H17. 9.30 札幌地方裁判所 平成16年(ワ)第160号 損害賠償請求事件

事件当時高校1年生であった男子生徒が,平成13年6月14日,他校の1年生男子生徒から暴行を受け,同月15日に死亡するに至ったことにつき,原告ら(亡くなった男子生徒の両親及び姉)の,直接の加害行為を行った男子生徒とその両親並びにその発端となる行為を行ったなどとする女子生徒とその両親に対する不法行為に基づく損害賠償請求について,亡くなった男子生徒の両親の,加害行為を行った男子生徒に対する請求だけを認容し,その他の請求を棄却した事案



主       文
1 被告B1は,原告A1に対し,3962万2717円及び原告A2に対し,3760万4610円並びにそれぞれに対し,平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告A1及び原告A2のその余の各請求並びに原告A3の各請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用のうち,原告A3と被告らとの間に生じたものは,同原告の負担とし,その余の原告らと被告B1との間に生じたものは,これを4分し,その1を同原告らの,その余を同被告の各負担とし,同原告らとその余の被告らとの間に生じたものは,同原告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告B1,被告B2及び被告B3(この3名を併せて「被告Bら」という。)は,原告A1に対し,連帯して5357万1901円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を(ただし,それぞれ535万7190円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で,被告C1と連帯して)支払え。
2 被告Bらは,原告A2に対し,連帯して5170万4893円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を(ただし,それぞれ517万0489円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で,被告C1と連帯して)支払え。
3 被告Bらは,原告A3に対し,連帯して550万円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を(ただし,それぞれ55万円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で,被告C1と連帯して)支払え。
4 被告C1は,被告Bらと連帯して,原告A1に対し,535万7190円,原告A2に対し,517万0489円,原告A3に対し,55万円及びこれらに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告C2及び被告C3は,原告らそれぞれに対し,連帯して110万円及びこれに対する平成13年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告A1及び原告A2の子であり,原告A3の弟である亡Lが,平成13年6月14日(以下,平成13年については月日のみを,平成13年6月については日のみを記載することがある。),被告B1から暴行を受け,15日に死亡するに至ったこと(以下「本件事件」という。)につき,原告らが,直接の加害行為を行った被告B1とその両親である被告B2及び被告B3並びにその発端となる行為を行ったなどとする被告C1とその両親である被告C2及び被告C3に対し,それぞれ不法行為に基づく損害賠償等を請求した事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 当事者等
ア 亡L(昭和60年6月26日生まれの男性)は,本件事件当時,15歳であり,D高等学校(以下「D高」という。)の1年生であった。
  原告A1と原告A2は,亡Lの両親であり,原告A3は,実姉である。
   イ 被告B1は,本件事件当時,15歳であり,A学園の1年生であった(乙イ4)。
被告B2と被告B3は,被告B1の両親である。
ウ 被告C1は,本件事件当時,15歳であり,D高の1年生であった。
 被告C2と被告C3は,被告C1の両親である(以下,被告C1,被告C2及び被告C3を併せて「被告Cら」という。)。
エ 亡Lと被告C1は,平成13年6月9日にD高で開かれた運動会に応援団とチアガールとして参加し,10日に札幌市b区にある施設で開かれた打ち上げ会にも参加したが,クラスが異なり,本件事件に至るまで被告C1は亡Lの氏名も知らなかった。この打ち上げ会の際,亡Lと被告C1が,短時間,同じベッドに入るという出来事があった(乙ロ1)。
オ 被告B1と被告C1は,中学生時の同級生であって,本件事件当時,交際しており,性的な関係もあった(乙イ8,被告C1)。
(2) 本件事件の概要
 被告B1は,14日午後9時30分ころ,札幌市c区甲d条e丁目a番所在のK公園交通コーナーの芝生において,亡Lの顔面を手拳で殴打して転倒させた。このため,亡Lは,後頭部を芝生とサイクリングロードとの境界部にあった高さ30センチメートル程度の石垣にぶつけ,硬膜下血腫,脳挫傷,外傷性くも膜下血腫,右側頭部骨折の傷害を負い,15日午後2時1分ころ,札幌市中央区のC病院において,外傷性くも膜下出血により死亡した。(乙イ16,32の1,乙イ34の1,乙イ39)
(3) 少年審判等
 被告B1は,15日午前1時35分,傷害罪で緊急逮捕されたが,亡Lの死亡後,被疑事実が傷害致死罪に変更され,7月27日,札幌家庭裁判所の少年審判において中等少年院送致の決定を受けた。
 被告B1は,平成15年5月,少年院を仮退院した。
2 争点及び主張
(1) 争点1・本件事件の具体的態様等
(原告らの主張)
ア 被告B1は,平成13年6月10日,被告C1からの電話で男子(生徒)と「寝た」あるいは「一緒の布団に入った」という言葉を聞き,その男子に対し,暴力による制裁を加えようと考えた。
 その後,被告B1は,「寝た」男を捜し,それが,亡Lであることを確信し,亡Lと「タイマンをはる(1対1のけんかをする)」ことを決心した。
 被告B1は,亡Lを呼び出し,タイマンをはることを求めたが,亡Lは同意しなかった。しかし,被告B1は,亡Lに対し,被告C1との間でどのようなことがあったかなどの事実関係を確かめることもなく,なおタイマンをすることを強要して,本件事件に至った。
 このように,本件事件は,けんかではなく,一方的リンチである。
イ 本件事件の際,被告B1は,亡Lに対し,K公園の交通コーナー内芝生上において,全く反撃もせず,抵抗もしない亡Lに対し,一方的に暴行を加えた。
(被告Bらの主張)
ア 被告B1は,けんかを行う意向を有していたが,K公園において亡Lとさらに協議の上,亡Lがこれを拒絶するのであれば中止する予定であった。被告B1は,亡Lが,被告B1との会話でけんかに応じる意思を有していることを確認したのでけんかを開始した。
イ 亡Lは,このけんかの際,被告B1の腹部に突進したり,被告B1に馬乗りになられたときに,被告B1の股間,脚部,腹部を蹴るなどした。このように被告B1は,無抵抗の亡Lに一方的に暴行を加えたわけではない。
(2) 争点2・被告Bらの責任
(原告らの主張)
ア 被告B1の責任
被告B1は,本件事件当時15歳であったから,自己の責任を弁識する能力を有しており,民法709条により,本件事件により生じた損害を賠償する責任がある。
 イ 被告B2及び被告B3の責任
(ア) 監督義務違反
 被告B2及び被告B3は,被告B1の親権者であり,民法820条により,法定の監督義務者として,被告B1が,第三者の生命,身体又は財産を侵害しないように生活全般にわたって指導監督しながら養育する高度の注意義務を負っている。
 被告B1が本件事件を発生させた動機は,極めて幼稚で自己中心的である。加えて,被告B1は,暴力を肯定する価値観を身につけた粗暴な性格の持ち主であり,また,窃盗の前歴を有し,不良グループとの付き合いもあって,基本的な遵法精神に欠けるところが顕著であった。さらに,被告B1の本件事件における計画的な行動,暴行態様及びタイマンを肯定する価値観などから見ると,本件事件が被告B1にとって初めての暴行事件とは考えられず,被告B2及び被告B3は,被告B1の問題行動を察知していたか,仮に察知していなくても容易に知り得た。
 したがって,被告B2及び被告B3は,被告B1が本件事件のように,他人に危害を加えるような行動に出ることの予見が可能であり,被告B1の粗暴性や遵法精神欠如に注意を払うべき具体的注意義務が発生していた。しかし,被告B2及び被告B3は,同注意義務を怠り,被告B1は,本件事件を起こした。
 よって,被告B2及び被告B3の過失と亡Lの死との間には相当因果関係があるから,被告B2及び被告B3には,民法709条,719条1項により,本件事件により生じた損害を賠償する責任がある。
(イ) 併存的債務引受
 被告B2及び被告B3は,本件事件後,原告らに対し,手紙で「B1の犯した罪は親の責任であります。誠に申し訳ありません。」「これから家庭裁判所で下される審判を厳粛に受け止め,その措置を全うしていきますとともにできる限りの償いをさせていただきたいと思っております。」と述べたり,被告B3は,捜査段階の供述調書で「主人と2人で土下座をして謝ったのですが,Aさんにしてみたらゆるされることではなく,一生かかっても償っていきたい」「どのようにすれば少しでも遺族の方の心の悲しみがやわらぐのか,家族で,背負っていかなければならないことと考えております。」等と述べた。すなわち,親の監督義務違反による不法行為責任が認められないような場合であっても,親ならば,「子供の代わりに,親である自分達が被害弁償をするので許してほしい」と考え,誠心誠意の謝罪をするはずであって,そのような気持ちが前記の手紙や供述調書の中で原告らに表明された。
 これを法律的に考察すると,被告B1の負っている損害賠償債務を,被告B2及び被告B3が併存的に債務引受をしたと考えることができ,原告らが本件訴訟を提起したことが,受益の意思表示と考えることができる。
 よって,被告B2及び被告B3は,併存的債務引受に基づき,原告らの後記損害を賠償する責任がある。
(被告Bらの主張)
ア 被告B1の責任
 被告B1が損害賠償責任を負うことは認める。
イ 被告B2及び被告B3の責任
  原告らの主張は,いずれも争う。
(ア) 監督義務違反
   被告B1には,非行の徴候は見られず,非行を助長するような家庭環境下にもなかったため,被告B1に本件事件のような傷害致死事件を発生させる具体的危険性は存在しなかった。したがって,本件事件が発生する以前に,被告B2及び被告B3は,被告B1がこのような傷害致死事件を惹起することを予見できなかった。
(イ) 併存的債務引受
 債務の引受あるいは債務の保証のための申込みといえるには,引受人たる申込者が,当該債務の性質と内容を十分かつ正確に理解した上で,これと同一内容の債務を債務者として負担することを内容とする明確かつ確定的な意思の表示があったとみなされる行為をすることが必要である。
  原告らが主張する被告B2及び被告B3の言動は,いずれも親としての道義的責任を感じた同被告らが,原告らに対して誠意をもって対応する旨を述べた謝罪の辞にすぎず,子である被告B1の民事上の損害賠償債務を被告B1と重畳的に引き受ける旨の意思表示ではない。被告B2及び被告B3は,当時,本件事件の全容を把握しておらず,損害賠償債務の性質や内容を理解していなかったから,当該債務を引き受ける旨の確定的な意思表示をできる状況下にもなかった。
(3) 争点3・被告Cらの責任
(原告らの主張)
ア 被告C1の責任
(ア) 先行行為に基づく結果防止義務違反
     被告C1には,先行行為に基づく結果防止義務があるが,その義務を怠り,本件事件を発生させた。
     すなわち,被告C1は,10日夜11時ころの電話で,打ち上げ会の様子を尋ねる被告B1に対し,「男の人と同じ布団で寝た」旨告げ,さらに11日,被告B1から,「誰かと寝たんでしょ」「男とでしょ」と聞かれ,その雰囲気から被告B1が誤解していることを察知しながら,誤解を解こうとしなかった。また,被告C1は,被告B1が嫉妬深い性格であることを熟知し,被告B1がD高に通学する同級生を通じて被告C1と寝たと誤解している「マック」と呼ばれる男(亡L)を捜し回りタイマンをはろうとしていることを認識しており,「マック」の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあることを予見できた。
     したがって,被告C1には,遅くとも14日には,被告B1の誤解を解消し,亡Lの生命又は身体に対する侵害のおそれを回避するための手段を講じるべき作為義務が発生していたのに,被告C1は,結果回避に向けて何らの行動もとらず,被告B1のなすがままに任せた。
     被告C1の行為は,本件事件発生の決定的要因であるから,被告C1は,その寄与度に応じて亡Lの死亡結果に対する責任を負う。
   (イ) 説明義務違反
 被告C1は,前記のようにその言動が本件の決定的な要因であったのだから,信義則上,原告らに対し,本件の経緯を説明する義務を負う。それにもかかわらず,被告Cらは,原告らに対し,下記のような態度をとり,誠実に事実を説明しようとしなかったのであって,被告C1には説明義務違反が認められる。
a 被告C1は,亡Lの通夜に参列したが,遺族に挨拶さえしなかった。
b 原告らは,亡Lがどうして命を落とすことになったかを知りたくて,被告C1に本件事件の経緯等につき文章化することを依頼した。被告C3は,23日,原告らの自宅に被告C1が書いた文書を届けたが,内容が不十分であったため,より詳しく書いてもらいたい旨伝え,持ち帰ってもらった。被告C2及び被告C3は,24日,被告C1の新たな文書を持って原告らの自宅を訪れたが,被告C1は来訪しなかった。そこで,原告らが被告C2及び被告C3に事情の説明を求めたところ,被告C2は,「警察で取られた調書が全てです。」との無責任な発言をし,さらに「娘はこれから自分が守っていきますから。」と言い,原告らを挑発する態度を取った。
c 被告C3は,11月13日,原告A2の電話に対し,被告C1は風呂に入っているので上がったら連絡すると回答した。ところが,被告C2は,その直後に,単身赴任先から原告ら宅に電話をかけ,「こんな遅い時間に電話をかけてきて何をやっているんだ。何も話すことはない。」「自分の家族を自分が守って何が悪いんだ。」等と大声で怒鳴り散らして電話を切った。
d 被告Cらは,平成14年8月4日,原告ら宅を訪れた。その際,被告C2は,原告ら宅の玄関に仁王立ちで「Cです。」と強い口調で挨拶をした。原告A2が「何ですか,その態度は。」と言うと,被告C2は,「何だとは何だ。」と言い放ち,亡Lの仏前に座り手を合わせ,すぐ帰ろうとした。そこで,原告A2が被告C1の右腕に触って「ちょっと待ってください。」と言ったところ,被告C2は「触るな。」と言って原告A2を睨み,「叩くなら,叩け。」と暴言を吐き,原告ら宅の玄関口で「あんたたちは間違っている。邪推している。」と怒鳴って帰って行った。
イ 被告C2及び被告C3の責任
(ア) 監督義務違反
  被告C1には上記のような説明義務があり,その親権者である被告C2と被告C3には,被告C1が説明義務を履行するように指導監督する義務がある。それにもかかわらず,被告Cらは,上記のような態度をとり,被告C2及び被告C3は,上記の指導監督を全くしなかった。
(イ) 新たな加害行為
  被告C2及び被告C3は,前記のように,原告らの前で暴言を吐く等して,原告らの悲しみを増大させ,原告らに精神的苦痛を与えた。
  さらに,被告Cらは,本件訴訟で原告らの証言を聴く信義則上の義務があるのに,証言を聴かずに法廷から立ち去った。これは,原告らの気持ちを逆なでする新たな不法行為であり,慰謝料の加算要素である。
(被告Cらの主張)
ア 被告C1の責任
  原告らの主張は,いずれも争う。
(ア) 被告C1には,被告B1が乱暴であるとか,短気であるという認識はなかった。また,被告C1は,被告B1が亡Lを捜し出してタイマンをはろうとしていたなどとは思っていなかった。したがって,被告C1は,被告B1が亡Lを捜し出して暴行することは予見できなかったし,これを防止する法的義務もない。
(イ) 被告C1には,何らの法的責任は発生せず,暴行現場に同行していた他の者に要求される以上の高度な説明義務は存在しない。仮に,被告C1に何らかの義務が生じていたとしても,十分な責任を果たしている。原告らは,被告C1が加害者であるとの先入観のもとで被告C1らに適切な説明を求める権利があると主張するが,そもそも本件事件に対し何らの予見可能性もない被告C1を加害者と決めつけることは全くの邪推である。
イ 被告C2及び被告C3の責任
  原告らの主張は,いずれも争う。
(ア) 監督義務違反
上記のとおり,被告C1には何らの説明義務及びその違反はなく,したがって,被告C2及び被告C3には,その点に関する指導監督義務及びその違反もない。
(イ) 新たな加害行為
 原告らの主張する被告C2及び被告C3の言動は,被告C1の心痛を慮って行った言動で,娘を守る防衛行為であり,不法行為とはならない。
(4) 争点4・損害
(原告らの主張)
ア 亡Lの損害
(ア) 逸失利益
 亡Lは,死亡当時15歳の健康な男子で,本件事件により死亡しなければ67歳までの就労が可能であり,18歳から67歳までの間稼働した場合,平成13年度賃金センサス第1巻・第1表・産業計・企業規模計・男子労働者(学歴計)の年平均賃金565万9100円を取得できた。これを,生活費として取得額の50パーセントを控除して,死亡時の一時払いに換算すると,亡Lの逸失利益は,以下の算式により4440万9787円(1円未満切り捨て)になる。
 565万9100円×15.695×0.5=4440万9787円
(イ) 慰謝料
 亡Lは,被告B1から執拗な呼出しを受け,タイマンの名のもとに一方的な暴行を受けて理不尽に死亡させられたが,被告B1は,亡Lが動かなくなった後は救急車を呼ぶこともなく亡Lを放置して逃走したのであり,亡Lの精神的・肉体的苦痛は計り知れず,その慰謝料としては,3000万円が相当である。
(ウ) 相続
 原告A1及び原告A2は,亡Lの親であり,法定相続人であるところ,法定相続分に従い,各2分の1である3720万4893円ずつ,亡Lの損害賠償請求権を承継取得した。
イ 原告A1の固有の損害
 原告A1は,亡Lの死亡による以下のような損害を受けた。
(ア) 亡Lのために支出した医療関係費       31万2638円
(イ) 亡Lのために支出した葬儀関係費      155万4370円
ウ 亡Lの死亡による原告ら固有の慰謝料
(ア) 原告らにとって,たった1人の最愛の息子,最愛の弟であった亡Lの死は,理不尽な暴行を受けたことによるものであった。被告B1は,取調べの際嘘をつき,その嘘に基づく情報がマスコミに流れ,原告A2及び原告A3は,被告B1の仲間に仕返しされるかもしれないとの恐怖からセキュリティの高いマンションに転居せざるを得なかった。被告B1は,平成15年5月に少年院を仮退院した後,仲間たちと出所祝いを開き,被告B2及び被告B3は,被告B1を監督する立場にありながら,原告らへの配慮を欠き,その心情を逆なでするような態度を示した。原告らは,さらに「女性をめぐるけんか」によって亡Lが亡くなったという誤報道や警察の対応といった二次的な被害等によっても精神的苦痛を受けた。
(イ) これらの精神的苦痛は,原告ら固有の損害であり,これに対する慰謝料は,原告A1及び原告A2については各1000万円,原告A3については500万円が相当である。
  この点に関し,被告Bらは,原告らが報道機関の取材に積極的に応じているのは,被告Bらへの報復である旨主張する。しかし,原告らは,亡Lの名誉回復のため,また,社会における犯罪被害者の現状を広く知ってもらい,社会を変えていくため,報道機関の要請に応え,関係者のプライバシーに配慮しつつ,本件事件の真実と原告らの置かれている状況を訴えてきたのであり,それは復讐や個人攻撃のためではなく,上記主張は原告らの遺族感情に対する理解を欠くものであって失当である。
(ウ) なお,原告A3も,原告A1及び原告A2に比肩すべき悲しみと喪失感を感じており,民法711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存在し,亡Lの死亡によって甚大な精神的苦痛を受けているから,同条の類推適用によって固有の慰謝料請求権が認められるべきである。
エ 被告Bらに対する損害賠償請求に関する弁護士費用
 原告A1及び原告A2については,それぞれ450万円,原告A3については,50万円が被告Bらに対する損害賠償請求に関する弁護士費用として相当因果関係を有する損害というべきである。
オ 被告C1の本件事件に対する寄与度に応じた損害賠償責任
 被告C1は,上記のように本件事件における亡Lの死の結果について責任があり,その寄与度を考えると,原告らの被告Bらに対する損害賠償額のそれぞれ1割について,被告Bらと連帯して責任を負うべきである。
カ 被告C2及び被告C3の監督義務違反等による損害
 被告C2及び被告C3は,監督義務者として,被告C1に対し,真実を説明するよう促すべきであったのに,亡Lの死についての真相究明を妨害し,また,原告らに対し,暴言を吐き,亡Lの死そのものから受ける精神的苦痛とは別の苦痛を与えた。
 その精神的苦痛に対する慰謝料としては,原告らにそれぞれにつき各100万円が相当である。
キ 被告C2及び同C3に対する損害賠償請求に関する弁護士費用
 原告らについて,それぞれ10万円が被告C2及び同C3に対する損害賠償請求に関する弁護士費用として相当因果関係を有する損害というべきである。
ク 結論
 以上より,原告らの被告らに対する請求額は,次のとおりになる(総額1億1407万6794円)。
(ア) 被告Bらに対して
 原告A1                 5357万1901円
 原告A2                 5170万4893円
 原告A3                      550万円
(イ) 被告C1に対して(但し,被告Bらと一部連帯)
 原告A1                  535万7190円
 原告A2                  517万0489円
 原告A3                       55万円
(ウ) 被告C2及び同C3に対して
 原告ら                      各110万円
(被告Bらの主張)
ア 原告らの損害に関する主張のうち,原告A1及び原告A2が亡Lの被告B1に対する損害賠償請求権を相続によって承継取得したことは認め,その余は否認し争う。
イ 亡Lの慰謝料とその寄与度
 本件事件は,もっぱら被告B1の責任によるものではなく,亡Lの不注意な行動や,タイマンの申込みに対する対応に相当程度起因している。亡Lが本件事件により死亡するまでに被った精神的・肉体的苦痛を慰謝する金員としては800万円が相当であり,また,本件事件の発生に対する亡Lの寄与度は50パーセントが相当であるから,亡Lに対する慰謝料総額は400万円が相当である。
ウ 原告らの苦痛の慰謝等
 原告らは,被告Bらのプライバシーと名誉を毀損することによって自らを慰謝するため,テレビ,写真週刊誌・月刊誌,インターネット及び新聞を通じた広報活動を繰り返し,報道機関等に対し,被告Bら及びその家族を特定できるような態様で,しかも,客観的かつ合理的な根拠がないのに,被告B1が虚偽の陳述に終始した,集団で暴行した,首を絞めた,被告B2が警察関係者であるために不正な捜査操作が行われたといった内容の報道を広く全国に向けて行うよう強く促し,それにそった内容の報道等がされたため,被告Bら及びその家族は,計り知れない社会生活上の不利益及び精神的苦痛を被った。
 自らの精神的苦痛を和らげるために他人の権利を侵害する違法な行為をすることは許されないし,原告らは,上記広報活動によって,本件事件を原因として被った精神的損害を既に十分慰謝し得たのだから,本件訴訟において,精神的損害に関する慰謝料を請求することはできない。
(被告Cらの主張)
原告らの損害に関する主張は,いずれも争う。
第3 争点に対する判断
1 争いのない事実並びに証拠(甲54,55,59ないし61,71,乙イ1ないし15,17,20,22,24,32ないし54,69,70,乙ロ1,証人M,原告A2,被告C1,同C3(後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 9日のD高運動会等
 被告B1は,被告C1から,D高で開催される運動会でチアガールをするが,運動会に来てほしいと言われ,平成13年6月9日午前10時ころからD高の運動会を見に行った(なお,亡Lは,赤組の応援団として運動会に参加していた。)。被告B1は,同日夜,被告C1を家まで送る途中,運動会の応援団とチアガールの打ち上げ会があることを聞き,その出席メンバーは男子が多いことなどから,被告C1に欠席するよう求めたが,被告C1は,これに出席することにした。(乙イ7)
(2) 10日の打ち上げ会における出来事
ア 打ち上げ会は,10日,札幌市b区の木造平家建宿泊施設(コテージ)において行われ,亡Lを含む応援団の男子が約20人,被告C1を含むチアガールの女子が5人参加した。同施設の地下には,休憩室が2室あり,各室にベッドが1台又は2台設置されていた。(乙イ32の1,34の1,40,乙ロ1)
イ 打ち上げ会では酒類を飲む者もおり,酔って具合が悪くなった者は,適宜地下の休憩室に行き,ベッドに横になって休んだ。被告C1は,1階の部屋で酒を飲んでいたが,先輩に気分が悪くなった者がいたため,他の女子4名とともに2台のベッドのある休憩室に移動し,休みながら話をしていた。
 そのうち,亡Lとその同級生のM(なお,当時,被告C1は,亡L及びMの名前を知らなかった。)が上記休憩室に入ってきた。被告C1は,その時,休憩室の入口ドア付近に立っていたが,亡LとMは,それまで被告C1が寝ていたベッドに入って横になり,話を始めたが,その後,Mはベッドを出た。
 被告C1は,友人のNがもう1台のベッドで寝ており,そのそばで他の女子ともう少し話をしていたかったため,亡Lからベッドを返してもらおうと思い,亡Lに対し「うちも寝たいんだけど」等と言ったところ,亡Lが「じゃあ入る」等と言ったので,亡Lに並んで同じベッドに横になった。
 しかし,被告C1は,これを見ていたNから「そういうことしないの。やめな。」等と言われ男子と同じ布団に入るのはよくないことだと思い,ベッドから出て1階に移動し,他の者と一緒になった。被告C1が,亡Lと同じベッドで横になっていたのは,数十秒程度であった。(甲60,乙ロ1,証人M,被告C1)
ウ 被告B1は,打ち上げ会の最中,被告C1に対し,早く帰ってきてほしい旨の電話をしたが,被告C1は,友人らと一緒に話をしていたかったため,まだ帰らない旨の返答をした。(乙ロ1)
(3) その後の同夜の出来事
   ア 被告C1は,打ち上げ会で女子は宿泊しないことになっていたので,同日夕方,他の女子とともに帰宅することとしたが,打ち上げ会の会場から乙駅に向かうタクシーの中で,被告B1に対し,これから帰宅する旨メールを送り,被告B1とJR丙駅で待ち合わせることとした。
     そして,被告C1は,被告B1とJR丙駅で会ったが,被告C1の姉を迎えに来た被告C2と偶然出会い,一緒に帰宅することになったため,被告B1とほとんど会話をすることができなかった。(乙イ7,乙ロ1)
イ 被告C1は,被告B1とほとんど会話ができなかったため,帰宅後の午後11時ころ,被告B1に電話をしたが,その際,被告B1に対し,「応援団の人と一緒に布団の中に入った」あるいは「応援団の人と寝た」との話をした。その後,被告C1は酔っていたこともあり,電話の途中で寝てしまった(乙イ7,乙ロ1,被告C1)。
(4) 11日ないし13日の出来事等
ア 被告B1は,打ち上げ会の翌日である11日夕方,被告C1に会い,「電話で話したことを覚えていないか」などと聞いたが,被告C1は,「あまり覚えていない」などと返答した。被告B1は,その後,被告C1に対し,一緒の布団に入った者が誰であるかを尋ね,被告C1は,「マック」と呼ばれている人であると答え,何もなかったと説明した。
 被告B1と被告C1との間では,それ以降,打ち上げ会や「マック」の話が出ることはなかった。(乙イ7,乙ロ1,被告C1)
イ しかし,被告B1は,打ち上げ会で被告C1と「マック」と呼ばれる男子との間に性的関係があったかもしれないと考え,「マック」とケジメをつけようと思い,「マック」が誰であるかを知るため,中学時の同級生でD高生のDに調べてもらったが,すぐには分からなかった。
 そこで,被告B1は,知り合ったばかりの某に「マック」について聞いたところ,「A」という名字の者かもしれないとの返事を得た。(乙イ7)
ウ 被告B1の友人のEは,13日午後8時ころ,被告B1の家で,被告B1から,彼女がD高の男子と一緒の布団に入ったので,その男子とタイマンをはると聞いた。Eは,同日夜帰宅した後,友人で被告B1の先輩のFaの携帯電話に,被告B1がタイマンをはるらしいので,一緒にタイマンを見に行かないかという誘いのメールを入れた。
  Faは,その時,友人のGの家にいたので,Gに対し,タイマンに一緒に行くか聞いたところ,Gは,一緒に行くと答え,Faは,Eに対し,行く旨のメールを返信した。また,Gの家には,当時,Hがおり,その後,14日の夕方ころまでに,I及びKが遊びに来た。(甲54,乙イ9,10)
(5) 14日(本件事件当日)のK公園に至るまでの経緯
ア Eバーガーでの面談等
(ア) 被告B1は,本件事件当日である14日昼,携帯電話でDに再確認を頼んだところ,しばらくして,Dから,「マック」の名字が「A」である旨の回答を得た。
  そこで,被告B1は,「A」とタイマンをはってケジメをつけようと考え,Dに対し,「A」を放課後にD高の近くのEバーガー(ファーストフード店)に呼んでほしいと依頼した。被告B1は,午後3時20分ころ,同級生のOらとともに下校し,Oの家を経由してEバーガーに到着した。この間,被告B1は,Oに被告C1と「A」のことについて話したが,Oは,札幌方面E警察署(以下「E警察署」という。)に呼ばれていたため,被告B1と別れてE警察署に行った。
  被告B1は,Eバーガーと道路を挟んで向かい側のFマート(スーパーマーケット)の駐車場にDを呼び出し,Dから「A」の特徴を聞いて別れた。
  被告B1は,その後,Eバーガーの入口付近で「A」が来るのを待ったが,「A」が現れなかったため,店内にいた女子高生らに「A」について尋ねたところ,1人が「A」を知っていたので,その女子高生から「A」の友人のPに電話をかけてもらい,「A」にD高の前まで出てきてほしい旨伝えた。(甲59,乙イ7)
(イ) 亡Lは,当日,普段どおり通学し,授業を午後3時30分まで受け,授業終了後も学校に残ってMらとともに試験勉強をしていたところ,午後4時30分ころ,上記のようにして被告B1からEバーガーに呼び出された。
  そこで,亡Lは,PとともにEバーガーに行き,被告B1と会った。
 被告B1と亡Lは,その後,Fマートの駐車場に移ったが,被告B1は,亡Lに対し,「打ち上げ会のときにあったことでタイマンをして,ケジメをつけろ」等と言った。これに対し,亡Lは,まだ学校なので,話す時間がないなどと言ったが,被告B1が後でまた連絡する旨述べたので,被告B1に携帯電話の番号を教え,D高に戻った。(甲60,61,乙イ17)
(ウ) その後,亡Lは,教室に戻り,試験勉強を続けながら,被告B1からの連絡を待った。その間,亡Lは,「怖えなあ」等と言い,また,「怖えー」といったメールを同級生の女子に送ったりしていた。
  亡Lは,午後7時ころからM及び友人のQとともにEバーガーで飲食をしていたところ,午後7時35分ころ,亡Lの携帯電話に,被告B1から,c区戊にあるゲームセンターGに来るようにとの連絡があった。
  亡Lは,MとQの3人だけでゲームセンターGに行くのは怖いと考えたため,午後8時ころ,友人のRに電話をし,「絡まれたので来てほしい」旨述べ,午後8時30分にc区戊のHマーケット(スーパーマーケット)で待ち合わせることとし,午後8時15分ころ,Eバーガーを出て,Hマーケットに自転車で向かった。
 Rの家には,上記電話の際,S,T,Jがおり,同人らも一緒に行くことにし,自転車でHマーケットに向かった。その途中,R及びJは,それぞれUa及びVに電話をして,一緒に来てもらうことにし,途中のIストア(スーパーマーケット)でVに会い,5名でHマーケットに行ったところ,既に亡Lのほか,Q,M及びUaが到着しており,併せて合計9名となった。
 亡Lら9名は,Jストア(スーパーマーケット)の前に自転車を置き,歩いてゲームセンターGに向かった。(甲55,59,60,61,乙イ11ないし15)
(エ) 一方,被告B1は,Eバーガーで亡Lと会った後,Dの家に行き,Oに対してDの家にいるとのメールを送ったところ,OがDの家に来た。
  被告B1とOは,午後7時45分ころ,Dの家を出て,Oの自転車に2人乗りをして,札幌市c区丙にあるA書房に行った。
  被告B1は,その間に,亡Lに対し,同区戊にあるゲームセンターGに来るように電話をした。
 被告B1とOは,A書房でE,Fa,G,H,I,Kの6名に会った後,ゲームセンターGに向かった。(乙イ9,24)
(オ) 被告B1の友人のFbは,14日午後8時20分ころ,高校の同級生のTから,「友達が絡まれたので助けてくれ」という電話を受け,Wに電話をしてゲームセンターGまでつき合ってくれと頼んだ。Wは,そのとき,札幌市c区丙のK公園で,X,Ub,Yや女子と話をしていたがFbから上記電話を受け,さらにその後K公園に来たFbから同様の話があったので,X,Ub,Y,W,Fbの5名でゲームセンターGに向かった。その途中,Fbは,Zに連絡をし,上記5名は,JR丙駅近くで,Zと合流し,6名でゲームセンターGに向かった。ゲームセンターGに着いてから10分くらいすると,10人くらいのグループが来て,その後10分くらいしてから被告B1とOが来た。(乙イ3,19ないし23)
(カ) なお,被告B1は,14日,被告C1に対し一緒に祭りに行くことを誘うメールを送ったが,被告C1は,テスト勉強を理由にこれを断った。(乙ロ1)
イ ゲームセンターGでの面談とK公園への移動等
(ア) 被告B1がゲームセンターGに着くと,15人くらいの男子がいて,その中に亡Lもいた。被告B1は,タイマンをはるとの気持ちであったことから,亡Lのもとに行き,亡Lに対し,「タイマンをはるのか,はらないのか。」「はっきりしろ。」(乙イ2)等と述べたところ,亡Lは,「本当にタイマンをはるのか。」(乙イ16),「タイマンするの。僕がしないと言ったらしないのかい。」(乙イ24)等と述べた。これに対し,被告B1は,馬鹿にするように,「はあ。何言ってるのよ。」等と言った(乙イ24,被告B1)。
 その後,誰かが,K公園に場所を変えると言い出し,K公園に場所を移動することとなった。
(イ) 被告B1は,ゲームセンターGからOの自転車の後に乗り,K公園に向かった。
 E,G,Fa,I及びHは,A書房で被告B1及びOと別れた後,K公園に行くことにしていたが,途中,午後9時ころ,Gの携帯電話に被告B1から電話をし,K公園に着いたとの連絡があり,K公園に向かった。また,FbとUbは,歩いてK公園に向かった。(甲54,乙イ20)
    (ウ) 亡Lは,Xの自転車の後に乗ってK公園に行き,残ったRら8名は,Jストアに戻り,それぞれ自転車に乗ってK公園に向かった。(乙イ3,11,17)
(6) K公園での本件事件に至るまでのやりとり
ア 被告B1は,K公園に着き,Gが来るまでの間に,それまで履いていた靴は踵がつぶれており,タイマンの途中で脱げてしまう可能性があると考え,Oからスニーカーを借りて履き替えた。
 被告B1がK公園に着いてから20分ほどすると,GらがK公園に着いた。(乙イ2)
イ 被告B1と亡Lは,亡Lが,なおタイマンをやりたくないと言ったり,被告B1の友人の1人が「お前が何をやったか話し合わないと駄目だ。」等と言った(乙イ18)こともあり,タイマンをするかしないかにつき話し合った。
  (7) 本件事件
ア 被告B1と亡Lは,K公園で話し合った後,交通コーナーの一角にある芝生の上に移動し,午後9時30分ころ,Xが2人の間でタバコを上に投げ,タバコが下に落ちたのを合図にタイマンを始めた。(甲71,乙イ3,13)
イ 被告B1は,亡Lの頭髪を鷲づかみにし,頭突きをしたり,亡Lが倒れたときに亡Lを踏みつけたり,その顔面を殴打し,起き上がったLを投げ飛ばし,再び立ち上がった亡Lに対して,右手拳で亡Lの左顎を殴打した(乙イ1,2)。これに対し,亡Lも,被告B1の身体を蹴るなどして抵抗していた。
ウ 亡Lは,被告B1に左顎を殴打されて転倒した際,後頭部を石垣にぶつけ,動かなくなった。このため,Uaが119番通報をして救急車を呼んだ。戊駅前交番の警察官は,午後9時39分ころ,けんかで15歳の男性が受傷したとの119番通報があるので,臨場するようにとの指令を受けた。
 被告B1は,亡Lが動かなくなったため大変なことになったと思い,制服のままであると学校が明らかになってしまい,また,制服に血が付いていたので,警察に捕まってしまうのではないかと考え,Zからジャージを借りて着替えた。被告B1が亡Lを見ると,亡Lの口から血のようなものが出ていた(なお,その後,被告B1は,亡Lの頭を持ったと供述するが,これを目撃している者はなく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。)。(甲71,乙イ2,18)
(8) 暴行後の被告B1の行動
 ア 被告B1は,その後,Oが,関係ない奴は帰れなどと言ったこと(乙イ19,20,23)もあり,逃げた方がよいと考え,己川の方へ走って逃げた(Gは,Oではなく,相手方たる亡Lの友人などが,関係ない奴は帰れなどと言ったと供述している(乙イ10)が,被告B1の暴行により重大な傷害を負った亡Lの友人が,このような発言をすることは不自然というべきであり,Gのこの供述は信用することができない。)。
 被告B1は,Zに己川の土手で出会ったので,ジャージを返して制服に着替えた。被告B1は,Oと連絡を取り,近くのコンビニエンスストアに行き(当該コンビニエンスストアには,Oら8名程度がいた。),Oにスニーカーを返し,Oの自転車を借りて,家に帰った。(乙イ2,9,被告B1)
イ 被告B1は,午後11時52分,自宅からE警察署に任意同行され,翌15日午前1時35分,緊急逮捕された。(甲71)
(9) 本件事件までの被告B1の生活状況等
ア 被告B1は,非行歴及び補導歴はなく,薬物等の使用や暴力団との付き合いもなかった。
 しかし,被告B1は,学校を怠学することがあり,中学校2年のころ以降,喫煙を始めたほか,友人らとともに自動販売機からアイスクリームを盗んで警察で取調べを受け,始末書を書いたり,被告B1や友人の付き合っていた女子らが隣の中学校の男子にいたずらをされたため,その中学校に,友人ら五,六名とともに話をしにいったところ,警察官が来る騒ぎを起こしたことがあった(このとき,被告B1が暴力を振るったことはなかった。)。(乙イ4,5,8,被告B1)
イ 被告B1は,兄と弟がおり,家族5人で暮らしていた。被告B2は公務員であり,被告B3は,専業主婦であった。被告B2及び被告B3は,本件事件後,家庭裁判所調査官から,家庭の問題を指摘されたことはなかった。
 被告B3は,9日,被告B1から,D高の運動会に行って楽しかったと聞いた。
 被告Bらの家族は,被告B2の勤務が不規則なので家族揃って食事をするために午後9時ころまで夕食を待っていることがあり,13日の夜も,家に来ていたEを含めて,家族全員で夕食をとった。被告Bらは,被告B1を除いて,Eと話しながら夕食をとったが,被告B1は一言も話さず,黙々と夕食をとる状態で,被告B3にとって,被告B1のこのような状態を見るのは初めてのことであった。なお,被告B3はEに初めて会ったが,Eの名前や被告B1との関係を尋ねたりはしなかった。(乙イ6,被告B1,被告B3)
ウ 被告B1は,14日午後6時30分ないし午後7時ころ,自宅の留守番電話に帰宅が遅くなるとのメッセージを入れた。被告B3は,被告B1が翌朝は遠足のため早く出かけなければならなかったことから,午後8時30分ころ,被告B1に早く帰るよう電話をした。(乙イ6)
(10) 原告らと被告Cら間の出来事
ア 被告Cらは,17日,亡Lの通夜に参列したが,被告C1に法的責任があるとの認識もなく,また,参列者が非常に多く,参列者には順次引き取るように案内がされていたことなどから,原告らに対し,挨拶をせずに引き上げた。(甲3,乙ロ1,被告C3)
イ(ア) 被告C1及び被告C3は,21日,原告ら宅を訪れた。被告C1は,原告らと,主に原告らが被告C1に質問をし,被告C1がそれに答えるという形で,1時間ほど本件事件につき話をした。(乙ロ1,被告C1)
(イ) さらに,原告らは,亡Lがどうして命を落とす結果になったかを知りたいとして,被告C1に,本件事件の経緯等につき文章化することを依頼した。被告C1は,この依頼を受けて文書(乙イ70)を作成し,被告C3が23日にこれを原告ら宅に届けたが,原告らは,その内容が不十分であるので,より詳しく書いてもらいたいと述べ,これを持ち帰らせた。上記文書には,10日にb区のコテージで行われた打ち上げ会の際,亡Lは酒類を一気飲みして酔っており,話をできる状態ではなく,いろいろな所で寝ていたこと,被告C1が地下の休憩室のベッドで他のチアガールと話をし,1階に行く時に,亡Lと応援団の先輩1人が被告C1と入れ違いのような形で休憩室に入ってきたこと,被告C1は,眠くなって「私も寝たいんだけど」というようなことを言ったところ,亡Lが場所をあけてくれたので,被告C1はそこに入ったが,先輩のチアガールから「だめだよ」と注意を受けたので,被告C1はすぐ部屋を出たこと,被告C1は,この時以外に亡Lとコテージの中での接点はなく,亡Lを「マック」と呼び,名前すら知らず,全く特別な関係ではなかったことなど,前記認定の事実とほぼ符合する事実関係が記載されていた。
(ウ) 被告C2及び被告C3は,24日,被告C1が作成した新たな文書を持って原告ら宅を訪れたが,原告らから,被告C1が来訪しなかった事情等を尋ねられた。被告C2は,「警察で取られた調書が全てです。」「娘はこれから自分が守っていきます。」等の発言をし,これに対し,原告A2は,「私たちは真実を知りたいだけなのです。」と述べ,被告C2は,「これから協力できることがあれば,協力します。」と述べた。
ウ 原告A2は,11月13日午後10時30分過ぎ,被告Cら宅に電話をし,電話に出た被告C3に対し,被告C1を電話に出すようにと述べた。被告C3は,被告C1は風呂に入っていて電話に出ることができない旨答えて電話を切ったが,それまで,原告A2が電話で思いの丈を30分ほど話すことがあったため,単身赴任をしていた被告C2に電話して,被告C1が原告A2に電話をかけ直すのを断ってほしいとの相談をした。そこで,被告C2は,原告A2に電話をし,原告A2が遅い時間に電話をかけてきたことを非難し,何も話すことはない旨告げた。(被告C3)
エ 被告Cらは,原告らから亡Lの仏前での供養を求められていたため,平成14年8月4日,原告ら宅を訪れ,亡Lの仏前に手を合わせた。
 原告A2は,被告C1が仏前での挨拶を済ませると,亡Lの遺骨を骨壺から取り出して被告Cらに見せ,「Lはこんなふうになったんです。」等と言い(原告A2),被告Cらが帰ろうとしたとき,被告C1の腕を掴んだので,被告C3は,「叩きたいのなら叩いてください。」と言った(被告C3)。
オ 原告A2は,被告C1に対し,D高を退学してほしい旨言ったことがあった。また,原告A2は,被告Cらに対し,テレビの取材に応じてほしいと申し入れたことがあった。(被告C3)
(11) 原告らの本件事件後の広報活動
 原告らは,本件事件につき,積極的にテレビ,雑誌及び新聞の取材に応じ,また,インターネットホームページを通じて,本件事件についての広報活動をした。原告らがこのような活動をしたのは,当初は女性関係の問題から端を発したけんかであるかのように報道されるなどしたが,本件事件の真相は報道等の内容とは異なっており,誤った情報によって亡Lの名誉が毀損されたので,それを回復しなければならないなどと考えたことによるものであった。しかし,原告らが取材に応じ,情報提供をしたことによって新たにされた報道等の中には,原告らの本件事件の捉え方を真実であるとしたり,被告らのプライバシーを侵害したり,被告らの側に一方的な責任があるとするような内容のものもあった。(乙イ32の1,2,乙イ33の1,2,乙イ34の1ないし3,乙イ35,36の1,2,乙イ37,38の1,2,乙イ39,40,43,44,乙イ45の1ないし4,乙イ46ないし54,69)
2 上記認定事実及び前提となる事実に基づき,まず,被告らの賠償責任の有無について検討する。
(1) 争点1(本件事件の具体的態様等)について
ア 原告らは,本件事件はけんかではなく,リンチであって,被告B1は,無抵抗の亡Lに対し,一方的に暴行を加えたと主張する。
イ(ア)a 確かに,亡Lは,本件事件直前にK公園で「やりたくない」と言ったこと(乙イ18)やゲームセンターGで「やんないって言ったらやんないの。」などと言っていたこと(甲60)が認められ,かつ,被告B1も,亡Lはタイマンをする気はなかったと思う旨供述しており(被告B1),亡Lは,タイマンをはりたくない気持ちが強かったことが認められる。
b しかし,亡Lは,ゲームセンターGに向かう途中で,Rから「タイマンが嫌ならやめればいいべ。言ったらどうだ。」と言われたのに対して,「言っても聞いてくれそうもないから言わない。」と述べており(乙イ11),これはタイマンとなることを予想し,容認していた発言であると考えられる。また,亡Lは,Fマートの駐車場やゲームセンターGでの被告B1とのやりとり等から,被告B1の,タイマンをはりたいとの気持ちが強いことを認識し,したがって,被告B1の言うとおりにしていれば,被告B1との間でいずれタイマンが行われる可能性があることを十分認識していたと考えられる。さらに,亡Lは,前記のようにゲームセンターGに行く途中で亡Lの友人を呼び,かつ,その友人らに会った上でゲームセンターGに赴いており,友人が自分の周りにいることを認識していた。
 そして,亡Lは,これらの認識を有しながら,上記認定のとおり,Xの自転車の後ろに乗ってK公園に行ったが,自転車の後ろに乗るためには,自ら自転車の運転者の背中につかまるなどしなければならないことからすれば,亡Lは,自主的にK公園に向かったものであることが容易に推認できる(亡Lが,無理矢理自転車の後ろに乗せられたことや,自転車の後ろに乗ることを強要されたことを認めるべき証拠はない。)。
 これらのことからすれば,亡Lには,タイマンに応じることになってもやむを得ないとの気持ちがあったことが認められる(なお,亡Lは,後記のように自らK公園の交通コーナーの芝生の中に移動したことが認められ,やはりタイマンに応じることになってもやむを得ないとの気持ちがあったことが認められる。)。
(イ) この点に関し,原告らは,亡Lはタイマンに応じざるを得ない状況にあったと主張する。
 しかし,亡Lが被告B1からEバーガーに呼出しを受けてから実際にタイマンが行われるまでの間には相当の時間があり,この間に亡Lは友人らを呼び集めることもできていたこと,被告B1が亡Lに対して暴力や脅迫的言辞を用いてタイマンをはることを強要したとまでは認めるべき証拠がないことからすれば,亡Lは,自らの意思でタイマンを回避し,あるいは警察の援助を求めるなどしてタイマンを回避することは可能であったと考えられ,タイマンに応じざるを得ない状況に追い込まれていたとすることはできない。
(ウ) 以上からすれば,本件事件は,一方的なリンチとは言えず,タイマンと呼ばれる1対1のけんかであったことが認められる。
(エ) 他方,上記認定のとおり,亡Lは,被告B1に呼び出されたときに怖がっていたこと,タイマンを嫌がり,タイマンになっても手を出さないと言っていたこと,被告B1のみが暴行を加えていたと供述する者が多数いること(甲61,乙イ3,12,21ないし23等)などからすれば,本件事件の際,被告Bらが主張するように,亡Lが積極的に暴行をしたことを認めることはできない(乙イ1,2の中には,亡Lが積極的に暴行を加えていたとする記載のあるものがあるが,上記認定のようにタイマンに対し恐怖感を抱いていた亡Lが,タイマンが開始されて急に攻撃的になるとは考えにくく,これに反する乙イ1,2の記載は信用できない。)。もっとも,同世代の若年者で,それまで面識もなく,上下関係もない者同士のけんかの場合,一方の者が全く暴行を受けているだけということは考えにくい上,暴行を受けた者はとっさに自己を防衛しようとするための行動をとるのが通常であることからすれば,本件事件における亡Lが抵抗をしていたとの供述(乙イ12等)は信用することができ,亡Lは,被告B1の攻撃を避け,これに抵抗するため,被告B1に対して暴行を加えたことは認められる。
(2) 争点2(被告Bらの責任)について
ア 被告B1の責任
  被告B1は,本件事件当時15歳であり,自己の責任を弁識する能力を有しており(これに反する証拠はない。),故意に基づいて本件事件における暴行を行ったものであるから,民法709条により,原告らの損害を賠償する責任を負う。
イ 被告B2及び被告B3の責任
(ア) 監督義務違反
   被告B1が責任能力を有し,不法行為に基づき,本件事件によって生じた損害の賠償責任を負うことは,上記のとおりである。
  他方,被告B2及び被告B3は,被告B1の親権者として,被告B1の監護養育義務を負っているが,上記認定のとおり,被告B1は,本件事件前まで非行歴,補導歴はなく,いわゆる少年事件に発展するような暴行事件などを起こしていなかったこと,被告B1は,帰宅予定を連絡し,被告B3にD高の運動会について話し,被告Bらの家族は一緒に夕食をとるように努めるなど,家族間で日常の会話もあることからすれば,被告B1と被告B2及び被告B3との間では,相応のコミュニケーションが図られていたことが認められる。また,被告B1には,中学校2年生のころから,喫煙したり,アイスクリームを盗んだり,他の中学校に押しかけるといった問題行動があったが,これらのことから直ちにその非行性が進んでいたとか,粗暴性があったとすることはできない。
  そして,本件事件は,被告B1が亡Lに暴行を加えて死亡するに至らせたというものであるが,上記のような本件事件以前の被告B1の行動等に照らすと,被告B2及び被告B3において,被告B1が本件事件のように暴力で物事を解決しようとするような事態は,容易に予見することができなかったものといえる。したがって,被告B2及び被告B3において,被告B1が本件事件におけるような暴力行為を行わないよう指導監督すべき具体的な義務を有していたとすることはできないし,本件事件が被告B2及び被告B3の監督義務の懈怠によって発生したとすることもできない。
  なお,13日の夕食において,被告B3は,Eの名前もきかなかったが,Eと会話をしていたのであって,まったく被告B

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最終更新:2005年11月07日 14:42
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