H17. 8. 9 甲府地方裁判所 平成13年(ワ)第142号 医療過誤による損害賠償請求

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判示事項の要旨: 被告設置の市立A病院(以下「被告病院」という。)において,両側変形性股関節症と診断された原告が,左人工股関節置換術を受けたところ,執刀医が手術中に坐骨神経を傷つけたことにより,左足が動かなくなり,歩行や生活に困難を来たすなどし,坐骨神経麻痺が残るなどの後遺障害を負ったなどとして,被告病院が診療契約に違反した債務不履行責任がある(民法415条),あるいは,被告病院の業務の執行として手術を行った執刀医の過失による不法行為について被告には使用者責任がある(民法715条)と主張して,被告に対し,原告に生じた損害金などの遅延損害金の支払いを求めた事案 主文  1 被告は,原告に対し,金2033万3582円及びこれに対する平成6年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。  2 原告のその余の請求を棄却する。  3 訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の,その1を被告の負担とする。  4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由  第1 請求  1 被告は,原告に対し6204万1462円及びこれに対する平成6年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。  2 訴訟費用は被告の負担とする。  3 仮執行宣言 第2 事案の概要    本件は,被告設置の市立A病院(以下「被告病院」という。)において,両側変形性股関節症と診断された原告が,左人工股関節置換術を受けたところ,執刀医が手術中に坐骨神経を傷つけたことにより,左足が動かなくなり,歩行や生活に困難を来たすなどし,坐骨神経麻痺が残るなどの後遺障害を負ったなどとして,被告病院が診療契約に違反した債務不履行責任がある(民法415条),あるいは,被告病院の業務の執行として手術を行った執刀医の過失による不法行為について被告には使用者責任がある(民法715条)と主張して,被告に対し,原告に生じた損害金6204万1462円及びこれに対する手術の日である平成6年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。  1 前提となる事実(当事者間に争いがない。)   (1) 当事者     原告は,昭和(略)生まれの女性である。     被告は,甲府市内において被告病院を開設している。   (2) 本件手術に至るまでの経緯     原告には,先天性股関節脱臼の既往症があったところ,平成5年になって両股関節の痛みが激しくなり歩行も困難になったことから,同年12月7日,被告病院を受診し,両側変形性股関節症と診断された。     原告は,そのころから被告病院で痛みを緩和する投薬治療を受けていたが,左股関節の痛みがひどい状態となったことなどから,左人工股関節置換術(以下「本件手術」という。)を受けることとなり,平成6年10月11日,被告病院に入院した。     同月21日,被告病院に勤務するB医師が執刀して,本件手術を行った。   (3) 手術の経過及び原告の病状     本件手術において,B医師は,坐骨神経の一部,3分の1くらいを糸鋸(ギグリ)で損傷したため,すぐに神経縫合術を行った。     B医師は,原告の夫にその旨説明するとともに,回復には半年くらいかかると説明した。     本件手術後,原告は,歩行が困難となり,一人では衣類の脱着や入浴等ができなくなり,常に介護が必要な状態となり,平成7年2月22日まで被告病院に入院した。     その後,原告は,同年3月12日から平成8年10月8日までリハビリのため被告病院に外来通院をして治療を受け,左短下肢装具,右足底装具及び杖の使用により歩行が可能となったものの,左坐骨神経麻痺は改善されなかった。原告は,平成7年3月7日,症状固定との診断を受け,同月20日,「下肢機能障害両下肢 著しい障害」として身体障害者2級の認定を受けた。   (4) 手術と原告の後遺障害の因果関係     本件手術において原告の坐骨神経が損傷された結果,原告の左足は麻痺し,左足先がのびた状態で足関節が持ち上がらなくなり,歩行困難な状態となっている。   (5) 被告の責任原因    ア 債務不履行責任      原告と被告との間には,平成6年10月11日,本件手術を行う準委任契約が成立した。これにより,被告は原告に対し,手術を行うに際して必要な部位以外の神経を損傷しないよう最も安全かつ適切な方法で手術を施行するべき安全配慮義務を負っていた。      しかし,被告の履行補助者であるB医師は,本件手術中に過失により治療とは無関係の神経を損傷し,原告に左坐骨神経麻痺という後遺症を発生させた。      被告には,準委任契約上の安全配慮義務に違反した民法415条の債務不履行責任がある。    イ 不法行為責任      被告の被用者であるB医師は,被告の業務の執行として本件手術を実施し,その結果,B医師の過失により,原告に左坐骨神経麻痺の後遺症が生じた。      被告は,民法715条に基づき,B医師が原告に加えた損害を賠償する責任を負う。  2 争点   (1) 原告に現在存在する後遺障害の内容及び程度   (2) 原告の既往症とその後遺障害に対する影響   (3) 損害       3 当事者の主張   (1) 原告に現在存在する後遺障害    ア 原告の主張      C鑑定人作成にかかる鑑定書第8項によると,現在の原告の両下肢に障害が生じ,歩行困難となっていることを総合的に考慮すると,身体障害者障害程度等級表により,     ①両肢関節の機能全廃で3級(指数8),これに左足関節の機能全廃で5級(指数2),さらに脚延長による歩行困難で3級(指数7),これらの合計指数17で2級      あるいは,     ②左側を坐骨神経麻痺のため下肢機能全廃止で3級(指数7),右側の股関節機能全廃で4級(指数4),これらの合計指数11で2級     であり,いずれにしても,等級表上の2級に該当するとしている。      被告は,本件手術自体は成功したと主張するが,人間の歩行機能を担う脚関節の一部のみを取り上げて成功不成功を論じること自体が失当である。原告は,左股関節の部分のみの改善を目的としただけでなく,両側の股関節痛が激しくなり歩行困難となったため,特に症状悪化の原因である左側の股関節部痛及び可動領域の制限改善のため本件手術を受けたのである。本件手術の失敗により,原告は歩行が困難となり,その後も左足の麻痺が継続している状態であるが,これは,本件手術ミスによって生じたものである。    イ 被告の主張      原告に生じた後遺障害は,自動車損害賠償保障法施行令2条別表第2のいわゆる後遺障害別等級表のどの等級に該当するかを判断すべきであり,身体障害者障害程度等級表の等級とは異なる。      原告に生じている障害は,両側変形股関節症による障害として左股関節の機能全廃,左坐骨神経損傷に伴う左足関節の機能全廃があり,後遺障害別等級表・労働能力喪失率1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したものとして第6級7号,両側変形性股関節症による障害として右下肢の股関節の機能全廃で第8級7号,左下肢が右下肢と比較して7センチメートル短縮しているので第8級5号で,第8級以上に該当する障害が2つあるため,重い方の身体障害6級を2級繰り上げて,第4級になる。      なお,本件手術後,原告の疼痛は左右ともなしとなるなど,症状として明らかな改善が認められるのであり,本件手術自体は成功している。   (2) 原告の既往症とその後遺障害に対する影響    ア 原告の主張 原告の本件手術前の既往症については,専門家による等級認定がされたわけではない。被告は第6級であると主張するが,客観的かつ正確な根拠に乏しいものである。      なお,本件手術前の原告の既往症とその等級については,被告が訴訟の終局段階において持ち出したものであり,訴訟上の信義則に反し,かつ,時機に後れた攻撃防御方法であることから却下されるべきである。    イ 被告の主張      原告の既往症である両側変形性股関節症による障害は,両下肢とも,1下肢の3大関節の1関節の用を廃しているに該当し,第8級7号が2つあるから,併合して第6級となる。原告は何ら障害のない状態から現在の後遺障害の状態になったのではないから,本件手術の結果原告に生じた損害を算定するにあたってはこの既往症を考慮すべきである。      被告は,訴訟の当初から,原告に現在生じている障害は,本件手術によって坐骨神経麻痺が生じたことのみでなく,原告の既往症にも起因する旨の主張をしてきたのであり,時機に後れた主張ではない。   (3) 損害    ア 原告の主張      原告の被った損害は,以下のとおりであり,その金額合計は,6204万1462円である。      a 入院治療費              81万5620円      b 近親者の付添看護費用         75万円       (6000円×125日)      c 付添婦の看護費用            2万1115円       (平成6年10月27日,28日付添婦の費用)      d 入院雑費               16万2500円       (1300円×125日分)      e 装具等購入費用等           11万0683円      f 休業損害              113万0308円       (受傷当時の平成6年は,57歳であり,年齢別学歴計女子労働者平均収入は330万0500円である。       330万0500円×125/365=113万0308円)      g 後遺障害による逸失利益      3109万3424円       (症状固定時である平成7年3月7日当時58歳であり,年齢別学歴計女子労働者平均収入は331万0100円で,就労可能年数は13年,労働力喪失率が交通事故損害賠償算定基準2級に相当する。       331万0100円×100/100×9.3935=3109万3424円)      h 傷害自体に基づく慰謝料        172万円      i 後遺障害に基づく慰謝料       2200万円        なお,手術は全体として失敗しており,原告の歩行機能が悪化しているのであるから,付添費,入院雑費,休業損害,傷害慰謝料は,原告の入院期間をすべて通算して計算すべきである。        以上の結果,原告の損害は5780万3650円となる。      j 弁護士費用             423万7812円       原告の損害に対応する弁護士費用は,上記が相当である。    イ 被告の主張     (ア)原告主張の損害のうち,入院治療費,装具等購入費用,傷害自体に基づく慰謝料は認め,その余は一部争う。     (イ)原告の入院期間について,本件手術は左人工股関節置換術の手術としては成功しているのであるから,付添看護費用,入院雑費,休業損害については,本件手術による体動不能期間を差し引くべきである。     (ウ)後遺症の逸失利益は,777万3356円である。 第3 当裁判所の判断  1 上記前提となる事実に証拠(略)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。   (1) 原告は,幼少時から股関節変形,先天股関節脱臼の既往症があり,過去に手術を受けたことがあった。その後,平成4年1月ころには下肢の疲れを感じるようになったが従来どおり日常生活を送っていたところ,股関節痛が増強したため,平成5年12月7日,被告病院を受診し,その際,両側変形性股関節症と診断された。当時の原告には,両股関節痛,可動域制限,歩行困難,下肢短縮の症状が認められた。   (2) 原告は,平成6年10月11日,被告病院に入院した。原告はこのころ,歩行すれば左下肢の股部や膝部に痛みが生じることから,主に車椅子を利用して移動をしており,両下肢の伸展も不十分にしかできない状態であったが,一方で,足趾,足関節の動きは良好で,しびれなどの症状はみられなかった。同月21日,左股関節を人工股関節に置換する本件手術を受けたが,その際,B医師が坐骨神経の一部を損傷した。これにより,術後,原告には左坐骨神経麻痺の症状が生じた。   (3) 原告は,術後,左下肢の足趾,足関節を自ら動かすことができなくなり,痛みやしびれ,知覚鈍麻も伴うようになった。左下腿から足背にかけて腫脹もみられたが,リハビリを受けるなどして,徐々に回復をし,平成7年2月22日退院し(平成6年10月21日以降の入院期間は125日),同年3月7日に症状固定との診断がなされた。原告の現在の症状は,右股関節変形疼痛のほか,左下肢筋力低下により,杖及び左足の下肢補装具を常時使用しないと日常生活ができない状態であり,衣服着脱や入浴などかなりの動作に介助を要する状態となった。ただし,左足の変形性股関節症の判定に関しては,本件手術後,疼痛はなくなり,杖の使用によって歩行も可能となり,屈曲,外転の可動域は術前よりも改善されている。     原告は,結局,「下肢機能障害両下肢,著しい障害」により,身体障害者等級表による級別2級に認定されている。 (4) 鑑定人Cの鑑定の結果(以下「C鑑定」という。)は,以下のとおりである。    ア 原告の現在の障害の内容は,自宅においては装具使用にて歩行が可能であるが,屋外では車椅子を必要とする。その程度は,安静時に痛みはないが,長時間の歩行で疼痛があるほか,左下肢は右下肢より臨床上約5センチメートル長くなっており,左足は尖足位(下垂足)で,歩行時に装具,脚長補正を要する。    イ 本件手術前から原告に生じていた両側変形性股関節症は,先天性股関節脱臼を原因とするものと考えられ,両側の股関節部痛,股関節の可動域制限があったとみられ,その程度は,両側末期股関節症といい得るものであった。本件手術によって坐骨神経を損傷された結果,尖足位(下垂足)の症状が生じたと考えられる。    ウ 原告の左坐骨神経損傷による麻痺のみを評価した場合,左足関節の機能全廃により5級と評価できる。また,原告の両下肢の現在の障害を総合すると,身体障害者障害程度等級表によれば,①両肢関節の機能全廃で3級(指数8),これに左足関節の機能全廃で5級(指数2),さらに脚延長による歩行困難で3級(指数7)となりこれらの合計指数17で2級とみるか,あるいは,②左側を坐骨神経麻痺のため下肢機能全廃止で3級(指数7),右側の股関節機能全廃で4級(指数4)となりこれらの合計指数11で2級とみるかであり,いずれにしても,上記等級表上の2級に該当する。  2  上記認定事実をもとに以下検討する。   (1) まず,本件手術の際,B医師が過って原告の坐骨神経を損傷したことは争いがなく,これによって左坐骨神経麻痺が生じていることは明らかに認められる。また,左足に生じている下垂足,左下肢筋力低下により杖や補装具なしでの歩行が困難となっていることも本件手術後に生じた症状と認められる。     したがって,被告の被用者であるB医師が,本件手術において原告の坐骨神経を損傷したことについては,診療上の過失に該当すると認められるので,被告は,その使用者として不法行為責任を負う。     よって,被告には民法715条に基づき,不法行為責任が認められる。   (2) 次に,原告に現在生じている後遺障害につき検討すると,原告は左下肢の股関節,足関節及び右下肢の股関節の機能が廃止しており,これにより,歩行困難になっていることが認められる。     上記症状は,自動車損害賠償保障法施行令2条別表第2のいわゆる後遺障害別等級表に照らし合わせると,左下肢については,股関節を人工股関節に置換し,可動域にも著しい制限があること,足関節の機能を廃止していることから,「1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」として6級7号に該当し,右下肢については,股関節の機能を廃止していることから,「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」として8級7号に該当するものと認められる。そして,右下肢が左下肢と比較して5センチメートル以上短縮していることから,「1下肢を5センチメートル以上短縮したもの」として8級5号にも該当する。     上記のとおり,原告には,8級以上に該当する障害が2つ以上あるため,重い方の身体障害6級を2級繰り上げて,後遺障害等級としては併合4級に該当すると認めるのが相当である。   (3) そして,原告の既往症として,本件手術以前から先天性股関節脱臼に基づく両側変形性股関節症が認められるところ,本件手術時には,股関節痛の増強があり,左股関節については人工股関節への置換が必要な状態であったことが明らかである。これらの症状が本件手術によって損傷された坐骨神経の障害から生じた上記症状と併存して原告の現在の後遺障害が生じていることも認められる。     そこで次に,原告の既往症をどのように評価すべきかが問題となる。まず,左下肢の足関節の障害が本件手術後に生じたものであることは明らかである。右下肢と左下肢の長さの違いも,本件手術の結果生じたものである(鑑定の結果)。これに対し,右下肢の股関節の障害は,本件手術とは無関係であり,既往症に基づくものと認められる。評価が困難なのは左下肢の股関節である。人工股関節に置換し,可動域制限が残ったことは本件手術の結果であるが,これは,たとえ本件手術がすべて成功裏に行われたとしても同じ結果になっていた可能性を否定できない。また,本件手術前,すでに両側末期股関節症の状態にあり,かつ手術が必要でないと判断され左下肢よりも軽症であったと認められる右下肢の股関節が現在機能全廃になっていることを考慮すると,左下肢の股関節は,本件手術をしていなくても機能全廃の状態になっていたと認めることができる。したがって,左下肢の股関節の障害は,既往症に基づくものと同程度のものと評価せざるをえない。     以上によると,既往症による障害は,右下肢股関節障害と左下肢股関節障害であり,いずれも「1下肢の3大関節中の1下肢の用を廃したもの」として8級7号に該当するから,8級以上に該当する障害が2つあることになり,2級繰り上げて併合6級ということになる。     なお,原告の既往症が,原告に現在生じている後遺障害にどの程度の影響を及ぼしているかについて,被告が本件訴訟の当初からこれを指摘していたことは本記録上明らかであり,原告の既往症に関する被告の主張が訴訟上の信義則違反ないし時機に後れたものということはできない。   (4) 次に,原告に生じている損害につき検討すると,以下のものが被告の不法行為責任との間で相当因果関係のあるものと認められる。    ア 治療関係費と休業損害      a 入院治療費              81万5620円      b 近親者の付添看護費用         75万円                        (6000円×125日)      c 付添婦の看護費用            2万1115円               (平成6年10月27日,28日付添婦の費用)      d 入院雑費               16万2500円                        (1300円×125日分)      e 装具等購入費用等           11万0683円      f 休業損害              113万0308円        原告は,受傷当時の平成6年は57歳であり,賃金センサス平成6年第1巻第1表によれば,55歳から59歳までの年齢別学歴計女子労働者平均収入は330万0500円と認められる。よって,入院期間相当分の休業損害は330万0500円×125/365=113万0308円と認められる。 なお,被告は,本件手術は左人工股関節置換術の手術としては成功しているのであるから,入記損害のうち入院期間に基づく損害(b付添看護費用,d入院雑費,f休業損害)に関しては,上記手術自体に基づく体動不能期間を差し引くべきであると主張しているが,本件手術自体に基づく体動不能期間がどの程度なのかについては立証がない。また,原告が退院までに要した入院期間中,本件手術によって生じた坐骨神経麻痺の症状が継続していたことが認められる一方,本件手術がすべて成功裏に終わっていた場合に同様の入院治療が必要であったとは認められない。したがって,b付添費,d入院雑費,f休業損害は,原告の入院期間をすべて通算して計算すべきであると解する。 イ 傷害自体に基づく慰謝料         172万円      当事者間に争いがなく,金額も妥当である。    ウ 後遺障害による損害 原告に生じている現在の後遺障害は,被告の被用者による診療上の過失がなければ生じていなかったものであることは上記認定のとおりである。しかしながら,現在の後遺障害の結果に関して,原告の既往症が相当程度影響していることもやはり明らかといわざるを得ない。      そして,前記のとおり,原告の現在の後遺障害は併合4級であり,既往症に基づく障害(本件手術がなくても原告に生じたであろう障害)は併合6級である。本件においては,既往症による障害と手術による障害とを分けて考えることができる,すなわち,両者が併存しているものと認められる。したがって,原告の既往症が現在の後遺障害に及ぼしている影響の程度については,4級を前提とした損害額と6級を前提とした損害額の差額を元に考えるのが相当である。     (ア) 後遺障害による逸失利益        777万3356円       原告は,症状固定時である平成7年3月7日当時58歳であり,賃金センサス平成7年第1巻第1表によれば,55歳から59歳までの年齢別学歴計女子労働者平均収入は331万0100円で,平成7年簡易生命表によれば58歳女性の平均余命は27.09年であるから,就労可能年数はその約半分の13年とみることができる。       労働能力喪失率は,4級が92パーセント,6級が67パーセントであり,その差をもって手術による逸失利益と考える。したがって,331万0100円×(92/100-67/100)×9.3935=777万3356円が原告に生じた逸失利益と認められる。     (イ) 後遺障害に基づく慰謝料        600万円       平成7年当時の基準によれば,後遺障害4級の慰謝料は1550万円,6級の慰謝料は1100万円であるところ,本件手術には明らかな医療過誤があったことを考慮し,後遺障害に基づく慰謝料は600万円とする。    エ 弁護士費用と総損害額      以上を合計すると,1848万3582円となるところ,本件の諸事情にかんがみれば,本件訴訟に伴う弁護士費用として相当因果関係にある損害は,185万円とみるのが相当である。      そうすると,原告の総損害額は,2033万3582円となる。  3 以上の次第で,原告の請求は,2033万3582円及びこれに対する不法行為の日(本件手術の日)である平成6年10月21日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこの範囲でその請求を認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとする。    なお,被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求については,この請求が不法行為に基づく損害賠償請求と選択的併合の関係にあり,かつ,上記認容額以上に認容されることがないことは明らかである。    よって,主文のとおり判決する。     甲府地方裁判所民事部 裁判長裁判官   新堀亮一 裁判官   倉地康弘 裁判官   青木美佳

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