hanrei @Wiki H17.11.10 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第983号 強盗未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件



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         主        文
   被告人を懲役3年に処する。
   未決勾留日数中340日をその刑に算入する。
   神戸地方検察庁で保管中の鎌型包丁1丁を没収する。
         理        由
(犯罪事実)
 被告人は
第1 タクシー運転手から金員を強取しようと企て,刃体の長さ約17.0センチメートルの鎌型包丁1丁を所持した上,A(当時54歳)が運転するタクシーに乗り込み,平成16年9月3日午前10時8分ころ,神戸市a区bc丁目d番f号先路上において,上記Aに対し,その背後から上記鎌型包丁を突きつけ,「金を出せ。」などと脅しつけて脅迫し,同人を畏怖させたが,同人が車外に逃れたため,その目的を遂げず
第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,上記日時場所において,上記鎌型包丁1丁を携帯した。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
 被告人の第1の行為は刑法243条,236条1項(ただし,その長期は,刑法6条,10条により平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項による。)に,判示第2の行為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,判示第1の罪は未遂であるから刑法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中340日をその刑に算入することとし,神戸地方検察庁で保管中の鎌型包丁1丁(平成16年領第1779号符号1)は,判示第1の強盗未遂の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(弁護人の主張に対する判断)
1.弁護人は,犯行当時,被告人は精神疾患による幻覚妄想の影響により,少なくとも心神耗弱の状態にあったと主張するので,以下,検討する。
2.本件犯行の態様は,判示のとおりであるところ,捜査段階での被告人の供述によれば,被告人は,B病院での生活に嫌気がさし,病院を抜け出して覚せい剤を打ったり女遊びをして気持ちよくなりたいという思いが押さえきれなくなり,タクシー強盗をして金を手に入れようと考え,本件犯行に及んだというのであって,その犯行動機は十分了解可能なものである。また,そのために,知り合いから小銭を借りた上,病院職員の目を盗んで病院の送迎バスに乗り込み,電車とバスを乗り継いで自宅に戻って1泊し,台所から包丁1丁を取り出してビニール袋に入れ,通りがかりのタクシーに乗車し,タクシーが目的地についてドアが開いた機会に,本件犯行に及んだもので,被告人の行為は,それなりに合理的,合目的的なものであって,格別不自然な点はない。
  ただ,被告人は,タクシー乗車後の目的地としてC警察署を指示しているのであるが,この点は,タクシー強盗を企てていたものとしては,いささか不可解な印象は免れず,被告人の供述も,C警察署に行くという意味ではなく,タクシーの運転手に目標を言えばそこに着くまでに信号待ち等で車を止めたとき,強盗計画を実行に移せばいいと考えていたと述べたり(警察官に対する平成16年9月13日付け供述調書),もしタクシー強盗が失敗した場合には,そのまま警察に捕まって刑務所に行くことになってもいいと思ったものの,捕まるのであれば,知り合いのいないC警察署に捕まりたかったと述べたり(検察官に対する同月17日付け供述調書),一貫していない。しかし,これらの供述や,実際の犯行経過を見れば,被告人は,とりあえず金を奪うことのみを考え,犯行の時機や,犯行後の行動を十分考えることなく,いわば場当たり的に目的地を指示したものと解され,このことは,被告人の浅慮を示すものとはいえ,了解困難とまではいえない。
3.他方,被告人は,公判廷では,腹の中にこびとがいて,こびとが行ってこいと言ったなどという幻覚があり,それに従って本件犯行をしたかのような供述もしている。また,関係各証拠によれば,被告人は,20歳であった昭和57年6月及び同年10月に,いずれも覚せい剤取締法違反の罪を含む犯行により有罪判決を受けてD医療刑務所に服役し,出所後は,覚せい剤精神病等の診断により,転院を繰り返しながら,ほとんど精神病院で生活してきたこと,その間の,平成8年9月には,覚せい剤取締法違反の罪により執行猶予付きの懲役刑判決を受け,さらに,平成11年10月,銀行に包丁を持って押し入り,強盗未遂事件を敢行したが,起訴猶予となるとともに措置入院となり,B病院に入院していたところ,平成16年9月2日,同病院を無断で抜け出し,その翌日,本件犯行をしたことが認められ,被告人に,精神症状があることは明らかである。
  また,被告人の精神症状については,主治医である証人E医師は統合失調症と診断している一方,鑑定人F医師は覚せい剤精神病と診断し,診断名が異なっているが,これは,主に覚せい剤精神病の持続性についての見解の相違によるものと思われ,被告人に,幻覚妄想や連合弛緩等の精神症状があり,その程度はともかく,被告人の意思決定や行動に影響することがあるという点では,共通している。
4.しかしながら,被告人が述べる上記こびとについての幻覚妄想は,「こびとが行ってこいと言う。」,「こびとも一緒にやれと言ってくる。」などというもので,差し迫った作為体験というには切迫性が感じられない。加えて,被告人は,捜査段階では,こびとについての供述は一切しておらず,公判に至って,突然供述し始めたものの,鑑定人に対しては,こびとについて具体的な発言はしていないこと,また,公判廷においても,その存在について,「神経の問題やと思います。」とか,「こびととはぶつかり合って喋っても仕方ないし,問題は,頭の関係」などと述べていることなどからすると,仮に,被告人が,本件犯行当時,何らかの幻覚妄想を体験していたとしても,それは,確信性,恒常性に乏しいものと解するのが相当である。
5.鑑定人F作成の鑑定書によれば,「犯行を思いついたことに幻覚や妄想の影響を受けていたとしても,その影響は比較的小さく,これまで述べてきたように被告人本来の人格により意思決定が大きく関与していたものと考える。」,「被告人の精神状態は,犯行時及び現在において,精神病質的な性格と軽度の精神遅滞の上に,慢性覚せい剤精神病による幻覚妄想状態が持続している状態である。ただし,幻覚妄想は,被告人の人格を支配するものではなく,本件犯行に直接関与するものではなかった。」というのであるところ,その前提とする事実関係は,上記の認定に沿うものであり,その判断過程に不合理なところはなく,専門家による合理的見解として首肯すべきものである。
  なお,証人E医師の証言及び同人作成の回答書によれば,同医師は,上記のとおり被告人を統合失調症と診断し,また,最終診察時には十分な責任能力があるとはいえない状態であったとしている。しかし,被告人の精神症状についての認識が,F鑑定と基本的には相違していないことは上記のとおりであり,また,被告人の責任能力が十分でなかったとしても,それが著しく減退していたという判断まではされていない。
6.そうすると,被告人は,軽度の精神遅滞及び慢性覚せい剤中毒による精神症状が認められるものの,事理の善悪を判断し,これに従って行動する能力が著しく減退した状態にはなかったと認めるのが相当である。
  したがって,弁護人の主張は採用することができない。
(量刑の理由)
 本件は,包丁を用いたタクシー強盗の事案であり,その犯行態様はまことに危険で悪質なものである。また,被告人は,要するに,入院していた病院での生活に嫌気がさし,そこから出て,憂さ晴らしをするため本件犯行に及んだというもので,犯行動機は,極めて安易かつ短絡的といわざるを得ない。加えて,被告人は,これまでにも,刃物を用いた銀行強盗をはたらき起訴猶予となった前歴があるにもかかわらず,ほとんどためらいもなく,またしても本件を敢行したことなどの事情に照らすと,被告人の刑事責任は重い。
 他方,被告人の判断力,行動制御力が著しく減退した状況になかったことは上記のとおりであるとはいえ,被告人の入院歴や現在の精神症状からすると,それがある程度は減退していたもので,そのような精神状態が本件犯行の背景にあったことがうかがえ,被告人には,今後も,医療措置が必要であると認められるほか,被害者に対し,未払いのタクシー料金を含め4万円を支払って示談が成立していることなど,被告人のために酌むべき情状も認められる。
 しかし,上記のとおりの本件犯行の罪質,被告人の経歴,責任能力についての判断等を総合すると,被告人は,相応の実刑を免れない。ただ,上記の情状に加え,被告人の精神症状等に照らすと,被告人に対しては,刑務所内において,医療措置を伴う集中的な矯正教育を施した後,なるべく早期に,専門的な病院で治療を受けさせるのが相当と考え,未遂減軽をした上,主文の刑を定めた。
(求刑 懲役5年及び鎌型包丁の没収)
  平成17年11月10日
    神戸地方裁判所第4刑事部
         裁判官  笹  野  明  義