hanrei @Wiki H17.10.31 神戸地方裁判所 平成17年(わ)第85号,第172号 恐喝,覚せい剤取締法違反被告事件



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判示事項の要旨:
実行行為の否認


主      文
    被告人を懲役4年に処する。
    未決勾留日数中220日をその刑に算入する。
理      由
(罪となるべき事実)
 被告人は
第1 大阪府A市内の病院に入院していたところ,知人のB(当時38歳)に自動車を手配して神戸から大阪まで迎えに来るよう依頼したのに,同人がこれを無視したことに因縁を付けて金員を喝取しようと企て,氏名不詳者2名と共謀の上,平成16年11月3日午後8時ころ,神戸市C区D町a丁目b番c号所在の上記B方を訪ねて同人を呼び出した上,同市E区F町d丁目e番f号所在のG温泉に向かって走行中の普通乗用自動車内において,上記Bに対し,被告人が「持ってくるもん持ってきたか」「家にあるお金,一円玉でもええから,かき集めて持ってこい」「なんぼでもええから用意せえ」などと語気鋭く申し向け,後部座席に座った氏名不詳者が手拳で上記Bの顔面を数回殴打するなどして金員の交付を要求し,さらに,同日午後9時前ころ,上記G温泉から上記B方に向かって走行中の上記車両内において,被告人が「なんぼできるねん」「20万円用意せえ,20万円で許したる」「10日,20万円を持ってこい」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,上記Bをして,もしその要求に応じなければ同人の身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,同日午後9時ころ,上記B方前路上に停車中の上記車両内において,上記Bから現金4万円を交付させてこれを喝取した
第2 法定の除外事由がないのに,同月6日午後6時ころ,大阪府A市H町g-h医療法人I会J病院i号室において,フエニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶若干量を水に溶かして自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
省略
(弁護人の主張に対する判断)
1 判示第1の恐喝の事実について,弁護人は,被告人が無罪であると主張し,被告人も,捜査の当初段階では,「起訴状記載の日時ころ,Kという中国人が運転する自動車に被害者と同乗して移動中に,同乗していたLという中国人と被害者との間で争いが起こったが,その理由は眠っていたので分からない。仮に被害者が4万円を恐喝されたのであれば,LとKとがしたことであって,自分は一切関係がない」旨弁解していたほか,捜査の後半段階以降は,被害者から4万円を受け取ったこと自体は認めつつ,「4万円はそのままLに渡した,それがどのような趣旨の金かは分からなかった」旨弁解しているので,当裁判所が被告人を有罪と判断した理由について,補足説明する。
2 公訴事実に沿う被害者の証言の要旨は,次のとおりである。
被害者は,起訴状記載の日の前日に,携帯電話に入った被告人からの電話で,自動車を手配して大阪まで迎えに来るよう依頼されたが,「(知人に)当たってみるわ」などと答えるにとどまり,その後の電話には出なかった。その後,携帯電話の留守番電話に被告人が大声で怒鳴る声が録音されているのが分かったが,やはり被告人に連絡を取らないままでいた。その翌日である起訴状記載の日時ころ,自宅玄関にやってきた被告人から「持ってくるもん持ってきたか」と怒鳴り付けられ,当初はその意味が分からなかったが,自宅周辺で被告人に大声で騒がれては困ると思い,被告人の自動車に乗り込んでから,初めて金を要求されていることが分かった。金を渡すような理由はなかったため,「何のことですか」ととぼけたが,後部座席に座っていた氏名不詳者から,ビニール傘で首筋辺りを1回ないし3回突かれた。これを見た被告人は,「やめとけ」と言って上記暴行を止めた上,「家にあるお金,一円玉でもええから,かき集めて持ってこい」「なんぼでもええから用意せえ」などと怒鳴るように言ったが,その際には,上記氏名不詳者が,被害者の顔面を二,三回手拳で殴るなどした。なお,上記氏名不詳者は日本語を口にしていたが,何を言っていたかは覚えていない。さらに,前記G温泉の駐車場でも,上記氏名不詳者から丸いコンクリートブロックを振り上げて殴り掛かられそうになったが,被告人が「やめておけ」と言うと,上記氏名不詳者は上記ブロックを地面に下ろした。被害者としては,相手が3人であることもあって,抵抗したら何をされるか分からないと怖くなり,「金を出す」と話したところ,被害者方に向かう上記車両内で,被告人から「なんぼできるねん」「20万円用意せえ,20万円で許したる」などと言われたため,午後9時ころ,被害者方前に停車中の上記車両の助手席に座っている被告人に対し,内妻から受け取った4万円を手渡した。被告人からは,被害者の給料日である「10日,20万円を持ってこい」と言われていたが,中学の先輩や会社の同僚であるMらに相談した上,平成16年11月8日,上記Mに付き添ってもらって警察に出頭して,被害届を提出した。
3 被害者の上記証言は,①その内容が具体的かつ詳細である上,被害者が自宅にやってきた被告人に怒鳴り付けられ,その自動車に乗り込まざるを得なくなった事情や,被告人に4万円を手渡すに至った経緯について,十分に自然で合理的な説明をしている上,反対尋問においても,特段の動揺を示していないこと,②被告人が氏名不詳者による暴行を止めたことや,本件以前に放免祝いの名目で3万円を被告人に渡したことはあるが,被告人から暴行を受けたり,恐喝というに足りる被害に遭ったことまではなかったことなど,被告人に有利な事実についても率直に供述していること,③被害者としては,元暴力団幹部であり,暴力団幹部との交友関係を有するほか,刑務所への入出所を繰り返してもいる被告人に対し,種々の報復を受けるかもしれない危険を冒してまで,殊更虚偽の供述をせねばならない理由はないこと,④前記Mの証言も,被害者の顔が赤くはれていることや携帯電話の留守番電話に録音されている怒鳴り声を確認したことや,被害者の証言に沿う話を確かに聞いたと述べるなど,被害者の上記証言を裏付けていること,⑤被害届を受理した警察官Nの証言も,被害者のこめかみ付近がこぶのように固くなっているのを確認したことや,被害者が被告人のことを怖がっていた様子を具体的に述べるなど,被害者の上記証言を裏付けるとともに,上記録音を証拠として保存しなかったという捜査上の不手際を率直に認めるなど,真しな供述態度を示していることなどに照らし,その信用性は十分に高いと考えられる。
4 これに対し,弁護人は,<ア>被告人が被害者方に到着するや,唐突に金員の要求をしたというのは不自然である,<イ>わざわざ被告人の自動車に同乗してその後の行動を共にしている被害者の行動も不自然極まる,<ウ>留守番電話に録音されていたという被告人の音声を廃棄したり,捜査段階から被害届の取下げなどの意向があることを口にしていた被害者の言動は,被害届が真実に反するものであることを示唆している,<エ>もともと被害者は,被告人との長年にわたる交友関係を有している上,暴力団員との交際も有しているのであるから,被告人に恐怖感を抱くとは考えられない,<オ>遮蔽措置を施して実施された証人尋問にあっては,反対尋問に動揺しなかったからといって,何ら信用性が裏付けられたとはいえない,などと主張する。
  しかしながら,上記<ア><イ>については,夜間自宅に押し掛けた顔見知りの被告人から,よく分からないことを大声で言われたとすれば,被害者がとりあえず被告人の自動車に乗り込まざるを得ないと考えたとしても,不自然とはいえない。上記<ウ>のうち,留守番電話の点については,前記M及びNが被害者の証言に沿う供述をしている上,被害者の携帯電話がその後更新されていることをも併せ考えれば,その録音が証拠化されていないからといって,被害者の供述の信用性を動揺させるものとは考え難い。また,被害届の取下げという点についても,被告人の知人による働き掛けがあったというのであるから,これまた同様である。上記<エ>については,仮に弁護人指摘のような事情があるとしても,前述したような種々の危険を冒してまでも,殊更虚偽の事実を訴えるまでの理由があったとは考え難い。上記<オ>については,遮蔽措置に守られつつも,被害者が被告人に有利となり得る事情について率直に証言していることは前述したとおりであって,それにもかかわらず反対尋問で証言の骨子が何ら動揺していないことは,やはり信用性を裏付ける事情となり得るというべきである。したがって,これらの点に関する弁護人の主張は採用できない。
5 他方,被告人の前記弁解は,⑥知人に買い与える自動車の手配を被害者に頼んだと述べている点については,被害者が中古自動車等の取扱いを業とするものではないことに照らし,疑問を差し挟む余地があること,⑦午後8時ころに突然被害者方を訪れ,食事をおごるからと言って被害者を連れ出したというのに,行き先については同行した中国人に任せていた上,眠り込んでいたから,その後の展開はよく分からないと述べている点も,不自然であること,⑧被告人に同行していた中国人と被害者との間で争いが起こっていることを知っていたというのに,何度か止めに入りはしたとはいえ,その理由を特段確認しなかったばかりか,被害者から4万円を受け取った際にも,その趣旨を確認せずにLに渡したなどと述べている点も,不自然であること,⑨もともと互いに面識がなかった被害者と氏名不詳者との間で短時間のうちに争いが起こったことや,被害者が4万円を当の氏名不詳者ではなく被告人に手渡したことについても,納得できるような原因や説明は見当たらないこと,⑩氏名不詳者の人物像については,捜査のごく初期の段階以降,見逃せない供述の変遷があるのみならず,その連絡先を知らないと供述している点なども,多分に不自然であること,⑪本件当日は約50万円の現金を持つなどしていたから,被害者から恐喝すべき必要は全くなかったという弁解についても,当時入院中であった病院の治療費等が未払いのままであることなどにかんがみ,疑問を差し挟む余地があることなどに照らすと,たやすくその信用性を肯定することはできない。
6 以上の諸事情を総合考慮すれば,被害者の証言が十分に信用できる一方で,これに反する被告人の弁解は到底信用できないといわざるを得ない。そして,信用すべき被害者の証言によれば,判示第1の事実が優に認められるというべきであるから,弁護人の主張は採用できない。
(累犯前科)
 被告人は,平成12年7月10日O地方裁判所で覚せい剤取締法違反,器物損壊,暴力行為等処罰に関する法律違反,恐喝未遂罪により懲役4年に処せられ,平成16年6月11日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(量刑の理由)
 本件は,氏名不詳の共犯者2名と共謀して被害者に20万円の交付を要求し,4万円を喝取したという恐喝1件及び覚せい剤の自己使用1件からなる事案である。
いずれの犯行についても,動機ないし経緯に酌量の余地がないこと,恐喝については,その手口ないし態様が粗暴かつ巧妙である上,被告人及び2人の氏名不詳者に連れ回されるなどした被害者の恐怖にも,たやすく軽視できないものがあったと考えられること,覚せい剤の自己使用については,前判示の累犯前科を含む同種前科3犯を有しているのみならず,前刑の執行を終えてから5か月足らずで本件犯行に及んでいることなどからして,覚せい剤との親和性や依存性が認められること,また,被告人にあっては,上記前科のほか,粗暴犯ないし恐喝等の前科4犯を有しており,規範意識の希薄さがうかがえる上,当公判廷においても,恐喝は無関係であるなどと不自然不合理な弁解に終始するなど,真しな反省が認められないことなどに照らすと,その刑責は重いといわざるをえない。
しかしながら,他方では,恐喝については,実際の被害金額はさほど多額とはいえない上,被害者からは,寛大な処罰を希望する旨の嘆願書が提出されていること,覚せい剤の自己使用については,事実を認めて反省の態度を示していることなど,被告人のため酌むべき事情も認められるので,これらの諸事情を総合考慮して刑を量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成17年10月31日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁 判 官    的 場  純 男