hanrei @Wiki H17. 7.20 さいたま地方裁判所 平成15年(ワ)第2847号 損害賠償請求事件



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判示事項の要旨:
被告(さいたま農業協同組合)及びその従業員が,原告において,その所有農地についての相続税につき,租税特別措置法上の納税猶予の特例制度の適用を受けていることを予見することが可能であると認められないため,当該農地につき当該特例制度の適用を受けていることを調査確認する義務,及び,当該農地を他の用途に転用した場合に,当該特例制度の適用が打ち切られることを原告に説明すべき義務がないとした事例


主文
 1  原告の請求を棄却する。
 2  訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 申立て
被告は,原告に対し,金1億3248万3338円及びこれに対する平成16年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,相続した農地の相続税につき,租税特別措置法上の納税猶予の特例制度(以下「本件特例制度」という。)を利用していたところ,被告の仲介により当該農地を駐車場に転用して第三者に賃貸したため,本件特例制度の適用が打ち切られ,猶予されていた相続税並びに延滞税,利子税を支払わなければならなくなったとして,被告に対し,仲介契約上の注意義務等違反による債務不履行責任あるいは不法行為責任に基づき,相続税相当額等の損害賠償の支払を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実のほか,掲記の証拠等から明らかな事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,乗合バスの運転手として稼働していたが,退職後は不動産賃貸業等を営んでいる者で,その傍ら自ら農業に従事している被告の組合員である(甲21)。
イ(ア) 被告は,農業協同組合法に基づき認可され,平成12年4月3日成立した法人である農業共同組合であり,宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業者の免許を受けている。
(イ) 訴外a(以下「a」という。)は,被告の従業員であり,宅地建物取引主任の資格を有している者である(甲4)。
  (2) 原告と被告は,平成13年春ころ,原告所有の後記本件転用土地につき,これを訴外株式会社b(以下「訴外会社b」という。)に駐車場として賃貸することのついての仲介委託契約(以下「本件仲介契約」という。)を締結した。そして,その仲介行為は,aが担当した(争いがない)。
    なお,被告は,訴外会社bとも上記駐車場の賃貸借契約の締結に関する仲介契約を締結してその仲介に当たっていたものであるが,それは訴外会社bが依頼をした仲介業者の株式会社cを介しての話であったため,後記のとおり本件賃貸借契約成立後,訴外会社bから支払われた賃料1か月分相当の額の仲介手数料はこれを折半してその半額を受け取ったに過ぎなかった。また,本件仲介契約においては,それが宅地ではなく駐車場の賃貸借を目的とするものであって,本件賃貸借契約の締結に際しては,宅地建物取引業法35条所定の重要事項説明書を示しての説明が不要なものであったこと等のことから,被告は,原告からは,被告組合員に対するサービスとして行ったとして,仲介手数料を受け取らなかったものである(甲2,証人a)。
(3) 本件特例制度
ア 本件特例制度は,農業経営を安定させる趣旨のもと,農業を営んでいた被相続人から相続によって農地を取得した相続人(以下「農業相続人」という。)が,これらの農地を用いて農業経営を営む場合に,通常の評価に基づいて計算した相続税額のうち,それらの農地が恒久的に農業の用に供されるべき農地として取引される場合に,通常成立すると認められる価格(農業投資価格)に基づいて計算した相続税額を超える部分の税額が猶予されるという制度である。本件特例制度により相続税の納税猶予を受けたときには,一般的に,農業相続人が死亡した場合や相続税の申告期限の翌日から20年を経過した場合などに,相続税の支払が免除される(租税特別措置法70条の6第1項参照)。
イ ただし,本件特例制度の適用を受けた者について,例えば同制度の適用を受けた農地を他の用途に転用したとき等一定の事情が発生した場合は,当該事情が発生した日から2か月を経過したとき,納税の猶予が打ち切られ,猶予された相続税を利子税とともに納付しなければならない(租税特別措置法70条の6第1項但書参照)。
(4) 相続税の延納制度(以下「本件延納制度」という。)
本件延納制度とは,国税につき,原則としては金銭で一時に納付すべきであるところ,例外的に,申告又は更正・決定により納付することになった相続税額が10万円を超え,納期限までに,又は納付すべき日に金銭で納付することを困難とする事由がある場合,その納付を困難とする金額を限度として,担保を提供することにより,年賦で納めることができるとするものである(甲8)。
(5) 別紙物件目録記載の土地について
ア 原告は,昭和60年1月20日までに,別紙物件目録記載1ないし3の土地(以下併せて「本件特例適用土地」という。)につき,本件特例制度の適用の申請をして,本件特例制度の適用を受けた。
イ 原告は,平成13年6月21日,別紙物件目録記載1,2,4及び5の土地(以下併せて「本件転用土地」という。)につき,さいたま市農業委員会に対し,畑から駐車場に転用したい旨の農地法4条1項5号による転用届を提出し,同日,受理された(以下「本件転用」という。)(甲6)。
ウ 原告と訴外会社bは,平成13年9月1日,本件仲介契約に基づく被告の仲介を受けて,別紙物件目録記載1,2及び4の土地(以下「本件賃貸土地」という。)につき,以下の約定で賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した(甲2)。
(ア) 賃  料   月額21万円
(イ) 使用目的   訴外会社bの駐車場及び車の展示場に限る
(ウ) 期  間   平成13年9月1日から同16年8月31日まで
エ 原告は,本件転用並びに本件賃貸借契約締結後,別紙物件目録記載1及び2の土地(以下併せて「本件特例打切土地」という。)につき,本件特例制度の適用を打ち切られた。
オ 原告は,本件特例適用土地につき,平成15年11月10日受付で,財務省による国税局担保物処分の差押を受けた(甲7)。
(6) 被告は,本件転用時及び本件賃貸借契約締結時において,本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けているか否かについて調査確認をしなかったし,また,本件転用をすれば本件特例制度の適用を打ち切られることについて原告に説明しなかった(争いがない)。
3 争点及び当事者の主張
本件における争点は,(1)被告あるいは被告の従業員であり,かつ履行補助者であるaにおいて,原告が本件転用をした上で訴外会社bとの間で本件賃貸借契約を締結するにあたり,原告が本件特例打切土地につき本件特例制度の適用を受けているか否かを,被告が調査確認する義務,さらに,本件転用を行えば本件特例打切土地につき本件特例制度の適用が打ち切られることを原告に説明する義務があったか,(2)原告に生じた損害額の2点であり,これらに関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1) 争点(1)
(原告の主張)
ア(ア) 本件特例打切土地の登記簿謄本によれば,同土地につき,昭和59年10月17日受付で,原告を債務者,大蔵省を抵当権者(取扱庁大宮税務署)とする,債権額1億3070万8500円(内訳 相続税額金5634万0500円及び利子税額金7436万8000円)の抵当権設定登記が経由されている。
本件特例制度の適用を受けている場合,納税猶予期限まで相続税本税を支払うことがないため,利子税額が相続税額を超えるほど巨額になることがあるが,一方,本件延納制度の適用を受けている場合,延納の期間中,相続税本税を毎年支払っていくため,相続税本税が減少していき,これに伴って,その相続税本税にかかる利子税も減少していくので,利子税額が相続税本税を上回るほど巨額になることはない。
(イ) 原告を含む被告の組合員の多くは,急激に都市化が進み,農地の遺産評価額が高騰しているさいたま市(旧大宮市)において農業に従事している。かかる地域に土地をもつ被告の組合員の相続税額は多額であり,被告の組合員には,相続税対策として本件延納制度や本件特例制度を利用している者も多くいるはずであるから,被告は,本件特例制度についても詳しい知識を有していた。
aは,被告における宅地建物取引主任者として被告の組合員の土地活用を担当し,農地の取引及び農地を相続する組合員の税務にも精通しており,納税猶予の際の利子税の計算方法も了知していた。
(ウ) 原告及びその妻であるdは,aに対し,本件転用及び本件賃貸借契約締結にあたり,「農地なので何かあると大変だから本件土地を農地から転用して駐車場として賃貸することは大丈夫か。」という疑念を伝えていた。
(エ)① 平成11年ころ原告がaに対し,「相続税の延納期間が終了に近づいているので土地活用をしたい。」などという話を持ちかけたことはない。また,平成13年の初めころ,原告がaに対し,相続税の支払を終えた旨を話したこともない。そもそも,原告は,税金や土地活用については素人であり,本件特例制度や本件延納制度に関する知識を全く有していなかった。
② 仮に原告において上記のような話を持ちかけたとしても,相続税の納税が終了したにもかかわらず本件特例打切土地に相続税を被担保債権とする大蔵省の抵当権が抹消されないまま残っている状況は不自然であるので,前記知識を有していたaならば,それから原告の相続税完納の話の誤りに気付く可能性が十分あった。
(オ) 以上からすると,被告あるいはaは,本件転用ないし本件賃貸借契約の仲介をするに際し,原告が本件特例打切土地に本件特例制度の適用を受けていたことを予見することが可能であった。
イ(ア) aは,原告に対し,平成13年3月あるいは4月ころ,頻繁に原告宅を訪れ,本件賃貸土地を有効活用するため,訴外会社bの駐車場及び販売車輌展示場として,本件賃貸土地を賃貸しないかと執拗に勧誘した。
(イ) 原告が大宮税務署から,納税期限の到来した相続税,利子税及び延滞税の納税の督促を受けて,平成15年5月29日と同年6月9日ころ,aと被告e支店のfを同行して,大宮税務署に納税猶予期限の到来を撤回してほしい旨頼みにいった際,aは,同税務署員らに対し,「自分が忙しくて,部下に任せっきりで登記簿謄本の確認をきちんとしなかったのが悪かった。」旨の弁明をしていた。
(ウ) 被告は,通常の利率より低い利率で,すなわち通常の利率である「1.675%」から「0.8%」も軽減した利率で,原告に対し,納税資金を融資した。これは,本件特例制度の適用の打ち切りにつき,被告に責任があることを被告自身が認めたからにほかならない。
(エ) 以上からすると,被告あるいはaには,本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けていることについて調査確認する義務があり,さらに,原告に対し,本件特例打切土地が農地以外のものに転用された場合に本件特例制度の適用が打ち切られることについて説明すべき義務があった。
(被告の主張)
ア(ア)① 本件特例制度の適用を受けるか否かは農業相続人本人の意思によって決定されるべきことであるから,同制度の適用を受けていることを知っているのは,農業相続人本人と相続に関与した税理士しかいない。本件特例制度の適用を受けているか否か,受けているとした場合にその内容が網羅的に記載されているのは,税務署に提出される相続税の申告書であるから,税理士はもちろんのこと,農業相続人本人及び相続に関与した税理士以外の第三者が,本件特例制度の適用を受けているか否か判断するのは同申告書をもってするのが通常であり,そもそも登記簿謄本の記載をもって判断するものではない。
② 本件特例制度の適用を受ける対象となる土地と,同制度の適用を受けるにあたり担保に供される土地とが同一とは限らないのであるから,登記簿謄本の記載をもって本件土地に本件特例制度の適用がされているかを確認できるとは限らない。
③ 上記のとおり登記簿謄本の抵当権の記載のみから,相続税につき,本件特例制度の適用を受けているのか本件延納制度の適用を受けているのか判定することは困難である。
相続税の延納期間は原則として5年であるが,それを短縮することも延長することもでき,納税者の申請により最大限20年とすることもできる(租税特別措置法70条の10,同施行令40条の10)。延納期間中は利子税を納付することになり,延納期間に応じた利子税が担保提供された不動産に設定される抵当権の被担保債権の一部とされ,それが登記されるので,20年間の延納の場合には,20年分の利子税額が被担保債権の一部として登記される。
一方,納税猶予の特例の場合,登記されるのが何年分の利子税額になるかは,所得税法施行令の別表にある「余命年数表」に基づいて算出される納税者の余命年数が基準となり,猶予期間が算定され,それに応じた利子税が確定するのであるから,20年分の利子税額が被担保債権の一部として登記されないこともある。
したがって,納税猶予であるか延納であるかによって,一律に,抵当権設定登記の記載内容に違いが生じるわけではない。
(イ)① aは,本件特例制度の概要については知っているが,農地に関する税法の専門家ではないため,同制度の詳細について認識しているわけではない。同制度は,宅地建物取引業者の関与する領域ではなく,税法の専門家である税理士の取り扱うべき分野の問題である。aは,相続税納付対策や本件特例制度について,組合員から相談を受けた際は,それに応じて専門家である税理士への依頼を勧めていた。
② 納税猶予の場合における利子税の計算方法は複雑で,一般的には理解されておらず,国税当局職員や税務署職員等の特殊な職業にある者が理解している程度であり,税理士でさえ税務署に提出する抵当権設定登記承諾書の中の「利子税額」を記載する箇所については白紙にしており,利子税額の算出及びその記載を税務署職員に委ねているくらいであるから,aは,その計算方法を知らなかった。
(ウ) 原告及びdが,aに対し,本件転用及び本件賃貸借契約締結にあたり,「農地なので何かあると大変だから本件土地を農地から転用して駐車場として賃貸することは大丈夫か。」という旨を発言したことはない。
(エ)① 平成11年ころ,原告は,aに対し,被告e支店において,「gの相続の税金の支払期間である15年の延納期間がもうすぐ終わる。税金の支払が終わってすっきりしたら,土地活用でもしようかと思う。そのときには,相談に乗ってもらいたい。」旨の話をした。その後,平成13年の初めころには,原告は,aに対し,「以前に話をした土地活用の件だけど,相続の税金の支払も済んですっきりしたので,そろそろ土地活用をしたい。」旨の話をした。
一方で,被告は,原告が本件特例適用土地につき本件特例制度の適用を受けていること及び同土地が別紙共同担保目録記載の共同担保に供されている事実を原告から告知されていなかった。
② 原告が,aに対し,15年間の延納が終了し,相続税の納付が完了した旨を告げている以上,aとしては,本件特例打切土地について大蔵省を抵当権者とする抵当権設定登記については,原告が告知した本件延納制度に関わるものであると考えるのが通常である。
本件転用及び本件賃貸借契約締結の時点で未だに当該抵当権は抹消されていなかったが,aは,後に職権で抹消されるものと考えたものである。
(オ) 以上からすると,被告あるいはaは,本件転用ないし本件賃貸借契約の仲介をするに際し,原告が本件特例打切土地に本件特例制度の適用を受けていたことを予見することは不可能であった。
イ(ア) aが,原告に対し,積極的に本件賃貸借契約の締結を執拗に勧誘したとの点については否認する。
(イ) aが,大宮税務署において,同税務署員らに対し,「自分が忙しくて,部下に任せっきりで登記簿謄本の確認をきちんとしなかったのが悪かった。」旨の弁明をしていたとの点については否認する。
(ウ) 被告が,原告に対し,納税資金を融資するにあたり,利率を通常より軽減したことは認める。
しかしながら,通常の利率である「1.675%」から「0.3%」を軽減したのは,原告が被告の全事業を利用している組合員であったことが理由であり,さらに「0.5%」を軽減したのは,本件特例制度の適用を打ち切られたという非常事態において,被告の組合員たる原告を救済するという趣旨から被告の組合長の決裁権の裁量の範囲で行ったもので,決して,被告に責任があることを認めた趣旨ではない。
(エ) 以上からすると,被告あるいはaにおいて,本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けていることについて調査確認する義務,さらに,原告に対し,本件特例打切土地が農地以外のものに転用された場合に本件特例制度の適用が打ち切られることについて説明すべき義務はなかった。
(2) 争点(2)(原告に生じた損害)
(原告の主張)
ア 相続税,利子税及び延滞税  合計1億2106万7300円
大宮税務署は,平成15年5月29日,原告に対し,本件特例打切土地につき,本件転用を理由として,これまで猶予していた上記各税の上記合計金額を直ちに支払うよう督促した。
原告は,相続税本税5634万0500円は被告から融資を受けて納付したが,その余は未納であり,平成15年11月7日,関東信越国税局より差押書の送付を受け,本件特例適用土地につき,同月10日受付で差押を受けた。
上記相続税等合計1億2106万7300円については,原告が被告の勧めに従って本件転用ないし本件賃貸借契約の締結をしなければ,平成17年1月20日の経過をもってその支払を免除されたのであるから,原告は,被告の注意義務違反によって上記金額の損害を被ったものである。
イ 弁護士費用   1141万6038円
本件訴訟の提起に際しての弁護士費用は,埼玉弁護士会報酬規定等に照らし,上記金額が本件と相当因果関係がある。
ウ よって,原告は,被告に対し,本件仲介契約における債務不履行責任(信義則上の保護義務違反〔民法1条2項〕,善良なる管理者の注意義務違反〔民法644条準用〕,信義誠実の義務違反〔宅地建物取引業法31条〕)あるいは不法行為責任(使用者責任〔民法715条1項〕)に基づく損害賠償請求として,金1億3248万3338円及びこれに対する本件の訴状送達の日の翌日である平成16年1月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
原告が本件特例適用土地につき差押を受けたことは認めるが,損害に関するその余の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所が認定した事実
前記前提事実並びに,証拠(甲2,甲3〔枝番を含む〕,甲6,甲7,甲10,甲22,乙1,乙2,乙4,乙8〔枝番及び添付資料を含む〕,乙9)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告の父であるgは,同人の妻であるhとともに,昭和50年6月30日,長男である原告の妻であるdと養子縁組した。
(2) gは,昭和59年3月19日,死亡した。
(3) 土地家屋調査士iは,昭和59年5月14日,別紙「本件分筆前の別紙物件目録記載の土地周辺図」記載の土地(さいたま市j区kl丁目m番n)を別紙物件目録記載1,2,4及び5の4筆の土地に分筆(以下「本件分筆」という。)するための地積測量図を作成した。
(4) o税理士は,同月20日,hの依頼によって,gの遺産につき,遺産分割協議書の原案を作成した。原告は,その案に沿って成立した遺産分割協議に基づき,別紙物件目録記載1ないし5の土地等を相続した。
(5) 本件特例打切土地につき本件特例制度の適用をうけるためには,従来から原告の自宅が存在する土地への通路として利用されている別紙物件目録記載4の土地に相当する部分と,自宅付近にある建物の一部が存在している別紙物件目録記載5の土地に相当する部分(別紙「本件分筆後の別紙物件目録記載の土地周辺図」及び別紙「本件賃貸借契約締結後の別紙物件目録記載の土地周辺図」の「A」と記載した建物参照。なお,後者の図面は,本件賃貸借契約締結後に作成されたものであるが,「A」と記載した建物は,本件分筆前から同箇所に存在していたものである。)を分筆する必要があったため,o税理士の原告に対するアドバイスに従って,同月21日,本件分筆が行われた(別紙「本件分筆前の別紙物件目録記載の土地周辺図」及び同「本件
分筆後の別紙物件目録記載の土地周辺図」参照)。
o税理士は,原告に対し,原告が本件特例適用土地に本件特例制度の適用を受けるにあたり,納税猶予期間が終了するまでの間,本件特例適用土地を農業以外の目的で使用してはならない等の注意事項を説明した。
(6) さいたま市(旧大宮市)農業委員会は,本件特例制度の適用を希望する者に対し,相続開始から6か月以内に税務署に申告しなければならないこと,及び,申告の際には,農業委員会が発行する本件特例制度に関する適格者証明書を申告書に添付して申請しなければならない旨を通知していた。
原告は,相続税申告書提出期限である昭和60年1月20日までに,その手続に従って,相続により取得した土地のうち,本件特例適用土地につき,その後20年間農業を営むことを条件に,原告に課された相続税の一部について,本件特例制度の適用を申請するとともに,昭和59年9月19日,当該土地に,別紙共同担保目録記載の抵当権を設定した上で,本件特例制度の適用を受けることとなったことは前記のとおりである。
原告が納付すべき相続税額は8438万0800円であり,原告は,その内5634万0500円につき,本件特例制度の適用を受けることとなった。
本件特例制度の適用を受けた相続税額金は,昭和80年(平成17年)1月20日の経過により免除される予定であった(租税特別措置法70条の6第35項4号,相続税法27条1項)。
(7) 原告は,納付すべき相続税額8438万0800円から本件特例制度の適用をうけた税額5634万0500円を差し引いた2804万0300円につき,その内304万0300円については相続開始直後に現金で納付し,残額の2500万円について,大宮税務署に対し,昭和60年8月31日から昭和74年(平成11年)8月31日まで15年間に渡る本件延納制度の適用の申請をしその適用を受けることとなった。
(8) 平成13年2月ころ,aは,原告に対し,本件賃貸土地をpに駐車場として貸してもらいたい旨提案し,原告宅を訪れて,pが提示している契約条件等の説明を行った。しかしながら,最終的には合意に至らなかった。
(9) aは,平成13年5月ころ,訴外会社bが駐車場と車の展示場に適した土地を探しているとして,訴外会社bを原告に紹介し,原告宅を訪れ,訴外会社bの提示している条件等の契約内容を説明し,原告の意向を確認した。
(10) 原告と訴外会社bとが,平成13年9月1日,本件賃貸借契約を締結したことは前記のとおりである。
(11) 原告が,平成13年6月21日,さいたま市農業委員会に対し,本件転用を届け出て,同日,受理されたのは前記のとおりである。
(12) 原告が,本件特例制度の適用を打ち切られ,平成15年11月10日受付で,本件特例適用土地につき差押を受けたのは前記のとおりである。
2 争点(1)について
(1) 原告は,「本件特例打切土地の登記簿謄本の乙区欄を見れば,抵当権の債権額の内訳において利子税額金が本税額金を上回っていることから,被告の組合員の土地活用等の相談に乗り相続税等の問題にも詳しいaであれば,本件土地が本件特例制度の適用を受けていたことを予見できた。」旨主張するので検討する。
ア 証拠(甲3〔枝番を含む。〕,甲9,甲14,甲15,乙8〔枝番及び添付資料を含む〕,乙9,乙11,証人a)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (ア) 被告の組合員の中には市街化区域内に土地を所有する者が多数存在するため,被告は,土地活用等につき相談を受けることが少なからずある。
 (イ) ところが,aは,被告の宅地建物取引業の主任であり,本件特例制度並びに本件延納制度について一般人よりも詳しい知識を有しているものの,相続税等税金に関する専門家ではないため,上記のように,被告の組合員から土地活用等の相談を持ちかけられた際に税金にかかわる話が出てきた場合には,被告においては,その点については,税理士にアドバイスさせることとしていた。
 (ウ) 本件特例制度の適用を受けていた本件特例打切土地に設定された抵当権の債権額の内訳は,登記簿謄本上,相続税額金5634万0500円であるのに対し,利子税額金がそれを上回る7436万8000円となっているが,本件延納制度の適用を受けていた土地(所在:さいたま市q区rs丁目,地番:p番u,地目:宅地,地積:725.50平方メートル。甲9参照。)に設定された抵当権の債権額の内訳は,登記簿謄本上,相続税額金2500万円であるのに対し,利子税額金がそれを下回る1067万9800円となっている。
 (エ) 本件特例打切土地に設定された抵当権につき,租税特別措置法70条の6第36項に従って,猶予期間中の利子税の利率を年6.6%,猶予期間を20年として,本税額5634万0500円を基礎にして,本件における猶予税をおおまかに計算すると7436万9460円(=5634万0500円×6.6%×20年)という登記簿謄本に記載されている利子税額(7436万8000円)と近い数字が算出できる。
 (オ) 税理士が,ある土地が本件特例制度の適用を受けているか,それとも本件延納制度の適用を受けているかを判断する方法は,通常,相続税の申告書の記載によっている。
 (カ) 原告は,本件賃貸借に関連する一連の相談をaとした際に,一度も本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けている旨を説明したことはなく,かえって,本件特例打切土地が本件延納制度の適用を受けていたと勘違いして,aに対し,平成11年ころ,「15年の相続税の延納期間がもうすぐ終わる。」とか,平成13年初めころ,「15年に渡ってようやく相続税を支払い終えた。」旨説明していた。
 (キ) 平成13年7月当時,本件特例打切土地の上には,鬱蒼と木々が茂っており,かつ,同土地上にプレハブ小屋が建設されている状態にあったが,aは,原告と本件賃貸借にかかわる相談をした際,本件特例打切土地が上記のような状態にあることを目撃していた。
イ 上記認定に対し,原告は,「原告が相続税については全然知識を有しておらず,本件特例制度や本件延納制度等について全然理解をしていないので,aに対し,『税金を払い終わった。』等の話をするはずがない。」と主張し,原告の陳述書(甲21)及び証人dの証言には,その主張に沿う部分が存在する。
しかしながら,前記1の認定事実のとおり,o税理士は,原告に対し,本件特例制度の適用の申請にあたり本件分筆のアドバイスをしたり,本件特例適用土地を農地からそれ以外のものに転用した場合に本件特例制度の適用を受けられなくなること等の注意事項を説明していたのであり,また,証拠(甲9,甲10,甲25・35頁〔平成15年7月25日に,原被告間で本件に関する交渉をした際にそのやり取りを録音したテープの反訳書〕)によれば,原告が,aに対し,平成11年ころに「もうすぐ15年に及ぶ相続税の支払が終わる。」旨や,平成13年初めころ,「15年に及ぶ相続税の支払が終わった。」旨を述べたとaが証言するその時期と,実際に原告が本件延納制度の適用を受けた分の相続税の支払を終えた時期である平成11年8
月31日とが客観的に一致すること,本件特例制度の適用を受ける税額が5634万0500円と非常に高額であること(原告が納付すべき全体の相続税額は8438万0800円である。),本件特例制度が打ち切られた後の平成15年7月25日における原被告間の交渉で,原告が,「登記簿謄本等の重要な書類をもってきて相続税の支払が終了している割には不自然であると思われる点を被告が指摘してくれたならば,原告がざっともう1回確認すれば本件特例制度の適用の話に気付くことができた。」という趣旨にとれる発言をしていることが認められる。さらに,本件特例制度の適用を受けるためには,農業委員会及び税務署に対する厳格な手続を経なければならないことから,農地相続人の農業経営の意思及び農地の継続利用管理の意思が厳格に要
求されているので,本件特例制度の適用を受けるか否かは農地相続人が意思決定をしていることが一般的であって,以上の点を考慮すれば,原告が,そもそも相続税に関する本件特例制度や本件延納制度について些細な知識さえも一切有しておらず,自分が支払うべき相続税について,相続の当初から何も知らなかったなどということは到底信用できない。
したがって,上記原告の主張を採用することはできない。
ウ そして,原告は,「原告及びdが,aに対し,本件転用及び本件賃貸借契約締結にあたり,『農地なので何かあると大変だから本件土地を農地から転用して駐車場として賃貸することは大丈夫か。』という旨を何度も伝えた。」と主張し,原告の陳述書(甲21)及び証人dの証言にはその主張に沿う部分があり,また,甲24及び甲25のテープの反訳書の中には,平成15年7月18日及び同月25日に,原被告間で,本件に関する交渉をした際に,上記の原告の主張に沿う原告あるいはdの発言に対して,aあるいはそれ以外の被告側の者が特段,原告あるいはdの発言を否定したり,それについて反論したりしている記載がなされていない。
しかしながら,まず,原告が,aに対し,「15年に及ぶ相続税の支払が終わった。」旨を述べていたことは前記認定事実のとおりであるし,証拠(証人a)によれば,原告及びdは,農地の問題よりも本件特例打切土地を駐車場にする際の造成費用の負担の問題や,原告が育てていた植木の伐採やその後の引き取りの問題等を心配していたことが認められるので,これらの事実と照らし合わせれば,原告の陳述書の当該記載部分及び証人dの当該証言部分は,これをたやすく措信することはできない。
 さらに,甲24及び甲25のテープの反訳書では,原告あるいはdの発言に対し,aあるいはそれ以外の被告側の者が,原告あるいはdが「農地であるが転用しても大丈夫か。」と発言したということを否定したり,それについて反論したりする発言をしていないとしても,他方で,aをはじめ被告の側の者が,原告あるいはdが「農地であるが転用しても大丈夫か。」と発言したということを肯定する発言もしていないのであり,また,上記のテープの反訳書における原告・被告間の本件に関する発言内容を全体としてみると,dがほぼ一方的に被告の非を咎め,被告にまくし立てるような状態であり,少なくとも上記発言の存否については被告側にまともな反論が許されるような状況ではなかったことが認められ,また,既に認定したとおり,原告
及びdは,農地の問題よりも造成費用負担の問題等の心配をしていたのであるから,以上の事実を総合すると,甲24及び甲25でもって,本件転用時や本件賃貸借契約締結時ころの時点において,原告あるいはdが,aあるいはそれ以外の被告の従業員に対し,「農地であるが転用しても大丈夫か。」という旨を発言したことまでは認められない。
エ 前記アの認定事実を総合すれば,本件特例打切土地について前記のとおりの登記簿謄本の記載があり,aが一般人よりは本件特例制度につき詳しい知識を有していたこと及び本件特例打切土地が植木等の畑であったとしても,登記簿謄本の記載からのみ本件特例制度の適用の有無を判断することは容易ではなく,被告においては,税務相談は税理士に任せていたのであり,さらに,aが,原告から相続税の支払が終了した旨を聞いていた上に,客観的に農地として適正に管理されているとはいえない本件特例打切土地の状況を目の当たりにしていたことを考慮すれば,被告あるいはaにおいて,原告が,本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けていることについて予見可能性があったと認めることはできず,他に原告主張事実を認めるに足りる証
拠はない。
     したがって,被告あるいはaに,原告において,本件特例打切土地につき本件特例制度の適用を受けていることについての予見可能性があったと認めることができない以上,被告あるいはaにおいて,本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けていることについて調査確認する義務があったとは認められず,さらに,本件特例打切土地が農地以外のものに転用された場合に本件特例制度の適用が打ち切られることについて原告に説明すべき義務があったことも認められない。
オ 原告は,「仮に原告が相続税の支払が終わった旨の話を持ちかけていたとしても,相続税の納税が終了したにもかかわらず本件特例打切土地に相続税を被担保債権とする大蔵省の抵当権が抹消されないまま残っている状況は不自然であり,土地活用及び税務に精通したaならば,その不自然さに気付き,調査をすれば,本件特例打切土地が本件特例制度の適用を受けていることを予見することが十分可能であった。」旨主張するところ,確かに,原告において相続税の支払が終了したとした後,1年以上も経っているにもかかわらず,相続税を被担保債権とする大蔵省の抵当権が抹消されずに残っているのは客観的には不自然であるが,最大奉仕の原則(農業協同組合法8条)から導かれる道義的な観点からしても,aについての前記事情からすると,
同人が,本件特例打切土地につき本件特例制度の適用がされていることを予見することが可能であったとまでは認められないことは前記判断のとおりである。
したがって,上記原告の主張を採用することはできない。
第4 結論
   以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。



     さいたま地方裁判所第2民事部



 裁判長裁判官   廣田民生


裁判官   中  山  幾 次 郎


裁判官   上田真史
【別紙省略】