H17.12. 8 甲府地方裁判所 平成16年(わ)第477号,平成17年(わ)第111号 現住建造物等放火,強盗殺人被告 強盗殺人未遂被告

住宅ローンや親族からの借金の返済等に苦慮した被告人が,まず,実兄を殺害して借金の返済を免れようと企て,睡眠薬で実兄を昏睡させた上,その居宅に放火したが殺害に至らなかったという事案と,次に,経済的に苦しくなった原因を作ったなどとして自らの夫及び義理の息子に対して憎しみと恨みを募らせた挙げ句,両名を殺害して生命保険金及び手持ちの現金を得ようと企て,睡眠薬で両名を昏睡させ,現金を盗んだ上,両名が現在する居宅に放火し,その結果,夫を殺害し,義理の息子については重傷を負わせるに止まったという事案


主       文
        被告人を無期懲役に処する。
理       由
(身上関係)
 被告人は,秋田県北秋田郡において出生し,中学校卒業後は工員として稼働していたが,勤務先の倒産を契機に17歳のころ上京し,以後,賄いや溶接工等をしていた。その後,昭和62年,被害者A(以下「A」という。)と婚姻し,本件当時は,東京都八王子市の自宅にAらと共に居住していた。
 被告人の夫Aは,山梨県北都留郡○○村で出生し,同村で土建業等を営んでいた者であるが,後記のとおり平成14年1月に発生した従業員2名が死亡する労災事故を契機に土建業を廃業し,本件当時は,八王子の自宅で被告人と同居していた。
 被害者B(以下「B」という。)は,Aとその前妻との間の長男(被告人の義理の息子)であり,Aが○○村で経営する土建業の手伝いをしていたが,Aが土建業を廃業してからは,○○村の一軒家で単身居住していた。
 被害者C(以下「C」という。)は,被告人の実兄であり,きょうだいの中でも被告人と懇意にしていたが,本件当時は,愛知県豊橋市内の一軒家の棟割西側部分で単身居住していた。
(犯罪事実第1の犯行に至る経緯)
 被告人とAは,婚姻して間もないころ,住宅ローンを組んで八王子市内に自宅を新築し,Aがその返済を続けていた。しかし,平成14年1月,Aの経営する土建業に関してBが責任者として作業していた工事現場で従業員2名が死亡する労災事故が発生し,その遺族に対する賠償金の支払い義務が生じてからは,被告人一家の経済状態は苦しくなり,被告人も,仕事に励む一方,親族等から借金を重ねるなどして住宅ローン等の支払いに苦慮しなければならないようになった。
 被告人は,上記金策の過程で,同年2月及び12月の2回にわたってCから合計330万円の借り入れを行っていたが,Cからの借金が親族からの借金の中で最も高額であったことや,借りた時期も早かったことなどから,次第にCからの借金の返済を親族からの借金の中で最も気にかけるようになっていった。被告人は,当初,平成15年8月にAが元請業者を相手に提起した民事訴訟で勝訴すれば,それを元手にしてAがCからの借金の返済をしてくれるだろうと期待していたところ,Aが,同訴訟に関し和解金を取得したことを当初被告人に黙っていた上,平成16年4月上旬ころ,そのことに気づいた被告人がCへの返済を求めたのに対しても快い返事をしなかったことから,Cへの返済のあてを失い,ますます思い悩むようになった。
 そのような中,住宅ローンの支払いが滞りがちになり,せっかく手に入れた自宅が差し押さえられる可能性まで出てきたことなどから,被告人は,同月中旬ころ,Cがいなくなれば330万円を返さなくてすむ,そうすれば金銭的にも大分楽になるなどとCを殺害してCからの借金の返済を事実上免れることを考えるようになり,その方法として,当時精神科で処方されていた睡眠導入剤をCに飲ませて昏睡させた上で殺害することを思い立った。その後,被告人は,同年5月上旬ころまでの間に殺害計画の実行を決意し,同月11日,睡眠導入剤の粉末を携帯してC宅を訪れた。その後,C宅の玄関に灯油のポリタンクがあったことや,Cから2階でストーブを使っているなどと聞いたことなどから,被告人は,Cを昏睡させた上,その家屋に放火して,ス
トーブの火の不始末に見せかけてCを殺害することとした。
(犯罪事実第1)
 被告人は,C(当時69歳)を昏睡させた上,その現在する家屋に放火して同人を殺害することにより同人からの前記借金の返済を免れようと企て,平成16年5月12日午前1時ころ,愛知県豊橋市○○同人方1階居間において,同人に対し,睡眠導入剤であるトリアゾラムを含有する薬品を混入した焼酎を飲用させて同人を昏睡状態に陥らせ,同日午前1時40分ころ,同人方2階3畳間に置かれたストーブ周辺の床に灯油約1200ミリリットルを撒き,同所にあった衣類を床の上に置いて,これにライターで点火して放火し,その火を床板,柱等に燃え移らせて,同人が現在する木造瓦葺2階建て2棟割り住宅(総延べ床面積132平方メートル)のうち2階部分約66平方メートルを焼損したが,同人が救助されたため,同人を殺害して財産上不法
の利益を得る目的は遂げなかった。
(犯罪事実第2の犯行に至る経緯)
 被告人は,犯罪事実第1の犯行後も,その経済状態自体は改善されなかったことなどから,今後の生活について思い悩んでいたところ,平成16年6月になると,Aが体をこわして仕事を辞め,その後一時的に入院するまでになったことから,ますます経済的に困窮するようになった。被告人は,かねてからAに対し,Aが家計を掌握してきたことや,自分には一切小遣い等をくれなかったことなどについて不満を抱いていたこともあって,次第に,苦労して働いても自分の自由になる金が残らず,惨めな生活を送らなければならないのはAのせいであるなどと,Aに対する恨みや憎しみを募らせるようになり,また,このような生活状況に陥らせた原因は,そもそも平成14年1月の労災事故を起こしたBにあるなどと,Bに対しても恨みや憎しみを募らせ
るようになった。そのうち,被告人は,以前A及びBの両名がそれぞれ2000万円分の生命保険を契約していると聞いていたことから,両名を殺害すれば保険金収入により借金の返済ができ,大切な自宅を手放さなければならない事態も回避できるし,自分の自由に使える金も手に入り,今までとは違う余裕のある生活ができるなどと考えるようになり,平成16年8月上旬ころまでの間に,A及びBを,○○村のB宅において睡眠導入剤を飲ませて昏睡させた上,家に放火し,不慮の火災に見せかける方法で殺害することを決意した。被告人は,同月17日,殺害計画を実行するためにAを伴ってB宅を訪れたが,その後,殺害の準備をする過程で,Aの財布の中に現金があるのを知り,また,Bが自室の押し入れに現金等を入れているのを思い出したこと
から,両名を睡眠導入剤で昏睡させた後にそれらの現金をも手に入れることにした。
(犯罪事実第2)
 被告人は,A(当時68歳)及びB(当時33歳)を昏睡させて両名が所有する現金を盗んだ上,両名が現在する家屋に放火して両名を殺害しようと企て,平成16年8月18日午後9時ころから午後9時15分ころまでの間,山梨県北都留郡○○村○○B方において,A及びBに対し,睡眠導入剤であるトリアゾラムを含有する薬品等を混入した牛乳を飲用させてこれにより両名を間もなく昏睡状態に陥らしめた上,同日午後10時ころ,B方内で,B所有の現金5万3820円を盗み,次いで,A所有の現金2万1000円を盗み,引き続き翌19日午前零時ころ,B方1階居間の畳に灯油約500ミリリットルを撒いた上,新聞紙にライターで点火してこれを畳上に置いて放火し,その火を襖,天井等に燃え移らせて,現にBが住居に使用し,同人及び
Aが現在する木造トタン葺き2階建家屋(床面積合計約73平方メートル)の1階部分のうち約36平方メートルを焼損し,よって,そのころ,同所において,Aを上記火災による一酸化炭素中毒により死亡させて殺害するとともに,Bに全治約2か月を要する一酸化炭素中毒症,火傷等の傷害を負わせたが,Bについては,救助されたために,殺害の目的を遂げなかった。
(法令の適用)
 被告人の犯罪事実第1記載の所為のうち,現住建造物に放火した点は刑法108条〔有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。〕に,強盗殺人未遂の点は刑法243条,平成16年法第156号附則3条1項により上記改正前の刑法240条後段に,犯罪事実第2記載の所為のうち,現住建造物に放火した点は刑法108条〔有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があった
ときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。〕に,強盗殺人の点は平成16年法律第156号附則3条1項により上記改正前の刑法240条後段に,強盗殺人未遂の点は刑法243条,平成16年法律第156号附則3条1項により上記改正前の刑法240条後段にそれぞれ該当するところ,犯罪事実第1は1個の行為が2個の罪名に,犯罪事実第2は1個の行為が3個の罪名にそれぞれ触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条によりいずれも1罪として,犯罪事実第1については犯情の重い強盗殺人未遂罪の刑で,犯罪事実第2については犯情の最も重い強盗殺人罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中いずれも無期懲役刑を選択するが,以上は同法45条前段の併合罪であるところ,犯情の重い犯罪事実第2の
罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないこととして,被告人を無期懲役に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,住宅ローンや親族からの借金の返済等に苦慮するようになった被告人が,まず,330万円を貸してくれていた実兄を殺害してその返済を免れようと企て,睡眠薬で実兄を昏睡させた上,その居宅に放火したが,殺害に至らなかったという現住建造物等放火,強盗殺人未遂の事案(犯罪事実第1。以下「豊橋市事件」という。)と,その約3か月後,今度は,経済的に苦しくなった原因を作ったなどとして自らの夫及び義理の息子に対して憎しみと恨みを募らせ た挙げ句,両名を殺害して生命保険金及び手持ちの現金を得ようと企て,睡眠薬で両名を昏睡させ,現金を盗んだ上,両名が現在する居宅に放火し,その結果,夫を殺害し,義理の息子については重傷を負わせるに止まったという現住建造物等放火,強盗殺人,強盗殺人未遂の事案(
犯罪事実第2。以下「○○村事件」という。)である。
2 異常なまでの金銭欲に根ざした極めて悪質な動機に基づく犯行である。
判示のとおり,豊橋市事件は,借金の返済等に苦慮していた被告人が,貸し主である 実兄のCを殺害することによって事実上その返済を免れようなどと考え,敢行したものである。 あまりにも身勝手かつ短絡的で利欲的な発想に基づく犯行であって,人命軽視も甚だしく,動機として極めて悪質である。被害者Cは,被告人の実兄であり,かつ,懇意にしていた被告人のためを思って快く大金を貸してくれていた被告人にとっていわば恩人というべき存在であったのであり,被告人の行為
は,文字どおり恩を仇で返す所業である。
また,○○村事件も,経済状態に苦慮した被告人が,夫や義理の息子に対する不満等も重なって,両名にかけられている保険金に目を付け,両名を殺害し,保険金や所持金を得ようなどと考えて敢行したものである。豊橋市事件同様,あまりに短絡的,独善的で利欲的な発想に基づく犯行であって,動機として極めて悪質である。
確かに,本件当時,被告人が借金の返済等に相当苦慮していた事実は認められるものの,Cを初めとする債権者から厳しい取立てを受けていたというわけではないし, また,○○村事件についてみても,精神的に切羽詰まった状況にまで追い詰められたというより,むしろ, Aに家計を掌握され,自分が自由に使える金がなかったなどという金銭に関する積年の恨み辛みや,大切な自宅を手放したくないという気持ち,あるいは保険金への欲求などといった利欲的な意図が,Aらに対する殺意に転じたものと 認められるのであって,殺害にまで至る経過として特段酌量しうるものではない。 自らの利欲的な目的を実現するためには,血を分けた実の兄や長年連れ添った家族であってもそ
の命を奪うことを厭わないという被告人の考え方は, 常軌を逸したものがあり,被告人には,異常なまでの財産に対する執着心や金銭欲に根ざした冷酷で危険な人格をもうかがうことができるところである。
 強固な犯意に基づく計画的で極めて悪質な犯行である 。
犯行の態様をみると,被告人は,いずれの犯行においても, まず,被告人のことを何ら疑っていなかった被害者らに対し,密かに睡眠導入剤を飲用させて被害者らを昏睡状態に陥れるとともに,灯油を撒くなど火勢が強くなるようにして木造の家屋に放火し,家屋を焼損するとともに被害者を殺害しようとしたものであって,強固な犯意に基づく,巧妙かつ卑劣な手口による非常に危険な犯行である。
また,被告人は,いずれの犯行に際しても,予め被害者を昏睡させて殺害することを計画した上,自宅から睡眠導入剤を携帯して犯行に及んでいるほか,豊橋市事件においては,自分が被害者宅に向かった事実を秘匿すべく,同居の家 族にことさら同窓会の集まりがあるなどと虚偽の事実を伝えておいたり,ストーブの火の不始末に見せかけるためことさらストーブ周辺に灯油を撒いて放火したりしている。また, ○○ 村事件においては,突然B宅を訪れたのでは怪しまれるなどと考え,犯行以前に下見をかねてB宅を訪れていたほか,2階部分の焼損のみに止まった豊橋市事件の経験から,今度は1階に着火することとしたり, 発見を遅らせようと隣家が寝静まるのを待ってから放火したり,第三者による放火と見せかけるため
に居宅の外側のビニールシートにもわざわざ放火したり,放火後に命からがら逃げ出したようなふりをして隣家に飛び込んだりもしている。このように,被告人は,いずれの犯行においても,殺害を確実に遂行するとともに自分に疑いが向けられないような巧妙で計画的かつ冷静な行動をとっているのである。
 もたらした結果はあまりに重大である。
本件各犯行の結果,二名の被害者が殺害されそうになるとともに,一名の尊い命が失われるという悲惨かつ重大な結果が発生している。もとより,いずれの被害者にもこのような凶行に遭わなければならないような落ち度は認められない。
死亡したAは,被害当時こそ病気により仕事を辞めており,経済状態は芳しくなかったものの,子供や孫にも恵まれた晩年の生活を過ごしていたものとうかがえる。ところが,安心できるはずの息子の家で,あろうことか 長年連れ添ってきた妻の手にかかって昏睡状態のまま 無惨にもその生涯を閉じなければならなかったものであって,事件の真相を知ったとした場合の驚愕,無念さは測り知れないものがある。突如Aを失ったAの子供たちの悲しみや怒りも甚大であり,Aの娘(被告人の義理の娘)は,被告人に対し,「法律で決められている中で一番重い刑にしてもらいたい」と峻烈な処罰感情を示している。
近隣住民等による迅速な救助活動によって火災の中を昏睡状態のまま助け出されたC及びBについても,犯行の全容を知らされた際の驚愕は相当なものであったと推察される。被告人に対する処罰感情について,現在は被害感情が和らいでいるとうかがえるCは別として,Bは,「どうしてそこまでされなければならないのかが今でも納得できないし,悔しくて仕方がない。父の無念を晴らすためにも,できるだけ重い刑にしてもらいたいと思う。」などと厳しい処罰感情を吐露している。
それにもかかわらず,被告人は,いまだ各被害者やAの娘等に対しては,具体的な慰藉の措置は講じていない。
さらに,いずれの事件についても,建物を半焼させるなどしたことによる財産的損害にも大きなものがある。豊橋市事件においては焼損した家屋を含む損害全額について保険金が支払われているものの,いずれの事件についても被告人による被害弁償ないし補償は未だ一切講じられておらず,その見込みもない。
加えて,いずれの事件も,住宅の密集地を現場とした犯行であり,周辺に焼損被害を拡大しかねないものであって,各放火行為が地域住民に与えた不安も少なくなかったとうかがえるし,利欲的動機に基づき自らの親族の命を立て続けに狙ったという被告人の犯行が社会に与えた影響も看過できないものがある。
 被告人の規範意識の欠如は明らかであり,人命軽視の態度も甚だしい。
前記のとおり,被告人は,もっぱら利欲的な動機の下,実兄を殺害すべく豊橋市事件を敢行し,これに失敗したにもかかわらず,悔い改めることなく,その約3か月後に,今度は,長年連れ添った夫や義理の息子を狙った○○村事件を敢行したものである。このこと自体からも,被告人の規範意識の欠如は明らかである上,人命軽視の態度には甚だしいものがあると言える。
また,被告人は,いずれの犯行に際して も,冷静に行動し,当初の計画を着実に実行に移していたほか,犯行後も,臨場した警察官に対し犯行隠蔽のためにことさら虚偽の事実を述べたり,豊橋市事件においては,鎮火後の被害者宅において借金の証文である借用書を発見すると,これを自宅に持ち帰って隠匿したり,○○村事件においては,夫の通夜や葬儀において喪主を務める一方,その翌日には生命保険金受領に向けて積極的に行動するなど,罪証隠滅行為や当初の目的を達成するための周到な行動に出ていたものである。
加えて,被告人は,当公判廷においても,「労災事故さえなければこんなに苦しむことはなかった。」とか,「Aから金をせびられ奴隷のように働かされた。」などと,この期に及んでA及びBに対する恨みがましい発言をしている部分もあり,深い自己洞察に基づく真摯な反省を表しているとも言い難い。
 このような被告人の行動,態度等をあわせみると,被告人の人格的問題も大きいものがあるといわざるを得ない。
 以上のとおり,もっぱら利欲的な動機のもと,計画的かつ極めて悪質な方法で,連続的に合計3名の肉親の命を奪おうとし,うち1名を死亡させるなどした本件犯情は極めて悪質であって,被告人の人格的問題も大きいと認められることなどをも踏まえると,被告人の罪責は重く,極刑の選択をも含めて量刑を検討しなければならない事案であると考えられるところである。
3 しかしながら,他方で,被告人については,以下のような酌むべき事情が認められる。
  まず,何より,不幸中の幸いではあるが,Cは命に別状がなく,Bも最終的には判示の程度の傷害に止まったものであり,3名全員が生命を奪われるという最悪の事態には至 っていない。
  また,生存被害者のうちCは,犯行発覚当初こそ厳しい処罰感情を示していたが,その後,「被告人が罪を償って社会に出てくることができ,その時自分が元気でやっていたなら,被告人の面倒を見たいと思う。」旨述べるなど,その処罰感情が和らぐとともに,むしろ理不尽な犯行の被害に遭いながらも被告人に対し肉親としての暖かい情を示しているようにうかがえる。 Bについても,前記のとおり被告人に対する厳しい処罰感情を述べつつも,「血は繋がっていないとはいえ母親なので,率直に死刑にしてくれとは言いにくいことも事実です。ですから裁判でできるだけ重い刑を言い渡して欲しいとしか今は言えない。」などと,義理の母親に対する複雑な心情をうかがわせる供述もしているところである。
  さらに,被告人は,逮捕後は自らの犯した罪については素直に認め,動機や経過も含め詳細に供述しているほか,前記のとおり反省の真摯さについてはやや疑問の残る部分があるとはいえ,当公判廷において,被害者らの命を奪い又は奪おうとしたこと自体については反省の弁と被害者らに対する謝罪の気持ちを示し,特にAに対しては毎日冥福を祈っている旨述べている。このことに,豊橋市事件においては実兄を殺害することについて心理的に葛藤していた経過も見受けられることや,被告人には古い罰金前科しかなく,本件各犯行を除けばこれまで基本的に問題なく社会生活を送ってきたとうかがえることなどもあわせみると,被告人については,今なお人間性をもうかがうことができ,改善・矯正が不可能であるとの域に達しているとまでは断じが
たい。
4 そうすると,本件は,前記のとおり誠に悪質な事案であるが,極刑選択がやむを得ないとまでは認めがたく,被告人に対しては,自己の罪業の深さを真摯に悟らせ,その生涯をかけて死亡させた被害者に対する冥福と,その余の被害者に対する贖罪の人生を歩ませるのが相当と考えられるから,主文のとおり,無期懲役の刑をもって臨むものとした。
(検察官折原崇文,国選弁護人深澤一郎各出席)
(求刑 無期懲役)
  平成17年12月8日
     甲府地方裁判所刑事部

         裁判長裁判官   川  島  利  夫


            裁判官   矢  野  直  邦


            裁判官   肥  田     薫

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最終更新:2005年12月20日 16:13
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