hanrei @Wiki H17.10.27 東京地方裁判所 平成13年(行ウ)第201号 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件



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平成17年10月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成13年(行ウ)第222号 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年7月26日
           判          決
   東京都青梅市
       原告   B                               同訴訟代理人弁護士   池   原   毅   和
   東京都千代田区霞が関一丁目2番2号
       被告   社会保険庁長官
                  村   瀬   清   司
       被告         国
同代表者法務大臣   南   野   知 惠 子
       被告ら指定代理人   東       亜 由 美
       同          春   名   郁   子
       同          鈴   木   慎   吾
同          小   林   良   和
被告国指定代理人   土   崎   武   志
     主       文
 1 東京都知事が,原告に対して平成11年1月28日付けでした障害基礎年金を支給しない旨の処分を取り消す。
 2 原告の被告国に対する請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告社会保険庁長官の負担とし,その余を原告の負担とする。
   事実及び理由
第1 請求
 1 主文第1項と同旨
2 被告国は,原告に対し,2000万円を支払え。
第2 事案の概要
本件は,平成元年法律第86号による改正(平成3年4月1日施行)前の国民年金法により学生の国民年金への加入が任意とされていた当時,大学在学中に統合失調症(当時の呼称は「精神分裂病」)の診断を受けた原告が,障害基礎年金につき支給の裁定の請求をしたが,初診日において20歳以上の学生であって,国民年金につき任意加入していなかったことから,不支給の処分を受けたため,①学生について,国民年金の強制適用の対象から除外し,国民年金に任意加入する場合に保険料免除の制度を設けていない上記国民年金法の規定は,憲法14条,25条に違反し,広報等による周知をしなかった点は,31条に違反すること,②原告は,20歳前に統合失調症を発病し,医師の診療を受けるべき状態にあったから,このような原告に対しては,疾病の特質等にかんがみ,国民年金法30条の4所定の障害基礎年金(初診日が20歳未満の時点の傷病により障害を負った者を対象とする無拠出の年金)を支給すべきであるのに,不支給の処分を行ったのは違法であることなどを理由に,被告社会保険庁長官(いわゆる地方分権一括法により,処分をした行政庁である東京都知事から処分権限を承継)に対し,上記障害基礎年金の不支給処分の取消しを求めると共に,被告国に対し,昭和34年以降,学生の身分を有する者に対する不合理な差別を容認するなど,憲法に違反する内容の立法を行ったこと,又はこのような不合理な差別等による不利益を救済する措置を講じなかったことが違憲,違法であると主張して,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料2000万円の支払を請求している事案である。 
 1 関係法令の定め等
(略称について)
 以下,国民年金法(昭和34年法律第141号)につき,次の各改正が問題となる場合に,昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法を「昭和60年改正前国民年金法」,同改正以後の国民年金法を「昭和60年法」,平成元年法律第86号による改正前の国民年金法を「平成元年改正前国民年金法」,同改正以後の国民年金法を「平成元年法」と,それぞれ略称し,また,国民年金法(昭和34年法律第141号)附則を単に「国民年金法附則」と略称する。
(1) 国民年金法の目的等
  国民年金法は,日本国憲法25条2項に規定する理念に基づき,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とし(1条),同法に基づく給付として,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金,付加年金,寡婦年金及び死亡一時金を定めている(15条1号ないし4号)。
 (2) 障害基礎年金の種類と支給要件等
 障害基礎年金には,国民年金法30条に基づくものと,同法30条の4に基づくものがあり,それぞれの支給要件等は,次のとおりである。
ア 国民年金法30条に基づく障害基礎年金(以下「拠出制障害基礎年金」という。)
    (ア) 支給要件
     a 被保険者の資格に関する要件
 国民年金法30条1項本文は,障害基礎年金の受給資格について,「疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)」において「被保険者であること。」(1号)又は「被保険者であった者であって,日本国内に住所を有し,かつ,60歳以上65歳未満であること。」(2号)のいずれかに該当した者と規定している。
     b 被保険者の資格と学生の扱いについて
      (a) 学生の適用除外
 上記aの「被保険者」の資格について,国民年金法7条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は,国民年金の被保険者とする。」とし,強制的に被保険者とされる者として,「日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって次号及び第3号のいずれにも該当しないもの(次のいずれかに該当する者を除く。以下「第1号被保険者」という。)」と規定しているところ(同項1号),平成元年改正前国民年金法7条1項1号イは,このような被保険者から除かれる者として,「学校教育法(昭和22年法律第26号)第41条に規定する高等学校の生徒,同法第52条に規定する大学の学生その他の生徒又は学生であって政令で定めるもの」を挙げていた。
(b) 任意加入の制度
        このように,平成元年改正前国民年金法の下において,学生は,
強制的に被保険者とされる者から除外されていた一方で,国民年金に任意加入することができるものとされていた(国民年金法附則(ただし,昭和60年法律第34号による改正前のもの)6条,国民年金法附則5条1項1号(ただし,平成元年法律第86号による改正前のもの),2項)。この任意加入制度により,昭和60年改正前国民年金法7条2項8号ロ,平成元年改正前国民年金法7条1項1号によって被保険者とされなかった学生は,都道府県知事に申し出て,その承認を得て被保険者となることができたが,強制加入の場合と異なり,保険料の免除,前納及び追納の制度は適用されなかった(同法89条,90条,93条,94条,国民年金法附則(ただし,昭和60年法律第34号による改正前のもの)6条6項,国民年金法附則5条10項)。
(c) 昭和60年法附則4条の定め
昭和60年法附則4条は,国民年金制度における学生の取扱いについて,「学生の保険料負担能力等を考慮して,今後検討が加えられ,必要な措置が講ぜられるものとする。」と規定していた。
      (d) 平成元年法による学生の強制加入
 なお,平成元年法により,20歳以上の学生も,新たに国民年金の強制適用の対象(第1号被保険者)とされ,原則として60歳に達するまで保険料を負担することとされたが,これは,学生の態様の変化に伴い,学生の年金保障の充実を図ったもので,具体的には,学生期間中に障害事故が発生した場合の障害基礎年金を保障すると共に,老後においても満額の老齢基礎年金を受けることを可能にしたものであった。
     c 保険料納付に関する要件
(a) 国民年金法30条1項ただし書は,「当該傷病に係る初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないときは,」障害基礎年金の支給要件を満たさない旨規定している。
(b) ただし,昭和60年法附則20条は,保険料納付要件に関し,初診日が昭和71年4月1日前にある傷病による障害について昭和60年法30条1項ただし書(同法30条の2第2項及び第30条の3第2項において準用する場合を含む。)の規定を適用する場合においては,「同法第30条第1項ただし書中「3分の2に満たないとき」とあるのは,「3分の2に満たないとき(当該初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの1年間(当該初診日において被保険者でなかった者については,当該初診日の属する月の前々月以前における直近の被保険者期間に係る月までの1年間)のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないときを除く。)」とする。」旨規定し,また,昭和60年法附則21条は,前条及び昭和60年法30条1項ただし書(同法30条の2第2項及び30条の3第2項において準用する場合を含む。)の規定の適用については,当分の間,これらの規定中「月の前々月」とあるのは,「月前における直近の基準月(1月,4月,7月及び10月をいう。)の前月」とすると規定して,保険料納付要件を緩和している。 
(c) なお,平成12年法律第18号による改正後の国民年金法90条の2及び3は,国民年金の第1号被保険者である学生であって,本人の所得が一定の所得以下のものについて,申請に基づき,本人の所得を基準に,保険料の納付を猶予するものとしている(学生納付特例制度)。
     d 障害の認定に関する要件
(a) 国民年金法30条1項本文は,障害基礎年金の支給要件をなす障害の認定に関する要件につき,前記aの要件に該当する者が,「当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき」と規定し,同条2項は,障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし,各級の障害は,政令(同法施行令4条の6)で定めると規定している。
(b) 事後重症制度
 障害の認定に関し,国民年金法30条の2は,「疾病にかかり,又は負傷し,かつ,当該傷病に係る初診日において前条第1項各号のいずれかに該当した者であって,障害認定日において同条第2項に規定する障害等級(以下単に「障害等級」という。)に該当する程度の障害の状態になかったものが,同日後65歳に達する日の前日までの間において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは,その者は,その期間内に同条第1項の障害基礎年金の支給を請求することができる。」(1項),「前条第1項ただし書の規定は,前項の場合に準用する。」(2項),「第1項の請求があったときは,前条第1項の規定にかかわらず,その請求をした者に同項の障害基礎年金を支給する。」(3項)と規定し,障害認定日に所定の障害等級の要件を満たさなくても,障害認定日後65歳に達する日の前日までの間において,当該傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは障害基礎年金を受給できるものとしている。
e 昭和60年法と経過規定
(a) 昭和60年法附則23条,国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令29条は,昭和60年法の施行日(昭和61年4月1日)前に発した傷病による障害を負った者について,国民年金法30条1項,30条の2第1項を規定を適用する場合には,その者が,初診日(その日が上記施行日前である場合に限る。)において被保険者であった者であって当該初診日において65歳未満であることを要するものとしている。また,同政令31条は,国民年金法30条の2の適用に当たり,「障害認定日」の読替規定を置いている。
(a) 昭和60年法附則6条1項本文は,施行日(昭和61年4月1日)の前日において,昭和60年改正前国民年金法7条2項各号のいずれかに該当した者(同日において昭和60年法附則6条1項の規定による被保険者であった者を除く。)が,上記施行日において昭和60年法7条1項各号のいずれかに該当するとき(同法附則4条1項に規定する政令で定める者であるときを除く。)は,その者は,同日に,国民年金の被保険者の資格を取得する旨規定していたところ,昭和60年改正前国民年金法7条2項8号ロは,国民年金の被保険者から除かれる者として,「学校教育法第52条に規定する大学(同法第62条に規定する大学院を含む。)及び同法第69条の2第2項に規定する短期大学並びにこれらに相当する国立の学校で厚生大臣の指定するもの」を挙げていたことから,学生は,国民年金の被保険者の資格を有しなかった。
   イ 国民年金法30条の4(以下「20歳前障害規定」という。)に基づ
    く障害基礎年金(以下「20歳前障害基礎年金」という。)
    (ア) 支給対象者の資格に関する要件
 国民年金法30条の4は,「疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者」を同規定に基づく障害基礎年金の対象と規定している。
20歳前障害基礎年金については,保険料の納付は不要とされている反面,障害者本人の所得額による支給停止(昭和60年法36条の3)や,労働者災害補償保険法に基づく年金の給付が受けられる場合の支給停止(同法36条の2)の定めがある。
  (イ) 障害の認定に関する要件
a 国民年金法30条の4第1項は,障害基礎年金の支給要件をなす障害の認定に関する要件につき,上記(ア)の要件に該当する者が,「障害認定日以後に20歳に達したときは20歳に達した日において,障害認定日が20歳に達した日後であるときはその障害認定日において,障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき」と規定している。
b 事後重症制度
 国民年金法30条の4は,「疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者(同日において被保険者でなかった者に限る。)が,「障害認定日以後に20歳に達したときは20歳に達した日後において,障害認定日が20歳に達した日後であるときはその障害認定日後において,その傷病により,65歳に達する日の前日までの間に,障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは,その者は,その期間内に前項の障害基礎年金の支給を請求することができる。」旨規定すると共に(同条2項),拠出制障害基礎年金の事後重症制度に関する同法30条の2第3項の規定を,同法30条の4第2項の場合に準用する旨規定している(同条3項)。
(ウ) 昭和60年改正前国民年金法に基づく障害福祉年金と経過規定
 国民年金法30条の4に基づく障害基礎年金の制度は,昭和60年法により,昭和60年改正前国民年金法57条に基づく障害福祉年金の制度を受け継ぎ,拡大する形で設けられた制度であり,当該規定及び経過規定は次のとおりである。
a 昭和57年法律第66号による改正前の国民年金法57条1項は,「疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者」が,廃疾認定日後に20歳に達したときは20歳に達した日において,廃疾認定日が20歳に達した日後であるときはその廃疾認定日において,別表に定める1級に該当する程度の廃疾の状態にあるときは,前条1項の規定の適用については,その者は,同項に規定する障害福祉年金に支給要件に該当するものとみなす旨規定している。 なお,同条の「廃疾」という語句については,昭和57年法律第66号による改正以後の国民年金法により「障害」の語句が用いられるに至っており,以後,上記改正前の事実が問題となる場合についても,「障害」の語句を用いることとする。
b 昭和60年法附則25条1項は,施行日(昭和61年4月1日)の前日において,昭和60年改正前国民年金法による障害福祉年金を受ける権利を有していた者のうち,施行日において昭和60年法30条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある者については,同法30条の4第1項に該当するものとみなして,同項の障害基礎年金を支給する旨規定し,同条2項は,施行日の前日において昭和60年改正前国民年金法による障害福祉年金を受ける権利を有していた者のうち,施行日において障害等級に該当する程度の障害の状態にない者については,同日後,障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとき(同日前の同法別表に定める程度の障害の状態に該当しなくなった日から起算して3年を経過する日までの間に限る。)は,昭和60年法30条の4第1項に該当するものとみなして,同項の障害基礎年金を支給する旨規定している。
  本件は,上記の経過規定の適用下にある事案である。そこで,以下において,昭和60年法附則25条1項又は2項により,昭和60年法30条の4第1項の規定に該当するものとみなされるときを論ずる必要がある場合には,昭和60年法30条の4の解釈,適用について論ずることとする。
 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
  認められる事実)
(1) 原告は,昭和35年3月○日出生し,昭和53年3月に都立t高校卒業後,昭和54年4月にT大学2類に入学し,昭和60年3月同大学を卒業した(甲1)。
(2) 原告は,昭和55年3月○日に20歳に到達した後の昭和56年5月24日,無賃乗車をしてJR名古屋駅で保護され,両親に連れられて帰宅し,同月27日,青梅市立総合病院を受診し,東青梅病院に入院し,精神分裂病と診断された(甲1,60)。
(3) 原告は,昭和56年7月まで東青梅病院に入院した後,青梅市立総合病院精神科に転院したが,症状は一進一退で,入退院を繰り返した。
  昭和57年11月27日(上記(2)の受診日である昭和56年5月27日から1年6月を経過した日)の時点における症状は,次のとおりであった。すなわち,状態像としては,幻覚妄想状態(幻覚,妄想)及び分裂病等残遺状態(自閉,意欲の減退)が認められ,日常生活の状況としては,家族以外の者との交流はとれず,家族との交流も一方的になりがちであり,食事に援助を必要とし,戸外での危険から十分に身を守ることができず,日常生活能力の程度は,精神症状が認められ,身の回りのことはかろうじてできるが,適当な援助や保護が必要であった(甲2)。
(4) また,平成10年8月15日時点における症状は,次のとおりであった。すなわち,状態像としては,幻覚妄想状態(幻覚,妄想)は消えたが,抑うつ状態(思考・運動制止,憂うつ気分),分裂病等残遺状態(自閉,意欲の減退)が認められ,日常生活の状況としては,家族以外との接触は避けており,家族とは冷静な時は比較的良いが,時として攻撃的となるという状況で,日常生活能力の程度は,精神症状が認められ,身の回りのことはかろうじてできるが,適当な援助や保護が必要であり,労働能力はなかった(甲1)。
(5) 原告は,20歳となった際(昭和55年3月○日),大学在学中で,当時施行されていた昭和60年改正前国民年金法7条2項8号の規定により国民年金の被保険者に当たらず,国民年金につき任意加入の申出もしていなかったが,平成10年10月8日,東京都知事に対し,障害基礎年金の裁定の請求をしたところ,平成11年1月28日付けで同知事から,障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けた。
 その後,原告は,同年2月19日,審査請求をして,平成12年1月31日付けで棄却裁決を受け,同年2月29日,再審査請求をしたが,平成13年4月27日付けで棄却裁決を受けた。
(6) 地方分権の推進を図るための関係法令の整備等に関する法律(地方分権一括法。平成11年法律第87号。平成12年4月1日施行)により,機関委任事務が廃止され,本件処分につき処分権限を有する者は,東京都知事から被告社会保険庁長官に変更された。
3 争点(争点に関する当事者の主張は,必要な限度で後記「争点に対する判断」において摘示するが,その詳細については,別紙記載のとおりである。)
(1) 本件処分の取消請求関係
ア 拠出制障害基礎年金を支給すべきことを理由とする取消しの可否(本件処分の根拠法令又は本件処分自体が,憲法14条,25条又は31条に違反し,それが取消事由となるか否か。)
イ 20歳前障害基礎年金を支給すべきことを理由とする取消しの可否(国民年金法30条の4に定める「初診日」の要件の解釈及び類推適用等)
(2) 国家賠償請求関係
ア 立法行為(昭和34年制定の国民年金法又は昭和60年法について)又は立法不作為(昭和60年法の制定以降,救済措置を講じなかった点の不作為)の違法性の有無(本件処分の根拠法令が憲法14条,25条等に違反するか否か,国会議員の立法義務違反又は内閣の法案提出義務違反の有無)
イ 国会議員又は法案を提出した内閣の故意,過失の有無
ウ 上記立法行為又は立法不作為による原告の精神的損害の有無
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)ア(拠出制障害基礎年金を支給すべきことを理由とする取消しの可否)について
原告は,本件処分の根拠法令とされた国民年金法は,20歳以上の学生について,拠出制障害基礎年金の強制適用の対象から除外する(昭和60年改正前国民年金法7条2項8号)一方,保険料免除制度等のない任意加入の制度しか利用できないものとしていた点(国民年金法附則(ただし,昭和60年法律第34号による改正前のもの)6条,国民年金法附則5条1項1号(ただし,平成元年法律第86号による改正前のもの),2項において,20歳以上の学生を,その身分により不合理に差別するものとして憲法14条に反するから,本件処分は,根拠法令又は本件処分自体の憲法14条違反を理由に取り消されるべきである旨主張する(なお,この点に関し,被告らが,任意加入制度の存在を理由に本件処分の適法性を主張することは,信義則に反する旨主張する。)。また,本件処分の根拠法令又は本件処分は,憲法25条に反すると共に,前提となる任意加入制度の告知・広報等が不十分であった点で,憲法31条等に基づく周知義務にも反する処分として,取り消されるべきである旨主張する。
そこで,検討するに,原告は,処分要件の判断の一部にでも憲法違反が存する以上,本件処分は取り消されるべきであるとするが,そのような取消しがされただけでは障害基礎年金の請求が具体的に可能となるわけではなく,結局,障害基礎年金の裁定は,裁定の請求者にとって,社会保障的見地から行われる受益的な行政処分であることから,裁定の請求に対して不支給処分がされた場合には,これを争う原告の側で,裁定の積極的要件を主張,立証することを要することにならざるを得ない。そして,国民年金法30条1項は,初診日に当該裁定の請求者が国民年金の被保険者であることと共に,所定の保険料を納付していることを要件として規定しているところ,原告においては,本件処分の根拠法令が違憲であると述べるにとどまり,原告が,本件処分時において,拠出制障害基礎年金の支給要件である保険料納付要件を満たしていたとの主張・立証は全くなく,むしろ,弁論の全趣旨によれば,同要件を満たしていなかったことが認められる。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告に対して拠出制障害基礎年金を支給すべきことを理由に本件処分を取り消すことはできないというべきである。
2 争点(1)イ(20歳前障害基礎年金を支給すべきことを理由とする取消しの可否)について
(1) 原告の病状の経緯
 前記前提事実並びに証拠(甲1,51ないし54,証人N)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告(昭和35年3月○日生)は,同年2月23日に皇太子浩宮が誕生したことにちなんで,「b」と名付けられ,幼少時より,両親から,「大きくなったら,この人のように偉くなるんだよ。」と言われて育った。小学校時代から,内向的な性格で,いじめを受け,自分が優等生になることでいじめを回避しようと考えるが,担任教師からは協調性がないとの評価を受け続け,小学校4年時には,病的に落ち着きがなく,将来が心配であるなどと指摘されていた。
イ 原告は,都立t高校に進学後,両親の勤務先会社が倒産し,そのころから別途共働きを始めた両親が不仲となり,父親が母親に暴力を振るうようになったとして,父親に対する不信感を強め,自分には勉強しか頼るものがなく,優れた大学に入学し,エリートとなるしかないなどと考え,受験勉強を重ねた。しかし,昭和53年春に受験した第1希望の東北大学に不合格となり,東京農工大学(製糸工学科)に合格したものの,自分にふさわしくないと考え,東京大学,T大学クラスの難関大学に合格しなければならないという思いから,1浪して予備校に通い,翌昭和54年春,T大学と早稲田大学に合格し,同年4月にT大学2類に入学した。
ウ 原告は,高校2年生のころから,自分は天才であると信じるようになり,昭和54年春,早稲田大学商学部で入試問題漏洩事件が生じたことが報道された際も,原告が同大学に合格していたことから,自分が国にとって非常に重要な人間であり,世間の多くの親が原告と同じ難関大学に合格させようとしたために上記事件が起きたなどと考えた。
エ 原告は,大学入学後の昭和54年5月,社会心理学の授業を受講中,「天才は自分が天才と分かったときから不幸になる」と聞いて,自分は天才であると思った。また,そのころ,吉祥寺駅に行った際,女子学生が多数集まっているところを見て,自分がどれだけ天才であるかを実験されていると感じたりした。
 原告は,大学入学後,オーケストラに所属してチェロを弾き始め,同月からは,チェロの購入費等を賄うため,家庭教師のアルバイトを始め,実験とオーケストラの練習,アルバイト等で帰宅が午後10時を過ぎる生活を送るようになった。
 そして,上記アルバイト先の生徒の姉からコンサートのチケットをもらったことなどから,同女に恋愛感情を抱き,その際,この人こそ,bすなわち自分にふさわしい女性であるなどと思った。同年夏に同女とコンサートに行った際には,緊張して話ができなかったが,アルバイト先で生徒が泣いているのを見た際に,生徒が医学部に入れば2人が結婚できるのに,合格できないから実現できないと思い,原告のために泣いてくれていると解釈したりした。
オ 原告は,通学の便宜から,昭和55年2月,親元を離れてアパートで一人暮らしを始め,同年3月○日に20歳となり,同年4月に大学2年に進級したが,大学1年生の時の成績が良くなかったことから,希望の学部には進めなかった。
カ 原告は,昭和55年夏にも,上記アルバイト先の生徒の姉とコンサートに行くなどしたものの,その後会ってもらえなくなり,昭和56年3月ころには,家庭教師も辞めるに至った。
キ 原告は,そのころ,自分が本当の皇太子であり,民間から皇太子になれたのだから,今度は民間から天皇を作るのだなどという強い妄想にとらわれ,昭和56年5月24日,新大阪から飛行機に乗ってニューヨークに行くよう命じられたという幻覚(幻聴)に反応して,東海道新幹線に無賃乗車をした。しかし,JR名古屋駅で興奮状態のところを保護され,迎えにきた両親に引き取られて帰宅し,同月27日,家族に連れられ,近所の病院を経て青梅市立総合病院を受診した結果,悪性症候群と診断され,同病院が満床のため,東青梅病院(現在の青梅坂本病院)に入院した。
  原告の同日における症状は,前記前提事実(3)のとおりであり,上記悪性症候群は,統合失調症(精神分裂病)と合併して発症したものであったが,原告に対しては,病名は心因反応と伝えられたにとどまり,精神分裂病と知らされたのはその約10年後のことであった。
ク 原告は,昭和56年7月まで東青梅病院に入院の後,青梅市立総合病院に転院し,薬物療法や精神療法を続けたが,その症状は一進一退の状態で,同月から昭和57年3月まで,昭和60年3月から昭和61年2月まで,平成元年10月から平成2年2月まで,平成6年10月から同年11月までは同病院に,平成7年2月から同年4月までは東青梅病院に,平成9年5月から同年7月までは青梅市立総合病院に,それぞれ入退院を繰り返した末,同月から平成10年3月まで同病院で外来治療を受け,同年4月からYメンタルクリニックを受診しており,原告の同年8月15日時点の症状は,前記前提事実(4)のとおりである。
ケ 原告は,現在,地元の保健所でデイケア活動を利用すると共に,精神障害者の作業所で社会復帰のためのトレーニングをしているが,作業所での収入は多くとも月3万円ないし5万円であり,平成14年ころから親元を離れ,生活保護を受けて生活をしている。原告の父親は,現在80歳を越え,母親も80歳近くで,年金で生活している。
(2) 医学的見地からみた統合失調症
  証拠(甲57,58,乙37,証人N)によれば,統合失調症に関して,医学的見地から次の事実が認められる。
ア 統合失調症(精神分裂病)は,素質や遺伝等による内因性の精神病で,主として青年期に発病し,しばしば進行性に経過し,末期には特有の残遺状態を残す可能性をもつ疾患であり,精神病のうちで発生頻度の高い疾患の一つとされ,大部分は15歳から35歳までに発病し,最も多いのは17,18歳から26,27歳までの約10年間であるとされ,その病因については,遺伝子,胎生期,発育期の遺伝子変異,感染,外傷,中毒等さまざまな原因で脳に軽度の機能的あるいは形態的な障害をもち,社会心理学的要因や身体的要因が関与して,主に思春期以降に発病するとされている。
イ 統合失調症の症状としては,妄想,幻覚(幻聴等)と病識の欠如に特色がある。統合失調症の経過は,通常,前駆症状として,抑うつ気分,思考力低下,頭重,倦怠感,易疲労感,不眠などを訴え,口数が減少し,行動が不活発になり,登校や通勤が不規則となったり,家に閉じこもりがちになるなどして,神経衰弱様状態を呈し,強迫症状,抑うつ状態を示すこともあるが,統合失調症に特徴的な症状は出現せず,この時期に診断を受けた場合には,不登校,神経症性障害,うつ病などと診断されやすい。このような状態を数日ないし数年間経過するうち,統合失調症に特徴的な症状が現れる。急性期の症状としては,不安緊張状態や,表情が硬く,冷たくなり,話し掛けに応対しなくなるなどの症状,妄想,思考の障害,幻覚(幻聴や幻視,幻臭等),自我意識の障害,感情の障害(無関心となり,服装等が乱れる等),意欲や行動の障害(引きこもり等)等が発現するとされており,前駆症状を経ずに急性期の症状が発現する場合,いつとはなしに急性期の症状が徐々に増強する場合もある。初期症状の段階では,思春期,青年期の悩みと病的な症状との区別が困難で,発病の診断は,種々の症状を基に,事後的,総合的判断によって行われるのが通常であり,現在使用されている診断基準としては,国際疾病分類(ICD-10)の診断基準等がある。
(3) 支給要件の充足性と問題の所在
 ア 昭和56年5月の治療開始後間もないころから現在まで,原告の主治医として診療を担当してきたY医師の意見書(甲60)は,症状の内容や事後の経過からみて,同月の診療の時点において既に相当程度病状が進行しており,20歳になる前の大学1年生の時点で,自分は皇太子であり,天才であるという妄想着想が現れていることなどの事情を総合すると,遅くとも原告が20歳となった日(昭和55年3月○日)より前の19歳の時点で,統合失調症を発病し,精神科的な治療的介入が必要と認められるとしているところ,前記(1)及び(2)に照らしても,この判断が十分合理的であるということができ,その旨認定することができる。
イ なお,甲1(診断書)には,昭和56年5月27日の診断時に傷病の発生日として同月24日と記載されているが,上記Y医師の意見書に照らすと,上記甲1の記載部分は,同月27日の診断の時点において,厳密に発病の時点を明らかにしたものというより,急激な幻覚妄想に反応して新幹線に無賃乗車をした日を記載したものとみることができるから,これにより上記アの判断が左右されるものではないというべきである。
ウ そして,前記前提事実(3)及び(4)並びに前記(1)の事実によれば,原告は,統合失調症について初めて医師の診療を受けた日(昭和56年5月27日)から1年6月を経過した昭和57年11月28日の時点において,障害等級に当たる障害を負っていたかは必ずしも定かでないが,65歳に達する前に,障害等級に当たる障害を負うに至っており,その障害は,上記統合失調症に起因するものと認められ,20歳前障害基礎年金の支給要件とされる所得制限の要件についても,これを満たしていると認めることができる。
エ もっとも,前記(1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,20歳到達後の昭和56年5月27日に医師の診断を受けるまで,統合失調症に起因する症状について医師の診療を受けていないことが認められる。
 そのため,被告らは,原告が国民年金法30条の4に規定する「初診日」の要件を満たさないと主張するのに対し,原告は,20歳となる前に医師の診療を受けるべき状態にあったから,上記支給要件を満たす旨主張している。
オ そこで,問題は,上記事実関係の下で,原告が,本件処分当時,国民年金法30条の4に規定する20歳前障害基礎年金の支給要件のうち,「初診日」の要件を満たしていたと解し得るか否かである。
(4) 国民年金法30条の4の「初診日」要件の解釈
   ア 規定の文言との関係
(ア) 国民年金法30条の4は,20歳前障害基礎年金の対象を,「疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者」と規定し,「初診日」の定義については,同法30条1項が,拠出制障害基礎年金の支給要件について定める中で,「疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」と規定している。
(イ) そうすると,上記規定上の文言から形式的にみれば,原告は,国民年金法30条の4に規定する「初診日」の要件を満たすものではないといわざるを得ない。
 しかしながら,昭和34年に国民年金法が制定された当時,そもそも,「精神障害」は「障害年金」の対象とされておらず,これを障害年金の対象とした昭和39年法律第87号による国民年金法の改正時に,精神障害における特性との関係について厳密に検討した形跡はない。したがって,上記規定の文言について例外的な拡張解釈の余地を全く許さない趣旨かどうかは,立法の経過に照らしても明白とはいえない。また,一般的に言って,当該例外を認める必要性が高く,当該規定の趣旨自体に当該例外を許す根拠を見いだすことができ,かつ,例外的な解釈を行うことにより,関係規定等に照らして,許容し難い弊害や問題が認められない特段の事情がある場合には,目的論的解釈の一環として,当該規定の適用範囲を拡張して解することも許されるというべきである。そこで,本件においても,このような見地から,更に検討を尽くすことが必要と考えられる。
イ 拠出制障害基礎年金と20歳前障害基礎年金の支給要件と「初診日」要件の趣旨
(ア) 国民年金法30条に基づく拠出制障害基礎年金は,傷病に起因する障害により稼得能力の全部又は一部を失った者に対し,保険の原理に依拠して,その稼得能力の喪失に対する補償をすることを目的とする制度である。これに対し,同法30条の4に基づく20歳前障害基礎年金は,被保険者資格を取得することができない20歳未満の時期の傷病に起因する障害によって稼得能力を喪失した者について,福祉的見地から,その稼得能力の喪失に対する補償をすることを目的とする制度であり,拠出制障害基礎年金の制度を補完するものと位置付けられ,憲法25条を具体化した国民年金法1条の目的にそうものといえる。
(イ) 拠出制障害基礎年金と20歳前障害基礎年金の両制度は,いずれも,その支給要件を「初診日」との関係によって判定することとし,当該傷病に係る初診日が20歳以上の時点であるか否かによって,いずれの制度が適用されるかを区分している。これは,国民年金の保険者が,傷病の発生時期を認識する資料を有しないことにかんがみ,医学的見地から,認定の客観性,公平性を期すと共に,裁定の請求段階での無用の争いを回避し,迅速な認定を可能にするため,初診日をもって傷病の発生日ととらえる趣旨と解される。
 この点に関しては,立法担当者の国民年金法30条に関する解説書にも,国民年金に関しては,(昭和60年改正前の)厚生年金保険における「被用者のごとく一定の職場において健康管理が行われ,また,医療保険による保障が行われている場合と異なり,本法(国民年金法)の適用者については,傷病がいつ発生したかを把握することは技術的に困難であるからである。」と記載されていること(乙6)からも裏付けられるところである。
(ウ) さらに,拠出制障害基礎年金の支給要件については,初診日に国民年金に加入していることが要求されており,これは,障害の原因となる傷病が発生してから保険に加入した者に保険給付を行っては,拠出制の年金保険制度自体が存立し得ないためと解される。すなわち,障害基礎年金は,障害という保険事故に対する保障を目的とするものであることからすると,障害の発生時に被保険者であることを要件とすることも考えられるが,拠出制障害基礎年金制度は基本的に保険の原理に依拠したものであり,保険事故発生の可能性が高くなってから保険に加入すること(いわゆる逆選択)を認めることは,制度上認め難いことによるものと解される。
(エ) 以上によれば,国民年金法30条1項及び同法30条の4が,拠出制障害基礎年金及び20歳前障害基礎年金の支給要件の判定日を,障害を負った日又は傷病の発生日ではなく「初診日」と規定しているのは,障害基礎年金の支給の可否を判断する行政庁において,医学的見地から,当該障害の原因となる傷病の発生を判断するに足りる客観的資料を入手する必要があるというだけでなく,傷病を負った場合には本人において自ら又は周囲の者の協力を得て,速やかに医師の診療を受けるのが通常であり,傷病に起因する症状の発現から受診に至る過程に恣意や偶然性による長短が生ずる可能性が少なく,発病の日と初診日がおおむね接着していて,いわゆる逆選択が認められる余地が類型的に乏しいことを基礎とするものとみることができる。
(オ) したがって,「初診日」を障害基礎年金の受給資格判定の基準日とすることは,このような医学的基礎を有する点においては,一般的には合理性があるということができるが,反面,傷病の特質等に照らして,このような医学的基礎を有するとは認められない場合には,国民年金法30条1項及び30条の4の規定の趣旨自体からみて,「初診日」を形式的に解釈することについて合理性を欠くこととなり,例外的に拡張解釈を許容する余地があるということができる。
(カ) もっとも,前記(ア)によれば,20歳前障害基礎年金は,拠出制障害基礎年金の支給が受けられる可能性が否定される場合にこれを補完する関係にある。このような制度の構造に照らすと,上記のような拡張解釈が認められるかどうかを判断するに当たっては,当該傷病の特質に加え,20歳前に当該傷病を負った学生について,国民年金に任意加入することによって拠出制障害基礎年金の支給要件を満たすことを期待することができたかどうかを更に検討することが必要であり,また,国民年金法上「初診日」を基本的要件とする他の規定が存在することから,これらの規定の解釈との関係でも問題がないかを検討することが必要である。 そこで,以下,このような見地から更に検討を進める。
ウ 統合失調症の特質
(ア) 前記(2)並びに証拠(甲49,59)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。すなわち,統合失調症は,これを発病した本人においてその症状自体を認識していても,自らが病気であるとの認識(病識)を有しないのが通常であるため,発病後速やかに自発的に医師を受診することを期待できず,しかも,発症時期が青年期と重なることが多く,そのような時期に発病した場合には,本人と同居し,近隣に居住する家族が存在する場合でも,発病後早期の段階で,青年期特有の症状(病気の範疇に入れられない程度のもの)と区別することが困難であり,仮に家族が本人の症状を認識した場合でも,精神分裂病であることを受け入れることが心情的に容易でない。そして,昨今精神障害者のノーマライゼーションが唱えられているとはいえ,少なくとも平成元年法施行前の状況下においては,なお精神分裂病に対する偏見が根強く存在したとみられ,家族も当該疾病に罹患していることを否定したい心情に駆られがち(しかも本人は病識に乏しい。)で,医師においても,このような状況を背景に,本人や家族に対する病名告知もはばかる傾向があり,病識のない本人を精神科や精神病院に連れて行くことにも通常の疾病とは異なる困難を伴う結果,医療的措置を受けることなく,家族において患者を抱え込み,相当程度症状が進行した段階で医師の診療を受ける例もあるなど,発病から初診まで数年単位で長期化する例も少なくない。
 こうした統合失調症の特質は,病因や症状等の個人差にかかわらず,相当程度類型的なものということができ,本件原告の病状の経緯(前記(1))にも,このような特質が現れているといえる。
(イ) このように,統合失調症については,発病から医師の診療を受けるまでの期間が,患者本人や家族の偶然的な判断,行動に左右され,長期化する傾向もあることから,初診日をもって画一的に発病の日とみることは,医学的見地からみて一般的に合理性があるとはいい難く,初診日の要件の本来の趣旨に合致しないというべきである。むしろ,20歳前障害基礎年金の支給要件に関しては,医師の診断等により,医学的にみて,医師の診療を必要とする状態に至った時点と解することが,医学的見地からのみならず,一般社会通念からもより合理性,客観性があり,公平といえる。
(ウ) 知的障害及び先天性の身体障害の取扱いとの対比
 知的障害及び先天性の身体障害については,初診日のいかんにかかわらず(初診日が20歳以後であっても),一律に,疾病等にかかりその初診日において20歳未満であった者として,平成元年法30条の拠出制障害基礎年金ではなく,昭和60年改正前国民年金法57条に基づく障害福祉年金を支給するという取扱いが,昭和40年法律第93号による改正以後の国民年金法により精神薄弱(現在の呼称は知的障害)が障害年金の対象となる傷病とされた後の行政実務の運用とされており,昭和60年法の下では,上記障害福祉年金が同法30条の4に基づく20歳前障害基礎年金とされて,同様の運用がされている。これは,知的障害等については,20歳前に発症したことが医学的に明白であり,医師等による診療という客観的事実を基準とせずとも,国民年金法30条1項の趣旨に反しないことから,障害年金の支給対象とされているものであると説明されている(甲63,64,弁論の全趣旨)。
 また,昭和40年法律第93号による改正前の国民年金法は,精神薄弱(知的障害)を,「障害年金」の対象となる傷病から除外しており,その立法理由については,先天的又は乳幼児の後天的な原因により精神の発達が遅れたものであって,被保険者となった後の障害について保険することを建前とする拠出制年金制度になじまないからであると説明されていた(乙10の1)。
 このような行政実務の運用等も,「初診日」の文理が,規定の趣旨に照らした例外的な解釈の余地を絶対的に排除するものではないことを示すものといえる。
エ 国民年金に任意加入することの期待可能性 
(ア) 20歳前障害基礎年金については,拠出制障害基礎年金に任意加入することができない場合の補完的な性質を有するものであるところ,20歳以上の学生については,任意加入の申出をすることにより,申出をした日に被保険者資格を取得することができるとされていたこと(国民年金法附則(ただし,昭和60年法律第34号による改正前のもの)6条)から,原告のように,20歳前に統合失調症を発症した場合でも,20歳到達以後に国民年金に任意加入することによって拠出制障害基礎年金を受給できたとすると,福祉的,補完的見地からする救済の必要があるとはいえないのではないかが問題となる。
(イ) しかし,原告のように,20歳前に統合失調症を発病した者が,20歳到達以後に国民年金に任意加入し,医師の診療を受けた場合について考えてみると,このような場合に拠出制障害基礎年金の対象とすることは,保険の原理を基礎とする年金制度において,保険事故発生の可能性が高まってから保険に加入すること(いわゆる逆選択)を広く認めることにつながり,本来拠出制障害基礎年金の制度にはなじまないといえる。
上記のような場合にも拠出制障害基礎年金の支給を認めようとするならば,結局,統合失調症の疾病としての特質を理由とすることが必要となるものであり,そのような理由によって保険の原理からは本来許容し難い例外を認めるのであれば,むしろ,社会保険制度では保障から漏れる部分を補完して,制度の対象と解することの方が,社会保険の社会保障としての制度趣旨に即した解釈ということでは一貫し,より合理的というべきである。
(ウ) 原告が国民年金に任意加入していなかった背景にも,上記のような制度上の問題が存在し,仮に任意加入が抽象的に可能であったとしても,具体的な加入可能性については不分明で,公報等による周知や各種解説又は個別の教示によって,原告のような者の場合に,国民年金に任意加入することにより,障害基礎年金を受給し得ることが明確にされていたと認めるに足りる証拠はない(かえって,東京都や原告の居住する特別区や社会保険協会の発行に係る広報誌中には,単に「20歳前の病気やケガで障害になった人でも,20歳になると障害基礎年金が受けられます。」と記載された部分があり(乙19の3及び4),この部分は,20歳前に医師の診療を受けなくても障害基礎年金の支給を受けられるかのようにも読める。)。このような状況の下で,20歳前に既に統合失調症を発病している原告のような者に対し,その本人の認識能力の点をおいたとしても,国民年金に任意加入することを当然に期待できたということはできない。
(エ) なお,昭和60年法及び同法附則は,学生を保険料の拠出能力が類型的に認められないという理由により強制加入から排除し,任意加入の余地を認めるにとどめており,任意加入の場合に保険料の免除又は猶予(追納)の制度がなく,保険料を継続して支払うことが義務付けられていた点で,学生にとって,もともと選択肢がかなり制約されたものであったといえる。このような学生の取扱いの趣旨は,学生が一般に保険料の拠出能力を有さないことを根拠に,強制加入が保険料(なお,国民年金が基本的には老齢年金を中心とした制度として保険料が設定されている。)の強制徴収を意味することから,学費を負担する親の負担増の問題を軽視できず,学生の老後のために親が保険料を当然に拠出することも問題視されたことや,学生の多数が,大学卒業後会社に就職して被用者保険に加入することが多く,自らの保障を厚くしたいと考える場合に加入を認めれば足りると考えられたことによるものとみられる(乙8,9の1,10の1)。
 そして,昭和60年法附則4条は,国民年金制度における学生の取扱いについて,「学生の保険料負担能力等を考慮して,今後検討が加えられ,必要な措置が講ぜられるものとする」と規定していた上,平成元年法により学生が強制加入の対象とされたことからすると,原告のように,20歳前に統合失調症を発病している者については,将来就労して被用者保険に加入する可能性も低いといわざるを得ない点で,学生を国民の強制加入の対象から排除していた平成元年改正前とは前提を異にする面があり,親の負担も,本人の学生時代の障害という不測の保険事故に備えるものである点で,老後に備えるための老齢(基礎)年金を念頭に置いた議論がそのまま妥当するものではない。
   オ 国民年金法上「初診日」を要件とする他の規定の解釈 
(ア) 障害等級該当性の認定の基準日(障害認定日)(事後重症制度を含む。)
 障害等級該当性の認定の基準日について,国民年金法30条1項は,「当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により」障害等級1級又は2級「に該当する程度の障害の状態にあるとき」と規定し,国民年金法30条の4は,「障害認定日以後に20歳に達したときは20歳に達した日」,「障害認定日が20歳に達した日後であるときはその障害認定日」と規定し,それぞれの場合について事後重症制度が設けられており(同法30条の2,30条の4第2項,第3項),「初診日」の要件は,障害等級の認定の基準日(障害認定日)を特定する機能を有している。その趣旨は,疾病の治癒又は症状の固定前であっても,合理的期間内に,当該傷病と障害との間に因果関係が認められる限り,障害基礎年金の支給を認めるところにあると解することができる。そして,事後重症制度が設けられていることも併せ考慮すると,当該傷病が統合失調症である場合に,これと障害との間の因果関係の有無を判断するために,当該統合失調症に起因する症状について現実に医師の診療を受けた「初診日」を基準とすることには合理性が認められる。この判断の基準日を「医師の診療を必要とする状態に至った日」にさかのぼらせなければ,社会保険としての拠出制障害基礎年金制度と整合した障害基礎年金の支給ができないわけではなく,この関係において,国民年金法の趣旨に照らして「初診日」の文理を拡張して解釈する必要性があるということはできない。
(イ) 被保険者期間及び保険料納付要件
 国民年金法30条1項は,拠出制障害基礎年金の支給要件につき,「当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないとき」と定め,初診日前に,一定の期間被保険者であること及び保険料を納付していることを要件としている。これは,いわゆる逆選択の防止の見地から,初診日前に被保険者であることを要求すると共に,政策的に,障害補償年金給付の要件として一定の保険料納付の実績を要求する趣旨によるものと解される。裁定の請求者が20歳となった後に発生した傷病を理由に拠出制障害基礎年金を請求する場合には,その者が20歳前障害規定の適用を受ける余地はない。また,通常,保険料納付に関する要件を判断する基準日が後であるほど,その要件を満たす可能性が大きくなることから,当該傷病が統合失調症の場合であっても,初診日を保険料納付に関する要件とすることに合理性があるということができ,同法30条の4の要件該当性の判断の基準の場合と異なり,社会福祉的見地から解釈を補完する必要性があるとはいい難い。
 もっとも,請求者にとって,保険料納付に関する基準日を,初診日より前の発病日にさかのぼらせることが利益となる場合もあり得ないではないが(被保険者(加入)の要件の期間を短くすることにより保険料納付要件を満たすことになる場合等),その程度の利益によって,文理を拡張して解釈する必要性があるとはいえない。
(ウ) 併合障害の認定(国民年金法30条の3第1項,第2項)
国民年金法は,「基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが,基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において,初めて,基準傷病による障害(以下この条において「基準障害」という。)と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとき(基準傷病の初診日が,基準傷病以外の傷病(基準傷病以外の傷病が2以上ある場合は,基準傷病以外のすべての傷病)の初診日以降であるときに限る。)は,その者に基準障害と他の障害とを併合した障害の程度による障害基礎年金を支給する。」と規定する(同法30条の3第1項)と共に,「第30