hanrei @Wiki H17.11.21 東京地方裁判所 平成17年(ワ)第9975号 損害賠償請求事件



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平成17年11月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(ワ)第9975号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成17年9月26日
判決
原    告           A
被    告      財団法人 自警会
同代表者理事           B
同訴訟代理人弁護士   児  玉   康  夫
同訴訟代理人弁護士   松  村   太  郎
主文
1 被告は,原告に対し,金34万4750円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。
事実及び理由
第1 請求
  被告は,原告に対し,金98万0710円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,被告の設置する病院で老人性眼瞼下垂症に対する上眼瞼切除術を受けた原告が,担当医師から事前に十分な説明を受けなかったために,症状改善の効果がより大きくなるようにより大きな幅での切除を受けることができなかった(十分な説明を受けていれば,顔貌がある程度変わってもより大きな幅での切除を受けた。)などと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づいて,その損害の賠償を求めている事案である。
1 前提事実(証拠原因により認定した事実については,かっこ書で当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない。)
(1) 事実経過
ア 原告は,昭和・年・月・日生の男性であるが,加齢により両目の上眼瞼(上まぶた)が垂れ下がって視界を遮るようになっていたことから,平成14年7月29日,被告の設置する「東京警察病院」(以下「被告病院」という。)の形成外科を受診して,その勤務医(当時)のC医師及びD医師の診察を受け(以下,この日の診察を「本件診察」という。),老人性眼瞼下垂症と診断されて,被告との間で,同疾患に対する診療を目的とする診療契約を締結した上,同年8月10日,被告病院において,D医師の執刀により上眼瞼切除術を受けた(以下,この手術を「本件手術」という。)。
イ 本件診察及び本件手術(乙A1,2,証人D医師,原告本人)
  本件診察の際,C医師は,原告に対し,美容整形を行う診療所において自費診療で手術を受けることを勧めたが,原告がこれを拒否したため,上眼瞼の手術を専門とするD医師に引き継ぎ,これを受けて,D医師が,原告を診察した上,被告病院で上眼瞼切除術を行うことに決めた。
  本件手術では,上眼瞼の皮膚が約4mmの幅で切除された。なお,本件手術によって原告の顔貌にはほとんど変化が生じなかった。
ウ 本件手術後
  原告は,本件手術後,眼瞼下垂の改善による視界の改善(以下「症状の改善」ということがある。)の程度について不満を抱いていたところ,平成17年2月,眼瞼弛緩症であった韓国の大統領が眼瞼切除術によって視界が改善された(なお,従前は「一重まぶた」であったところ,当該手術によって「二重まぶた」になった。)旨の新聞記事を読み,本件手術の際に切除幅をより大きくすれば症状の改善はより大きかったのではないかと考えて,同月26日,被告病院を受診し,当日はD医師が在院しなかったことから,E医師の説明を受けた後,同医師の紹介により,D医師が院長を務める「F」を訪れて,同医師に対し,本件手術が十分なものでなかったことを主張して,再手術を求めた(甲4,5,乙A1,2,証人D医師,原告本人)。
 その後の同年3月4日,原告が被告病院を受診して,原告と被告病院側との間で再手術の施行について話し合われたが,原告が失敗した手術のやり直しとして被告病院の費用負担で行うべきと主張したのに対し,被告病院側は原告の費用負担で行うべきと主張したため,再手術は行われなかった。
(2) 上眼瞼切除術について(乙A1,2,証人D医師)
 上眼瞼切除術は,上眼瞼の皮膚を切除することによって上眼瞼を挙上させる手技である。
 この手技においては,上眼瞼の皮膚は折り返されているため,上眼瞼の挙上幅は理論上皮膚の切除幅の半分となる。本件では,約4mmの切除がされていることから,上眼瞼の挙上は理論上約2mmであり,症状の改善も理論上約2mmの幅で生じたことになる(別紙の図参照)。
 その皮膚の切除幅については,形成外科の技術的には10ないし12mmの切除も可能であるが,切除幅を大きくすると,顔貌の変化を生ずることになる。
2 原告の主張
(1) 説明義務違反(診療上の義務違反(債務不履行)ないし注意義務違反(過失))
ア 本件のような上眼瞼切除術では,切除幅の増大によって上眼瞼挙上による視界改善の効果と顔貌の変化を生ずる。したがって,被告病院の医師は,本件手術に際し,切除幅について,原告に対し,どの程度の切除を行えばどの程度の効果及び顔貌の変化があるのかを具体的に説明した上,その同意を得て決定すべきであった。
イ しかるに,D医師及びC医師は,本件手術に際し,原告に対して上記のような具体的説明を全くせず,ことに執刀医であったD医師は,術後になって初めて,4mmの切除を行い,これが切除幅としては限界である旨を述べたのであって,原告は,術前には,それ以上の切除が可能であることはおろか,切除幅を4mmとすることすら知らされなかった。
  なお,被告は,後記のとおり,原告にとって最適な術式は上眼瞼切除術と眉毛挙上術を併せて行う方法であったと主張するが,原告は眉毛挙上術について何ら説明を受けなかった。
(2) 因果関係
 原告は,本件手術の際,切除幅が大きくなればある程度顔貌が変わるであろうことは理解しており,ある程度顔貌が変わってもできる限り大幅な症状の改善を得ることを望んでいた。具体的には,本件手術前において外見的には一重まぶたの状態であったが,これが二重まぶたになるくらいのことは当然あるであろうと考えており,少なくともその程度の顔貌の変化については症状の改善のために許容する考えであった。
 したがって,原告は,上記(1)アの事項について説明を受けていれば,顔貌の変化を来さない代わりに症状の改善もほとんどない4mmという不十分な切除ではなく,ある程度の顔貌の変化を伴ってもそれ以上の切除幅を希望し,そのような切除幅での手術を受けていたはずであって,本件手術によるものよりもはるかに大きな症状の改善を得られたはずである。
(3) 損害
ア 本件手術等に要した費用
 原告は,被告病院医師の説明が不十分であったことにより,ほとんど効果のない本件手術を受けることになったものであり,本来本件手術で得られたはずの症状の改善を得るために,他の病院で同様の手術を受ける予定である。したがって,本件で原告が被告病院及びFに支払った下記のとおりの治療費及び診察料並びに通院交通費は,上記説明義務違反と因果関係のある損害である。
① 治療費及び診察料
 平成14年7月29日   3000円
      8月10日 4万3540円
               770円
 平成17年2月26日    220円
      3月 4日    220円
② 交通費         2960円
イ 慰謝料 93万円
 原告は,被告病院医師の説明が不十分であったことによって,本件手術による程度以上には症状の改善を得ることができないと思い込まされていたのであり,そのため,他の病院で手術を受けることができないまま,視界がほとんど改善されておらず,常に目を見開いていなければ日常生活が送れないばかりでなく,疲れてくるとまぶたが垂れて眠くなるという状況のまま生活することを強いられてきた。
 このことによって原告が受けた精神的苦痛は,金銭に換算すると,本件手術が行われた平成14年8月から更なる改善が可能であると原告が認識した平成17年2月までの31か月の間,1か月につき3万円(計93万円)が相当である。
3 被告の主張
(1) 説明義務違反について
ア 原告の眼瞼下垂を根本的に解消する方法
 原告の眼瞼下垂は,①眉毛の下垂と②上眼瞼の皮膚の弛みの2要素から成り立っている。
  したがって,原告の眼瞼下垂を根本的に解決するためには,②に対して上眼瞼切除術を行うとともに,①に対して眉毛挙上術を行う必要があり,これらを併せて行えば,顔貌を著しく変化させることなく症状を改善できる。
 これに対し,上眼瞼の切除のみによって対処しようとすると,上眼瞼の皮膚を大幅に切除することが必要になり,そうすると,顔貌が著しく変化してしまう。
  もっとも,上眼瞼切除術はいわゆる保険診療の範囲内であるが,眉毛挙上術は,美容整形の範疇に属し,保険診療の範囲外である(被告病院では,美容整形の手術は行っていない。)。
イ 説明義務違反について
(ア) 手術によって顔貌の著しい変化をもたらすことは,一般的に,社会生活上多大な影響を及ぼすことが明白であるから,それ自体を目的とする美容外科の分野であれば別として,通常の治療としての手術においては,基本的に許されないものである。したがって,本件のような眼瞼下垂を改善するための上眼瞼切除術においても,顔貌が著しく変化するような幅で皮膚を切除するような手技は,原則として禁忌であり,そのようなことは一般の医師及び患者において共通認識である。
 そして,仮に顔貌の著しい変化をもたらす手術が例外的に許されるとしても,患者の明示の同意を得て行わなければならない。
 したがって,眼瞼下垂を改善するための上眼瞼切除術においては,患者が積極的に顔貌の著しい変化を許容する旨の申出をしない限り,顔貌の著しい変化を生じない範囲で最大限の切除幅を設定するのが正しい治療方法である。
(イ) しかして,C医師及びD医師は,本件診察の際,原告に対し,上記アのような事項を十分に説明したのであり,そうしたところ,原告が,美容整形を頑なに拒絶し,かつ,顔貌の変化についての説明に対しても何らの反応も要望もしなかったことから,顔貌を著しく変化させない範囲で最大の切除幅をもって本件手術を行ったものである。
  したがって,被告病院医師に何ら説明義務違反はない。
(2) 損害及び因果関係について
    争う。なお,原告は,自分の期待した以上に視界が改善されていないために眠くなる旨主張するが,その因果関係自体が全く不明であるし,それによる損害もいかなるものであるか全く不明である。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に証拠(乙A1,2,証人D医師,原告本人)及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実が認められる。
(1) 前記第2の3(被告の主張)(1)アの事実
(2) 眉毛挙上術は,髪の生え際から1cmくらい上の皮膚を切開し,頭蓋骨から額の部分の皮膚を剥離して,より後方にずらした位置で固定することにより,眉毛を挙上する手技である。
 原告のような加齢による眼瞼下垂症に対する治療としては,上眼瞼切除術は健康保険の適用がある(いわゆる保険診療の範囲内である。)が,眉毛挙上術は健康保険の適用外であり(保険診療の範囲外で,いわゆる自費診療となる。),両者を併せて行うと,いわゆる混合診療の禁止により,上眼瞼切除術も健康保険の適用外となって,両者ともに自費診療となり,その費用は100万円ないし120万円くらいである。
(3) 原告は,本件診察の際,C医師及びD医師から,前記第2の3(被告の主張)(1)アのような説明を受けたが,本件手術前において,被告病院医師から次の点については説明を受けていなかった。
① 眉毛挙上術の具体的内容及びこれに要する費用
② 本件手術において実際に切除する予定の皮膚の幅が約4mmであること
③ 上眼瞼切除術において皮膚の切除幅等の手術の方法に応じてどのように顔貌が変化するのかについての具体的な相関関係
(4) 原告は,本件手術当時,顔貌の変化については,少なくともまぶたが二重になる程度の変化については,そのことによって症状の改善が図られるのであれば,これを許容する考えを有していた(なお,原告は,いわゆる「奥二重」である。)。
 他方,原告は,眼瞼下垂の改善のための費用としては,本件手術に実際に要した4万数千円に二,三万円を上乗せする範囲でしか支出するつもりはなく,100万円も要するような手術を受ける意思は全くなかった(現在もその意思は全くない。)。
(5) 本件手術における約4mmの切除幅は,原告の顔貌を変化させない範囲で最大限の幅ではあるが,原告の眼瞼下垂による視界障害を大きく改善するものではなかった。
(6) 平成17年になって,原告が,被告病院及びFを訪れ,D医師と再手術について話した時,D医師は,最終的な手術の内容は原告と更に相談してから決定するとしても,少なくとも,まぶたが二重になる程度の幅での切除を行うつもりであった。
 原告の眼瞼下垂は,そのような手術を行えば(なお,皮膚を切除せずに折り返すことによってまぶたを二重にするだけでも眼瞼挙上の効果があることもある。),少なくとも当時の状態(本件手術後の状態)よりは大きな症状改善の効果が期待できるものである。
(7) 原告は,本件訴訟が終了すれば,形成外科医を受診して,ある程度顔貌が変わっても現在よりも症状が改善されるような切除幅での上眼瞼切除術を受ける予定である。
2 説明義務違反について
(1) 前記前提事実及び上記1の認定事実(以下,これらの事実を併せて「前提事実等」という。)によれば,本件のような老人性眼瞼下垂症に対して上眼瞼切除術を行う場合,症状改善の効果を大きくするために切除幅を大きくすると顔貌の変化が生じ,顔貌の変化が生じないようにするために切除幅を小さくすると症状改善の効果が小さくなるという関係にあり,原告の場合,仮にまぶたが一重から二重になってもよいことを前提とすると,本件手術におけるよりも,大きな幅で切除することによって,症状改善の効果が大きくなるといえる。
  この点について,被告は,手術によって顔貌の著しい変化をもたらすことは,一般的に,社会生活上多大な影響を及ぼすことが明白であるから,それ自体を目的とする美容外科の分野であれば別として,通常の治療としての手術においては,基本的に許されないものであり,本件のような眼瞼下垂を改善するための上眼瞼切除術においても,顔貌が著しく変化するような幅で皮膚を切除するような手技は,原則として禁忌である旨主張する。
  しかしながら,被告の主張する顔貌の「著しい変化」とはどの程度の変化を指すのか必ずしも明確ではないが,どの程度の顔貌の変化がどの程度社会生活に影響を及ぼすかについては,個々の患者によって異なるのであり,患者がより大きな症状改善の効果を得るために真に許容して希望し,かつ,それによって実際にもより大きな症状改善の効果が得られるのであれば,例えば「一重まぶた」が「二重まぶた」になる程度の変化は,いわゆる美容整形としてそのこと自体を目的として手術を受ける者もいるような性質の変化であって,必ずしも社会的に否定的な評価を受けるような変化ではないし,明らかに社会生活上の支障が生ずるというような変化でもないから,これをあえて禁忌とすべき合理的理由は見当たらないし(病気の治療のために保険診療の範囲で行う手術手技において,治療の効果を大きくするために,顔貌の変化を生じさせるとしても,これを治療の範疇から除外する合理的理由は見当たらない。),これが基本的に許されないことであるとの社会的合意ないし一般的な患者の意思があるとも考えられない。現に,前提事実等によれば,原告は,本件手術当時から,まぶたが一重から二重になる程度の変化は許容する意思を有していたし,D医師も,本件手術後の平成17年には,原告の眼瞼下垂症に対する保険診療の範囲内の治療として,まぶたが一重から二重になる程度の幅での切除を行うつもりであったのである。
  そして,本件のような手術によってどの程度の顔貌の変化が生ずるか,また,症状改善の程度と顔貌の変化の程度がどのような相関関係にあるのかといったような事柄については,医学的知識のない患者にとって医師の説明なしには知り得ないところである。
  また,原告のように老人性眼瞼下垂症により視界が遮られている者にとっては,日常生活において軽視することのできない不便,支障があることから,その症状の改善をより重視して,症状改善の効果がより大きくなるのであれば,例えばまぶたが一重から二重になる程度の顔貌の変化は許容するということも,十分に想定できる。
(2) 上記(1)に判示したところによれば,被告病院の医師としては,本件手術を行うに際して,原告に対し,上記のような切除幅と症状改善の程度,顔貌変化の程度との相関関係をできる限り具体的に説明した上,症状改善を重視してある程度の顔貌変化は許容するのかどうか,特に,まぶたが一重から二重になる程度の顔貌変化は許容するのかどうかについて質問し,そのような顔貌変化が生じても症状改善の効果がより大きい方をよしとするのか,それとも,症状改善の効果がより小さくても顔貌変化のより小さい方をよしとするのかの選択の機会を与えるべき診療上の義務ないし注意義務を負っていたというべきである。
  しかるに,前提事実等に証拠(乙A2,証人D医師,原告本人)を併せると,被告病院医師(具体的にはD医師)は,本件手術を行うに際して,原告に対し,前記第2の3(被告の主張)(1)アのような事項については説明したものの,まぶたが一重から二重になるような顔貌変化は原則として生じさせるべきでないと考えており,また,原告にもそのような顔貌変化を許容する意思はないであろうと考えていたため,症状改善を重視してまぶたが一重から二重になる程度の顔貌変化は許容するのかどうかといったような説明ないし質問はしなかったことが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
  被告病院医師には,上記のような説明ないし質問をしなかった点において,診療上の義務違反(債務不履行)ないし注意義務違反(過失)があるというべきである。
  したがって,被告は,原告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づいて,上記説明義務違反により生じた損害を賠償すべき義務がある。
  なお,上記1(3)のとおり,被告病院医師は,原告に対し,眉毛挙上術の具体的内容及び費用については説明していないが,上記1(2),(4)のとおりであって,原告は,仮に被告病院医師から眉毛挙上術の具体的内容等について説明を受けたとしも,そのような高額な費用を要する手術を受けた可能性はないといえるから,この点について被告が損害賠償義務を負うことはない。
3 因果関係及び損害について
(1) 前提事実等によれば,原告は,被告病院医師の上記のような説明義務違反がなければ,すなわち,被告病院医師から,上記のように症状改善を重視してまぶたが一重から二重になる程度の顔貌変化は許容するのかどうかといったような説明ないし質問を受けていれば,まぶたが一重から二重になる程度の顔貌変化が生じても症状改善の効果がより大きい方がよいとして,本件手術におけるよりも大きな幅での切除を希望し,実際にそのような切除術を受けて,より大きな症状改善の効果を享受できたものと推認される。
  また,前記前提事実(1)ウに証拠(乙A1,原告本人)を併せると,原告は,本件手術後,平成17年2月に韓国大統領に関する新聞記事に接するまで,保険診療の範囲内では本件手術による程度の症状改善しか得られないものと思っていたことが認められる。
  そして,前記のとおり,原告は,現在,より大きな症状改善の効果を得るために,より大きな切除幅での上眼瞼切除術を受ける予定である。
(2) 以上によれば,原告は,上記説明義務違反があったために,もう一度本件手術と同様の上眼瞼切除術を受けざるを得ず,また,本件手術後の平成17年2月26日と同年3月4日に被告病院を受診せざるを得なかったといえる。
  したがって,本件手術に要した費用及び上記受診に要した費用は,上記説明義務違反によって生じた損害とみることができる。
  甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば,本件手術に要した費用は4万4310円,上記受診に要した費用は440円であると認められる(合計4万4750円)。
  他に,上記説明義務違反と相当因果関係のある財産的損害があると認めるに足りる的確な証拠はない。
(3) また,原告は,上記説明義務違反によって,より小さな症状改善の効果しか得られず,もう一度同様の手術を受けざるを得ないといえるし,本件手術後平成17年2月までの約2年半,保険診療の範囲内ではより大きな症状改善の効果を得る方法はないものと思っていた(そのために,もう一度同様の手術を受ける時期が遅れた。)といえるのであり,これらによって精神的苦痛を受けたことが推察される。
  もっとも,上記のように「より大きな」(あるいは,「より小さな」)症状改善の効果といっても,その差が具体的にどの程度のものであるのかを認めるに足りる的確な証拠はなく(なお,前記第2の2(原告の主張)(3)イの「眠くなる」という症状の発生機序や程度について,これを認めるに足りる的確な証拠はない。),また,本件手術によってもある程度の症状改善の効果は得られたのであるし,もう一度手術を受ければ本来得られるはずの程度の症状改善の効果は得られる。
  これらの点のほか本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,上記精神的苦痛に対する慰謝料は30万円をもって相当と認める。
4 以上のとおりであって,原告の請求については,34万4750万円の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第14部


裁判長裁判官 貝阿彌誠  

   裁判官 片野正樹

   裁判官 西田祥平