hanrei @Wiki H17.11.29 岐阜地方裁判所多治見支部 平成14年(ワ)第172号 損害賠償請求事件



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原告(当時少年)から恐喝被害を受けた旨の別の少年の供述に基づいてなされた,当該少年保護事件を家庭裁判所送致相当とする旨の検察官の意見提出につき,①当該供述が上記被害少年の犯した別の強盗事件の刑責を軽減する内容を含む関係にあり,②同供述を裏付ける客観的証拠が存在せず,③その一部に軽微とはいえない矛盾等が認められるなどの状況の下では,必要な捜査を怠った違法があるとして国家賠償請求が一部認容された事例


           主        文
1 被告Aは原告に対し,70万円及びこれに対する平成14年12月10日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告Aに対するその余の請求及び被告Bに対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は,被告Aに生じた費用の5分の4と被告Bに生じた費用の全部を原告の負担とし,その余を各自の負担とする。
           事実及び理由
第1 請求
被告らは原告に対し,連帯して550万円及び,これに対する,(a)被告Aが平成14年12月10日から,(b)被告Bが同月7日から各支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,下記1(3)の原告の少年事件に関する検察官及び警察官の捜査等につき,原告が後示2(1)①ないし③の不法行為を主張して,被告らに国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求する事案である(以下平成11年中の日にちは,単に月日のみで表示する。また,甲号証と同内容の乙,丙号証は,原則的に摘示を省略する)。
1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
(1) 当事者及び関係者等
① 原告(昭和56年8月23日生)は,C中学を卒業後,後示(2)ないし(5)当時,D高校の3年生だった者である。原告は,小学校以来下記⑥のEクラブに入っていた経験があり,クラブ内では「F」のあだ名で呼ばれていた(クラブ経験につき甲71)。
② Gは,後示(2)(3)(4)当時,岐阜地方検察庁H支部の副検事だった。
③ 後示(2)(3)(4)当時,IとJは,いずれも岐阜県警K警察署の警部補であり(以下一括して本件警察官らという),Lは,同署の巡査部長だった。
④ M(昭和59年3月25日生)は,N中学を卒業後,後示(2)ないし(5)当時,O高校の1年生だった者である。Mは,8月末頃下記⑥のEクラブに入会し,クラブ内では「P」のあだ名で呼ばれていた(上記及び前示①のあだ名につき甲59,60,70,130)。
⑤ Qは,N中学を卒業後,後示(2)(3)当時,会社勤めをしていた者であり,同中学ではMの1年先輩だった。
⑥ R協議会(通称Eクラブ。以下本件クラブという)は,子供会活動の援助等のボランティア活動を行なっている団体であり,瑞浪市a町b番地のc公園区民会館2階に,クラブ室があった(以下それぞれ本件会館,本件クラブ室という)。
⑦ S,T,U,V,W及びXは,後示(2)(3)当時,本件クラブに入会していた高校生らであり,Sは,Yジュニアリーダーの会長だった。また,Tは,N中学でMと同級生であり,Uは,MやQ,Tと友人だった(甲48,49,69)。
(2) Mの捜査機関に対する供述等(ただし,下記②の供述の真偽及び,12月15日前にMが下記(5)と同趣旨の供述をしていたかなどにつき争いがある)
① Mは,11月8日,ナイフ(以下本件ナイフという)を使ってQから3000円を強取する強盗事件(以下別件事件ないし別件犯行という)を起こし,11月29日逮捕された。
② 同事件の捜査中,Mは,12月1日から15日にかけて別紙調書等目録記載のとおり,原告に現金3000円を喝取され,更に金員を恐喝されそうになった旨を供述をした(ただし,同目録4,5は,岐阜県K警察署長宛の被害届,上申書で,同8は,下記(3)の事件の参考人としての供述である。なお,同目録では,下記(3)の本件事実1,2に直接関連する以外の調書等の記載内容を原則として省略し,同目録以外の部分は,必要に応じて別個に記載する。また,各記載の段落冒頭の括弧付番号は,各調書の項数を表わす《なお,同目録8掲記の調書〔甲51〕には,『3項』が2カ所存在するので,後のものを4項とし,以下順次1項ずつ番号を繰り下げて表示する》。
 以下,別紙調書等目録記載の供述等を一括して本件供述等といい,個別に同記載の番号ないし調書の項数で本件供述1とか,本件供述1(2)などという。また,同目録掲記以外の各調書の記載内容を含め同様に表示することがある。更に,これら供述を記載した調書自体を,同様に本件調書1などと表示し,上記被害届,上申書についても,本件被害届,本件上申書という)。
(3) 原告に対する少年事件(ただし,下記①②③の被疑事実・非行事実の存否や,下記①②の逮捕,勾留延長請求,裁判所送致の違法性に争いがある)
① 原告は,12月1日,身体等の捜索差押を受けた後,同月6日,別紙記載の恐喝・同未遂の被疑事実(以下本件事実1という)で逮捕されて,翌7日勾留され,同月16日勾留が延長されて(以下それぞれ本件逮捕,本件勾留,本件延長という),更に同月24日岐阜家庭裁判所から観護措置を受けて,平成12年1月11日まで少年鑑別所に収容された(勾留,同延長及び収容の終期等につき甲80,84,130)。
② この間,原告は,12月7日,本件事実1に基づき岐阜地方検察庁H支部に送致され,更に同一事実に基づき,同月24日,岐阜地方検察庁Z検事によって岐阜家庭裁判所に送致された(以下本件家裁送致という)。
③ 岐阜家庭裁判所は,原告の少年事件(平成11年(少)第2046号恐喝・恐喝未遂保護事件。以下本件保護事件といい,上記①②の逮捕勾留等と一括して単に本件事件という)につき,平成12年3月31日,別紙記載の恐喝・同未遂の非行事実を認定したうえで(以下本件事実2といい,本件事実1と一括して単に本件事実という。また,これら事実中,(a)原告からMの携帯電話へとかけられた3万円を要求する電話を本件脅迫電話といい,(b)11月10日又はその頃の現金3000円の喝取を本件喝取という),原告を保護処分に付さない旨の決定をした(以下本件決定という)。
④ 本件決定に対し,原告は,抗告及び再抗告を申し立てたが,いずれも不処分決定に対しては不服申立できないとの理由で却下された。
(4) G副検事及び本件警察官らの捜査等(ただし,その違法性に争いがある)
① G副検事は,(a)本件事件で原告の検察官取調を担当し,(b)家庭裁判所に請求書と意見書(甲84,86)を提出して本件延長を請求し,(c)Z検事に家裁送致相当の意見を提出したほか(以下それぞれ本件請求書,本件意見書,本件延長請求,本件意見提出という),(d)12月15日,別件事件でMを取り調べ,本件調書9を録取した(以下12月15日M取調という)。
② 本件警察官らは,(a)本件事件で原告の警察官取調を担当し,(b)本件逮捕の手続に関与したが,(c)12月10日と14日の甲警察署での取調はJ警部補が,(d)12月3日付捜査報告書(甲33)の作成はI警部補が行なった(以下それぞれ12月10日取調・14日取調,12月3日報告書という)。
③ 一方,別件事件のMの警察官取調は,L巡査部長が担当した。
(5) 家庭裁判所におけるMの供述(ただし,その真偽に争いがある)
Mは,(a)12月16日岐阜家庭裁判所に送致され,同月28日,別件事件の審判期日において,本件供述等のうち,11月5日午後6時15分頃,本件脅迫電話を受けた旨の部分は(以下本件電話供述といい,同電話の時期を本件架電時期という),日にち等が間違っており,実際は10月中だった旨を供述し,(b)平成12年1月11日,本件保護事件の証人尋問では,10月の初めかそこら,ないし同月10日くらいだった旨を述べた(甲130,189)。
(6) 別件民事訴訟及び本訴におけるMの供述等
  Mは,(a)原告から提起された損害賠償請求訴訟において(当庁平成13年(ワ)第54号。以下別件民事訴訟という),本件架電時期は10月13日が正しいと思われる旨を供述等したが,主張に一貫性がないなどと判断されて賠償を命じられ,(b)平成16年10月12日,本訴の証人尋問では,同架電時期は,やはり11月5日だった旨を証言した(上記(a)につき甲192)。
2 争点
本件の主な争点は,原告主張の不法行為の成否(下記(1)①ないし③。請求原因)であり,(a)本件事実の存否と本件供述等の真偽,(b)G副検事と本件警察官らの捜査,本件逮捕,本件延長請求,本件意見提出の違法有責性が争いになっている。
(1) 原告の主張
① Mは,前示1(2)のとおり本件供述等をしたが,原告が同人を脅迫したり,金員を喝取等した事実はなく,同供述等は,いずれも虚偽の内容であった。
② しかるに,本件警察官らは,本件供述等を軽信し,以下のとおり,違法に本件逮捕をなし(下記ア),更に違法な取調を行なったが(同イ),これは,少年法,刑事訴訟法,犯罪捜査規範(国家公安委員会規則2号)に違反する違法な公権力の行使である。
ア 12月6日,本件警察官らがした本件逮捕は,違法なものであった。
a すなわち,同警察官らは,目撃証言や物的証拠がないにもかかわらず,共謀のうえ,高校生の原告を逮捕して締め上げれば,簡単に自白すると見込んで,本件供述等に基づき,一方的に原告を逮捕をしたものであって,捜査規範4条,166条で禁止された見込み捜査に当たる。
b 特に,I警部補は,逮捕の必要性に関し12月3日報告書に下記記載をして,違法に逮捕状を請求したが,原告の本件ナイフの所持所有についてはなんら証拠がなく,勝手な思込みによるものであった。
 (ア) 本件ナイフは,原告の所有物である。
(イ) 本件ナイフを証拠隠滅している事実がある。
 (ウ) 本件ナイフについて銃砲刀剣類等取締法違反の事実がある。
イ また,J警部補のした12月10日取調と同月14日取調も,以下のとおり違法なものであった。
a 当時,原告は,捜査規範202条ないし217条の特則が適用される少年であったにもかかわらず,J警部補は,12月10日取調の際,手錠を外しただけで,原告の両手を紐で縛り,これを腰に回し原告を座らせたパイプ椅子に括り付けて,取調を行なった。
b そのうえ,同警部補は,いくら原告が,やっていないと弁解しても,威圧感のある恐い言い方で,「やったんだろう」と一方的に決めつけて睨みつけ,そのため,原告が下を向くと,「なんで下を向いているんや」と注意し,顔を上げて同人を見ると,今度は,「なんで睨んでいるんや」と言って,原告を困惑と恐怖に陥れた。
c そして,同警部補は,午後1時半から5時まで長時間にわたり原告を上記姿勢で座らせて,ほとんど無言で睨みつけ,原告が同じ姿勢に耐え切れず身体をねじったりすると,「動くな」「誰が動いていいと言った」などと言って威圧したが,以上は,予断に基づき,少年である原告に極度の緊張と不安,身体的疲労を与えて,自白を強要しようとしたものであって,捜査規範166条,165条,204条に違反する。
d 更に,同警部補は,同日原告を取り調べたのに,供述調書や取調状況報告書を作成せず,捜査規範177条,182条の2に違反した。
e また,12月14日取調の際にも,J警部補は,午後1時半から2時半頃まで,「吐けば楽になる」「お前には良心はないのか」「親のところに早く帰りたくないのか」などと,悪口雑言に近い言葉を浴びせ,自白を強要しようとしたものであり,黙秘権の侵害であって,捜査規範166条,168条に違反する。
 なお,「良心はないのか」との発言は,上司のI警部補が12月16日付取調状況報告書(甲57)で明確に認めるところである。
f 本訴において,J警部補は,「彼の態度を見ておって,自分は,心情的にはやったんだと,犯行はしているというふうにとっていました」「取調の態度です」と証言しており,捜査規範4条,166条に反する,先入観に基づく見込み捜査だったことは明らかである。
③ また,以下のとおり,(a)G副検事と本件警察官らは,Mの本件電話供述が事実に反することを知りながら,不法に証拠を隠滅したうえ(下記イ),(b)更にG副検事において,必要な捜査を遂げないまま,内容虚偽の本件請求書と本件意見書を裁判所に提出して,本件延長の手続を受け,本件意見提出により,Z検事に本件家裁送致の手続をさせたものであり(同ウ,エ),いずれも違法な公権力の行使であって許されない。
ア すなわち,12月5日ないし8日頃,警察で自分の携帯電話の着信履歴(以下本件着信履歴という)を見せられたMは,本件脅迫電話に該当する1分間もの通話記録がなかったため,従前供述していた本件架電時期は間違っていた旨を,その頃本件警察官らに告げた(以下本件供述変更1という)。
イ しかるに,本件警察官ら及び,同人等から本件供述変更1の報告を受け,12月15日M取調時にも同変更を知ったG副検事は,本件事実1が崩れることを恐れ,共謀のうえ,「もう時間だから早くしろ」など言って,本件供述変更1を調書にせず,もって不作為による証拠隠滅を行なった。
ウ そして,G副検事は,前示1(3)①⑤のとおり12月16日,本件延長請求をして本件延長を得たが,これは,以下のとおり違法である。
a すなわち,G副検事は,上記ア,イのとおりMが本件供述変更1をなし,あるいは本件架電時期につき揺れ動いているのを知りながら,その事情を秘して,同人が信用性のある詳細な供述をしているなどと虚偽の事実を記載した本件請求書及び本件意見書を裁判所に提出した。
b また,同副検事には,検察官として警察官の捜査をチェックする義務があり,本件では,Mの非行歴や,本件喝取当日の本件クラブの例会の開催状況・会場の様子,本件喝取時の関係者の位置関係等を,原告が犯行をしていない可能性を含めて捜査しなければならなかったにもかかわらず,これを怠り,おざなりな捜査だけで本件延長を請求した。
c 実際には,同副検事は,12月16日の本件延長請求より以前には,(ア)Mにつき,11月30日付弁解録取書と本件調書7,9録取の際の取調,(イ)原告につき,12月7日付弁解録取書と同月15日付供述調書録取の際の取調をしただけであり,そのうち本件事実に関する捜査は,(a)前者では,本件供述9(5)の聴取のみで,(b)後者では,弁解録取書の「今読み聞かせてもらった事実は,まったく身に覚えがありません」などわずか調書2行分の取調をしたにすぎない。
エ 更に,G副検事は,前示1(3)②,(4)①(c)のとおり,本件意見提出に基づきZ検事に本件家裁送致の手続をさせたが,以下のとおり,検察官としての義務を怠る杜撰な捜査に基づくものであって,違法である。
a すなわち,G副検事は,上記ア,イのとおり,本件事実1の構成要件である脅迫行為の日付が崩れ,あるいはMの供述が揺れ動いているのを知りながら,その事情を秘して,本件家裁送致の手続をさせた。
b また,同副検事には,検察官として十分な捜査を行なう義務があり,上記ウbの事情のほか,(a)本件供述等の一貫性,(b)本件供述等にかかる黒色つばつき帽子及びカンゴールの帽子(以下それぞれ本件帽子A’,B’という)や,従前の本件ナイフの所在についても慎重に捜査を行なう義務があったのに,15歳のMが年上の原告を陥れるはずがないなどという典型的な先入観に基づき,原告を犯人と決めつけ,その弁解を真面目に吟味せず,本件意見提出をしたものである。
c 実際には,同副検事が適正な捜査を行なっていれば,(ア)本件供述等に一貫性が欠如していることのほか,(イ)本件喝取があったとされる11月10日当時,上記b(a)の各帽子が原告の手元になく,(ウ)別件事件以前に,本件クラブ室内に本件ナイフが実在した点につき目撃証人がいないことなども容易に判明したはずであって,G副検事の行為は,検察官として通常行なうべき捜査を怠る違法なものというべきである。
④ G副検事及び本件警察官らの以上の不法行為によって,原告は,前示1(3)のとおり,違法に逮捕勾留等されて長期間身柄を拘束されたうえ,虚偽の自白を強要されそうになり,筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を味わったが,その慰謝料は,500万円が相当である。また,本訴の弁護士費用中50万円は,上記不法行為による損害というべきである。
⑤ よって,原告は被告らに対し,国家賠償法1条1項による損害賠償として合計550万円及び訴状送達の翌日以降の遅延損害金の連帯支払を求める。
⑥ 本件供述等が虚偽であるのは,本件供述変更1により本件架電時期が一貫性を失っている点のほか,前示1(5)(6)のとおり,(a)家裁でも,同供述変更と同様の供述をしながら(以下本件脅迫電話に関する同供述と本件供述等との差異を,本件供述変更2という),(b)本訴では,11月5日と更に変更するなど(以下本件脅迫電話に関する同供述と前示1(5)の供述との差異を,本 件供述変更3という),供述内容が転々としている点からも明らかである。
⑦ 後示(2)③,同(3)②ないし⑤は,いずれも否認ないし争う。
ア 特に,被告らは,原告がTに証言を依頼した点を口裏合わせと主張しているが,実際には,J警部補らは,12月9日午後5時から5,6時間にわたってTを取り調べ,言うとおりにならないと,大声を出したり,机を叩いたり,おまえも罪になるなどと脅して,口裏合わせした旨の調書(甲48)を作成したものであって,原告の供述に虚偽はない。
イ また,本件クラブでは,メンバーをあだ名で呼び合っており,原告は,Mの本名をすぐに思い出せなかったにすぎないし,同クラブでは携帯電話番号を記載した名簿が配布されていたが,それだけで,全員の電話番号を知っているといえるか疑問である。
ウ 更に,本件喝取時に原告が被っていたとMが供述する本件帽子A’は,実際には11月13日名古屋で購入したものであって,本件喝取があったとされる同月10日当時,原告の手元には存在しなかった。
(2) 被告Aの主張
① 前示(1)①のうち,本件供述等の内容が虚偽であるとの点は否認し,同④の損害も否認する。
② 前示(1)③のうち,平成17年3月8日口頭弁論期日において新たに追加された新主張は,下記アのとおり,時機に遅れた攻撃方法であって許されない。
 前示(1)③のその余の部分のうち,同冒頭の主張は争い,同アないしエは,下記イ,ウのとおり争う。
ア 本訴では,弁論準備手続が実施され,平成16年1月29日の弁論準備期日に原告の主張及び争点が確認されて,同年7月5日同手続は終結し た。
 したがって,本件ナイフの所在や本件クラブの例会の開催状況についての捜査,あるいは原告のアリバイ捜査を尽くさなかった過失など,上記の後原告が追加した過失に関する主張は,時機に遅れた攻撃方法に当たるが,これらは,原告の重大な過失に基づくもので,かつ訴訟を遅延させる  ものであるから,却下されるべきである。
イ 前示(1)③ア,イの事実は否認する。Mが,別件事件の家裁送致前に,本件電話供述を変更した事実はなく,そのことは,同人の証言からも裏付けられている。
ウ 前示(1)③ウ,エのうち,本件請求書及び本件意見書の提出を含む本件延長請求と,本件家裁送致の事実は認め,法的主張は,下記③のとおり争う。
③ G副検事の本件延長請求と本件意見提出,及びこれに関連する捜査にはなんら違法性はなく,不法行為は成立しない。
ア 本件延長請求について
a 刑訴法208条2項は,勾留延長の要件を,やむを得ない事由があると認めるときと定めており,勾留延長請求が国賠法上違法となるのは,同事由に関する検察官の判断に明白な過誤があった場合に限られるが,本件におけるG副検事の判断は,正当であって,明白な過誤はない。
b すなわち,本件事件では,原告が黙秘しており,真実を把握し難い状況にあったため,G副検事は,更に原告の取調が必要であり,また本件クラブの会員名簿の配布状況の確認や,ワン切りの件で原告がMの携帯電話に電話をかけた事実に関しSからの事情聴取等の捜査を遂げる必要性があると考え,本件延長請求をなし,本件延長の決定を受けたものであって,その後実際に上記捜査が実施されているのであるから,本件延長請求には,なんらの違法性もない。
c 原告は,G副検事が本件供述変更1を知っていた旨を主張するが,上記②イのとおり,Mが別件事件の家裁送致前に本件電話供述を変更した事実はなく,同副検事がこれを認識していた事実もない。
 仮に,本件架電時期につき本件電話供述と異なる供述が得られたとしても,本件喝取の嫌疑はなんら否定されるものではなく,その時期を,「10月初旬から11月初旬頃」と広く訂正等したうえ,勾留延長を請求することになるだけであって,原告の言い分は,主張自体失当である。
イ 本件家裁送致について
a 一般に,検察官の公訴提起は,検察官が現に収集した証拠資料及び,通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が存在していれば,国賠法上の違法性を欠くものと解されている。
 一方,少年法42条と45条5号の規定の仕方の差異等からすれば,同法42条前段に基づく事件の家裁送致において必要な犯罪の嫌疑は,必ずしも公訴提起と同程度のものが要求されるわけではなく,少なくとも公訴提起に必要な嫌疑を上回るものではないことは明らかである。
 したがって,家裁送致が国賠法上違法となるのは,検察官が,事案の性質上当然になすべき捜査を故意又は過失により怠り,その結果,収集した資料の証拠評価を誤る等して,経験則上,到底首肯し得ない程度の不合理な心証を形成し,客観的に犯罪の嫌疑が認められないにもかかわらず,家裁送致を行なった場合に限られると解するのが相当であるが,本件におけるG副検事の判断に上記のような不合理性はない。
b すなわち,G副検事は,Mの本件供述等が一貫しており,内容も具体的かつ詳細であること,15歳の少年が嘘をつき,18歳と年上の者を陥れるとは通常考えられないことなどから,本件供述等に信用性を認めたものである。
 一方,本件事件を否認する原告の供述は,(a)当初,Mの携帯電話の番号は知らない,同人に電話したこともない旨供述していたのが,後に番号を知っていたと変遷させ,また実際には,MがSにワン切りのいたずらをした件で,Mの携帯電話に苦情の電話を入れており,虚偽の供述をしていたこと,(b)この際,「いいかげんにしろ,うっとおしい,やめろ」と叱りつけるように言っており,Mを恫喝し得る立場にあったこと,(c)原告は,原告宅で発見された本件帽子B’は,Mからもらったもので,Tがこれを見ていた旨供述していたが,Tの取調の結果,原告が口裏合わせを依頼し,虚偽の供述をさせた疑いがあることなどから信用性がないと判断したものである。
c なお,原告の携帯電話及び自宅の電話の発信履歴には(以下一括して本件発信履歴といい,個別に本件携帯発信履歴とか,本件自宅発信履歴という),本件脅迫電話に対応する記録が存在しないが,G副検事は,公衆電話や他人の携帯電話等から本件脅迫電話をかけた可能性が否定できないと判断し,犯罪の嫌疑ありと認めたものである。
 また,Mに本件供述変更1の事実はなく,仮にこれがあっても本件喝取が否定されるものでないことは,前示アcのとおりであり,以上は,経験則に則った判断であって,家裁送致の必要性を認めたG副検事の本件意見提出が不合理といえないことは明らかである。
d これに対し,原告は,Mの非行歴,本件クラブの例会の開催状況,原告のアリバイの有無,本件ナイフや本件帽子A’,B’の所在等の捜査を怠った違法を主張するが,前示a冒頭の検察官が通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た資料とは,(a)家裁送致時に検察官が現に収集した証拠資料に照らし,その存在を予想することが可能な証拠資料であって,(b)通常の検察官において家裁送致の可否を決定するに当たり,当該証拠資料が必要不可欠と考えられ,かつ,(c)当該証拠資料について捜査が可能だったことを要するものに限られると考えるべきである。
 本件では,上記b,cのとおり,家裁送致に必要な客観的嫌疑が認められることは,明らかであって,G副検事に更に捜査を尽くすべき義務はなかった。そのことは,家庭裁判所によって,非行事実ありの判断が 示され,本件決定が下されたことにより裏付けられている。
e 原告主張の各点を個別にみても,まず本件ナイフは,原告宅の捜索で発見に至らず,原告からの聴取でも知らないとの返答であり,それ以上所在調査の手掛かりがなかった。
 次に,原告は,Mの非行歴を問題にしているが,供述の信用性は,まず供述が出た契機,供述内容の流れが自然であるか,客観的裏付けがあるかといった点から検討されるべきものであって,供述者の非行歴の有無・内容とは直接関わりがない。また,非行歴の有無が少年ら間の力関係に必ずしも反映されるとも限らないから,Mの非行歴は,上記d(b)(c)の証拠資料に該当しない。
 更に,本件喝取の行なわれた11月10日には,本件クラブの例会が開催されていたが,一般に捜査機関は,申立のない限りアリバイを認識できるものではなく,アリバイ捜査の欠如が違法となるのは,被疑者から一義的に明白なアリバイ主張があった場合に限られるところ,本件家裁送致前に原告からその主張はなく,これを捜査する必要性もなかった。
(3) 被告Bの主張
① 前示(1)①のうち,本件供述等の内容が虚偽であるとの点は否認し,同④の損害も否認する。本件供述等には,下記②ないし④のとおり信用性がある。
②ア 前示(1)②冒頭の主張は争い,同アも否認ないし争う。
   本件供述等は,具体的かつ詳細で,迫真性に富んでおり,本件逮捕は,同供述等の信憑性等を十分吟味して行なったものである。なお,本件事実は目撃者の裏付けがなく,本件ナイフも未発見であるが,原告の恐喝自体,人前で行なわれておらず,目撃者の不在は当然であり,本件ナイフも容易に隠蔽可能であって,本件逮捕の必要性が否定されるものではない。
イ 前示(1)②イ冒頭の主張も争う。J警部補は,取調を通じ,原告を叱り つけたりしたことは一度もなく,情理を尽くした取調をしたものである。
a 同aないしdの事実は否認し,法的主張は争う。
12月10日取調は,午後1時20分頃から午後4時10分頃までの約2時間50分であり,J警部補は,少年だった原告の心情に配慮した取調を行なったが,原告は,捜査当初から事実を否認するばかりか,明らかに知っている事実まで否認することから,その一つ一つについて説明を求めると,その間はむしろ原告が同警部補を無言で睨みつけ,「僕はやっていない」と一言発した後は,必死に供述を拒んでいる様子で,質問にも反応せず,ひたすら無言で俯いたままの姿勢をとり続け,真実を語るよう説得を続けたにもかかわらず,これに答えることもなく,結局当日は,供述調書を作成できなかった。
この間,双方無言で向き合う時間も多少はあったが,それはもっぱら原告の態度に起因するものであり,J警部補に,緊張や苦痛を与えて自白を強要する意図はなく,捜査規範に違反する行為もなかった。
b 同eは否認ないし争い,同fの評価も争う。
12月14日取調は,午後1時30分から午後4時45分頃までの約3時間15分であったが,この日も原告は,事実関係を否定しており,「Mが強盗事件を起こしたことを知ったのは12月1日の自宅の捜索の機会である。」とだけ供述した。しかし,J警部補は,裏付捜査で,11月中旬頃,原告が別件事件のことを知っていた事実をつかんでいた。    また,Mから本件帽子B’を喝取した事実に関し,原告は,12月13日の取調の際,同帽子をもらったことはTが証明してくれる旨を供述したが,これも友人に口裏合わせを依頼し,同人が更に別の関係者等に無根の事実を流布していた経過を既に把握していた。
 このように,原告が明らかに虚偽の事実をあたかも真実のごとく供述するため,J警部補は原告に対し,「良心というものがあるだろう。」「自分に正直になれ。」と諭したり,必死に供述を拒んでいる原告に「そん なに頑張るな。」と言って,真実の供述を促した事実はあるが,これは,原告主張の悪口雑言に当たらないばかりか,取調が違法だとか,自白の強要などの誹りを受けるいわれはまったくない。
c そのほか,本訴において,原告は,手錠をかけられたまま取り調べられたとか,逮捕事実を告知されなかったなどとも供述するが,いずれも事実に反し,主張自体,荒唐無稽といわざるを得ない。
③ 前示(1)③冒頭の主張は争い,同ア,イの事実はいずれも否認する。
ア 別件事件の取調において,Mは,本件脅迫電話のあった日を具体的に 供述し,L巡査部長もカレンダーや学校行事等からMの記憶を辿って,11月5日に同電話があったと特定した。
イ 一方,(a)Mの携帯電話本体に記録された着信履歴は,保存件数に限りがあり,約1か月前の11月5日の着信履歴は,保存されておらず,確認することができなかった。なお,(b)携帯電話の着信履歴は,システムの性質上電話会社にも保存されておらず,原告主張の本体着信履歴なるものは存在しないし,Mにこれを示した事実もない。また,(c)原告の携帯電話や自宅の電話についても,電話会社保存の本件発信履歴の裏付捜査をしたが,11月5日当時に,本件脅迫電話に対応する記録はなかった。
ウ そこで,L巡査部長はMに対し,本件架電時期が間違いではないかなどと,別の日に本体脅迫電話があった可能性について何度も確認したが,Mは,「おかしいな,別の日だったのだろうか。」と言いながらも,「自分の記憶から11月5日に間違いない。」と説明し,同人から本件架電時期を訂正して欲しいとの申出は一度もなく,結局本件供述変更1の事実は,なかったのであって,本件警察官らが,これを隠蔽した事実もない。
エ Mが本件電話供述を変更したのは,前示1(5)のとおり,家庭裁判所の審判期日における本件供述変更2以降であるが,そもそも本件着信履歴なる証拠自体が存在しないにもかかわらず,当時少年で,経験のないMに対し,原告の弁護人から,ありもしない着信履歴をもって,本件脅迫電話をかけた事実が存在しないと執拗に追求されれば,動揺して記憶が混乱することは明らかであり,供述の変遷があっても当然である。
オ Mは,本訴において,前示1(6)(b)のとおり,本件脅迫電話があったのは11月5日である,警察で言ったことは今でもそのとおりであると明確に証言し,最初の供述に戻っており,現時点で本件供述等に変遷はない。
④ 本件供述等の信用性は,以上のほか,(a)Mは,原告より年下の気弱な性格であって,本件クラブのOBで,右翼関係者と知合いの原告に強い恐怖心を抱いており,これを陥れる危険はないこと,(b)高価な本件帽子B’を,Mが無償で原告に譲渡するとは考えられないこと,(c)本件決定においても,本件事実2が明確に認定されていることなどからも明らかである。
⑤ 仮に,本件供述等が虚偽であって,本件事実を認定することができないとしても,当時本件警察官らにおいて,Mの供述を疑う材料はまったくなく,当時の職務行為基準に則って捜査した結果であり,本件警察官らに不法行為は成立しない。
第3 争点に対する判断
1 不処分決定の基礎となった捜査等の違法を理由とする賠償請求の可否
① 本件保護事件においては,前示第2の1(3)③のとおり,岐阜家庭裁判所から本件決定が下され,その理由中で本件事実を認定したうえ,原告を保護処分に付さない旨のいわゆる不処分決定がなされている。
 そこで,一般に,かかる非行事実を認定した不処分決定の基礎となった捜査機関の捜査等の違法を理由に,非行事実の不存在を前提とする損害賠償を請求することが法的に可能であるか一応問題となる。
② これを検討するに,少年法上,いわゆる不処分決定に対しては,理由中で非行事実が認定された場合であっても,抗告は許されないものと解されているが(最判昭和60年5月14日・判例解説登載),これは,主文に着目する限り,かかる決定も少年にとって不利益な裁判に当たらず,理由中の判断は,格別の法的効力を有するものではないとの解釈に基づくものである。
 したがって,本件決定の法的効力もまた,その限度に止まり,同理由中でなされた本件事実の認定に,後続の損害賠償訴訟に対する法的拘束力等が生ずるものではなく,原告が同決定の基礎となった捜査等の違法性を主張して,被告らに損害賠償を請求することに格別の法的制約はないというべきである。
③ 以上を前提に,次項以下で原告主張の不法行為の成否について判断する。
2 判断の前提となる事実
(a)前示第2の1(1)(2)(5)(6)の各事実,(b)甲12ないし15,18ないし25,37ないし40,44,49,50,64,66ないし71,73,77,96,127ないし129,131の2,133,136,145,149,154,155,159,165ないし169,192,(c)原告本人尋問の結果,(d)後示採用できない部分を除く甲26,29,30,51,53,130,150の1ないし3,170,189ないし190,証人Mの証言によれば,原告及びMの経歴,別件事件の経過等について,以下の事実が認められる。
(1) 原告(昭和56年8月24日生)は,C中学を卒業後,D高校普通科に進学し,本件当時,同校の3年生だった者である。原告は,両親共稼ぎのサラリーマン家庭に育ち,土,日曜日に高速道路の売店のアルバイトで小遣い月1,2万円を稼ぎ,カラオケ代等に当てていた。原告は,中学時代,副室長や体育祭の団リーダー等を務め,本件当時も上記高校で級長をしており,本件以前に,犯罪や無断外泊など格別の非行歴は見当たらない。
(2) M(昭和59年3月25日生)は,N中学を卒業し,本件当時,O高校の1年生だった者である。Mは,父親が働くサラリーマン家庭に育ったが,中学時代,友人と近くの温泉に忍び込む事件を起こしたり,後示(6)のQらと無断で他人の車を動かす,いわゆる泥棒運転の前歴があった。また,Mは,平成11年の夏休み頃,宗教団体戊に入会して,信者を勧誘するなどし,両親の制止に対しても,「親も大人も悪い。」などと言って,その監督に服さなくなっており,しばしば外泊や高校の早退を繰り返していた(なお,別件事件の身上調書の写である甲167からかなりの部分が削除されているため,Mの前歴等については,以上より詳細に認定することができない)。
(3) 本件クラブは,子供会活動の援助等のボランティア活動を行なう団体である。本件当時,同クラブには会員が24名いて,高校1,2年生を中心に活動しており,演劇の準備で,毎週月,水,金曜日の放課後に例会が開かれていた。同クラブでは,メンバーは,互いに決まったあだ名で呼び合うことになっており,原告とMのあだ名は,それぞれ「F」と「P」であった。
  一方,同クラブでは,メンバーの本名とあだ名,電話番号を記載した連絡表が作成されており,平成11年度分は,9月中旬から10月初旬頃に作成され,例会の際に各クラブ員に順次配布されていた。
(4) 原告は,小学校以来,本件クラブの経験があり,高校進学後,部活動で一時離れていたが,平成10年頃から再び同クラブに関与するようになった。本件当時,原告の立場は,OBだったが,例会には頻繁に参加していた(甲69)。
他方,Mは,同級生のTらとともに,8月末頃本件クラブに入会し,原告と知り合った。Mも例会にはよく出席していたが,本件会館の電話を無料で使うのが大きな目的であり(甲69,190),これで私用電話をしたり,例会中に飲食したりしたため,原告や他のOBからしばしば叱責されていた。また,Mは,11月頃学校を早退してクラブ室で寝ていたところを,偶然授業が早く終了し,用事で例会に出られないと書き置きするため,午後3時頃本件クラブ室を訪れた原告から,同室はクラブ活動の場であり,学校をサボって居るような所ではないと注意されたこともあった(甲129)。
(5) ところで,本件クラブ員の間には,クラブ活動以外にも交友があり,10月9日(甲69・3項,甲136),原告の自宅で焼肉パーティーが開かれて,Yジュニアの会長でもあったSや他のクラブ員,あるいはOB等が参加し, 一部の者は,原告宅に宿泊もした。
他方,Sから上記パーティーの開催を聞いたMは,これに参加したがっていたが,結局同女に断られ参加できなかった(甲69,甲130・73項)。すると,Mは,電話をかけて相手が出る直前に切ってしまう,いわゆるワン切りのいたずらしようと考え,Sが原告宅にいるのを知りながら,同日午後11時過ぎ頃から,同女の携帯電話に頻繁にワン切りを繰り返した。
そのため,これに怒った原告は,Sから相手と推測される者の電話番号を聞くと,番号非通知で,自宅の電話から同電話にかけ,「おい,おまえ誰や。いいかげんにしろ。うっとおしい。やめろ。」と叱りつけて,ワン切りを止めさせた。この際,原告は,事前に相手がMだと認識しておらず,後で,相手が 「P」,すなわちMだと聞かされたが,その認識は,かならずしもMという,同人の姓名とは強く結び付いていなかった。
これに対し,Mも,原告の上記叱責を聞いて不満を抱き,後日Sに電話の主を尋ねたが,相手が誰かを聞くと,「むかつく奴やで。」と,原告に対し不服な様子を示していた(甲69)。
(6) Qは,Mと同じN中学を卒業後,本件当時就職していた者である。Qは,身長約175センチメートル,太りぎみで,Mより大柄な体格であり,中学時代は,Mの一年先輩だったが,養護学級に通っていた。
その当時,Mは,養護学級に通っている同人を疎んじていたが,前示(2)のとおり平成11年の夏休み頃,戊に入ると,信者集めにQを勧誘して入会させたり,一緒にゲームセンター等で遊んだりしていた。
ところが,Mは,8月13日頃から,「気にいらん」などとQに因縁を付け初め,ゲームセンターで遊ぶ金や飲食代等を恐喝するようになり,更に,「昔のことを言い触らすぞ。家を放火するぞ。」などとQの中学時代の非行を周囲にふれ回わり,同人や家族に危害を加える旨述べて脅迫し,8月13日頃から下記(7)までの間に約9回にわたって,合計約1万2000円を喝取した。このため,Qは,凶暴な男として,Mを避けるようになっていった。
(7) しかるところ,11月8日,Uからの呼出しで遊びに出かけたQは,途中JR瑞浪駅でUのほか,同人に付いてきたMと出会って,多治見市内で女の子らと遊んだ後,午後9時頃3人でJR瑞浪駅に戻った。その後,Uは,用事があると言って,本件会館で落ち合う約束をして一旦2人と別れ,MとQだけが,午後9時30分頃,同会館に到着して本件クラブ室に入った。
すると,最初Mは,同日の日中会った相馬某女に携帯から電話をかけて,「好きやよ」などとしゃべったりし,更には,その電話で,Qに相手の女の子と話をさせようとしたりしたが,15分ほどで電話が終わると,本件クラブ室内の鉛筆を手に取って,「3000円出せ。」とQを怒鳴りつけた。これに対し,同人が,「どうして。」などと口答えすると,Mは,いきなり全長十数センチメートルの折畳み式の本件ナイフを取り出し,相手の顔前で刃を出して見せた後,背後に回り込み,Qの上着を左手でつかみながら,同ナイフを20回あまりも同人の首の後などに当てて,「3000円出せ。昔のことを言い触らすぞ。」などと,上記(6)と類似の趣旨を述べて脅迫した。
そのため,恐怖で抵抗できなくなったQが財布を差し出すと,Mは,在中の現金1万円近くの中から3000円を抜き取り,本件会館を出て行った。
(8) その後11月12日,Qが警察に被害を申告し,Mは,11月29日,強盗の被疑事実で逮捕された。(a)逮捕直後,Mは,「そんなナイフはない。恐喝なんて知らん。」などと別件犯行を否認し,(b)同日犯行を自白した後も,本件ナイフは,本件クラブのOBで名前を知らない金髪の先輩とか,19歳の男の人とかに渡したなどと供述していたが,(c)12月1日以降,原告から恐喝を受けており,それが別件犯行の要因となっている,本件ナイフも原告にとられたとの旨を供述し始め,前示第2の1(2)②のとおり本件供述等を行なった。
(9) 一方,12月1日実施の捜索差押により,原告の自室から本件帽子B’が発見された。同帽子は,ブランド名カンゴールの黒色帽子で,もとMの長兄が所有していたものであるが,実際には同人は使っておらず,Mが使用していた。これに対し,Mは,次兄の所有と思っており,Uには,同人にもらった旨を述べていた。本件帽子B’は,少なくとも原告とMの間で授受される1週間前からクラブ室に放置されており(本件供述8(4),甲95),その間,Mがこれを取りに行ったりした形跡はない。
(10) Mは,(a)12月16日岐阜家庭裁判所に送致され,同月28日,別件事件の審判期日において,裁判官及び自分の付添人の質問に対し,本件供述等中,本件電話供述は,日にち等が間違っており,実際は10月中だった旨を供述し,(b)平成12年1月11日,本件保護事件の証人尋問の際,原告の付添人等の審問に対し,本件架電時期は10月の初めかそこら,ないし同月10日くらいだった旨を供述した。更に,Mは,(c)原告から提起された別件民事訴訟では,本件架電時期は10月13日が正しいと思われる旨を主張等したが,裁判所から,主張に一貫性がないなどと判断されて,賠償を命じられた。
その後,Mは,平成16年10月12日,本訴の証人尋問において,本件架電時期は11月5日である旨証言し,上記(a)ないし(c)の供述等を撤回した。
3 本件事実の存否及び本件供述等の信用性
(1) 独立した客観的証拠の存否等
① まず,本件供述等の内容から独立した客観的証拠中に,同供述等の真偽や本件事実の存否を確定的に識別せしめるに足りる資料が存在するか否かを検討する。本件供述等に類する供述証拠の信用性の判断に慎重さが求められるのはいうまでもないことであって,上記のような独立した客観的証拠が存在するのであれば,これを最優先に検討するのが妥当だからである。
この点について,(ア)被告らは,本件帽子B’が原告宅から発見されたことが,原告によるMの恐喝を裏付ける客観的証拠に当たる旨を主張している。
他方,前示第2の2(1)⑦ウ及び甲192のとおり,原告は,本訴及び別件民事訴訟において,(イ)本件喝取当時,本件帽子A’は,原告の手元に存在せず,(ウ)原告は,当日の例会には私服で参加していたから,これらの事実が,当時,原告がD高校の制服姿であり,またMから取り上げた本件ナイフを本件帽子Aの中に放り投げて入れていた旨をいう本件供述等の虚偽性を示す決定的物証である旨を主張している。
② そこで,まず上記①(ア)の点から検討するに,Mは,本件供述2,7ないし9において,11月19日に本件クラブ室内で原告に本件帽子B’を喝取されたと供述しており,この供述に関し,甲1,86などにも,上記①(ア)と同趣旨の捜査機関の見解が記載されている。
しかしながら,(a)本件帽子B’は,本件事実の被害品ではなく,本件喝取と同一機会に原告とMとの間で授受された物品等でもないのであって,論理的に,その喝取が本件事実を直接裏付ける関係にあるとは認め難い。
更に,(b)原告の入手以前の本件帽子B’の管理状況は,前示2(9)認定のとおりであって,Mや兄らがこれを大切に使用していたとは認められず,かえってMの本件供述8(4),9(3)を精査しても,1週間もクラブ室に放置していたのに,そのことが兄らとの間で問題となった形跡もないのである。
そうすると,新品のときの本件帽子B’に相応の財産的価値があったか否かはともかく,本件当時,Mがこれに高い主観的価値を認めていたかは疑問というべきであって,本件事実の認定上,本件帽子B’の存在を過大視することはできない。
したがって,そのほか,後示6(3)②ア判示の事情も考慮すれば,本件帽子B’をMから譲り受けた旨の原告の供述を直ちに排除することができないというべきであって,被告らの上記①(ア)の主張は採用できない。
③ 次に,前示①(イ)(ウ)の点についてみるに,以下のとおり,原告の主張を全面的に採用して,これらの点だけから,本件供述等が偽りであって,本件事実が存在しないと結論づけるのは困難といわなければならない。
すなわち,甲139によって,11月13日ロフト名古屋で販売されたと認められる黒色スウェットハット・番号12363が,問題の本件帽子A’と同一物であるとは,直ちに断定できず,原告が11月10日以前に同店ないし他所でこれを購入したことがないとはいえないし,甲71・7項によれば,原告の母親が,以前からかかる帽子が存在した旨を供述している事実も認められるから,原告に有利なその他の証拠を考慮しても,本件喝取時に本件帽子A’が原告の手元に不存在だった事実を客観的に確定することは困難である。
また,本件喝取時に原告が制服姿だったか否か等の点の評価について検討するに,甲137,138によれば,11月10日午後6時頃からの例会に出席したときの原告は,制服姿ではなかった可能性が高いと考えられるが,(a)原告が当時制服姿だった旨のMの供述部分が,本件供述等の決定的に重要な部分を構成しているとまではいえず,(b)この点が,Mの単純な記憶違い等にすぎない可能性も排除できないのであって,その場合,直ちに本件供述等が全体として虚偽であるという結論が導かれるものとはいえない。
そうすると,以上の事実だけから,本件供述等の真偽を判定することはできないというのが相当である。
④ 更に,前示①以外の客観的証拠の存否についても検討する。
a まず,本件事実にかかる被害金員は,捜査によっても原告宅等から発見されず,原告がこれを費消等したと認めるだけの客観的証拠も存在しない。
b また,本件喝取時,現金と一緒に原告に取られたとされる本件ナイフも,同様に捜査によっても発見には至っていない。一方,本件供述等によれば,本件ナイフは,もともと原告の所持品だったのが,本件クラブ室の小物入れないし棚の引出しの中に入れたか忘失するなどして,以前から同所に置いてあったものであるところ,たまたまMが見つけて,所有者を知らないまま持ち出し(本件供述2,6,9),原告からの脅迫に起因する別件犯行に使用したものの,その後,当該脅迫にかかる金員喝取の被害を受ける直前,偶然に,自転車のシールを剥がすため使用し手に持っていたのを,やはり偶然,加害者となるべき原告に発見されて取り上げられ,結局本来の所持人の手元に戻ったという極めて特異な経過を辿った物品ということになるが,Mの持出しより以前に本件ナイフが本件クラブ室内に存在した事実については(以下同事実を本件ナイフのクラブ室内所在という),(a)Mの供述以外には,これに沿う証拠が存在せず,(b)本件警察官ら及びL巡査部長などが,本件クラブ員からの事情聴取その他の方法で,この点に関する捜査を行なった形跡も存在しない。
c 更に,本件事実にかかる脅迫ないし本件喝取の現場に居合わせた目撃証人や,直後に被害の実情を聞いた関係者らも存在していない(M自身,Uら友人にも相談しなかった旨を供述している-本件供述8(1))。
d 他方,原告のアリバイについては,捜査時に格別の申出は出ていないが(その経過は,後示5(4)③ウ,エのようなものであったと認定できる),本件喝取があったとされる11月10日は,水曜日で,前示2(3)(4)のとおり本件クラブの例会が開かれ,演劇の練習等が行なわれたことが判明しており,原告の参加等も十分考えられる状況だったのであるから,通常なら,(ア)当日の例会の開催時間帯や,特にその終了時刻,(イ)同例会への原告の参加の有無,(ウ)本件会館入り口階段付近で行なわれたという本件喝取を聞知等可能な本件クラブ員の存否などが問題になるところであるが,この点についても上記b(b)と同様,捜査機関による格別の調査,確認が行なわれた形跡はなく,確たる客観的証拠の有無は,未確認のままとなっている。
e 以上によれば,本件供述等から独立した客観的事情によって,本件事実の有無を確定することは困難といわざるを得ず,その基礎となっているM供述内容の合理性や矛盾点の有無等を検討する方法によって判定するほかないというのが相当であるから,次項以下で,この点につき判断する。
(2) 本件供述等の信用性に関する判断
① まず,判断の前提となる本件供述変更1の存否から検討するに,以下のとおり,本件発信履歴とは別に本件携帯電話の着信内容を記録した着信履歴は存在せず,Mが捜査官に本件着信履歴を見せられた事実もないのであって,12月16日に別件事件で家裁送致される直前の段階において,(a)Mは,いまだ本件電話供述を変更するには至っておらず,明確に本件供述変更1をした事実は存在しなかったものの,(b)同人には,本件架電時期に関する供述内容・態度に著しい動揺が認められたというのが相当である。
ア すなわち,原告主張に沿うMの供述等をみるに,甲130,150の1ないし3,189,Mの当法廷での証言によれば,Mは,本訴や,下記a以下の少年事件,別件民事訴訟において,要旨以下のとおり,本件架電時期については,捜査当初から11月5日という明確な記憶な記憶があったわけではなく,警察官の誘導等によって本件電話供述をしたもので,捜査途中で自分の携帯電話の着信履歴を見て,本件電話供述の日にち等が間違いであることに気づき,その旨取調官に話したが,調書が作成されなかったとの趣旨を供述等し,また本件供述変更2についても,同様の経過でなしたものである旨を供述している事実が認められる。
a 12月28日・別件事件の審判期日
(a)本件脅迫電話を受けたのは,別件犯行よりも大分前のことである。(b)自分の記憶で,学校を早退した日のことだと思い込んでいた,(c)警察官に自分の携帯電話の着信履歴を調べてもらったところ,11月5日には,本件脅迫電話に該当する1分間もの通話がなかった。(d)もう一度,記憶を辿ったところ,昭和病院の駐車場で本件脅迫電話を受けたことを思い出した。
b 平成12年1月11日・本件保護事件の審判期日
(a)10月の初め,昭和病院にいたときに本件脅迫電話がかかってきた。(b)原告宅でパーティーがあったより少し後のことで,10月10日くらいである。(c)11月5日と供述していた頃は,明確な記憶がなく,学校を早退したときだったという記憶だけで供述してしまった。(d)警察に自分の携帯電話の着信履歴を調べてもらったところ,11月5日頃の午後5時から7時頃の通話は,30秒から1分間くらいしか話していないものばかりであり,これは違うということになった。(e)同日には本件脅迫電話に該当する着信記録がないことがはっきりしたのは,別件事件が家裁送致される前の12月8日頃のことであり,本件架電時期が間違っているのを思い出したのは,12月14日かそこらである。(f)同月15日の取調で警察官にその話をしたが,本件ナイフのことばかり話しており,「もう時間だから早くしろ。」と言われて,どうなったのか分からないまま家庭裁判所に送致されてしまった。
c 平成14年7月23日・別件民事訴訟の口頭弁論期日
(a)本件電話供述の11月5日という日にちに確信はなかったが,警察官に「もうここ出ていかなあかんで,早く日にち決めろ。」と言われ,最近Q君にたかった,大体その近辺やろと言われ,「あり得る日にちを今から言うで,その日にしとけ。」と脅されるというか,責められて,11月5日にしてしまった。(b)留置所にいるときが長く,警察官から上記のように迫られ,気が動転しており,昭和病院のことを思い出せずに,11月5日にしてしまった。(c)11月5日が間違いであることは,自分の携帯電話の履歴で明確に分かった。(d)その後,本件架電時期は10月の10日か11日ということを,家裁で供述している。(e)(警察では言っていませんか,警察でも後半に何か……との質問に対し)警察に後半言われている。
d 平成14年10月24日・別件民事訴訟の口頭弁論期日
(a)警察から,本当架電時期を今すぐ決めろと言われ,大体この日ごろかということできつく言ってきて,「じゃ,11月5日頃でいいな。」と言われたので11月5日にした。(b)逮捕から3日くらい後のことだが,お前も本当のこと言って早く出たいやろうと警察官に言われ,当時高校1年生で,留置場などに入るのは初めてで,本当に長く感じていたし,警察官に怒られるような感じで気が動転しており,ストーリー,話を作ったの言っていけと言われたので,これに従った。
e 平成15年1月23日・別件民事訴訟の口頭弁論期日
(a)警察で自分の携帯電話の着信履歴を見せてもらった。(b)11月5日に本当脅迫電話に該当する着信記録がないことがはっきりしたのは,12月8日頃ということでよい。(c)12月15日の取調で,そのことをしゃべったのは間違いない。多分L巡査部