じて総合的に判定し,補助金等交付の所期の目的を達成することが困難となったと認められるときに初めてその取消権を行使すべきものと解するのが相当である(名古屋高裁平成5年2月23日判決,判例タイムズ859号260頁,小滝敏之「全訂版・補助金適正化法解説」240頁等参照。)。そこで ,仮に町会に対する補助金等の交付決定に川口市補助金規則16条1項各号所定のような事由が認められるときであっても,長としては,直ちに当該交付決定を取り消し,補助金等の返還を求めるというのではなく,しばらくは町会自体の自主的是正措置に委ねるという選択肢も十分にあり得ることである。 しかるところ,証拠(甲2,3,乙3)及び弁論の全趣旨によれば,平成14年10月にAの不正経理が発覚し,町会の現・預金693万4242円を私的に費消していたことが発覚したこと,上青木南町会とAは,平成15年2月12日,それまでの弁済額を控除した残額655万6242円について,平成15年2月から同17年10月まで,毎月末日限り,20万円宛(最終月は15万6242円)支払う旨の債務弁済契約公正証書を作成したこと,Aは,平成16年8月末迄に合計347万8000円を支払ったが,残金345万6242円の支払を怠ったため,町会のBがAの債務を引き受け,川口信用金庫から個人的に340万円を借り入れ,これを弁償資金に充てることとして,Bは,平成16年10月5日,町会に340万円を支払い, Aは残金5万6242円を支払って,上記公正証書上の債務の弁済は完了したことが認められる。 以上の事実によれば,現在のところは,Aの私的費消額全額に相当する金額の賠償がなされて,本件補助金等部分も含めて町会にあるべき現・預金が存在しないという状態は解消されているのであり,本件町会において本件補助金等が援助を想定した諸活動を行うのに支障が生じているとは認めがたい。 かかる事情からすれば,もはや被告において必ず本件町会に対し補助金等等の交付決定の取消しをしてその返還を求めなければならないまでの事情があるとは認めがたいのであり,この意味でも,被告において補助金等の交付決定の取り消しをしないことに違法,不合理な点があるとは認めがたいというべきである。 3 結論 以上の次第で,本件町会が川口市に対して不当利得返還義務を負っているとまで認められず,原告らの請求は理由が認められないので棄却するのが相当である。よって,主文のとおり判決する。 さいたま地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官   豊   田   建   夫 裁判官 松   村   一   成 裁判官都築民枝は,転補につき署名捺印することができない。 裁判長裁判官 豊   田   建   夫

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