hanrei @Wiki H17.11.29 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第909号,同第992号,同第1012号 強盗致傷,毒物及び劇物取締法違反,恐喝未遂被告事件



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恐喝の実行行為及び犯意の否認,強盗致傷(窃盗及び暴行)の共謀の有無,正当防衛等


主 文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中370日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1 平成15年4月22日午後11時50分ころ,神戸市a区b町c丁目d番地のe所在のA住宅f階ロビーにおいて,興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有するシンナー約14ミリリットルを,みだりに吸入する目的で所持し,
第2 Bと共謀の上,平成16年2月26日午前1時40分ころ,神戸市g区hi番地のjCh店において,同店店長Dが管理するニットトランクス1着及びシャツ1点(販売価格合計1380円相当)等を窃取し,店外に出たところ,同店の客でこの犯行を目撃したE(当時40歳)から,Bが店内に押し戻されるなどし,Bを奪還しようと店内に戻った被告人もBともども逮捕されそうになったことから,これを免れるため,同店内において,Bが,所持していた棒様のもので上記Eの頭部を数回突き立てる等の暴行を加え,よって,上記暴行により,同人に7日間の加療を要する見込みの後頭部挫創等の傷害を負わせ,
第3 金融業者Fが株式会社Gに貸し付けた金銭の未回収金取立名下に同社代表取締役H(当時48歳)から金銭を喝取しようと企て,平成16年6月14日午後2時ころから同日午後3時30分ころまでの間,大阪府東大阪市kl丁目m番n号所在の同社倉庫内等において,上記Hに対し,「22万返さんかい。」「この会社つぶしてもうたろか。」と言った上,さらに,「晩歩くとき後ろ気い付けよ。刺したろうか。車でひいたろうか。」などと押し殺したような口調で言って金員の交付を要求し,その要求に応じなければ同人の生命,身体,財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示してその旨同人を畏怖させ,同人から金銭を喝取しようとしたが,同人が警察に通報してこれに応じなかったため,その目的を遂げなかった。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
1 判示第2の事実について
(1) 被告人は,B(以下,「B」という。)との間で,万引きをすることや,E(以下,「E」という。)に対し暴行を加えることを共謀したことはない旨供述し,また,弁護人も,Bとの間でこれらの共謀がなかったことに加え,仮にBとの間に共謀が認められたとしても,BのEに対する暴行は,Eが被告人に暴行を加えていたことから,これに対する防衛行為として行われたものであり,正当防衛が成立する旨主張する。
そこで以下,これらの主張等に対する当裁判所の認定及び判断について,補足する。
(2) 関係各証拠によれば,本件の犯行に至る経緯及び犯行状況は以下のとおりである。
ア 被告人は,平成16年2月25日から翌26日未明にかけ,友人であるBと自動車でドライブをしていたところ,途中で銭湯に行くことになったが,同人との間で,銭湯に行く前に下着を万引きする話になり,その後,二,三件のコンビニエンスストアに立ち寄るうちに,被告人は必要なものは手に入れたのに対し,Bは何も盗めなかったことから,被告人は同人に「おまえもぱくらんかい。」などと言った後,同人とともに本件犯行現場であるCh店(以下,「C」という。)に行った。
イ 被告人は,BとC店内に入った後,同人に声を掛けて下着類の売場を示した上,同日午前1時30分過ぎころ,ニットトランクス1着及びシャツ1着(以下,まとめて「本件被害品」という。)を商品棚から手に取ってBに手渡した後,Bがそれらを上着の中に隠す間,Bとレジとの間に立ってレジの店員からBを見られないようにし,その後,Bとともに出入口に向かい,店の外に出ようとした。
一方,当時客としてCの店内にいたEは,被告人らの上記万引きを目撃し,店員に知らせたところ,同店員から被告人らを捕まえるよう依頼されたことから,店の出入口の外に先回りし,Bが出入口から出てきたところを,その胸をつかんで店内に押し戻し,そのままレジカウンター前から店内の東端通路を経て,南東隅にある事務所の入口付近まで連れて行った。この間,Bは,店内北東隅あたりで服の中から本件被害品を出して商品棚の上においた上,Eから本件被害品をつきつけられて,「すみません。」などと言っていた。
ウ 被告人は,いったんは1人でCの店外に出たものの,洋服のフードを目深にかぶって再び店内に戻り,事務所の入口付近にいたEとBのところに近付き,両者の間に割って入り,Bの背後から,Bの胸ぐらをつかんでいたEの手を引き離そうとし,その際,BもEの手から逃れようとしたところ,Eは,左手でBの胸ぐらをつかんだまま,被告人の顔面を右手拳で殴打した上,しゃがみ込んだ被告人の腹部を数回蹴りつけた。
エ Eの被告人に対する上記殴打や足蹴りを見たBが,被告人に対し,「やってええんか。」と数回問いかけたのに対し,被告人は,「やってくれ。」と答えた。そこで,Bは,腰の辺りに携帯していた長さ約12センチメートル,太さ約1.3センチメートルで一方の先が細くなったステンレス製の棒をEの頭部に数回突き立て,さらに,うずくまったEの顔面付近を足蹴りするなどした。その後,被告人は,Bとともに直ちに店の外に走り出て,駐車してあった自動車に乗って逃走した。
(3) 強盗致傷罪の成否について
上記認定の被告人の言動からすると,被告人とBの間に,万引きについての共謀があったこと,被告人が再び店内に戻ってきたのは,万引きが見つかり,店内に押し戻されたBを逃がすためであったことは明らかであり,Bと万引きの共謀はしておらず,また,店内に戻ったのは,自分も万引きをしていたこともあり,Bと一緒に謝るつもりであったなどとする被告人の供述は到底信用することができない。
また,Bも,当初はほぼEに押されるがまま,事務所入り口付近まで移動しているものの,被告人が間に割り込んできたのと呼応して,Eから逃れようとしており,その後,Eの頭部にステンレスの棒を突き立てた後,同人がすでにうずくまっているにもかかわらず,さらに同人に足蹴りしていること,その後,Eのけがの状況を確認することもなく,被告人とともに直ちに逃走していることなどに照らすと,BのEに対する上記暴行は,単にEから殴られたりしている被告人を助けようとしたというものではなく,被告人ともどもEによる逮捕を免れ,逃走を図るための手段として行ったものであることは優に認めることできる。
そして,上記認定のとおり,被告人は,BからEに暴行を加えることについて同意を求められたのに対し,これを承諾ないし要請する旨の返答をしていることからすれば,被告人とBとの間でEに対する暴行につき共謀があったことも明白である。なお,Bは,捜査段階においては,上記認定のとおり被告人から返答があった旨供述しているにもかかわらず,自らの公判及び当公判廷においては,被告人から返答があったかどうかは覚えていないなどと供述するが(以下,まとめて「Bの公判供述」という。),被告人に「やってええんか。」と尋ねた理由について,Eを殴ると強盗になるので,1人では決めたくなかったとも供述していることからすれば,Bが被告人の返答を待たずにEに暴行を加えるのは不自然である上,Eも,被告人とBの間でそのような応答があったと述べていることに照らしても,被告人からの返答については覚えていないというBの上記各供述は信用できず,また,同様に,Bとの間にこのようなやりとりはなかったとする被告人の供述も信用できない。
(4) 正当防衛の成否について
上記認定のとおり,Eは,Bとの間に割り込んできた被告人に対し,その顔面を手拳で殴打した上,しゃがみこんだ被告人の腹部を数回足蹴りしたが,Eは,たった1人で,万引きを見とがめられて逃走を図ろうとする20代の若い男性2人を同時に相手にしていた上,素手であり,何ら護身や捕縛のための技術,道具や特別な知識経験も持ち合わせていない私人であるのに対し,被告人らが凶器となるような物を所持していることも十分予想される状況下に置かれていたことを併せ考えると,Eの被告人に対する上記行為は,刑事訴訟法213条に基づく適法な現行犯逮捕の行為であり,かつ,私人が自分の身を守りつつ,現行犯人を逮捕するという目的を達成するための手段として社会通念上,必要かつ相当な有形力の行使の範囲内にとどまるものと認められる。
よって,Eの被告人に対する上記行為は,刑法35条により違法性が阻却されるから,不正の侵害には当たらず,BのEに対する暴行について,正当防衛は成立しない。
2 判示第3の事実について
(1) 被告人は,判示の日時,場所において,H(以下,「H」という。)に対し,「22万返さんかい。」と言ったことはあるが,「払わんかったら会社つぶすぞ。」「夜歩くとき気い付けや。車でひいたろか。後ろから刺したろか。」などとは言っていないし,同人から金銭を脅し取ろうとしたことはなかったと供述し,弁護人も,被告人は貸付金の取立ての際,やや声を大きくして請求しただけであり,恐喝未遂罪は成立しないと主張するので,以下,当裁判所が,判示第3のとおり認定した理由を補足する。
(2) 被告人がHに対し判示のとおり述べて脅迫したことは,同人が公判廷において,明確かつ具体的に証言するところであり,また,脅迫文言のうち「会社をつぶす」云々については,現場に駆け付けた警察官の1人であるIも同旨の証言をする。
そして,上記Hの証言は,I証言との間で事実経過の先後の点で多少食い違いがあるものの,それ以外の点では不自然・不合理な点は見あたらないし,上記I証言には何ら信用性に疑問を差し挟むべき点はない。また,上記H証言のうちI証言と食い違う点も,Hの証言時において既に事件から1年以上経過していることに照らせば,事実経過の先後のような部分で記憶に多少の混乱がみられたとしてもやむを得ないというべきであって,それによってH証言全体の信用性が揺らぐものではない。
(3) これに対し,Hに脅迫文言は言っておらず,金銭を脅し取るつもりもなかった旨の上記被告人の供述は,信用性のある上記H及びIの供述に反するだけでなく,被告人が,Hから供託をしたという説明を受けたり,警察官が来た後も,Hに対し,大きな声で「お金を返してくれ。」と繰り返し要求していたことからすると不自然であり,上記HやIの供述に比べ,信用できない。
なお,本件当時,被告人と現場に同行したJは,公判廷において,被告人のHに対する言動が恐喝や脅迫になるとは思わなかったと証言するが,他方,警察官が来てからは離れておけなどと言われた上,被告人とHとの間のやりとりの内容については覚えていないとも証言し,現にその内容については,ほとんど供述していないことからすると,同証言は,上記認定を何ら左右するものではない。
また,本件は,被告人が,貸付債権の取立てとして行ったものであるが,判示のとおりの脅迫の態様等に照らすと,正当行為として違法性が阻却される余地がないことは明らかである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の行為は毒物及び劇物取締法24条の3,3条の3,同法施行令32条の2に,判示第2の行為は刑法60条,平成16年法律第156号附則3条1項により同法による改正前の刑法240条前段(238条)(有期懲役刑の長期についても,上記附則3条1項によりその改正前の刑法12条1項による。)に,判示第3の行為は刑法250条,249条1項にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重(加重の上限は,行為時においては上記改正前の刑法14条に,裁判時においてはその改正後の刑法14条2項によることになるので,刑法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。)をし,なお犯情を考慮し,刑法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中370日をその刑に算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,①吸入目的でシンナーを所持した毒物及び劇物取締法違反1件(判示第1),②Bと共謀の上,コンビニエンスストアで万引きをした上,被告人らを逮捕しようとした同店客に対し,逮捕を免れる目的で暴行を加えて傷害を負わせた強盗致傷1件(判示第2),③貸付金の取立て名下に,会社社長から,金銭を喝取しようとしたがこれを遂げなかった恐喝未遂1件(判示第3)からなる事案である。
このうち,強盗致傷については,被告人は,万引きが発覚した後,店内に引き返えすやいなや,謝罪するどころか,いきなり体を割り込ませるなどして被害者からBを奪還しようとし,その後,Bが,被害者に対し,ステンレス製の棒を頭部に思い切り振り下ろすという極めて危険な暴行を加えたものであって,犯行態様は手荒で悪質である。被害者は,店員の依頼を受け,正義感から万引き犯を捕まえようとしたにもかかわらず,被告人らにより判示の傷害を負わされ,そのため仕事に影響が出るなどしているが,被告人はいまだ何の慰藉の措置も講じていない。そして,被告人は,これまでもBと万引きを繰り返すなど,窃盗についての常習性もうかがえ,このような規範意識の薄さが,本件のような重大犯罪の発端にあることは明らかである。
また,恐喝未遂についても,被害者から供託をしたなどと説明を受け,また,警察官から制止されたにもかかわらず,執拗に貸金の返済を迫り,また,警察官が離れ,被害者と2人きりになった隙に,被害者を脅迫するなど,その犯行態様もよくない。
さらに,シンナーの所持についても,特に酌むべき点はないばかりか,被告人はそれまでにも,何度となくシンナーを吸入していた旨供述しており,シンナー事犯についても常習性がうかがえる。
その上,被告人は,恐喝未遂等の前歴2犯があるほか,平成14年に有印私文書偽造,同行使,詐欺未遂罪により,懲役1年6月執行猶予3年の判決を,また,平成15年には器物損壊罪で罰金の判決を受けたものであり,本件各犯行はいずれも上記懲役刑判決の執行猶予期間中に行われたものであることに加え,シンナーの所持については認めるものの,強盗致傷や恐喝未遂については,不合理な弁解に終始しており,反省の態度がみられないことなどの事情も考えると,被告人の刑事責任は大変重いといわざるを得ない。
しかしながら,他方,強盗致傷の被害者のけがは,幸いにも重いものではなかったことに加え,被告人自身は,けがの原因となった暴行をしておらず,また,強盗致傷の犯行は,被害者の思いがけない強力な有形力の行使に触発されたという側面もなくはないこと,恐喝は未遂に終わっており,また恐喝未遂の被害者やコンビニエンスストアとの間で示談を一応試みていること,被告人の母親が社会復帰後の更生に助力する旨述べていること等,被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらを総合考慮し,酌量減軽の上,主文の刑を定めた。
(求刑 懲役8年)
    平成17年11月29日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官  笹野明義
裁判官  佐茂 剛
裁判官  小山裕子