H17. 9. 7 広島地方裁判所 平成16年(レ)第43号 賃金請求控訴事件

①各契約時に交付された書面の賃金業法17条書面該当性,②弁済の後に交付された書面の同法18条書面該当性,③同法18条書面は「直ちに」交付されたといえるか,④支払は任意のものといえるか,がいずれも認められた事案


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,貸金業者である被控訴人が,控訴人Aに対し,平成11年9月14日に150万円を貸し付け(以下,この契約を「本件契約」という。),貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)43条1項の適用を受けるみなし弁済がなされたと主張して,同控訴人及びその連帯保証人である控訴人Bに対し,それぞれ消費貸借契約及び連帯保証契約に基づき,残元金及びこれに対する平成14年9月19日から支払済みまで利息制限法所定の制限利率の範囲内である年30%の割合による遅延損害金の各支払を求めている事案である。
2 控訴人らは,原審において,①被控訴人が本件契約締結時に控訴人らに交付した書面は,貸金業法17条1項(平成11年法律第155号による改正前のもの。以下同じ。)所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)には当たらない,②銀行振込の場合には,みなし弁済規定(貸金業法43条1項)の適用はない,③被控訴人が弁済の後に控訴人Aに交付したと主張する書面は,貸金業法18条1項(平成15年法律第136号による改正前のもの。以下同じ。)所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)に当たらないし,現実にかつ弁済の都度「直ちに」交付されたとの証明がない,④控訴人らの支払は,原告の過酷かつ卑劣な営業政策によりなされたもので任意のものとはいえない,⑤利息制限法所定の制限利率を上回り,利息制限法により無効とされ支払義務のない約定利息(以下「制限超過利息」という。)の支払を遅延しても,期限の利益は喪失しないなどと主張して争った。
原審は,控訴人らの主張をすべて排斥して被控訴人の請求を認容したため,控訴人らが,これを不服として控訴し,当審においては,原審における①,③(ただし,現実に交付されたか否かの点は除く。)及び④の各主張に加え,⑥本件契約は,利息制限法によれば無効な利息の支払を,一括弁済を強要することで強制する内容になっており,支払は任意のものとはいえない旨述べ,原判決は取り消されるべきであると主張している。
3 当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実(後者は各項末尾掲記の各証拠によって認定)
(1) 当事者
  被控訴人は,平成7年12月19日に貸金業法3条所定の登録を受け,貸金業を営む法人である。
 (甲1ないし3,弁論の全趣旨)
(2) 本件契約の内容等
ア 被控訴人は,平成11年9月14日,控訴人Aとの間で,次の事項を内容とする本件契約を締結し,同人に対し,150万円を交付した(甲4)。
(ア) 契約番号 003692
(イ) 貸付金額 150万円
(ウ) 利   息 29.80%(年365日の日割計算)
遅延損害金 36.50%(年365日の日割計算)
(エ) 弁 済 期 平成11年10月から平成16年9月まで毎月25日限 り
弁済方法 元金2万5000円宛を経過利息とともに被控訴人の本・支店に持参又は郵送・口座振込の方法で支払う。
(オ) 特   約 「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。」(以下「本件期限の利益喪失条項」という。)
イ 控訴人Bは,平成11年9月14日,本件契約に基づく控訴人Aの被控訴人に対する債務を連帯保証した(甲4。以下,この契約と本件契約とを併せて「本件各契約」という。)。
ウ 被控訴人は,同日,控訴人らに対し,期限の利益喪失につき,「元金又は利息の支払いを遅滞したとき、又は債務者、保証人のうち本書条項違反及び退職、廃業、休業等あるときは催告の手続きを要せずして期限の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。但し、その他債権を害する行為あるときは催告をもって期限の利益を失います。」との記載のある貸付契約説明書(甲5。以下「本件貸付契約説明書」という。)のほか別紙1の償還表(甲6。以下「償還表」という。)を交付した。
 (甲4ないし6)
エ 控訴人Aは,被控訴人に対し,本件契約に基づき,別紙2の計算書の日付欄記載の日に,同支払欄記載の金額の金員を弁済した。
4 争点
(1) 本件各契約時に交付された書面の17条書面該当性(①)
(2) 弁済の後に交付された書面の18条書面該当性(③)
(3) 18条書面は「直ちに」交付されたといえるか(②,③)
(4) 控訴人Aによる支払は任意のものといえるか(④,⑥)
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件各契約時に交付された書面の17条書面該当性(①))について
(控訴人らの主張)
ア 原判決は,貸金業法43条1項は,利息制限法の特則で,一定の要件の下で,債権者が同法の制限を超える利息を取得することを認容するものであり,かつ,「利息の支払を怠ったとき」との合意を「利息制限法所定の制限利息の支払を怠ったとき」と限定的に解釈すべき理由はなく,そのような解釈を裏付ける事実を認めるに足りる証拠もないと判断した。
イ しかしながら,制限超過利息は無効で支払義務が存在しないとする最高裁判決(昭和44年5月27日判決)等に徴すると,債務者は債権者に対し支払期日に制限利息を支払えば期限の利益を喪失しないこととなるのであるから,本件貸付契約説明書における期限の利益喪失についての記載は,約定利息をすべて支払わなければ期限の利益を喪失する旨,顧客に弁済を強要するような,虚偽であるだけでなく,あいまいな表現を用いた契約内容が一義的に明瞭とは言い難いもので,平成12年総理府・大蔵省令第25号による改正前の貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下,貸金業の規制等に関する法律施行規則を「施行規則」という。)13条1項1号リを満たさず,このような書面は17条書面に該当しない。
(被控訴人の主張)
ア 貸金業法にみなし弁済の規定(貸金業法43条1項)が設けられているのであるから,貸金業者が契約締結の段階において制限超過利息の合意をすること自体は,同法においても,当然に予定されている。
そして,債務者に実際に合意した契約の内容を書面によって明確に知らしめることにより債務者の保護を図った貸金業法17条1項の趣旨及び「貸金業者は,貸付けに係る契約を締結したとき,(中略)その契約の内容を明らかにする書面をその相手方に交付しなければならない。」との同条項の表現等からすれば,当事者の合意した以上のことを記載することは,法や規則上何ら要求されているものではなく,貸金業者においては,制限超過利息の合意をした場合であっても,実際に債務者と合意した内容をそのまま交付書面に記載すべきであって,そのような記載は,何ら「虚偽の記載」に該当しない。
したがって,本件貸付契約説明書には,平成12年総理府・大蔵省令第25号による改正前の施行規則13条1項1号リの「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載が適法になされている。
イ 前項以外の点についても貸金業法17条1項所定の事項が適法に記載された17条書面を,被控訴人は控訴人らに対し,本件各契約時に,それぞれ交付した。
(2) 争点(2)(弁済の後に交付された書面の18条書面該当性(③))について
(控訴人らの主張)
ア 原判決は,施行規則15条2項によれば,当該弁済を受けた債権に係る貸付の契約を契約番号その他により明示することをもって,貸金業法18条1項1号から3号まで並びに施行規則15条1項2号及び3号に掲げる事項の記載に代えることができる旨定めており,契約年月日の記載がなく,契約番号しかない受取証書であっても,18条書面に当たると認めることができると判断した。
イ しかし,契約年月日の記載がなく,契約番号により契約を特定する方法は,当該契約がいつ始まったかを特定することができず,債務者の保護に欠けるものである。貸金業法43条1項の適用要件は厳格に解すべきであるところ,貸金業法18条1項が受取証書に契約年月日そのものの記載を要求していることからすれば,施行規則が契約番号で足りるとしていることは,法律の委任の範囲を超えるものであるから,契約年月日の記載がない受取証書は,契約番号の記載があっても,18条書面には該当しない。
(被控訴人の主張)
ア 施行規則15条2項は,貸金業法18条1項の委任の範囲内のものといえるし,施行規則15条2項に適合して18条書面の要件を満たしているのであれば,論理必然的に貸金業法43条1項にいう受取証書といえるのであるから,契約番号の記載のある受取証書は18条書面に該当する。
イ 前項以外の点についても貸金業法18条1項所定の事項が適法に記載された18条書面を,被控訴人は控訴人Aに対し,弁済の都度交付した。
(3) 争点(3)(18条書面は「直ちに」交付されたといえるか(②,③))について
(控訴人らの主張)
ア 原判決は,控訴人Aの銀行振込から三,四日後(遅くともそれに土日祝祭日の日数が加算された後)には,領収書兼利用明細書の交付がなされたと認めることができるとした上で,銀行振込の場合には,振込者の確認等,領収書兼利用明細書の交付のために時間がかかること,そのことを承知の上で,控訴人Aは,銀行振込の方法を選んだことなどを総合すると,前記交付は,弁済の直後になされたと認めることができると判断した。
イ しかし,貸金業者に,入金のあった日のうちに18条書面の発送を完了するよう要求しても,不可能を強いるものではないから,入金確認をした日の翌営業日に領収書兼利用明細書を普通郵便で発送しても,18条書面を「直ちに」交付したことにはならない。
(被控訴人の主張)
銀行振込の方法により入金された場合,入金日の翌営業日に領収書兼利用明細書を普通郵便で発送していれば,18条書面を「直ちに」交付したといえる。
(4) 争点(4)(控訴人Aによる支払は任意のものといえるか(④,⑥))について
(控訴人らの主張)
ア 原判決は,控訴人Aが弁済をなす際に,詐欺・脅迫・錯誤等の自己の自由な意思によることができない事情が証拠上認められないとして,控訴人Aの支払は任意のものであると判断した。
イ しかしながら,被控訴人の営業は,保証人狙いともいえるような過剰融資をした上で,契約の際に,返済日が日曜日や祝祭日などの休日の場合の扱いについての記載がない貸付契約説明書や償還表を交付し,返済期日に遅れて返済してもいかなるペナルティーをも課さないことを債務者に告げるなどの方法により,外形的,形式的には期限の利益を喪失した状態に債務者を陥れて,利息制限法違反の約定どおりの利息等の支払を一括弁済の恐怖の下に支払わせるものであって,これにより債務者は制限超過利息の支払を強制されているといえ,その支払は任意のものとはいえない。
ウ 「約定に従って利息の支払がされた場合であっても、その支払は、その支払がなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い、遅延損害金を支払わなければならないという不利益を避けるためにされたものであって、債務者が自己の自由な意思に従ってしたものということはできない。」「期限の利益喪失条項は,当事者間の合意に基づくものではあるが,そのような条項に服さなければ借り入れることができない以上,利息制限法の趣旨に照らして,この約定に基づく支払を任意の支払ということはできないというべきである。」とする最二小判平成16年2月20日・民集58巻2号475頁の滝井繁男裁判官の補足意見に従えば,本件各契約の期限の利益喪失条項は,利息制限法によると無効な利息の支払を,一括弁済を強要することで強制する内容になっているのであるから,支払の任意性は認められない。
エ そして,充当計算の結果は別紙2の計算書のとおりとなる。
(被控訴人の主張)
ア 被控訴人は,控訴人Aの信用調査を十分に行った上,貸付けを行ったものであるし,本件貸付契約説明書及び償還表には返済日が休業日である場合の扱いについて,本件契約書及び本件貸付契約説明書には本件期限の利益喪失条項について,それぞれ記載がある。したがって,控訴人らが主張する事実は認められないのであり,この点に関する控訴人らの主張は失当である。
イ(ア) 控訴人ら指摘の補足意見は,当該事案において,貸金業者の営業姿勢 や,弁済期がわずか1か月先に設定されており,利息の前払をしなければ期限の延長を受けられないなどの事案の特殊性から,当該事案における期限の利益喪失条項の下での制限超過利息の支払には任意性がないとしたものにすぎず,5年間60回の元金分割払契約であり,利息の天引や前払請求は一切行っておらず,利息はすべて後払である本件契約とは,事実関係を全く異にするから,本件には全く妥当しない。
(イ) また,本件期限の利益喪失条項の下においては,債務者は,利息制限法に従った弁済をする旨を自由にかつ簡単に表示することができ,これをすれば期限の利益を喪失することはないのであるから,約定利息の支払を強制されることにはならない。
(ウ) したがって,本件における支払には任意性が認められる。
ウ そして,充当計算の結果は,別紙3の元利金計算書のとおりとなる。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各契約時に交付された書面の17条書面該当性(①))について
(1) みなし弁済について定めた貸金業法43条は,同条の要求する一定の要件を満たせば,制限利息を超過する部分の支払を,有効な弁済とみなすことによって,利息又は損害金に充当されたものとして取扱うことになる結果,元本への充当を生じさせないものであり,その意味で,利息制限法1条1項の特則たる性質を有するものであるから,制限を超過する部分の契約は無効であるとしても,みなし弁済が認められる前提として,制限超過利息の支払について合意すること自体を貸金業法が禁止するものではないことは明らかである。貸金業法17条1項は,後日になって契約内容をめぐって当事者間に紛争が生ずることを防止するため,契約した合意の内容を明らかにする書面の交付を要求しているのであるから,当事者が,契約に際して制限超過利息の合意をした場合には,その内容を前提に契約内容を記載すれば足りるものと解される。したがって,本件貸付契約説明書においては,本件契約で現実になされた制限超過利息の合意を前提に,期限の利益の喪失について「利息の支払いを怠ったとき」との合意がされたのであるから,その旨が記載されていれば足りるといえる。控訴人らが指摘する最高裁昭和44年判決は,制限超過利息は実体法上無効となることを示しているにすぎず,当事者の合意の内容を制限利息に限定して読み替えることまで要求したものとは解されないから,原判決の述べるとおり,本件契約における合意の内容を「利息制限法所定の制限利息の支払を怠ったとき」と意味を異にして解釈すべき理由はない。このことは,貸金業法17条1項に違反する行為が刑事罰の対象となっていて,罪刑法定主義の要請により,法文の文言を離れて解釈すべきでないことからも裏打ちされる。そうすると,本件期限の利益喪失条項が,17条書面の要件を満たすことは明らかである。
(2) また,証拠(甲4,5,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,前項の本件期限の利益喪失条項以外の点についても,貸金業法17条1項所定の事項が適法に記載された17条書面を,被控訴人は控訴人らに対し,本件各契約時に,それぞれ交付したことが認められる。
2 争点(2)(弁済の後に交付された書面の18条書面該当性(③))について
(1) 控訴人らは,弁済の後に交付された領収書兼利用明細書(甲42ないし73・各枝番号有り。以下「本件各領収書兼利用明細書」という。)には,契約番号の記載はあるものの,契約年月日の記載がないので,当該契約がいつ始まったかを特定することができず,債務者の保護に欠けるので,18条書面に該当しないと主張する。
この点,貸金業法18条1項柱書は,「内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定しているので,文理上契約年月日の記載の方法等についても内閣府令(施行規則15条2項)に委任しているものと解される。また,実質的に考えても,貸金業法18条1項が18条書面の交付を要求しているのは,債務者が貸付に係る契約の内容又はこれに基づく支払の充当関係が不明確であることなどによって不利益を受けることがないようにするためのものであり,そして,同条項2号が,弁済をした者に交付することを要求した書面に契約年月日を記載すべきとしているのは,同じ貸金業者・債務者間において複数の貸付けに係る契約が存在する場合に,当該弁済がどの契約に係る債務の弁済であるかを弁済者に知らしめるためである。そうすると,同書面に契約年月日の記載に代えて契約番号が明示されていれば,契約書や既に交付を受けている17条書面等の記載と照らし合わせるなどすることによりいずれの債務に対する弁済がなされたかは明らかとなるのであるから,上記の目的は十分に達成されるといえる。
したがって,契約年月日の記載に代えて契約番号を記載することを認めることは,貸金業法18条1項の趣旨等に照らしてみても合理性があり,同条項の委任の範囲内にあることは明らかであるから,施行規則15条2項に従って,契約番号が記載されている本件各領収書兼利用明細書は18条書面の要件を満たすと解するのが相当である。
(2) 証拠(甲7ないし41,42ないし73・各枝番号有り,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,前項の契約年月日の記載以外の点についても,貸金業法18条1項所定の事項が適法に記載された18条書面を,被控訴人は控訴人Aに対し,弁済の都度,交付したことが認められる。
3 争点(3)(18条書面は「直ちに」交付されたといえるか(②,③))について
(1) 貸金業法43条1項によるみなし弁済の効果を生ずるためには,債務者の利息の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされた場合であっても,特段の事情のない限り,貸金業者は,右の払込みを受けたことを確認した都度,直ちに同法18条1項に規定する書面を債務者に交付しなければならないと解される(最一小判平成11年1月21日・民集53巻1号98頁参照)。
(2) 争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実,証拠(甲7ないし41,42ないし73・各枝番号有り,証人C)並びに弁論の全趣旨によれば,控訴人Aは,別紙2計算書記載のとおり,すべて銀行振込の方法で弁済したこと,被控訴人において入金を確認した後,被控訴人の翌営業日には,適法な18条書面と認められる本件各領収書兼利用明細書(前記2)が,その都度普通郵便で発送され,控訴人Aの弁済日の二,三日後(土日祝祭日にかかれば,その日数が加算されたころ)には,本件各領収書兼利用明細書が控訴人Aに交付されたものと認められる。
(3) 貸金業法18条1項は,受取証書を「直ちに」交付することを要求している。貸金業法の目的は,貸金業者の業務の適性を確保して,資金需要者等の利益を保護するなどの点にあり,かかる目的を達成するために貸金業者に対して必要な規制を定めるとともに,かかる規制が実効性を有するようにすることを一つの目的として例外的に利息制限法を超過する利息の支払を有効なものとみなしており,貸金業者に対する上記規制に違反した場合には罰則が設けられている(同法49条3号)ことなどを考慮すると,その要件具備の判断は厳格に行うのが相当であるところ,18条書面の趣旨は,債務者に充当計算を可能ならしめて異議の機会を与え,後日の紛争を防止する点にあると考えられるのであるから,弁済充当の結果に対する関心の高い弁済の直後に18条書面の交付がなければ,債務者が異議を述べる等の権利行使が困難となり実質的にその機会を奪うことになる。そして,文理上,「直ちに」とは,「遅滞なく」や「速やかに」よりも時間的即時性が強く一切の遅れを許さない趣旨を表現するとされているけれども,他方,この用語は規範的で解釈の余地の全くない文言ではないから,銀行預金口座に対する送金の方法により弁済を受ける場合には,一般的に貸金業者において通常入金の確認に要する時間や18条書面の郵便による発送から到達に要する時間(経験則上広島市から同市内までは普通郵便で一,二日を要すると考えられる。)等の事情をも考慮して,「直ちに」交付がなされたか否かを判断すべきであると考えられる。そうすると,上記の諸事情を総合的に考慮すると,貸金業者が銀行預金口座に対する送金の方法により弁済を受ける場合には,原則として,入金の翌営業日までには18条書面を発送しなければならず,これを超えて発送がなされたときには特段の事情がない限り「直ちに」交付したことにはならないが,入金の翌営業日までに18条書面を発送していれば特段の事情がない限り「直ちに」交付したことになると解するのが相当である。
したがって,このことに照らせば,上記特段の事情についての主張・立証のない本件においては,被控訴人の控訴人Aに対する18条書面の交付は,「直ちに」なされたものというべきである。
4 争点(4)(控訴人Aによる支払は任意のものといえるか(④,⑥))について
(1) 貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれらを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要するものではないと解される(最二小判平成2年1月22日・民集44巻1号332頁参照)。
(2)ア 本件契約による貸金は,ただ1回の単純な貸付による150万円の金銭債権で,60回(5年間)にわたり元利金を分割弁済する契約内容であり,被控訴人から控訴人Aに交付された本件契約証書(甲4)や本件貸付契約説明書(甲5)には元金の分割支払に伴う利息の具体的計算方法が記載され,被控訴人から控訴人Aに交付された償還表(甲6)には予定どおり分割支払をした場合の毎月の元金・利息額が明記されていたのであるから,控訴人Aとしては,毎月の支払によっていくらの利息等を支払うことになるのかについてこれら書面の記載を目安として自ら計算して把握することは容易であったということができる。そして,控訴人Aは,弁済の都度,被控訴人から,利率,利息計算の期間,利息充当額,元金充当額,弁済後の残存元金額等が明記された本件各領収書兼利用明細書(甲7ないし41)の郵送を受けながら支払を継続したものであるから,毎月支払う額の中から利息や損害金の支払に充当される部分があることを当然に認識しながらその支払を継続したものということができる。
また,被控訴人広島支店の管理部に所属する被控訴人従業員Cは,原審において,従業員は債務者の支払が遅れた場合には督促をすること,被控訴人においては,上記督促につき,その方法は郵送による通知と電話に限ること,電話の場合は午前8時から午後9時までの時間に限るとともに,乱暴な言葉を使ったり,第三者に会社名を名乗ったりはしないなどという内規を定めていること,本件における督促の際,内規は守っていたことなどを証言しているところ,これを覆すに足る証拠はない。
したがって,控訴人Aの被控訴人への弁済は,自己の自由な意思によって任意に利息等の支払を行ったものということができる。
イ これに対して,控訴人らは,被控訴人の営業は保証人狙いといえるような過剰融資である,本件契約時に休日の場合の扱いについての記載がない貸付契約説明書や償還表を交付している,返済期日に遅れて返済してもいかなるペナルティーをも課さないことを告げている,最高裁平成16年判決の滝井補足意見に従うべきであるなどと主張する。
しかしながら,控訴人ら主張の控訴人の営業が保証人狙いといえる過剰融資であることを認めるに足りる証拠はないし,本件貸付契約説明書には「約定支払日が土曜,日曜,祝日(中略)その他債権者の休業日に当たる日は翌営業日を支払日とします。」との記載があり(甲5の第2項),償還表の日付欄には上記記載に従った日が記載されている(甲6)し,本件契約証書(甲4)や本件貸付契約説明書(甲5)には支払遅滞の場合の期限利益喪失条項・一括払及び損害金支払義務の記載がなされている。また,控訴人らが援用する最高裁平成16年判決の滝井意見はあくまでも同裁判官の個人的な少数意見である(本件と事案も異なっている。)だけでなく,債務者としては,本件期限の利益喪失条項の下においても,制限利率に従って利息等を支払う旨の異議を留める機会が与えられており,その旨の異議を留めて支払えば期限の利益を喪失することはないのであるから,本件期限の利益喪失条項の存在自体によって直ちに上記制限利率を超える約定利息額の支払が強制されるということはできない。したがって,控訴人らの主張はいずれも失当である。
5 貸付取引の計算過程
控訴人らは,制限超過利息の支払を遅滞しても期限の利益は喪失しないと主張するが(原審における⑤の主張),控訴人らは支払期日である平成12年12月25日には制限利息さえも支払っていないのみならず,前判示のように貸金業法所定のみなし弁済が成立する以上は,制限超過利息についても支払遅滞があると期限の利益は喪失すると解さざるを得ないので,控訴人らの主張は採用できない。そうすると,被控訴人と控訴人らとの間の貸付取引の計算過程は,別紙3の元利金計算書記載のとおりとなる。したがって,控訴人らは被控訴人に対し,連帯して元利金合計71万5950円及びこれに対する平成14年9月19日から支払済みまで利息制限法所定の制限利率の範囲内である年30%(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
6 結論
以上によれば,被控訴人の請求は理由があり,これを認容した原判決は相当であるから,本件控訴は理由がない。

広島地方裁判所民事第1部


  裁判長裁判官   坂   本   倫   城


     裁判官 榎   本   光   宏


     裁判官 赤   松   亨   太



別紙1ないし3 省略

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最終更新:2005年11月11日 16:50
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