hanrei @Wiki H17.10. 4 東京地方裁判所 平成16年(ワ)第21540号 損害賠償請求事件



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平成17年10月4日判決言渡 
平成16年(ワ)第21540号 損害賠償請求事件

判       決
主       文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請 求
1 被告は,原告に対し,3億7280万円及びこれに対する平成16年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,脱税の証拠隠滅工作のための資金を被告に交付したにもかかわらず,被告はこれを着服したとして,被告に対して,委任契約不履行あるいは詐欺による不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
 1 前提となる事実
次の各事実は,争いがないか,後掲各証拠により認めることができる。
 (1) 原告は,スポーツイベントK-1などの企画及び興行等を目的とする株式会社ケイ・ワン(平成15年8月20日以降は,商号変更により,「株式会社K-1」となる。以下「ケイ・ワン」という。)の元代表取締役である。
 (2) 原告は,①ケイ・ワンの顧問税理士のA及び会社経営者のBと共謀の上,ケイ・ワンの法人税を免れようと企て,架空仕入れを計上するなどの方法により,平成8年10月1日から平成12年9月30日までの4事業年度にわたり,ケイ・ワンの所得を9億0949万2644円秘匿し,虚偽の過少申告を行なって,3億0193万6300円の法人税をほ脱した法人税法違反,②東京国税局査察部の国税犯則調査を受けているケイ・ワンの法人税法違反事件につき,平成11年9月期及び平成12年9月期の法人税に係る簿外経費をねつ造するため,平成13年11月上旬ころ,被告及びCに対し,ケイ・ワン主催のK-1大会へのD出場に関する違約金条項を含むケイ・ワンとCとの間の内容虚偽の契約書を作成するように依頼し,両名をしてその旨を決意させ,内容虚偽の契約書を作成させた証拠隠滅教唆の各被告事件(以下,法人税法違反被告事件を「本件脱税事件」,証拠隠滅教唆被告事件を「本件証拠隠滅事件」といい,両者を併せて「本件刑事事件」という。)で東京地方裁判所に起訴された。
 東京地方裁判所は,平成16年1月14日,各起訴事実につき有罪とし,原告を懲役1年10月の刑に処し,原告は東京高等裁判所に控訴したが,同裁判所は,同年12月6日,控訴棄却の判決をした。(甲第1,第2号証)
 (3) ケイ・ワンは,本件脱税事件の被告人として,原告と併合審理されていたが,東京地方裁判所により,平成16年1月14日,罰金7000万円に処せられ,同判決は同年4月29日確定した。
 (4) 被告は,本件刑事事件に関連した証拠隠滅の罪で,東京地方裁判所において,同年2月17日,懲役1年6月,執行猶予3年の有罪判決を宣告された(乙第1号証)。
 (5) Cも,平成16年10月20日,東京地方裁判所において,被告と同じ起訴事実について,懲役10か月,執行猶予4年の有罪判決を宣告された(甲第8号証)。
 2 争 点
 (1) 原告の主張した日時及び金額どおりに,原告から,被告に対し金銭の交付があったか。
(原告の主張)
 原告は,被告に対し,別表記載のとおり合計4億3500万円から4億6500万円の現金を交付した。
(被告の主張)
 別表記載3の金銭の受領は認める。別表記載7については現金が入っていると思われるボストンバックを受け取ったことは認める。その余の事実は否認。
 (2) 被告は,原告から交付された金銭をCに交付せず,自ら領得した か。
(原告の主張)
 被告は,(1)において原告が被告に交付した金員のうち,以下のとおり合計約6220万円をCに交付したのみで,原告からの交付金との差額である少なくとも3億7280万円を自ら領得した。
①平成13年12月ころ,アメリカにある口座に30万ドルを振り込み(当時の1ドルが約110円であるから,約3300万円)
②平成14年2月末ころ,現金2000万円の交付
③平成14年2月下旬ごろ,現金700万円から800万円の交付
④平成14年2月下旬ごろタクシー代として120万円を現金で交付
(被告の主張)
 被告は,(1)において原告から預かったことを認める金銭は全てCに渡しており,領得していない。その余の金銭については,被告はそもそも原告から預かっておらず,したがって領得することもあり得ない。
 (3) 被告の行為につき詐欺を原因とする不法行為が成立するか。
(原告の主張)
 被告は,ケイ・ワンが国税局の査察を受けたことに動揺する原告に対し,あたかも心配して助けるため種々の教示を行っているように装いながら,原告から金銭を騙し取ることを企て,原告に対して,言葉巧みに,時に恐怖心をあおり,あるいはその恐怖から脱却する方法がある旨申し向け,真実はその用途に使う意思はないにもかかわらず,別表の支払理由欄記載のとおり,証拠隠滅工作を担当するCら協力者に対する報酬金あるいは弁護士費用名目で,多額の金銭を交付させ,これを自ら領得したものである。
(被告の主張)
 (2)における被告の主張と同様であり,詐欺の事実は否認する。
 (4) 本件につき民法708条の類推適用があるか
 (被告の主張)
 原告は,自ら法人税法違反という犯罪行為を行いながら,国税局の査察がケイ・ワンに入るや,この嫌疑を免れ,逮捕,訴追,実刑を回避しようとして,証拠隠滅工作を企て,被告及びCにこれを教唆したものであり,自らの公序良俗に反する不法な振る舞いを逃れようとして裁判所を欺かんとした者であり,その者が,自らのした行為・給付により生じたと主張する損害について救済を求めることは,法の理念・目的に明らかに反するものであり,裁判所による救済に値しない。この理は債務不履行を請求原因とする損害賠償請求であろうと,不法行為を請求原因とする損害賠償請求であるとを問わず妥当する。
 (原告の主張)
 一連の罪証隠滅工作は被告が発案し,原告に教示したものであり,被告の主導によって行なわれたものであるうえに,被告は法的知識のない原告につけ込んで,恐怖心をあおりながら多額の金銭を騙し取ったものであり,被告の行為の違法性は原告と比しても極めて甚大であり,民法708条但書に当たる。 
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)について
 (1) 本件の経緯について
 証拠(甲第1ないし第6,第8ないし第11,第13ないし第16,第18,第23号証,乙第1,第5,第6,第8,第9号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件の経緯について,以下の各事実が認められ,これに反する証拠は採用しない。
ア 原告は,平成12年春ころ,知人の紹介により,いわゆるイトマン事件の刑事被告人である被告と知り合い,一緒にゴルフや食事をするほど親しく交際していた。
 また,原告は,平成8年ころ,Cと知り合い,同人とも親しく交際していた。
イ 原告は,平成13年9月3日にケイ・ワンが東京国税局査察部による国税犯則調査を受けたため,その翌日ころから被告に対応を相談するようになった。被告は,原告に対し,脱税事件は金額が全てであるから,逮捕・実刑を免れるためには,架空でもいいから簿外経費を作って,それを国税局に認めてもらうしかないと助言した。
 その際,原告は,被告から,選手に支払った裏ファイトマネーを水増しし,簿外経費としてはどうかとの提案を受けたが,選手の名前を出したくなかったので,これを断り,代わりにプロモーターに対し架空の選手育成費用を支払ったことにして簿外経費をねつ造しようと考えた。
ウ 原告は,被告に指示されて,ケイ・ワンに架空経費を計上するための資金移動先としていたBとAから資料を集めて,被告に渡したところ,被告が送金や還流の状況を一覧表にまとめてくれたことから,両名からの未還流額が相当多額であることが判明した。そこで,原告は,Bに滞留していた資金額を調べたところ,その額が1億3100万円あったことから,それを原資に合計1億3000万円の選手育成資金を支払ったことにすることとし,B及びプロモーターらと口裏合わせをし,国税局の聴取においてその旨答えた。
エ さらに,原告は,有名プロボクサーであるDの日本招へいの費用をCに支払ったことにして架空経費を作ることとし,自らCに連絡して,承諾を取り付けるとともに,被告に対してもその旨を報告した。その後,原告が,被告に対して,平成11年9月期と平成12年9月期の脱税金額が多くて困っている旨相談したところ,被告は,違約金はその期の経費にできるから,違約金条項を盛り込んだ契約書を作成してはどうかと提案し,原告もこれを承諾した。
オ 平成13年11月初めころ,被告がイトマン事件の刑事弁護を依頼していた関係で当時出入りしていたE法律事務所において,原告,被告,Cが集まり,被告から,Cに対して説明がなされ,Cも了承し,虚偽の契約書を作成する話がまとまった。原告は,契約書の作成方法がよく分からず,また,国税局が国税犯則調査を行なっている中で直接Cと連絡を取り合うのはまずいと思い,被告とCの二人で契約書を作成してもらおうと考え,両名に対しその旨を依頼し承諾を得た。
カ その後,被告とCが連絡を取り合って,下記の内容の虚偽の契約書2通を作成し,被告がCの署名のある契約書を当時原告が宿泊していた帝国ホテルの客室に持参したことから,原告は署名をして,被告に返した。
(ア) 平成11年6月24日付け「DEED OF AGREEMENT」
と題する書面は,ケイ・ワンとCを当事者とし,CがDを平成11年12月に開催されるK-1大会に出場させること,ケイ・ワンはCを通じてDに1000万ドルのファイトマネーを支払うこと,このうち30万ドルを契約書の署名時に,470万ドルを署名後2か月以内に支払い,残額の500万ドルは大会終了後60日以内に支払うこと,契約不履行の場合の違約金は500万ドルとすること等を内容とするものであり,ケイ・ワン代表者の原告とCの署名がある。(以下「本件第1契約書」という。)
(イ) 同年10月11日付け「SUPPLEMENTARY DEEP OF AGREEMENT」と題する書面は,ケイ・ワンとCを当事者とし,CがDを平成12年12月に開催されるK-1大会に出場させること,ケイ・ワンはCを通じてDに1000万ドルのファイトマネーを支払うこと,このうち100万ドルを契約書の署名時に,400万ドルを署名後30日以内に支払い,残額の500万ドルは大会終了後60日以内に支払うこと,契約不履行の場合の違約金は500万ドルとすることなどを内容とするもので,ケイ・ワン代表者の原告とCの署名がある。(以下「本件第2契約書」という。)
キ 本件各契約書に署名後,原告は,被告から,Cが各方面への根回し,交通費など諸経費に1500万円必要であると言ってきたと言われたことから,平成13年11月15日にケイ・ワンから1500万円の仮払いを受け,同月中旬ころ,E法律事務所において,現金1500万円を被告に預け,Cに渡すように依頼した。(別表記載1の金銭の授受)
ク 平成13年11月中旬ころ,原告は,被告から,Cが簿外経費を真実らしく装うためにケイ・ワンを相手に前記内容虚偽の契約書(違約金条項)に基づく損害賠償請求訴訟を提起しようと言っている旨告げられ,これを承諾した。
ケ 原告は,被告から,Cが,バングラデシュで契約書に公証人の認証を得るのに3500万円必要であると言ってきたと言われたことから,平成13年11月20日にケイ・ワンから3500万円の仮払いを受け,そのころ,E法律事務所において,現金3500万円をCに渡すよう依頼して被告に交付した。(別表記載2の金銭の授受)
コ 被告は,平成13年11月21日,8万ドルをアメリカにいるCの秘書であるF名義の口座に送金した。
サ 平成13年12月ころ,原告は,被告から,Cがバングラデシュで訴訟提起をするのにかかる弁護士費用等として3000万円が必要であると言ってきたと言われたことから,当時,常宿していたさくらタワーの貸金庫に保管していた裏金の中から現金3000万円を,E法律事務所において被告に渡した。(別表記載3の金銭の授受)
シ 被告は,同年12月11日,3000万円をCの秘書であるF名義の口座に外国送金した。
ス Cは,被告から送金を受けた上記の資金の中から,契約書作成費用としてアメリカにおける共同経営者に10万ドルを支払い,バングラデシュのダッカにいる弟に5万ドルを送金した。
セ 平成13年12月18日,被告は,被告名義で愛知銀行八事支店からF名義の口座に600万円と400万円の合計1000万円を送金した。
ソ 原告は,平成14年1月ころ,被告から,CがアメリカにおけるD側への工作費用として5000万円必要であると言ってきたと言われたことから,原告が常宿していたウラク青山の部屋において自室の金庫や旅行バックに保管していた裏金の中から5000万円を被告に預け,Cに渡すよう依頼した。(別表記載4の金銭授受)
タ 平成14年1月下旬ころ,Cはバングラデシュでケイ・ワンに対する民事訴訟を提起した。
チ 原告は,平成14年2月初めころになってから,国税局の事情聴取において,原告がDを招へいする内金として合計130万ドルを支払ったことがある旨の虚偽の供述をした。
ツ 原告は,平成14年2月ころ,被告から,CがDの関連で,アメリカの弁護士にかかる費用として2000万円が必要であると言ってきたと言われたことから,ウラク青山の自室の金庫に保管していた裏金の中から2000万円をE法律事務所において,Cに渡すよう依頼して被告に預けた。(別表記載5の金銭授受)
テ Cは,被告から日本でケイ・ワンに対する損害賠償請求訴訟を提起するため来日を求められ,平成14年2月24日から同年3月1日までの間日本に滞在した。被告は,平成14年2月27日,Cが当時宿泊していたウエスティンホテルにおいて2000万円を裁判費用としてCに渡した。Cは,平成14年2月28日,日本で裁判を起こすために相談していたG弁護士に500万円を渡し,さらに再来日した同年3月16日に同弁護士に800万円を渡し,残りの700万円は飛行機代,宿泊代等に費消した(甲第4号証の資料1,2)。さらに,Cは被告に対し,Cの兄Hへの債務返済の資金として1000万円の用立てを申し出たところ,700万円から800万円ほどの金銭を受け取り,当時Cの運転手だったIに依頼してHに送金させた(乙第9号証の資料6)。そのほか,120万円くらいの現金を被告から受け取った。この時期からCは,Iの運転するハイヤーで頻繁に移動していた。
ト 原告は,平成14年3月上旬ころの国税局の事情聴取で,国税査察官から,原告がDの招へいのための内金として支払った旨説明していた上記チの130万ドルについては,前払費用に当たり,債務確定主義の下では,経費としては認められないかもしれない旨指摘された。そこで,原告は違約金についても経費として認定されないのではないかと危惧し,その旨被告に相談したところ,同月中旬ころ,被告から,E法律事務所において,国税局に違約金を確実に経費として認定させるため,Cに頼んで本件第1契約書に対応する虚偽の支払確認書を作成しておいたと説明され,Cの署名のある支払確認書(同内容のもの2通)に署名を求められ,これに応じて署名を行い,1通は原告が手元にとどめ,1通はCへの交付用として被告に返した。
 すなわち,上記の支払確認書は,同年9月30日付け「PAYMENT AGREEMENT」と題する書面(以下「本件支払確認書」という。)であり,ケイ・ワン及び原告とCを当事者とし,本件第1契約書を前提として,ケイ・ワンがその債務を履行しない意図が明らかになり,ケイ・ワンと原告はこの違反を認めたとしてCに対して500万ドル支払うことを合意する内容のものであり,原告とCの署名がある。
ナ 原告は,被告から,Cが日本で民事訴訟を提起するにあたり,弁護士費用や,印紙代など訴訟費用として6000万円必要であると言っていると言われたことから,平成14年3月6日ころに,ケイ・ワンから6000万円の仮払いを受け,そのころ,E法律事務所において,現金6000万円をCに渡すよう依頼して被告に交付した。(別表記載6の金銭授受)
ニ Cは,平成14年4月12日,東京地方裁判所に,ケイ・ワンに対して,本件第1契約書及び本件第2契約書に基づく違約金等合計2670万ドルを請求する民事訴訟を提起した。これに対して,原告は,事情を知らない顧問弁護士に対し違約金残額として合計870万ドルを支払う意思があること,和解で処理したい旨を依頼した。なお,既にバングラデシュで提起された民事訴訟は同月上旬ころCによって取り下げられた。
ヌ 原告は,国税局の事情聴取に対して,平成14年3月中旬ころ,前記のバングラデシュでCが提起した民事訴訟に関し,バングラデシュから訴状とともに送られてきた本件第1契約書及び本件第2契約書の写しを提出した外,同年4月下旬ころ,Cが日本で提起した訴訟に関し,訴状とともに送付されてきた本件支払確認書の写しを提出した。
ネ 原告は,被告から,CがD側との間の契約書,領収書作成費用として必要であると言っていると言われたことから,平成14年4月18日,ケイ・ワン社員であるJに指示して,被告との待ち合わせ場所たる新高輪プリンスホテルのパミールの地下駐車場まで,同日,ケイ・ワンから仮払いを受けた現金1億3000万円を旅行バック2個に分けて入れて車で持っていかせて,Cに渡すことを依頼して被告に渡した。(別表記載7の金銭授受)
ノ 原告は,被告から,Cが,帳簿への工作が終わったので,バングラデシュの会計士や税理士に対する報酬として3500万円必要であると言っていると言われたことから,平成14年6月13日に,ケイ・ワンから3500万円の仮払いを受け,そのころ,原告が当時宿泊していたホテルオークラの客室において,現金3500万円をCに渡すよう被告に預けた。(別表記載8の金銭授受)
ハ 原告は,被告から,バングラデシュの弁護士又はアメリカの弁護士に対する謝礼として必要であると言われたことから,平成14年7月11日にケイ・ワンから5000万円の仮払いを受け,そのころ,当時宿泊していたホテルオークラの客室において,現金3000万円をCに渡すよう依頼して被告に預けた。なお,残金2000万円はホテルオークラの自室の金庫に入れた。(別表記載9の金銭授受)
ヒ さらに,原告は,被告から,バングラデシュの弁護士またはアメリカの弁護士に対する謝礼として必要であり,名古屋駅のホームまで持って来てほしいと被告から言われ,平成14年9月初旬ころ,上記ハの残金2000万円を,原告の運転手であるLに指示して新幹線の名古屋駅ホームで,Cに渡すよう依頼して被告に預けた。(別表記載10の金銭授受)
フ Cが提起した日本での訴訟は,東京地裁において,同年5月ころから和解交渉が開始され,同年10月16日に,予め原告の意向を受けていたCとの間でケイ・ワンが違約金残額として合計870万ドルをCに支払うことを内容とする和解を成立させた。原告は,和解金の一部として70万ドルをC側のG弁護士の口座に振り込んで支払った。
へ 原告は,被告から,Cが生活資金等に必要であると言っていたと言われ,平成14年10月30日ころ,原告個人の口座から1500万円引き出してその中の1000万円を手提げつきの紙袋に入れて,被告の指示に従い,E法律事務所の近くにある喫茶「M」のマスターに預けた。(別表記載11の金銭授受)
ホ 原告は,平成15年2月3日本件刑事事件で逮捕された。
  (2) 裁判所の判断
ア 以上に認定したところによれば,原告は,合計11回にわたり総額にして少なくとも4億3500万円を,いずれも本件証拠隠滅工作に関連してCに渡すことを依頼して,被告に交付した事実を認めることができる。
イ この点,被告は,別表記載3の3000万円を受領したこと及び別表記載7について現金が入っていると思われるボストンバックを受領したことは認めるものの,その余の金銭の受領については否認する。
 しかしながら,被告に前記のとおり金銭を交付したとする原告の本件刑事事件の捜査段階における供述(甲第23号証)は,自らの罪を認めた上で,あえて自ら不利益となる金銭の交付についての状況を,詳細かつ具体的に述べるものであり,既に認定した本件の経緯とも合致し,また,交付した金銭の原資についても,大部分はケイ・ワンの会計帳簿(甲第10号証)の記載によりこれを裏付けることができる外,それ以外は国税局の査察調査の際に発見された裏金である1億5000万円の現金などを当てたとする点も首肯し得るものがあることからして,十分な信用性を有するものがあるということができる。さらに,被告は,本件刑事事件における捜査段階で,当初は原告から金銭を受領した事実を否認していたが(甲第12号証),後に原告から4回にわたり金銭を受領した旨(甲第13号証),さらにその後原告から7回にわたって金銭を受領した旨(甲第15号証)供述するに至り,最終的には,自らの刑事事件の被告人質問において,弁護人からの質問に対して,金銭の受領については,「N館長のあの調書を読んでまして,大体,おおむね,あれで間違いないんじゃないかというふうに。」と供述していること(甲第16号証)が認められるところである。
 加えて,甲第7号証,第15号証及び第16号証によれば,被告は,原告が逮捕された後,米国にいたCに対して,Cが原告から5億1000万円の金を受け取り,預かっている旨の書面を作ってFAXするよう指示した事実が認められるところ,被告が指示した5億1000万円の金額は,前記のとおり原告が被告に交付した金額4億3500万円に,原告が日本で提起された民事訴訟の和解金としてCに支払った70万ドルの合計額にほぼ見合うものであることからも,被告が原告から前記の金銭を受領し,その金額を把握していたことを窺わせるものがあるというべきである。
 さらに,被告は,原告から3000万円ないし3500万円しか受け取っていないと主張するが,乙第5号証によれば,被告はCに対し,平成13年11月21日に8万ドル,同年12月11日に3000万円を送金している事実が認められ,被告は自らが受け取ったことを認める以上の金員をCに送金しているにもかかわらず,この点について何らの合理的な説明もしていない。
 そして,これらの事情を考慮すると,原・被告間に既に述べたとおりの金銭の授受を認めることができる。 
ウ なお,被告は,平成13年11月中旬ころの1500万円及び同月20日ころの3500万円の金銭の授受(別表記載1,2。前記(1)キ,ケ)に関し,「原告は,ケイ・ワンから渡った5000万円を原告が支配する会社であるマルチアングルクリエイト株式会社に裏金として支払い,これを同社が名前を出せない会社に支払ったが,同社が領収書を発行できないためその処理に困惑し,被告の経営する株式会社協和綜合開発研究所にマルチアングルクリエイト株式会社からの預け金として架空計上するように依頼し,これをもって領収書代わりにしたものであり,被告との間に金銭の授受はない。」と主張し,株式会社協和綜合開発研究所がマルチアングルクリエイト株式会社へ経理上の処理の是正を求めた書面(乙第2号証,第3号証)がある外,株式会社協和綜合開発研究所の総勘定元帳(乙第12号証)の小口現金の平成13年11月15日及び11月20日の欄には,それぞれ預り金,マルチアングルクリエイト㈱として1500万円及び3500万円の記載がある。
 しかしながら,上記2回の金銭授受の原資とされるケイ・ワンから原告への交付金はケイ・ワンの補助元帳(甲第10号証)に,ケイ・ワンから原告への仮払金として記載されており,経理上の工作をしても,裏金にはなりえないものである上に,マルチアングルクリエイト株式会社の決算書(甲第19,第20号証)には5000万円の預け金の記載もなく,他方で乙第1号証及び第2号証,第3号証は直ちに原告のケイ・ワンからの上記の仮受金の使途との関連性を裏付けるものではないことからして,被告の主張は採用できない。
 次に被告は,平成14年1月ころの金銭の授受(別表記載4。上記(1)ソ)について,ケイ・ワンの経理を担当していたOが,平成13年11月の1500万円と3500万円の原告への仮払金あるいは平成13年12月7日の6000万円の原告への仮払金のいずれかが,平成14年1月に,Pに支払われたと供述している(乙第6号証)ことを根拠に,被告には交付されていないと主張する。
 しかしながら,原告は,平成14年1月に被告に交付した5000万円の原資は,国税局の査察で発見された裏金である1億5000万円の手持ちの現金の一部であると供述していることから(甲第23号証),Oの上記供述は何らこれと矛盾するものではなく,前記の認定を左右するものでは無いものと言うべきである。
 さらに,被告は,乙第14号証ないし第17号証によれば,原告は,平成13年12月19日,原告の配偶者であったQと協議離婚する旨の合意をし,離婚届の提出と引き換えに慰謝料として1億5000万円を支払うことを約束し,翌日,協議離婚届が提出されていることが認められ,これによれば,原告がQに対して1億5000万円支払ったことが窺われるところ,その原資としては,原告が被告に交付した金銭の原資として供述するケイ・ワンからの仮払金や国税局の査察で捕捉されたとする裏金が充てられたことが推認されると主張する。
 しかしながら,原告は,Qとの協議離婚の当時,被告に多額の金員を交付していたため,慰謝料を直ちに支払える資金がなかったことから,実際の支払は平成14年3月13日の1000万円及び平成14年10月11日の1億1000万円の合計1億2000万円であり,このうち1億1000万円の原資は原告がケイ・ワンから毎月受領していた約1330万円の給料が原資であると主張し,甲第24号証及び第25号証を提出しているところであり,被告主張の事実により前記の認定を左右するものではない。
 2 争点(2)について
 既に認定したとおり,原告は,被告に対して,Cに交付することを依頼の上,合計11回にわたり,総額4億3500万円の金員を交付した事実が認められる。他方で,本件の経緯について前記に認定したとおり,被告は,Cの秘書のFの口座に,平成13年11月21日に8万ドル,同年12月11日に3000万円,同年18日に1000万円を送金したこと及びCの来日中に,平成14年2月下旬に2000万円,平成14年3月中旬に700万円ないし800万円及び120万円を,同人に現金で渡したことが認められる。なお,被告は,平成13年12月18日に送金した1000万円は,原告からCに送金する金がないので立て替えてほしいと言われて立て替えたものであり,また現金による交付分についても,被告が自らCに対して現金を交付したことはなく,原告が直接交付したものである旨主張する。しかしながら,これらの主張は,前記のとおり,原告から被告に対して現金が交付済みであることに照らし採用できないというべきである。
 そして,上記の外に,被告からCに対して金員が交付されたことを窺わせる証拠はないことからすると,被告は,原告から受領した4億3500万円のうち,少なくとも3億5000万円に近い額をCに交付することなく,自ら領得したものと認めることができる。
 3 争点(3)について
 既に認定したところによれば,原告は被告からCが本件証拠隠滅工作をするための費用として必要であると言っている旨告げられ,被告に多数回にわたり金員を交付したが,被告は実際にはこのうちの一部しかCに交付せず,その大半を自ら領得していた事実が認められ,これらによれば,被告は,領得分については,原告からこれを騙取する目的で,本件証拠隠滅工作のために資金が必要であるとの虚偽の事実を告げて,原告を欺罔し,金員を交付させたものと認められる。
 4 争点(4)について
 本件は,原告が自ら経営するケイ・ワンの顧問税理士らと共謀して,4事業年度にわたり売り上げ除外や架空経費の計上などにより巨額の脱税を行い,国税局の査察を受けるや自らの刑事責任を免れようとして,被告やCに協力を求め,架空経費をねつ造して脱税の証拠を隠滅するため,偽りの契約書や支払確認書を作成したほか,偽装工作に真実性を持たせるためにバングラデシュで民事訴訟を提起させ,さらに我が国においても情を知らない弁護士に馴れ合い訴訟を提起させ,内容虚偽の裁判上の和解を成立させるなど,司法機関をも巻き込んだ大がかりな証拠隠滅行為を行ったものであるが,その過程において被告に証拠隠滅工作に関連して金員を詐取された事案である。
 本件証拠隠滅工作において,違約金条項を含む契約書の作成や費用を確定させるための支払確認書の作成,さらには偽りの民事訴訟の提起などは,いずれも被告の発案・指導によるものであり,被告の主導のもとで具体的計画が進展した面はある。しかしながら,原告はそもそも3年余りにわたる脱税行為により売上除外や架空経費の計上等の手口は当然知っていたものと見ることができ,現に被告から架空経費を積み上げるようアドバイスを受けるや,自ら脱税事件の共犯者らと意を通じて未環流の裏金を選手育成のための経費としてプロモーターに支払ったことにしたり,早々とCに対してDの日本招へい費用を支払ったこととすることについて了解を取り付けるなどの動きをしているのであり,被告からの上記の提案についても,その意味するところを理解した上で,次々にこれに承諾を与え,資金を提供し,証拠隠滅工作の成果物たる契約書や支払確認書を国税局に提出したり,民事訴訟に応訴し,情を知らない弁護士に和解するように指示を与えるなど,本件証拠隠滅工作に対する関与は決して受動的なものとは言えない。
 確かに,本件においては,被告は原告の窮境に乗じて多額の金員を騙取してはいるが,被告は全く存在しない証拠隠滅工作を原告に騙って金員を詐取したものではなく,既に認定したとおり現実に証拠隠滅工作は行われ,それは原告が資金を提供し続けたからこそ実行されたものであり,証拠隠滅工作により利益を受けるのは原告にほかならないがゆえに,原告は被告に対する資金提供の後半は被告の言動に多少の疑問を感じつつも,あえて被告を追及することなく,偽装工作の成功を優先させた面があることは否定し難い。
 以上によれば,原告は自らの利益を図るために共犯者の協力を得て違法な行為を計画し,計画は実行に移されたが,その過程で共犯者の裏切りにあったと言うべきものであり,原告の既に述べたような本件証拠隠滅工作への関与の度合いを考慮すると,原告と被告の各行為の悪性の度合の強弱は相対的なものに過ぎないものと評価される。
 そうすると,原告の本訴請求は,司法制度を自らが犯した巨額の脱税行為を隠蔽する手段として利用しながら,このような反社会的行為を実行する過程で共犯者の裏切りにより生じた財産的損害を司法制度を利用して回復せんとするものであり,健全な道徳感情に著しく反するとともに,このような行為に救済を与えることは将来における同様な違法行為を助長する恐れがあると言えるから,民法708条の趣旨を類推して,本訴請求を棄却すべきであると思料される。
第4 結 論
 以上によれば,原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第45部
        裁判長裁判官     永   野   厚   郎



            裁判官     西   村   康 一 郎



            裁判官    渋   谷   輝   一