hanrei @Wiki H17. 9.16 札幌地方裁判所 平成16年(行ウ)第21号 違法公金支出返還請求事件



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判示事項の要旨:
 北海道の住民で弁護士である原告が,北海道警察釧路方面A警察署において,平成12年度の捜査用報償費34万7520円が違法に支出され,北海道が同額の損害を被ったとして,北海道警察本部長を被告として,同度中のA警察署長らと北海道警察本部長らに対して損害賠償請求をすることを求めた地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟について,同請求権は供託により既に消滅しており,原告の訴えがいずれも訴えの利益を欠くとして却下された事案


主         文
1 本件訴えをいずれも却下する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
 1 原告
  (1) 被告は,甲に対し,10万9525円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
  (2) 被告は,乙に対し,12万8500円及びこれに対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
  (3) 被告は,丙に対し,甲と連帯して,10万9525円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
  (4) 被告は,丁に対し,乙と連帯して,9万8500円及びこれに対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
 2 被告
  (1) 本案前の答弁
    主文同旨
  (2) 本案の答弁
    原告の請求をいずれも棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
   本件訴訟は,北海道の住民である原告が,北海道警察(以下「道警」という。)釧路方面A警察署(以下「A署」という。)において,平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)の捜査用報償費34万7520円が違法に支出され,北海道が同額の損害を被ったとして,被告に対し,平成12年度中のA署長であった甲及び乙並びに道警本部長であった丙及び丁(以下,この両名と甲及び乙とを併せて「甲ほか3名」という。)に対してそれぞれ第1の1(1)ないし(4)記載の損害賠償請求をすることを求める地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づく住民訴訟である。
 1 前提事実
   争いのない事実,証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 当事者等
    原告は,北海道の住民である。
    甲は,平成12年7月16日までA署長であった者,乙は,同月17日から同署長であった者である。
    丙は,同年8月23日まで道警本部長であった者,丁は,同月24日から同本部長であった者である。
  (2) 本件報償費
    A署においては,平成12年度に捜査用報償費として交付された35万円のうち,34万7520円(以下「本件報償費」という。)が現実に支出(執行)され,2480円が平成13年4月2日に戻入された。
  (3) 監査請求等
    原告は,平成16年3月1日,北海道監査委員(以下「監査委員」という。)に対し,A署における平成12年度の捜査用報償費が違法に支出されていたとして,当時の道警本部長らに対し適切な措置をとることなどを求めて監査請求をしたところ,監査委員は,同年4月28日付け住民監査請求監査結果(甲1。以下「監査結果」という。)を原告に送付した(なお,上記監査請求は,当該公金の支出があった日から1年を経過した後にされているが,原告においては,本件の捜査用報償費の支出及び内容を同年2月28日の新聞報道により初めて知ることができたと解され,監査請求期間の徒過はないとして受理された。)。
監査委員は,監査結果において,本件報償費の支出は,実体の伴わない違法又は不当な公金の支出と認められるので,法242条4項に基づき,同年6月30日までに,北海道が被った損害(利息を含む。)を填補するために必要な措置を講ずるとともに,再発防止のために必要な措置を講ずるように,北海道公安委員会に対して勧告をした(甲1)。
監査委員は,原告に対して,同年7月2日付けで上記勧告に対する北海道公安委員会の措置に係る通知をした(甲2)。
原告は,同年7月30日,本件訴えを提起した。
 2 原告の本案の主張
  (1) 本件報償費の支出の違法性等
   ア 本件報償費34万7520円の支出は,その全額が実体を伴わない違法な支出である。
イ 北海道公安委員会は,道警本部長に前記監査結果の内容を示達して措置をとるべきことを指導し,道警本部長が講じた措置について,平成16年6月30日,監査委員に対し,次のように報告した。
    ① 北海道が被った損害は,10万9495円とこれに対する支払日までの利息である。
    ② 甲は,填補義務額2万5346円(うち元金分1万9235円,利息分6111円)を同月28日納付した。
    ③ 乙は,填補義務額11万0797円(うち元金分9万0260円,利息分2万0537円)を同月28日納付した。
   ウ 北海道は,違法に支出された本件報償費34万7520円全額の損害を被ったものであり,甲及び乙の上記各納付額ではその損害が填補されていない。
  (2) A署長の賠償責任及びその額
   ア 賠償責任
     A署長であった甲及び乙は,平成12年度に捜査用報償費として交付を受けた現金の出納保管の責任者であり,実体のない本件報償費の支出につき,故意又は過失があるから,この支出により北海道が被った損害の賠償責任を負う。
   イ 甲及び乙の賠償すべき損害額
    ① 同年度のA署の捜査用報償費のうち,甲が署長であった間の支出額は13万円,乙が署長であった間の支出額は22万円である。
    ② 平成13年4月2日に戻入された2480円は,いつの時期の捜査用報償費に関するものかが特定できないため,その2分の1ずつを各人の署長であった間の支出額から控除すると,甲の賠償すべき損害額は12万8760円,乙の賠償すべき損害額は21万8760円となる。
    ③ さらに,甲及び乙の上記(1)イの納付額(元金分)を控除すると,甲の賠償すべき損害残元金額は10万9525円,乙の賠償すべき損害残元金額は12万8500円となる。
      (計算式)
        甲分:130,000-2,480÷2-19,235=109,525
        乙分:220,000-2,480÷2-90,260=128,500
  (3) 道警本部長の賠償責任及びその額
   ア 賠償責任
     道警本部長であった丙及び丁は,道警において全道的規模で組織的慣行として行われていた捜査用報償費の違法支出を是正すべき監督義務を負っていたが,いずれもその義務を怠ったから,本件報償費の支出により北海道が被った損害の賠償責任がある。
   イ 丙及び丁の賠償すべき損害額
  ① 丙は,平成12年8月まで道警本部長であったから,少なくとも甲と同額の10万9525円を同人と連帯して賠償すべき責任がある。
    ② 丁は,同年9月から道警本部長であったから,乙の賠償責任額から同年8月分の支出額3万円を控除した9万8500円につき,同人と連帯して賠償すべき責任がある。
  (4) 原告の請求のまとめ
    よって,原告は,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,①甲に対し,10万9525円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,②乙に対し,12万8500円及びこれに対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,③丙に対し,甲と連帯して,10万9525円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,④丁に対し,乙と連帯して,9万8500円及びこれに対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう,それぞれ請求することを求める。
 3 本案の主張に対する被告の認否等
(1) 上記2(原告の本案の主張)(1)アにつき,本件報償費の現実の支出(執行)額が34万7520円であったことは認め,その余の認否は,本案前の申立てに対する裁判所の判断が示されるまで留保する(以下,単に「留保する」という。)。
(2) 同(1)イは,認める。ただし,「北海道公安委員会は,……報告した」との点は,「道警本部長から報告のあった住民監査請求に係る監査結果(勧告)に対する措置について,北海道公安委員会で審議し,報告を了としたことから,監査委員に対し通知した」というのが正確である。
(3) 同(2)につき,甲及び乙が,平成12年度,A署長であったことは認め,その余の認否は留保する。
(4) 同(3)につき,丙及び丁が,平成12年度,道警本部長であったことは認め,その余の認否は留保する。
 4 被告の本案前の主張
   本件訴えは,次のとおり,甲及び乙の供託によって訴えの利益が消滅したから,不適法である。
  (1) 本件訴訟は,法242条の2第1項4号所定の訴訟(以下「新4号訴訟」という。)であり,執行機関等を被告として,当該職員等に対する損害賠償請求権等の行使あるいは賠償命令を行うことを義務付ける義務付け訴訟(形成訴訟)である。したがって,当該職員等が各請求権に係る債務を弁済している場合や執行機関等において既に各請求権の行使に係る訴訟を提起している場合等は,新4号訴訟における訴えの利益は消滅すると解すべきである。
  (2)ア 甲は,平成16年6月28日,北海道に対し,1万9235円を支払った。
   イ 甲は,平成17年2月23日,被告に対し,10万9525円(原告が本件訴訟において同人の賠償すべき損害残元金額と主張する額)及びこれに対する平成12年7月16日から平成17年2月23日までの間の民事法定利率による利息金2万5236円の合計13万4761円を,不法行為による損害賠償債務として弁済提供(現実の提供)をしたが,被告は,その受領を拒否した。
   ウ 甲は,同日,札幌法務局供託官に対し,北海道を被供託者として,上記同額を弁済供託して受理された(乙7)。
  (3)ア 乙は,平成16年6月28日,北海道に対し,9万0260円を支払った。
   イ 乙は,平成17年2月23日,被告に対し,12万8500円(原告が本件訴訟において同人の賠償すべき損害残元金額と主張する額)及びこれに対する平成13年3月31日から平成17年2月23日までの間の民事法定利率による利息金2万5066円の合計15万3566円を,不法行為による損害賠償債務として弁済提供(現実の提供)をしたが,被告は,その受領を拒否した。
   ウ 乙は,同日,札幌法務局供託官に対し,北海道を被供託者として,上記同額を弁済供託して受理された(乙8)。
  (4) 甲及び乙がした上記(2)ウ及び(3)ウの各供託(以下,併せて「本件供託」という。)により,原告の主張する同人らの債務は全て消滅した。
    なお,本件訴訟において,原告は,道警本部長であった丙及び丁に対しても,甲及び乙と連帯して賠償する責任があるとして,損害賠償の請求をするよう求めているが,本件供託による債務の消滅の効力は,甲の連帯債務者とされる丙及び乙の連帯債務者とされる丁の各債務にも及ぶから,仮に,丙及び丁がそれぞれ連帯債務を負うとしても,当該債務は全て消滅した。
    したがって,被告が甲ほか3名に対して損害賠償請求を行うことを求める本件訴訟は,訴えの利益が消滅したから不適法である。
  (5) 原告の主張(後記5)に対する反論等
   ア 本件供託の無効について
     本件供託の被供託者は北海道であり,これを北海道知事であるとする原告の主張は誤りである。そして,金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利である債権の帰属主体は当該普通地方公共団体であるから,甲ほか3名の債務についての債権者も普通地方公共団体である北海道であって,本件供託に被供託者の誤りはない。また,その債権者である北海道の住所は札幌法務局の管轄に属するから,本件供託に管轄違いも存しない。これに反する原告の主張は,債権者と債権管理者とを混同するなど,誤った前提に基づくものである。
   イ 訴えの利益の存続について
     弁済供託は,債権者が供託金の払い戻しを受けると否とにかかわりなく債務を消滅させ,その効力は債務者が現実に供託金を取り戻す等の行為をしない限り影響を受けない。本件訴訟においては,本件供託によって既に訴えの利益が消滅しているから,甲及び乙に取戻権があることを理由とする原告の主張は根拠がない。
     また,事実の解明は,本来は行政機関等による調査等によって行われるべきものであり,紛争解決機関である受訴裁判所は法的紛争解決のための公権的判断をするのに必要な限度で証拠調べをすれば足りる。したがって,原告が専ら事実解明を意図して本件訴訟を提起したのであれば,それは邪道である。
 5 本案前の主張に対する原告の認否等
本件訴えは,次のとおり,訴えの利益があり,適法である。
  (1) 本件供託の無効
   ア 本件供託は,被供託者を北海道知事としている。
     しかし,北海道財務規則12条1項12号により,北海道知事から道警本部長に対して損害賠償請求権の行使が委任され,かつ,委任者たる北海道知事が全く権限を失っているとすれば,被供託者を北海道知事とする本件供託は,被供託者を誤ったもので無効である。
   イ 弁済供託は,債務履行地の供託所にされなければならない。
しかし,北海道財務規則12条1項12号,2項,別表第1により,本件報償費の支出により生じた損害の賠償請求権は道警釧路方面本部長が有することになるから,その債務履行地の供託所は釧路地方法務局であり,札幌法務局には管轄がなく,同法務局を供託所とする本件供託は無効である。
   ウ また,被告は,甲及び乙から上記損害賠償債務の弁済を受領したり,これを拒絶する権限もないから,本件供託は要件を欠き,無効である。
  (2) 訴えの利益の存続
   ア 供託者には供託物の取戻権があるから,供託による債務消滅の効果は取り戻しを解除条件とするものであり,当該債務の絶対的消滅の効力が生ずるのは上記取戻権が消滅したときと解される(大審院判決昭和2年6月29日民集6巻415頁)。
     本件供託について甲及び乙の各取戻権が消滅したとの事情は認められないから,本件供託によって甲ほか3名に対する被告の損害賠償請求権は絶対的に消滅したものではなく,本件供託によって本件訴訟の訴えの利益を否定することはできない。
   イ 実質的に見ても,供託をすることによって直ちに新4号訴訟の訴えの利益が否定されるとすれば,損害賠償請求権の発生原因事実が存在している場合であっても,訴訟提起の可能性がなくなるまでいわば出来レースの供託を続けるだけで,新4号訴訟を封殺し,自治体側はこれによる事実解明及び損害回復を事実上拒否できることになり,不当である。
第3 当裁判所の判断
 1 本件訴訟と原告の主張
  (1) 本件訴訟は,北海道の住民である原告が,A署において平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)に本件報償費34万7520円が違法に支出され,北海道が同額の損害を被ったとして,被告に対し,平成12年度中のA署長であった甲及び乙並びに道警本部長であった丙及び丁に対して,それぞれ第1の1(1)ないし(4)記載の損害賠償請求をすることを求める法242条の2第1項4号所定の住民訴訟(新4号訴訟)である。
  (2) 原告は,本件訴訟において,①本件報償費34万7520円の支出(執行)は違法であり,北海道はこれにより同額の損害を被ったが,②甲ほか3名は,上記支出につき故意又は過失があるから,北海道の被った上記損害を賠償すべき責任があるところ,③甲及び乙による上記損害の一部の填補等があるので,被告は,これらを控除するなどして,(a)甲に対し,10万9525円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,(b)乙に対し,12万8500円及びこれに対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,(c)丙に対し,甲と連帯して,10万9525円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,(d)丁に対し,乙と連帯して,9万8500円及びこれに対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を請求する権利を有することになるから,④被告は,甲ほか3名に対する上記損害賠償請求権を行使すべきであると主張する。
 2 本件供託
   証拠(乙7,8)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができ,この認定を覆すべき証拠はない。
  ア(ア) 甲は,平成17年2月23日,被告に対し,10万9525円(原告が本件訴訟において同人の賠償すべき損害残元金額と主張する額)及びこれに対する平成12年7月16日から平成17年2月23日までの間の民事法定利率による利息金2万5236円の合計13万4761円を,不法行為による損害賠償債務として弁済の提供をした。
     しかし,被告は,その受領を拒否した。
   (イ) 甲は,同日,札幌法務局供託官に対し,北海道を被供託者として,上記同額を弁済供託した。その供託書(乙7)には,供託者の住所氏名として甲の住所氏名,被供託者の住所氏名として「札幌市中央区北a条西b丁目」「北海道 代表者 知事 B」,法令条項として民法494条,供託の原因たる事実として「供託者は,北海道から示達された報償費109,525円につき,過失により,違法にこれを支出して北海道に損害を与え,別紙記載の法定利息25,236円とともに,合計金額134,761円を平成17年2月23日,北海道警察本部長に弁済提供したが,受領を拒否されたので,弁済供託する。なお,北海道警察本部長は,北海道財務規則第12条により,北海道知事の財務に関する権限を委任されている。」との各記載があり,別紙として,上記法定利息の計算を記載した書面が添付されている。
  イ(ア) 乙は,平成17年2月23日,被告に対し,12万8500円(原告が本件訴訟において同人の賠償すべき損害残元金額と主張する額)及びこれに対する平成13年3月31日から平成17年2月23日までの間の民事法定利率による利息金2万5066円の合計15万3566円を,不法行為による損害賠償債務として弁済の提供をした。
     しかし,被告は,その受領を拒否した。
   (イ) 乙は,同日,札幌法務局供託官に対し,北海道を被供託者として,上記同額を弁済供託して受理された。なお,その供託書(乙8)には,供託者の住所氏名として乙の住所氏名,被供託者の住所氏名として「札幌市中央区北a条西b丁目」「北海道 代表者 知事 B」,法令条項として民法494条,供託の原因たる事実として「供託者は,北海道から示達された報償費128,500円につき,過失により,違法にこれを支出して北海道に損害を与え,別紙記載の法定利息25,066円とともに,合計金額153,566円を平成17年2月23日,北海道警察本部長に弁済提供したが,受領を拒否されたので,弁済供託する。なお,北海道警察本部長は,北海道財務規則第12条により,北海道知事の財務に関する権限を委任されている。」との各記載があり,別紙として,上記法定利息の計算を記載した書面が添付されている。
 3 本件供託による債権の消滅と本件訴訟の適否等
  (1) 上記2認定の事実によると,本件供託は,平成17年2月23日,甲及び乙の各人が,それぞれ原告が本件訴訟において上記各人の賠償すべき損害残元金額と主張する額及びこれに対する同日までの民法所定年5分の割合による遅延損害金を被告に対して弁済の提供をしたが,被告がいずれも受領を拒否したため,上記各人の債務の弁済供託として行われたものと認められるから,本件供託は有効であり,これによって同債務は消滅し(民法494条前段),本件訴訟において原告が主張するところのこれに対応する北海道の甲ほか3名に対する損害賠償請求権も消滅したことになる。
    そして,このように北海道の甲ほか3名に対する損害賠償請求権が消滅して存在しなくなった以上,甲ほか3名に対してこれを請求することができないことは自明であり,被告に対し,その請求をするように求める本件訴訟は,訴えの利益を欠くに至り,不適法となったというべきである。
  (2) 補足説明
    以上の認定判断に反する原告の主張は,次のとおり,いずれも採用することができない。
   ア 本件供託の無効について
     原告は,本件供託は被供託者及び供託所を誤っており,また,被告に対する弁済提供は,弁済の受領権限及び拒絶権限のない者に対してされたものであって弁済供託の要件を充足しないとして,本件供託は無効であると主張する。
     しかし,上記2認定のとおり,本件供託の被供託者は北海道である(各供託書の被供託者の住所氏名の記載は,被供託者を北海道とするものであって,北海道知事とするものでないことは明白である。)ところ,原告の主張する損害賠償請求権の帰属主体(債権者)が北海道であることは明らかであり(原告もこれを自認している。),本件供託における被供託者に誤りはない。そして,北海道庁が札幌市にあることは公知の事実であり,北海道を被供託者とする弁済供託を札幌法務局において行い得るのは当然であって,本件供託に供託所の誤りはない。また,被告は,上記請求権の帰属主体ではないが,北海道財務規則(乙1)12条1項12号によりその管理権限を有している。すなわち,北海道知事は,北海道財務規則12条において,部局長たる被告及び方面本部長(同規則2条)に対し,その所掌に属する事務に係る債権の管理等の執行を委任しており,上記請求権を行使する権限は,同規則12条によって,北海道知事から被告及び方面本部長に委任されていると考えられ,北海道知事はもはや上記請求権を管理する権限を有していない。そして,被告は,道公安委員会の管理に服し,道警本部の事務を統括し,その所属の警察職員を指揮監督すること(警察法48条),釧路方面本部長は,被告の命を受け,その所属の警察職員を指揮監督すること(同法51条3項),北海道財務規則は,以上の警察法の諸規定の存在を当然の前提として規定されていることからすれば,釧路方面本部長の所掌に属する事務は,被告の所掌に属する事務でもあるというべきであるし,また,北海道知事は方面本部長の所掌に属する事務を釧路方面本部長に対してのみならず,被告に対しても委任していると考えられるから,被告は上記請求権の管理権限を有しているというべきである。したがって,被告には,上記請求権につき行われた弁済の受領権限及び拒絶権限があるということができ,被告が弁済受領を拒否したためされた本件供託は,弁済供託としての有効要件を充足している。
     上記原告の主張は,認定することができない事実等を前提とするものであり,理由がない。
   イ 訴えの利益の存続について
     原告は,供託による債務消滅は解除条件付であり,本件供託について甲及び乙の各取戻権が消滅していない以上,本件供託によって甲ほか3名に対する被告の損害賠償請求権は絶対的に消滅したものではなく,本件供託によっても本件訴訟の訴えの利益は否定されず,また,実質的に見ても,弁済供託によって新4号訴訟の訴えの利益が否定されるとすれば,自治体側は同訴訟による事実解明及び損害回復を事実上拒否できることになって不当である旨主張する。
     民法494条前段(特に,債権者のために弁済の目的物を供託をしてその債務を免れることができる旨の文言)及び496条1項によれば,弁済供託がされた場合の債権及び債務の消滅の効果は,当該供託がされた時点で生じるが,その効果は供託者の供託物の取戻権の行使を解除条件とするものであって,供託者が供託物を取り戻すと遡及的に債務は消滅しなかったことになると解される。原告の主張は,一方で,供託による債権及び債務の消滅の効果が解除条件付であることを承認しながら,他方において,消滅の効果が生じていないとするもので,矛盾しているというほかはなく,これを採用することはできない(なお,原告の引用する大審院判決昭和2年6月29日民集6巻415頁は,供託による債務の消滅は取戻権の消滅を停止条件とした上で,強制執行をするには旧民事訴訟法518条2項所定の条件成就執行文が必要であるとするものとも理解し得るが,当裁判所はそのような解釈を採用しない。)。そして,上記のとおり,本件供託は弁済供託であるから,甲ほか3名に対する北海道の請求権は,本件供託の時点で消滅し,したがって,本件訴訟は本件供託の時点で訴えの利益を失い,不適法になったというべきである。
     また,新4号訴訟は,普通地方公共団体等が請求権を有するにもかかわらず,その執行機関等が当該請求権の債務者である職員等に対してこれを行使しない場合に,当該執行機関等を被告として,当該職員等に対する当該請求権の行使を義務付けることによって,当該普通地方公共団体等に生じた損害の回復を図ることを目的とする訴訟であり,事実関係の解明はその目的を達成するのに必要な範囲で行われれば足りるが,当該職員等の債務が消滅した場合は,当該請求権を更に行使することはできず,係属中の新4号訴訟も訴えの利益を失って本案の判断をすることができない(その必要がない)ことになる。その結果,同訴訟における事実関係の解明がされなくなるとしても,それは同訴訟の制度自体から生ずる当然の帰結であり,このような帰結を不当とする原告の主張は,同訴訟の制度目的を正解しないものといわざるを得ない(もっとも,本件訴訟においては,前記のように,本件報償費の支出につき,実体の伴わない違法又は不当な公金の支出と認められるとの監査結果が出されており(甲1),その上で,甲及び乙は,本件供託の各供託書において,それぞれ本件報償費の一部(原告が本件訴訟において同人らが賠償すべきと主張する各損害残元金額と同じ額)を過失により違法に支出し,北海道に損害を与えたことを明確に肯定しているのであるから,A署長であった甲及び乙の不法行為をいう原告の主張に係る事実は,同人らがこれを肯定する範囲においては解明されたことになる。)。
     なお,本件供託により本件訴訟が不適法として却下される場合であっても,本件供託によって,北海道が被り,かつ,甲ほか3名が北海道に賠償すべきと原告が主張する損害が回復されるわけではなく,その回復の実現のためには,北海道が本件供託金の還付を受けることが必要である。そして,北海道は本件供託金の還付によっていつでもその損害の回復を得ることが可能であるところ,北海道が当該損害を被っているにもかかわらず,被告が,その回復のための供託金の還付請求の手続を怠るときは,北海道の住民はその怠る事実の違法確認請求訴訟(法242条の2第1項3号)等の方法により,その是正を図ることが可能であると解され,本件訴訟が却下されたからといって,北海道の住民による北海道の損害の回復を図る手段がなくなるわけではないと考えられる。
     したがって,上記原告の主張は,法律論及び実質論のいずれにおいても採用することができない。
4 よって,本件訴えは,訴えの利益を欠き不適法であるから,これを却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成17年6月24日)

札幌地方裁判所民事第5部


裁判長裁判官    笠    井    勝    彦



裁判官    栗    原         保



裁判官    矢    澤    雅    規