H17. 8.10 宇都宮地方裁判所 平成13年(行ウ)第2号,平成14年(ワ)第289号 廃校処分取消請求事件(以下「甲事件」という。),損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)

「H17. 8.10 宇都宮地方裁判所 平成13年(行ウ)第2号,平成14年(ワ)第289号 廃校処分取消請求事件(以下「甲事件」という。),損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

H17. 8.10 宇都宮地方裁判所 平成13年(行ウ)第2号,平成14年(ワ)第289号 廃校処分取消請求事件(以下「甲事件」という。),損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)」(2005/09/26 (月) 11:02:12) の最新版変更点

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判示事項の要旨: 足利市が設置していた小学校の廃止措置等について,特定の小学校において教育を受けさせる利益は法的に保護された権利あるいは法的地位ということはできず,条例による廃止措置は行政処分に当たらないとして,これらの措置等に関する取消請求を却下し(甲事件),併せて,これらの措置によって精神的被害を被ったとする慰謝料請求についてもこれを認めなかった(乙事件)事例 判決 主文 1 甲事件原告らの本件訴えをいずれも却下する。 2 乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。    3 訴訟費用は,甲事件及び乙事件とも,各事件原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求  1 甲事件   (1) 被告足利市が平成12年12月22日付け公布に係る平成12年足利市条例第42号「足利市立学校の設置に関する条例の一部を改正する条例」の制定によってした足利市立A小学校の廃止処分を取り消す。   (2) 被告足利市議会が平成12年12月21日にした前項の条例を制定する議決を取り消す。   (3) 被告足利市長が平成12年12月22日にした第1項の条例の公布処分を取り消す。   (4) 被告足利市教育委員会が平成13年1月29日付けでした通学校指定処分を取り消す。  2 乙事件 乙事件被告は,乙事件原告ら各自に対し,それぞれ金1万5000円を支払え。 第2 事案の概要    本件は,被告足利市(以下「被告市」という。)が設置していた足利市立A小学校(以下「A小学校」という。)に通学する児童の保護者や同校の通学区域内の住民である甲事件原告らが,被告足利市議会(以下「被告市議会」という。)が平成12年足利市条例第42号「足利市立学校の設置に関する条例の一部を改正する条例」(以下「本件条例」という。)を制定する議決をし,被告足利市長(以下「被告市長」という。)が本件条例を公布し,もって被告市が本件条例を制定し,これを受けて被告足利市教育委員会(以下「被告教育委員会」という。)がA小学校の児童らに対し新たにB小学校を通学校に指定した(以下「本件指定」という。)ことについて,被告市議会による本件条例の議決,被告市長による本件条例の公布,被告市による本件条例の制定,被告教育委員会による本件指定(以下,これらの各処分を一括して「本件各処分」という。)が,いずれもA小学校の廃止の効力を生じさせるものであり,同校の廃止はA小学校に通学する児童の保護者がA小学校という特定の公の施設で教育を受けさせることができる権利に直接具体的な影響を与えるものであるから,被告らの各行為によるA小学校の廃止は,取消訴訟の対象となる行政処分に当たり,かつ,原告らの教育の自由等の権利を侵害する違法な行政処分であると主張して,被告市,被告市議会及び被告市長に対し,A小学校を廃止することとなる各処分の取消しを,被告教育委員会に対し,本件指定の取消しを,それぞれ求める(甲事件)とともに,A小学校の廃止処分及び本件指定によって,乙事件原告らが精神的苦痛を被ったとして乙事件被告(足利市)に対し,損害賠償を求めた(乙事件)事案である。  1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)   (1) 甲事件原告ら20名のうち,別紙甲事件原告目録1ないし10,12記載の原告らは,本件条例が制定された平成12年12月20日当時,A小学校に通う児童らの保護者であった者で,同目録2,6,7,9の原告らは,現在B小学校に通う児童の保護者である。その他の甲事件原告らは,本件条例制定当時,A小学校の通学区域の住民であった者である。 乙事件原告らのうち,別紙乙事件原告目録1ないし15,17ないし42の原告らは,平成13年1月29日のA小学校廃止当時,A小学校に通っていた児童らの保護者であった者で,同目録16の原告は,当時,足利市内に居住していたが,A小学校の通学区域に居住する住民ではなかった者である。 (2) 被告市は,「足利市立学校の設置に関する条例」(昭和39年足利市条例第58号)に基づき,栃木県足利市a町b番地にA小学校を設置していた。a町周辺は,足利市の旧来の市の中心地であり,現在c地区と呼ばれる地域の一つとなっている。 被告市議会は,平成12年12月21日,被告市が設置する小学校の一覧表からA小学校を削るという改正内容の本件条例を議決し,被告市長は,翌22日,本件条例を公布し,これらの措置により,平成13年3月31日をもってA小学校は廃止された。 被告教育委員会は,本件条例に基づき,平成13年1月29日,A小学校に1年生から5年生として通学していた児童の保護者(世帯主)に,C小学校,B小学校に通学を指定する本件指定を通知をし,B小学校に入学を指定する児童(新1年生)の保護者(世帯主)に就学通知書を送付した。  2 争点及び当事者の主張   (1) 本件各処分の行政処分性等について    (甲事件原告らの主張) ア 被告市が本件条例の制定によってしたA小学校の廃止処分は,行政機関によってされたものであり,これによりA小学校に就学していた児童の保護者である原告らが,自らの児童らに同校における教育を受けさせることができなくなり,地域住民である原告らが,同校における社会教育や地域教育を受けることができなくなるという意味で,直接的に法律上の地位への具体的影響を与えるものであるから,公権力の行使に当たり行政処分性を有する。 被告市議会による本件条例制定の議決は,これによってA小学校の廃止が決定され,結果として原告らは上記のような影響を被るのであるから,外の具体的な行政処分を介さずに原告らの具体的権利義務に直接に影響を及ぼすものであるといえ,単なる一般的抽象的規範の定立にとどまらず,立法の形式を借りた処分である。 被告市長の本件条例の公布についても,条例は公布によってその効力を生ずるのであるから,被告市長による本件条例の公布は単なる付随処分ではなく,本件条例を執行させうるものとする公権力の行使であり,原告らの権利義務に直接に影響を与えるものといえ,同様に処分性を有する。 イ 被告教育委員会による通学校指定処分は,これによって,A小学校への就学児童等の保護者である原告らに,その保護する児童らに新たに指定された小学校に通学しなければならなくなるという義務を負わせ,地域住民である原告らに今までに異なる環境で教育をしなければならないという義務を負わせるものであるから,処分性を有するというべきである。また,本件指定は,本件条例を先行行為とする後行行為と位置づけられるのであり,本件条例自体に処分性がないとすれば,当然に争い得るし,本件条例に処分性が認められるとしても,先行行為である本件条例の瑕疵が承継されているから,処分性は認められる。 ウ A小学校への就学児童の保護者である原告らは,被告らの一連の処分によって,その保護する児童をA小学校に通学させることができなくなり,新たに指定されたB小学校に通学させなければならなくなっているのであるから,当然に原告適格を有するし,未就学児童の保護者である原告らも,特殊な場合を除いて小学校の利用関係の発生は確定的であるから,就学児童の保護者同様に原告適格は認められるというべきである。地域住民である原告らは,養子縁組などを想定すれば,未就学児童保護者と同様の法的利益を有しているし,たまたま処分がなされたときに保護者でないというだけで地域の継続的施設といえる小学校の存否を法律上争えないのは不合理である。また,社会教育を受ける権利や地域の子供たちに地域教育をする権利が独自の法的利益として存在するものであり,これらの権利を侵害されたものであるから,本件各処分に対する原告適格を有するというべきである。 エ 被告らは,A小学校廃止後も通学可能な範囲内の小学校で教育を受けることができることや,本件指定を取り消しても,A小学校は廃止されている以上,原告らの権利利益を回復させることはできないなどの理由から,原告らの訴えには訴えの利益がないとする。 しかし,通学が社会生活上困難であるかどうかは,本案における処分の適法性の問題であり,訴訟要件である訴えの利益の判断の対象とすべきでない。訴えの利益の判断は,従来の学校通学に伴う法的権利・利益に対して,変更が加えられたかどうかで決すべきである。また,A小学校が既に廃止されていることを理由とするのは,実質審理を回避するための形式論理であり,極めて不当な主張であって,事実上もA小学校が地域住民によって維持されており,被告教育委員会がすべき環境整備さえ行われれば現状回復は可能である。 (甲事件被告らの主張) ア 被告市による本件条例の制定は,選挙によって選ばれた住民の代表者である議員によって構成される議会の議決によって制定される一般抽象的な法の定立行為であって,行政事件訴訟法第3条第2項に規定する抗告訴訟の対象たるべき行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為に該当しない。 条例の形式を採っている場合であっても,外に行政庁の具体的処分を待つまでもなく当該条例そのものによってその適用を受ける特定個人の具体的な権利義務や法的地位に直接影響を及ぼすような場合には,条例の制定行為自体をもって,抗告訴訟の対象となる行政処分と解する余地があるとの前提に立つとしても,一般に国民がその養育する児童について法定年限の普通教育を受けさせる権利ないし法的利益を有するとはいえても,具体的に特定の小学校で教育を受けさせる権利ないし法的利益を有するものではないから,従前通学していた小学校が廃止され新たに設置された小学校を就学校として指定されたとして,当該小学校が社会生活上通学することができる範囲内にある限り,当該小学校の廃止及び新設に係る条例は一般的規範にほかならず,抗告訴訟の対象となる処分に当たらない。 そして,原告らの保護する児童らがA小学校廃止後に就学校として指定を受けたB小学校は,通学距離や通学路の安全等の観点から見ても,当該児童らが社会生活上通学することができる範囲内にあり,また,B小学校の学校施設が義務教育を実施する施設として適切でないという事情も全くないから,原告らの保護する児童らが教育を受ける権利を実質的に享受することができない状態に置かれたものとはいえず,したがって,本件条例の制定は,抗告訴訟の対象となる処分には該当しない。 イ 本件条例の制定に関する被告市議会の議決や被告市長の本件条例の公布は,本件条例の制定が抗告訴訟の対象となるべき行政庁の処分と解する余地がないのであるから,これを議決した行為及び公布した行為も当然,抗告訴訟の対象となるべき行政庁の処分に該当しない。 ウ 被告教育委員会による本件指定についても,A小学校が廃止された後も社会生活上通学可能な範囲内に設置されたB小学校又はC小学校において教育を受けることができ,これにより教育を受ける権利ないし利益は従前と変わりなく保障されているから,本件条例の実施に伴って被告教育委員会が行った本件指定は,それによって原告らの権利ないし法律上保護された利益に影響を与えるものではないから,当然に抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないというべきである。 仮に,被告教育委員会の上記措置が抗告訴訟の対象となるものであるとしても,処分取消の訴えは,取消判決によって当該処分の法的効果を失わしめ,処分の法的効果として生じた原告らの権利利益に対する侵害状態を解消し,その権利保護の回復を図ることを目的とするものであるから,当該処分を取り消しても原告らの権利利益を回復させる可能性がないときには,もはやその取消しを求める訴えはその利益を欠くというべきである。 そして,本件においては,仮に本件指定が取り消されたとしても,本件条例が平成13年4月1日施行されたことにより既にA小学校が廃止されている以上,指定以前の状態を回復することが不可能であることは明らかであるから,原告らとしてその侵害された状態を回復し得る余地はないのであって,本件指定の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠くものとして却下を免れない。 なお,原告らのうち,保護する児童がその後小学校を卒業し,中学校に入学した者らについては,いずれにせよ訴えの利益を欠く。 エ さらに,原告らが主張するような学校の規模,児童数をどの程度に維持すべきか,統廃合が必要となった場合の学校施設をどこに決定すべきかなどという事項は,現行法上法定の手続に従い,地方自治体である被告市が,被告市長,被告教育委員会,被告市議会の関与の下に決定すべきものであって,その具体的決定の当否についての不服は,法律を適用して当事者の主張の適否を判断することができない事項というべきである。この観点からは,原告らの本件訴えは法律上の争訟にも該当しないものとも考えられ,却下を免れない。 原告らのうち地域住民として甲事件を提起している者は,地域住民の社会教育を受ける権利,地域教育を受ける権利等が存在することを前提に抗告訴訟の適法性の存在を主張するが,地域住民らに特定の小学校においてその主張するような教育を受ける利益が法律上の権利ないし法的利益として保障されているものではないことは明らかであるから,本件条例等がそれらの者に対する処分に該当することはあり得ない。 (2) 本件各処分の実質的違法性について (甲事件及び乙事件原告らの主張) ア 児童らには,憲法26条1項の教育を受ける権利の一内容として学習権が認められ,児童らの学習権を満たすべく,保護者である原告らには教育の自由が認められており,この教育権の一内容として,公権力に適切な教育環境を提供することを要求することが認められる。教育基本法10条1項が行政に教育目的遂行のための諸条件の整備を要求し,学校教育法29条が市町村が児童を就学させるに必要な小学校の設置を規定しているのは,行政に教育環境整備義務があることの証左である。そして,この教育環境整備義務は,上記の学習権や教育の自由を充足させるためのものであるから,行政は,児童らが人間的に発達成長していくのに十分な教育環境・設備を備えた小学校を整備しなければならず,いったん与えられた児童の発達・成長にふさわしい教育環境を理由なく奪われることは許されないから,これを理由なく変更することは学習権の侵害となる。 また,地域住民には独自の権利として,社会教育を受ける権利があるが,教育基本法,社会教育法,スポーツ振興法等において,社会において行われる教育の奨励,環境醸成がうたわれ,学校施設等の利用や各種講座実施のための経費負担等が定められているとおりである。 国民が社会教育に参加する要求は増大しており,そのための人的・物的設備としての学校の重要性も増しているのであって,社会教育の場でもある学校を廃止することはその機会を地域住民から奪うことになり,社会教育を受ける権利を侵害することになるのであり,A小学校とその地域住民の場合も同様である。また,昨今の教育改革では,子供の教育に関し,地域住民とのふれあいの機会や地域による教育が重要視されているのであり,地域住民にも保護者同様に教育をする自由が認められる。 イ A小学校の廃止及び本件指定によって,原告らは教育環境を変更されるのであって,教育に関する行政は,教育条件向上のために行わなければならないから,教育条件がすべての者にとって悪化する場合には,行政による裁量の濫用ないし逸脱に当たり,違法である。従前文部省によっても,学校統合に当たっては地域住民との紛争や通学上著しい困難を招くことを避けるべき旨述べた上,「小規模校として存置し充実することの方が好ましい場合もあることに留意すること」,「通学距離及び通学時間等を十分に検討し,無理のないように配慮すること」,「学校の持つ地域的意義等をも考えて,十分に地域住民の理解と協力を得て行うように努めること」等を指示した通達が発されているのであり(甲13,昭和48年9月27日通達),学校統廃合に当たって裁量の濫用ないし逸脱を審査する基準になるというべきである。 ウ これをA小学校とB小学校についてみるに,A小学校の方が児童一人当たりの校地面積,校舎面積で上回る上,B小学校は,窓の開閉ができず風通しが悪い,天井から雨漏りがする等大規模な改修を要する古い校舎であり,施設として明らかに教育環境が悪化しているといえる。また,A小学校の児童にとって通学距離は従前最大で約1.5キロメートルであったのに,B小学校へは,直線距離で約2.11キロメートル,通学距離は最大で約3キロメートル弱となるのであって明らかに伸長している上,D病院前交差点等交通上危険な場所も見られ,通学路に指定された歩道は狭く,用水路沿いであることから転落等の危険もある。これら通学路の構造上の危険は交通指導員の配置では解決しないし,下校時には何らの配慮もなされていない。これらによればA小学校に通っていた児童らにとって通学環境は明らかに悪化した。さらに,従前A小学校区域内では,地域住民が子供たちの教育について保護者とともに学び,地域教育の重要性を認識し,地域住民,学校関係者,保護者,児童らそれぞれが顔の見える関係を築こうとし,老人会との交流給食会や,地域住民参加の運動会など,様々な交流をなして地域教育としての成果を挙げていたところ,B小学校になってこのような試みは途絶し,B小学校からは旧A小学校区域の住民に対して交流を打診するような連絡がこないなど,学校を通じての地域教育が困難な状況となっている。 エ 以上のように,様々な観点で見ても,児童らや地域住民に対する教育環境がA小学校の廃校とB小学校への通学校指定により悪化したことは明らかである。また,そもそも教育学的見地から見ても大規模校よりも小規模校の方がより教育効果が上がるといえ,児童らの教育条件を悪化させてまで財政削減を図らねばならないような事情は示されておらず,その必要性もない。よって,被告らの本件各処分は,不合理で,裁量権の濫用ないし逸脱に当たり,違法である。 (甲事件被告ら及び乙事件被告の主張) ア 地方公共団体の議会の条例制定権は,憲法によって国民に保障されている地方自治制度の必要不可欠の要素であり,住民は,その代表者である議員によって構成される議会を通じて,どのように自治を行うかについて決定することができるのであり,このような地方自治の本旨に基づけば,議会は,憲法及び法律に違反しない限り,その事務に関する事項について,制約のない極めて広範な範囲で,条例を制定することができると解すべきである。このように,条例制定権が憲法によって保障された地方自治制度の根幹をなすものであることを前提とすれば,条例に対する司法審査は,当該条例が明らかに憲法ないし法律に違反するものでない限り,無効ないし取り消すべきものと評価されるべきではない。 イ そして,c地区の市立小学校の再編成を内容とする本件条例は,足利市の中心市街地を区域とするc地区での児童の著しい減少(昭和30年には8350人であった児童数が,平成12年度には5分の1以下の約18.29パーセントに当たる1527人,平成11年度は1628人)を背景に,今後の社会における望ましい教育環境の構築のため,協調性や社会性のかん養のための外の児童集団との交流,地域コミュニティとの有機的連携等子供の生活圏や発達段階,通学環境を考慮した多様な観点から通学区域再編成を実施したものであり,学校規模については,おおむね同学年で2学級から3学級まで,全体で12から18学級まで,通学距離については4キロメートル以内が小学校としては適正であるとの認識にしたがって再編成を行ったもので,新設したB小学校についても,地区割りの中で偏らない位置にあり,かつ新設校として敷地面積,建物面積,設備などでできる限り広く,整った学校施設を使用するとの前提で選考した結果,E小学校,A小学校,F小学校の通学区域の中でほぼ中央にあり,施設の敷地面積,建物面積,設備などの規模も大きいE小学校を使用施設に選定したものである。また,新設小学校に既存の施設を利用する場合でも吸収合併ではなく,校名,校歌を刷新する等の配慮をするとの前提に,市民公募で選定した「B小学校」との校名や新校歌を定めるなどしている。 ウ 義務教育諸学校施設費国庫負担法施行令3条によれば,同法3条1項4号の適正な規模の条件として通学距離が小学校にあってはおおむね4キロメートル以内であることとされており,B小学校の児童の通学距離は最長でも約2.3キロメートルを超えることはなく,c地区を除く市内の小学校では2校を除くほぼすべての学校において徒歩での最長通学距離はB小学校より長いことに照らしても,B小学校に通学を指定された児童に,社会通念に照らして通学距離が遠すぎて通学ができないと評価されるべき児童は存在しないというべきである。また,B小学校への通学路において,特に交通上危険と評価されるような地点は存しない。原告らが指摘するD病院前の交差点も,信号機及び横断歩道が整備され,歩道も拡幅されて通行しやすくなっており,県道と歩道は段差によって明確に区分され,運転手の視界が悪くなることもない。さらに,児童の登下校時には交通指導員も立哨しており,原告ら主張のような危険はない。 また,B小学校において実施されている教育が,旧A小学校においてされていた教育と比較して劣っており,義務教育を受ける権利が保障されていないなどという事実はない。かえって,通学区域の再編成によって,子供の学習活動やその成長過程においてかかわることが望ましい適切な規模の集団や人数の中で教育を行うことが実現できるのであり,原告らが主張するように,A小学校の児童らがB小学校に通学することが困難であるといった事情は認められない。さらに,本件条例によって校舎の新増築は全く予定されておらず,B小学校で実施している改修は,経年による老朽化や教育内容変化に伴う一般的改修や,新耐震設計法の基準に適合するよう耐震性を向上させるための事業であって,築後一定年数が経過した建物であれば当然行われる工事にすぎず,B小学校特有の問題から工事を実施するわけではない。 エ よって,本件条例の制定,公布,これらを受けての通学校指定はいずれも相当かつ適法なものであり,憲法ないし法律に違反するものではない。 (3) 本件各処分の手続的違法性について (甲事件及び乙事件原告らの主張) ア 条例制定に当たっては,被告市議会は,立法事実等について必要な調査をすべき義務を負い,本件条例については,A小学校廃校による教育上の効果はもちろんのこと,地域の実情の調査も必要であるところ,原告らは議員らに対して本件条例制定前に懇談の機会を申し入れたのに何らの反応はなく,議員個人らで必要な調査をした形跡がうかがわれず,地域の実情を知らないままに本件条例の議決がされたのであって,被告市議会による本件議決には瑕疵がある。 イ 本件条例はその制定までに,昭和60年11月のPTA連合会による要望から始まり,平成3年10月から平成7年2月まで足利市小中学校通学区域検討委員会(以下「検討委員会」という。),同年9月から平成10年4月までc地区新学区編成委員会(以下「編成委員会」という。)による検討を経て,平成10年7月1日に被告教育委員会において「c地区7小学校通学区域再編成基本方針」が決定されるとの過程を経ている。 しかし,検討委員会の中で設置されたc地区専門部会では,教育委員会担当者が小規模校のデメリットを強調するのみで,委員独自の調査はなく,委員会でも十分な議論がされていなかった。また,編成委員会では,学区再編成について市民の意見を聴取することを目的とされていたのであるから,本来であれば,再編成の可否,児童らにとって必要な教育環境といった教育論が議論されるべきところ,再編成案についてしばらく市民の代表に公表されないまま進められた上,統廃合を前提とした区割り論や,校名,校歌,跡地利用などの話合いしかされなかった。区割りについても,校舎面積や校庭面積,地図といった客観的な数字だけを基準とし,児童らの通学問題や地域住民との関係,教育環境といった具体的事情についても検討はおろそかにされた。 これらの不十分な調査・検討に基づいて,また議事過程について何らの資料が作成されずに,編成委員会で策定された答申を基に被告教育委員会が基本方針を作成したのであり,これら不十分な議論の結果作成された検討委員会,編成委員会の答申等を基にして作成された被告教育委員会の資料のみしか参照せずに,被告市議会の議員らは本件条例の議決に至ったものであり,やはり瑕疵があるというほかない。 ウ また,原告らが被告市長に対して陳情を,教育長に対して要望書を提出するなどしており,慎重な検討を行うとの趣旨の回答がされていたのに,これに配慮することなく本件条例制定に至った点でも不当である。 さらに,B小学校に対して耐震工事等大規模な改修工事が必要なことは上記の本件条例制定の過程で明らかにされておらず,全く議論がされていないのであって,新たな財源を必要とすることはない旨の説明に反しており,保護者・地域住民に対する説明義務違反・調査義務違反があり,このような検討事項を看過してされた答申に瑕疵があることは明白である。 エ 以上のように,地方自治に関する事項は住民の意思を尊重してされなければならないところ,教育に関する意思決定も例外ではなく,A小学校の廃止についても,地域住民や児童の保護者らである原告に直接又は間接に関与する機会を与えねばならないところ,被告市議会による本件条例議決の前提である,住民に対する十分な資料の提供や住民の意思を聞く機会も付与されておらず,住民が意思決定に関与する機会はあったとはいい難い。よって本件各処分の手続は憲法92条に違反し違憲である。 また,d町については,本件各処分によって通学校がC小学校に指定されたが,同町は以前にC小学校に通学校指定されていたものをA小学校に変更し,更に本件各処分により再度C小学校が指定されたものであって,このような一部地域の通学校指定の頻回な変更は憲法14条違反であり違憲である。 (甲事件被告ら及び乙事件被告の主張) ア A小学校の通学区域の再編成は,昭和60年11月に,足利市PTA連合会から小学校の児童数のバランスを採るよう求める要望書の提出が発端となって開始され,被告教育委員会において,平成3年10月に検討委員会を設置し,検討委員会を平成4年1月から平成7年2月まで延べ15回にわたって開催し,地区ごとの諸問題の調整と意見の集約を行った結果,検討委員会が,被告教育委員会委員長に対して,「足利市立小中学校通学区域再編成検討結果について(答申)」を提出した。 これを受けて,被告教育委員会は,平成7年8月9日,足利市立小中学校通学区域再編成大綱(以下「大綱」という。)を決定し,これに基づいて各地区で通学区域再編成の具体案を調整する組織が設置されることとなり,c地区でも,平成7年9月29日,編成委員会が設置され,7小学校を4校に再編成する計画作りと地域の調整を行い,平成8年3月25日に編成委員会案として「c地区再編成基本案」を作成し,新しい通学区域と使用する施設を示して,同年6月から各校のPTAや地域に説明するとともに,各地区の保護者や地区住民への説明会で意見を聞きながら,具体的に200回以上の意見調整を行った。その結果,現在のB小学校として新設された通学地域は,E小学校の全域,A小学校の大部分,F小学校の大部分からなり,E小学校が使用施設に決まった。 これに対して,A小学校の児童保護者関係者らから,平成9年1月25日,編成委員会に対して要望書が提出され,新設される区域の使用施設としてE小学校ではなくA小学校を使用し,学区再編成では小学校のみならず中学校も含めた再編成をされたい旨意見が表明され,同年5月30日に,同関係者らから,被告教育委員会教育長,被告市議会議長に対して提出された要望書でも反対の意向が示された。 編成委員会は,平成10年4月9日,被告教育委員会教育長に対して,平成11年度をもってc地区の7小学校をすべて廃止とし,平成12年度に新たに4校を新設することを内容とする再編成案の答申書を提出した。これを受けて,被告教育委員会は,平成10年7月1日,この答申を検討した結果,「c地区7小学校通学区域再編成基本方針」を決定し,同月29日に被告市議会全員協議会に報告した。 被告教育委員会は,同基本方針に基づき,平成10年9月から同年11月にかけて,A小学校を除くc地区の各校PTA,地区住民に説明会を開いたが,A小学校については反対が強く,説明会を開くことができない状況であった。そこで,説明会開催に向けて懇談会を開くなど働きかけに努めた結果,平成11年6月29日,A小学校PTA実行委員会に対して初めて同基本方針の説明を行い,同年7月14日,A小学校保護者総会で説明を実施したが,翌15日,A小学校のPTAから被告教育委員会教育長に対して再編成案に反対する要望が提出された。 このような状況の中,被告教育委員会は,平成11年8月17日,平成11年度末でのA小学校の廃止を見送り,平成12年度当初では,c地区7小学校のうち6校を4校に再編成することを決定し,同年9月8日,被告市議会全員協議会に報告した。 イ 被告市議会は,平成12年1月20日,議員総会を経て,第1回市議会臨時会を開き,c地区通学区域再編成に伴い,A小学校を除くc地区6校を4校に再編成し,その施行日を平成12年4月1日とする「足利市立学校の設置に関する条例」の改正を議決した。この条例改正に際し,被告市議会では,「足利市立学校の設置に関する条例の改正に対する附帯決議」を行い,この決議で,c地区について,当初の基本方針の下,A小学校を平成13年3月31日までに廃止すること,決議の趣旨を踏まえて被告市及び被告教育委員会は最大限の努力をするよう求められた。 その後,平成12年2月から同年6月まで,5回にわたって通学区域再編成に関する教育と地域のかかわりについてA小学校教育懇談会を開催した。また,同年7月には,A小学校地区全11町内を5会場に分けて,全住民を対象とするA小学校地区町内懇談会を実施した。しかし,A小学校地区の未来を考える協議会が被告市長に意見書を提出するなどして,再編成事業に反対であることを表明した。 被告教育委員会は,同年9月28日,臨時教育委員会を開催し,A小学校地区の意見を整理し検討した結果,大綱及び基本方針の趣旨を踏まえて,通学区域再編成の意義に沿って進めていくことを改めて確認し,同年11月16日の定例教育委員会において,平成13年4月1日を施行日とする「市立学校の設置に関する条例の改正について」を議案とし,A小学校を廃止することを決め,被告教育委員会の意見として被告市長に送付した。 被告市議会は,同年12月21日の市議会定例会において,施行日を平成13年4月1日とする本件条例の改正を議決した。これにより,被告市は,平成13年3月31日をもってA小学校を廃止することとした。 ウ 本件条例制定によって,e町を除いて旧A小学校の通学区域はすべてB小学校の通学区域となるところ,e町の一部(d町)については,児童の友達関係や学校行事等での保護者の結びつきなどを考慮し,経過措置としてB小学校を就学校として選択することができる通学区域の弾力的運用を行うこととした。 エ 以上のとおりの経緯で本件条例の制定に至っているのであって,本件条例の制定は,教育行政上の必要に応じ,地域の意見を基にして,被告教育委員会が作成した計画に基づき,相当な手続により被告市議会により議決されたものである。また,その実施に当たっては,A小学校地区児童保護者関係者らに対しても,説明会を開催したり,A小学校については廃止を先送りにした上で懇談会を開くなどして,十分な説明を実施し,その理解を得るための措置を採っているのであって,不当,違法は一切存在しない。 原告らは,本件条例制定について被告市議会の議員らが何ら必要な調査をした形跡がないなどというが,被告市議会からは,2名の議員が議会の代表として足利市立小中学校通学区域再編成推進委員会の委員に就任し,その意思形成にかかわっているほか,平成3年以来,本件条例案議決に至るまで,度重なる常任委員協議会その他の会議及び懇談で慎重な調査,議論を行っているのであり,本件議決に何ら瑕疵はない。 (4) 損害の有無 (乙事件原告らの主張) 本件各処分により,保護者である原告らは,通学路の環境悪化により,事故等が懸念される危険箇所を通行しなければならなくなったり,交通頻繁な地域を通学することによってせきやのどの痛み,アトピー性皮膚炎等排気ガスによる健康への悪影響が生じ始める,夏期の通学では熱中症や脱水症状を起こす児童が増加する,通学路で保護児童が転倒したり,用水路に転落する,筋力の弱い児童が自力で通学できなくなる等の不安・苦痛を受けた。また,教育環境の悪化により,児童らが,夏期の授業により体調を崩す,悪臭によりトイレが利用できない,教員との信頼関係が失われ,円形脱毛症や不登校気味になる等の事態が生じ,それぞれ精神的苦痛を被った。 処分当時未就学児童であった児童の保護者らも同様の被害を被っている。 地域住民である原告らは,地域教育への参加の機会や児童らとの交流の機会を奪われ,廃校に至る過程でも教育委員会等から十分な説明を受けることができず,これらにより精神的苦痛を受けた。 (乙事件被告の主張) 争う。 上記2(2)の甲事件被告ら及び乙事件被告の主張ウで述べたとおり,通学路の安全は確保されており,原告らが主張するような損害の事実は認められない。本件条例制定等の手続についても,上記2(3)の甲事件被告ら及び乙事件被告の主張で述べたとおり,不当,違法な点は一切ないから,原告ら主張の損害は発生しない。 第3 当裁判所の判断  1 上記前提事実及び証拠(甲1ないし3,4の1,2,甲5,6,8ないし10,12,乙1ないし13,20,原告G)並びに弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。   (1) 足利市では,平成12年度において,c地区をはじめとする16地区に23校と1分校の市立小学校が設置され,このうちc地区には,平成12年3月末まで,A小学校の外,E小学校,F小学校,H小学校,I小学校,J小学校,K小学校の7校の小学校が設置されていた。     全国的な少子化傾向は足利市においても例外ではなく,都市のドーナツ化現象により地域間の偏在等から,特に中心市街地を区域とするc地区では児童数の減少が顕著であった。c地区では,児童数が,昭和30年には8350名であったものが,平成11年度には1628人,平成12年度には1527名と減少し,また,地域間に児童数の偏在が生じ,平成11年度では,A小学校が219人,E小学校が309人,F小学校が84人,H小学校が119人,I小学校が339人,J小学校が229人,K小学校が329人であり,中でも小規模化が進んだF小学校では,2年生と6年生が11人ずつしかおらず,特に市街地において児童数の減少が著しい状況であった(乙13)。   (2) このような状況を背景に,昭和60年11月に足利市PTA連合会から小学校の児童数の学校差が大きいので,バランスを採ることを考慮していただきたい旨の要望書の提出が発端となり,被告教育委員会は,平成3年10月に校長会,PTA,自治会,被告市議会及び教育団体代表者等で構成する検討委員会を設置し,足利市c地区の通学区域の再編成について,同委員会に諮問した。     検討委員会は,平成4年1月から平成7年2月まで延べ15回にわたって開催され,平成5年3月にまでまとめられた中間答申において示された「学校の適正規模は,小中学校ともおおむね12から18学級とする。通学距離はおおむね小学校4キロメートル,中学校6キロメートル以内とする。分校及び複式学級は廃止する。通学区域は現通学区域を原則として尊重する。児童・生徒の地域活動を考慮し,同一町内(自治会)は同一学区を原則とする。」旨の基本方針を踏まえ,足利市内5地区で住民により構成する地区専門部会を設置して地区ごとの諸問題の調整を行い,各部会は,4回から7回の協議を経てそれぞれの地区の意見を検討委員会に提出し,検討委員会は,この意見を調整して,被告教育委員会委員長に対して,「足利市立小中学校通学区域再編成検討結果について(答申)」を提出した(甲5,乙5)。 (3) 被告教育委員会は,平成7年8月9日の定例の会議で,検討委員会の答申を受けて,その趣旨を尊重した大綱(甲6,乙6)を決定し,平成8年度から平成12年度までの5年間で学校規模や地域の再編成を行うこととし,c地区については現存する7校を4校にするとの再編成計画が示された。 この大綱を受けて,各地区で通学区域再編成の具体案を調整する組織が設置され,c地区でも,平成7年9月29日,c地区の小中学校校長,地区PTA代表,地区自治会長連合会代表及び地区育成会代表,地区学識経験者等で構成する編成委員会が設置され,7小学校を4校に再編成する計画作りと,地域の調整を行った。 編成委員会は,平成8年3月25日,第3回の全体会で「c地区再編成基本案」を作成し(乙8,13),新しい通学区域と使用する施設を示して,同年6月以降順次各校のPTAや地域にこの基本案を説明する地区説明会等を開催するなどし,全体会,各部会,先進地視察,諸会議,各小学校PTAへの説明会,幼稚園等説明会,各小学校地区別説明会等,200回以上の説明会や検討会を持って意見調整を行った(乙8)。編成委員会は,児童の居住分布や隣接校の学校規模及び登下校に要する時間,通学距離などを基本として,新たに設置する4校の地区割りを上記再編成基本案に明記し,各地区の保護者や地区住民への説明会で意見を聞きながら,手直し調整を行った。これと並行して,使用する施設の検討も行い,c地区の市街地における現実的な解決策として,地区割りの中で偏らない位置にあり,かつ新設校として敷地面積,建物面積,設備などできる限り広く,整った学校施設を使用するという前提で選考することを決めた。その結果,B小学校として新設された通学地域は,E小学校,A小学校の大部分,F小学校の大部分からなり,3校区域の中でほぼ中央にあり,施設の敷地面積,建物面積,設備などの規模も大きいE小学校が使用施設に決まった(乙13)。 (4) これに対して,A小学校のPTAから,平成9年1月25日に編成委員会に対して「学区編成に関する要望書」(乙7)が提出され,B小学校として新設される区域の使用施設としてE小学校ではなくA小学校を使用し,学区再編成では小学校のみならず中学校も含めた再編成をされたい旨の要望書が提出された。その後,同年5月30日にも,A小学校PTA関係者等から,被告教育委員会教育長,被告市議会議長に対して提出された,「c地区新学区編成の委員会決定案に対して」と題する要望でも反対の意向が示された。 (5) 編成委員会は,平成10年4月9日,被告教育委員会教育長に対して,「c地区小学校の再編成について(答申)」(甲8,乙8)を提出し,平成11年度をもってc地区の7小学校をすべて廃止し,平成12年度に新たに4校を新設することを基礎とする再編成案を答申した。 被告教育委員会は,平成10年7月1日,臨時の会議を開催して編成委員会の上記答申を検討し,被告教育委員会の方針として上記編成委員会とほぼ同様の骨子の基本方針(甲9,乙9)を決定し,平成12年度を目途に上記答申同様の再編成を実施することとし,同月29日に被告市議会全員協議会に被告教育委員会の方針として報告した。 被告教育委員会は,基本方針に基づき,平成10年9月から同年11月にかけて,A小学校を除くc地区の各校PTA,地区住民に説明会を開いたが,A小学校については反対が強く,説明会を開くことができない状況であった(乙13)。そこで,説明会開催に向けて懇談会を開くなど働きかけに努めた結果,平成11年6月29日,A小学校PTA実行委員会に対して初めて基本方針の説明を行い,同年7月14日,A小学校保護者総会で説明を実施したが,翌15日,A小学校PTA会長から,被告教育委員会教育長に対して,「c地区7小学校通学区域再編成について(要望)」(乙10)が提出され,話合いの結果結論を出すことができるまでA小学校を存続させること等の要望が出された。 (6) このような状況の中,被告教育委員会は,平成11年8月17日,平成11年度末でのA小学校の廃止を見送り,平成12年度当初では,c地区7小学校のうち6校を4校に再編成することを決定し,同年9月8日,被告市議会全員協議会に報告した。 なお,大綱及び基本方針にしたがって,既存の施設を利用する場合でも吸収合併ではなく,校名,校歌を刷新する等の配慮をすることを前提に,平成11年7月27日,c地区新校名募集選考等委員会を組織して校名案を市民に公募し,同委員会での絞り込みの結果,同年10月20日に新校名案であるB小学校を被告教育委員会教育長に対し答申するなどの手続がなされた。 被告市議会は,被告教育委員会の報告を受け,被告市長から被告市議会に上程された議案について,平成12年1月20日,議員総会(甲10)を経て,第1回市議会臨時会を開き(甲12),c地区通学区域再編成に伴い,A小学校を除くc地区6校を4校に再編成し,その施行日を平成12年4月1日とする「足利市立学校の設置に関する条例」の改正を議決した。この条例改正に際し,被告市議会では,「足利市立学校の設置に関する条例の改正に対する附帯決議」を行い,この決議で,「c地区については,7小学校を4校に再編成するとの当初の基本方針の下,A小学校は平成13年3月31日までに廃止すること。」,「決議の趣旨を踏まえて被告市及び被告教育委員会は最大限の努力をすること。」が求められた。 この条例改正に伴って,教育委員会は,足利市立小学校の通学区域に関する規則の改正を行ったが,A小学校の廃止を見送ったため,A小学校の通学区域のうち,10町内をB小学校あるいはC小学校と重複する形での暫定的な改正にとどまった(乙13)。 (7) その後,被告教育委員会は,平成12年2月から同年6月まで,5回にわたって,通学区域再編成に関する教育と地域のかかわりについてA小学校教育懇談会を開催した。また,同年7月には,A小学校地区全11町内を5会場に分けて,全住民を対象とするA小学校地区町内懇談会を実施した。 しかし,A小地区の未来を考える協議会は,被告市長に対して「c地区通学区再編成に対する意見書」(甲20)を提出し,同協議会は,再編成事業に反対であることを表明した。 (8) 被告教育委員会は,同年9月28日,臨時の会議を開催してA小学校地区の意見を整理し検討した結果,大綱及び基本方針の趣旨を踏まえて,通学区域再編成の意義に沿って進めていくことを改めて確認した。 そして,被告教育委員会は,同年11月16日の定例の会議において,平成13年4月1日を施行日とする「市立学校の設置に関する条例の改正について」を議案とし,A小学校を廃止することを決め,被告教育委員会の意見として被告市長に送付した。 これを受けて,被告市長は,A小学校を廃止することを改正内容とする本件条例を議案として上程し,被告市議会は,平成12年12月21日,本件条例を議決し,被告市長は,翌22日本件条例を公布し,これによりA小学校は廃止された。 本件条例の制定に伴い被告教育委員会は,足利市立小学校の通学区域に関する規則を改正して本件条例同様の施行日を定めて通学区域の変更を行った(甲3,乙12)。 (9) 本件条例改正によって,d町については,C小学校が通学区域として指定されることとなったが,被告教育委員会は,従前の児童らの友達関係や学校行事等での保護者の結びつき等を考慮し,経過措置として,B小学校を通学校として選択することができることとし,弾力的運用を行うこととした。 その後,被告教育委員会は,平成12年12月8日に,A小学校在学児童の保護者と平成13年度の新入学児童の保護者を対象に通学区域再編成説明会を開催し,欠席者には資料を自宅まで届けるなどするとともに,同月13日にはC小学校の保護者に対して,同月14日にはB小学校の保護者に対して説明会を実施してA小学校の再編の状況について説明して協力を依頼するなどした。さらに,平成13年1月12日,A小学校の地区全世帯に,「A小学校の閉校及び通学区域変更のお知らせ」を送付し,d町において,上記の通学区域の弾力的運用に関する説明会を実施した。同月17日には,A小学校通学区域の保護者らに対して再度通学区域再編成説明会を,同月18日には,d町の住民と被告教育委員会の合同懇談会を,それぞれ開催するなどした。 (10) 本件条例による通学区域の再編成によって,A小学校の従前の通学区域の児童のB小学校への通学距離は,f町2丁目からの約2.2キロメートルが最長であり,上記弾力的運用により,本来はC小学校の通学区域であるd町に居住する児童がB小学校に通学する場合の通学距離は,最長で,原告Gの児童の場合の約2.4キロメートルである(乙13)。  2 本件各処分の行政処分性等について(甲事件) (1) 地方公共団体の行う条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性質を持つものであり,そのような条例を制定する行為は,原則として個人の具体的権利義務に直接の効果を及ぼすものではなく,抗告訴訟の対象となる処分ということはできない。もっとも,条例の形式を採っている場合であっても,外に行政庁の具体的処分を待つまでもなく当該条例そのものによってその適用を受ける特定個人の具体的な権利義務や法的地位に直接影響を及ぼすような場合には,条例の制定行為自体をもって,抗告訴訟の対象となる行政処分と解する余地もないではない。 しかるところ,本件条例は,足利市内のc地区に所在する市立小学校の統廃合の一環としてA小学校を廃止することを内容とするもので,その内容自体一般的なものであって特定の個人に向けられたものではない。また,原告らのうち児童の保護者である者らは,憲法26条,教育基本法3,4条,学校教育法29条によって,その保護する児童らに市町村が設置する学校において法定年限の普通教育を受けさせる権利ないし利益を有するものではあるが,その権利ないし利益は,市町村等が社会生活上通学可能な範囲内に設置する学校で教育を受けさせることができるという限度で認められるものであって,具体的に特定の学校で教育を受けさせることまでをも含むものと解することはできない。同原告らが,その保護する児童をA小学校に通学させ,同校で教育を受けさせることができたのは,A小学校が設置されて,一般の利用に供せられ,同校を就学校として指定されていたことによるものであって,A小学校において教育を受けさせるという利益は,事実上の既得利益にすぎず,これをもって,法的に保護された権利あるいは法的地位ということはできない。 そこで,本件条例により,原告らの児童らが社会通念上通学可能な範囲に設置する学校へ就学校指定ができなくなり,原告らの児童らに教育を受けさせる権利ないし利益を害したか否かにつき検討するに,A小学校の廃止後に新たに設置され,原告らの児童が就学校として指定を受けたB小学校は,原告らのうち最も距離が離れた者(原告G)の自宅からでも約2.4キロメートルで,同原告は,C小学校の方が距離的には近く,通常なら同校への就学校指定を受けるところ希望によりB小学校への就学校指定が認められたもので,同原告を除けば,B小学校への通学距離はおおむね約2.2キロメートルまでにとどまっており,原告らの児童らにとって社会生活上通学することができる範囲内にないとは認められない。また,原告らがるる指摘するB小学校への通学路における交通その他の危険等の支障も(甲23ないし34,36等),一般の通学路に不可避的に存在する範囲を超えるものではなく,特にB小学校特有の不備・支障があり社会生活上通学困難な事情に当たるとは認め難い。 これらの事情は,本件条例制定当時A小学校に通学しておらず,後にB小学校に就学校指定された未就学児童で,現在B小学校に通学する児童の保護者らである原告らにとっても同様に妥当するものである。 また,A小学校の就学校指定区域の住民である原告らは,憲法26条等により社会教育を受ける権利ないし利益を有するといえるにせよ,関連法規が予定している範囲内で各種公的施設ないしサービスの提供を受けることができるというにとどまり,具体的に特定の小学校でこれらの権利利益を行使することまで保障されているとはいえないのであり,本件条例は,これらの原告にとって何ら具体的権利義務や法的地位に影響を及ぼすものではない。 以上によれば,本件条例は一般的規範にほかならないから,本件条例は抗告訴訟の対象となる処分に当たらない。したがって,原告らの被告市議会に対する本件条例によるA小学校廃止の取消しを求める訴えは不適法として却下を免れない。 (2) 条例は,地方公共団体の議会の議決によって成立し,地方公共団体の長が公布することによって効力を生じるものである(地方自治法96条1項1号,同法16条2,3項)ところ,議会の議決は団体の意思決定であってそれだけでは当該条例の効力は生じないし,また,条例の公布は既に成立している条例を外部に表示する付随的な行為にすぎないから,いずれもそれ自体で国民の具体的な権利義務ないし法的地位に影響を及ぼすものではなく,抗告訴訟の対象となる処分ということはできない。 したがって,被告市議会がした本件条例の議決及び被告市長がした本件条例の公布は,いずれも独立して抗告訴訟の対象となるものではないから,この議決行為及び公布行為によるA小学校の廃止の取消しを求める訴えは,いずれも不適法な訴えとして却下を免れない。 (3) 処分の取消しの訴えは,取消判決によって当該処分の法的効果を失わしめ,処分の法的効果として生じた原告の権利利益に対する侵害状態を解消し,その権利利益の回復を図ることを目的とするものであるから,当該処分を取り消しても原告の権利利益が回復される可能性がないときには,その取消しを求める訴えはもはやその利益を欠くというべきである。 被告教育委員会がした通学校指定処分についてこれを見るに,仮にB小学校への通学校指定が取り消されたとしても,本件条例が平成13年4月1日に施行されたことによって既にA小学校は廃止されている以上,被告教育委員会としては,原告らの保護する児童らの就学校をA小学校に指定し,本件指定以前の状態を回復することは不可能であることが明らかであるから,原告らとしては,本件の指定を取り消しても,その侵害された状態を回復できる余地はないから,本件指定の取消しを求める原告らの訴えは,訴えの利益を欠くものとして却下を免れない。 (4) 以上のとおりであって,原告らによる甲事件に係る請求はいずれも訴訟要件を欠くものとして却下を免れない。 3 本件各処分による国家賠償責任の有無について(乙事件) (1) 乙事件原告らは,甲事件被告らの本件各処分によるA小学校の廃止が手続的及び実体的に違法であり,これによって精神的苦痛を受けたと主張し,甲事件被告らのうち被告市(乙事件被告)に対し,損害賠償を請求している。 しかし,まず別紙乙事件原告目録16記載の原告はA小学校の通学区域内の住民ではないから,地域住民の学習権を前提としたとしても,被告らの行為によって,同原告に乙事件原告らの主張するような損害が生ずることは認められない。また,上記第3の2(1)で説示したとおり,本件条例が,その余の乙事件原告らの有する,その保護する児童らに市町村が設置する学校において法定年限の普通教育を受けさせる権利ないし利益という具体的権利義務や法的地位に直接影響を及ぼしたとはいえないのであるから,原則として,本件条例等の実体的違法によって,被告市がこれらの原告らに対してこれらの権利ないし利益を侵害することはなく,その精神的苦痛について国家賠償責任を負うことは通常考え難いというべきである。 もっとも,例外的に,本件条例制定に関する甲事件被告らの措置によって乙事件原告らの事実上の利益を侵害し,精神的苦痛を及ぼした場合にも国家賠償法上違法の評価を受けることが全くないとはいえないので,なお念のため本件条例の違法の有無につき検討す

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