hanrei @Wiki H17.10.18 東京地方裁判所 平成17年合(わ)第200号 建造物侵入,強盗殺人被告事件



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かつての勤務先店舗に侵入して金員を窃取した直後,偶然同店にやってきた同店従業員の被害者と顔を合わせたため,同人を殺害して自己の罪跡を隠滅する目的で,洋包丁3丁を用いて同人の全身を多数回切りつけあるいは突き刺すなどし同人を殺害した被告人に対して,無期懲役の判決が言い渡された事案。


平成17年10月18日宣告 建造物侵入,強盗殺人被告事件
平成17年合(わ)第200号

主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,専門学校を中退後,警備員や飲食店従業員などの職を転々としていたが,平成16年6月ころ,それまで勤めていた居酒屋を辞め,交際中の女性宅で同せいするようになった。同月下旬,被告人は,東京都新宿区内のAビル6階所在の有限会社Bが経営する飲食店「C」でアルバイトを始め,同年10月には同社の正社員となったが,平成17年1月初旬ころ(以下の月日は,いずれも平成17年を指す。),夜の仕事が嫌になったなどといった理由から出勤しなくなり,同店のかぎも預かったままとなっていた。
 平素から貯蓄をする習慣のなかった被告人は,2月3日から不動産会社に勤め始めたものの,給料は3月10日まで支給されず,2月10日に振り込まれた「C」の最後の給料7万円余りも即日引き出して無計画に費消した結果,2月20日過ぎころには所持金が数千円になり,3月1日に予定していた同せい中の女性との交際1周年を記念する外出の際の費用をねん出することも困難な状況になった。しかし,被告人は,見栄などから同せい中の女性に所持金が乏しいことを相談できず,消費者金融からも限度額近くまで借入れをしており,かつて借金の肩代わりをしてもらった両親にも相談しづらかったことから,金策に窮し,2月中旬ころから,返却しないままになっていたかぎを用いて元勤務先の「C」に忍び込み,金員を盗むことを考えるようになっていった。
 被告人は,2月28日までに所持金をほぼ使い果たし,消費者金融から限度額一杯の1万円を借り入れたものの,翌日の外出に当たっての遊興費はなお不足すると考え,いよいよ「C」に盗みに入るしかないと思うようになった。被告人は,同せい中の女性に遅くなる旨の連絡をし,同店が無人になるまで時間をつぶした上,翌3月1日午前5時30分ころ,車で「C」に向かった。
(罪となるべき事実)
 被告人は,金員窃取の目的で,平成17年3月1日午前6時ころ,東京都新宿区内のAビル6階所在の飲食店「C」店長Dが看守する同店内に合いかぎを使用して出入口ドアから侵入し,同所において,同人管理に係る現金15万円を窃取した直後,偶然出先から同店に立ち寄ったかつての同僚である同店従業員E(当時18歳)に発見されたため,目撃者である同人を殺害して自己の罪跡を隠滅する目的で,そのころ,同所において,同人に対し,殺意をもって,その頸部,腹部,頭部等を洋包丁3丁(刃体の長さ約23㎝(平成17年押第648号の3),同約18.5㎝(同押号の1)及び同約27.5㎝(同押号の2))で多数回にわたって切りつけあるいは突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を前頸部刺切創による右総頸動脈切断及び左腹部刺切創による左腎動静脈損傷による失血により死亡させて殺害したものである。
(量刑の理由)
 1 本件は,被告人が,かつての勤務先店舗に侵入して金員を窃取した直後,偶然同店にやって来たかつての同僚の被害者と顔を合わせたため,同人を殺害して自己の罪跡を隠滅する目的で,殺意をもって,洋包丁3丁を用いて多数回にわたり同人を切りつけあるいは突き刺すなどし,よって,同人を殺害したという建造物侵入及び強盗殺人の事案である。
 2(1) 被告人は,収入の目処を付けないまま,大した理由もなく勤めを辞め,新たな勤め先の給料が支給されるまでの間,手持ちの現金を飲食費や遊興費などに無計画に費消した結果,同せい中の女性と遊びに行く費用が不足したことを契機として判示の窃盗に及んだものである。被告人が金に窮するようになった原因は,もっぱら被告人の無計画な行動にあることは明らかであり,しかも,およそ差し迫った必要性の乏しい遊興費ねん出のために,見栄などから同せい中の女性に相談することもせず,また,外出の予定を延期することもなく,短絡的に金員の窃取を決意したというのであるから,そのあまりに身勝手かつ自己中心的な犯行動機には,酌量の余地は全くない。
 また,犯行態様も,被害店舗のかぎが手元にあることをいいことに,人気がなくなる時間帯に被害店舗が入居するビルに赴き,エレベータでいったん7階まで上がった後,階段で6階まで降りて同店の様子をうかがい,見つかってもすぐに逃げ出せるよう靴を履いたまま店舗内に侵入すると,指紋を残さないよう手袋をはめたまま本件犯行に及び,しかも,レジの計算間違いか従業員の仕業と見せかけるために売上金の一部のみを抜き取るなどしており,冷静な判断に基づく巧妙なものであって悪質性が高いといえる。その窃取した金員も,15万円であって少なくない。
 (2) 次に,被告人が被害者を殺害するに至る経緯についてみると,被告人は,同店の売上金保管場所から売上金の袋を取り出して現金を窃取した直後,たまたま同店に立ち寄ったかつての同僚である被害者と顔を合わせ,その場は何とか取り繕って店舗外に出たものの,階段を駆け下りながら,売上金の袋をそのままにしてきたことなどから,このままでは自分が犯人であることがばれて警察に捕まり,これまでのような暮らしが続けられなくなってしまう,金を返して謝るか,あるいはいっそのこと目撃者である被害者を殺してしまうかなどと思いを巡らせ,取りあえずは引き返すしかないと考えて,1階まで下りた後,直ちにエレベータで6階まで戻った。再び店舗内に入った被告人は,被害者から「お金ないんですけど。今,いろいろ電話してたところなんですよ。」と言われて,もはや被害者を殺害するしかないと決意し,同店のちゅう房から洋包丁1丁を持ち出したところ,被告人が持つ包丁に気付かなかった被害者に「ちょっと待ってください。」と言われてちゅう房の奥に押し込まれたため,包丁を突き出してその腹部を刺突した。被告人は,とにかく被害者を殺害するしかないと考え,叫び声を上げながら店舗出入口まで逃げた被害者を追いかけて捕らえた上でその身体に何度も包丁を突き出し,逃げまどう被害者の上に馬乗りになるなどして更に何度も被害者を切りつけあるいは突き刺したため,ついに被害者が店舗内に戻って崩れ落ちるようにして座り込んだ。これを見た被告人は,もう被害者は逃げないだろうと考え,折れ曲がってしまった洋包丁を取り替えるために再度ちゅう房に入り,新たな洋包丁2丁を持ち出して,座り込んだ被害者の前にしゃがんで,両手に持った洋包丁を被害者に何度もたたきつけ,被害者のうめき声を聞くと,最後には,その首の両側を洋包丁で突き刺して殺害した。
 (3) このように,被告人は,被害者に売上金を窃取したことをとがめられそうになるや,いきなり被害者の腹部を包丁で刺突し,その後も,必死に逃げまどう被害者に対し,一片の容赦もなく,包丁を突き出し,切り付けるなどの行為を執ように繰り返して殺害したものである。被害者の刺切創等の損傷は,頭部9か所,顔面11か所,頸部9か所,胸部5か所,腹部8か所,背部6か所,両上肢24か所,両下肢4か所と全身にわたり合計76か所にも及んでおり,その犯行態様はせい惨というほかに言葉が見当たらない。また,犯行動機も,自ら犯した窃盗行為が発覚し,これまでのような生活を送ることができなくなるのを避けるなどといった,自己保身を図るために,その生ずべき結果の重大性を全く考慮することなく,極めて短絡的に被害者の殺害という犯行に及んだものであって,この点についてもおよそ酌量の余地はない。
 なお,弁護人は,被告人が窃盗の犯行後にいったん店舗外に出ている経過をとらえて,本件は実態的には窃盗罪と殺人罪が併合した事案ともいえる点を量刑上十分に考慮すべきである旨主張する。確かに,被告人は被害者から追及されることなく一度店舗外に出てはいるものの,なお同じビルの中にとどまって,直ちに窃盗の犯行現場である店舗内に戻っているのであり,いわば依然として被害者側の支配領域にあって,被害者等から容易に発見されて,財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況が継続していたのであるから,本件は強盗殺人罪に当たるものと認められるし,被告人が,様々に思いを巡らせながらも直ちに被害店舗に戻り,被害者の殺害を決意してこれを完遂していることからすれば,量刑上特に有利にしん酌すべき事情であるとまでいうことはできない。
 (4) 本件犯行により,無残にもまだ18歳と若い被害者の生命が奪われたのであるから,その生じた結果が極めて重大で取り返しのつかないものであることは改めていうまでもない。もとより被害者には全く落ち度はなく,被告人の凶行により,数多の傷害を負いながら絶命した被害者の受け続けた肉体的苦痛,また,その間の恐怖がいかばかりのものであったかは,もはや想像を絶するというほかない。被害者は,将来は音響関係の仕事に就くことを夢見て単身上京し,両親に負担をかけずに専門学校の学費を自らの手で稼ぐために働いていたさなかに,被告人によって突如,理不尽にもその将来を絶たれたのであるから,その悔しさと無念さは多大なものであったと推察される。被害者の遺族が受けた衝撃も甚大で,それぞれ,被害者が妹の面倒をよく見て家の手伝いも進んでやる優しい子であったことや,特に兄弟の仲が良く自慢の弟であったことなどを語っており,被害者をこのような形で失った悲しみと怒りは強く,被告人には死をもって償ってほしい旨述べて,当公判廷においてもしゅん烈な処罰感情を示している。
 以上の事実からすれば,被告人の刑事責任は誠に重大である。
 3 他方,被告人は,逮捕後は事実を認め,生ある限りは罪を償っていきたい旨述べて反省の態度を示していること,被告人及び被告人の両親が被害者の遺族に謝罪文を送付していること,被告人の高校時代の指導教員が当公判廷に証人として出廷し,被告人の当時の性格を語った上で,その罪の重さに気付いてほしい旨述べて被告人を思いやる言葉を述べていること,被告人にはこれまで前科前歴のないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
 4 そこで,被告人の量刑であるが,以上のような諸事情を総合考慮して無期懲役刑を選択することとするが,被告人のために酌むべき前記の諸事情その他諸般の事情を最大限考慮しても,酌量減軽をすべき余地はないというべきであるから,被告人については,無期懲役に処するのが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
(検察官勝山浩嗣公判出席)
(求刑 無期懲役)
平成17年10月18日
東京地方裁判所刑事第7部
裁判長裁判官   小 川 正 持
     裁判官   水 上   周
    裁判官   川 尻 恵理子