hanrei @Wiki H17. 5.12 千葉地方裁判所木更津支部 平成14年(ワ)第66号等 産業廃棄物最終処分場建設等差止請求事件



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判示事項の要旨:
 建設予定の安定型産業廃棄物最終処分場の周辺の住民による人格権に基づく処分場の建設,使用及び操業の差止請求につき,処分場に安定型産業廃棄物以外の有害物質が混入し,処分場付近の井戸水等が汚染されて,これを飲料水又は生活用水として使用する者の健康,生命に悪影響を及ぼすおそれが高いなどとして,一部の原告らの請求を認容した事例


平成17年5月12日判決言渡
平成14年(ワ)第66号等 産業廃棄物最終処分場建設等差止請求事件
判          決
主          文
1 被告は原告A1,同A2,同A3,同A4,同A5,同A6,同A7に対し,別紙物件目録記載の各土地について,産業廃  棄物最終処分場を建設,使用,操業してはならない。
 2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,第1項の原告らとの関係において生じた分については被告の負  担とし,その余は第1項の原告らを除くそ  の余の原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の各土地(以下「本件予定地」という)について,産業廃棄物最終処分場を建設,使用,操業し  てはならない。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
   本件は,原告らが,被告に対し,人格権(身体的人格権,平穏生活権)による妨害予防請求権に基づき,本件予定地に被告  が建設,使用,操業を予定している安定型産業廃棄物の最終処分場(以下「本件処分場」という)の建設,使用,操業の差止  を求める事案である。
   原告らは,本件予定地周辺又は本件予定地周辺を流れる恩田川の周辺及びその下流域である湊川周辺付近に居住し,もしく  は同周辺に所在する職場に勤務する者である。原告らは,本件処分場に廃棄物と共に有害物質が搬入され,本件処分場から廃  棄物に触れた汚染水が流出し,地下水や河川水を汚染するなどとして,別紙原告分類目録に第1群と表示した原告らは,水道  設備がなく,専ら飲料水を地下水ないし山の絞り水(地層から染み出す水)に頼っている者で,同目録に第2群と表示した   原告らは,水道設備はあるものの,地下水,絞り水を飲料水として併用している者であるから,いずれも飲料水の汚染により  重大な被害を受けるとし,同目録に第3群と表示した原告らは,地下水,河川水を農業用水として使用する者であるから,収  穫された農作物が汚染される被害を受けるとし,同目録に第4群と表示した原告らは,湊川を水源とする水道設備の利用者   であるから,水道水源の汚染により飲料水が汚染される可能性があるとし,同目録に第5群と表示した原告は,湊川での漁業  者であり,湊川の汚染により漁獲物が汚染される被害を受けるとし,同目録に第6群と記載した原告らは,本件処分場の建   設,操業により,本件処分場に至る道路の使用や生活環境に影響を受ける者であるとして,本件処分場の建設,使用,操業の  差止を求めている。
 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実。)
  (1) 当事者
    原告らは,本件予定地又は本件予定地周辺を流れる恩田川の周辺及びその下流域である湊川周辺付近に居住し,もしくは   同周辺に所在する職場に勤務する者である。
    被告は,土木建設資材の販売,産業廃棄物処理業等を業とする有限会社である。
  (2) 本件処分場設置計画
    被告は,千葉県富津市z1地区内の被告所有の本件予定地上に,下記概要の産業廃棄物最終処分場(本件処分場)を設置    することを計画し,昭和62年12月2日,千葉県に事前協議書を提出するなどしていたが,平成7年5月24日,千葉    県知事に対し,産業廃棄物処理施設設置許可申請書を提出し,平成10年12月18日,千葉県知事より,下記のとおり    本件処分場の設置許可を得た。
                                記
   ア 施設の種類
         産業廃棄物最終処分場(安定型)
   イ 処理する産業廃棄物の種類
         廃プラスチック類,ゴムくず,金属くず,ガラスくず及び陶磁器くず,がれき類(これらのうち自動車等破砕    物及び特別管理産業廃棄物であるものを除く。)
   ウ 設置場所 
         本件予定地
   エ 処理能力
  埋立地面積 48,277平方メートル
         埋立容量 977,703立方メートル
   オ 許可の条件
    ① 設置場所 本件予定地 処分場面積70,294平方メートル
    ② 許可の条件
   a 産業廃棄物を最終処分場に投入する場合は,衛生的かつ安全に留意して行うこと。
     b 最終処分場(付帯設備を含む。)について,故障,破損等事故が発生したときは,速やかに知事にその状況を報告      すること。
     c 産業廃棄物の処分に関し,知事が必要な報告を求めたときは,速やかに報告すること。
     d 最終処分場のえん堤は,各段ごとに知事の完成検査を受けること。
     e 産業廃棄物の1層の埋立て厚は2.0メートル以下とし,各層ごとに0.5メートル以上の中間覆土及び1.0メ      ートル以上の最終覆土の整地・転圧後,知事の確認を受けること。
     f 午後5時から翌日の午前9時までの時間内には場内作業を行わないこと。
     g 日曜日,その他の休日には作業を行わないこと。
     h 地下水の水質悪化が生じないよう地下水観測井戸により監視し,維持管理を徹底すること。
     i 林道z2線の管理者から事業着工前に林道z2線の着工承諾を得る      こと。
     j 富津市との間において,事業着工前にz3区,z4区及びz1区の環境保全対策について協定を結ぶこと。
  (3) 本件処分場建設工事
    富津市長は,被告に対し,平成11年4月15日付で,被告から富津市に依頼のあった「環境保全対策について協定締結    のお願い」に関し,平成10年4月にz1地区を除くz5地区14区長より処分場建設計画の中止の要望書が提出されて    おり,平成10年6月の富津市議会定例会において,処分場建設反対の請願が提出され,議員全員の賛成で採択されたこ    となどから,地元の理解が得られない処分場についての環境保全協定締結の協議は極めて困難であります旨回答し,平成    11年8月3日付,平成12年5月18日付で同様の回答をした。
     千葉県知事は,平成11年11月15日,被告が上記許可の条件jを履行せずに事業に着工したとして上記設置許可を    取り消したが,被告が厚生省に対し,上記取消処分の取消しを求める行政不服審査請求を申し立てたところ,厚生省は,    平成12年3月30日,千葉県知事の上記取消処分を取り消す旨の裁決をなした。
    千葉県環境部は,指導要綱に基づき本件処分場の事業着工前にz3区,z4区及びz1区の環境保全対策について協定を    結ぶよう指導していたが,被告は協定を締結せずに平成13年2月5日,本件処分場の建設工事に着手した。しかし,原    告A3,同A4,同A6,同A5,同A1,同A2を含む247名を債権者とする仮処分命令の申立てがなされ,平成1    4年2月18日,原告A3,同A4,同A6,同A5,同A1,同A2について,申立てが認容され,本件処分場の建     設,使用及び操業の差止を命ずる仮処分決定(千葉地方裁判所平成13年(ヨ)第79号)が発令されたため,被告は,    本件処分場の建設工事を一時中断している。
  (4) 本件予定地の周辺の状況
    本件予定地は,千葉県富津市所在の鹿野山山系の谷間に位置し,東西及び北側の三方を標高98メートルから104メー    トルの山地に囲まれ(本件予定地の西側の南北に延びる山地は「馬の背」と呼ばれている),南側に開かれた凹型の地形    をしており,凹型底部は標高36メートルで沢地になっている。本件処分場近くには恩田川が流れ,下流で湊川に合流     し,東京湾に通じている。
  (5) 本件処分場の構造及び埋立方法
    産業廃棄物の最終処分場は,搬入される廃棄物の種類に応じて,遮断型,管理型,安定型に分類されるところ,安定型処    分場では,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という)施行令6条1項3号イ所定の安定型産業    廃棄物(廃プラスチック,金属くず,建築廃材,ガラスくず及び陶器くず,ゴムくず,以上のいわゆる「安定5品目」。    ただし,これらのうち自動車等破砕物及び特別管理産業廃棄物であるものは除かれる)を処分するものとされ,遮断型,    管理型とは異なり,処分の方法に法律上制約は定められていない。
    被告が計画している本件処分場の基本構造は,素堀の穴を埋立区域とし,これに直接廃棄物を投棄し,土をかぶせて埋め    るというものであり,本件処分場の外縁に排水溝を敷設するなどして埋立区域外に降った雨水を廃棄物に触れることなく    本件処分場外の排水路へ誘導するための設備を設置することを予定しているものの,廃棄物に触れた水の地下浸透を防ぐ    ための遮水工や浸出水を浄化処理する設備等の設置は,本件処分場の一部に水密コンクリートの吹付工事を行うほかには    予定されていない。
    そして,北側が高く南側が低い沢状(谷間)となっている本件予定地の地形を利用し,沢全体を埋め立てる計画である。    すなわち,本件予定地とされている沢の最下方(南方)に調整池をもうけ,同池に接して,まず5メートルの高さの土堰    堤を構築して土留めを行い,沢の上方部(北側)に向かって厚さ2メートルに達するまで廃棄物を埋設し,その上に50    センチメートルの厚みの土砂で覆土,転圧することを順次繰り返し,廃棄物と覆土をサンド   イッチ状に埋め立て,    埋立位置が土留めの高さに達すると,沢の上方部に新たに土堰堤を構築し,同様の方法で廃棄物の埋設と覆土,転圧を繰    り返し,最終的には,沢全体が階段状に埋め尽くされ,各階段状に埋め立てられた最上部を厚さ1メートルの土砂をもっ    て覆うとともに,埋立てが完了した部分の底部に,順次東西方向に幅30ないし40センチメートルの,南北方向に幅6    0センチメートルの排水溝を敷設する。
    なお,埋立期間は11年とし,廃棄物の搬入量については,1日6トンダンプ車39台分(埋立終了までの台数は延べ9    万8280台分)とする計画である。
 2 争点
  (1) 本件処分場に有害物質が混入するか
   ア 安定型産業廃棄物自体による汚染の危険性(争点)
   イ 安定型産業廃棄物以外の物質が混入するおそれの有無(争点)
  (2) 本件処分場に混入した有害物質が本件処分場外へ流出するか
   ア 本件処分場内の水の挙動(争点)
   イ 本件処分場内の水が外に流出するか(争点)
  (3) 有害物質が原告らの体内に吸収されたり,漁業や農業に影響を与えたり,原告らの平穏な生活等が侵害されたりする     か(争点)
  (4) 代替設備(簡易水道もしくは公営水道)による被害回避の可能性(争点)
  (5) 差止の必要性(争点⑦)
 3 争点に対する当事者の主張
  (1) 争点(安定型産業廃棄物自体による汚染の危険性)について
   ア 原告らの主張
     以下のとおり,安定5品目自体に有害物質が含まれている。
     廃プラスチックには可塑剤としてフタル酸化合物,有機リン系可塑剤や安定剤,ノニフェノールといった物質が添加さ     れている。これらは発癌性,神経毒性,内分泌系撹乱作用があり,人の生命,健康等に重大な被害を及ぼすことが明ら     かである。
     金属くずのうち,鉄や銅などは長期間の埋立によって長期間浸透水にさらされる結果,金属間にイオン化傾向の高い金     属が流出し,人体に悪影響を及ぼすし,合金等に用いられている重金属の溶出による人体への悪影響が考えられる。鉄     には胃腸障害,銅には吐き気,腹痛や肝硬変を引き起こす作用があり,カドミウムには肝機能障害,発癌性があり,鉛     にも中毒性,発癌性がある。
     建築廃材に染み込んでいるシロアリ駆除剤や防腐剤等の有害物質が溶出することにより,発癌性等の人体への悪影響が     考えられる。
     ガラス工芸品にみられるガラスくずや陶磁器くずには,様々な物質が付着しており,ガラス工芸に用いられる金属ヒ素     及びその化合物には神経毒性,発癌性,消化器官系への毒性などがある。
   イ 被告の主張
     安定5品目には,原告らが指摘するような人体に有害な物質が全く含まれていないわけではないが,そのような有害物     質は自然界には微量ながらも存在するのであるから,その危険性の有無は,人体に影響を及ぼす量であるか否かという     観点から判断すべきものである。廃棄物処理法については法改正が重ねられ,特に平成10年の改正により,安定型処     分場において処理が認められる廃棄物の種類が限定されたのであって,安定5品目自体がただちに危険であるとはいえ     ない。
     なお,原告らが懸念を示す廃棄物のうち,廃プラスチックの可塑剤については,その危険性について原告が立証してい     るとはいえない。金属くずからの金属の溶出についても,廃棄物処理法の改正により問題になる廃棄物は安定型処分場     に搬入されない。建築廃材も,安定型処分場に搬入できるのはコンクリートのみであり,シロアリが付く木材や新建材     などは搬入されない。ガラス工芸品はそもそも産業廃棄物に当たらない。したがって,人体に悪影響を及ぼす危険性の     ある廃棄物は本件処分場に搬入されない。
  (2) 争点(安定型産業廃棄物以外の物質が混入するおそれの有無)について
   ア 原告らの主張
    a 法令の不備
      国は,安定型処分場での事故発生後に法改正を若干行うという後追い行政を行い,従来対策を怠ってきたものの,平      成10年,廃棄物処理法施行令を改正して,安定型産業廃棄物から有害物質の付着した物の除外を増やし(同法施行      令6条1項3号イ),埋立処分の際には安定型産業廃棄物以外の廃棄物が混入し,又は付着するおそれのないように      必要な措置を講じることとなり(同号ロ),環境庁告示でも同趣旨の方策が定められ(平成10年6月16日告示第      34号),地方自治体でも最終処分場の立地規制をする動きが出ている。
      しかし,前記改正後も安定5品目の分別基準は不明確である。新たに「熱しゃく減量5%以下」(熱しゃく減量と       は,廃棄物を105℃(±5℃)で乾燥させた後,恒量となった重量を測定し,これと600℃±25℃で3時間強      熱時に減少した重量比をいい,廃棄物中の有機物含有量を示す。)との基準が定められたが,これは有機物との分別      基準に過ぎず,他の物質との分別基準は存在しないし,熱しゃく減量5%で汚染が防止できるという科学的実証デー      タも存在しない。
      また,かかる改正は,従来安全とされていた安定5品目自体が危険性を備えていたことを意味し,現在の安定5品目      も危険であることを示唆する。実際,平成10年の法改正後に操業を開始した安定型処分場の中には,不法投棄等が      確認されていないにもかかわらず,硫化水素が発生して操業中止になった処分場も存在する。
      次いで,平成12年の廃棄物処理法の改正により,いわゆるマニフェスト(産業廃棄物管理票。廃棄物処理法12条      の3参照)制度の見直しや廃棄物処理施設,廃棄物処理業の許可要件の強化がなされている。
      マニフェスト制度は,廃棄物の処理方法,処分方法,処分場所を把握することを目的とした伝票の記載,受渡をする      方式により,廃棄物のフローを管理するものであり,排出事業者に対する心理的規制によって不適正処理を防止しよ      うとする制度である。しかし,この方式には,安定型産業廃棄物以外の有害物質の混入を防止する実効性はない。ま      ず,排出事業者に安定型産業廃棄物とそれ以外の物に分別させるのは到底期待できない。現代の廃棄物は,様々な物      質を複合して作成されており,技術的に分別処理が困難である。その分別の手間や経済性を考えれば,廃棄物処理業      者に依頼する業者が分別して引き渡すことは考えられない。      また,この制度は廃棄物を直接検査するも      のではなく,マニフェストの正確性を検証することは現状では不可能であり,分別制度を担保しておらず,無許可業      者を拘束する手段もなく,不法投棄の多くを占める自社処分にはマニフェストの適用はなく,これを利用して不法投      棄を行うことが考えられる。
    b 中間処理施設の処理能力に限界があること
      中間処理施設の処理技術が向上しているとしても,中間処理により安定型産業廃棄物以外の物質が完全に排除される      との科学的な実証はない。
      被告は,株式会社Bが運営するz6中間処理リサイクルプラント(以下「z6工場」という)で厳格に分別処理され      た廃棄物のみが本件処分場に搬入されるかのように主張するが,被告は未だ株式会社Bと業務提携契約を締結してい      ないのであって,将来株式会社Bで処理された廃棄物が搬入されるとの保証は全くない。
      また,株式会社Bの処理施設における選別システムでは,まず廃棄物を破砕してふるいにかけ,大きさを整えたとこ      ろで風力により不燃物と可燃物を選別するというのであるが,比重の異なる物質を選別するに過ぎず,物質の品質は      選別できない(例えば石膏ボードについては,石膏と紙を密着させる接着剤の分別はされない)し,作業員による手      選別を行うとされる点についても,1週間程度の見習いを行っただけの作業員が1日83トンもの廃棄物を十二,三      人で選別するというのであり,短時間にこれほど大量の廃棄物を選別できるのか甚だ疑問で,大量処理の要請から人      為的ミスが発生する危険性が高い。したがって,その分別処理能力には大きな疑問があるのであって,安定5品目以      外の物質を完全に分別することはできないというべきである。
      さらに,株式会社Bの分別処理能力が高水準であるとしても,株式会社Bがz6工場において中間処理する廃棄物の      みでは被告が計画している搬入量に満たないから,必然的に,他の中間処理業者等から十分な分別のされていない廃      棄物が搬入されることとなる。
    c 最終処分場で分別し切れないこと
      最終処分場である本件処分場の最終的な分別は,監視員の目視での判別により,手作業で行うこととされているが,      搬入された廃棄物は中間処理施設での処理で原形をとどめない状態になっているため,判別不可能である。
    d 搬入される有害物質の量が許容限度を超えること
      個々の廃棄物に付着している有害物質が微量であっても,大規模な本件処分場に埋め立てられる廃棄物は大量である      から,本件処分場には大量の有害物質が集中することになる。有害物質が自然界に広く微量ながら存在するとして      も,本件処分場から生じる危険性はこれと同列ではない。
    e まとめ
      以上のとおりであって,現代の廃棄物は様々な物質を複合して制作された製品が不要化したものであるところ,大量     の廃棄物を厳格に分別することは,技術的にもコスト的にも不可能であり,本件処分場に安定5品目以外の物質が混入     することは避けられない。
   イ 被告の主張
    a 法令に不備がないこと
      平成10年環境庁告示第34号において,安定型産業廃棄物の範囲や埋立処分の方法が厳格化され,工作物の新築,     改築又は除去に伴って生じた安定型産業廃棄物(アスファルト,コンクリートのみ)と紙くず,木くず,繊維くず等と     分別して排出するか中間処理(手,ふるい,風力,磁力,電気その他による分別)により熱しゃく減量を5%以下にす     ることを義務化し,有機物が混入し,又は付着することのないよう厳しく規制している。こうした規制の結果,厚生省     は,改正後の法や維持管理基準を守っていれば,硫化水素発生の危険性は極めて低いと結論付け,実際,法改正後(経     過措置期間後)に開業した安定型処分場では,問題が生じていない。
      平成10年の廃棄物処理法の改正によりマニフェストの交付が義務づけられ,搬入された廃棄物の出所が明確とな      り,平成12年には建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律が制定され,解体工事は全て分別解体が義務づけら     れ,平成13年の廃棄物処理法等の改正により,排出事業者が最終処分を終了した旨の記載がなされたマニフェストの     写しの送付を受けることにより,最終処分の終了を確認することができるよう制度が変更された。マニフェストによっ     て,問題のある廃棄物を排出した排出事業者を特定できるため,排出事業者は責任を追及されないよう分別しなければ     ならなくなっている。こうしたことから,現在,排出事業者(解体業者)は,廃棄物の分別に対する意識を高めてい      る。
    b 中間処理施設の処理能力で十分分別できること
      中間処理業者では,処分場に投棄できる廃棄物の要件が厳格化され,環境大臣が定める「手,ふるい,風力,磁力,     電気その他を用いる方法」により,法令の要求する分別できる設備を備えている。例えば,被告が今後業務提携して廃     棄物の受入を予定している中間処理業者株式会社Bが操業するz6工場では,リサイクル可能な物と最終処分が必要な     物を厳密に分類しており,熱しゃく減量がわずか0.86%である。本件処分場に搬入される廃棄物は,かかる厳密な     分別をする中間処理を経たものだけであり,中間処分場の中間処理技術の向上と効率化が図られている。
      なお,被告は,今後,株式会社Bと業務提携し,厳格に分別された質の良い廃棄物を本件処分場に搬入することを予     定している。
      原告らは,株式会社Bのz6工場だけでは,被告が受入を計画している廃棄物量に満たず,本件処分場を経営するこ     とはできない旨主張するが,株式会社Bのz6工場の処理量は今後増えることが見込まれる上z7工場も稼働してい      る。また,中間処理技術は日々進歩しており,他の中間処理業者に分別能力がないわけではない。処分場の安全性を確     保するために大切なことは,株式会社Bで中間処理された廃棄物を受け入れることに尽きるのではなく,十分に分別さ     れていない廃棄物を受け入れないことに尽きるのである。
    c 最終処分場でさらに分別がなされること
      最終処分業者は,平成10年の廃棄物処理法の改正により,維持管理基準として,異物混入防止のための展開検査,     浸透水の検査,処分場周縁地下水の2か所以上での検査が義務づけられた。
      本件処分場では,展開検査の監視員として,近隣住民を雇用する予定であるし,水質検査は月1回以上の実施が義務     づけられ,異常が生じた場合はただちに操業停止となるから,処分業者としては自己の存続に関わる廃棄物の分別を安     易にすることはない。
    d 搬入される有害物質の量は許容限度内であること
      原告らの指摘する有害物質は広く自然界に微量ながら存在するのであり,人体に影響を与える量か否かを区別する必     要がある。法令では,それぞれの物質について許容基準値を設定し,処分場の運営を許容している。例えば,千葉県の     定めた飲用指導指針では,46項目の基準項目を定め,カドミウム,水銀,鉛,ヒ素,六価クロム,シアン,亜鉛,      鉄,銅などについて,人体への影響の有無の観点から基準が定められ,飲料     水の適正が決定されている。な     お,原告らが有害と主張するフタル酸化合物,ノニフェノール,ビスフェノール,ニッケル,アンチモン等は安全であ     るとの意見があるため,基準項目にすら入っていない。フタル酸化合物などは水に溶けず,アスベストも極めて安定し     た物質であり,水に溶けたり化学反応を起こすことはなく,飲料水への影響は全くない。
      本件処分場に原告らの指摘する有害物質が入ったとしても,それは微量であり,後記のとおりほとんど周囲に拡散し     ないのだから,安定5品目に含まれる有害物質が人体に影響を与えるような量となることはなく,許容限度内にある。
    e まとめ
      以上のとおりであり,法令を遵守し,厳格な分別作業を行えば,安定型産業廃棄物以外の物質が本件処分場に搬入さ     れる廃棄物に混入するおそれは極めて少なく,少なくとも,人体に影響を与えるような危険性はないというべきであ      る。
  (3) 争点(本件処分場内の水の挙動)について
   ア 原告らの主張
     本件処分場は,素堀の穴に直接廃棄物を投棄して覆土する単純な構造を有している。そのため,廃棄物及び覆土を転圧    する際に行う散水や雨水は,本件処分場に入って廃棄物と直接接触して汚染水となり,地下に浸透するほか,廃棄物に触    れた表流水となって排水溝に流れ込んで調整池に集められ,未処理のままコルゲート管を通って恩田川に放出される。
     被告は,本件処分場の操業計画として,廃棄物と覆土を交互に何層も重ね,埋立作業中は表層を廃棄物が露出する開口    部(埋立中の部分)とそれ以外の部分とに分け,開口部の面積は1万平方メートル以下にする旨を示している。しかし,    それでも1万平方メートルもの広大な開口部から入った雨水が直接廃棄物に触れることになる。被告は,開口部への雨水    は基本的には自然蒸発するというが,常識では考えられず,むしろそのまま廃棄物の中を通って下に浸透していくはずで    ある。被告は,本件処分場内に溜まった水をポンプアップして散水に用いる旨主張するが,1万平方メートルの広大な開    口部から入った雨水の全てを集水する原理の説明はなく,およそ信用できない。被告は,開口部外への雨水のほとんどが    表流水となり地下に浸透しないなどとも主張するが,科学的根拠はなく,常識的にも浸透しないとは考えられない。覆土    の透水性の方が自然の地層の透水性よりもはるかに高いはずである。
   イ 被告の主張
     以下のとおり,本件処分場内で廃棄物に触れた水は全量自然蒸発するし,調整池を経由して河川放出する水は廃棄物に    触れない水のみである
     すなわち,本件処分場の外縁には排水溝が設置されるほか,本件処分場内にも埋立の進行状況に従い,埋立中の部分    (開口部)の外側に順次排水溝が設置されるため,開口部外の覆土への雨水は,そのほとんどが表流水となり廃棄物に触れ    ずにこれら排水溝に集められて本件処分場最下部の調整池に流される。また,開口部よりも上部への雨水は,ゴムシート    敷きの沈砂池に溜められた後,ポンプアップされ,排水溝を経由して調整池に流される。
     したがって,調整池に集められる水は廃棄物には触れていない自然水である。廃棄物に触れる可能性があるのは,開口    部への直接の雨水のみであるところ,富津市は全国的にも降水量が少ない地域であるし,千葉県の指導に従い,開口部を    常時1万平方メートル以下となるよう制限するから,開口部への雨水は全量自然蒸発する。そもそも,雨水が幾層もの廃    及び底面のうち,比較的透水係数の高い部分を20センチメートル掘り下げその部分に水密コンクリート吹付工事を行     い,本件処分場の底部等への浸透を防除する措置をと予定であり,仮に本件処分場に水が溜まる場合には,ポンプアップ    して散水に用いる。
     なお,埋立完了後は,処分場跡地は植林する予定であり,わずかに,本件処分場内の地中に浸透した水は,自然蒸発す    る。
  (4) 争点(本件処分場内の水が外に流出するか)について
   ア 原告らの主張
    a 本件予定地周辺の地層の透水性
      本件予定地周辺の地層を総体的に見れば透水性は低いといえるが,中には複数の比較的透水性の高い地層(帯水層)     がある。被告が千葉県に提出した地質調査報告書によれば,現場透水試験の結果,深度3.00メートルから3.25     メートルの粘土質細砂層では透水係数が1.82×10-3㎝/sec(年間約574メートル),深度5.00から      5.50メートルの砂岩層では透水係数が8.55×10-4㎝/sec(年間約270メートル)となっており,透水     性は高いといえる。被告は,現場透水試験よりも透水係数が低いデータが出ている室内透水試験の方が正確であると主     張するが,現場透水試験の方が,含水比や粒度密度が不均一,不均質で,透水性の点でも非等方性を示す自然の地盤に     即している上,割れ目やクラックの存在を考慮に入れることができるから,調査結果は現実に近く正確であるといえ      る。
      本件処分場に入り有害物質を溶け込ませた汚染水は,このような比較的透水性の高い地層(帯水層)から地下に浸透     し,地下水に混入して帯水層の中を流動することになる。
    b 地層の傾斜
      本件予定地周辺の地層は概ね北傾斜であるから,本件処分場内の帯水層に汚染水が浸入すると,汚染水は,全体とし     ては傾斜に従い北側に流れることになる。
      しかし,地下水の流れる方向は動水勾配(等水圧線に垂直の方向)によって定まるところ,動水勾配と地層の傾斜方     向が一致するとは限らないから,地下水が,単に重力に従って地層の傾斜方向に向かうものと考えることはできない。     そして,被圧地下水の場合には,重力に逆らい下方から上方への地下水流動が起こりうるし,水平方向にも流動しう      る。
      本件予定地一帯は,比較的透水性の高い地層(帯水層)が比較的透水性の低い地層に挟まれているため,水は透水性     の高い地層内を,地層内の抵抗によって前後に,あるいは扇状に左右(東西)へ流動している。 
     現に,本件予定地の西側に当たる馬の背の地層からは水が浸み出している。これに本件処分場の埋立(平均埋立高さ2     0メートル)による高い圧力が加わると,本件処分場内の水の流出が加速され,帯水層の中を東(本件処分場)から西     へと進むことになる。
    c クラック(割れ目),亀裂,間隙水圧,毛細管現象,せめぎ合い等
      地層内にはクラック(割れ目)や亀裂が存在するのが通常であり,これらを経路として地層に水が浸透するほか,地     下水が流動する。本件予定地一帯のように透水性の低い地層でも,クラックが存在して水を通すことが十分に考えられ     るし,本件処分場の建設の工程でさらにクラックが生じれば,汚染水の地層への浸透や,地下水の流動が促進されるこ     とになる。また,埋立作業中の転圧による圧力も,同様の作用がある。
      さらに,地下水は,間隙水圧の高低,毛細管現象により,低い方だけでなく水平方向にも移動しうる。間隙水圧は当     該地層が地表に露出すれば生じないわけではなく,地層の抵抗があれば少なからず生じる。被告は,馬の背内の地層の     東西両端が地表に出ているから圧力がかからず間隙水圧を生じないというが,廃棄物が本件処分場に埋め立てられれ      ば,被告の主張の前提が失われることになる。
      被告は,本件処分場側からの水と馬の背側からの水が地層内でせめぎ合うため,馬の背側に汚染水が到達することは     ないとも主張するが,そのような必然性はない。廃棄物の埋立がなされれば雨水や転圧のための散水等の水が本件処分     場に溜まることとなるが,その総量と馬の背西側の傾斜地に降った雨水が地表面にとどまる量とは格段の差がある。
    d 水密コンクリートの実効性
      被告は,本件処分場内の透水性の高い地層部分に水密コンクリートの吹付工事をする予定とのことである。
      しかし,水密コンクリートと自然岩盤との接合部にいかなる防水処理を施すのか明らかでない。防水処理を施さない      限りその接合部はクラックそのものであり,そこから帯水層に汚染水が染み込むことになる。また,被告は本件処分      場全体に水密コンクリートを吹き付ける予定はなく,コンクリートの亀裂や周辺からの汚染水流出を防ぐ手だてもな      いから,本件処分場外に汚染水が漏れないとはいえない。
イ 被告の主張
    a 本件予定地周辺の地層の透水性
      本件予定地周辺は,ほとんどが岩盤で,透水係数は10-7㎝/secないし10-8㎝/sec(垂直方向に1秒あたり     0.0000001センチメートルないし0.00000001センチメートル浸透する程度)と極めて低い(透水      係数は,水が物質の中を重力の方向に動く速度をいうのであり,斜面を下る場合には重力が分散されるためさらに遅く     なり,水平方向には重力は働かないため,透水係数は0となる点を考慮に入れる必要がある。)。
      比較的透水係数の高い地層が本件処分場内のごくわずかに存在するが,それでも透水係数は10-4㎝/sec程度で     あり,透水性は十分低い。
    b 地層の傾斜
      本件予定地付近の地層は,北から東へ12度(走向線が西に78度)振れた方向に約10度傾斜している(N78°     W10°N)。したがって,仮に比較的透水性の高い地層に本件処分場から流出した水が入っても,前記地層の傾斜に     従い北寄りにもぐり込んでいく。重力に逆らって馬の背を水平方向に貫通して本件処分場と反対側に流出することはな     いから,本件処分場西側や南側に位置する原告ら方に到達することはない。
      原告らが馬の背西側に水が浸み出していると主張する部分は,雨が降って濡れているにすぎない。
      原告らは,本件処分場内の地層の構造や,本件処分場内の水がどのような経路で馬の背を越え原告ら方へ到達するの     か,その経路を立証できていない。
    c クラック(割れ目),亀裂,間隙水圧,毛細管現象,せめぎ合い等
      本件処分場内の水がクラック(割れ目)や亀裂等を伝って馬の背西側に浸出するには,クラック等が本件処分場側か     ら馬の背西側にかけて続く大きなものでなければならないが,そのような大きなクラック等があるはずはない。断層の     中には,断層破砕帯が断層粘土で構成される場合のように水を通さないものもあり,本件処分場内には透水性の高い断     層は存在しない。仮に地層に凹凸があっても,水は重力に従い凹んだ部分に流れるのみで,水平方向には進まない。
      間隙水圧は,水が閉じこめられて行き場を失った際に圧力がかかり水が逃げようとする力であるところ,馬の背の東     西はともに地表に出ているから,馬の背側に地下水を移動させるような間隙水圧は生じない。
      原告らの主張する毛細管現象がどのような現象を想定しているのか不明であるが,本件処分場から流出した水が馬の     背西側に流れるほどの力は働かない。
      双方向から入ってきた水が横に進んだとしても,その速度は遅々たるものであるし,ぶつかり,せめぎ合い,その後     は地層の傾斜の方向(本件処分場の北側)に進むしかないから,馬の背西側には流れないはずである。
    d 水密コンクリートの実効性
      被告は,念には念を入れて,本件処分場内のうち比較的透水性の高い地層部分(透水係数が10-5㎝/sec以上の     地層部分)に水密コンクリートの吹付工事を行う予定であり,これを実施すれば,その部分の透水係数は10-10㎝     /sec程度になるため,十分な低さである。この工事には     1520万円程度の費用がかかるが,全体の投資     額20ないし25億円から見れば,採算性に影響を与えない。
  (5) 争点⑤(有害物質が原告らの体内に吸収されたり,漁業や農業に影響を与えたり,原告らの平穏な生活等が侵害され     たりするか)について
   ア 原告らの主張
    a 第1群,第2群,第4群グループの原告らについて
       第1群,第2群グループの原告らは,井戸水を飲料水として利用しているところ,本件処分場に混入した有害物質      は,地層や圧力等の様々な要因に影響されて浸出水と共に本件処分場外に流出し,やがては第1群,第2群グループの    原告らが使用している井戸を汚染する。
      したがって,同原告らは,汚染された井戸水を飲むことにより,有害物質が体内に吸収されることとなり,その生     命,身体(健康)を害される危険性が高い。
      また,第4群グループの原告らは,汚染水が流れ込む河川を水道水源とする水道を使用しているから,同様に生命,    身体(健康)を害される危険性が高い。
      具体的には次のとおりである。
     ① 原告A3,同A4,同A7
       原告A3方では,馬の背西側と真向かいの斜面に,奥行き約2メートルほどの横穴を掘り,山から浸出する水(絞      り水1)を取水するほか,馬の背西側斜面直下に深さ8メートル程度の井戸(以下「A3方井戸」ともいう。井戸       1)を掘り,これをポンプで汲み上げて絞り水のたまり場所に合流させ,飲料水などの生活用水として使用してい       る。
       原告A4,同A7方は,馬の背西側斜面下を流れる沢筋に,深さ約15メートルの井戸(以下「A4方井戸」とも      いう。井戸2)を掘り,またその井戸のすぐ脇に奥行き2メートル程度の横穴を掘り,同所に浸出する絞り水(絞り      水2)を,飲料水等の生活用水として使用している。原告A4はCから土地を借用の上,同地を利用している。
       これらの絞り水や井戸は,下部帯水層からの被圧地下水が涵養しているため,下部帯水層の汚染が及ぶ可能性が極      めて高い。また,中部帯水層も上流で沢と切り結ぶことから,その地点で汚染水は沢に浸出し,井戸や絞り水が汚染      されることになる。例えば,A3方井戸(馬の背西側直下の井戸)は,下部帯水層の直近に位置するため,下部帯水      層が汚染されればこの井戸に汚染水が入ることになる。
     ② 原告A1,同A2
       原告A1,同A2方の井戸(以下「A1方井戸」という。)は,本件処分場の東北東約161メートルの地点にあ      り,A1方井戸の地下水面の標高は84.3メートルである。
       本件処分場が廃棄物によって埋め尽くされた場合,その標高はA1方井戸が位置する標高とほぼ同じ高さとなると      ころ,本件処分場北端部には目測標高94メートル地点に最上部帯水層が存在する。この帯水層は,地層の走向N7      8°W10°Nを前提とすると,A1方井戸付近で標高約79メートルに位置する。井戸底は地下水面よりも下位       で,また帯水層の厚みを考えれば,最上部帯水層がA1方井戸を涵養していると考えられる。仮に最上部帯水層より      上にA1方井戸の底が存在していたとしても,帯水層近傍の割れ目や,井戸周辺部分の減圧により,地下水が上昇す      ることが考えられる。したがって,本件処分場の汚染物質が最上部帯水層を経由してA1方井戸の井戸水を汚染す       る。
     ③ 原告A5,同A6
       原告A5,同A6は,本件処分場南方の自宅の庭に井戸(以下「A5方井戸」という。)を掘り,生活用水に使用      しているところ,A5方井戸は深さが30メートルで,馬の背西側直下を流れる沢からの距離は20メートルと近接      し,A5方井戸を涵養しているのは馬の背東側斜面下を流れる沢から地下に浸透した水や,馬の背地下の帯水層であ      るから,汚染水の影響を受ける危険性は大きい。
       A5方井戸が掘られたのは平成4年であるが,原告A5,原告6が本件処分場の建設計画を知ったのは平成7年で      ある。
     ④ 恩田川下流域の井戸
       本件処分場周辺に位置するz1,z3,z8,z9地区の全部,z4,z10,z11,z12,z13,z14      地区の一部は,市営水道施設がなく,また市営水道施設がある地区でも,地下水や山の絞り水を井戸に集めて汲み上      げたり,地下水を水源にした簡易水道施設を利用し,飲料水や生活用水,農業用水などとして使用している。また,      湊川沿いにz15浄水場があり,現在は停止中であるが,将来水道水源として使用される可能性がある。
       本件処分場南端の調整池の貯水は,本件処分場内の廃棄物に触れた汚染水であり,未処理のまま恩田川へ放出され      る。また,馬の背を横断して本件処分場西側の谷へ滲み出た汚染水は,そこを流れる小川を経て恩田川に流入する。
       本件処分場における地層は北向きに傾斜しているが,本件処分場南端から南へ200メートルの地点で地層が南傾      斜に変わっている。また,本件処分場周辺の地層は総体的には水を通しにくいものの,その中に比較的水を通しやす      い地層(帯水層)もある。その帯水層は,恩田川の川底に至っており,標高19~22メートル付近のおそらく砂層      と思われる帯水層を水源としている原告A8,同A9夫婦方の井戸(以下「A8方井戸」という。)や原告A10,      同A11夫婦方の井戸(以下「A10方井戸」という。),原告A12方の井戸を涵養しているため,本件処分場か      らの地下水や恩田川の川水が浸透して上記原告ら方の井戸水を汚染することになる。A10方井戸の導電率が恩田川      の水の値に近いことから,A10方井戸に川水が浸透していることは明らかである。
       さらに,本件処分場内の帯水層は幾筋も存在するから,これらの帯水層を通じて,A10方井戸とは異なる標高の      地下から取水する井戸へ汚染物質が流れ込む。この経路で地下水汚染の影響を受けるのは,原告A13,同A14,      同A15,同A16,同A17,同A18,同A19,同A20,同A21,同A22,同A23,同A24らであ      る。特に原告A14は,馬の背西側直下の沢や恩田川の川水を直接自己の田畑へ散布しているので,汚染の影響は直      接的である。
       加えて,地下水は不透水層を通らないわけでなく,地層に普遍的に存在する割れ目などを通じて上下方向にも豊富      な水の流通があるし,恩田川下流域の地層には帯水層が幾筋も存在し,地下水を取水する井戸がある。そうすると,      恩田川や湊川の下流域にあり,かつ井戸の深さが地下60メートル前後の井戸でも汚染水が深く浸透して井戸水が汚      染される可能性が極めて高い。影響を受ける原告らは,原告A25,同A26,同A27,同A28,同A29,同      A30,同A31,同A32,同A33,同A34,同A35,同A36,同A37,同A38,同A24らが挙げ      られる。
       汚染経路は以上に限られず,普遍的に存在する割れ目やクラックなどを通じ,汚染物質の拡散が時間の経過により      さらに広域へ拡大する。
    b 第3群グループの原告らについて
      第3群グループの原告らは,地下水や河川水を農業用水として利用しているところ,上記のとおり,汚染された地下     水や河川水を使用して作った農作物には有害物質が蓄積されるから,原告らは自ら作った農作物を家庭内で食用するこ     とによって,有害物質を体内に吸収することとなり,その生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
      また,仮に,汚染された農作物が人体の健康にすぐに影響を与えるものではなかったとしても,一般人の感覚に照ら     し,本件処分場から流出した水を用いて育てられた農作物に対して不快感を覚え,精神的苦痛を味わうことは想像に難     くない。風評被害が懸念されるのである。
    c 第5群グループの原告について 
      第5群グループの原告は,z16漁業協同組合ないしz17漁業協同組合に属し,河川で鮎漁やノリ養殖などの漁業     を営み,地下水を利用してノリの洗浄を行い,その魚等を食している。
      上記のとおり,地下水や河川水が汚染されることから,川に生息する鮎などが汚染され,また,地下水で洗浄される     ノリが汚染されるため,第5群グループの原告はそれを食することで有害物質を体内に吸収することとなり,その生      命,身体(健康)を害される危険性が高い。
      また,一般通常人の感覚に照らし,本件処分場から排出される汚染水により汚染された漁獲物等に対して不快感,精     神的苦痛を覚えることは明白である。風評被害も懸念されるところである。
    d 第6群グループの原告らについて
      本件処分場への搬入路は,第6群グループの原告らの生活道路,子供の通学路として使用されている。本件処分場へ     至るまでの道幅わずか4メートル程度の林道を,車幅2.5メートルの6トンダンプ車が廃棄物を積載して1日39往     復することが予定されており,この林道を利用する学童や周辺住民との接触事故が生じる可能性が高まり,ダンプ車の     往来による沿道家屋への振動,騒音の被害により生活の平穏が害されることになる。
      また,本件処分場や搬入時のダンプ車から悪臭や粉塵が放散され,硫化水素が発生するなどして周囲の大気が汚染さ     れるから,同原告らは,汚染された大気を吸入することにより,その生命,身体(健康)を害される危険性が高い。
   イ 被告の主張
     原告らに被害が発生する立証はなく,また,第6群グループの原告らの主張する交通量が増加することによる振動,騒    音等の被害については,受忍限度の範囲内である。
     原告らの主張する各原告ら方への汚染水の到達の主張は,次のとおり根拠がないものである。
    a 原告A3,同A4,同A7
      単に井戸が本件処分場から近いだけで危険性があるとはいえない。原告A3,同A4,同A7は,絞り水や井戸水を     利用しているが,いずれも馬の背から平地を隔てた原告両名方西側斜面からの絞り水を利用しているし,井戸水も下部     帯水層よりもはるかに下の地層から取水しており,本件処分場からの影響は受けない。仮に,原告らの主張する経路で     廃棄物に触れた水がA3方井戸,A4方井戸に到達するとしても,前記の地層の構造,クラック等の各要素を考慮すれ     ば,それは天文学的な微量である。
    b 原告A1,同A2
      A1方井戸は本件処分場の北東にあり,本件処分場よも標高が高く(約98メートル),井戸の深さは6~7メート     ル程度と浅く,標高91メートル付近の地層から取水していることになる。これに対し,本件処分場の中で比較的透水     係数が高い地層が本件処分場内の壁面,底面で露出しているのは標高55~60メートルであり,地層は北傾斜だか      ら,原告A1ら方付近ではさらにその地層の標高は低くなり,A1方井戸のはるか下を通過しているから,本件処分場     の水が浸透してA1方井戸に入る可能性はない。
    c 原告A5,同A6
      原告A5,同A6方は本件処分場よりも標高が低いが,付近の地層は本件処分場の方が低くなっており,A5方井戸     はA3方井戸,A4方井戸よりもはるかに深い地層から水を汲み上げているから,本件処分場の水が地下に浸透して      も,A5方井戸の側に流れて井戸に影響を与えることはない。
      また,A5方井戸はA3方井戸,A4方井戸よりもさらに標高の低い位置にあり,A5方井戸は深さ30メートルと     いうことである。周辺の地層は北北東に向かって低くなっているのであるから,A5方井戸は,A3方井戸,A4方井     戸よりさらにはるか深い地層から水を汲み上げているのであり,本件処分場とは無関係である。
    d 恩田川下流域の井戸
      恩田川に本件処分場からの汚染水が流入することはない。また,原告らは,A10方井戸の水と恩田川の水とで導電     率の値が近いために井戸水に川水が浸透していると考えているようであるが,測定方法は不明であるし,導電率が近く     ても水に含まれる物質が異なれば関連性はなくなる。加えて,A10方井戸底の標高は恩田川よりも高いし,現在恩田     川の水質は飲用に耐えず,原告A10,A11方でA10方井戸の水を飲用しているのであれば,A10方井戸は恩田     川に涵養されていないともいえる。
      次いで,原告らは,A8方井戸には恩田川の水が浸透している旨主張するが,A8方井戸の孔口は標高約25メート     ル,井戸底までの深さは7.2メートルだから,恩田川より高く,恩田川の水が涵養しているとはいえない。
  (6) 争点⑥(代替設備(簡易水道もしくは公営水道)による被害回避の可能性)について
   ア 原告らの主張
    a 本件簡易水道について
      被告の資本金は300万円であるが,被告は,簡易水道(以下「本件簡易水道」という)の設置費用として既に約5     500万円を負担している上,被告は公営水道の敷設のためにさらに約7900万円もの借入を起こそうとしているの     であって,被告の資本金に比してあまりにも膨大な費用を要する事業計画を打ち立てており,被告による健全な運営が     されるか,多大な疑問がある。
      被告が計画する本件簡易水道を管理する中間法人は,本件処分場設置に賛成する地元の一部の農業従事者若干名で構     成され,その人的規模に問題があり,管理,保守,点検のための十分な知識経験を有しているとはいえないし,安定的     な財政基盤を有しているわけでもない。被告の財政援助に依拠する財務体質であるならば,水道設置,維持,管理の費     用に耐えかねる事態に陥る懸念があり,被告が破綻するや水道組合も破綻するし,本件処分場閉鎖後も被告から財政援     助が続くとは考えられない。
      しかも,本件簡易水道は,濁った水が出たり,2,3日水が出なかったりすることがあり,水道として機能しないこ     とがある。
      また,本件簡易水道の水源(本件処分場北側)にも汚染の危険がある。
    b 公営水道について
      被告が示す公営水道の工事計画の中には,富津市水道部により発注済のものもあるが,富津市水道部が実施を検討す     るにとどまり,工事の実施が未開始のままのものや,計画自体が存在しない箇所も存在する。しかも,原告A1,原告     A2方付近の部落は水道敷設計画の対