hanrei @Wiki H17.10.27 名古屋高等裁判所 平成16年(行コ)第48号 申告所得税更正処分取消等各請求控訴事件



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本件航空機リース契約は民法上の組合契約に該当し,これを否定してなした課税処分を取り消した原判決を相当とした事例


主          文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 被控訴人Cの請求の減縮により,原判決主文第3項(3)は次のとおり変更された。
控訴人甲税務署長が,平成13年12月10日付けでした,被控訴人Cの平成12年分所得税の更正処分(ただし,平成17年4月18日付け更正処分によって減額された後のもの)のうち総所得金額を3552万9074円として計算した額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,同日付け変更決定処分によって減額された後のもの)をいずれも取り消す。
3 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 1審26号事件,同28号事件,同30号事件及び同31号事件の原判決を取り消す。
(2) 1審27号事件及び同29号事件の原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(3) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
主文第1項及び第3項と同旨。なお,被控訴人Cは,請求の趣旨を主文第2項記載のとおりに減縮した。
第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人らが,航空機リース事業(本件各事業。組合員の出資金と金融機関からの借入金を用いて航空機を購入し,これを航空会社にリースしてリース料収入を上記借入金の元本・利子の返済に充てるとともに,残余を本件各組合員に分配し,リース期間終了後,航空機を売却してその代金を上記借入金残金の返済に充て,なお余剰が生じたときは組合員に分配する。)を目的とする各組合契約(本件各組合契約)を締結し,同事業による所得を不動産所得(所得税法26条1項)として,その減価償却費等を必要経費に算入した上で所得税の確定申告を行ったところ,控訴人らが,上記各組合契約は利益配当契約であり,これによる所得は,雑所得(同法35条1項)であるから損益通算は許されないなどとして,被控訴人らに対し,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(本件各更正処分等)を行い,さらに,被控訴人Bに対し,青色申告承認取消処分(本件承認取消処分)を行ったことについて,被控訴人らが本件各更正処分等の,被控訴人Bが本件承認取消処分の各取消しを求めたところ,控訴人らがこれを争った抗告訴訟である。
原審は,①本件各事業は,それ自体でも投資としての経済的合理性を否定できず,民法上の組合契約の法形式が通常用いられないものとは到底いえないなどとして,本件各組合は民法上の組合にあたり,本件各組合契約に心裡留保や虚偽表示は認められず,本件各事業による収益が不動産所得に区分されることは明らかであるから,当該所得の実質上の帰属主体(組合員)である被控訴人らの本件各事業による所得も不動産所得に区分されるとして,被控訴人らの本件各更正処分等の取消請求をいずれも認容し(ただし,被控訴人B及び同Dについては,後記却下部分を除く。),②被控訴人Bに対する本件承認取消処分は適法であるとして,その取消請求を棄却し,③同Dの平成12年分所得税更正処分等,同Bの平成9年及び同10年分の上記処分等のうち減額更正処分(所得税)及び変更決定処分(過少申告加算税賦課決定処分)によって減額された部分の各取消しは,いずれも訴えの利益がないとしていずれも却下したため,控訴人らがこれを不服として控訴した。
なお,被控訴人B及び同Dは,控訴(附帯控訴を含む。)をせず,当審における不服の対象は上記各認容部分(上記①)のみである。
また,被控訴人Cは,上記第1の2記載のとおり請求を減縮した。
2 前提事実,本件の争点及びこれに関する当事者の主張は,以下のように原判決を訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1ないし3(ただし,3(8),(9)を除く。)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁21行目の「別表1ないし6」の次に「〔ただし,「原判決別表3 課税の経緯(28号事件)」を「別表 課税の経緯(1審28号事件)」に差し替える。〕」を加える。
(2) 原判決6頁26行目の「別表7ないし12」の次に「〔ただし,「原判決別表9 28号事件被告主張額計算表(平成10年分ないし同12年分)」を「別表 控訴人甲税務署長(1審28号事件被告)主張額計算表(平成10年分ないし同12年分)」に差し替える。〕」を加える。
(3) 原判決12頁23行目の「ノン・リコース」の次に「(当該事業における財産以外には責任を追及しない旨)」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人A,同C,同E及び同Fの本件各請求(ただし,同Cの本件請求については当審で減縮後のもの)はいずれも理由があり,同B及び同Dの本件各請求は原判決主文第2項(2)ないし(4)及び第4項(2),(3)の限度でいずれも理由があるものと判断する。その理由は,次項で控訴理由に対する判断をするほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1ないし7のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴理由に対する判断
(1) 控訴人らは,課税要件における事実認定のあり方について,上記判断方法(原判決)をとることは,被控訴人らが「民法上の組合契約」の契約類型を選択したことを所与の前提とした上で,その真意を探求しており,被控訴人らが締結した契約がいかなるものであったかという通常の課税要件事実の認定場面において当然行われるべき実体ないし実質による判断を放棄するもので,当事者の締結した契約の認定のあり方を誤ったものであると主張する。しかしながら,法律行為の解釈は,当事者の意思を探求するものではあるが,その意思表示は専ら表示行為を介してなされるのであるから,被控訴人らが締結した契約がいかなるものであったかを判断するに当たり,まず「民法上の契約類型を選択したこと」を前提として表示行為の解釈を行うのは当然というべきである。そして,その結果,仮に,被控訴人らの達成しようとする法的ないしは経済的目的に照らして,上記契約類型の選択が著しく不合理である場合には,真実は民法上の組合契約を締結する意思ではなく,同契約は不成立であると判断される余地があるにすぎない。したがって,上記したところを前提に表示行為の解釈をしたとしても,外形的資料のみに拘泥し,実体ないし実質による判断を放棄するものではない。
  また,控訴人らは,契約の締結に当たって,税負担を伴わないあるいは税負担が軽減されることを目的として,実体ないし実質と異なる外観ないし形式をとった場合には,当該実体ないし実質に従って課税されるべきであるのは当然であり,税負担の有無を法律行為の解釈をする際に全く考慮すべきでないという趣旨であれば,これもまた誤りであると主張する。しかしながら,いかなる法律効果を発生させるかとの効果意思と,契約締結の動機,意図などの主観的要素とは理論的には別であり(もっとも,後述するとおり,上記主観的要素は,上記効果意思を推認させる一事情であるといえるから,その限度で法律行為の解釈において考慮することはあり得る。),控訴人らの上記主張は,これらを混同するものである。現代社会における合理的経済人の通常の行動として,仮に,租税負担を伴わないかあるいはそれが軽減されることなどを動機ないしは目的(又は,動機等の一部)として,何らかの契約を締結する場合には,その目的等がより達成可能な私法上の契約類型を選択し,その効果意思を持つことは,ごく自然なことであり,かつ,合理的なことであるといえる。そうすると,当該当事者が作出した契約等の形式について,これと異なる効果意思の存在を推認することは,上記したところと整合せず,そのように推認するとすれば,当事者の意思(私法上選択された契約類型)を離れて,その動機等の主観的要素のみに着目して課税することになり,当事者が行った法律行為を法的根拠なく否定する結果になる。
  したがって,控訴人らの上記各主張は採用できない。
(2) 控訴人らは,本件各事業の経済合理性に関連して,G国際業務開発部長H作成の各報告書(甲全6,39)の内容は,法人投資家向けのものが相当数混在していると思われるところ,法人投資家向けの案件の場合,航空機の売却益について長期譲渡所得として税額を圧縮することができず,個人投資家向けのものとは異なり課税額減少効果だけでは利益を生じにくいため,投資家にとって魅力ある投資商品とするためにキャッシュ・フロー・ベースでの利益をある程度高額にする必要があるから,上記報告書の内容をもって,個人投資家向け案件について,キャッシュ・フロー・ベースでも利益を上げられた例として扱うことはできないし,これをもって,一般に個人投資家がキャッシュ・フロー・ベースでも利益を上げられると推認することはできないと主張する。しかしながら,仮に,上記各報告書の内容に法人向け投資家の案件が混在するとしても,法人向けと個人向けとでリース事業の仕組み自体が異なると認めるに足りる証拠はないし,リース料の設定が異なるとは通常考えられない(上記投資家の種類の違いは,リースの顧客に関係のないことであり,それによってリース料が異なれば,事業として成り立たない可能性が高い。)。また,前記(原判決)のとおり,そもそも,「航空機賃貸事業のご案内」と題するパンフレット(乙AないしFの各2)の最終頁記載の投資効果に関する試算表による資産結果が,条件次第でキャッシュ・フロー・ベースでも高額の利益を得ることが可能であることを示しているのであり,上記各報告書のみによって,キャッシュ・フロー・ベースでも利益を得ることが可能であると判断するものではないから,控訴人らの上記指摘をもって,当然に,個人投資家において,キャッシュ・フロー・ベースで利益を上げられると推認できないとはいえない。
  また,控訴人らは,上記のとおり,本件各事業の当事者がキャッシュ・フロー・ベースで利益を上げられないことを前提に,本件各事業は,課税減少効果がなければ成り立ち得ず,課税額の減少それ自体を取引の手段として本件各事業の当事者の利益を図るもので,投資による経済的利益獲得を主目的とし,それに付随して法形式の選択による税法上のメリットを検討する場合とは異なるにもかかわらず,上記判断(原判決)は,これらを混同するものであると主張する。しかしながら,前記(原判決)及び上記のとおり,本件各事業の当事者は,キャッシュ・フロー・ベースで利益を得る可能性はあるから,本件各事業は,課税減少効果がなければ成り立ち得ないとまではいえないし,課税額の減少それ自体を取引の手段として本件各事業の当事者の利益を図るものであるとの点は,前記のとおり,契約締結の動機,意図などの主観的要素と効果意思とを混同するものであり,このことを言葉を変えて述べているにすぎず,上記で判断(原判決)したところに対する反論とはなり得ないというべきである。
  さらに,控訴人らは,本件各事業は,我が国の租税歳入それ自体を取引対象とし,本件各事業の当事者の利益を図る事業であり,本件各組合契約は,契約当事者の認識や実体と法形式とが大きく齟齬する異常な法形式であるかのように主張する。しかし,上記主張も,上記と同様に,動機等の主観的要素と効果意思とを混同し,本件各組合契約は,課税減少効果を目的とする契約であるとして,当事者の認識等をその動機等や経済的側面のみに着目してこれを理解し,動機等とは別の効果意思の検討を放棄するものである。
  したがって,控訴人らの上記各主張も採用できない。
(3) 控訴人らは,以下のとおり,被控訴人らは,本件各組合契約において,検査権及び解任権を有しないと解すべきであり,被控訴人らがそれらを有するとするのは,契約解釈の手法や経済的合理性の有無について誤った認識を前提にするもので,組合契約書等の形式的な「文理」を過度に重視するあまり,本件各ローン契約の条項からうかがわれる当事者の意思や一般組合員の実体等を軽視しており不当であると主張する。すなわち,本件各組合契約においては,検査権より弱い権限にすぎない報告請求権を規定するにとどまっていること,民法673条では,業務執行と業務及び組合財産に対する検査を明確に区別しているのに,同契約では「業務執行者以外の組合員は本契約に定めるもののほか,何ら業務についての権限を有しない」として,「何らの業務執行についての権限を有しない」と規定していることなどから,一般組合員は検査権も含めた業務に関する一切の権限を有していないと解すべきである。また,不動産特定共同事業における標準約款案2条2(2)が,解任権の行使に伴い業務執行者が存在しなくなるとの不合理な事態が生じないようにするための規定を置いているのに対し,本件各組合契約では,そのような規定が置かれていないこと,本件各組合が金融機関との間で締結したローン契約(本件各ローン契約)には,組合の義務の履行が終了するまで,本件各業務執行会社が業務執行者であり続ける旨の誓約が置かれていることなどから一般組合員に解任権は排除されていると解すべきである。
  しかしながら,契約解釈の手法や経済的合理性の有無について控訴人らの主張が採用できないことは,上記(原判決を含む。)のとおりである。そして,本件各事業においては,民法上の組合契約の法形式が通常用いられないものであるとはいえないから,契約の文言解釈を中心として当事者の意思の探求を行うのが相当であるところ,控訴人らの上記主張を検討しても,被控訴人らの検査権及び解任権が排除されていないと解すべきことは前記(原判決)のとおりであり,契約書の形式的な「文理」を過度に重視するものでもない。
  したがって,控訴人らの上記主張も採用できない。
(4) 控訴人らは,被控訴人らが,本件各組合契約を共同の事業として営む意思がないことなどについてるる主張し,これらは,要するに,被控訴人らが本件各事業の経営に参加する意思がないとの主張と解される。しかしながら,民法上の組合の成立要件である共同の事業を営む合意の具体的内容は,前記(原判決105頁17行目から106頁10行目まで)のとおりであり,上記主張が採用できないことは,前記(原判決)のとおりである〔なお,控訴人らは,本件各組合契約が民法上の組合契約であるとしても,控訴人ら主張の上記共同の事業を営む意思がないことをもって,心裡留保又は虚偽表示が認められるべきであり,前記判断(原判決)は,何らの明確な根拠も示さずに効果意思を認めたのは失当であるとも主張するが,明確な根拠を示していることは明らかである(原判決123頁14行目から23行目)。〕。
  したがって,控訴人らの上記各主張も採用できない。
(5) その他,控訴人らがるる主張するところは,前記判断(原判決)を左右するものではない。
第4 結論
よって,被控訴人A,同C,同E及び同Fの本件各請求(同Cについては当審で減縮後のもの)はいずれも理由があり,同B及び同Dの本件各請求はいずれも原判決主文第2項(2)ないし(4)及び第4項(2),(3)の限度で理由があり,これと結論を同じくする原判決は相当であり,本件各控訴は理由がないから,これを棄却し,同Cの請求については,当審における請求の減縮により原判決主文第3項(3)が変更された点を明記することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官     田中由子
裁判官     佐藤真弘
裁判官     山崎秀尚