hanrei @Wiki H17.11.18 甲府地方裁判所 平成17年(ワ)第40号 約束手形金請求



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二重無権(原因関係二重欠缺)の抗弁が採用されて手形金請求が棄却された事例


主   文
1 原告と被告の間の甲府地方裁判所平成16年(手ワ)第○号約束手形金請求事件について同裁判所が平成17年○月○日に言い渡した手形判決を取り消す。
2 原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実および理由
第1 請求
 被告は原告に対し1000万円とこれに対する平成16年11月30日から支払いずみまで年6%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は原告の請求を認容した手形判決に対する被告の異議に基づく訴訟である。原告の請求は,約束手形の振出人である被告に対する手形金1000万円およびこれに対する満期(平成16年11月30日)から支払いずみまで手形法所定年6%の割合による利息の支払請求である。

 1 争いのない事実
 原告は別紙手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という)を所持している。
 被告は本件手形を振り出した。
 原告は平成16年11月30日に本件手形を支払場所に呈示した。

 2 争点ー抗弁対抗の可否
【被告の主張】
 (1) 被告主張の事実関係
 ア Aは被告から約束手形を詐取しようとくわだて,平成16年7月20日午後4時頃,東京都○○ビル内の喫茶店において,被告のために手形を割り引く意思も割引金を被告に交付する意思もないのに,これがあるかのように装い,被告のY代表取締役(以下「Y社長」という)に対し,「7月末までに手形を割り引いて割引金を交付する」と述べ,Y社長をそのように誤信させ,Y社長からその場で本件手形を含む額面1000万円の約束手形5通の交付を受け,もって人をあざむいて財物の交付を受けた。
 その際,AはY社長に対し,「H代表者B」名義の受領書を渡した。そこにはB会入会金および技術指導料として手形5通で5000万円を受領したと書かれていた。Yはどういうことかと気になったが,とくに説明を求めずに受け取った。
 イ 7月末までに約束の割引金の交付がなかったので,Y社長は仲介者のCとDに手形の返還を要求し,8月30日,本件手形以外の4通の手形を返却してもらった。9月17日頃,Y社長は義兄のEとともに東京へ行き,池袋の喫茶店でA,C,Dと会い,本件手形の返還を要求した。しかしAは「F(という会社)の水耕栽培の仕事の測量設計監理代として(原告代表取締役の)Xに渡してしまったから返せない」と居直り,話は物別れに終わった。
 ウ 原告のX代表取締役(以下「X社長」という)は,Aと利益を同じくする立場にあり,上記アの事情を知りながら本件手形をAから取得した。
 エ 原告とその前主であるAあるいは株式会社Gとの間には手形の原因関係が存在しない。

 (2) 被告の法律上の主張
 以下の理由により,被告は被告とAないしGとの間に存在する事由をもって原告に対抗することができる。
 ア 割引金不払いと原告の悪意
 被告は割引によって金融を得る目的で本件手形をAに交付したが,割引金の支払いを受けられなかった。原告はこれを知りながらAから本件手形を取得した。
※ 被告は「詐取」を主張するが,被告の主張によれば本件手形は割引によって被告が金融を得るために振り出された手形であり,割引金が支払われなかった以上,被告はこれを理由に手形金の支払いを拒否できる。Aの側の詐欺の故意まで主張立証する必要はないと解する。
 イ 原因関係二重欠缺
 被告とAないしGとの間に手形振出の原因関係は存在せず,原告とAないしGとの間に手形裏書の原因関係は存在しない。

【原告の主張】
 (1) 被告主張の事実関係に対する認否
 ア 被告の主張(1)ア,イの事実はいずれも知らない。
 イ 同ウは,X社長がAから本件手形の交付を受けたことは認めるが,それ以外の事実は否認する。
 ウ 同エの事実は否認する。

 (2) 原告主張の事実関係
 ア X社長は,平成16年8月頃,Gの専務取締役であるAから,以下の経緯で本件手形を受け取った。
 X社長は,平成14年6月,Aから測量の仕事を紹介された。Aが一緒に仕事をしているHというところが東京都△△の土壌改良の事業を請け負っており,その仕事の一部を原告に発注することができるということだった。工事に着工すれば約1億円の仕事になる,そのために協力金として1000万円をだしてほしいと言われたので,X社長はこれを信じこみ,同年6月13日付けでH(代表者B)との間で工事請負協定書を締結し,同時に現金1000万円をBに交付した。ところがその後工事が開始することはなく,X社長はAに何度も催促した。
 そうしたところ,平成16年8月,Aは,X社長に対し,「F株式会社という会社が山梨県○○で水耕栽培事業を計画しているので,原告がこの対象地域を測量してほしい。また開発行為についてもその手続を請け負ってほしい」と申し出た。そして,そのための前払分も含むものとして,AはGのために本件手形に裏書してこれをX社長に交付した。Gの代表取締役はBである。X社長は,原告が平成14年6月に交付した1000万円の協力金の返還および測量の仕事の前払金の一部として本件手形を受け取った。手形金1000万円のうち500万円が協力金の返還,残りの500万円が測量の仕事の前払いである。
 イ 原告は,平成16年9月に入ってから,山梨県○○の対象地で測量の作業に着手し,平板測量,現況測量,用地測量等の測量を実施した。しかし作業を始めた後に本件手形をめぐるトラブルの発生を知り,途中でストップした。

第3 争点に対する判断
 1 本件手形授受の当事者
 証拠(乙1,原告代表者X)と弁論の全趣旨により以下の事実を認める。
 ア 本件手形は,平成16年7月20日,同月末の被告の資金繰りに窮していたY社長が,手形割引によって被告が金融を得ることを目的として振り出し,Aに交付したものである。
 イ Y社長とAの間では,7月末日までにAが被告に割引金を交付するという約束があったが,この期限までに割引金は交付されなかったし,その後も交付されなかった。
 ウ Y社長はAに対して本件手形の返還を要求し,9月17日頃には直接面会して返還を求めたが,Aは正当な理由なく返還を拒否した。
 エ 原告のX社長は,対価を支払うことなくAから本件手形の交付を受けた。
 オ Aは本件手形の受取人・第1裏書人であるGの専務取締役である。
 以上の事実によれば,本件手形は,被告のY社長からAへ,Aから原告のX社長へと交付されたと認められる。Y社長が被告の代表者として,X社長が原告の代表者として行動したのは明らかであるが,Aが個人としての立場で行動したのかG代理人としての立場で行動したのかは必ずしも明確でない。しかし,手形面上の受取人・第1裏書人がGであること,Aが同社の専務取締役であることから,Aは同社の代理人として行動したのであると判断する。したがって,本件手形授受の当事者は,振出については被告とG,裏書については同社と原告である。

 2 振出の原因関係
 上記のとおり本件手形は手形割引により被告が金融を得ることを目的として振り出されたのであるから,被告とGとの間の手形振出の原因関係は,両者間の金銭融通に関する合意である。そして,この合意に基づく期限である平成16年7月末日までに割引金は被告に交付されなかったし,その後も交付はなかったので,融通に関する合意は解除されたと認められるから,原因関係は消滅した。Gは本件手形について何の権利も有しない。

 3 裏書の原因関係
 原告は,裏書の原因関係として,
a 原告のGに対する1000万円の協力金返還請求権(その法的性質は不当利得返還請求権であると解される)のうちの500万円
b 原告がF株式会社から請け負った山梨県○○の測量事業についての同社に対する請負代金請求権のうちの500万円
の2つをあげる。ところが,X社長は,代表者尋問において,aを否定し,裏書の原因関係はもっぱらbであると供述した。すなわち,原告はFに対して1000万円を超える請負代金請求権を取得することとなり,そのうちの1000万円分の前払いとして本件手形の交付を受けたというのである。
 このX社長の供述に対しては,以下のとおり,疑問点あるいは不自然な点をたちどころにいくつも指摘することができる。
 第1に,Fという会社が実在するのかどうかがまずもって明らかでない。被告が提出した証拠(乙7)によれば,f株式会社という会社は存在するようだが,この会社とX社長のいうFという会社が同じものかどうかすら確認できる証拠はない。
 第2に,原告とFの間に真に請負契約が存在するのであれば,契約書や見積書あるいは発注書など,その根拠となる契約関係書類が存在するはずであるが,原告はそのような書類をいっさい提出しない。これは不自然といわざるをえない。また,そのような書類すらないのに前払金として額面1000万円の手形を交付するというのもきわめて不自然である。
 第3に,原告が行ったという作業もきわめて疑わしい。原告は作業を行った証拠として図面等(甲5ないし8〔枝番を含む〕)を提出するが,これらがいつどのようにして作成されたのか,その内容からはわからない。本件訴訟係属後に作成されたのではないかという疑問も否定することができない。さらに,いつ,どこで,どのような手順で,だれが,どのような作業を行ったかについてのX社長の説明にいたっては,あいまいであるうえにきわめて怪しく,とうてい納得できるものではない。
 第4に,原告はFのために仕事をするというのに,なぜ同社ではなくGないしAがその請負代金の前払いとして本件手形を原告に交付したのか,その経緯に関するX社長の説明はさっぱり理解することができない。FとAとの関係も不明である。
 第5に,前述したように,原告は,本件手形裏書の原因関係として,その主張においては上記a(協力金返還請求権)とb(請負代金請求権)の2つをあげており,X社長作成の陳述書(甲2)にもそのような記述があるのに,X社長は尋問においてはbのみが原因関係であると供述した。しかし,そのように説明を変化させたことについて,X社長は納得できる説明をすることができなかった。これも不審である。
 第6に,X社長の説明するX社長とAの関係はきわめて不自然な関係である。X社長は,本件手形について当然きくべきことをAにきいていないし,Aのほうも,当然説明すべきことをX社長に説明していない。X社長は,すくなくともAとの関係については真実を述べていないと断定せざるをえない。
 第7に,尋問におけるX社長の供述態度をみると,質問をはぐらかしたり質問に対して正面から答えようとしない傾向が顕著にみられるし,ある事実があったかなかったを語るべきところで「私はそう思います」などとぼかした表現をくりかえし使用しており,自己の体験に基づき真実を語ろうとする者の態度とはとうてい思えない。その供述全体に信用性がないといわざるをえない。
 以上のような問題点の検討に基づき,当裁判所は次のように結論づける。原告の主張する原因関係のうち,上記a(協力金返還請求権)は,X社長自身が否定しており,本件手形裏書の原因関係ではない。上記b(請負代金請求権)は,これに関するX社長の供述はまったく信用することができず,X社長のいうような原因関係は存在しないと認められる。これらに加え,本件訴訟における原告の主張の経緯などの事情を総合的に考慮すると,Gと原告との間の本件手形裏書の原因関係はいっさい存在しないと認定することができる。

 4 結論
 被告は,本件手形の受取人であるGに対しては,割引金の支払いがなかったことを理由に手形債務の履行を拒むことができる。次に,Gと原告との間の裏書の原因関係は存在せず,原告は手形の支払いを求める何らの経済的利益も有さない手形所持人であるから,被告は,Gに対する抗弁をもって原告に対抗し,手形債務の履行を拒むことができる(最判昭和45年7月16日民集24巻7号1077頁参照)。原告の請求は理由がないので,これを認容した手形判決を取り消し,原告の請求を棄却する。

   甲府地方裁判所民事部

 裁判官  倉 地 康 弘

(別紙)手形目録(省略)