H17. 7.14 松山地方裁判所 平成15年(ワ)第757号

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判        決    主        文   1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は,原告に対し,原告の平成10年8月17日宅地建物取引業法64条の8第2項の規定による認証申出について,同申出にかかる債権額1500万円のうち1000万円について認証せよ。 2 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成15年11月  20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 当事者の主張 1 請求原因  (1)ア 原告は,浄化槽の清掃,管理,一般廃棄物の処理等を目的とす る株式会社である。   イ 被告は,宅地建物取引業法に基づく営業保証金相当額の弁済業務,一般保証業務,手付金等保管事業その他の業務を行い,宅地建物取引業界の健全な発達と資質の向上及び消費者の保護を図ることを目的として設立認可された社団法人である。  ウ 宅地建物取引業者であるAは,昭和48年に被告に加入した社員であり,加入に伴い,宅地建物取引業法64条の9所定の弁済業務保証金の分担金として,合計60万円を納付している。  (2)ア 原告は,平成9年4月30日,Aから,別紙物件目録記載1(目録添付省略)の土地(以下「本件土地」という。)を買い受ける旨の契約を締結し,同日,Aに対し,同契約書2条に基づく手付金1500万円を交付した。 イ Aは,上記売買契約書3条所定の平成9年8月2日までに原告に本件土地を引き渡さず,かつ,所有権移転登記申請手続を完了しなかった。  そこで,原告がAに対し,その履行を督促したところ,同人からは同年11月末日までに履行する旨の約束がなされた。しかし,履行はされず,上記売買契約は,平成10年3月末日ころまでに,Aの債務不履行を理由として解除された。  ウ 平成10年4月2日,原告とAの間において,上記手付金1500万円の返還請求権を確保するため,Aの上記売買契約上の債務不履行による契約解除に基づき,同人が上記手付金1500万円を同年4月30日限り支払う旨の公正証書が作成されたが,同人は期限を徒過するも支払わない。  (3)ア 原告は,被告の社員であるAと宅地建物取引業に関し取引をしたものであり,上記手付金返還請求権がその取引により生じた債権であることから,平成10年8月17日,被告に対し,宅地建物取引業法64条の8第2項の規定による認証を受けるため,申出にかかる債権額を上記手付金額の1500万円として認証申出をした。  イ 被告は,平成12年4月27日,申出債権の立証が困難であるとの理由で,原告の申出に係る債権について認証を拒 否した。  ウ 被告は,注意義務を尽くさず,本件が「認証申出に理由がないと認める場合」に該当しないにもかかわらず,過失によって安易に原告の認証申出を拒否した。  これは不法行為に該当し,これにより原告が被った損害は,手付金1500万円の運用利息だけでも100万円を下らず,同額の損害を負っている。  (4) よって,原告は,被告に対し,宅地建物取引業法64条の8に基づき,上記認証申出にかかる債権額1500万円のうち限度額である1000万円について認証することを求めるとともに,上記不法行為に基づく損害賠償として100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年11月20日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)の各事実は認める。 (2) 同(2)の各事実は知らない。 (3)ア 同(3)アの事実のうち,原告が被告の社員であるAと宅地建物取引業に関し取引をしたものであり,上記手付金返還請求権がその取引により生じた債権であることは争い,その余は認める。 イ 同(3)イの事実は認める。    ウ 同(3)ウは争う。 3 被告の主張 被告が原告の認証申出を拒否した理由は,以下のとおりである。  (1) 原告の主張する売買契約及びこれに伴う金員の移動は存在しない。 (2) 仮に金員の移動があったとしても, ア 本件土地は,その地目が畑であることや利用状況等からみて宅地性はない。したがって,原告の主張する売買契約は,宅地建物取引に該当しない。 イ 原告のAに対する1500万円の請求権は貸金債権であり,宅地建物取引によって発生した債権ではない。 4 被告の主張に対する認否 被告の主張はいずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 当事者等    請求原因(1)の各事実は,当事者間に争いがない。 2 原告主張の売買契約及び金員の移動の有無 (1) 証拠(甲1ないし4,9,10,乙1ないし8,10,証人B,同A,同C,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 別紙物件目録記載2(目録添付省略)の土地(以下「bcd番eの土地」という。)について,売主をA,買主を原告代表者個人とし,代金を6200万円,手付金1500万円,決済日を平成9年3月10日とする同年2月24日付け売買契約書(乙1)が,上記両名によって作成された。 平成9年2月24日当時,bcd番eの土地の所有名義人は,C(以下「C」という。)であった。 イ bcd番eの土地には,Cの息子であるD(以下「D」という。)を債務者とする極度額2000万円の3番根抵当権が設定されていたが,これは,平成9年4月24日,同日付け解除を原因として抹消登記された。 ウ 本件土地について,売主をA,買主を原告とし,代金を3249万6750円,手付金1500万円,決済日を平成9年8月2日とする同年4月30日付け売買契約書(甲1)が,Aと原告代表者によって作成された。 また,平成9年4月30日付けでAから原告宛の1500万円の領収証(甲2)が作成されており,これには,本件土地の売買代金の手付金と記載されている。もっとも,地番の「fgh-i」は「bcd-e」の上に書き加えられたものであり,日付も「2月24日」の上に「4月30日」と書き加えられたものである。 平成9年4月30日当時,本件土地の所有名義人はCであった。 エ 平成9年5月2日付けで,bcd番eの土地の売買代金として,Aから原告宛の6200万円の領収証(乙10)が作成され,原告に渡された。しかし,原告からAに6200万円が支払われた事実はない。 オ 平成9年5月6日,bcd番eの土地について,Cから原告に対し,同月2日売買を原因とする所有権移転登記がなされた。しかし,Cと原告との間の売買契約書は証拠として提出されておらず,契約の内容は明らかでない。 また,上記の登記当日,bcd番eの土地に設定されていたDを債務者とする1番根抵当権及び2番抵当権の各登記が抹消された。 Cがbcd番eの土地を売却したのは,Dが多額の負債を抱え,その返済資金が必要であったからであり,売買について実質的に動いたのはDであって,Cは詳細についてはほとんど知らされていなかった。 カ 平成10年4月2日,債権者を原告,債務者をAとする手付金返済契約公正証書(甲4)が作成された。これは,Aが原告との間で本件土地の売買契約を締結したが履行できなかったため,原告から同契約を解除されたことによる手付金1500万円の返還義務を認め,平成10年4月30日限り一括して支払うことなどを内容とするものである。 キ Dから原告代表者宛の平成9年8月7日付け500万円の領収書(乙4)が作成されており,これには「土地売買代金の一部」と記載されている。また,Dから原告宛の平成10年4月3日付け300万円の領収証(乙5),同年9月7日付け200万円の領収証(乙6)も作成されており,いずれにも「土地代金一部 甲fgh-i番地分」と記載されている。 ク 本件土地について,平成10年3月13日付けで,Dを債務者とする極度額2500万円の根抵当権が設定されている。 ケ 本件土地について,売主をC,買主を原告とし,代金を3450万円,手付金1000万円,決済日を平成10年12月16日とする同年12月(日付空白)付け売買契約書(乙8)が作成された。 コ Cから原告宛の平成10年12月16日付け2450万円の領収証(乙7)が作成されており,これには「土地代金,a町甲fgh-i」と記載されている。 また,同日,本件土地について,Cから原告に対し,同日売買を原因とする所有権移転登記がなされ,上記クの根抵当権設定登記が解除を原因として抹消された。 サ 原告は,Aに対する手付金1500万円の返還請求権が宅地建物取引業に関する取引により生じた債権であるとして,平成10年8月17日,被告に対し,宅地建物取引業法64条の8第2項の規定による認証を申し出た。 (2) 原告代表者は,本件の事実経過について,概ね以下のとおりの供    述をし,証人Aの供述中にもこれに沿う部分 がある。 ア 原告代表者は,平成9年1月ころ,有限会社Eからbcd番eの土地の売却希望者として初対面のAを紹介され,同人と交渉の上,同年2月24日,代金6200万円,手付金1500万円で売買契約を締結し,売買契約書(乙1)を作成した。手付金1500万円は同日現金で支払い,領収証(甲2)を受け取った。手付金の額は通常の取引に比べると多かったが,原告は特に異議を述べなかった。 原告は,上記契約当時,bcd番eの土地がCの所有であることを知っていたが,Aに対し,同人とCとの間の売買契約の内容を確認することはしなかった。 上記売買契約書の買主は原告代表者個人となっているが,原告代表者は会社で購入する意思を有していたものであり,どうして原告代表者の個人名を書いたのかわからない。また,上記領収証の宛名は原告となっているが,契約書の買主と異なる理由は説明することができない。 イ 原告は,上記売買契約で決済日とされた平成9年3月10日,残代金4700万円を用意してAを待っていたが,Aは現れず,後にbcd番eの土地に設定された担保権を抹消できず,契約の履行ができないといってきた。そこで,原告は,Aを介さず,Cとの間で直接bcd番eの土地の売買契約を締結することとし,平成9年5月2日,Cに代金として6200万円を支払い,同月6日,所有権移転登記を受けた。 ウ Aは,平成9年4月末ころ,原告代表者に対し,本件土地を売り渡したい,手付金は,bcd番eの土地の売買に際し受領した手付金1500万円を流用すると持ちかけた。原告代表者はこれを了承し,同月30日,Aを売主,原告を買主とする本件土地の売買契約を締結し,売買契約書(甲1)を作成した。代金は3249万6750円であり,坪当たりの単価を出して代金額を決めた。 その際,bcd番eの土地の手付金の領収証(甲2)について,地番を「bcd-e」から「fgh-i」に,日付を「2月24日」から「4月30日」に訂正した。誰が訂正したかは覚えていない。 原告は,上記売買契約当時,本件土地がCの所有であることを知っていたが,Aに対し,同人がCとの間で売買契約を締結しているのかどうか確認しなかった。 エ Aは,ウの売買契約で決済日とされた平成9年8月2日になっても本件土地の所有権移転登記をすることができなかったため,原告に対し,同年11月末日までに登記を完了できない場合には1500万円の倍額を支払う旨の同年11月11日付け念書(甲3)を差し入れた。しかし,Aは,同日になっても,登記を完了することができなかった。 オ そこで,原告代表者は,Cと直接売買契約の交渉を始め,平成10年12月,代金3450万円で,売主をC,買主を原告とする売買契約を締結し,売買契約書(乙8)を作成した。上記代金についても,坪当たりの単価を出して決めたはずだが,Aとの間で決めていた代金額3249万6750円よりも上がった理由はわからない。 上記売買契約では,手付金は1000万円とされていたが,これは,Dに対し,平成9年8月7日500万円を,平成10年4月3日300万円を,同年9月7日200万円を,それぞれ本件土地の売買契約が締結することができたときの代金に充当するという趣旨で渡していたので,その合計額1000万円を手付金としたものである。最初に500万円を渡した平成9年8月7日の段階で,本件土地の売買代金は決まっていた。 原告は,平成10年12月16日,残代金2450万円をCに支払い,本件土地の所有権移転登記を受けた。    カ bcd番eの土地の売買代金6200万円,本件土地の売買代金3450万円の支払については,原告が複数の他人名義で作っていた定期預金を平成9年に解約し,自宅に置いていた現金を充てた。 キ 一方,原告は,Aが本件土地の所有権移転登記を履行しなかったため,平成10年3月末ころまでに,Aとの本件土地売買契約を解除し,同年4月2日付けで,原告を債権者,Aを債務者とする1500万円の手付金返済契約公正証書(甲4)を作成した。その主な内容は,前記(1)カ記載のとおりである。 ク Aは,公正証書で決められた期限の平成10年4月30日を経過しても上記1500万円を支払わなかったため,原告は,被告に対し,本件認証を申し出た。 (3) しかしながら,原告代表者の供述には,以下のとおり不自然かつ不合理な点が多く,Aとの間で,bcd番eの土地について乙1記載の内容の売買契約が締結されて1500万円の手付金が授受されたこと,本件土地について甲2記載の内容の売買契約が締結され,上記手付金を流用する旨の約束がなされたことは,いずれもにわかに認め難いといわざるを得ない。 ア Aとの間で作成したbcd番eの土地の売買契約書(乙1)には,買主が原告ではなく原告代表者個人とされているほか,手付金(1500万円)と残代金(4500万円)の合計額が売買代金(6200万円)と一致しない。また,このとき原告代表者が受け取ったという手付金1500万円の領収証(甲2)の宛名は原告とされているが,これと乙1の買主が異なる理由は,原告代表者にも説明することができないものである。  原告代表者は,bcd番eの土地がCの所有であることを知っていたのに,Aに対し,同人とCとの売買契約の内容を確認していない。これは,原告代表者とAとが従前からの知り合いではなかったことに照らすと,非常に不可解である。 イ 原告代表者は,Aとの間で本件土地の売買契約を締結したとき,同土地がCの所有であることを知っていたのに,Aに対し,同人とCとの売買契約の内容を確認していない。当時,Aがbcd番eの土地の移転登記義務を果たしておらず,本件土地についてもその履行可能性を一応疑ってかかることが当然であることに照らすと,原告代表者の対応は不合理といわざるを得ない。  また,原告代表者は,bcd番eの土地についての手付金を本件土地の手付金に流用すべく,領収証(甲2)をそれに沿うよう訂正したと述べるが,誰が訂正したのか覚えていないというのは不自然であり,これが真実領収証の日付である平成9年4月30日に訂正されたのか疑わしい。 ウ 原告代表者は,平成9年5月2日,Cにbcd番eの土地の代金として6200万円を支払ったというが,売買契約書も,6200万円が現実に支払われたことを認めるに足りる客観的な証拠(領収証等)も,提出されていない。同日付けのAから原告宛の6200万円の領収証(乙10)はあるが,原告代表者はこれに記憶がなく,6200万円をAに支払ったことはないと供述しており,上記領収証が何のために作成されたのか不明である(Aと原告との間でbcd番eの土地の売買契約がなされたことの裏付けとして,後に作出された疑いもある。)。      また,bcd番eの土地については,3番根抵当権の登記が平成9年4月24日に抹消されているが,原告代表者が同年5月2日に代金を支払ったというのであれば,上記抹消は誰の出捐した金員で抹消されたのか疑問が残る。 なお,これらは,原告代表者とAとの間で締結されたというbcd番eの土地の売買契約における代金額(6200万円)についても疑問を抱かせる事情となるものである。 エ Cとの間でなされた本件土地の売買契約についても,原告代表者の説明には疑問がある。  原告代表者は,Cと契約した売買代金(3450万円)がAと契約した売買代金(3249万6750円)よりも上がった理由はわからないと述べるが,価格が買主にとって大きな関心事であることを考えると,これは不自然である。  原告代表者は,Dに売買代金の一部として500万円を渡した平成9年8月7日の段階で,本件土地の売買代金の額は決まっていたと述べる。しかし,その当時は,Aとの間の本件土地の売買契約が解除されていたわけではなく,その後にもAが原告に対し念書(甲3)を交付して本件土地の所有権移転登記を約していること,原告とAとの間で手付金返還についての公正証書が作成されたのは平成10年4月になってからであることに照らすと,原告代表者の供述はにわかに措信し難い。まして,Dは,平成10年3月に至って本件土地に自己を債務者とする根抵当権を設定しているが,これは,その当時原告との間で売買の具体的な話など決まっていなかったことを窺わせる事情ということができる。そうとすれば,本件土地の売買代金の一部として,契約前にDに1000万円を渡していたという原告の供述はにわかに措信し難く,上記1000万円が真実Dに渡されていたとしても,その趣旨は本件土地の売買代金ではなかった可能性も否定することができないのであって,結局,本件土地の売買代金が3450万円であったとはにわかに認め難いといわざるを得ない。 (4) 以上の次第であって,上記認定に係る事実経過に照らすと,趣旨はともかくとして,原告とAの間で何らかの金員の授受がなされていた可能性はあるし,また,Cから原告に対し,bcd番eの土地及び本件土地について,売買を原因とする所有権移転登記がなされていることからすれば,原告とCとの間で両土地の売買契約が締結され,対価がC又はDに対し支払われたことは推認することができるものの,原告とAとの売買契約の締結,手付金の授受及びその額,原告とCとの間の契約内容及びCに支払われた代金の額等については,関係書証(甲1,2,乙1,4ないし8,10)の記載,原告代表者の供述及びこれに沿う証人Aの供述をにわかに信用することはできないというべきである。他に,原告の主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 3 結論 以上によれば,本件土地について原告とAの間で原告主張の売買契約が締結され,原告主張の手付金が授受された事実を認めることはできないから,本件認証申出は理由がなく,被告がこれを拒否したことは正当というべきである。よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。       松山地方裁判所民事第2部 裁判官   坂   倉   充   信  

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