hanrei @Wiki H17. 9.29 名古屋地方裁判所 平成16年(行ウ)第38号 法人税更正処分等取消請求事件



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判示事項の要旨:
 原告が3事業年度の法人税について,訴外HRDに対して原告の保有するノウハウ等を譲渡する契約に基づき受領した譲渡代金を,未収金の回収とし,それに係る外国法人税額分を損金として確定申告をしたところ,被告が,当該ノウハウ等は一条工務店に帰属しており,当該契約は架空の取引であり,法人税法22条2項所定の受贈益に該当するとの理由で,法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をなしたことから,原告が本件譲渡契約は架空のものではないと主張して,処分の取消しを求めた抗告訴訟であるところ,本件ノウハウ等が原告に帰属し,本件譲渡契約が架空のものではなく経済的合理性を有し,譲渡代金は受贈益に該当しないとして,原告の請求を認容した事案。


平成17年9月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(行ウ)第38号 法人税更正処分等取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成17年7月27日
判        決
主        文
1 被告が平成12年8月29日付けで原告に対して行った平成8年7月1日から平成9年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分(ただし,納付すべき税額4億6518万0600円を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
2 被告が平成12年8月29日付けで原告に対して行った平成9年7月1日から平成10年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分(ただし,納付すべき税額9467万5400円を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
3 被告が平成12年8月29日付けで原告に対して行った平成10年7月1日から平成11年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分(ただし,納付すべき税額6584万6700円を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,H.R.D.Singapore Pte Ltd(以下「HRD」という。なお,HRDは,Housing Research and Developmentの略称である。)との間で締結された,原告が保有するノウハウ等を譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)に基づき,HRDから受領した譲渡代金について,被告が,当該ノウハウ等は株式会社一条工務店(以下「一条工務店」という。)に帰属しており,上記契約は架空の取引であるから,受領した金員は法人税法22条2項所定の「無償による資産の譲受け……に係る……収益」(受贈益)に該当するとの理由で,平成8年7月1日から平成9年6月30日,同年7月1日から平成10年6月30日及び同年7月1日から平成11年6月30日までの各事業年度(以下,個別には「平成9年6月期」などといい,3事業年度を総称して「本件各事業年度」という。)の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたことから,原告が,本件譲渡契約は架空のものではないと主張して,上記各処分(ただし,更正処分については,確定申告又は従前の更正処分によって,原告が自認する税額を超える部分)の取消しを求めた抗
告訴訟である。
なお,本件は,原告を一条工務店,被告を江東西税務署長とする東京地方裁判所平成15年(行ウ)第553号法人税更正処分等取消請求事件と密接に関連し,その派生事件に位置づけられるものであるが,上記事件について,東京地方裁判所は,平成17年7月21日,基本的に一条工務店の請求を認容する判決を言い渡している。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実,証拠により容易に認定できる事実等)
(1) 関係者等
ア 原告
原告は,昭和62年7月1日に設立され,住宅関連業務の研究開発及びこれに関する経営指導等を目的とする株式会社である(なお,平成5年3月,商号を「株式会社一条住宅研究所」から「株式会社住宅研究所」に変更し,平成12年8月26日,再び現在の商号に変更している。)。
原告の代表取締役は,設立時からA(以下「A」という。)であったが,同人は,平成9年12月15日に辞任し,Bが代表取締役に就任した。
原告の株式は,本件各事業年度を通して,その発行済株式の総数の85パーセントを親会社に当たる一条工務店が保有している。
イ 一条工務店
一条工務店は,昭和53年9月12日,京都市にて設立された株式会社であり,木造注文住宅の販売及び施工を目的としている。
また,一条工務店は,多数の指定商品等につき,「株式会社一条工務店」及び「一条工務店」の商標(以下「本件商標」という。)を登録する(乙5の1ないし10)とともに,洋風住宅「SAISON」,和風住宅「円熟の家百年」の商品名を用いて,住宅の販売等を行っている。
一条工務店の代表取締役は,設立時からAであったが,同人は,平成9年8月9日に辞任し,Cが代表取締役に就任した。
一条工務店の株式は,HRDの役員であるD(Aの長男。以下「D」という。)が,本件各事業年度を通して,その発行済株式総数の約75パーセントを,Hawking Holdings Pte.Ltd(平成7年2月4日設立,シンガポール共和国),株式会社ラスティング及び株式会社日信を介して間接的に保有している。
ウ HRD
HRDは,1995年(平成7年)2月4日,シンガポール共和国において設立された法人で,代表者は設立時からAであったが,同人は,1996年(平成8年)11月3日に辞任し,E(以下「E」という。)が代表者に就任した。
HRDの株式は,本件各事業年度を通して,Dがその発行済株式総数の99.99パーセントを保有している。
(2) フランチャイズ事業の概要
ア 原告設立までのフランチャイズ契約
(ア) 一条工務店は,昭和53年の設立以後,住宅展示場を使用して木造注文住宅の販売及び施工を行っていたが,さらに,木造注文住宅の建築事業を拡大するため,昭和61年11月以降,別表1記載のとおり,全国各地の工務店との間で,フランチャイズ契約を締結した(以下,同表の契約を同表左欄の番号に即して「契約番号1」のように表示し,これらの契約を併せて「本件各フランチャイズ契約」,フランチャイジーを「GC」,GC各社,一条工務店及び原告を「一条グループ」という。)。
(イ) 本件各フランチャイズ契約のうち,原告設立前に締結された契約(契約番号1ないし9)の内容は,いずれもほぼ同一であり,その主なものは,次のとおりである(甲8の2ないし10,乙6。なお,以下においては,甲8の3をもって代表させることとし,甲は契約の相手方であるGCの立見建設株式会社,乙は一条工務店,丙は立見建設株式会社と一条工務店によって設立予定の「株式会社一条工務店群馬」を指す。)。
2. 「経営システム」の供与
2-1 乙は乙独自の仕様に基く木造注文住宅(以下本品という)に対する丙の事業展開(以下本事業という)に関する以下の事項に対し,経営のための専門知識・機能・技能・管理手法・有形無形の各種資料・データ・マニュアル,並びに考案などにつき,既に確立されたノウハウと経験を有している。
A.本品に関する材料の製造・製品の調達と品質管理
B.販売並びにマーケティングの要領及び管理
C.住宅に関する建築設計技術
D.住宅に関する建築工事技術
E.工事管理・監督の要領
F.本事業に必要な組織体制作り
G.本事業に必要な諸般の帳票・様式並びに管理手法
2-2 乙は既に確立された(2-1)項記載のノウハウの他に,常に本事業経営の全般にわたって新しいノウハウ開発を怠りなく行う。
2-3 (2-1)項及び(2-2)項記載の事項をここに「経営システム」と総称する。
2-4 甲乙両者が共存共栄する強力な取引関係を維持継続するためには,丙が乙から「経営システム」を受けることによって,本事業が継続して利益をあげることが前提となる。
よって乙は丙に「経営システム」を与え,この実現に責任を持つ。
又,丙は乙の指示指導を確実に守り,事業に専念し,これを遂行する義務を持つ。
3. 商標
3-1 乙は丙に対し乙が所有する全ての商標・標章・商品名の使用を許諾する。
3-2 本契約が終了,或いは(8-4)項に基づいて解約又は解除となったときは,理由の如何を問わず,丙は乙が所有する商標・標章・商品名を使用することはできない。
又,丙はそれを表示した有形物を速やかに撤去,消滅させることとし,その作業は少なくも最長90日を越さないものとする。
ただし,丙と丙の顧客の間で未済の契約物件が存在するときは,該当物件が完了したときをもって本項を適用する。
4. 「経営システム」指導の責任
乙は「経営システム」が完全に丙に根付くよう乙の施設内で行われる教育指導と,丙の業務実践過程中現地で実地に教育指導するとを問わず,指導要領に基く適宜な方法・手段によって丙を指導する。
(中略)
5. ロイヤリティ
丙は乙から供与された「経営システム」とこれに伴う乙の教育指導に対し,その対価として次のロイヤリティを乙に支払う。
5-1 ロイヤリティの計算基礎となる完工高とは,冷蔵庫・冷暖房器具・家具など及び其の他丙の顧客から支給される機器等及び外構工事・営繕工事を除いたものを指す。
5-2 (5-1)で規定する完工高の  をロイヤリティとする(注:契約番号4については,ロイヤリティ率が      ,契約番号6及び8については,同率が        とされている。)。
5-3 ロイヤリティの支払いは,本品の請求高合計分を毎月15日で締切り,翌月5日丙は現金をもって乙に支払う。
5-4 契約解除時点における受注残についても(5-1)(5-2)(5-3)項を適用する。
7. 資材の購入と其の他の責任
7-1 以下に記載する本品の構造部材及びこれに関連する部品・付属品又は住設機器をここに資材と総称する。
7-2 甲・丙は原則として次の資材を乙より購入するものとする。ただし,特別な事情により甲・乙・丙間で合意するか,又は甲・丙にとって第三者の購入条件が乙より有利な場合,その限りでない。
A.乙の開発したオリジナル部材及び製品
B.住設機器(流し台・洗面台・下駄箱)
C.サッシ及びサッシの付属品
D.ドアー及びドアー枠関係部品
E.造作部材
F.その他一条グループ(甲・乙・丙を含む)共同仕入品
(以下略)
イ 原告と一条工務店との間のノウハウ供与契約
(ア) 原告設立の前日である昭和62年6月30日付けで,原告が一条工務店にノウハウを供与する旨の契約書が存在する(以下,その契約を「昭和62年契約」という。甲8の1,乙7)。
(イ) 昭和62年契約の内容は,次のとおりである(以下,甲は原告,乙は一条工務店を指す。)。
1.「新しいノウハウ」の開発研究及び供与
1-1 甲は甲独自の仕様に基く木造注文住宅(以下本品という)に対する乙の事業展開(以下本事業という)に関する以下の事項に対し,経営のための専門知識・機能・技能・管理手法・有形無形の各種資料・データ・マニュアル,並びに考案などにつき,既に確立されたノウハウと経験を有している。
A.本品に関する材料の製造技術・製品の調達と品質管理技術
B.販売並びにマーケティングの要領及び管理手法
C.住宅に関する建築設計技術
D.住宅に関する建築工事技術
E.工事管理・監督の要領
F.本事業に必要な組織体制作りの要領
G.本事業に必要な諸般の帳票・様式並びに管理手法
1-2 甲は既に確立された(1-1)項記載のノウハウに加え,常に本事業経営の全般にわたって「新しいノウハウ」の開発研究を怠りなく行う。
1-3 甲乙両者が共存共栄する強力な取引関係を維持継続するためには,乙が甲から「新しいノウハウ」を受けることによって,本事業が継続して利益をあげることが前提となる。
よって甲は乙に「新しいノウハウ」を与え,この実現に責務を持つ。
又,乙は甲の指示指導を確実に守り,事業に専念し,これを遂行する義務を持つ。
2.「新しいノウハウ」指導の責任
甲は「新しいノウハウ」が完全に乙に根付くよう指導要領に基く適宜な方法手段によって乙を指導する。
3.ロイヤリティ
乙は甲から供与された「新しいノウハウ」と,これに必要な開発費とこれに伴う甲の教育指導に対し,その対価として次のロイヤリティを甲に支払う。
3-1 ロイヤリティの計算基礎となる請求高合計とは,冷蔵庫・冷暖房器具・家具など及び其の他丙(注:乙の誤記)の顧客から支給される機器などを除いたものを指す。
3-2 (3-1)で規定する請求高合計の  をロイヤリティとする。
3-3 ロイヤリティの支払いは,本品の請求高合計を毎月末日で締め切り,翌月末日乙は現金をもって甲に支払う。
ウ 原告設立後のフランチャイズ契約
(ア) 原告設立後の昭和63年に締結されたフランチャイズ契約(契約番号10ないし12。甲8の11ないし13)
これらの契約においては,地場工務店であるGCと,一条工務店及び原告とが契約当事者となり,原告がGCに経営システムを供与し,その対価としてGCが原告にロイヤリティを支払うこと,一条工務店が本件商標等の使用を許諾すること,GCは資材を一条工務店から購入することなどが合意されているところ,供与される経営システムの内容,ロイヤリティの内容,その計算方法等は,原告設立前のフランチャイズ契約の文言(上記ア)とほぼ同一である。
(イ) 平成元年から平成3年に締結されたフランチャイズ契約(契約番号13ないし18。甲8の14ないし19)
これらの契約においては,地場工務店であるGCと,一条工務店が契約当事者となり,本部機能を有する一条工務店が,本件商標等の使用を許諾するとともに,経営システムの供与とその指導援助を行い,これらの対価としてGCが一条工務店にロイヤリティを支払うこと,GCは一条工務店から資材を購入することなどが合意されているところ,これらの内容は,権利義務の主体が異なる点を除くと,従来のフランチャイズ契約書の文言と類似しているが,ロイヤリティは本件商標等の使用料の趣旨をも含むものとされている(もっとも,その計算方法は,従来と同様である。)ほか,GCの報告義務,守秘義務,終了後貸与されている各種マニュアルの返還義務などが定められ,また,契約終了時にGCと顧客との契約に基づいて工事中の物件のうち,引渡前のものの所有権が一条工務店に移転することなどが合意されている。
(ウ) 平成5年に締結されたフランチャイズ契約(契約番号19ないし21。乙19ないし21)
これらの契約は,一条工務店及び原告が契約の一方当事者となって,地場工務店であるGCとの間で締結されており,一条工務店及び原告が,本件商標等の使用を許諾するとともに,経営システムを供与し,これらの対価としてGCが一条工務店及び原告にロイヤリティを支払うこと,GCは一条工務店及び原告から資材を購入することなどが合意されているところ,これらの内容は,権利義務の主体が異なる点(一条工務店と原告とが区別されることなく,契約の一方当事者となっている。)を除くと,上記(イ)の契約の文言とほぼ同一であるが,契約が終了したときの顧客に対する契約履行責任については,一条工務店,原告及びGCが共に責任を果たすこととされている。
エ 一条グループから脱退したGC
なお,GC各社のうち,契約番号1のクリヤマ株式会社(以下「クリヤマ」という。)及び同12の一条工務店愛媛(現在は,株式会社未来工務店と商号変更している。以下「未来工務店」という。)は,現在,一条グループから離脱している。
(3) 原告とHRDとの間の本件譲渡契約
ア 1995年(平成7年)2月28日付けで,原告からHRDにノウハウ及びデータベースを譲渡した旨の「ノウハウ及びデータベース譲渡契約書」と題する契約書(以下「本件譲渡契約書」という。甲4の1・2)が存在し,Aがそれぞれの代表者として記名押印及び署名している。
イ その抜粋は,次のとおりである(甲は原告,乙はHRDを指す。)。
第1条(目的物1)
甲は,甲の設立当初より研究開発した在来工法の集大成を下記の要領でマニュアル化し,その真正な所有者であるが,今般,このマニュアル及びその運用に係る一切のノウハウの所有権を乙に譲渡し,乙は譲渡を受けたノウハウの真正な所有者となる。(詳細は別紙1を参照のこと)
(1) 設計マニュアル
(2) 施工マニュアル
(3) 営業マニュアル
(4) 業務マニュアル
第2条(目的物2)
甲は,甲が過去の科学実験等によって獲得し,蓄積した以下のデータベース等の真正な所有者であるが,今般,これらのデータベース等の所有権を乙に譲渡し,乙は譲渡を受けたデータベース等の真正な所有者となる。(詳細は別紙2参照のこと)
(1) データベース
(2) 上記(1)を使用した著作物
(3) 認定書類
第5条(引渡の条件)
1 甲は,当目的物の受け渡しをシンガポール国内の乙の指定する場所にて行うものとする。
2 本契約に基づき,第1条及び第2条に規定する目的物は西暦1995年2月28日24時をもって甲から乙に引き渡されるものとする。
第6条(対価及び決済)
1 甲は,第1条及び第2条に規定する目的物を金20億円にて乙に譲渡するものとする。対価の最終決定については,試用期間終了後1ヶ月以内に第7条に規定する対価の修正の有無を相互に確認する。
(以下略)
ウ 上記第1条で引用されている別紙1を整理したものが別表2,上記第2条で引用されている別紙2を図表化して整理したものが別表3である(以下,本件譲渡契約において目的物とされた別表2のノウハウと別表3のデータベースを併せて「本件ノウハウ等」という。)。
(4) 被告による課税処分
ア 原告は,本件譲渡契約によって譲渡対価とされた20億円を平成7年7月1日から平成8年6月30日までの事業年度(以下「平成8年6月期」という。)の収益に計上して,平成8年9月2日,確定申告をした。
これに対して,被告は,平成9年3月ころ,同期を調査対象最終年度とする税務調査を行った上,同年7月4日付けで,別表4の同日付け「更正処分等」欄記載のとおり,本件譲渡契約に係る上記譲渡対価が過少であるとして,適正な譲渡対価を31億2601万2066円とすることなどを内容とする法人税額等の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした(甲3。以下「本件先行処分」という。)。
イ これを受けて,原告は,平成8年11月1日にHRDから受領した18億円を本件譲渡契約の譲渡代金に係る未収金の回収とし,2億円を外国法人税に該当する租税公課として損金算入して,平成9年6月期の確定申告を行い,同様に,平成10年1月20日にHRDから受領した9億円を同未収金の回収とし,1億円を外国法人税に該当する租税公課として損金算入して,平成10年6月期の確定申告を行い,さらに,平成10年9月22日にHRDから受領した9000万円を同未収金の回収とし,1000万円を外国法人税に該当する租税公課として損金算入して,平成11年6月期の確定申告を行った(乙1ないし3。以下,上記の18億円,9億円及び9000万円の金員の授受を併せて「本件資金移動」という。)。
なお,被告は,原告の平成10年6月期及び平成11年6月期の各法人税について,平成11年11月26日付けで,別表4の同日付け「更正処分」欄記載のとおり,法人税額等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行っているが,これらの処分は,本件先行処分による処理を前提とするものであった。
ウ その後,被告は,平成11年10月,原告の平成11年6月期を調査対象最終年度として,東京国税局との連携調査を行い(以下「本件調査」という。),①平成8年6月期については,本件譲渡契約代金を収益計上した本件先行処分による処理を自ら否定して,同期に計上された本件ノウハウ等の譲渡収益を減算し,②平成9年6月期から平成11年6月期については,HRDから実際に入金された額を原告の収益とし,かつ,本件資金移動を無償による資産の譲受け(受贈益)であるとして,別表4の平成12年8月29日付け「更正処分等」欄記載のとおり,法人税額等の更正処分(以下,本件各事業年度についての更正処分を「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,本件各更正処分とこれに係る賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)をした(甲1の1ないし4)。
(5) 原告による不服申立てと本訴提起
原告は,平成8年6月期の上記減額更正処分及び本件各処分を不服として,国税通則法75条4項1号に基づき,平成12年10月5日,国税不服審判所長に対して審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成15年7月7日,平成8年6月期の減額更正処分についての審査請求を却下するとともに,本件各処分についての審査請求を棄却するとの裁決をし,そのころ,原告に通知した(甲2)。
そこで,原告は,平成15年10月1日,本件各処分(ただし,更正処分については,平成9年6月期は確定申告に係る税額を超える部分,平成10年6月期及び平成11年6月期については,平成11年11月26日付け各更正処分に基づいて納付すべき税額を超える部分)の取消しを求めて,本訴を提起した。
2 本件の争点
本件譲渡契約は仮装のものであり,これに基づく本件資金移動は,無償による資産の譲受けに係る収益(受贈益)に当たるか。具体的には,
(1) 本件譲渡契約において譲渡対象とされている本件ノウハウ等が,同契約締結時において,一条工務店に帰属しており,原告に帰属していない(被告の主張)か,原告に帰属していた(原告の主張)か。
(2) 本件譲渡契約に経済的合理性がない(被告の主張)か,ある(原告の主張)か。
それとの関連で,本件譲渡契約の仮装性を判断する上で,租税回避等の経済的動機が存在するとの主張立証をしないことが影響する(原告の主張)か,しない(被告の主張)か。
3 当事者の主張
(被告の主張)
本件譲渡契約締結時において,①原告は,本件ノウハウ等を保有しておらず,②HRDには,本件譲渡契約を締結すべき合理的な理由がないから,本件譲渡契約が実体が伴った真実の取引であったとは認められず,仮装のものというべきである。したがって,本件資金移動は,本件譲渡契約に基づく譲渡代金とは認められず,法人税法22条2項所定の無償による資産の譲受け(受贈益)に当たる。
(1) 本件ノウハウ等が一条工務店に帰属しており,原告に帰属していないこと
一般に,ノウハウの帰属を検討するに当たっては,問題となるノウハウの内容,その保有の趣旨・目的,ノウハウ形成過程における指揮・命令関係,その使用形態や関係者の意識等の諸般の事情を考慮して,これを決するのが相当である。
ア 本件各フランチャイズ契約におけるフランチャイザーは,一条工務店であって,原告ではないこと
(ア) フランチャイズ・システム
フランチャイズとは,ある事業者(フランチャイザー)が他の事業者(フランチャイジー)との間に契約を結び,自己の商標,サービス・マーク,トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識,及び経営のノウハウを用いて,同一のイメージの下に商品の販売その他の事業を行う権利を与え,一方,フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い,事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導及び援助の下に事業を行う両者の継続的関係をいう。
このようなフランチャイズ・システムの特徴を十分に発揮するには,一般公衆がフランチャイザーの商標やサインの掲げられているどのストアにいっても,均等の品質の商品やサービスが得られる必要があるから,ノウハウと商標等は,フランチャイズ・システムを成り立たせる重要な役割を果たしている。
したがって,そのような商標等とノウハウは,フランチャイザーが保有し,フランチャイジーに与えられるべきものである。
(イ) 一条グループにおけるフランチャイザーが一条工務店であること
上記のとおり,フランチャイズ・システムにおけるノウハウとは,フランチャイザーが保有し,フランチャイジーに与えられるものであるから,フランチャイジーの立場からすると,フランチャイザーは,フランチャイズ契約の契約主体がだれか,商標等の保有主体がだれか,ノウハウの提供がどのように行われているかなどの観点から把握されることになる。
しかるところ,一条グループにおけるフランチャイザーは,以下のとおり,一条工務店であることは明らかであり,それゆえ,本件ノウハウ等も,一条工務店に帰属するというべきである。
a 本件各フランチャイズ契約の契約主体は,別表1のとおり,原告設立前はもちろんのこと,原告設立後も一条工務店がその名義人となっており,また,GC各社に使用が許諾されている本件商標についても,一条工務店がそのすべての商標権を有している。しかも,契約番号10ないし12の各契約を除き,一条工務店がノウハウである経営システムを提供する主体とされており,その対価であるロイヤリティも,一条工務店(ないし一条工務店及び原告)に支払うこととされている。
b もっとも,本件各フランチャイズ契約には,契約番号10ないし12の契約のように,GC,原告及び一条工務店を契約主体とし,かつ,ノウハウの供与者を原告とする内容の契約も存在する。しかしながら,その契約当事者の一つである未来工務店(契約番号12)の代表取締役であったF(以下「F」という。)は,経営システムは,実際には,すべて一条工務店から供与されており,本件商標等や資材の購入も一条工務店からであり,ロイヤリティの支払については一条工務店からの指示どおり原告に振込んでいた旨供述しており,一条工務店がノウハウを提供し,ロイヤリティの支払先も指示するという形で主体的に関与しているのが実態である。
c また,未来工務店に加えて,複数のGC各社が,一条工務店がフランチャイザーであり,経営システムを保有し,教育指導していたと認識している。
d しかも,本件ノウハウ等を構成している各種マニュアル・カタログ類(①「特注カタログ百年」,「特注カタログSAISON」のカタログ,②「設計事務所標準マニュアル書」,③「安全施工基準書」)は,一条工務店の名義で作成されている。
(ウ) 原告の主張に対する反論
a 口頭合意について
原告は,原告の設立前に締結されたフランチャイズ契約(契約番号1ないし9)については,原告の設立時に,原告とGC9社との間で,口頭によりノウハウである経営システムの供与等を内容とする契約が締結されたものであり,実際にも,原告の設立後に締結されたフランチャイズ契約(契約番号10ないし12)では,経営システムの提供主体が原告であることが明記された契約書が存在する旨主張する。
しかしながら,このような従前の契約関係の変更,とりわけ,GC各社にとって非常に重要な経営システムの供与主体の変更を招来する変更を,口頭合意をもって済ませるというのは,現代社会における合理的経済人が通常採る行動としてはおよそ想定し難いし,原告の設立後も,経営システムの提供主体及び本件商標権等の使用許諾者を一条工務店とするフランチャイズ契約が締結されている(契約番号10ないし12を除く。)こととも整合しない。
b 歴史的事実確認書について
次に,原告は,契約番号10ないし12を除くフランチャイズ契約の当事者であるGC各社との関係では,経営システムの提供主体を原告とすることについて,口頭での合意がなされた旨主張し,それを裏付ける証拠として歴史的事実確認書と題する書面(甲57の1ないし9)を提出する。
しかしながら,歴史的事実確認書は,本件譲渡契約の締結後,原告に対して税務調査が行われる可能性が高い旨の顧問税理士の指摘が契機となり,税務対策の目的をもって作出されたものである上,その作成の依頼文書(乙17)には,「契約書のスタイルが前契約とは変わっておりますが,基本精神及び内容は前契約のものと何ら変わっておりません」と記載されていて,原告とGC各社間において,原告主張のような口頭合意の存在は全く意識されていなかったことに照らすと,原告と上記GC各社との契約関係を基礎づける証拠とはいえない。
c 原告が契約当事者とされなかった理由について
原告は,平成元年以降のフランチャイズ契約において,原告が名を連ねていないのは,三者間契約にすると契約関係が複雑となる上,GCが一条グループを脱退した際に,GCが受注した住宅の施工を巡って紛争が存在していると,迅速な引継ぎができなくなるおそれがあるためである旨主張する。
しかしながら,GC各社との経営システムの供与契約と,対顧客との住宅施工の引継ぎに関する契約とは別個の問題であるから,上記の事情は,平成元年以降のフランチャイズ契約において,原告が契約当事者とされていないことの合理的理由とはならないことが明らかである。
d ロイヤリティの支払について
また,原告は,原告設立後7年8か月もの長期にわたり,GC各社及び一条工務店のロイヤリティがすべて原告に支払われている旨主張する。
しかしながら,GC各社による原告へのロイヤリティの支払は,単に一条工務店の指示に従って支払先が変更されたものにすぎないから,原告の主張を裏付けるものではない。
e 商標権の使用許諾の対価支払について
さらに,原告は,本件各フランチャイズ契約において,本件商標権等の使用許諾がロイヤリティの対価となっていないことを挙げ,一条グループにおけるフランチャイザーの確定に当たり,本件商標権等の帰属関係を重視するのは正当ではない旨主張する。
しかしながら,フランチャイズにおける商標の使用許諾は,統一したトレードイメージを付与して事業展開を容易ならしめることにあるから,そこでは,経営システムの供与と商標権等の使用許諾がパッケージとなって,フランチャイジーに提供されるという関係にあればよく,商標権等の使用許諾がロイヤリティの対価を構成しているかどうかは本質的問題ではないから,商標の使用許諾がロイヤリティの対価の構成要素となっているか否かは,被告主張のフランチャイズ理論の妥当性を左右するものではない。
ちなみに,GC各社の多くが,その商号に「一条工務店」の名称を冠した企業名を採用しており,本件各フランチャイズ契約(契約番号13以降)上も,本件商標権等の使用がロイヤリティの対価の構成要素とされており,一条工務店ブランドの浸透とともに,本件商標権の使用許諾がロイヤリティ算定の重要な要素となっていったことが看取できる。
イ 本件ノウハウ等の研究開発の状況からみて,原告が本件ノウハウ等の帰属者ではないこと
(ア) ノウハウの帰属者判定の要素
原告は,一条グループにおける経営システムの開発研究スタッフが原告に在籍していたことや,その研究開発費用を原告が負担していたことを理由に,原告が本件ノウハウ等の帰属者である旨主張する。
しかし,①だれがノウハウの開発者と評価するかは,その開発業務に従事した在籍関係や研究開発費用だけをみて決められるものではないし,②仮に,ある一定の者が開発主体であると評価できたとしても,その成果物(ノウハウ)が,当然に開発主体に帰属するわけではない。例えば,開発が派遣会社ないし下請け業者の社員によって行われたときに,その開発主体がだれかは,在籍関係や給与関係のみによって決定することはできないし,派遣会社ないし下請け業者が開発主体と評価し得る場合であっても,派遣会社と派遣先企業ないしは元請け業者と下請け業者との間で,その成果物の最終的な帰属先を開発主体ではない派遣先企業や元請け業者とする旨の合意がされることも十分あり得る。
(イ) 原告の研究開発の状況
a 研究者の在籍状況
まず,原告は,その研究開発活動の柱は,モデルハウスの設計等,基礎研究,地盤調査,原価管理及び営業方法の指導等であり,これらを原告代表者のAやその従業員であるE,G(以下「G」という。),H(以下「H」という。)らが担当していたと主張する。
しかしながら,Aは,原告の役員であるとともに,一条工務店の代表者でもあるから,Aが行ったとされる研究開発業務も,外形的には何ら峻別し得るものではなく,原告に在籍していた当時に行ったと断定する根拠に乏しい。また,G,Hについては,一条工務店の従業員の肩書をもって,成果である各種開発技術の対外的な発表を行っており,施主に対しても一条工務店の従業員として対応している上,同人らの勤務地は一条工務店の管理センターとなっている。
b 一条工務店による管理支配状況
上記のような不自然さは,次のような事情を併せて検討すれば,容易に理解できるものとなる。
すなわち,①原告に対する税務調査の際に,被告担当者と実際に面接対応したのは,原告の税理士であるIのほかは,一条工務店経理部副長のJと同経理部Kであったこと,②原告の社屋は,3階建てで,1階の事務室は一条工務店の事務所であり,ほかに事務室はないこと,③原告の帳簿書類は,浜松市にある一条工務店の管理センターにおいて保管されていたこと,④原告の経理処理は,一条工務店の管理センターの経理担当者によって行われており,そのチーフが上記のKであること,⑤帳簿調査等で把握した原告従業員の住所はそのほとんどが浜松市であり,そのため,原告の従業員は一条工務店の管理センターに勤務していること,⑥原告からGC各社あてに郵送された封筒及びFAX連絡文書は,差出人住所として一条工務店管理センターの住所が記載されており,かつ,一条工務店本部企画室名で作成されていること,さらに,⑦一条工務店からGC各社あてに発出された日常業務マニュアルによれば,原告の在籍従業員と主張される従業員が,一条工務店の業務の中に組み込まれ,対外的にも一条工務店の従業員として表示されていること,これらの事情を総合すれば,開発業務に従事した役員・従業員が原告に在籍して
いたという事実があるからといって,一条工務店との密接な関連性を否定することはできず,むしろ,これら役員・従業員に対して一条工務店の管理支配が及んでいたことが示されているから,何ら原告の主張を裏付けるものとはならない。
c 開発研究費の負担状況
本件譲渡契約締結前の平成7年2月期における一条工務店の研究開発費は,39億9600万円余にも上っている。これに対し,同期に対応する原告のロイヤリティ収入は,約31億円程度(原告の平成6年6月期及び平成7年6月期のロイヤリティ収入を月数按分して平成6年3月から平成7年2月までのロイヤリティ収入を算定したもの)であり,このうち約10億円程度は,GC各社からのロイヤリティ収入であることからすると,差引約19億円(39億9600万円-(約31億円-約10億円))の金額は,一条工務店が自ら投下した研究開発費と評価することができ,この点からも,研究開発を主体的に行っていたのは,一条工務店であることが明らかである。
これに対し,原告の研究開発費は,平成5年6月期が約400万円,平成6年6月期が約250万円,平成7年6月期はわずかに4000円にすぎない。この点につき,原告は,原告が経営システムの開発につき,多額の開発研究費を投じていた旨主張するが,その内実は人件費が大半を占めるところ,原告の事業内容には,住宅設備機器(商品)の輸入販売(いわゆる卸売販売)があって,この業務がかなりのウエイトを占めている。こうした業務には,受注・発注業務,商品の受払及び決済代金の管理等,人件費を含む多くのコスト(販売管理費)を要することが容易に想定し得るところであり,原告における人件費がすべて研究開発費に当たるとは到底いえない。
仮に,原告の主張するとおり,原告における人件費がすべて研究開発費であるとしても,例えば,原告の平成5年6月期において,研究開発費は8259万6000円(研究開発費86万5000円,現場研究費304万9000円及び人件費7868万2000円の合計額)であるのに対し,ロイヤリティ収入は25億8430万5000円であることからすれば,ロイヤリティ収入に対する研究開発費は,極めて低額であるといわざるを得ない。
そして,本件譲渡契約締結後,原告の売上額が著しく減少していることからすると,原告は,その収益のかなりの部分を一条工務店及びGC各社からのロイヤリティ収入に依存していたものと推察されるが,そのロイヤリティの支払は,GC各社と原告との契約に基づくものではなく,一条工務店の一方的な指示に基づいて行われていたことに照らせば,結局,同契約締結前の原告の収益の多くは,一条工務店から原告に投入された資金であるということができる。
d 特許権等の帰属
ノウハウのうち,特許権等の対象となり得るものは,非常に高い価値を有しているから,仮に原告がその開発主体であるならば,従業者発明として,就業規則等により,原告に帰属して然るべきところ,本件では,原告の従業員による発明が,いずれも一条工務店名義で特許・実用新案登録出願されており(以下,登録後の権利を「本件特許権等」という。),一条工務店と原告間では,特許発明等については,開発体制いかんにかかわらず,これを一条工務店に権利帰属させるとの処理がされている。
この点につき,原告は,GC各社及び一条工務店は原告の研究開発活動による成果物を経営システムとして提供されており,その対価としてロイヤリティを支払っているのであるから,経営システムの一部を構成する特許を受ける権利を原告から譲り受けて,専ら営業上の理由から,特許登録等の出願をすることができるのは当然である旨主張する。
しかしながら,昭和62年契約の条項には,①対価の構成要素の一つとして「開発費」が明示されていること(経費分との位置づけが明示されており,他のGC各社とのロイヤリティ条項と明らかに異なる。),②本件各フランチャイズ契約におけるロイヤリティ条項と異なり,契約終了後の守秘義務の定めや,マニュアル類の返還といった定めがないこと(ノウハウが一条工務店に移転するからこそ,契約が終了しても,守秘義務やマニュアル類の返還義務が生じないと解されること)にかんがみれば,ここにいうロイヤリティの実態は,原告の開発費用の負担及び知的財産権承継の対価としての意味を有するものというべきである。
以上によれば,本件特許権等については,仮に原告が開発主体であるとしても,少なくとも,原告から一条工務店に対する黙示の権利承継があったというべきである。
そして,一条工務店が取得した本件特許権等は,本件譲渡契約における譲渡の対象とはされていないが,本件ノウハウ等と別個独立のものではなく,これと相互に密接に関連している。例えば,「木材の等級判別装置」に係る特許出願(乙13の1)が,本件譲渡契約の対象物であるデータベース「梁桁材の簡易グレーディング」と不可分の関係にあることは,論文(乙11の29)及び研究開発事業に係る報告書(乙15)の記載内容からも明らかであるところ,上記データベースについて,特許・実用新案登録出願がされたノウハウ部分と,出願には至らなかったノウハウ部分とが切り離されて開示の対象となるとは考え難い。したがって,特許・実用新案登録出願にまで至らなかったノウハウについても,原告ではなく,一条工務店に帰属するものと認めるのが相当である。
e データーベース等の発表名義人
本件ノウハウ等のうち,データベースを構成する別表3の「論文の題名」欄記載の各論文のかなりは,同表の「所属及び発表者等」欄記載のとおり,「一条工務店」という肩書が付されたGないしはHが発表者の一人となっている。このことは,本件特許権等と同様に,これらのデータの保有者が一条工務店であると考えられていたことを示している。
また,平成3,4年ころ,一条工務店が「第5回木質材料・木質構造技術研究基金賞(杉山英男賞)」を受賞したことにつき,「ティンバーエンジニアリングニューズNo18(乙36)」に一条工務店代表者のAの挨拶文が掲載されているが,そこでは,一条工務店が平成3年の木造3階建ての実大実験などの研究開発の主体であり,大学との共同研究は一条工務店の指揮監督の下で行っていることが明白に述べられていること,同様に,別表3の番号28の「流通過程におけるスギ柱材のヤング係数の変動」に関する論文の基となった,一条工務店から愛媛県森林組合連合会会長あての平成2年10月15日付けお願い文書(乙37)には,一条工務店の指揮の下に行われる調査・研究についての協力依頼の件が記載されていることなども,これらのデータの保有者が一条工務店であることを裏付けている。
f 一条工務店から原告への経営システムの譲渡について
なお,原告は,原告設立時において,それまで形成されていた一条グループのノウハウが,陳腐化し無価値となったことから,一条工務店から原告に無償譲渡された旨主張する。
しかしながら,ノウハウが陳腐化したからといって,公知になったものでない以上,全くの無価値となったわけではなく,一条工務店及びGC各社から,平成5年6月期約26億円及び平成6年6月期約35億円にも上るロイヤリティが得られる収益の源泉であったノウハウを無償で譲渡させ,以後,原告が一条工務店及びGC各社から多額なロイヤリティを取得するというのは,一般的に認め難い行為である。
(ウ) 小括
以上によれば,一条工務店は,原告の従業員を支配し,その影響の下に原告の従業員にノウハウ開発業務に従事させているということができるから,本件各フランチャイズ契約における経営システムの開発主体は一条工務店であり,したがって,本件ノウハウ等も一条工務店に帰属するとみるのが相当である。
ウ 本件先行処分等との整合性について
原告は,従前の税務調査の際,課税庁は,原告が「経営システム」を研究開発し,GC各社及び一条工務店に提供していることを認め,これらから原告に対するロイヤリティの支払を税務上是認し,さらに,平成8年6月期を調査対象最終年度とする税務調査においては,本件譲渡契約による譲渡対価が過少であることを理由に本件先行処分を行ったにもかかわらず,本件各処分では,原告がHRDに本件ノウハウ等を譲渡したこと自体が架空の取引であると認定していることを指摘し,このように矛盾した事実関係に立つ課税処分は,明らかに違法である旨主張する。
しかしながら,課税庁は,従前の税務調査においては,GC各社に対する経営システムの供与等に関する実態を十分把握していなかったが,その後の東京国税局との連携調査の結果,上記経営システムを保有し,かつ,これをGC各社に供与している主体が,原告ではなく一条工務店であることが明らかとなったのである。したがって,原告が主張するような本件先行処分等の経緯が,本件各処分の適法性を左右するものではない。
(2) HRDに譲渡すべき合理的理由の欠如
ア ノウハウの性質とその経済的価値
そもそも,ノウハウとは,事業上利用可能な技術上,商業上その他の知識・経験に基づく情報であるから,それが財産的価値を有するのは,それが秘密とされる場合に限られる。したがって,それが公知となれば価値を喪失するし(絶対的秘密性の喪失),また,一部の者に知られた場合でも,その者との関係では秘密ではなくなるばかりか(その限りで,ノウハウの価値は低減する。),その者が問題となるノウハウを保持し,しかも,これを自由に用いることができる状況にある場合には(例えば,ライセンス契約上で設定される守秘義務や当該ライセンス契約終了後のノウハウの返還義務などの制約がない場合),特段の事情がない限り,あえてそのような者同士の間で,かかるノウハウを取引すべき理由はない。
イ 本件ノウハウ等譲渡の必要性の欠如
かかる見地から,本件についてみると,①昭和62年契約の内容に照らせば,一条工務店は,既に本件ノウハウ等を自由に利用し得る地位にあったこと,②HRD,一条工務店及び原告の3社は,いずれも密接な資金関係にあり,また,役員構成も共通するところが多いこと(例えば,Aは一条工務店,HRD及び原告の役員であり,また,Eは一条工務店及びHRDの役員であり,さらに,原告の主張によれば,経営システムの開発従事者とされるA,EがHRDに在籍している。)などの事情を認めることができる。
また,昭和62年契約には,契約が解除された場合ないし終了した場合の定めが何ら存在しないため,一条工務店は,その契約の解約後も,その当時まで形成されていた経営ノウハウを自由に用いることができ,同社が保有する本件ノウハウ等を含むマニュアル類をHRDに付与しても,何らの問題も生じないはずである。ところで,本件譲渡契約締結日の翌日付けで,HRDと一条工務店との間に,前者が後者に経営システムを提供することを内容とする「ノウハウ使用許諾契約(以下「新契約」という。)書」が作成されており,本件譲渡契約は新契約の準備行為としてなされたものと考えられるところ,上記のとおり,経営システムの提供を受ける当の一条工務店においては,既に本件ノウハウ等を自由に利用し得る地位にあったのである。
したがって,これらの事情を総合的に考慮すれば,HRDが原告から本件ノウハウ等を取得し,これを一条工務店へ供与する必要は全くなかったというべきである。
(3) 仮装についての経済的動機
原告は,本件譲渡契約によって,原告も一条工務店も何ら税務上のメリットを得るわけでなく,租税回避あるいは脱税目的で,本件ノウハウ等が真実は一条工務店に帰属していたにもかかわらず,これが原告に帰属していたかのような外形を作出すべき経済的動機は何ら存在しない旨主張する。
しかしながら,被告は,本件が租税回避スキームであるなどと主張しているわけではなく,本件の事実関係に照らせば,原告が譲渡の対象となる権利・利益を保有しておらず,また,HRDが本件ノウハウ等を譲り受ける経済的合理性が全くなかったことから,本件譲渡契約が真実のものとは認められないと主張しているのであって,租税回避スキームでなければ,税法上,仮装取引といえないものでないことは自明である。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
(1) 本件ノウハウ等が原告に帰属していたこと
ア 原告がフランチャイザーであること
(ア) フランチャイズ・システムの多様性
被告は,フランチャイズ・システムにおいて,フランチャイザーからフランチャイジーに提供されるのは,ノウハウと商標等であり,ロイヤリティは,ノウハウと商標等の使用対価である旨主張するが,現実のビジネスは,必ずしも法律実務書に記載されたとおりではなく,各々のフランチャイズ・システムにはそれぞれの特徴があり,その在り方が,そのような定義によって制約を受けることなどあり得ない。
(イ) 本件各フランチャイズ契約におけるフランチャイザーが原告であること
以下のとおり,一条グループにおける経営システムの供与者は原告であり,本件各フランチャイズ契約におけるフランチャイザーは原告である。
a フランチャイズ契約書上の経営システムの供与者について
原告設立前に,一条工務店とフランチャイズ契約を締結したGC各社(契約番号1ないし9)は,原告設立後,口頭契約によって(ただし,原告の顧問税理士から契約書の不備を指摘されたため,平成8年11月7日付けで,GC各社との間で,原告との間で経営システムの使用許諾契約を締結していたとの内容の歴史的事実確認書と題する契約書の作成が事後的に行われている。),原告との間でフランチャイズ契約が成立している(ただし,一条工務店千葉とは,平成5年12月15日付けで,経営システムの提供主体が原告である旨の契約書を取り交わしている。)。
次に,原告設立後に締結されたフランチャイズ契約のうち,契約番号10ないし12については,当初から,明文で,経営システムの提供主体が原告であることが定められている。
さらに,契約番号13ないし18については,経営システムの提供主体が一条工務店とされているが,これは,一条工務店,原告及びGC各社の三者間契約にすると,契約関係が複雑になり,GCが一条グループを脱退するときに,その時点でGCが受注していた住宅の施工を巡って紛争になった場合に,受注した住宅の迅速な引継ぎ等ができなくなるおそれがあったことによるものであって,上記のような契約書の記載は合理的である(原告とGCとの二者間契約であれば,建設業の許可を受けていない原告が施工を引き継げず,原告の存在を知らない顧客に対する説明を要する。)。しかも,契約番号13の当事者である一条工務店福岡は,平成5年(月日不詳)付け契約書でロイヤリティの提供主体及び支払先が原告とされているのである。
b GC各社に対する経営システムの提供形態
原告は,本件各フランチャイズ契約に基づき,モデルハウスの設計図面や施行方法,当該モデルハウス等に関する商品知識などの経営システムの伝達を,これからGCがモデルハウスを建て(替え)ようとしている住宅展示場に赴いて,GC各社の施工担当者や営業社員に対し,直接口頭で行っていた。もっとも,経営システムの伝達を,連絡票を作成して,一条工務店を通じて行う方式が採られることもあったが,これは,原告が一条グループにおける専門的な研究開発部門という位置づけで設立されたことから,その成果である経営システムの伝達等の事務的業務は,従来どおり,一条工務店が行うのが合理的と考えられたからである。
c GC各社によるロイヤリティ支払
GC各社は,本件各フランチャイズ契約に基づいて,一条グループに加入した時点から平成7年2月までの長期間にわたり,原告から提供を受けた本件ノウハウ等の代償として,原告にロイヤリティを支払い続けている。このことに照らせば,被告主張のようなフランチャイズ契約の理論が,「フランチャイザーが一条工務店であり,経営システムも一条工務店に帰属する」旨の被告主張の根拠とはなり得ない。
(ウ) 被告の主張に対する反論
a 口頭合意について
被告は,原告設立前に締結されたフランチャイズ契約について,原告設立後に契約当事者という重要事項を変更するのに,口頭合意をもって済ませるのは合理的経済人として想定し難い旨主張する。
しかしながら,原告とGC各社との間のフランチャイズ契約の内容は,従来の一条工務店との間の契約と同様であったことから,便宜的に契約書を作成していないものの,上記のとおり,GC各社は,7年8か月もの長期間,「経営システム」の対価として原告にロイヤリティを支払っていたのであるから,原告との間に経営システムの使用許諾契約が成立していたと認められる。
b 歴史的事実確認書について
被告は,歴史的事実確認書は,税務対策上作成されたもので,原告とGC各社との間の使用許諾の合意を基礎づけるものでない旨主張する。
しかしながら,同書面が作成されたのは,本件の税務調査が開始された平成11年8月よりも約3年も前である平成8年11月7日であり,かつ,文書化は,原告の顧問税理士から契約書の不備を指摘されたことが契機となって行われたものにすぎない。また,GC各社は,一条工務店や原告から独立した経営者による各地の地場企業であり,一条工務店によるフランチャイズ展開当初,各地においては,一条工務店よりも著名で力のある企業であった(そのため,フランチャイズ加入後も,クリヤマや下津井電鉄,タカノホームなどのGC各社は,一条工務店の保有する本件商標を使用しなかった。)ところ,そのGC各社が,歴史的事実確認書によって,原告設立から本件譲渡契約を締結するまでの間(以下「住研時代」という。)においては原告との間で経営システムの使用許諾契約を締結していた旨確認し,かつ,7年8か月もの長期間にわたって,経営システムの対価として原告にロイヤリティを支払っていたことに照らせば,単に税務対策上の理由で作成されたものではないことが明らかである。
なお,ご案内には,「当文書はご一読後必ず廃却して下さい。」と記載されていたが,これは,10周年記念賞与を一条グループの各従業員に支給する案が検討されていたものの,未確定であったため,書類送付のご案内がGC各社の一般従業員の目に触れないようにする必要があったこと,しかも,同ご案内には,HRDとGC各社との間の契約書と記載されているとおり,HRDの表記が見られたところ,HRDの存在を一般従業員に知られないようにする必要があったことによるものである。
そして,原告とGC各社との間でフランチャイズ契約が成立していたからこそ,その内容を確認する趣旨の契約書の作成を,原告や一条工務店から独立した存在であるGC各社に対し,簡便な方法で依頼することができたのであり,被告の上記主張は失当である。
c 平成元年以