hanrei @Wiki H17.10.28 名古屋地方裁判所 平成16年(行ウ)第32号 地位確認請求事件



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判示事項の要旨:
国立大学法人が,国立大学のときから期間の定めのある雇用契約を締結してその更新を継続してきた外国人教師の更新を拒絶したことについて,更新を拒絶するには合理的理由が必要であるが,合理的理由が肯定されるとして,契約の終了が認められた事例


平成17年10月28日判決言渡
平成16年(行ウ)第32号 地位確認請求事件
主       文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
原告が,被告に対し,平成17年4月1日以降も労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
第2 事案の概要
本件は,主位的には,旧国立学校設置法による大学である国立A大学(以下「A大学」という。)の外国人教員として国に任用されたとし,予備的には,第1に,A大学との間で期間の定めのある雇用契約を締結したが,更新によって期間の定めのない契約となったとし,第2に,その雇用契約が期間の定めのあるものであっても,更新に対する期待権が生じていたとする原告が,その地位が労働契約上の地位として,被告に対する関係で承継されたから,被告が原告を解雇し又は雇い止めをするには合理的理由が必要であるが,かかる理由を欠くとし,第3に,仮に,原告と被告との間で期間の定めのある雇用契約が新たに締結されたとしても,原告には更新に対する期待権が生じていたから,被告が原告を雇い止めをするには合理的理由が必要であるがかかる理由を欠くとして,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるものである。
なお,本件訴訟は,当初,行政事件訴訟法の実質的当事者訴訟として立件されたが,民事訴訟である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は,平成6年4月1日から,A大学の教員として勤務していた(その教員としての身分については争いがある。)。
(2) A大学は,平成15年12月24日付け文書(甲2)をもって,原告の代理人弁護士に対し,平成16年度(平成17年3月31日)をもって原告との間の雇用契約を終了させる旨回答した(以下「本件回答」という。)。
(3) A大学B研究科長C(以下「C教授」という。)から,原告に対し,平成15年12月4日付け書面(甲19の1)が送付され,同書面に添付の同年11月12日開催のC研究科教授会での説明メモ(甲19の2)によると,原告の雇用を平成17年3月31日までとする理由は,次のとおりとされていた。
ア 平成8年に,英文学と英語学とで構成されていた英文学研究室が,英米文学と英語学とに分離独立したが,その際に英米文学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針が立てられた。
イ 平成8年の英米文学と英語学との分離独立後も外国人教師枠を英米文学にて使用してきたが,平成16年4月の独立行政法人化に際して,任期付き外国人教授ポストを最初に英語学が使用することに双方で同意した。
(4) 原告は,前記(3)の説明メモに対し,次のとおり反論した(甲4)。
ア 原告がA大学との雇用契約を締結したのは,平成6年4月1日であるが,前記(3)アにある「平成8年に,英文学と英語学とで構成されていた英文学研究室が,英米文学と英語学とに分離独立したが,その際に英米文学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針」は,雇用契約後にA大学が一方的に決めたことであり,しかも,原告には平成8年の時点でこのことを知らされていない。
イ 前記(3)イについては,原告は任期付き教授ではなく,期限の定めのない雇用契約となっており,「任期付き外国人教授ポストを最初に英語学が使用することに双方で同意した」ことと,原告の雇用契約を打ち切ることは全く次元の異なった事柄である。
ウ 前記(3)アに関連して,仮に平成8年の時点で原告(現在51歳)が「英米文学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針」を知らされておれば,原告は当時は45歳であり,他の大学へ定年まで勤務でき,年金が受け取れる条件での転職が可能であった。
現在の51歳という年齢では,そのような条件の職場を見つけることはほとんど不可能である。
エ 前記(3)イについては,英米文学科の教授はC教授を含む日本人教員2名と原告であるが,博士号を保有しているのは原告のみである。
前記の説明メモでは,「外国人教師枠が定員化される機会に,それを任期付きの教授として,日本人スタッフと対等にプロジェクトを組めるDistinguished Scholarを招聘し教育研究を活性化させる」とあるが,原告こそがDistinguished Scholarである。
オ C教授は博士号を持っておらず,しかもこの10年以上にわたって同教授の研究科からは一人も博士号を取得した者がいないという実情にあり,C教授こそがDistinguished Scholarを招へいする資格のないものであり,学科生に対する指導にも多くの問題がある。
(5) A大学は,平成16年4月1日,国立大学法人法に基づき,被告となった。
国立大学法人法附則4条では,国立大学の職員(これがいかなる範囲の者を指すかについては争いがある。)の身分はそのまま国立大学法人に引き継がれると規定されており,職員については,原則として別に辞令を発せられない限り身分の承継がされている。
したがって,A大学の職員であった者は,平成16年4月1日の被告の成立により,別に辞令を発せられない限り,被告の職員となった。
(6) 被告は,平成16年12月17日,原告の代理人弁護士に対し,平成17年3月31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通知した(乙27)。
2 争点
本件の主たる争点は,(1)原告は外国人教員として国に任用されたか,(2)原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか,(3)原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか,(4)原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることは許されないかという点にある。
(1) 争点(1)(原告は外国人教員として国に任用されたか)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は,平成6年4月1日,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用された。
原告は,平成6年4月1日の採用以来,毎年契約書を締結してきたが,これは「日本国政府の会計行政によるもので」(甲1のC教授の原告あての手紙の記載)あり,その契約書は形式的なものにすぎない。この毎年の契約書に原告の署名を求める際に,A大学から原告に対して,1年間の雇用継続であることの説明は一切なく,会計処理のために原告の署名を求めたにすぎない。毎年の契約書の署名の際に,原告はA大学から「次の契約期限の後は働く意思があるか。」と質問されたことは一切なく,契約書に原告が署名することは当然のこととして契約書が作成されていた。そのことが10回も繰り返されてきたものであり,この実態は契約書が会計行政のための形式的なものにすぎないことを示している。
(イ) A大学の外国人教員として任用された原告の上記身分は,平成16年4月1日に被告との間の労働契約上の地位として承継された。
(ウ) 被告は,A大学の地位を承継したものであるので,被告が原告を解雇するためには合理的な理由が必要であるが,かかる合理的理由はない。
イ 被告の主張
(ア) 原告が国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて任用された外国人教員であるとの主張は否認する。
原告の採用は,国家公務員法2条7項に基づく契約によるものである。すなわち,国家公務員法2条6項は,「政府は,一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給,給料その他の給与を支払ってはならない。」と原則的な規定をしているところ,同条7項は,「前項の規定は,政府又はその機関と外国人との間に,個人的な基礎においてなされる勤務の契約には適用されない。」として,この原則に対する唯一の例外として,外国人の雇用を定めている。
この例外的規定に基づく契約により雇用される外国人の身分は,一般職,特別職のいずれにも属さない国家公務員であって,給与,勤務条件等についても,国家公務員法,一般職の職員の給与に関する法律等の適用はなく,政府又はその機関との契約により決定される。
旧国立学校設置法施行規則30条の3第1項では,「国立大学又は国立短期大学の学長は,国家公務員法第2条第7項に規定する勤務の契約により,外国人を教授又は研究に従事させることができる。」と定めている。これが「外国人教師」の制度であり,原告はこの外国人教師として雇用されたものである。
これを受けて,その取扱いについては,昭和44年4月16日文大庶第251号各国立大学長あて文部事務次官通知「外国人教師の取り扱いについて」等の通知が出されており,これらにより取扱いは詳細に定められている。
すなわち,国立大学及び国立高等専門学校において外国語科目又は専門教育科目を担当させるにたる高等の専門的学識又は技能を有する外国人で,国立大学等が常勤の教師として雇用する者を外国人教師とし(通知第1項),外国人教師には俸給,調整手当,期末手当及び勤勉手当,通勤手当並びに寒冷地手当を支給し(通知第2項),外国人教師との雇用契約の期間は1年を超えないものとし,会計年度の中途で契約する場合はその終期を当該年度の末日とし,この雇用契約は必要に応じて更新することができるが,国外から招へいする場合の招へい期間は,帰国旅費の支給の関係から原則として2年とし(通知第3項)等と定められ,これらの定めの中で外国人教師との契約が締結されるものであり,原告との契約もこれらの定めに基づいてなされた。
このように原告との雇用契約の締結は,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知に従い,当初は国外からの招へいとして平成6年4月1日から2年(最初の1年の契約の後,その後の1年について更新を保証したもの)の契約とされた。
その後は毎年4月1日から1年間ずつの契約が更新されてきたものであり,毎年契約書を作成して,期間1年と明示し,その契約に当たっては,毎年A大学内部の手続である文学研究科教授会の決議を経て,総長の名で締結されてきた。
(イ) 原告は,毎年の契約書の締結の事実を認めた上で,「これは日本国政府の会計行政によるもの」との甲1の表現を引用して,形式的なものにすぎないと主張する。
しかし,甲1の記載では,最初の招へい期間は2年であること,しかし,最初の契約は到着から会計年度の期間で締結し,その次の会計年度の1年を更新して,招へいの2年間の期間とすること,その後は「相互の合意により1年ごとに契約更新することが可能であること」を正確に明示し,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知を遵守している。
(ウ) 国立大学法人法附則4条では,国立大学の職員の身分はそのまま国立大学法人に引き継がれると規定されており,国家公務員法2条6項に定められた一般職の国家公務員については,原則として別に辞令を発せられない限り身分の承継がされている。
したがって,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づき採用された外国人教員は,一般職の国家公務員であり,身分の承継がされる。
しかし,前記のとおり,原告は,国家公務員法2条6項に定める一般職の国家公務員ではなく,同条7項により,特別に例外として雇用された外国人教師であり,国立大学法人法附則4条の適用はなく,身分の承継はない。
(2) 争点(2)(原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか)について
ア 原告の主張
(ア) 仮に原告の地位が外国人教員として任用されたものでないとしても,原告とA大学とは,平成6年4月1日,原告がA大学のB部客員教授として平成8年3月31日まで働く旨の雇用契約を締結し,その期間を更新したことによって,原告とA大学との雇用契約は期間の定めのない契約となった。
(イ) 被告は,A大学の地位を承継したものであるので,被告が原告を解雇するためには合理的な理由が必要であるが,かかる合理的理由はない。
イ 被告の主張
(ア) 前記のとおり,A大学は,国家公務員法2条7項に基づいて,旧国立学校設置法施行規則30条の3第1項による外国人教師として原告を雇用したものであり,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知に従い,毎年契約書を作成して,期間1年と明示して雇用してきたものであるから,この雇用契約が継続して繰り返されても,性質が変更となるものではない。
外国人教師の雇用においてはもともと法律の定めにより1年の契約しかできないのであり(ただし,招へいの当初を除く。),A大学は,法律に従い原告との間で1年の契約をしてきたものであって,更新時においても,明確に1年の有期契約であることを明示し,また,原告の契約書への署名についてはその場で求めるのではなく,時間を与えて,原告自身で契約書を確認の上署名している。
(イ) したがって,更新によって原告とA大学との雇用契約が期間の定めのない契約となったとの事実はない。
なお,原告との契約は,B部客員教授としての雇用契約ではなく,外国人教師としての雇用契約である。
(ウ) 前記のとおり,国家公務員法2条7項によ外国人教師としての雇用契約である以上,国立大学法人法附則4条の適用はなく,身分の承継もない。
(3) 争点(3)(原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか)について
ア 原告の主張
(ア) 原告とA大学との間の有期雇用契約は,平成16年3月31日まで更新が繰り返されてきたのであるから,その更新は形式的で,平成16年3月31日の時点では実質的には期間の定めのない労働契約と同じような状態で存続しており,原告には契約更新に対する期待権が生じていた。
(イ) A大学と原告とのこの雇用契約上の関係は,被告の成立後も被告が原告との有期雇用契約を実質的に更新したことによって被告がこれを承継したものである。
(ウ) よって,被告は,平成17年3月31日をもって有期雇用契約を打ち止めとするためには合理的な理由が必要である。
(エ) しかし,以下に述べるとおり,かかる合理的理由はない。
a 被告は,原告と間の雇用契約の打ち止めの理由として,原告との契約を終了させて,その外国人教師枠を「21世紀Center Of Excellenceプログラム」(以下「21世紀COEプログラム」という。)の中で任期付き教官定員として利用する方針を決定したものであり,原告の外国人教師枠を利用することにしたのは,英米文学研究室の外国人教師は所期の目的を達成したと判断されたからであると主張する。
しかし,C教授が原告に告知した内容は「平成8年の大講座化したことに伴って英米文学と英語学が独立し,その際に英米文学の外国人教師枠をしかるべきときに英語学に譲ることが方針として決められ今般の独立法人化による外国人教師枠の定員化を機に,原告の役目も所期の目的を達しているので,原告の雇用契約を打ち止めとして,英語学が任期付き教授ポストを使用することを合意した」というものであり,被告が主張するような説明はなされておらず,21世紀COEプログラムのことは何も触れられていない。したがって,被告の上記主張は,紛争になってから考えられた架空のものであり,雇用契約を打ち止めとする正当な理由とはなり得ない。
また,原告の役目も所期の目的を達しているとの点は,明らかに事実に反している。A大学大学院B研究科案内において,原告の講義中の写真が掲載されており,英米文学にとって原告が枢要な存在であることが裏付けられている。原告は,英米文学のスタッフ3名のうちの1名として,大学院レベルの研究指導に携わっており,着任以来,大学院の講義を担当して教授しているほか,卒業論文・修士論文の口述試験にも審査教官としてかかわっている。
b 被告は,21世紀COEプログラム予算が十分でないことを理由として,原告の雇用を打ち切ってその空いた外国人教師の枠を21世紀COEプログラムのために利用すると主張するが,この主張は虚偽である。
すなわち,被告のB研究科は,21世紀COEプログラムのためにDビルの15階オフィスフロアに部屋を2つ借りているが,その部屋はほとんど利用されておらず,国から得た21世紀COEプログラム推進経費を不要な支出に用い乱費している。
E教授(以下「E教授」という。)は,原告に対して,21世紀COEプログラム推進経費を消化するために頻繁に海外に出掛けなければならないと愚痴をこぼしており,ここでも不要な支出がなされている。
被告は,21世紀COEプログラム研究支援者には高給の外国人研究者を雇用することができないかの如くに主張するが,要綱や要領には21世紀COEプログラム研究支援者の給与に関しては何の制限もない。たまたま被告のB研究科が雇用した21世紀COEプログラム研究支援者の給与が低額であったにすぎない。
c 被告は,原告を「英語を母国語とする外国人教師」であり,英語教職科目担当と考えられたと主張するが,採用条件では,35歳以上の英文学の修士号あるいは博士号を保有するものであればよく,F人でもG人でも英語で授業ができればよいのである。採用の目的は,英文学の教師であり,英語を母国語とすることは条件でなかったのであり,この点でも被告の主張は事実をわい曲している。
イ 被告の主張
(ア) 原告とA大学との間のこれまでの雇用契約は,年度(4月1日を始まりとし,翌年3月31日をもって終了する。)ごとに1年の期間を区切っての雇用契約であり,平成15年度の雇用契約は平成16年3月31日をもって終了した。
平成16年4月1日からは,国立大学法人法の下において,被告と原告との間で,新たに1年限りの雇用契約を開始したものである。
(イ) 平成6年4月1日の契約の当初に,原告に対し,「定年まで勤務できる。」と確約した事実もないし,その後においても「定年まで勤務できる。」と保証した事実もない。逆に,C教授が最初に送付した文書(甲1)の2枚目第4項には,就業期間は有期であることが明らかに記載されている。
一般の教員と異なり,法の定め,国の制度に従って1年という有期契約をしている外国人教師に対して,そのような約束はできるはずもないし,そもそも教員個人にそのような権限もない。
原告との契約が有期契約であるがゆえに,原告自身,次の契約更新がされるかどうか不安に思い,E教授に対し,「来年の契約はどうなるだろう。」と不安な心情を訴え,機会あるごとに相談をなした事実が存在する。
(ウ) 以上のとおり,被告成立前の原告とA大学との間の1年ごとの雇用契約は,法令に基づき明確に期間を区切って契約されてきたものであり,全くの1年ごとの契約の併存であって,形式的に更新されたものではなく,期間の定めのない労働契約と同じような状態になったものでも,原告に契約更新の期待権が発生したものでもなく,雇い止め法理等の適用はない。
(エ) したがって,期間の満了する平成17年3月31日をもって契約を更新しないとの本件回答に問題はなく,特別の理由が必要とは解せられない。
(オ) また,本件では更新しないことに合理的な理由も実際に存在するのであり,仮に原告の主張を前提としても何ら問題はなく,解雇権濫用法理の類推適用の余地はない。
(カ) 本件回答をした経緯,理由は,以下のとおりである。
a 平成8年に英文学研究室が英米文学研究室と英語学研究室に分割された際に,それまで英文学研究室で保有してきた外国人教師ポストについては,英米文学研究室が使用し,もともと英語学研究室にも利用の権利はあったので,しかるべき時期に英語学研究室へと移行するとの約束・了解がなされた。
しかし,英語学研究室として,現実に移行を求めれば,いかに了解事項であるとしても英米文学研究室として困るのは目に見えている。そのため,教授会の了解の下に,独立した研究室になり,学問的にも確立し,学生数においても増加してきた英語学研究室に新たに外国人教師ポストを求めて概算要求するという方策で外国人教師を得ようと努力してきた。しかし,この概算要求が取り上げられることはなく,結局,大学法人化構想が進み,平成14年度半ばころには,法人化後は概算要求自体も不可能となる事実が明らかになり,概算要求による枠の増加の方法はあきらめざるを得なくなり,当初の約束に従ってポスト移行を要求せざるを得ない事態となってきた。
これが,平成15年7月に,原告に対し,平成17年3月をもって契約を打ち切ることを通告した基本的な理由である。
英語学研究室は,概算要求という形で外国人教師を確保したいと努力はしてきたが,それが通らないことになれば,英米文学研究室の外国人教師枠を移行することは了解事項として存在したのである。
b 大学の構造改革として,大講座化,大学院重点化,研究の先端化が挙げられるところ,大学院重点化とは,従来の学部教育研究を主体とした講座組織を,大学院教育研究を主体とする講座組織にシフトすることによって,最先端教育研究組織を構築し,高度専門職業人の育成や研究者養成を行うなど,変革する社会情勢に積極的に応えたものである。
A大学B部でも,平成12年に大学院重点化したことによって,教員組織も大学院での教育研究を専任することとなり,それとともに学部教育研究も兼担することとなった。このため,B研究科所属の教員は,高度化した大学院教育研究の指導責任を果たすために一層業務負担が加重してきた。しかし,原告は,飽くまで「学部教育・研究を主体とした外国人教師」であって,この構造改革の外に位置するままであった。
上記のように,大学は大きく変わることを求められ,その流れの上に21世紀COEプログラムが存在した。
21世紀COEプログラムとは,世界最高水準の研究教育拠点作りを目指し,資金の重点配分をなすもので,平成14年度に始まった国家的プロジェクトである。
この資金の重点配分は,世界的に見て創造的,画期的な観点での一定の研究テーマを探求する研究グループに与えられるものではあるが,その研究が人材育成機能を有し,事業終了後も継続的な研究教育活動が期待できることを要件としており,研究拠点であると同時に教育拠点(人材育成拠点)であることが求められている。
平成14年度において採択された21世紀COEプログラムにA大学B研究科の「H」が入った。これは,大きな名誉であるが,同時に,今後の成功(成果)への責任を負うことになったものであり,その責任は,資金が重点配分される5年間だけの責任ではなく,プログラム終了後も,引き続き研究拠点として継続的に研究活動を続けていかねばならないのであり,そのために次代を担う若い人材を育てておかねばならない。
この21世紀COEプログラムで成果を挙げ,正に文字通り「卓越した研究拠点」,「優れた研究拠点」として評価を得ることが,A大学B研究科の今後の生き残り策である。それゆえに,研究科全体として,このプログラムに取り組み,推進する体制がとられることになった。
前記「H」プログラムとは,意思伝達行為の所産をすべて「テクスト」としてとらえることに特徴があり,一定の情報内容を,効果的に他に伝え,他者を動かし,社会を形成し,揺り動かし,世界を構築していくプロセスの中で,言語,図像,文学,身振りというコミュニケーションの手段はすべて「テクスト」としてとらえられ,これがなぜ選択され,どう機能するか,その一般原理を解明しようとするものである。その一般原理の中では,言語テクストのみならず,非言語テクストが重要なものと認識され,それらを統合した体系網,機能文法へと広がり,方向付けられる。
上記のような体系網・機能文法を非言語テクストに応用する分野は,社会記号論とも呼ばれるものであり,平成14年度に21世紀COEプログラムに採択されると同時に,B研究科として,社会記号論の支援体制を早急に整える必要性に迫られることとなり,記号論と密接な関係にある表象認識学講座を設置すること,社会記号論を専門分野とする外国人の人文学専攻教員1名を採用することという支援策が決定された。
その支援策の決定の道程の中で,外国人教師ポストに関して,21世紀COEプログラムの推進という側面からの要請が一気に高まってきた。これは,単に英米文学研究室の外国人教師ポストを英語学研究室へ移行するということにとどまらず,「H」プログラムをB研究科の下で推進していくことにおいて,このポストに重要な意味付けがされるということであった。
すなわち,当初,B研究科は,21世紀COEプログラム推進経費の中から外国人の人材を確保することを希望していたところ,限られた推進経費(研究拠点形成費補助金)の中から多数の,しかも若手の人材育成を主眼とした雇用をするとなると,1人当たりの給与を低額にせざるを得ないのであり,高度な研究能力を有する外国人研究者の雇用には高い手当を要することから,実現しなかった。
この21世紀COEプログラム推進経費の使途に関して,原告は,21世紀COEプログラムのために借りているDビルの2つの部屋がほとんど利用されていないとか,E教授が21世紀COEプログラム推進経費を消化するために頻繁に海外へ出掛けたなどと主張するが,そのような事実はない。
21世紀COEプログラム推進経費の中から外国人の人材を確保することは実現しなかったが,21世紀COEプログラム採択直後から,平成15年6月に実行することが予定されていたシンポジウムを準備する中で,日本人の研究者と共に協力し,共同して研究ができる外国人の必要性が,より強く認識されてきた。
また,21世紀COEプログラムの予算は5年間と限られているが,B研究科としては,プログラム終了後も引き続き研究拠点として継続的に研究し,成果を挙げる責任があり,そのためには,B研究科の中で引き続き支援し,当該研究を遂行する高度な研究能力を有する外国人研究者を確保していくべきとの要請も厳然として存在した。
しかし,行政機関の職員の定員に関する法律(いわゆる総定員法)の根底にある考え方からすれば,非言語テクストを含めた統合テクスト科学を日本人研究者と同じ目線で共同研究し,その成果を伝える外国人の研究者の採用についての純増は認められないということであり,そのような外国人研究者の確保は,現行の外国人教師のポストを定員枠に振り替え,その定員枠のポストで採用することしか方策はないとの結論に至った。
この外国人研究者の受け入れをなす研究室は,B研究科の中では言語学的手法をとっている英語学研究室が,適任であり,また任務を負うことになる。
一方,原告の専門は英米文学であり,21世紀COEプログラムがとっている言語学的手法とは直接的な関連がなく,21世紀COEプログラム中の共同研究には不適であった。また,外国人教師ポストを廃止し,研究者としての採用(定員化)とする動きの中では,原告では,日本語が理解できず,教授会メンバーとして発言できることや,マネジメント業務をこなすことは期待できなかった。
c 外国人教師ポストを英語学研究室へ移行するとともに,原告との契約を打ち切りとせざるを得なかったことは,以上のことからも明らかであり,B研究科の21世紀COEプログラム「H」は言語学の手法をとり,その一翼を英語学が担っていること,また,英米文学研究室の外国人教師は初期の目的を達成したと判断されたことから,今回の契約更新をしないことになったのである。
原告との間の契約打ち切りは,単にポストの移行を理由とするのみならず,学部教育等を中心に担当している原告に対し,大学院レベルの研究・指導を期待するものでなく,他の教員をもって代替も可能であること,そして,B研究科として,21世紀COEプログラムの成果を挙げて社会的責任を果たし,将来へと進むべき途,また,将来へ生き残る途として,やむを得ざる選択であった。
これに対し,原告は,英米文学研究室にとって原告が枢要な存在であり,大学院レベルの研究指導に携わっており,着任以来,大学院の講義を担当して教授しているほか,卒業論文・修士論文の口述試験にも審査教官としてかかわっていると主張する。しかし,卒業論文と修士論文の作成過程における助言を与える者とは別に,卒業論文・修士論文の審査員は教授会で別途決定される。そして,当該研究室の卒業論文は,研究室所属教員のみで審査し,修士論文は,当該研究室所属教員と他研究室の教員1名で審査される。したがって,原告も審査員ではある。しかし,卒業論文・修士論文の審査は,作成過程の最後に位置するものであり,通常,指導教員は,論文作成過程において指導・助言に当たった上で審査員となるが,平成8年以降は原告には助言の依頼をせず,現実には助言はしないまま審査に当たっており,他の教員とは同列ではない。
被告としては,原告の立場も考慮し,契約打ち切りを平成16年度の1年間は猶予したものの,これ以上の譲歩をすることはできなかったものである。
d 原告は,原告の雇用契約の打ち切りが,あたかも研究科長であるC教授の気持ち一つで決定されたかのような誤解をしているが,そのような事実は全くない。
従前からの英語学研究室への移行の約束と,B研究科全体の将来を見据えた上で,21世紀COEプログラムの推進と支援をいかになすべきかとの模索の中で,現状としては文学研究科の中の英米文学研究室にある原告のポストを打ち切らざるを得ないとの考え方で,B研究科教授会で決定されたものであり,B研究科教授会としては,原告との契約を終了させ,その外国人教師枠を21世紀COEプログラムの中で,任期付き教官定員として利用する方針を最終的に決定したが,そのために原告が他の仕事・就職先を探す便宜を考え,1年だけは更新して,猶予期間を与えて,雇用期間を平成17年3月末日までとし,それ以降は更新しない方針を決定したものである。
契約更新をしないこととした背景は,21世紀COEプログラムとの関係を抜きにしては理解できないことはもちろんである。しかし,それだけではなく,このプログラムの背景にある大学に対して求められてきた大きな流れ(大講座化,大学院重点化による教育研究の高度化,研究の先端化等)が理解されなければならない。この大きな流れの中,国の予算を億単位で獲得し,5年間という長期にわたって遂行されるのが21世紀COEプログラムであり,それだけに,この投資に見合っただけの成果を出すことが期待されており,その期待に応えられ,このプログラム遂行の補完ができる任期付き外国人教授の採用が目指されたのである。しかし,原告は,この流れ,背景等を全く理解しておらず,それは原告が他の教員のように大学運営のスタッフとは位置づけられておらず,1年単位での有期雇用契約者にすぎないことによるものである。
e 前記教授会の決定を受け,C教授は,原告に対し,契約の終了について,最初平成15年7月11日に口頭告知し,その後数回やり取りした。そして,平成15年9月19日,原告は,C教授に対し,契約が平成17年3月末日で終了することを了解し,次の仕事探しのため,契約終了の理由と原告の授業は良かったことを書いてほしいと依頼した。
C教授が原告に通知したのは,本来は平成16年3月末日に終了させたいところであるが,1年猶予し,平成17年3月末日に契約を更新せず終了させるとの点であり,雇用終了と21世紀COEプログラムとの関係等についての詳細な説明はしていない。
もともと,私法上の雇用契約においても契約を更新しないとの意思表示の際に事細かに理由の説明をする必要はない。まして,国家公務員法に基づき,1年ごとに契約を更新するものとして雇用された原告に対し,理由を説明する必要はない。その上,原告は,その職責上大学の運営・マネジメントに携わることがないので,大学組織の変更等と複合している21世紀COEプログラムについて詳細に説明したり話したりしなかったものである。
被告は,これまでの説明の中で,更新しない理由を明らかにしてきたのであるし,21世紀COEプログラムがA大学にとって重要な位置づけを持つプロジェクトであることは原告といえども理解しているはずである。
その後も,21世紀COEプログラムの位置付けの重要性から,原告のポストを定員枠に振り替えて21世紀COEプログラムで共同研究を行う外国人研究者の確保の要請は,強まりはせよ,弱まることはない状況である。
(4) 争点(4)(原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることは許されないか)について
ア 原告の主張
(ア) 仮に,原告と被告との有期雇用契約が平成16年4月1日に新たに締結されたものであるとしても,平成16年4月1日からの有期雇用契約の開始時には,平成16年3月31日までA大学と原告との有期雇用契約が長年更新されて原告には有期雇用契約が更新されて定年まで勤務できるとの期待権が生じていた。
(イ) このような事情の下に,被告が原告と実質的に従前と同じ有期雇用契約を締結したのであるから,被告が平成17年3月31日をもって有期雇用契約を打ち止めとするためには合理的な理由が必要であると信義誠実の原則から解釈されるべきである。
(ウ) しかし,前記(3)ア(エ)のとおり,合理的理由はない。
イ 被告の主張
(ア) 平成16年4月1日に始まる被告と原告との雇用契約は,期間1年の契約とする旨を原告に告げ,また,その旨の文書も発送しており,契約更新の期待権が生じる余地はない。
(イ) 被告は,原告に対し,平成17年3月31日をもって被告との雇用契約は終了することを,念のため,改めて通知している。
(ウ) したがって,原告と被告との間の雇用契約は,平成17年3月31日をもって終了した。
(エ) ちなみに,被告が原告と新たな契約を結ばない理由は,前記(3)イ(カ)の理由と同様の理由である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告は外国人教員として国に任用されたか)について
(1) 後掲証拠によれば,C教授は,平成5年10月,外国人教師の選考のための覚書(甲5)を文部省作成のひな形に基づいて作成し,原告あてに送付したが(乙11の1,証人C),それには,地位は外国人教師であり,教授会で認められれば,客員教授としての称号が与えられること,勤務期間は2年(互いの合意で毎年更新できること)とすることなどが記載されていたこと,原告の採用に当たり,原告は,A大学B部の「英文学講座外国人教師詮衡委員会」において,その職歴,業績等に照らし,英文学講座外国人教師として採用するに最もふさわしい者として推薦されたこと(乙12の1,2),このように原告の採用に当たっては,公募ではなく,招へい人事(個別人事)の形式が採られたこと(乙11の1,証人C),平成6年4月7日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師(客員教授)として,同月1日から平成7年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の1の1,2),平成6年11月9日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の2),平成7年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成8年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の3の1,2),平成7年10月30日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の4),平成8年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成9年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の5の1,2),平成8年12月16日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の6),平成9年4月1日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同日から平成10年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の7の1,2),平成9年12月12日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の8),平成10年4月1日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同日から平成11年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の9の1,2),平成10年10月19日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の10),平成11年4月7日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成12年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の11の1,2),平成11年11月25日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の12),平成12年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成13年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の13の1,2),平成13年4月6日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成14年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと,同契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より増額されたこと(乙1の14の1,2),平成14年4月11日,A大学総長と原告は,原告をA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成15年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の15の1,2),平成15年4月10日,A大学総長と原告は,原告をA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成16年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと,同契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より減額されたこと(乙1の16の1,2)が認められる。
甲3,乙2,3の1の2,3及び弁論の全趣旨によれば,前記契約書の「雇用」との文言のほか,給与等の勤務条件について,契約によって定められていることに照らせば,A大学総長と原告との間で作成された前記契約書に基づく契約とは,国家公務員法2条7項所定の「政府又はその機関と外国人との間に,個人的な基礎においてなされる勤務の契約」としての外国人教師としての雇用契約(公法上の契約)であると認められる。
(2) これに対し,原告は,平成6年4月1日の採用以来,毎年契約書を締結してきたが,これは「日本国政府の会計行政によるもので」(甲1のC教授の原告あての手紙の記載)あり,その契約書は形式的なものにすぎず,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用されたものであると主張する。
しかし,甲1によれば,C教授は,平成6年1月,原告に対し,招へい期間は1994年(平成6年)4月1日から1996年(平成8年)3月31日までの2年間であること,最初の契約は,A大学に到着の翌日から会計年度の終期までの期間で調印し,次期新会計年度に契約を更新することになること,これは日本国政府の会計行政によるものであること,最初の2か年の任期満了後においては,相互の合意により1年ごとに契約を更新することができることを手紙で伝えていることが認められる。
そして,甲3によれば,昭和44年4月16日文大庶第251号各国立大学長あて文部事務次官通知「外国人教師の取り扱いについて」は,国家公務員法2条7項に基づく外国人教師の雇用契約に関して,雇用期間等について,「外国人教師との雇用契約の期間は1年をこえないものとし,会計年度の中途で契約する場合はその終期を当該年度の末日とする。ただし,この期間は,必要に応じて更新することができる。なお,外国人教師を国外から招へいする場合の招へい期間は,帰国旅費の支給の関係から,原則として2年とする。」と定めていることが認められる。
そうすると,甲1の手紙の内容は,前記「外国人教師の取り扱いについて」に沿うものであると認められる。
したがって,甲1の手紙の「これは日本国政府の会計行政によるもので」との文言から,原告が,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用されたものであると認めることはできない。
また,甲19の2によれば,平成15年11月12日開催のA大学B研究科教授会でのC教授の説明メモには,平成16年度は,平成16年4月にA大学が独立行政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり,平成16年度も継続して雇用することにしたが,原告に関しては雇用を平成17年3月31日までとし,更新は行わない旨の記載があり,外国人教師の「任用」という表現がされていることが認められるが,雇用の更新が予定されているものであって,甲19の2の「任用」という表現から,原告が外国人教員として国に任用されたものと認めるには足りない。
他に原告が外国人教員として国に任用されたものと認めるに足りる証拠はない。
(3) 原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解される。
2 争点(2)(原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか)について
(1) 前記1(1)で認定した事実によれば,原告がA大学総長と締結した雇用契約書には,雇用期間を1年とすることが明示されていたこと,雇用期間の満了時に契約を更新する際には,その都度新たに雇用期間を1年とする契約書が作成されたこと,平成14年4月11日に作成された契約書において,それまでの職務内容がA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師であったものが,A大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師と改められたこと,平成13年4月6日に作成された契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より増額され,平成15年4月10日に作成された契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より減額されたことが認められる上,雇用契約の更新においては,毎年10月末か11月ころに次年度のカリキュラムを考える際に,C教授と原告が協議した上,教授会において更新が決定されたものであり(証人C),原告は,契約書にサインをする際,いったん自宅に持ち帰って注意深く読んでからサインをしたことがあったこと(原告本人)が認められる。
(2) 以上の事実によれば,雇用期間の満了による契約更新の都度,具体的勤務条件について協議の上,契約書が作成され,契約更新の際に職務内容,給与額が変更となったことがあるのであるから,原告とA大学総長との間の契約が,更新により平成6年4月から平成16年3月31日まで継続したからといって,期間の定めのない雇用契約に転化したものと認めることはできない。
(3) なお,前記のとおり,原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解されるから,原告とA大学が締結した雇用契約が期間の定めのないものに転化したか否かにかかわらず,その雇用契約を被告が承継したと認めることはできない。
3 争点(3)(原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか)について
(1) 原告は,原告にはA大学との間の有期雇用契約につき契約更新に対する期待権が生じていたところ,A大学と原告とのこの雇用契約上の関係は,被告の成立後も被告が原告との有期雇用契約を実質的に更新したことによって被告がこれを承継した旨主張する。
(2) 確かに,後掲証拠によれば,C教授は,平成15年10月29日,原告との間の外国人教師雇用契約を平成16年度においては更新するが,雇用契約は平成17年3月31日を限りとして,それ以後の雇用契約の更新はない旨を手紙(甲6)で伝えていること,C教授から原告に送付された平成15年12月4日付け書面(甲19の1)に添付された同年11月12日開催のB研究科教授会での説明メモ(甲19の2)には,平成16年度は,平成16年4月にA大学が独立行政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり,平成16年度も継続して雇用することにしたが,原告に関しては雇用を平成17年3月31日までとし,更新は行わない旨の記載があること,平成15年11月12日開催のB研究科教授会の議事概要(乙22の2)に同旨の記載があること,A大学副総長は,平成15年12月24日,原告の代理人弁護士に対し,A大学は,毎年外国人教師と契約更新の手続を行っており,原告に対し,平成16年度については雇用契約を更新し,当該契約期間の満了をもって雇用関係を終了させる旨を知らせている旨の本件回答(甲2)を送付していることに照らせば,C教授,A大学B研究科教授会及びA大学副総長はいずれも,被告が設立される平成16年4月1日以降も,A大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と原告との間で更新されるものと認識していたと認められる。
(3) しかし,前記のとおり,原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解される。
そうすると,被告と原告との間の平成16年4月1日以降の雇用契約は,A大学総長と原告との間の雇用契約(公法上の契約)が更新されたものということはできず,被告と原告との間で平成17年3月31日までの期間の定めのある雇用契約(私法上の契約)が改めて締結されたものといわざるを得ない。
(4) したがって,被告がA大学と原告との間の雇用契約上の関係を承継したとする原告の主張は,採用することができない。
4 争点(4)(原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることは許されないか)について
(1) 乙27によれば,被告は,平成16年12月17日,原告の代理人弁護士に対し,平成17年3月31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通知しており,雇用契約の更新を拒絶したものと認められる。
(2) 前記のとおり,被告と原告との間の平成16年4月1日以降の雇用契約は,A大学総長と原告との間の雇用契約が更新されたものではなく,被告と原告との間で平成17年3月31日までの期間の定めのある雇用契約が改めて締結されたものというべきであるが,原告とA大学総長との間で締結された雇用契約は,平成6年4月以降,9回の更新により,平成16年3月31日までの10年間継続してきたものであること,その間に原告が従事していた職務は,A大学B部ないしA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師であり,臨時的な職務ではなく,恒常的に存在する職務であると認められること,外国人教師の中には,雇用契約が5年間を超えて更新されないものと明示されていた者がいたが(甲10の1ないし3),原告の場合には,相互の合意により1年ごとに契約を更新できるとされ,更新継続期間の限定はされていなかったこと,外国人教師の中には,20年以上にわたって雇用契約の更新継続がされた者がいたこと(甲10の4,5,甲35),C教授,A大学B研究科教授会及びA大学副総長のいずれもが,被告が設立される平成16年4月1日以降も,A大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と原告との間で更新されるものと認識していたこと,原告が被告との間で締結した雇用契約による職務は,それまでのA大学総長との間の雇用契約による職務と同内容のものであると認められること(甲15,36,弁論の全趣旨)に照らせば,平成15年10月29日のC教授の手紙,同年12月4日付けのC教授の作成書面に添付されていた同年11月12日開催のB研究科教授会での説明メモ及び同年12月24日のA大学副総長の本件回答によって,平成16年4月1日以降の原告との間の雇用契約は,平成17年3月31日までであり,それ以後の雇用契約の更新はないことが原告にあらかじめ伝えられていたことを考慮してもなお,原告としては,原告と被告との間で締結される雇用契約についてある程度の継続を期待する合理的理由があったものといわざるを得ない。
したがって,被告が原告との間の雇用契約の更新を拒絶する場合,解雇に関する法理が類推され,その更新拒絶には合理的な理由が必要であると解される。ただし,原告と被告の間の雇用契約が有期契約である以上,その更新拒絶の基準は,期間の定めのない従業員を解雇する基準よりは緩やかなものであると解するのが相当である。
(3) 前記争いのない事実等に,甲33,乙11の1,乙23,証人E,同C,原告本人及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア A大学B部では,平成8年に大講座制が導入され,英米文学研究室と英語学研究室が英文学研究室から独立したが,その分離独立の経緯から,原告の外国人教師ポストは英語学研究室にもある程度の利用権があることが両研究室間での合意事項とされていた。
しかし,英語学研究室としては,上記外国人教師ポストを英語学研究室に移行するよう要求しても,英文学研究室が困るだけであるので,平成8年度から平成16年4月まで,別途外国人ポストを概算要求する道を選んでいた。
ところが,総定員法の枠組みの中でこの概算要求が認められることはなく,平成15年7月に国立大学法人化法案が議会で可決され,同年10月1日から施行された後は,かかる概算要求を出すことすらできなくなった。
イ 平成13年6月の「大学の構造改革の方針」に基づき,21世紀COEプログラムとして,平成14年度から文部科学省に新規事業として「研究拠点形成費補助金」が措置された。同プログラムは,我が国の大学に世界最高水準の研究教育拠点を学問分野ごとに形成し,研究水準の向上と世界をリードする創造的な人材育成を図るため,重点的な支援(研究拠点形成費補助金)を行い,もって,国際競争力のある個性輝く大学づくりを推進することを目的とし,①人材育成機能を持ち,②世界的な拠点形成が期待でき,③特色ある学問分野を開拓し,創造的,画期的な成果を出し,④事業終了後も世界的な研究教育拠点であることが求められている国家的事業である(乙28)。
平成14年4月1日の文部科学大臣決定により,「研究拠点形成費補助金交付要綱」(乙24の3)が定められ,「この補助金は,学問分野別に評価を行い,主として研究面においてポテンシャルの高い専攻等が世界的な研究教育拠点を形成するために必要とする経費を専攻等の研究者からなる研究グループに対して補助することを目的とし,もって世界最高水準の大学づくりを推進し,我が国の科学技術の水準の向上及び高度な人材育成に資するものとする。」などとされた。
平成14年9月30日,21世紀COEプログラム委員会において,「平成14年度「21世紀COEプログラム」審査結果について」と題する書面(乙28)が作成され,研究拠点形成費補助金は,当該分野における研究上,優れた成果を挙げ,将来の発展性もあり,高度な研究能力を有する人材育成機能を持つ研究教育拠点の形成が期待できるものなどに対し,重点的支援を行うものであるなどと定められた。
ウ 平成14年10月,A大学が申請していたB研究科の「H」と題する事業が21世紀COEプログラムの補助金の交付対象と決定され(乙8の1),平成15年度においても,同事業は,研究拠点形成費補助金の交付対象と決定された(乙24の2)。
平成14年10月7日,I振興会により,「《21世紀COEプログラム》研究拠点形成費補助金(研究拠点形成費)取扱要領」(乙24の4)が定められ,事業の遂行に必要となる外国人を含む研究員等の雇用等をする場合の方法が示された。
平成15年11月21日に21世紀COEプログラム委員会が作成した「「21世紀COEプログラム」評価要項」(乙29)によれば,評価項目として,「若手研究者が有為な人材として活躍できるような仕組みを措置し,機能しているか」というものがあり,平成16年4月1日,被