hanrei @Wiki H17.10.26 名古屋高等裁判所 平成16年(行コ)第25号 損害賠償請求控訴事件



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世界デザイン博覧会の準備及び開催運営に関して,名古屋市と控訴人A1協会とは実質的にみて準委任的な関係にあり,控訴人A1協会の事務処理は委任の本旨に従うものであり,支出も適正なものだったのであるから,基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれない費用は名古屋市において負担すべき義務があったものと認め,不足費用による赤字を回避する目的で名古屋市が控訴人A1協会から同博覧会で使用された施設及び物品を買い受けた各契約の締結において,控訴人A2に裁量権の逸脱,濫用があったものとは認められないとして,差戻しに係る部分につき,原判決を取り消して,名古屋市の住民である被控訴人らが名古屋市に代位して控訴人A2及び控訴人A1協会に求めた損害賠償金等の支払請求を棄却した事案


主         文
1 原判決主文3項及び6項中,本件差戻しに係る部分をいずれも取り消す。
2 被控訴人らの請求(ただし,上記本件差戻しに係る部分)をいずれも棄却する。
3 本件差戻しに係る部分の訴訟費用及び参加により生じた費用(いずれも第1審,差戻前の第2審,上告審及び差戻後の第2審のものを含む。)は,すべて被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
 主文と同旨
2 被控訴人ら
(1) 本件控訴をいずれも棄却する。
(2) 本件差戻しに係る部分の訴訟費用(第1審,差戻前の第2審,上告審及び差戻後の第2審の訴訟費用)は,すべて控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,名古屋市の住民である被控訴人らが,名古屋市は控訴人A1協会から世界デザイン博覧会(以下「デザイン博」という。)で使用された施設及び物品を違法に買い受けたなどと主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,名古屋市に代位して,
(1)(「当該職員」に対する損害賠償請求)
 市長の職にあった控訴人A2,助役の職にあったC及び収入役の職にあったDに対し,各自,第1審判決別紙(一)契約一覧表の各契約金額欄の合計額に相当する10億3631万9324円(及び不法行為の結果発生後である各訴状送達日の翌日以降の遅延損害金)の損害賠償金を名古屋市に支払うよう求め,
(2)(当該行為の相手方に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求)
 控訴人A1協会に対し,10億3631万9324円(及び不法行為の結果発生後である訴状送達日の翌日以降の遅延損害金)の損害賠償金あるいは不当利得金を名古屋市に支払う(返還する)よう求めた住民訴訟である。
2 第1審判決
 第1審判決の内容は,次のとおりであった。
(1) 控訴人A2に対する請求については,
ア 本件訴えのうち,第1審判決別紙(一)契約一覧表<49>(契約金額738万0403円。なお,第1審判決別紙(一)契約一覧表に記載の契約をまとめて「本件各契約」といい,そのうちの個々の契約を個別に特定して論ずる場合には,同表の番号を付して「本件契約<49>」のように表記する。)の契約に係る損害賠償請求の訴えの部分を却下し,
イ 名古屋市に対する10億2893万8921円(本件各契約の契約金額の合計額から本件契約<49>のそれを控除した残額に相当する額)及び平成2年9月7日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。
(2) Cに対する請求については,
ア 本件訴えのうち,本件契約<49>の契約に係る損害賠償請求の訴えの部分を却下し,
イ 名古屋市に対する3530万5629円(本件契約⑱の契約金額に相当する額)及び平成2年9月8日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じ,
ウ その余の請求は棄却した。
(3) Dに対する請求については,
ア 本件訴えのうち,本件契約⑲ないし<23>及び<49>(以上契約金額合計798万3159円)の各契約に係る損害賠償請求の訴えの部分を却下し,
イ 名古屋市に対する10億2833万6165円(本件各契約の契約金額の合計額から本件契約⑲ないし<23>及び<49>のそれを控除した残額に相当する額)及び平成2年9月16日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。
(4) 控訴人A1協会に対する請求については,
ア 名古屋市に対する10億3631万9324円の支払を命じ,
イ その余の請求(遅延損害金の支払請求部分)を棄却した。
3 第1審判決に対し,控訴人ら及びCは,いずれも,その敗訴部分の取消し,被控訴人らの請求の棄却を求め,Dは,敗訴部分の取消し,主位的には被控訴人らの訴えの却下を求め,予備的に被控訴人らの請求の棄却を求めて控訴した。
4 差戻前の第2審判決
 差戻前の第2審判決は,Dの控訴のうち,被控訴人らの訴えの却下を求める部分は棄却したものの,控訴人ら,C及びDの第1審敗訴部分を,次のとおり変更した。
(1) 控訴人A2に対する請求について,本件契約<26>から<34>までの契約に係る部分は棄却し,その余の本件各契約(本件契約<49>を除く。)に係る部分についても損害額の認定を改め,結局,名古屋市に対して支払うよう命じた金額を,10億2893万8921円及び平成2年9月7日以降の年5分の割合による遅延損害金,から2億1000万円及び平成2年9月7日以降の年5分の割合による遅延損害金に変更した。
(2) Cに対する請求はこれを棄却した。
(3) Dに対する請求はこれを棄却した。
(4) 控訴人A1協会に対する損害賠償請求について,本件契約<26>から<34>までの契約に係る部分は棄却し,その余の本件各契約に係る部分についても損害額の認定を改め,結局,名古屋市に対して支払うよう命じた金額を,10億3631万9324円から2億1000万円に変更し,さらに不当利得の返還請求は全部棄却した。
5 差戻前の第2審判決に対し,被控訴人ら及び控訴人らがそれぞれ上告及び上告受理の申立てをした。
 最高裁判所は,被控訴人ら及び控訴人らの各上告をいずれも決定により棄却した。
 また,被控訴人ら及び控訴人らの各上告受理申立てについては,いずれも上告審として受理するとともに,理由中の一部を排除する旨決定した。
6 上告審判決
(1) 控訴人A2に対する請求については,被控訴人ら敗訴部分のうち,本件各契約のうち本件契約<26>から<34>まで(差戻前の第2審判決において請求棄却),及び本件契約<49>(第1審判決において却下)に係る部分を除く部分と,控訴人A2の敗訴部分をいずれも破棄して,名古屋高等裁判所に差し戻した。そして,被控訴人らのその余の上告を棄却した。
 したがって,控訴人A2に対する請求については,本件各契約のうち本件契約<26>から<34>まで及び<49>に係る部分を除く部分が差戻後の第2審である当審での審理の対象となる。
(2) Cに対する請求については,同人は法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しないから,Cに対する訴えは不適法であると判断し,まず,本件契約⑱に係る請求部分については,その請求を棄却した差戻前の第2審判決を破棄し,そのうえで本件各契約のうち本件契約<49>に係る部分を除く部分(第1審で請求が認容された本件契約⑱の部分と,第1審で請求棄却とされた本件契約①から⑰,⑲から<48>及び<50>の各部分)につき,第1審判決を取り消してその請求に係る訴えを却下した。
 以上により,Cに対する訴えはいずれも却下で終了した。
(3) Dに対する請求については,被控訴人らの上告を棄却した。
 以上により,Dに対する本件契約⑲ないし<23>及び<49>に係る部分の訴えは却下により,本件各契約のうちその余の部分(本件契約①から⑱,<24>から<48>及び<50>)に係る請求は請求棄却により終了した。
(4) 控訴人A1協会に対する請求(遅延損害金の支払請求を除く。)については,被控訴人らの敗訴部分のうち,本件各契約のうち本件契約<26>から<34>まで(差戻前の第2審判決において請求棄却)に係る部分を除く部分と,控訴人A1協会の敗訴部分をいずれも破棄して,名古屋高等裁判所に差し戻した。そして,被控訴人らのその余の上告を棄却した。
 したがって,控訴人A1協会に対する請求(遅延損害金の支払請求を除く。)については,本件各契約のうち本件契約<26>から<34>に係る部分を除く部分が,差戻後の第2審である当審における審理の対象となる。
7 前提となる事実
 争いのない事実,証拠(甲3,4,11ないし15,16の1ないし9,17,18,20,22,24,29ないし33,乙1の1,2,2ないし11,12の1,13ないし18,26及び27の各1,30及び31の各1,2,32ないし34の各1,35ないし37,39ないし45,47,49,51ないし307,313,316ないし319,321,丙2,5,7,8の1ないし4,9,10,13ないし71,第1審証人E,同F,同G,同H,同I,同J,同K,同L,同M,控訴人A2,第1審におけるC,同D)と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 名古屋市と控訴人A1協会との関係
ア 名古屋市は,市制百周年の記念事業としてデザイン博を開催することとし,名古屋市議会に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会等を通じて検討を重ね,昭和61年12月26日,デザイン博の準備及び開催運営を行うことを目的とし,存続期間を昭和65年(平成2年)3月31日までとして控訴人A1協会が設立された。
イ 控訴人A1協会の会長(理事)には市長である控訴人A2が,副会長(理事)には助役であるCが,監事には収入役であるDが,専務理事及び常務理事には市幹部職員がそれぞれ就任し,事務局も市職員を中心に構成された。
 控訴人A1協会の寄附行為によると,控訴人A2が会長として控訴人A1協会を代表する権限を有し,控訴人A1協会の運営に関する重要な事項は理事会において決することとされていた。また,愛知県や経済団体等の協賛を得る等の目的からこれらの団体の参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,うち名古屋市が1000万円を拠出した。
ウ デザイン博は,平成元年7月15日から同年11月26日まで開催されたが,控訴人A1協会の収入は後記の本件各契約の代金を含めると265億3500万円,支出は263億2500万円であり,差額2億1000万円の残余金が生じた。控訴人A1協会は,平成2年3月28日,理事会において上記残余金を名古屋市に寄付する旨決議し,同月31日に解散した。
(2) 本件各契約締結に至る経緯
ア 控訴人A1協会が残余財産を有償譲渡することは当初予定されていなかったが,平成元年9月頃,全会期中のデザイン博の入場者数総計が当初見込んでいた数に達しない状況となり,入場料収入等だけではデザイン博の開催運営経費を賄いきれないことが判明したため,控訴人A1協会は,収支が赤字となることを回避するために施設及び物品を転用することの検討を開始し,転用する施設等の確定,転用先の調整,転用条件の設定などを行い,同月中旬から下旬にかけて,控訴人A1協会の基本財産の出資者である名古屋市,愛知県,N管理組合,O会議所及びP連合会に対して,転用可能施設一覧表を示して購入を依頼した。
 名古屋市においても控訴人A1協会の収支が赤字となることを回避する目的で同月から各局において具体的な購入物件の検討を開始したが,各局から購入希望の出された物件の数が少なかったため,同年10月16日に開かれた幹部会において,各局に対して購入物件を増やすよう要請がされた。
イ 名古屋市と控訴人A1協会との間で,購入物件の価格について協議された結果,建築物で移設を要するものについては,控訴人A1協会が取得価格を基に評価して提示した転用評価額に0.5を乗じた価格で,それ以外のものについては転用評価額に0.9を乗じた価格で,それぞれ名古屋市が買い受けることとなった。さらに,名古屋市は,控訴人A1協会の要請により,撤去,運搬に要する経費を代金に加算して支払うこととした。
ウ 名古屋市は,平成元年11月27日から平成2年2月15日にかけて,控訴人A1協会から,同控訴人がデザイン博で使用した施設及び物品を代金総額10億3631万9324円で買い受けた。上記買受けに際して締結された契約は50件あり,各契約につき市の担当部局,契約年月日,契約金額及び目的物は,第1審判決別紙(一)契約一覧表のとおりであった。
(3) 本件各契約の行為者等
ア 名古屋市において,本件各契約を締結する旨の意思決定は,第1審判決別紙(二)のとおり,本件契約⑯,<36>及び<39>については控訴人A2が行ったが,他の契約(本件契約<49>を除く。)については助役以下代決規程(昭和39年達第51号。以下「本件代決規程」という。)等に基づき代決により行われ,本件契約⑱についてはCが代決により行った。また,本件各契約(本件契約<49>を除く。)の締結は,第1審判決別紙(三)のとおり,いずれも本件代決規程等に基づき代決により行われた。
イ 控訴人A1協会において,本件各契約の締結は,本件契約⑩,⑯,⑰,<34>,<36>及び<45>については控訴人A2により行われたが,その他の契約の締結は,処務規程に基づき控訴人A2に代わって決裁する権限を有する者により行われた。
ウ 本件各契約(本件契約⑲から<23>まで及び<49>を除く。)の支出負担行為に関する確認は,第1審判決別紙(五)のとおり,Dあるいは収入役室副収入役以下代決規程(昭和41年収入役達第1号)に基づき副収入役及び審査課長により行われた。
エ 本件契約<49>は,地方公営企業である水道事業の業務に係るものであり,名古屋市を代表する権限を有する管理者である水道局長が名古屋市を代表して締結したものであり,その業務に関する出納を行う権限も管理者が有している(地方公営企業法8条1項,27条)。
 また,本件契約⑲から<23>までは,地方公営企業である病院事業の業務に係るものであり,管理者の権限は出納に関するものを含め当該地方公共団体の長が行うものとされている(同法34条の2,27条)。
オ 本件各契約(本件契約<49>を除く。)のうち契約金額が200万円を超えるものについてのみ契約書が作成され,いずれも控訴人A2が名古屋市長として市を代表するとともに同時に控訴人A1協会の会長として同控訴人を代表して契約を締結する旨記載されている。
(4) 本件各契約締結後の市議会及び控訴人A1協会の行為
ア 平成2年3月22日に開催された名古屋市議会の市制百周年記念事業促進特別委員会において,本件各契約に関する議論がされた後,同委員会に付議された事件の審査を終了することが議決され,同月26日に開かれた本会議においても,その旨議決された。
イ 名古屋市議会における平成2年度一般会計予算の審議に際して,同予算には本件各契約によって名古屋市が取得した物品の活用のための予算が含まれていたが,平成2年3月15日に開かれた名古屋市議会の総務民生委員会において,本件各契約に関する質疑がされた後,同予算のうち同委員会関係部分を可決する旨の議決がされ,同月20日開かれた本会議において,同予算が可決された。
ウ 名古屋市議会の一般会計等決算特別委員会において,平成元年度の決算を認定することが議決され,平成2年12月18日に開かれた本会議において,同決算が認定された。
エ 平成2年3月29日に開かれた控訴人A1協会の第13回理事会において,本件各契約による収入を含む平成元年度の収支決算書が議題とされ,同収支決算書が承認された。
(5) 本件各契約の目的物
ア 本件契約<26>から<34>までの目的物は,白鳥公園に設置された造形物,噴水等であり,名古屋市が控訴人A1協会から購入した後もそのまま公園施設として利用されている。
イ 本件契約⑯の目的物は,デザイン博開催期間中,名古屋城会場に設置された音響効果を考慮した仮設建築物である本丸ステージである。その建設工事費総額1億4487万1000円のうち建築物自体の材料費は5000万円程度である。本丸ステージは,本件契約⑯の締結後,新たに9000万円の追加費用をかけて東山公園内に休憩所及び倉庫として再築されたが,再築までの間,解体された材料が野積みで放置され,再築後の屋根の材質は従前のものと異なっている。
ウ 本件各契約の目的物の中には,上記以外の建造物として,車庫,鉄骨造平屋,便所,休憩所,営業施設等があるが,これらは,特段そのデザインが優れているとはいえないものや,デザイン都市を創造する等の名古屋市の施策の推進に大きな効果があるとまでは認められないものである。また,これらの中には,移設に当たり相当額の設置工事,建設工事を要すると見られるものがあり。これらの建造物の購入価格は,控訴人A1協会が設定した建築工事費用等を含む価格の65%相当額のものが大半を占め,中には80%を超えるもの,さらには購入価格が控訴人A1協会が設定した価格を超えるものもみられる。
エ 本件各契約の目的物の中には,上記以外の品として,放送用機器,ベンチ,大型電光表示板,電話交換機,クーラー,樹木,投光器,フラッグポール,交通サイン,ごみ箱,すいがら入れ等があるが,これらは,特段そのデザインが優れているとはいえないものや,デザイン都市を創造する等名古屋市の施策の推進に大きな効果があるとまでは認められないものである。これらの物品の購入価格は,控訴人A1協会が設定した価格の95%から98%相当額のものが大半を占め,中には購入価格が控訴人A1協会が設定した価格を超えるものもみられる。
8 差戻前の第2審判決の内容と,破棄差戻しの理由
上告審において取り上げられた上告理由のうち,控訴人ら及び被控訴人らに関係する部分は以下の3点であった。
(1) 双方代理と民法108条,116条の類推適用について
ア 差戻前の第2審判決は,被控訴人らの主張していた双方代理の禁止違反について,本件各契約(本件契約<49>を除く。)は,控訴人A2が,名古屋市長として名古屋市を代表し,控訴人A1協会の会長として同控訴人を代表して契約を締結したものであるところ,利益相反の関係が認められるから,本件各契約(本件契約<49>を除く。)の効力は直ちに名古屋市に帰属しないが,本人にあたる地方公共団体(名古屋市。この場合,追認すべき機関は名古屋市議会となる。)がその行為を追認したものと認められるから,本件各契約(本件契約<49>を除く。)の効果は名古屋市に帰属するに至ったものと認めた。
イ 上告審判決は,被控訴人らの上告理由の1つとされた,双方代理と民法108条,116条の類推適用について,次のとおり判断した。
a 普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても,長が相手方を代表又は代理することにより,私人間における双方代理行為等による契約と同様に,当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると,普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には,民法108条が類推適用されると解するのが相当である。そして,普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理ないし代表して契約を締結した場合であっても同法116条が類推適用され,議会が長による上記双方代理行為を追認したときには,同条の類推適用により,議会の意思に沿って本人である普通地方公共団体に法律効果が帰属するものと解するのが相当である。
b そして,本件各契約(本件契約<49>を除く。)は,控訴人A2の双方代理行為により締結されたものであるが,名古屋市議会は,控訴人A2を会長とする控訴人A1協会との間で本件各契約(本件契約<49>を除く。)が締結されたことを十分認識して,審査や議決をしたということができるから,本件各契約(本件契約<49>を除く。)を追認したということができるし,控訴人A1協会においても,同様に追認があったということができ,この点に関する差戻前の第2審判決の判断は是認できる。
(2) 本件各契約の締結についての裁量権の逸脱,濫用について
ア 差戻前の第2審判決は,本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結について,赤字回避の目的に基づき,必要性に欠けたり,価格の相当性に欠けたりした建造物,物品等を購入したもので,実質的には補助金を正規の手続を経ずに支払うことと同一の行為と評価できるから,裁量権の逸脱,濫用があったものと認めた。
イ 上告審判決は,控訴人らの上告理由の1つとされた,本件各契約の締結における裁量権の逸脱,濫用について,次のとおり判断した。
a 名古屋市は,市制百周年の記念事業としてデザイン博を開催することとし,市議会に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会等を通じて検討を重ね,愛知県や経済団体等の協賛を得る等の目的からこれらの団体の参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,デザイン博の準備及び開催運営を行わせることを唯一の目的として期間を限って控訴人A1協会を設立したのであり,控訴人A1協会の運営も市職員を中心として行われたのであって,控訴人A1協会において上記検討を受けてデザイン博の実際の運営を行ったところ,入場者数が想定していた数字を下回る見込みとなり,デザイン博の入場料収入等だけではデザイン博の開催運営経費を賄いきれないことが判明し,控訴人A1協会の赤字を回避する目的で本件各契約が締結された。
b 上記事実関係に基づいて考えると,デザイン博は名古屋市の事業として行われたのであって,名古屋市は,控訴人A1協会の設立に際し,控訴人A1協会に名古屋市の基本的な計画の下でデザイン博の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものと解することも可能であり,両者の間には実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地がある。そうであるとすれば,名古屋市が,控訴人A1協会に対し,同控訴人がデザイン博の準備及び開催運営のために支出した費用のうち,名古屋市が控訴人A1協会にゆだねた範囲の事務を処理するために必要なものであって基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれないものを補てんすることは不合理ではなく,名古屋市にその法的義務が存するものと解する余地も否定することができない。そして,上記の点は,本件各契約の締結に裁量権の逸脱,濫用があったか否かを判断するうえで,重要な考慮要素となるというべきである。
c そうすると,デザイン博の準備及び開催運営に関する名古屋市と控訴人A1協会との関係の実質,控訴人A1協会が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を検討しなければ,本件各契約の締結について裁量権の逸脱,濫用があったかどうかを判断することはできない。
d しかるに,差戻前の第2審は,上記の点を確定しないまま前記のとおり判断しているのであって,その判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(3) 損害の算定方法について
ア 差戻前の第2審判決は,損害の算定方法について,違法な売買契約の結果生じたであろう地方公共団体の財産状態と,かかる売買契約がなかった場合に地方公共団体に生じたであろう財産状態とを対比してその差額をもって損害と解すべきであるところ,控訴人A1協会の残余財産2億1000万円は本件各契約に基づき違法(実質的には補助金を正規の手続を経ずに支払うことと同一の行為と評価できる。)に名古屋市から逸出したまま名古屋市に返還されておらず,本件各契約が締結されなくても交付せざるを得ないことになった補助金の額は明らかではないから,この2億1000万円に相当する額ついては損害にあたるものと認めた。
イ 上告審判決は,損害の算定方法について,次のとおり判断した。
a 仮に,本件各契約(本件契約<26>から<34>までのを除く。)の締結について,裁量権の逸脱,濫用があったものとすれば,これらにより名古屋市に生じた損害は,名古屋市が支払った代金額と同市が取得した財産の価額との差額により算定すべきである。
 また,名古屋市が控訴人A1協会に対して補助金を交付するには,公益上の必要があり(法232条の2),かつ,予算に計上して議会の議決を経なければならないことからすれば,差戻前の第2審のいう補助金交付の蓋然性のみでは本件各契約により名古屋市に損害が生じたことと同市が控訴人A1協会に対する補助金の支出を免れたこととの間に相当因果関係があると認めることはできない。
b そうすると,本件各契約により名古屋市に2億1000万円の限度で損害が生じたものとする差戻前の第2審の上記判断は,損害額の算定の方法を誤り,さらに十分な根拠なく補助金の支出を免れたとするものであり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
c 他方,名古屋市は,本件各契約により施設及び物品を取得しており,これらの施設及び物品の客観的価値は損害の算定にあたり考慮されるべきである。上記の物件がいずれも無価値であるとの事実は確定されておらず,むしろ記録によれば上記目的物の中には一定の客観的価値を有するものが含まれていることが窺われる。そうすると差戻前の第2審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
9 当審における主要な争点
(1) 以上を前提にすると当審においては,本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結に裁量権の逸脱,濫用があったと認められるかが第1の争点となる。具体的には,以下のとおりである。
ア デザイン博の準備及び開催運営に関する名古屋市と控訴人A1協会との関係の実質において,準委任的な関係が認められるか否か。
イ 控訴人A1協会が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容とこれに関して支出された費用が,名古屋市が控訴人A1協会にゆだねた範囲の事務を処理するために必要なものであったか否か。
ウ 以上の判断を踏まえたうえで,本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結に裁量権の逸脱,濫用があったと認められるか否か。
(2) 本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結に裁量権の逸脱,濫用があったと認められる場合には,名古屋市が支払った代金額と同市が取得した財産の価額との差額を算定することによって算出する損害額が幾らかになるかが第2の争点となる。
10 上記主要な争点に関する当事者の主張は,別紙1のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結について,裁量権の逸脱,濫用があったものとは認められず,被控訴人らが主張するその他の違法事由も認められないから,被控訴人らの控訴人A2に対する請求(本件各契約のうち本件契約<26>から<34>まで及び<49>に係る部分を除く部分),控訴人A1協会に対する遅延損害金の支払請求を除く請求(本件各契約のうち本件契約<26>から<34>までに係る部分を除く部分)はいずれも棄却すべきものと判断するが,その理由は以下のとおりである。
2 上記前提となる事実,証拠(乙317,丙76ないし80,82,83の1ないし3,84の1及び2,85,86の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 控訴人A1協会設立までの経緯
ア 名古屋市は,昭和57年度から市制百周年記念事業の準備を始動させ,昭和58年6月1日には,名古屋市制百周年記念事業連絡会議(以下「連絡会議」という。)を設置し,昭和61年までに13回の幹事会が開催され,その後,同年11月4日に発足した市制百周年記念事業推進本部(助役であったCが本部長)が設置されたことから,連絡会議は発展的に解消した(丙76)。
 また,名古屋市は,昭和58年10月31日施行の要綱に基づき,名古屋市制百周年記念事業懇談会(市長が委嘱した学識者など各界各層の代表である28名で構成されていた。以下「懇談会」という。)を設置し,同懇談会は,昭和59年8月6日,基本構想案を了承し,同日,名古屋市長に対して「名古屋市制100周年事業にかかる基本的な構想について」という見だしで報告をした。そして,この基本構想案における記念事業の大綱のなかには「文化,産業など多様な要素を包含し,名古屋の個性と伝統,明日への可能性をみつけ,国際的な広がりを持ったふれあいの中で新しい世紀にむけての夢と勇気を育む壮大な催し(例えば,特色ある博覧会)を,メイン・イベントとして開催するとともに,催しにちなんだ施設を残す。」として,特色ある博覧会をメイン・イベントとして開催することが盛り込まれていた(丙76)。
イ 名古屋市は,昭和59年9月から10月にかけて市民討議を行い,既になされていた市民提案,懇談会の基本構想案,市民討議を基に,市制百周年記念事業の内容の検討を進め,昭和60年11月には,事務局案を集約し,昭和61年1月には,関係局長による会議に提案をして大筋了解が得られたことから,名古屋市議会に設置された市制百周年記念事業促進特別委員会(昭和60年10月9日設置,以下「特別委員会」という。)において,記念事業の公表をした(丙76)。
 この公表された事務局案においても,「博覧会の開催(メイン・イベント)」として「生活・文化・産業の各面にわたって,国際的に発信力を持ちうる博覧会を開催する。具体的内容は,協議会B(仮称)において検討する。」と記され,特色ある博覧会をメイン・イベントとして開催することが盛り込まれていた(丙76)。
ウ そして,博覧会の主題を何にすべきかの検討における検討項目として,①市民の生活文化の向上に貢献できるもの,②産業・経済の発展に寄与できるもの,③国際化の推進に寄与できるもの,④将来の名古屋のまちづくりに貢献できるもの,⑤先進性があり前例のないもの,等が掲げられていたところ,その間の昭和60年8月26日にICSIDワシントン会議において,世界デザイン会議を1989年(平成元年)に名古屋市で開催することが内定したことを承けて名古屋市議会の特別委員会や,名古屋市内部の連絡会議等が協議のうえ,名古屋市は,昭和61年4月22日,名古屋市の市制百周年記念事業のメイン・イベントとして世界デザイン博覧会を開催することとし,その構想を報告・公表した(丙80)。
エ 「協議会B」は,昭和61年4月1日に設立された任意団体で,「昭和64年に名古屋市制100周年を迎えるのを契機に,未来への夢と勇気をはぐくみ,新しい名古屋を築きあげてゆくためのイベント等の取り組みを,市民,団体,行政機関等多様な実施主体によって多彩に展開する運動の企画・推進を図ることを目的」とし,事務所は名古屋市役所庁舎内(名古屋市a区bc丁目d番e号)に置かれ,役員として会長には名古屋市長が,副会長には名古屋市助役,その他各種団体の代表者4名が,監事には名古屋市収入役と愛知県出納長が充てられ,事務局職員は名古屋市からの出向職員で構成される団体であった(丙78,79)。
 協議会Bは,昭和61年4月23日,「世界デザイン博覧会(仮称)」計画委員会(構成員は合計24名の学識経験者)を発足させ,名古屋市が明らかにしたデザイン博の構想(丙76〔p40〕)をもとに,博覧会の名称,テーマ,基本理念,会場計画等を検討し,昭和61年8月26日付けで「世界デザイン博覧会基本計画」を作成した(丙77)。
 「世界デザイン博覧会基本計画」の骨子は,以下のとおりであった。
①名称    「世界デザイン博覧会」
②テーマ 「ひと・夢・デザイン-都市が奏でるシンフォニー」
③基本理念  〈時代はデザインの力を求めている〉,〈世界に発信するデザインの役割〉及び〈都市が奏でるシンフォニー〉と題して,それぞれ「デザイン」の人類史的な意義と社会的な役割の重要性等が述べられている。
④会期    昭和64年7月から同年11月(120日間程度)
⑤会場計画  博覧会自体を一つのデザイン表現として位置づけ,白鳥会場,名古屋城会場,及び名古屋港会場の三会場を各々異なった特色を持つ空間構成と造形イメージの博覧会場とすること。
⑥その他 演出計画・催事計画・広報計画等の分野別に,視覚的なプレゼンテーションシステム,情報提供,交通システム等の整備,「デザイン」等を意識したイベントの展開,「デザイン」を活かした生活文化の提案に向けた広報活動の展開等々
(2) 名古屋市と控訴人A1協会等との関係,控訴人A1協会の活動等
ア 控訴人A1協会は,昭和61年12月26日,デザイン博の準備及び開催運営を行うことを目的とし,存続期間を昭和65年(平成2年)3月31日までとして設立された。
 控訴人A1協会の会長(理事)には市長である控訴人A2が,副会長(理事)には助役であるCが,監事には収入役であるDが,専務理事及び常務理事には市幹部職員がそれぞれ就任し,事務局も市職員を中心に構成された。
 控訴人A1協会の寄附行為によると,控訴人A2が会長として控訴人A1協会を代表する権限を有し,控訴人A1協会の運営に関する重要な事項は理事会において決することとされていた。また,愛知県や経済団体等の協賛を得る等の目的からこれらの団体の参加を得て設立段階の基本財産2250万円を確保し,うち名古屋市が1000万円を拠出した。
 控訴人A1協会は,協議会Bが作成した「世界デザイン博覧会基本計画」,「世界デザイン博覧会事業計画策定調査報告書」をもとに,昭和62年12月,「会場計画の基本方針」「名古屋城会場計画」「白鳥会場計画」「名古屋港会場計画」「資料」から構成される「世界デザイン博覧会会場基本設計報告書」をまとめた(丙80)。
イ デザイン博は,平成元年7月15日から同年11月26日まで開催されたが,その準備及び開催運営の具体的内容は,「世界デザイン博覧会公式記録」(丙80)及び「市制百周年記念事業活動記録-名古屋市-」(丙76)に記載のとおりであった。
そして,控訴人A1協会の会長であった控訴人A2は,平成2年3月26日(審査終了日)までの間,名古屋市議会に設置された特別委員会において,デザイン博の準備・開催状況について定期的に報告をしていた(乙317,丙76)。
ウ 協議会B,控訴人A1協会の収支と名古屋市の負担
a 名古屋市は,デザイン博の実施に当たっては,控訴人A1協会のほか,任意団体として協議会Bを設立して,両者の連携のもとにデザイン博を準備・実施したが,両組織の収支の概要は,別紙2のとおりであった(丙83の1ないし3,84の1及び2,85,86の1ないし4)。
b 名古屋市から協議会Bに出向した職員は,デザイン博の準備・運営に関わる業務に従事するとともに,その多くは控訴人A1協会からその協会組織上の役職・職名も与えられていたが,同人らに対する給与は,控訴人A1協会からは全く支給されず,専ら,協議会Bから同協議会の名で各職員宛に支給されていた(丙82)。
 そして,協議会Bに対しては,上記人件費の全額(22億6644万0846円)に加え,多額の補助金が名古屋市から交付され,その総額は,昭和61年度から平成元年度までを通じて,別紙2のとおり,合計32億円余に上った。
c 名古屋市は,控訴人A1協会を設立するために貸付金というかたちで1億円を拠出し,控訴人A1協会設立準備会を設立した。同準備会を構成していた者の多くは名古屋市の職員であり,同準備会は主に控訴人A1協会の設立準備手続を行い,控訴人A1協会の成立(昭和61年12月26日)とともにその業務を終えて,その後解散した(丙85)。
 名古屋市は,昭和61年度から平成元年度までの4年度において,別紙2のとおり,控訴人A1協会へ約26億4000万円の補助金を交付した。
 なお,デザイン博事業の準備・運営の中心的業務・職務を担当していたのは協議会Bの職員であり,上記のとおり,その人件費(約22億6000万円)はその全部を名古屋市が負担しており,控訴人A1協会固有職員のために支出された人件費の総額(平成2年3月31日まで)は,2億0129万1070円であった。
d 控訴人A1協会の収支については,同控訴人の監事Q(当時・愛知県出納長)及び同R(当時・S銀行代表取締役会長)らの監査報告書(丙86の1),同T(当時・愛知県出納長)及び同U(当時・S銀行代表取締役)らの監査報告書(丙86の2ないし4)において,「事業報告及び収支決算について監査したところ,その内容は適正なものと認めます」とされていた。
エ 控訴人A1協会の収入は本件各契約の代金を含めると265億3500万円,支出は263億2500万円であり,差額2億1000万円の残余金が生じた。控訴人A1協会は,平成2年3月28日,理事会において上記残余金を名古屋市に寄付する旨決議し,同月31日に解散した。
 なお,上記寄付については,「通商産業大臣の許可」を得る必要があったが(寄附行為36条。丙3),本件に係る住民監査請求の申立てがなされ,当時,通産省商務室の博覧会専門官からは,控訴人A1協会の債権債務が確定しないままでの上記寄付の許可は困難との見解が示されたため,その許可申請は留保したままとなった(弁論の全趣旨)。
3 争点に対する判断
(1) 争点(1)アについて
ア 名古屋市と控訴人A1協会との関係について
a 名古屋市は,昭和57年度から市制百周年記念事業の準備を始動させ,市民からの提案,懇談会からの報告(基本構想案),市民討議などを踏まえて記念事業の内容を集約したが,その中に特色ある博覧会をメイン・イベントとして開催することが盛り込まれていた。その後,平成元年に名古屋市で世界デザイン会議が開催されることが内定したことを承けて,名古屋市は,昭和61年4月22日,名古屋市の市制百周年記念事業のメイン・イベントとして世界デザイン博覧会を開催することとし,協議会Bを設置して「世界デザイン博覧会基本計画」を作成した。そしてこの経緯を踏まえ,上記基本計画を具体化してデザイン博の準備と開催運営をするという目的のもと,昭和61年12月26日,期間を平成2年3月31日までと限って控訴人A1協会が設立された。同控訴人は,上記基本計画をもとに「世界デザイン博覧会会場基本設計報告書」を作成し,デザイン博の準備・開催運営をしたが,その具体的内容は「世界デザイン博覧会公式記録」(丙80)及び「市制百周年記念事業活動記録-名古屋市-」(丙76)に記載のとおりであった。
b また,控訴人A1協会は,その役員に控訴人A2(会長),助役C(副会長),収入役D(監事)ら市幹部職員が就任し,事務局職員も市職員を中心に構成されており,控訴人A1協会の会長であった控訴人A2は,平成2年3月26日(審査終了日)までの間,名古屋市議会の特別委員会において,デザイン博の準備・開催状況について定期的に報告をしていた。さらに,名古屋市は,控訴人A1協会に対し,出向した市職員の給与約2億円を含む補助金等として約26億円を交付し,同控訴人とともにデザイン博事業の準備・運営の中心的業務を行っていた協議会Bに対しても出向した市職員の給与約22億6000万円を含む補助金等として約32億円を交付するなどしており,デザイン博の準備・開催運営に対し,人的にも物的にもこれを全面的に支えていた。
c したがって,控訴人A1協会は,名古屋市から,市制百周年記念事業のメイン・イベントであるデザイン博につき,名古屋市の基本的な計画の下でその具体的な準備及び開催運営を行うという事務を委託され,その委託の本旨に従ってこれを継続的・統一的に実行したものということができ,しかも入場料収入等では不足する費用についてはその大半を名古屋市からの補助金等で賄っていたという両者の関係に照らせば,その間には実質的にみて準委任的な関係があったものと認められる。
イa 被控訴人らは,名古屋市と控訴人A1協会との関係は,請負的な関係と解すべきである旨主張する。すなわち,協議会Bの作成した「世界デザイン博覧会基本計画」は,名称・テーマ・会期・目標入場者数等が抽象的概括的に決められていただけであり,名古屋市は,控訴人A1協会に対し,デザイン博というイベント(=仕事)の完成を依頼したのであり,それを承けて控訴人A1協会は,具体的な事業計画の策定から準備・開催運営までの全てを行い,また,それによる利益も同控訴人に帰属するとされていたのであるから,名古屋市と控訴人A1協会との関係は請負的な関係にあったと解すべきであるというのである。
b しかしながら,名古屋市は,控訴人A1協会に対し,名古屋市の基本的な計画のもとで,デザイン博の具体的な事業計画の策定を含む準備や開催運営という統一的な事務処理を委託し,かつ,同控訴人を人的にも物的にも支えていたという実態や,さらに控訴人A1協会に対して報酬,あるいはそれに見合うものを与えることを予定していないこと(そもそも,控訴人A1協会は存続期間が定められているうえ,残余財産については,本財団と類似の目的を持つ他の法人又は団体に寄付することとされている。)に照らすと,被控訴人らが主張するように,名古屋市と控訴人A1協会の関係を,控訴人A1協会の計算のもとで仕事を完成させるという請負的な関係と見るのは相当ではない。被控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2) 争点(1)イについて
ア 上記のとおり,デザイン博は,名古屋市において構想し,協議会Bを設置して作成した基本計画が基礎になっており,これが委託の本旨に相当するものと解されるところ,控訴人A1協会は,その基本計画をもとに「世界デザイン博覧会会場基本設計報告書」をまとめて,デザイン博の具体的な準備・開催運営を行ったのであり(その内容は「世界デザイン博覧会公式記録」及び「市制百周年記念事業活動記録-名古屋市-」に記載のとおりであった。),それは委託の本旨に従ったものであったと認められ,この認定を左右するに足りる具体的な主張・立証はない。
イ そして,控訴人A1協会の収支については,同控訴人の監事Q(当時・愛知県出納長)及び同R(当時・S銀行代表取締役会長)らの監査報告書(丙86の1),同T(当時・愛知県出納長)及び同U(当時・S銀行代表取締役)らの監査報告書(丙86の2ないし4)において,「事業報告及び収支決算について監査したところ,その内容は適正なものと認めます」とされており,これらによればその支出についても適正なものであったと推定されるところ,これに疑問を抱かせるような具体的な主張・立証はない。
ウ したがって,名古屋市と控訴人A1協会との間に,実質的にみて準委任的な関係があり,控訴人A1協会の行った事務処理はその委託の本旨に従ったもので,それに伴う支出についても適正なものであったと認められるのであるから,委託者の費用償還義務(民法650条1項,2項)の規定に照らせば,控訴人A1協会が基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれない費用については名古屋市において負担すべき義務があったものと解するのが相当である。
(3) 争点(1)ウについて
 以上を前提に本件各契約(本件契約<26>から<34>を除く。)の締結に裁量権の逸脱,濫用があったか否かについて検討する。
 まず,上記のとおり,控訴人A1協会が基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれない費用については名古屋市において負担すべき義務があったものと解するのが相当であるから,本件各契約の締結が控訴人A1協会の赤字回避のためであったことをもって,直ちに違法なものであったと評価することはできない。
 そして,控訴人A1協会には存続期間が平成2年3月31日までと時間的な制約があるところ,本件各契約の目的物については,前提となる事実記載のとおり,直ちに利用方法を見出すことが困難なもの,再利用に相当の費用を要するもの,通常一般においても取得可能なものなども含まれていたという特殊性があり,さらにその量にも鑑みれば,第三者への売却には相当な困難が伴うことが予想された。他方,売却できなかった場合でも,名古屋市は不足する費用を負担すべきことに変わりはないうえ,当事者間の実質的な関係からすれば,それらの施設及び物品は名古屋市に移転することになるものとも考えられ(民法646条2項),これらを勘案すると,目的物の必要性,価格等の点を,本件各契約の締結における裁量権の逸脱,濫用を判断するうえで重視することはできない。
 さらに,当事者間の実質的な関係からすれば,名古屋市が本件各契約に基づき支払った代金は,委託者の費用償還義務の履行に相当し,過分であった2億1000万円については,最終的に控訴人A1協会に帰属するのではなく,同控訴人が名古屋市に対して返還すべき義務を負担することになるものと解されるうえ(民法646条1項),既に控訴人A1協会は,平成2年3月28日にこの2億1000万円を名古屋市に寄付することを決議しているのであるから,上記2億1000万円が過分であったことも,本件各契約の締結における裁量権の逸脱,濫用を判断するうえで重視することはできない。
 したがって,以上を総合すると本件各契約(本件契約<26>から<34>を除く。)の締結に裁量権の逸脱,濫用があったとは認められない。
(4) 被控訴人らの予備的な主張について
 被控訴人らは,名古屋市と控訴人A1協会との間に準委任的な関係が認められたとしても,本件各契約の締結には裁量権の逸脱,濫用が認められるとしてるる主張するので,以下検討する。
ア 被控訴人らは,名古屋市と控訴人A1協会との間の契約は行政契約であるから,地方自治法138条の2,同法2条14項,地方財政法4条1項の各規定に照らすと,デザイン博が赤字となった場合,無条件に赤字補てんが許されることにはならないのであって,その合理性を支える根拠が示される必要があると主張する。
 しかしながら,上記で認定判断のとおり,控訴人A1協会は,名古屋市からの委託を受けて,デザイン博の準備及び開催運営を行い,その準備及び開催運営は名古屋市の委託の本旨に従ったものであり,また,それに伴い支出された費用も適正なものだったのであるから,結果として基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれない費用を名古屋市が負担することは,実質的には準委任契約における費用償還義務の履行にほかならず,そこには十分な合理性が認められるのであって,被控訴人らの上記主張は理由がない。
イ 被控訴人らは,デザイン博の赤字の発生は,控訴人A1協会の債務不履行によるものであるから,その損害は受託者である控訴人A1協会の責任と計算で補てんすべきもので,名古屋市にその赤字を補てんする義務はない旨主張する。
 しかしながら,名古屋市と控訴人A1協会との間に,実質的にみて準委任的な関係が存し,控訴人A1協会が名古屋市に対して善管注意義務を負担していたとしても,委任を受けて行ったデザイン博の準備及び開催運営においては,上記の認定判断のとおり,その内容は委託の本旨に従うものであり,その支出に不適正なものがあったとは認められないのであるから,結果として収支が赤字になったからといって控訴人A1協会に債務不履行があったとは認められない。したがって,被控訴人らの上記主張は採用できない。
ウ 被控訴人らは,仮に,赤字が不可避的であり,それを名古屋市が最終的に負担しなければならなかったとしても,控訴人A1協会としては,委託者である名古屋市の支出をできる限り防ぐため,施設及び物品をまず名古屋市以外の第三者に対して売却することを検討すべきであったにもかかわらず,同控訴人はこれを怠り,他方,名古屋市としても,第三者に売却されていれば購入する必要がなかった施設及び物品を漫然と購入したのであるから,そこには裁量権の逸脱,濫用が認められると主張する。
 しかしながら,上記のとおり,そもそも名古屋市としては控訴人A1協会に対し,基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれない費用を補てんする義務があったものと解されるうえ,控訴人A1協会には存続期間が定められており早期に対処する必要があり,他方,本件各契約の目的物については,前提となる事実記載のとおり,直ちに利用方法を見出すことが困難なもの,再利用に相当の費用を要するもの,通常一般においても取得可能なものなども含まれていたという特殊性に鑑みれば,名古屋市において,控訴人A1協会に対し,第三者への売却の努力を求めず,価格設定について厳密な査定をしないまま契約の締結に及んだとしても,本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結に裁量権の逸脱,濫用があったということはできない。被控訴人らの上記主張は採用できない。
エ 被控訴人らは,名古屋市は,控訴人A1協会の赤字を解消するに必要かつ十分な金額で施設及び物品を購入すれば足りたにもかかわらず,通常の取引価格を無視した異常な価格で施設及び物品を購入して,控訴人A1協会に2億1000万円もの剰余を生じさせたのであって,このような本件各契約の締結には裁量権の逸脱,濫用があったことは明らかである旨主張する。
 しかしながら,上記で認定判断のとおり,名古屋市と控訴人A1協会との間には,実質的にみて準委任的な関係が認められ,名古屋市が本件各契約に基づき支払った代金は,実質的には委託者の費用償還義務の履行に相当するのであるから,過分であった上記2億1000万円については,最終的に控訴人A1協会に帰属するのではなく,同控訴人が名古屋市に対して返還すべき義務を負担することになるものと解されるうえ(民法646条1項),既に控訴人A1協会は,平成2年3月28日にこの2億1000万円を名古屋市に寄付する旨決議しているのであるから,控訴人A1協会に2億1000万円の剰余が生じたことを前提とする被控訴人らの上記主張はその前提において採用できない。
(5) 被控訴人らのその余の主張について
ア 目的の不法について
 被控訴人らは,本件各契約の締結について,目的の不法を主張する。
 確かに,前提となる事実記載のとおり,本件各契約は控訴人A1協会の収支が赤字となることを回避するためになされたものと認められるが,この点を踏まえ検討しても,本件各契約(本件契約<26>から<34>までを除く。)の締結について裁量権の逸脱,濫用は認められないことは上記判断のとおりであって,被控訴人らの主張は理由がない。
イ 随意契約による違法について
 被控訴人らは,本件各契約を随意契約によって締結したことの違法性を主張する。しかし,前提となる事実記載のとおり,本件各契約の目的物の特徴,売り手側の存続期間に制限のあったこと等の事情を考慮すると,名古屋市がこれらをまとめて,競争の方法によって購入するのが困難なものとして随意契約によったことは裁量の範囲内のことであり違法とは認められない。
ウ 議会の議決を経なかった違法について
a 被控訴人らは,次のとおり主張する。
 名古屋市においては予定価格8000万円以上の動産の買入れをしようとするときは,議会の議決を経なければならない(議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例3条)。本件各契約は,すべてデザイン博に使用された施設等を目的とした売買契約であるから,名古屋市は,議会の議決を経たうえで一括して一個の売買契約で,仮に,しからずとも,本件契約⑩ないし⑰,本件契約<35>ないし<38>,本件契約<39>ないし<48>は,それぞれまとめて1つのものとして契約締結をすべきであった。しかるに名古屋市はこの議会の議決を経るという手続を回避するために50個の契約に分割して売買契約を締結した。したがって,本件各契約は条例上必要な議会の議決を経ていないから,違法,無効なものである。
b しかしながら,本件各契約の目的物は多種多様なものであり,利用形態,利用目的,設置場所等が異なっているのであるから(乙1〔枝番を含む。以下も同様とする。〕ないし307,丙7,8),これらを一括して一個の売買契約を締結すべきものとまでは認められないし,本件契約⑩ないし⑰,本件契約<35>ないし<38>,本件契約<39>ないし<48>について,各部局でまとめて1つのものとして契約締結をすべきものとも認められない。
 また,名古屋市において,議会の議決を回避するために分割して売買契約を締結したということを認めるに足りる証拠はなく,名古屋市議会は,控訴人A1協会との間で本件各契約が締結されたことを十分認識して,前提となる事実(4)ア,イ記載のとおり審査や議決をしたのであるから,本件各契約の締結を追認したということもできる。
c したがって,被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 代決権限を有しない者が代決した違法について
a 被控訴人らは,次のとおり主張する。
 本件契約⑩,⑮,⑰,<41>,<43>及び<45>には,契約の目的物に「工事用材料」に当たるものは含まれておらず,契約の目的物は全て「物品」に当たるから,本件契約⑩,⑰,<43>及び<45>については市長が,本件契約⑮及び<41>については助役が,それぞれ購入の意思決定をすべきであった。
 しかるに,購入の意思決定は原判決別紙(二)名古屋市行為者一覧表(1)