hanrei @Wiki H17. 9.30 名古屋地方裁判所 平成17年(行ウ)第46号 不起訴刑事記録閲覧許可処分取消請求事件



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判示事項の要旨:
 本件は,交通事故の被害者であると主張する原告が,名古屋地方検察庁岡崎支部に対し,同事故の業務上過失傷害被疑事件不起訴記録についての閲覧請求をしたのに対し,同支部検察官検事が,刑事訴訟法47条に該当することを理由に閲覧を拒否したため,原告が,同閲覧拒否の取消しを求めた抗告訴訟と考えられるところ,不起訴記録の閲覧拒否は,抗告訴訟の対象となる行政処分とはいえないとして訴えを却下した事案。


平成17年9月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(行ウ)第46号 不起訴刑事記録閲覧拒否処分取消請求事件
判決
主文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
名古屋地方検察庁岡崎支部検察官検事浅尾俊久が,原告に対し,平成17年7月21日付けでした被疑者Aに対する業務上過失傷害被疑事件記録の閲覧請求を拒否した処分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,平成12年4月17日に発生した交通事故の被害者であると主張する原告が,名古屋地方検察庁岡崎支部(以下「本件支部」という。)に対し,同事故の加害者とされるAを被疑者とする業務上過失傷害被疑事件(名古屋地方検察庁岡崎支部平成12年簡第46号,第2375号。以下「本件刑事事件」という。)の不起訴記録(以下「本件刑事記録」という。)の閲覧請求をしたのに対し,本件支部の検察官検事が,本件刑事記録が刑事訴訟法47条に該当するものであることを理由に閲覧を拒否したため,原告が,同閲覧拒否の取消しを求めた抗告訴訟と考えられる。
1 前提事実
(1) 当事者等
ア 原告は,平成12年4月17日,愛知県西尾市a町○○番地先路上に停車していたところ,同所付近の駐車場から道路上に進出してきたAの運転する車両に衝突された(この交通事故を,以下「本件事故」という。)。
イ 本件事故は,本件刑事事件として立件されたが,Aは不起訴処分となった。
(2) 原告による閲覧請求
原告は,平成17年7月6日,本件支部に対し,本件刑事記録の閲覧請求を行ったが,本件支部検察官検事により,同月21日付けで,「本件事件記録は刑事訴訟法第47条に該当する記録であるため,閲覧には応じられません。」との回答を受けた。
2 原告の主張
(1) 原告は,本件事故に関し,Aを被告として民事訴訟を提起したが,同訴訟において,Aが証拠として提出した事故車両の写真が,原告が事故車両として認識していたものと異なっていた。原告は,上記民事訴訟において,この点を主張したが,最高裁判所においても認められなかった。
(2) 原告が,平成15年2月に西尾警察署に事情を聞きに行ったところ,同署の警察官は,本件事故における事故車両の写真を撮影したと述べたが,上記民事訴訟において実施した送付嘱託の結果,記録中に写真は存在しないとの回答があった。
(3) その後,原告は,本件支部において,本件刑事記録のうち,本件事故における車両の写真の閲覧を許可されたが,このとき,これまで存在しないとされてきた写真が存在したことを知った。
(4) 人身事故において,しかも,当事者の認識が異なるような場合に,事故車両の写真や現場の写真を撮影していないとは考えられず,本件刑事記録を閲覧することで,本件事故の車両を特定するための何らかの要素を発見できる可能性がある。
(5) 刑事訴訟法47条本文は,刑事事件の不起訴記録の公開を原則として禁じているが,同条ただし書によれば,「公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合」には,公開が認められることになる。
上記のような事情のある本件においては,本件刑事記録を閲覧することにより,上記民事事件の再審請求を行うための資料を得られる可能性がある一方,他に何ら方策はないのであるから,同条ただし書の「その他の事由があって,相当と認められる場合」に該当する。
したがって,本件支部の検察官検事がした本件刑事記録の閲覧拒否は違法である。
第3 当裁判所の判断
1 原告は,本件訴えにおいて,検察官による不起訴記録の閲覧拒否の取消しを求めている。
そこで検討するに,刑事事件の不起訴記録は,刑事訴訟法47条本文にいう公判の開廷前の訴訟に関する書類に該当し,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合以外は,原則として非公開とされているところ,同条が,国民に対して上記書類の公開請求権や,非公開の措置についての不服申立権を与えたものでないことは,その文言からも明らかである。また,行政事件訴訟法において抗告訴訟の対象となる「公権力の行使」(同法3条1項)とは,「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」と解されるところ(最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁),行政機関
の保有する情報の公開に関する法律等の情報公開法は,刑事訴訟に関する書類に関しては適用されないこととされている(刑事訴訟法53条の2参照)。その他,刑事事件の訴訟記録の保管,閲覧等について定めた刑事確定訴訟記録法は,不起訴記録を対象とはしておらず(同法2,4条参照),犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律も,公判手続中の刑事事件記録の閲覧・謄写について定めるのみで(3条参照),不起訴記録の閲覧について何ら規定していない。
そうすると,我が国の法制上,国民は不起訴記録の閲覧を求める法律上の地位を与えられていないから,不起訴記録を保管する者が,その閲覧を求める者に対して,これを拒否したとしても,これによって,法律上,直接国民の権利義務が形成され,又はその範囲が確定されることはないといわざるを得ない。
したがって,不起訴記録の閲覧拒否は,抗告訴訟の対象となる行政処分とはいえない。
2 以上によれば,不起訴記録の閲覧拒否の取消しを求める本件訴えは不適法であり,かつその不備を補正することができないことが明らかであるから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法140条を適用して,口頭弁論を経ないで本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担については,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

    名古屋地方裁判所民事第9部


          裁判長裁判官   加藤幸雄


             裁判官   舟橋恭子


             裁判官   片山博仁