hanrei @Wiki H17. 9. 8 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第961号 殺人未遂,監禁被告事件



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殺意,殺人の共謀を否認(未必の殺意及び共謀を認定)


主文
被告人を懲役4年6月に処する。
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。
押収してある鉄パイプ1本(平成16年押第102号の3)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成16年6月5日,兵庫県A市B町Ca番地b所在の居酒屋甲店内において,隣席に座ったD,E及びFらから自己らが所属していた暴走族グループの悪口を言われたことなどに憤激した分離前共同被告人Gに呼び出されたことから,同H,同I及び同Jと共に相前後して同店前に集まり,G並びに当初からGと一緒にいた同K及び同Lに合流したものであるが
第1 D,E及びFに制裁を加えるに当たり,同人らが死亡するかもしれないがそれでも構わないと決意し,上記各分離前共同被告人と共謀の上
  1 同日午後9時50分ころ,上記甲店前駐車場において,上記D(当時31歳)に対し,H,G及び被告人が,その全身を多数回にわたって手拳で殴打し,足で蹴るなどの暴行を加え,さらに,同日午後10時10分ころ,B町Mc番地d所在の乙橋西詰め先路上において,Gが所携の刃物様のもので上記Dの顔面及び左大腿部等を刺すなどしたが,上記Dに入院加療77日間を要する顔面,左上腕及び左大腿刺傷,左眼窩底骨折,右第9肋骨骨折並びに左膝窩動脈外傷性仮性動脈瘤等の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するに至らなかった。
  2 同日午後9時50分ころ,上記甲店前駐車場及びB町Ce番地f所在の株式会社丙店(以下「丙」という。)敷地内において,上記E(当時29歳)に対し,I,J,G及びLが,所携の金属バットを用いるなどして,その全身を多数回にわたって殴打し,足で蹴るなどの暴行を加え,さらに,同日午後10時10分ころ,上記乙橋西詰め先路上において,Gが所携の刃物様のもので上記Eの両上腕及び両大腿部等を刺すなどしたが,上記Eに入院加療約41日間を要する頭部挫滅創,左第8・9肋骨骨折,肝損傷及び両大腿両上腕刺創等の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するに至らなかった。
  3 同日午後9時50分ころ,上記甲店前駐車場において,上記F(当時29歳)に対し,G,K及びLが,所携の鉄パイプを用いるなどして,その全身を多数回にわたって殴打し,足で蹴るなどの暴行を加え,さらに,そのころ,同所から上記乙橋西詰め先路上までの間において,Gが所携の刃物様のもので上記Eの前額部及び右大腿部等を刺すなどしたが,上記Fに加療約24日間を要する前額部,右大腿部刺創,上門歯損傷,外傷性頸部症候群及び左肋骨右大腿打撲の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するにいたらなかった。
第2 上記D,E及びFを不法に監禁しようと企て,上記各分離前共同被告人と共謀の上
  1 同日午後10時ころ,上記甲店前駐車場において,上記Dを同所に駐車中の被告人運転の普通乗用自動車の後部座席に押し込み,直ちに同車を発進させ
  2 同日午後10時ころ,上記株式会社丙店敷地内において,上記Eを同所に駐車中の上記普通乗用自動車の後部トランク内に押し込み,直ちに同車を発進させ
  3 同日午後10時ころ,上記甲店前駐車場において,上記Fを同所に駐車中のI運転の普通乗用自動車の後部座席に押し込み,直ちに同車を発進させ
  上記各普通乗用自動車を上記乙橋西詰め先路上まで約6.9キロメートル疾走させ,同日午後10時10分ころまでの間,約10分間にわたり上記D,E,Fを上記各自動車後部座席内又は後部トランク内に閉じ込めて脱出することを不能ならしめた。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
 省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,判示第1の各犯行について,被告人には殺意及び殺人の共謀がなく,傷害罪が成立するにとどまると主張するが,前掲関係各証拠によれば未必の殺意及びこれを前提とする殺人の共謀を認めるに十分である。以下,補足説明する。
2 関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
 (1) 被告人らは,いずれも暴走族N会のメンバーであったものであるが,そのうちG,K及びL並びにOが,本件事件当日午後7時ころから甲で飲食を始めたところ,隣席にいたD,F及びEらが,N会が他の暴走族に潰されたとか,その統率者であったGが何もしなかったとかの発言をするなど,Gらを挑発するような言動をしたことから,これを聞いたGは,激高してDらに制裁を加えようと企て,凶器を持って甲前に集まるよう,J,I,H及び被告人らに直接又は間接に連絡した。J及びIが金属バットを,Hが木製バットを,被告人が鉄パイプを所持して甲前に集合したところ,GがDらの言動を被告人らに伝えた上で,「いわしてしまえ。」などとDらに攻撃を加えるよう指示したことから,これに応じた被告人らは,上記の凶器を手にして,Dらが甲から出てくるのを待ち構えた。
 (2) Dは,甲から出てきたところを手拳で一回殴打され意識を失って倒れ込み,同人をかばおうとその上に覆いかぶさった交際相手の女性もたちまち引き離されてしまい,腹部等を多数回足蹴にされるなどした後,普通乗用自動車(車種P。以下「P」という。)の後部座席に積み込まれ,更に顔面を多数回殴打された。
   Fは,甲から出てきたところを手拳で1回殴打され意識を失って倒れ込み,顔面を1回蹴り付けられ,腹部を鉄パイプで殴打され,足蹴にされた後,普通乗用自動車(車種Q。以下「Q」という。)の後部座席に積み込まれた。
   Eは,甲駐車場において金属バットで頭部を1回殴打されたため,丙方向に逃げ出したが,同店敷地内において金属バットで頭部を数回殴打され,さらに,頭から出血させながら逃げたものの,金属バットで頭部や腹部等を多数回にわたり殴打されて倒れ込み,意識がもうろうとなった状態で腹部等を足蹴にされ,Pの後部トランク内に押し込まれた。
 (3) E及びDを積んだPがR町方面に向かい,その後方をFを積んだQが追走していたところ,上記乙橋付近において,DがPのドアを開けて逃げようとしたことから,P及びQは停車した。その後,Gは,所携の刃物様のものを用い,Dの左上腕部や左大腿部等を突き刺した上,顔面をえぐるようにして切り裂き,Fの前額部及び右大腿部を突き刺し,Eの両上腕及び両大腿部等を突き刺すなどした。
 (4) 上記暴行の結果,D,F及びEは判示の各傷害を負ったが,Dは血液の約3分の1が流出したため失血死の一歩手前の状態であり,Eの頭部の損傷は頭蓋骨が見えるほどのものであった。
3 検討
  以上の犯行に至る経緯及び動機,凶器の性状及び使用状況,犯行前の集合状況及びGによる指示の状況,攻撃態様並びに被害者に生じさせた傷害の程度,とりわけ,無抵抗のEの顔面や腹部に金属バットを用いて強度の攻撃を執ように加えているところ,上記の犯行に至る経緯からすると,Eが最初の一撃で倒れることなく逃げ出したという点を除けば,被告人らにEのみを特別敵視するような事情はなかったこと,被告人,H,J,K及びLが,それぞれ捜査段階において,Gから攻撃を指示された時点で未必の殺意を有していたと供述していることなどを併せ考慮すると,Gによる刺突行為及びそれによる傷害結果を考慮の対象から除くとしても,被告人らとしては,Gから攻撃を指示された時点において,殺傷能力十分な凶器で被害者3名に容赦ない暴行を加え,その結果生じるかもしれない被害者の死亡結果をも認容する旨,他の共犯者らとの間で意思を相通じていたとみるのが相当であり,以後はこの共謀に基づき判示各犯行に及んだものと認められる。もっとも,本件は計画的なものではないこと,その動機もN会の悪口を言われたことに対する制裁であって,確定的ないし意欲的な殺意を抱くに十分なものとまでは認められないことなどに照らすと,上記のとおり,被告人らの殺意は未必的なものにとどまるとみるのが相当である。
  なお,被告人の公判供述中には,殺意がなかったと述べている部分もあるけれども,その趣旨は積極的な殺害の意図や意欲はなかったというにあり,未必の殺意を認めている捜査段階の供述を実質的に否定したり,上記認定に反するものとは解されない。
4 以上のとおり,被告人らの間においては未必的な殺意の限度で共謀が成立していたと認められるから,弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
被告人の判示第1の1ないし3の各所為は,いずれも行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法60条,203条,199条に,裁判時においてはその改正後の刑法60条,203条,199条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときにあたるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし(有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるので,上記同様に刑法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。),判示第2の1ないし3の各所為は,いずれも行為時においては平成17年法律第66号による改正前の刑法60条,220条に,裁判時においてはその改正後の刑法60条,220条に該当するが,これについても上記同様に刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第1の1ないし3の各罪について各所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に上記改正前の刑法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中280日をその刑に算入し,押収してある鉄パイプ1本(平成16年押第102号の3)は,判示第1の3の殺人未遂の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,暴走族グループの構成員であった被告人が,他の構成員らと共謀の上,被害者ら3名に対し,未必の殺意をもって金属バット等で頭部を殴打するなどの暴行を加えたが,殺害するに至らなかった殺人未遂(判示第1の1ないし3)及び被害者ら3名を自動車に押し込んで連れ出した監禁(判示第2の1ないし3)からなる事案である。
 まず,殺人未遂について見ると,暴走族特有の論理から被害者らに制裁を加えようとした犯行動機には酌量の余地がない。金属バット等を用いて多数回にわたり一方的かつ執ように被害者の頭部等を殴打し,次いでGが無抵抗の被害者らの腕や顔などを刃物で多数回突き刺すなどした犯行態様も,極めて危険で残忍である。また,被害者らはそれぞれ重篤な傷害を負わされている上,一部の者については,現在でも嗅覚障害や歩行障害などの後遺症が残っており,日常生活で様々な不便を強いられているなど,肉体的苦痛のみならず精神的苦痛にも甚大なものがあって,被害者らは厳重処罰を強く希望している。また,監禁の違法性も小さいものではない上,暴走族グループが苛烈な一方的暴行に及んだ本件犯行が地域社会に与えた恐怖感や不安感にも大きいものがあり,社会的影響にも軽視できないものがあったと考えられる。さらに,被告人は,殺人未遂については鉄パイプで被害者を殴打するなどし,監禁についてもEをトランクに詰め込んで自動車を発進させるなど,いずれについても見逃し難い役割を果たしている。
 以上の諸事情からすれば,被告人の刑事責任はかなり重いといわざるを得ない。
 しかしながら,他方では,本件が被害者らの挑発的言動によって誘発されたことも否定できないこと,本件各犯行につき主導的な役割を果たしたのはGである上,その他の共犯者と比較しても,被告人の役割は従属的なものであったといえること,被告人は22歳と若年で,共犯者との関係を絶って遠方で居住することを誓約するなど,自己の行為を真しに振り返る姿勢を示していること,罰金前科1犯を有するにすぎないこと,実母が被告人に対する今後の監督を誓約していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの諸事情を総合考慮して,主文のとおり刑を量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成17年9月8日
神戸地方裁判所第1刑事部

裁判長裁判官  的  場  純  男

   裁判官  西  野  吾  一

   裁判官  三重野  真  人