hanrei @Wiki H17.12.20 富山地方裁判所 平成16年(ワ)第289号 損害賠償請求事件



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 無煙焼却炉の販売に際し,燃焼中に灰出し口の扉を開けると危険である旨を取扱説明書等に記載せず,かつ口頭でも説明しなかったことが,製造物責任法上の指示・警告上の欠陥に該当するとして,損害賠償請求が認められた事例


平成17年12月20日判決言渡
平成16年(ワ)第289号 損害賠償請求事件
判 決

主 文
 1 被告は,原告A株式会社に対し,2000万円及びこれに対する平成16年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告Bに対し,10万円及びこれに対する平成16年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は,被告製造の焼却炉を購入して使用していた原告らが,同焼却炉の欠陥により発生した火災等によって損害を被ったとして,被告に対し,製造物責任法3条に基づき,損害の賠償を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない。)
 (1) 原告A社は,木製サッシの製造販売を業とする会社であり,原告Bは,その従業員である。
   被告は,焼却炉の製造販売を業とする会社である。
 (2) 原告A社は,被告との間で,平成15年12月,被告の製造にかかる無煙型焼却炉J-4型1基の売買契約を締結して同焼却炉(以下「本件焼却炉」という。)を購入し,被告は,同月25日,富山市a町b丁目c番地所在の原告A社の工場(以下「本件工場」という。)内に据え付けを完了した。
 (3) 平成16年1月20日午後7時30分ころ,原告Bが本件焼却炉で焼却作業中に同焼却炉の灰出し口の扉を開いたところ,バックファイヤー(燃焼爆発)が発生した(以下「本件バックファイヤー」という。)。
 (4) 翌21日午前4時過ぎころ,本件工場において火災が発生した(以下「本件火災」という。)。同火災は,火災報知器で警備会社に知らされ,消防車により消火された。
 (5) 被告が原告A社に交付した取扱説明書(甲2。以下「本件取扱説明書」という。)には,焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開けないようにとの記載はない。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
 (1) 設計上の欠陥の有無
(原告らの主張)
ア 本件バックファイヤーにより,本件焼却炉からは3m程度の火柱が上がり,火の粉が飛散した。焼却炉は,大量の可燃物を燃やす設備であり,強い火炎が発生するから,炉外に大量の火炎が噴出するなどの危険がないように設計すべきところ,本件のように灰出し口の扉を開けるとバックファイヤーが発生して大量の炎が噴出するのは,明らかに設計上の欠陥である。
イ 原告A社で従来使用していた焼却炉では,燃焼中に燃焼の状況や灰の状況を見るためなどに頻繁に灰出し口の扉を開けていたものの,バックファイヤーが起きたことはなかった。本件焼却炉が燃焼中に灰出し口が開けられることがあり得ないという前提で設計がされているとしたら,その設計思想に欠陥があり,設計上の欠陥であることを露呈している。
ウ 原告A社に既設のサイロ(以下「本件サイロ」という。)は,従来これを使用していて問題が発生したことはない。
  (被告の主張)
ア 燃焼中に灰出し口を開けて外気が燃焼室内に入った場合にバックファイヤーが起こるのは,本件焼却炉に特有のことではなく,以下で定義する改正基準に適合する高温で焼却する焼却炉においては,すべてそうである。したがって,灰出し口の扉を開けて炎が噴き出したからといって,設計上の欠陥にはあたらない。
  燃え殻(灰)を取り出すために灰出し口は必要である。そもそも焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開けることはあり得ず,その必要性は全くない。
イ 本件焼却炉は,平成13年3月26日改正の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)施行規則により平成14年12月1日から施行された改正後の産業廃棄物を焼却する場合の焼却設備の構造基準(以下「改正基準」という。)に適合したものである。
  改正基準では,焼却炉燃焼中は「空気取り入れ口と煙突の先端以外に焼却設備内と外とが接することなく,燃焼室において発生するガスの温度が摂氏800度以上の状態で定量ずつ廃棄物を焼却できるものであること」が要件とされており,これは公知のことである。そして,燃焼中に灰出し口の扉を開けると外の空気が焼却炉内に入り,燃焼室の温度が800度以下になって改正基準に反することになるから,改正基準に適合する焼却炉は,燃焼中は灰出し口の扉を開けることはあり得ないことになっている。
ウ 本件焼却炉に接続した本件サイロでは,木屑が定量ずつ送られず,燃焼室内で燃焼したりいぶったりの状態で,バックファイヤーが起こらざるを得ない状態であって,本件焼却炉を適正に稼働させるには欠陥があった。しかし原告A社は,被告の指摘にもかかわらず,本件サイロの入れ替えをしなかった。常に一定量の木屑がサイクロンへ投入されるサイロであったならば,燃焼状態は一様で,万一誤って灰出し口の扉を開いても,バックファイヤーが起こる可能性はない。したがって,本件サイロが本件焼却炉を適正に稼働させるには欠陥があり,原告が本件サイロを入れ替えなかったことが原因で,本件バックファイヤーが起きた可能性が高い。
(2) 指示・警告上の欠陥の有無
(原告らの主張)
ア 本件バックファイヤーにより,本件焼却炉からは3m程度の火柱が上がり,火の粉が飛散した。本件焼却炉が,設計上,灰出し口の扉を開けるとバックファイヤーによる多量の炎が噴出する危険性があるのであれば,取扱説明書等にその旨明確に記載するとともに,口頭説明においても特に注意してはっきりと説明すべきところ,被告が原告A社に交付した本件取扱説明書にはその旨の記載がなく,また,平成15年12月24日に被告の従業員Cが据え付け工事をして取扱説明を口頭でしたときも,簡単に操作手順を説明しただけで,灰出し口の扉の開閉についてやバックファイヤーの危険性については何ら説明がなかった。本件焼却炉に貼付されたステッカー(甲21)にも,燃焼中に灰出し口の扉を開けてはいけない旨の表記はない。
イ 原告らは,燃焼中に外気と接触しないため,また燃焼室内の温度を800度より下げないため,燃焼中に灰出し口の扉を開けてはならないとの説明を受けていないし,その旨の取扱説明書の交付も受けておらず,そのことを知らなかった。原告Bは,焼却炉の取扱いについて専門的な資格や知識を有しているものではない。
ウ 被告は,燃焼中に灰を取り出すなど危険で絶対にしないことであると主張するが,それだからこそ,口頭及び取扱説明書でしっかりと説明すべきであったのである。なお,本件火災後に原告A社に交付された書面(甲3。以下で定義する本件マニュアルである。)には,燃焼中は灰出扉等は絶対に開けないでくださいと書いてある。
(被告の主張)
ア 焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開けて急に外気を燃焼室に入れるとバックファイヤーが起こることは,焼却炉を取り扱う者にとってはごく常識的なことである。焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開ける必要はなく,これを開けることを予見することは不可能である。したがって,仮に,被告が焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開けないように使用上の説明をしなかったとしても,それをもって指示・警告上の欠陥があるとはいえない。
イ 被告の営業技術課長のCは,念のため,平成15年12月24日の本件焼却炉の試運転時に,個人的に作成したマニュアル(甲3。以下「本件マニュアル」という。)を見ながら立ち会った原告A社の担当者に説明をし,燃焼中は灰出し口の扉を開けないよう注意した。さらに,本件サイロが定量スクリューサイロではないためにバックファイヤーが起きたので,これに対処するため,Cは,平成16年1月7日及び翌8日,投入扉及び灰出し扉等の完全密閉工事等の追加改造工事を行った。このことからも,原告らは,本件焼却炉で燃焼中には灰出し扉を開閉してはならないことをさらに知ったものである。
ウ そもそも,原告A社は,富山県知事ないし富山市からの立入り調査や行政指導を受けて,改正基準に適合した焼却炉を設置する必要に迫られ,本件焼却炉を被告から購入することとした。本件焼却炉は,改正基準に適合する焼却炉であるから,このような焼却炉においては,燃焼中に灰出し扉を開閉することは絶対にしてはいけないことは一見して明らかである。原告らは,従来の焼却炉が使用できなくなった理由や,新たに設置する本件焼却炉は改正基準に適合しなければならないことを十分に知っていたのであるから,本件焼却炉がいかなる焼却炉であるか十分に知っており,燃焼中に灰出し扉を開閉してはならないし開ける必要もないことを知らなかったはずがない。燃焼中に灰を取り出すなど危険で絶対にしないことであるし,する必要も理由もない。
  仮に原告Bがそのことを知らなかったとしても,原告A社の上部の者は,焼却炉を取り扱う担当の原告Bに説明等すべきであったのであるから,原告A社の上部の者から原告Bに一切の説明がなされなかったことについて,被告に責任はない。また,被告において,原告らがそのことを知っていると思ったのも当然のことであり,そう思ったことについて被告に落ち度はない。
  焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開ける行為は,改正基準に適合する焼却炉として通常予想される使用形態とは言えない。
(3) 原告Bにおける損害の発生及び額,因果関係
(原告Bの主張)
 ア 原告Bは,本件バックファイヤーによる火炎を浴びて顔面と右手に火傷を受け,治療約10日間の負傷をした。被告は,これに対する慰謝料として10万円の賠償責任がある。
 イ よって,被告は,原告Bに対し,製造物責任法に基づく損害賠償として,10万円及びこれに対する損害発生の日である平成16年1月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
(被告の主張)
   原告Bは,何の必要も,目的も,理由もなく,本件焼却炉で燃焼中に灰出し口の扉を開けた。したがって,原告Bが火傷を負ったことが事実とした場合,それは自損事故である。
(4) 原告A社の損害
(原告A社の主張)
  ア 本件火災の原因
    本件バックファイヤーが発生した際,「ドーン」という音とともに3m程度の火柱が上がり,炎が火の粉を伴って舞い上がった。ただし,一瞬のことであり,また,何かに燃え移って燃焼したのではなかった。しかし,周辺にいた作業員4名程度はすぐに駆け寄って,直ちに床や壁面に多量の水をかけ,まもなく本件焼却炉の火を止めて作業を終了した。その後,原告A社の従業員Dが午前1時ないし2時ころまで残業しながら,本件バックファイヤーのあったことを気にかけて,臭いなどの火の気配に注意しながら監視していた。
   本件火災の原因は,本件バックファイヤーで本件焼却炉から飛散した火の粉が防火壁の隙間から入り,その中の木材研磨粉又は周辺の木材研磨粉に入り,無煙燃焼により発見されない状態になり,かなりの時間が経過してから発火したものと推測されており,消防署も同様の見解だったようである。
 イ 本件火災により,富山市a町b丁目c番地所在の原告A社の工場3棟(①原告A社所有,鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺3階建工場,各階の床面積173.52㎡,②原告A社代表者所有,鉄骨造スレート葺2階建工場,1階317.37㎡,2階272.67㎡,③原告A社代表者所有,鉄骨造亜鉛メッキ鋼板スレート葺3階建工場,1階548.18㎡,2階128.00㎡,3階122.72㎡)がいずれも全焼した。なお,上記②の1階の一部が燃え残ったが,建物の効用としては全焼である。
 ウ 本件火災による原告A社の損害は以下のとおりである。
  (ア) 商品(完成品)の焼失による損害    3543万8400円
  (イ) 機械装置の廃棄処分による損害     1023万2848円
  (ウ) 工具・器具・備品の廃棄処分による損害  108万7593円
  (エ) 工場借賃                391万5000円
     本件火災後,当月から本訴提起に至るまで他社の工場を借りて操業しているが,その賃料は1か月43万5000円である。原告A社は本訴提起時までの9か月分を請求する。
  (オ) 引越費用               1152万4815円
  (カ) 休業損害               1827万7992円
     原告A社は,本件火災により,12日間の稼働日を休業した。
     原告A社の1年間の売上高 4億1141万9733円
     稼働日数 268日
     1日平均売上額 153万5148円
     1年間の水道・光熱費 321万1230円
     1日平均の水道・光熱費 1万1982円
     計算式:(1,535,148円-11,982円)×12日=18,277,992円
 エ 原告A社は,上記損害のうち2000万円を請求する。
 オ よって,被告は,原告A社に対し,製造物責任法に基づく損害賠償として,上記損害のうち2000万円及びこれに対する損害発生の日である平成16年1月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
 (被告の主張)
  ア 本件火災の原因について
    本件焼却炉もこれに接続された本件サイロも何ら燃えていない。本件焼却炉周辺を囲んでいた壁材から火が発した事実は否認する。
    仮に灰出し口から噴き出した火が飛散して木材研磨粉に付着して本件火災となったことが事実であれば,本件火災の原因は,本件焼却炉の消火作業に従事した原告Bにおける後の処置が不適切であったことにある。原告Bや原告A社従業員において,出火が予想されるところ全部に水をかけるなどしていれば,本件火災に至らなかったことは明らかである。
    したがって,本件焼却炉の灰出し口から火が噴き出し,その火が残り,8時間後に本件火災に至ったとしても,この火の噴き出しと本件火災との間に相当因果関係はない。
  イ 原告A社の主張イにつき,本件火災で原告A社主張の3棟の建物が全半焼した事実は認める。建物所有者は不知。
 ウ 原告A社の主張ウは不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
 1 証拠(甲1ないし3,5,21ないし23,乙1ないし5,乙6の1ないし4,乙7の1ないし5,乙8の1及び2,調査嘱託の結果,証人E,証人C,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,前記前提事実のほかに,以下の事実が認められる。
  (1) 原告A社は,平成17年7月現在の社員数は42名であるが,焼却炉を扱う資格者はいない。原告Bは,原告A社に勤めて5年程度であり,主に木を削る作業をしていて木屑が多量に出るので,原告Bが中心となって焼却炉を動かしていた。ただし,原告Bが焼却炉を扱うようになったのは原告A社に入社してからであり,焼却炉に関する特別な資格や知識はない。
    被告の社員は11名であって,Cは,平成13年2月に入社し,営業技術課長である。
  (2) 改正基準は,ダイオキシン対策等として制定されたものである。原告A社においては,改正基準施行後も,その基準に適合しない焼却炉を使用していたことなどから,平成15年9月から10月にかけて,富山市による立ち入り調査及び文書による行政指導を受け,同月14日付けで,既設の焼却炉の使用の中止を文書で指導された。そのため,原告A社は,同年11月1日ころ,木工機械の展示会に赴いて改正基準に適合する焼却炉を探し,被告から,改正基準に適合し,しかも取扱いに特別な資格のいらない本件焼却炉を購入することとした。
    原告A社は,平成15年11月10日,正式に本件焼却炉を被告に発注し,被告では,その後Cほか1名の従業員が原告A社に赴き,同年12月23日ないし25日ころにかけて,その据え付けをし,試運転をして原告A社に引き渡した。ただし,焼却炉に接続するサイロは,従来から原告A社で使用していた本件サイロを使用することとしたが,本件サイロが本件焼却炉と適合する定量スクリューサイロではなく,焼却中にバックファイヤーが発生するなどうまく作動しなかったため,被告においては,平成16年1月7日ころにも,灰出し口の扉等を密閉するなどの改良工事を行った。
    本件焼却炉は,外気と遮断して摂氏800度以上の高温で燃焼させるものであり,定量スクリューサイロを接続したとしても,燃焼中に灰出し口等を開けると外気が急激に燃焼室内に入ってバックファイヤーが発生する可能性があり,その場合には,火炎が炉外に噴出するおそれがあった。
  (3) 平成15年12月25日ころの上記試運転と引渡しの際には,原告A社専務のE,工場長のFと,原告Bが立ち会って,Cから口頭の説明を受けた。しかし,その説明は数分間程度の短時間であり,操作手順の説明が主であって,バックファイヤーが起こる可能性があるので燃焼中は灰出し口の扉を開けないこと,開けると危険であることなどについては,何ら説明がなかった。Cは,その際本件焼却炉貼付のステッカー(甲21)を読むよう説明したが,同ステッカーにも,上記指摘や警告はなかった。また,Cは,本件マニュアルを個人的に作成しており,そこには「サイクロン自動投入燃焼中は投入扉灰出扉等は絶対に開けないで下さい。バックファイヤー等で火が吹き出して危険です。」との記載があるが,上記説明の時点で,これに沿って原告らに説明することも,この文書を原告らに渡すこともなかった。さらに,被告は,その時点では本件焼却炉の取扱説明書は作成しておらず,原告A社に交付した本件説明書は旧型の焼却炉のものであったが,これにおいても,上記の危険性については触れるところがなかった。ただし,被告が本件火災後に作成した本件焼却炉の取扱説明書(乙5)には,「燃焼中は危険ですので後部バフラーの灰出扉は絶対開けないでください。」「サイクロン等により自動投入して焼却中又は焼却炉燃焼中は投入扉や排出扉等は絶対に開けないでください。炉内のエアーバランスが崩れてバックファイヤーが発生し火が扉から吹き出して大変危険です。」との記載がある。
    なお,この点Cは,上記試運転の日に,本件サイロが定量スクリューサイロではないためにバックファイヤーを起こして危ない旨を伝えたと証言するが,同時に,(その理由はともかくとして)あまり時間がなく,危険性を説明する時間があまりなかったとも証言しており,他の供述や証言等に照らし,バックファイヤーについて説明した旨の上記Cの証言は採用できない。
  (4) 原告Bは,平成16年1月20日午後7時10分ないし30分ころ,遅くなったので早く燃やそうと思い,本件焼却炉の中の木屑が燃えやすいよう攪拌しようとして,灰出し口の扉を開けた。原告Bは,従来の焼却炉でも同様のことを頻繁に行っていたが,何の事故も起きなかった。しかし,本件焼却炉の灰出し口の扉を開けるのは,このときが初めてだった。
    原告Bが灰出し口の扉を開けたところ,その瞬間にドカーンという音がして火炎が前へ噴き出し,火の粉が上へ舞い上がった。これは,本件バックファイヤーによるものである。その後直ちに,原告A社の従業員数名が,周囲の床や壁に水をかけるなどした。その後,原告A社の従業員Dが,翌21日午前1時45分ころまで,残業しつつ監視していたが,その時点では何も起こらなかった。
  (5) 本件火災の原因は,本件バックファイヤーにより本件焼却炉から火炎が噴出し,舞い上がった火の粉が本件工場の2階床下に溜まっていた木屑等に着火し,無煙燃焼により発見されない状態を継続して,かなりの時間が経過してから出火したものである。
 2 争点(1)について判断する。
   前記認定のとおり,本件焼却炉は,改正基準に適合した焼却炉であり,外気と遮断した上燃焼室の温度を摂氏800度以上の高温に保つ必要があるから,このような焼却炉においては,燃焼中に灰出し口の扉を開けると,外気が急激に流入してバックファイヤーが発生し炉外に火炎が噴出する可能性があることは,やむを得ないことであるといえる。しかし,焼却後に灰を取り出すために灰出し口を設置すること自体は必要であるから,燃焼中に灰出し口の扉を開けるとバックファイヤーが発生し,火炎が炉外に噴出することがあるとしても,これをもって,本件焼却炉に設計上の欠陥があるということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 3 争点(2)について判断する。
  (1) 一般に,ある製造物に設計,製造上の欠陥があるとはいえない場合であっても,製造物の使用方法によっては当該製造物の特性から通常有すべき安全性を欠き,人の生命,身体又は財産を侵害する危険性があり,かつ,製造者がそのような危険性を予見することが可能である場合には,製造者はその危険の内容及び被害発生を防止するための注意事項を指示・警告する義務を負い,この指示・警告を欠くことは,製造物責任法3条にいう欠陥に当たると解するのが相当である。
 これを本件についてみると,前記認定のとおり,本件焼却炉は,燃焼中に灰出し口の扉を開けるとバックファイヤーにより火炎が炉外に噴出するおそれがあり,その場合には,その周囲にいる者が受傷し,又は設置場所を焼損するなどする危険性が高い。そして,製造者である被告や焼却炉に詳しい者にとっては,同おそれはいわば常識といえることは被告の主張からも明らかであるから,燃焼中に灰出し口を開けてはならないのであるが,本件焼却炉はその取扱いに特別の資格等を必要とするものではなく,改正基準や焼却炉の取扱いに詳しくない一般の人が使用することもありえ,その場合には,改正基準に適合した焼却炉といえども,炉内を攪拌するためなどに燃焼中に灰出し口の扉を開ける可能性も考えられることからすれば,製造者である被告が,本件焼却炉を原告A社に販売した当時,上記のような危険性を予見することは可能であったといえる。このことは,本件マニュアルにその危険性を指摘し警告する注意書きがあることからも明らかである。
 したがって,被告は,本件焼却炉を原告A社に販売する際,原告A社に対し,燃焼中は灰出し口の扉を開けないこと,これを開けるとバックファイヤーが発生して火炎が炉外に噴出する危険性があることを指示,警告する措置を講じる義務があったというべきである。
 ところが,前記認定事実のとおり,被告は,本件焼却炉を原告A社に引き渡した際,上記危険性を指摘した本件マニュアルは原告A社に交付せず,これに基づいて口頭で指示,警告することもなく,本件取扱説明書にも上記危険性については何ら触れるところがなかったのであり,他に,被告において上記措置を講じたというに足りる事実は証拠上認められない。
 そうすると,本件焼却炉には製造物責任法3条にいう欠陥があり,被告は,原告らに対し,この欠陥によって原告らが被った損害を賠償する義務を負うというべきである。
 (2) 被告は,原告らは本件焼却炉が改正基準に適合したものであることを知っていたことや,灰出し口の扉の密閉工事を行ったことなどから,原告らは燃焼中に灰出し口の扉を開閉してはならないことを知っていたとか,被告において原告らが上記のように灰出し口の扉を開けること予見することは不可能であるなどと主張する。しかし,原告らが改正基準についてや本件焼却炉が改正基準に適合したものであることを知っていたとしても,また被告において密閉工事を追加して行ったことを考慮しても,そのことから直ちに,焼却炉の専門家ではない原告らにおいて,燃焼中に灰出し口の扉を開けてはならないことを知っていたとか,開けることが絶対にあり得ないということはできず,この点の被告の主張は採用することはできない。
   また,被告は,原告らが燃焼中に扉を開けてはならないことを知っていると思ったことについて被告に落ち度はないなどとも主張するが,原告Bが焼却炉の専門家ではないことは据え付け時の対応等から予想できたと思われることや,原告らの知識の程度を被告において確認することは容易であったことなどに照らし,被告の主張を採用することはできない。
 4 争点(3)について判断する。
  (1) 証拠(甲5,原告B本人)によれば,原告Bは,本件バックファイヤーによる火炎の噴出により,顔及び右手に熱傷を負い,外用療法により約10日間で治癒したと診断されたが,それまでは顔の傷口がただれるなどし,また傷跡が消えるのに1年ほどかかったことが認められる。
 被告は,自損事故である旨主張するが,原告Bは,前記認定のとおり,従前の焼却炉と同様のつもりで,早く焼却するために,灰出し口の扉を開けたのであるが,被告より明確な説明を受けていれば同扉を開けることもなかったと認められるから,被告の上記主張は採用しない。
 上記受傷により,原告Bが相応の身体的精神的苦痛を被ったことは明らかであるところ,灰出し口の扉を開けた原告Bにも不注意な点があったことは否めないが,これを考慮しても,慰謝料としては10万円が相当である。
(2) したがって,原告Bの本訴請求は理由がある。
 5 争点(4)について判断する。
  (1) 前記認定事実によれば,本件火災の原因が本件バックファイヤーによる火炎の噴出にあることは明らかである。この火炎の噴出に対し,原告A社として相応の対処をしたことは認められるから,因果関係がない旨の被告の主張は採用しない。
  (2) 本件火災により,原告A社主張の工場3棟が全半焼したことは当事者間に争いがなく,これと調査嘱託の結果を総合すると,その内部の商品(完成品)や機械装置,工具・器具・備品が焼失したこと,原告A社の工場を移転する必要があったことは明らかである。
  (3) 商品(完成品)の焼失による損害  2752万3800円
    証拠(甲8,24の1,24の3,24の4,24の7,24の8,証人E)によれば,原告A社が焼失したと主張する物件の金額3543万8400円のうち,G商会(H邸)282万1000円及びI建設(J邸)327万7200円の金額は,受注金額である各199万5000円を超えることはないと認められる。同様に,K邸の焼失物件の金額(原告A社主張は55万9300円)は52万5000円を,L邸の金額(原告A社主張は165万5600円)は36万7500円を,それぞれ超えることはないと認められる。
 したがって,証拠(甲8,甲24の1ないし13,証人E)によれば,商品(完成品)の焼失による損害は,合計2752万3800円の限度で本件火災による損害と認める。
  (4) 機械装置の廃棄処分による損害 1023万2848円
    証拠(甲6,9,証人E)によれば,上記金額が本件火災により焼失した機械装置の損害額として相当であると認められる。
  (5) 工具・器具・備品の廃棄処分による損害 108万7593円
    証拠(甲6,9,証人E)によれば,上記金額が本件火災により焼失した工具・器具・備品の損害額として相当であると認められる。
  (6) 工場借賃  345万円
    証拠(甲10ないし12)及び弁論の全趣旨によれば,原告A社が工場の仮の移転先として建物を賃借したのは平成16年2月からであり,平成16年2月の賃料は2物件合計40万5000円,同年3月以降は3物件合計で月額43万5000円であったと認められる。原告A社は,本訴提起(平成16年9月9日)までの月の賃料を請求しているから,平成16年2月分から同年9月分までの賃料合計345万円を本件火災による損害と認める。
  (7) 引越費用  1095万3565円
    証拠(甲13,甲14の1ないし3,甲15の1及び2,甲16,甲17の1ないし6,甲19,20)及び弁論の全趣旨によれば,原告A社の仮工場への移転に伴い,移転先でのダクト工事,機器移設据付工事,電気工事等のために上記金額の支払を要し,これらは,本件火災による損害と認められる。
    しかし,原告A社が引越費用として請求していると思われる金額のうち,本件火災により焼失した作業台等を購入したとする費用34万1250円(甲18の1ないし3,弁論の全趣旨(証拠説明書))については,焼失した工具・器具・備品(上記(5))として計上されている作業台に替えて購入したとも考えられ,上記(5)の損害のほかにこの購入費用を本件火災による損害として認めるのが相当であるというべき主張立証はない。
  (8) 休業損害  0円
    証拠(証人E)によれば,1日平均売り上げが約152万円であった旨の証言はあるものの,これを裏付ける証拠はなく,また,経費についても,その詳細は不明である。具体的な休業日数についての立証もない。そうすると,本件火災により,原告A社に何らかの休業損害が発生していることは明らかであろうと思われるものの,具体的に原告A社主張の額の損害の発生を認めるに足りる証拠はないと言うほかない。
  (9) 以上のとおり,原告A社主張の損害の一部は認められないものの,原告A社は,損害額の内金として2000万円を請求しているから,原告A社の本訴請求は結局理由がある。
 6 よって,主文のとおり判決する。
富山地方裁判所民事部
裁判官  剱   持   淳   子