hanrei @Wiki H17.12.22 広島地方裁判所呉支部 平成17年(わ)第116号,第132号 殺人,死体損壊,死体遺棄被告事件



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 飲酒の際の言い争いから被害者を殺害した上,遺体の一部を焼損させ,さらに,遺体を物置小屋に運び込んで遺棄した殺人,死体損壊,死体遺棄の事案につき,被告人に対し懲役18年の実刑判決を言い渡した事案


判       決
被告人         A
主       文
被告人を懲役18年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。

理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 かねてより知人であるB(当時56歳。)から一緒に飲食した際の飲食代金の支払を求められていたことなどにより,同人に対して憤まんの情を募らせていたところ,平成17年7月8日午後7時ころ,広島県豊田郡a町bc番地d所在の同人が経営していた元喫茶店「C」の店舗裏側空き地において,同人と飲酒中,同人からまたも前記飲食代金を支払うよう執拗に要求されたことから同人と口論となった上,さらに,被告人の結婚願望について,Bから「お前みたいなヤクザで仕事のない男が,何が結婚や。」などと馬鹿にされたため,日頃から募らせていた憤まんの情も相俟って激昂し,とっさに同人に対する殺意を抱き,そのころ,同所において,近くにあった消火器で同人の頭部を数回殴打し,次いで,前記店舗内に逃げ込んだ同人を追い掛け,前記店舗ホールの床上に仰向けに倒れた同人に対し,その頭部を近くにあった金づちで多数回殴打し,前記各暴行により頭部挫創の傷害を負わせ,よって間もなく,同所において,前記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させて殺害した
第2 同日午後8時20分ころ,前記店舗ホールにおいて,Bの死体に着衣の上から塗料を掛けて,所携のライターで前記着衣に着火し,前記死体の右側胸部,右側腹部及び右下腹部等を焼損し,もって死体を損壊した
第3 同月9日午前7時ころ,前記死体を前記店舗ホールから前記店舗便所内に運搬し,さらに,同月10日午後4時ころ,前記死体を前記便所から前記店舗裏側敷地に設置された倉庫内に運搬し,もって死体を遺棄したものである。
(累犯前科)
 被告人は,平成13年2月27日e地方裁判所f支部で傷害,常習累犯窃盗の各罪により懲役3年8月に処せられ,平成16年12月27日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(適用法令)
1 罰  条      
  判示第1の所為につき 刑法199条
  判示第2の所為につき 同法190条
  判示第3の所為につき 包括して同法190条
2 刑種の選択     判示第1の罪につき有期懲役刑を選択
3 累犯の加重     判示各罪につきいずれも同法56条1項,57条(判示第1の罪については,さらに14条2項)
4 併合罪の処理    同法45条前段,47条本文,10条,14条2項(最も重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
5 未決勾留日数の算入 同法21条
6 訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は,被告人とは日頃から飲食を共にするなどして親交のあった被害者が,平成17年7月ころから,被告人と以前一緒に飲食した際に被害者が支払った飲食代金の返済を被告人に対して要求するようになり,被告人も被害者に対して日頃から腹立たしく感じていたところ,本件殺害当日にも,居酒屋に呼び出した被害者が同店内において被告人に対して前記飲食代金の返済を求めてきたほか,被害者の経営していた元喫茶店の裏側空き地で被害者と2人で缶ビールを飲んでいた際にも被害者が前記飲食代金の返済を求めてきたことで口論となったことに加えて,その際に,被告人が,被害者に対し,「4,5年前に紹介してもらった女と結婚したい。」と発言したところ,被害者が,「お前みたいなヤクザで仕事のない男が,何が結婚や。」などと被告人を馬鹿にするような発言をしたことから,それまでの憤まんも相俟って,被告人が激昂し,消火器や金づちで被害者の頭部を殴打して外傷性ショック死により殺害し(判示第1),次いで,前記元喫茶店内において,被害者の着衣等に付着した被告人の指紋を消す目的で,その死体に塗料を掛けてライターで着火して死体の一部を焼損させ(判示第2),さらに,自己の犯行を隠ぺいするため,殺害の翌日にその死体を前記元喫茶店の便所内に運搬し,そのさらに翌日にその死体を前記便所から前記元喫茶店内の裏側敷地に設置された倉庫内に運搬して死体を遺棄した(判示第3)という事案である。
 まず,殺害行為の動機についてみるに,被害者が,一旦は被告人に奢った形となっていた飲食代金の返済を被告人に要求したり,被告人の結婚願望を馬鹿にした発言をしたことが本件殺害のきっかけであったとはいえ,それが被害者の殺害に結び付くほどのものであったと到底いえないことは明らかであり,その短絡的な動機に酌量すべきものはない。
 また,その犯行態様は,近くにあった消火器で被害者の頭部を殴り付け,さらに逃げる被害者を元喫茶店の店舗内まで追い掛け,前記喫茶店ホールの床上に仰向けに倒れた被害者が,必死に助けを求めているにもかかわらず,その頭部を金づちで執拗に殴打し続けて殺害するという冷酷で残忍極まりないものであり,被害者の尊い一命を奪ったその結果が極めて重大であることはいうまでもない。
 さらに,被告人は,被害者を殺害した後,自己の犯行を隠ぺいするため,被害者に塗料を掛けてライターで着火して死体を損傷したほか,元喫茶店内の便所や倉庫に死体を移動させるなどしており,この点も死者を冒とくする犯行として厳しく非難されるべきである。
 加えて,被告人は,本件殺害後は,前記のとおり,自己の犯行を隠ぺいしようと死体を焼損したり,死体を殺害現場から移動させるなどしたほか,更に証拠の隠滅を図るため,凶器となった消火器や金づちを人目に付かないところに投棄したり,被害者の血が付着した自分の着衣や靴を焼却するなどし,遂に捜査の手が自分に及んだことを察知するや,自宅の床下に飲食物等を持ち込んで潜伏するなどの行動に出ており,そのような被告人の行動からは,自己の犯した罪の重大性に対する自覚や自責の念は全く窺われず,犯行後の情状も悪質というほかはない。
 被害者は,未だ56歳とまだまだ人生を十分に謳歌できる年齢で,同居する母親の面倒を見たり,孫の成長を楽しみにする中で将来はうどん屋を開業する夢を持ちながら平穏な生活を送っていたものである。こうした被害者にとって,突然に理不尽にも残虐な方法により殺害されるということは夢想だにできなかったことであり,殺害の際に受けた被害者の肉体的苦痛と無念さは察するに余りある。のみならず,殺害された後は身体の一部を焼損され,さらには長男により発見されるまで6日間にわたり無惨な姿で放置されたのであって,哀れというほかはない。被告人により息子あるいは父を無惨にも殺害され,変わり果てた姿によって発見されたことを知った被害者の遺族が深い悲嘆と被告人に対する激しい怒りを抱くのも当然であって,その処罰感情も峻厳である。しかるに,被告人は何らの慰藉の措置も講じておらず,今後もこれといった見通しもない。
 加えて,本件の残忍な犯行が,このような犯行とは無縁ともいって良い,静かな地域社会に与えた衝撃や不安も無視することはできない。
 さらに,被告人は,懲役前科に限っても,強盗未遂や常習累犯窃盗等による懲役前科7犯にも及ぶ多数の前科を有し,平成16年12月27日に前刑を終了しながら,その約半年後に本件殺人等の重大な犯罪に及んだことも考慮すると,被告人の犯罪性向には根深いものがあるといわざるを得ない。
 以上によれば,被告人の刑責は誠に重大である。
他方,本件殺人の犯行には計画性が認められないこと,被告人も現在では自己の犯行を素直に認め,反省の態度を示していることなど被告人のために有利に斟酌すべき事情もあるので,これらを総合考慮し,主文のとおりの量刑とした次第である。
 よって,主文のとおり判決する。
(検察官藤井彰人,国選弁護人中村行雄各出席)
(求刑 懲役20年)
  平成17年12月22日
    広島地方裁判所呉支部

       裁判長裁判官    渡邉了造 


裁判官    鵜飼祐充 


裁判官    宮本博文