hanrei @Wiki H17.11.30 横浜地方裁判所 平成18(行ウ)18 建築確認処分取消請求事件



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建築予定地に盛土がされるマンションの建築計画について,盛土がされた後の地盤面を基準に建築基準法上の高さ規制や容積率規制に適合するとしてされた建築確認処分が,違法であるとして取り消された事例。


主           文
1 原告a,同b,同c,同d及び同eの被告株式会社東京建築検査機構に対する訴えをいずれも却下する。
2 原告fの請求に基づき,被告株式会社東京建築検査機構が参加人オリックス・リアルエステート株式会社に対してした平成14年10月23日付け建築確認処分及び平成15年3月5日付け建築計画変更確認処分をいずれも取り消す。
3 原告らの被告横浜市に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用の負担は以下のとおりとする。
(1) 原告fに生じた費用は,その2分の1を被告株式会社東京建築検査機構の負担とし,その余は同原告の負担とする。
(2) 原告fを除く原告らに生じた費用は,すべて同原告らの負担とする。
(3) 被告株式会社東京建築検査機構に生じた費用は,その6分の1を同被告の負担とし,その余は原告fを除く原告らの負担とする。
(4) 被告横浜市に生じた費用は,すべて原告らの負担とする。
(5) 参加人に生じた費用は,その6分の1を同参加人の負担とし,その余は原告fを除く原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社東京建築検査機構が参加人オリックス・リアルエステート株式会社に対してした平成14年10月23日付け建築確認処分及び平成15年3月5日付けでした建築計画変更確認処分をいずれも取り消す。
2 被告横浜市は,原告fに対し金50万円,その余の原告ら各自に対しそれぞれ金10万円を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の骨子
 本件は,被告株式会社東京建築検査機構(以下「被告検査機構」という。)が,参加人に対し,建築基準法(以下「法」ともいう。ただし,後記2(1)ウ(ア)の建築確認処分との関係では平成14年法律第85号による改正前のものをいい,後記2(1)ウ(イ)の変更確認処分との関係では平成15年法律第101号による改正前のものをいう。)6条の2第1項,同法6条1項に基づき,横浜市(a)区(b)町(c)丁目に位置する斜面地におけるマンション建築計画について平成14年10月23日付けで建築確認処分(以下「本件建築確認処分」という。)をし,さらに平成15年3月5日付けで建築計画変更確認処分(以下「本件変更確認処分」といい,本件建築確認処分と併せて「本件各確認処分」という。)をしたところ,上記斜面地の周辺に居住する原告らが,本件各確認処分は,上記建築計画が,第1種低層住居専用地域内における建築物の高さ規制(法55条)ないし高度地区内の高さ規制(法58条),容積率規制(法52条)及び日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)(以下「本件各規制」という。)等に違反しているにもかかわらずされたもので違法であるとして,被告検査機構に対して本件各確認処分の取消しを求めるとともに,同処分に基づく建築物の建築によって精神的,経済的な損失を被ったとして,当該建築確認事務が帰属するとする被告横浜市に対して国家賠償法1条に基づき損害賠償を求めた事案である。
2 基礎となる事実
(1) 本件各確認処分等の経緯について
ア 不動産の賃貸借,売買,管理及び宅地造成等を業とする株式会社である参加人は,横浜市(a)区(b)町(c)丁目(d)番(e)の一部,同(d)番(f)の一部及び同(g)番(h)の一部に所在する土地(別紙図面1参照。以下「本件建築予定地」という。)を敷地として,地上3階,地下7階から成る36戸の共同住宅(以下「本件建築物」という。)を建築する計画を立てた。
 なお,本件建築予定地は第1種低層住居専用地域,第1種高度地区内にあり,かつ横浜市風致地区条例により第3種風致地区に指定された区域であって,建築基準法等により建築物の高さは10m,容積率は80%,建ぺい率は40%に規制されている。
 また,原告らの居住地は,それぞれ別紙図面1のとおりである。
イ 開発行為許可処分等
(ア) 参加人は,平成14年7月1日,横浜市長に対し,都市計画法29条1項,同法30条に基づき,本件建築予定地を開発区域とする開発行為許可の申請を行ったところ,横浜市長は,同月19日付けで,参加人に対し,同法29条1項に基づき,おおむね以下の内容の開発行為(以下「本件開発行為」という。)を許可した(以下「本件開発許可処分」という。)(甲29号証の3)。
a 開発区域に含まれる地域の名称   横浜市(a)区(b)町(c)丁目(d)番(e)の一部外2筆
b 開発区域の面積          2826.58㎡
c 予定建築物の用途         共同住宅
(イ) 参加人は,平成14年7月1日,横浜市長に対し,宅地造成等規制法8条1項に基づき,本件建築予定地における宅地造成工事の許可を申請したところ,横浜市長は,同月19日付けで,参加人に対し,宅地造成等規制法8条1項,同法10条1項に基づき,宅地造成工事に関する工事を許可した(以下「本件宅地造成工事許可処分」という。)(甲29号証の4,弁論の全趣旨)。
(ウ) 参加人は,平成14年7月1日,横浜市長に対し,都市計画法58条1項,横浜市風致地区条例2条1項に基づき,本件建築予定地における行為の許可を申請したところ,横浜市長は,同月19日付けで,同条項に基づき参加人に風致地区内における行為を許可した(甲29号証の5)。
ウ 本件各確認処分等
(ア) 参加人は,平成14年8月29日,法6条の2及び法77条の18の規定に基づき国土交通大臣の指定を受けた指定確認検査機関である被告検査機構に対し,おおむね以下の内容の建築計画に係る建築確認申請書を提出した(以下「本件建築確認申請」という。)(甲40号証の1)。
a 地名地番     横浜市(a)区(b)町(c)丁目(d)番(e)の一部,同(d)番(f)の一部及び同(g)番(h)の一部
b 都市計画区域等  市街化区域,第1種高度地区,第3種風致地区
c 敷地面積     2778.47㎡
d 用途地域等    第1種低層住居専用地域
e 容積率規制    80%
f 建ぺい率規制   40%
g 主要用途     共同住宅
h 建築面積     983.06㎡
i 建ぺい率     35.38%
j 延べ面積
(a) 建築物全体           4794.56㎡
(b) 地階の住宅部分         1513.92㎡
(c) 共同住宅の共用の廊下等の部分  1152.35㎡
(d) 自動車車庫等の部分         51.75㎡
(e) 住宅の部分           4742.81㎡
(f) 法52条の容積率対象延べ面積  2076.54㎡
(g) 容積率               74.73%
k 申請に係る建築物の数     1
l 同一敷地内の他の建築物の数  0
m 建築物の高さ等
(a) 最高の高さ  9.36m
(b) 階数     地上3階 地下7階
(c) 構造     鉄筋コンクリート造
 これに対し,被告検査機構は,同年10月23日付けで,参加人に対し,法6条の2第1項,同法6条1項に基づき,上記建築計画に係る確認済証を交付した(本件建築確認処分)(甲40号証の1)。
(イ) 参加人は,上記建築計画について,壁厚,柱及び梁配筋を変更する計画変更を行い,平成15年2月12日,被告検査機構に対し,上記建築計画の変更に係る建築確認申請書を提出した(以下「本件変更確認申請」という。)(甲40号証の2,乙16号証の1及び2)。
 これに対し,被告検査機構は,同年3月5日付けで,参加人に対し,法6条の2第1項,同法6条1項に基づき,上記建築計画の変更に係る確認済証を交付した(本件変更確認処分。なお,上記変更後の建築計画を「本件建築計画」という。)(甲40号証の2,乙16号証の1及び2)。
(ウ) 参加人は,本件建築計画について,本件建築物の南側(別紙図面2の斜線部分)に設けられる奥行き約2.7m,幅約3.6m,深さ約8.8mの空間(以下「本件空間」という。)に管理通路兼室外機置場を設置する計画変更を行い,平成16年2月19日,被告検査機構に対し,上記建築計画の変更(以下「本件軽微変更」という。)を報告した(法6条1項柱書第2文,法施行規則(本件建築確認処分との関係では平成14年国土交通省令第120号による改正前のものをいい,本件変更確認処分との関係では平成15年国土交通省令第10号による改正前のものをいう。以下同じ。)3条の2)(乙14号証)。
(2) 本件訴訟に至る経緯等について
ア 原告らは,平成15年5月19日,横浜市建築審査会に対し,本件各確認処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,同審査会は,平成16年2月27日付けで上記審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙13号証)。
 そこで,原告らは,平成16年3月30日付けで国土交通大臣に対し,本件各確認処分の取消し等を求めて再審査請求をした(弁論の全趣旨)。
イ 原告らは,平成16年3月31日,本件訴訟を提起した。
 なお,原告らは,同日提出した訴状においては,被告検査機構を被告として損害賠償請求をする旨記載していたが,同年5月17日に,上記損害賠償請求の被告を被告横浜市に変更する旨の訴状補正書を提出した。
ウ 参加人は,平成17年7月19日,行政事件訴訟法22条1項に基づき,本件訴訟への参加の申立てを行い,当裁判所は,同年8月11日,同申立てを許可した(以下「本件参加許可決定」という。)。
(3) 本件各規制に関する法等の定めについて(概略)
ア 第1種低層住居専用地域内における建築物の高さ規制(法55条)ないし高度地区内の高さ規制(法58条)
(a) 法55条
1項 第1種低層住居専用地域又は第2種低層住居専用地域内においては,建築物の高さは,10メートル又は12メートルのうち当該地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはならない。
(以下略)
(イ) 法58条
 高度地区内においては,建築物の高さは,高度地区に関する都市計画において定められた内容に適合するものでなければならない。
(ウ) 法92条 
 建築物の敷地面積,建築面積,延べ面積,床面積及び高さ,建築物の軒,天井及び床の高さ,建築物の階数並びに工作物の築造面積の算定方法は,政令で定める。
(エ) 法施行令(本件建築確認処分との関係では平成14年政令第331号による改正前のものをいい,本件変更確認処分との関係では平成14年政令第393号による改正前のものをいう。以下同じ。)2条1項6号
建築物の高さ 地盤面からの高さによる。ただし,次のイ,ロ又はハのいずれかに該当する場合においては,それぞれイ,ロ又はハに定めるところによる。
(中略)
ロ 法第33条,法第56条第1項第3号及び法第58条(北側の前面道路又は隣地との関係についての建築物の各部分の高さの最高限度が定められている場合において,その高さを算定するときに限る。)の場合を除き,階段室,昇降機塔,装飾塔,物見塔,屋窓その他これらに類する建築物の屋上部分の水平投影面積の合計が当該建築物の建築面積の8分の1以内の場合においては,その部分の高さは,12メートル(法第55条第1項及び第2項,法第56条の2第4項,法第59条の2第1項(法第55条第1項に係る部分に限る。)並びに法別表第4(ろ)欄二の項,三の項及び四の項ロの場合には,5メートル)までは,当該建築物の高さに算入しない。
(以下略)
(オ) 法施行令2条2項 
前項第2号,第6号又は第7号の「地盤面」とは,建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が3メートルを超える場合においては,その高低差3メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。
イ 容積率規制(法52条)
(ア) 法52条
1項 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は,次の各号に掲げる区分に従い,当該各号に定める数値以下でなければならない。
(中略)
一 第1種低層住居専用地域又は第2種低層住居専用地域内の建築物 10分の5,10分の6,10分の8,10分の10,10分の15又は10分の20のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
(中略)
2項(平成15年法律第101号による改正前の法においては3項。以下同じ。)
 第1項(中略)に規定する建築物の容積率(中略)の算定の基礎となる延べ面積には,建築物の地階でその天井が地盤面からの高さ1メートル以下にあるものの住宅の用途に供する部分の床面積(当該床面積が当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の3分の1を超える場合においては,当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の3分の1)は,算入しないものとする。
3項(平成15年法律第101号による改正前の法においては4項。以下同じ。) 
 前項の地盤面とは,建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が3メートルを超える場合においては,その高低差3メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。
(イ) 法施行令1条
 この政令において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
(中略)
二 地階 床が地盤面下にある階で,床面から地盤面までの高さがその階の天井の高さの3分の1以上のものをいう。
(ウ) 上記法施行令1条2号の「地盤面」,すなわち地階に該当するか否かの判定の基準となる「地盤面」については,上記法施行令2条2項のような定義規定は存在しない。
 上記の点について横浜市では,「横浜市建築基準法取扱基準集(平成13年版)」(以下「横浜市取扱基準」という。)(45頁)において,「地階の判定は同一階において判定するものとし,部分的な判定は行わないものとして令第1条第2号を適用します。」とした上で,①法施行令1条2号の「床が地盤面下にある階」について,「建築物の当該階の部分における床が地盤面下にある階とします。ただし,建築物が周囲の地面と接する位置に高低差がある階にあっては,建築物の当該階の部分が周囲の地面と接する位置における周長の過半が床より高い位置に地面がある階とします。」,②同号の「床面から地盤面までの高さ」について,「当該階における最も高い位置にある床面から,建築物の当該階の部分が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面(その接する位置の高低差が3mを超える場合においても,その高低差の平均の高さにおける水平面とします。)までの高さとします。」,③同号の「その階の天井の高さ」について,「当該階における最も高い位置にある床面から測り,当該階における最も高い位置にある天井までの高さとします。」としている。
ウ 日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)
(ア) 法56条の2
1項 別表第4(い)欄の各項に掲げる地域又は区域の全部又は一部で地方公共団体の条例で指定する区域(以下この条において「対象区域」という。)内にある同表(ろ)欄の当該各項(中略)に掲げる建築物は,冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時まで(中略)の間において,それぞれ,同表(は)欄の各項(中略)に掲げる平均地盤面からの高さの水平面(中略)に,敷地境界線からの水平距離が5メートルを超える範囲において,同表(に)欄の(一),(二)又は(三)の号(中略)のうちから地方公共団体がその地方の気候及び風土,土地利用の状況等を勘案して条例で指定する号に掲げる時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならない。
(以下略)
(イ) 法別表第4には,「この表において,平均地盤面からの高さとは,当該建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面からの高さをいうものとする。」と規定されている。
エ 都市計画法上の規制
(ア) 4条12号
この法律において「開発行為」とは,主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいう。
(イ) 29条1項
都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為をしようとする者は,あらかじめ,国土交通省令で定めるところにより,都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。
(以下略)
(ウ) 33条1項
都道府県知事は,開発許可の申請があった場合において,当該申請に係る開発行為が,次に掲げる基準(中略)に適合しており,かつ,その申請手続がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは,開発許可をしなければならない。
一 当該申請に係る開発区域内の土地について,用途地域,特別用途地区,特定用途制限地域,流通業務地区又は港湾法第39条第1項の分区(以下「用途地域等」という。)が定められているときは,予定建築物等の用途が当該用途地域等(中略)に適合していること。
(中略)
七 開発区域内の土地が,地盤の軟弱な土地,がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは,地盤の改良,擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること。
(以下略)
3 争点
 本件の主要な争点は,以下の各点である。
① 参加人の行った主張及び立証が,時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)として却下されるべきかどうか。    
② 原告らが本件各確認処分の取消訴訟における原告適格を有するかどうか。すなわち,原告らが本件各確認処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条1項)に当たるかどうか。
③ 本件各確認処分が違法かどうか。
④ 本件国家賠償請求の成否
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点①について
【原告らの主張】
 参加人は,本件訴訟提起時から訴訟参加の機会を与えられていたにもかかわらず,原告らが最終準備書面を提出した後,弁論終結が予定されていた第8回口頭弁論期日の前日になって,濫用的に訴訟参加を申し立てた。そして,参加人が訴訟参加後に提出した平成17年8月31日付け準備書面(1)及び同年9月20日付け準備書面(2)に係る主張並びに丁1号証の1ないし34号証の各証拠(以下「本件攻撃防御方法」という。)の中には新規のものも少なくないから,民事訴訟法157条1項の「故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」に当たり,「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」ものであるから,却下されるべきである。
【参加人の主張】
 原告らの主張が,参加人による本件訴訟への参加申立て自体が時機に後れた攻撃防御方法であり,当該申立てに基づく本件参加許可決定は違法であるから,本件参加許可決定に基づいて参加人が提出した準備書面も時機に後れた攻撃防御方法となり排斥されるべきである旨の主張であるとすれば,誤りである。
 なぜなら,攻撃防御方法とは,本案の申立てを基礎付けるためにする判断資料のことをいい,訴えの変更や反訴の提起は上記攻撃防御方法には当たらないところ,行政事件訴訟法22条1項に基づく訴訟参加の申立ては,訴えの提起に準ずる性質の行為であるから,上記攻撃防御方法ではない。そして,訴訟参加を許可する旨の決定がされた場合,参加人が提出する攻撃防御方法が時機に後れたものであるか否かを判断するための起算日は,当該許可決定の日であるから,当該許可決定がされた後,相当の期間内に提出された準備書面は時機に後れた攻撃防御方法ではないというべきである。
 本件についてこれをみると,参加人は,本件参加許可決定がされ,裁判所の指示した期限内に本件攻撃防御方法を提出したのであるから,本件攻撃防御方法の提出は時機に後れたものとはいえない。
(2) 争点②について
【原告らの主張】
ア 原告らは,本件各確認処分に基づく本件建築物の建築により,それぞれ以下のような法益の侵害を受け,又は必然的にその侵害を受ける。
(ア) 日照権の侵害
 原告fは,本件建築物の建築により,同人の居宅及びその敷地の日照を奪われ,また,冬至日において,同人の家作甲は最大約2時間45分の日照を,同家作乙は最大約1時間10分の日照をそれぞれ奪われるという被害を受ける。
(イ) 住環境権,景観権侵害
 本件建築予定地を含む土地は,江戸時代から地域住民が大切に守ってきた自然林が豊かな森を形成しており,風致地区ないし緑地保全地区に指定されている。また,本件建築予定地の北側には古道「丙」が通り,その途中には旧家「丁」が朱い門を構えて建ち,付近の住民等に親しまれている。上記のような本件建築予定地を中心とした周辺地域の良好な住環境は,原告らを含む住民が,共通の理解の下に景観等を維持すべくお互いに協力と自己規制を長期に継続して来た結果形成されたものであり,原告らを含む住民の自己犠牲を伴う継続的な努力によって作り出されたものである。このようにして形成された良好な住環境を,原告らを含む住民は自ら維持する義務を負うとともに,その維持を相互に求める利益,すなわち住環境権,景観権を有すると解すべきである。そして,建築物の高さが10mに制限されている本件建築予定地に,30m近い高さがある無機質で巨大なコンクリートの塊である本件建築物が建築されることによって,上記原告らの住環境権,景観権は,侵害される。
(ウ) 風害
原告f,同a及び同bは,本件建築物の建築により,弱い風でも,住居の屋根瓦,雨樋,雨戸,テレビアンテナ等が吹き飛ばされ,また,同人らの睡眠が妨げられることになるという被害を受ける。
(エ)プライバシー権の侵害
 原告f,同a,同b及び同dは,本件建築物の建築により,本件建築物の居住者に本件建築物の窓,メゾネット上階,ルーフバルコニー等から見下ろされることになり,プライバシー権の侵害を受ける。
(オ) 本件建築物の建築工事による損害
a 原告f,同a,同b及び同dは,本件建築予定地周辺の谷あいになった位置に住居があり,また,原告cは,本件建築予定地の上方に住居があるため,本件建築物の建築工事中の騒音,震動,大型工事車両から排出され滞留する排気ガス等により,健康を害され,家屋の立て付けが悪くなり,風呂のタイルがひび割れする等の被害を受けた。
b 原告e及び同fは,同人らの住居が面する,狭くて,軟弱で,構造的に大型車の通行を予定していない道路を,毎日40台以上(往復80台以上)もの10トンダンプカーや生コンクリートミキサー車が通ることによって発生する振動により,家屋の屋根瓦,立て付け,風呂及び便所のタイル等に被害を受けた。
c 原告fは,本件建築物の建築工事中の騒音及び震動により,平成15年4月から数ヶ月間同人の家作に賃借人が入らないという経済的損失及び精神的苦痛という被害を受けた。
d 原告cは,本件建築物の建築工事期間中,常にがけ崩れの危険にさらされ,また,建築工事中の騒音・震動により著しい精神的苦痛を受け,さらに,利用していた井戸の水質が変化したため飲料用として使用できなくなり,将来枯渇する危険にさらされているという被害を受けている。
(カ) その他の被害 
 原告f,同a及び同bは,本件建築物の建築により,本件建築物の巨大なコンクリート壁による圧迫感,照返し,風圧,反響音,入居者の発する声並びに立体駐車場から発生する機械音及びエンジン音等の騒音,光害等の被害を受け,今後も受け続けることとなる。
また,原告fは前記(ア),(イ)の事由により,その余の原告らは同(イ)の事由により,その所有する不動産の資産価値が低下するという損害を受けた。
イ 原告らが上記アの事由により,原告適格を有することについて 
(ア) 原告fの原告適格について
 最高裁判所平成14年3月28日第一小法廷判決は,法59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可の事案において,法が「当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は,総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有する」と判断している。
 本件において,原告fが上記「日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者」であることは明白であるから,上記判示の趣旨からしても,原告fが本件各確認処分の取消訴訟における原告適格を有することは明らかである。
(イ) 原告f以外の原告らの原告適格について
 原告f以外の原告らは,前記ア記載のとおり,景観被害,風害,光害,交通被害,プライバシー侵害等の生活環境上の不利益を受けるものであり,以下述べるとおり,平成17年4月1日に施行された改正行政事件訴訟法に照らせば,これらの原告らも本件各確認処分の取消訴訟における原告適格を有する。
a 行政事件訴訟法9条2項の改正趣旨
 上記改正後の行政事件訴訟法9条2項は,第三者の原告適格を「実質的に拡大」するための考慮事項を定めた規定であり,同項の「法令の規定の文言のみによることなく」とは,従前のように細かな法律,施行令,施行規則等の条文を詮索することなく,原告適格を広く認める方向で同項所定の考慮事項を考慮せよ,という趣旨である。したがって,上記行政事件訴訟法改正の趣旨を踏まえて,原告適格の実質的拡大を図るべく,ゆるやかな原告適格の解釈を行うべきである。
b 本件における原告適格の判断
 法は,建築主はもちろんのこと,それ以外の国民の生命,健康及び財産の保護を図る目的を持ち,法第3章において,絶対高さ制限,斜線制限,建ぺい率,容積率及び接道義務等を定め,建築確認制度等によって建築物を巡る様々な利害を調整する法律であるから,法及びその関連法体系の趣旨にかんがみ,建築確認という行政処分が違法であった場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度によっては,個別事案に応じて,当該建築確認処分の取消訴訟において,処分の相手方以外の者も原告適格を有するというべきである。
 本件についてこれをみると,上記アで述べたとおり,原告f以外の原告らも,景観被害,風害,光害,交通被害,プライバシー侵害等の生活環境上の不利益を受けるところ,法,特に法第3章のいわゆる集団規定は,建築主の利益と建築予定地の周辺に居住する住民の不利益を調整することを目的とした規定であって,周辺住民の生活環境上の利益を保護する趣旨を含むと解される。そうすると,法第3章のいわゆる集団規定は,建築予定地から遠く離れた場所に居住する者の利益を個別的に保護しているとはいい難いとしても,絶対高さ制限,容積率制限,日影規制等により保護される範囲に居住する住民の利益を保護しているというべきである。
 したがって,原告f以外の原告らも本件各確認処分の取消訴訟における原告適格を有する。
【被告検査機構の主張】
ア 行政事件訴訟法9条1項は,処分の取消しの訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限り,提起することができる旨規定しているところ,上記「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解される。
 そして,本件建築物の建築による原告らへの直接的な損害ないし損害の可能性としては,①原告fに対する日照侵害,②本件建築物から発生した火災により原告らの住居が類焼した場合の損害,③本件建築物の倒壊等による損害,④風害及び電波障害が考えられる。
イ ①原告fに対する日照侵害について
 本件建築物の建築によって,原告fに対する日照侵害が発生することは事実である。
 しかし,法は,同法が定める日影規制の基準を超える日照侵害を受けないという限度で日照利益を保護していると解されるところ,本件建築物は,法56条の2第1項及び横浜市建築基準条例による日影規制の基準を満たしている。
 したがって,本件各確認処分は,原告fの法律上保護された日照利益を侵害するものではない。
ウ ②本件建築物から発生した火災による損害について
 本件建築物は,法6条1項が定める建築基準関係規定(以下,「建築基準関係規定」という。)に適合する耐火建築物であり,かつ,法令に基づく各種の防火設備を備え,火災及び類焼の防止に十分な配慮がされているから,本件建築物から火災が発生した場合に原告らの住居に直接類焼する可能性は極めて低い。
 また,本件建築物は,地上3階地下7階建ての建物であるところ,本件建築物の地階部分は,その西側部分を除いて土中にあり,本件建築物の北側に位置する原告fの住居並びに本件建築物の南側に位置する原告a及び同bの住居に類焼することは通常ないと考えられるし,その位置関係からして,本件建築物から発生した火災がその他の原告らの住居に類焼することは一層考えにくい。
エ ③本件建築物の倒壊等による損害について
 本件建築物は,地上3階地下7階建ての建物であるところ,本件建築物の西側部分はほぼ全面が地面上にあるのに対し,本件建築物の東側,南側及び北側の各地階部分は土中にあるから,本件建築物が全体的に倒壊する場合には,西側に倒壊することが予想される。したがって,本件建築物が倒壊した場合,本件建築物の北側に位置する原告fの住居,本件建築物の南側に位置する原告a及び同bの住居に直接的な被害を与える可能性はないし,その位置関係からして,その他の原告らの住居については一層その可能性がないといえる。
 また,本件建築物の地上階部分の北側及び南側が崩壊したとしても,本件建築物の西北側に位置する道路,北東側に位置するマンション,南側に位置する建設予定のマンション等に被害が及ぶだけで,原告らの住居に直接的な被害を与えることは通常考えられない。
オ ④風害及び電波障害について
 風害及び電波障害を受けない利益は,そもそも上記アの「法律上保護された利益」とはいえない。
カ 以上のとおり,本件建築物の建築が,原告らの権利若しくは法律上保護された利益を侵害し,又は必然的に侵害するおそれがあるとはいえないから,原告らは,本件各確認処分の取消しを求める「法律上の利益を有する者」とはいえず,本件各確認処分の取消訴訟における原告適格を有しない。
【参加人の主張】
 原告らの住居は本件建築予定地から遠く離れているし,原告fの居宅及び家作は本件建築物によって受忍限度を超える悪影響を受けていない。
 また,原告a及び同bは,仮に本件建築予定地における開発工事開始前はがけ崩れのおそれがあるとして原告適格が認められたとしても,上記開発工事によってがけが撤去され,がけ崩れや落石のおそれがなくなったのであるから,原告適格は消滅したというべきである。
 したがって,原告らは本件各確認処分の取消訴訟における原告適格を有しない。
(3) 争点③について
【原告らの主張】
ア 盛土による建築基準法違反について
 本件建築計画においては,以下述べるとおり,本件各規制に適合するかどうかを判断するに当たって基準となる地盤面を人為的に操作し本件各規制を潜脱する目的で本件建築予定地に盛土が行われている。そして,本件各確認処分は,上記盛土が行われた後の地盤面を基準として,本件建築計画が本件各規制に適合すると判断してされたものである。したがって,本件各確認処分は,本件建築計画が実質的には本件各規制に違反しているにもかかわらずされたものであるから,違法である。
(ア) 盛土に対する法的審査について
a 土地所有者等による盛土は,全く自由というわけではなく,一定の制限に服すると考えるべきである。したがって,本件各規制に適合するかどうかを判断するに当たって基準となる地盤面は,常に盛土後の地盤面というわけではなく,盛土前の地盤面その他適切と考えられる地盤面を基準とすべき場合もあるというべきである。
b 被告らは,切土・盛土の適法性については都市計画法上の開発許可を行う段階で判断されており,建築主事ないし指定確認検査機関(以下「建築主事等」という)は当該開発許可の当否を審査する権限はない旨主張する。
 しかし,一つの事実行為が異なる趣旨目的を持つ様々な個別行政実体法によって,別の次元から評価され,別の規制に服するのは当然であるところ,都市計画法上の開発行為として盛土を行う場合,開発許可を行うに当たっては,建築基準法上の規制に適合するかどうかが審査されるわけではなく,また,開発許可処分と建築確認処分とでは,行政処分の性質のみならず判断権者も異なる。したがって,盛土という事実行為が,都市計画法上の法的評価を受け,規制を受けると同時に,建築基準法上も法的評価を受け,その規制を受けるのは当然のことである。
 また,被告らの上記主張を前提とすれば,開発許可さえ得ていれば,どのような盛土をしても建築基準法違反を誰も審査をすることがなくなるということになり,不合理である。そして,仮に被告らの上記主張が平地における通常のマンション開発の場合には妥当するとしても,本件のように,開発行為と称して地盤面を操作するために盛土を行って地盤面を操作し,建築基準法を潜脱するような場合には当てはまらないというべきである。
c 参加人は,開発許可処分を行う都道府県知事等は,切土・盛土の適否及びその安全性を審査するのに対し,建築確認処分を行う建築主事等は,制度上,切土・盛土については知ることができず審査ができないから,盛土自体の是非を判断することができない旨主張する。
 しかし,開発許可処分を行う都道府県知事等は,地盤そのものについて安全・衛生の観点から審査するものであり,盛土による本件各規制違反を審査するわけではない。また,建築確認申請を行うに当たっては,都市計画法29条1項の規定に適合していることを証する書面を確認申請書に添付することが義務付けられている(法施行規則1条の3第11項)ところ,本件のように建築予定地が開発許可を受けた切土・盛土によって造成されるものであれば,建築主事等は,建築基準法6条に基づき当該建築予定地が当該開発許可の内容と同一かどうかを確認する必要があるから,切土・盛土を行った部分を示す平面図,断面図等が不可欠となり,これらの書面が確認申請書に添付されていなければ申請者に対し添付を要求すべきである。したがって,建築主事等は,上記書面によって,当該切土・盛土が合理的に必要なものかの審査を建築基準法の観点から行えるし,行わなければならないというべきである。
(イ) 本件における盛土の法的評価
a 日本建築主事会議基準総則研究会「高さ・階数の算定方法・同解説」(甲4号証)(以下「研究会解説」という。)及び横浜市取扱基準は,本件各規制との関係で基準となる地盤面(法施行令2条2項)の算定方法について,原則として盛土後に建築物が接する位置を同項の「建築物が周囲の地面と接する位置」としながら,敷地の衛生上若しくは安全上必要な範囲を超える盛土又は局部的盛土がされた場合については,それ以外の適切と考えられる位置をもって上記「建築物が周囲の地面と接する位置」とする旨定めているが,このような解釈は合理的な行政解釈であるといえる。
 本件建築予定地においては,北東側の隣地との境界線付近において,現況地盤は20m前後のレベルであったが,27mのレベルにまで盛土がされる計画になっている(おおむね別紙図面3の赤色着色部分。以下「本件盛土A」という。)。また,南東側の隣地との境界線付近には,高さ1mないし3mの盛土がされる計画になっている(おおむね別紙図面3の青色着色部分。以下「本件盛土B」といい,本件盛土Aと併せて「本件盛土」という。)。本件盛土を行う理由として考えられるのは,採光の確保だけであるが,実際には本件盛土のためにかえって通風採光は悪化し,敷地の衛生は悪くなっていることからすれば,本件盛土が地盤面操作を唯一の目的としてされたものであって,敷地の衛生上又は安全上の理由からされたものでないことは明らかというべきである。
b また,横浜市取扱基準(115頁)は,「付近の土地利用状況,地域性等を考慮しない盛土,撤去が容易な盛土等にあっては,建築物本体が接する外側の盛土前の地面(工作物の底盤の上端)において周囲の地面と接するもの」とする旨定め,その116頁においてその具体例を図示しているところ,本件盛土は正に上記具体例にあるような形態の盛土であるし,風致地区内及び第1種低層住居専用地域内にある本件建築予定地において,10mの絶対高さ制限があるにもかかわらず10m近い盛土を行うという行為が,上記「付近の土地利用状況,地域性等を考慮しない盛土」に当たることは明らかである。
c さらに,本件盛土は,横浜市が制定した「横浜市斜面地における地下室建築物の建築及び開発の制限等に関する条例」(以下「本件条例」という。)4条において規制されている「斜面地開発を行う場合」において「地下室建築物の延べ面積を増加させることとなる盛土」,いわゆる「意図的な盛土」に当たるというべきである。
d したがって,本件建築物が本件盛土がされた後の地面と接する位置をもって,前記第2,2(3)の,法施行令2条2項,法52条3項,横浜市取扱基準及び法別表第4の「建築物が周囲の地面と接する位置」(以下単に「建築物が周囲の地面と接する位置」という。)とすることはできず,それ以外の適切と考えられる位置をもって「建築物が周囲の地面と接する位置」とすることになる。
(ウ) 第1種低層住居専用地域内における建築物の高さ規制(法55条)ないし高度地区内の高さ規制(法58条)違反
 「建築物が周囲の地面と接する位置」を本件盛土前の地面と本件建築物が接する位置とすれば,高さ規制ぎりぎりの高さに設計されている本件建築物が高さ規制に違反することは明らかである。
 また,斜面地においては盛土が敷地の衛生上又は安全上必要とされる場合もあるから,「建築物が周囲の地面と接する位置」を敷地の衛生上又は安全上必要とされる盛土がされた後の地面と本件建築物が接する位置とするとしても,本件建築物が,少なくとも乙6号証の1の「領域(2)」の部分において最低でも0.58mほど規制された高さを超えることは確実である。
(エ) 容積率規制(法52条)違反
 本件建築計画は,地階部分の容積率不参入規定(法52条2項)を使うことで,指定容積率80%ぎりぎりの容積率(74.73%)とするものであるから,「建築物が周囲の地面と接する位置」を本件盛土前の地面と本件建築物が接する位置とする場合はもちろんのこと,敷地の衛生上又は安全上必要とされる盛土がされた後の地面と本件建築物が接する位置とするとしても本件建築物が容積率規制に違反することになることは明らかである。
(オ) 日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)違反
 「建築物が周囲の地面と接する位置」を本件盛土前の地面と本件建築物が接する位置とする場合はもちろんのこと,敷地の衛生上又は安全上必要とされる盛土がされた後の地面と本件建築物が接する位置とするとしても,本件建築物は,原告fの住居及び家作に法56条の2が定める限度を超える日影を生じさせる。
 また,「建築物が周囲の地面と接する位置」を本件盛土前の地面と本件建築物が接する位置とした場合,法56条の2第1項の「平均地盤面」は海抜18.61mになるところ,この平均地盤面に基づくと,2時間の等時間日影線は本件建築予定地と隣地との境界線から10mのラインを大きく超え,また,3時間の等時間日影線も本件建築予定地と隣地との境界線から5mのラインを大きく超えることになる。
 したがって,本件建築物は法56条の2が定める高さ規制に違反していることとなる。
イ 本件空間に起因する第1種低層住居専用地域内における建築物の高さ規制(法55条)ないし高度地区内の高さ規制(法58条)違反について
(ア) 法施行令2条1項6号は,建築物の高さを地盤面からの高さによるとし,「建築物」の意義については,法2条1号が「土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。),これに附属する門若しくは塀,観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所,店舗,興行場,倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋,プラットホームの上家,貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい,建築設備を含むものとする。」と規定している。
 しかし,法施行令2条1項6号の「建築物」の意義を,上記法2条1号の「建築物」と同義と解すると,建築物に附属の門・塀がある場合,その門・塀が地面に接する高さも基準となることとなるが,そのような解釈運用は,建築基準法上の高さ制限の趣旨に適合しないだけでなく,行政実務にも適合しない。特に,建築物と附属の門・塀が設置されている地盤に相当な高低差がある場合にまで当該附属の門や塀が地面と接する高さを基準とすることは建築物本体の高さ制限の趣旨に適合しない。
 したがって,建築物と附属の関係がある門や塀であっても建築物の高さの算定においては対象外となると解されるから,附属の関係にある他の工作物や施設については原則として建築物の高さの算定において対象とされるべきではない。けだし,法2条1号は建築物を3つの類型の工作物とこれらの建築設備に限定しており,建築物の高さの算定において拡大解釈は許されないからである。
上記のところからすると,本件空間は,法2条1号「土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの」に当たらないから,本件建築物ないしこれと一体のものとして建築物の高さ算定の対象とはならない。したがって,本件建築物の高さについては,本件建築物本体が地面に接する高さのみを基準にすべきである。
(イ) また,上記(ア)の考え方によらないとしても,一定の空間を有する建築物であっても,当該空間が建築物本体と構造的,機能的に一体ではなく,別個の工作物というべきときは,その地盤面の設定に当たっては,建築物本体が実際に地面と接する位置をもって,法施行令2条2項の「建築物が周囲の地面と接する位置」と考えるべきである。そして,横浜市取扱基準(113頁及び114頁)は,からぼり等と建築物との一体性の判断において,当該空間が高さ5mを超えるかどうか,又は奥行き2mを超えるかどうかを基準としているところ,本件空間は,周壁の高さが5m,奥行きが2mをそれぞれ超えるものであるから,本件建築物本体と構造的,機能的に一体のものではなく,別個の工作物というべきである。したがって,本件建築物本体が実際に地面と接する位置をもって,法施行令2条2項の「建築物が周囲の地面と接する位置」とすることになる。
なお,本件空間については,本件各確認処分に対する審査請求の段階で,事業者らは,無意味な本件軽微変更をして本件空間に空調室外機置き場としてメンテナンス通路を設けることで,横浜市取扱基準(114頁)がいう「大規模な周壁を有するからぼり」とされることを免れているのであり,このような事情も勘案されるべきである。
(ウ) さらに,いわゆる「からぼり」が建築物の高さ算定の基準となるとしても,「からぼり」は,建築物の採光,換気等のために天空に開かれ,地表面上に底盤を設置するものであるから,原則としてその周壁の天端ではなく底盤をもって周囲の地面と接する位置とするべきである。
(エ) 上記のところからすれば,本件建築物については,本件空間の底盤を地盤面として高さを算定することになる。そして,本件空間が存在する領域は,乙6号証の3における「領域(5)」であるところ,本件空間の周囲を地盤面の計算に入れて計算すると,上記「領域(5)」における本件建築物の高さは10.06mとなり,少なくとも0.06mほど高さ規制に違反することになる。
ウ 屋上突出部分の第1種低層住居専用地域内における建築物の高さ規制(法55条)ないし高度地区内の高さ規制(法58条)違反について
 横浜市取扱基準(118頁)は,法施行令2条1項6号ロの「建築物の屋上部分」について,「居室,倉庫又は下階と用途上一体的に利用する吹抜きの部分等は,屋上部分とはみなしません。」と定めているところ,本件建築物には,メゾネット住戸の上階部分に当たる塔屋が3か所あり(別紙図面4の斜線部分。以下「本件塔屋部分」という。),この本件塔屋部分は下階のリビングダイニングと一体となっているし,本件塔屋部分の階段室踊り場には屋上に出るドアの先に約1.5㎡の空間が存在し,家具を置くなど倉庫としての利用も十分できるようになっているから,上記取扱基準によれば屋上部分とはみなせない。
 また,横浜市取扱基準(120頁)は,「昇降機塔,装飾塔,物見塔その他これらに類する建築物の屋上部分とは,当該部分以外の建築物の屋根の面より高い位置に設けられるもののうち,通常の使用時には人が侵入せず,かつ,用途上,機能上及び構造上屋上に設けることが適当であると認める部分をいう。」と定めているところ,本件塔屋部分の周りは各住戸のルーフバルコニーとなっていて,物干しや小規模なガーデニングなど各居住者が日常的に使用することを目的に設計されており,上記「通常の使用時には人が侵入」しないとはいえないから,本件塔屋部分は建築基準法上の「階」に当たる。
 したがって,本件塔屋部分は,法施行令2条1項6号ロ条の要件を満たさないから,法55条ないし法58条に違反する。
エ 入力数値の誤りに起因する日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)違反について
本件建築計画の建築確認申請書に添付されていた「基準法日影図(緩和)21.04+1.5m」(乙7号証の2)における本件建築物の形状及び高さ入力値は,「Z10階・ZR階平面図」(乙10号証の10)のそれと食い違っており,上記「Z10階・ZR階平面図」を基に日影図を作成すると,測定面21.04+1.5mにおいても,2時間の等時間日影線が本件建築予定地と隣地との境界線から10mのラインを大きく超え,また,3時間の等時間日影線が本件建築予定地と隣地との境界線から5mのラインを大きく超える。
したがって,本件各確認処分は,日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)に違反している。
オ 景観権,住環境権の侵害による違法について
 本件建築予定地を含む土地は,江戸時代から地域住民が大切に守ってきた自然林が豊かな森を形成しており,風致地区ないし緑地保全地区に指定されている。また,本件建築予定地の北側には古道「丙」が通り,その坂の途中には旧家「丁」が朱い門を構えて建ち,付近の住民等に親しまれている。上記のような本件建築予定地を中心とした周辺の良好な住環境は,原告らを含む住民が,共通の理解の下に,景観等を維持すべくお互いに協力と自己規制を長期に継続して来た結果形成されたものであり,原告らを含む住民の自己犠牲を伴う継続的な努力によって作り出されたものである。このようにして形成された良好な住環境を,原告らを含む住民は自ら維持する義務を負うとともに,その維持を相互に求める利益,すなわち住環境権,景観権を有する。
そして,建築物の高さが10mに制限されている本件建築予定地に,30m近い高さがある無機質で巨大なコンクリートの塊である本件建築物が建築されることによる原告らの住環境権,景観権の侵害は,原告らの受忍限度を超えるものであり,不法行為が成立するところ,このような建築主の不法行為を是認した本件各確認処分は違法である。
【被告検査機構の主張】
ア 盛土による建築基準法違反について
(ア) 盛土に対する法的審査について
 建築確認において,建築主事等は,建築確認申請図書に基づき,当該建築計画が建築基準関係規定に適合しているかどうかを形式的に審査するものであり,建築確認処分は確認的行為であって裁量の余地がない(法6条4項)から,他の許可権者が判断した事項については,明確な違法がない限り実質的な審査権限はない。したがって,建築予定地について,都市計画法上の開発許可を受けて造成工事がされる場合には,建築確認審査においては,当該許可を受けて造成される敷地の地盤面をその後に建築される建物の敷地の地盤面として審査すれば足りるのであり,盛土の必要性や合理性を判断する権限を有していない建築主事等としては,盛土の存在を前提として,地盤面を算定し,建築確認処分をするほかない。
(イ) 第1種低層住居専用地域内における建築物の高さ規制(法55条)ないし高度地区内の高さ規制(法58条)について
a 本件建築予定地は第1種低層住居専用地域に指定されているから,法55条1項,横浜市建築基準条例,高度地区の告示等により,建築物の高さは10mを超えてはならないこととなるが,建築物の高さについては,法施行令2条1項6号において,「地盤面からの高さによる。」と規定され,上記「地盤面」とは,法施行令2条2項において,「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が3メートルを超える場合においては,その高低差3メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。」と規定されている。
 そして,本件建築予定地は高低差がおおむね30mあり,地面の一番高いところから高低差3mごとに分けると9領域あるが,各領域における建築物の最高の高さは10mを超えていないので,本件建築計画は法55条ないし法58条に適合している。
b 原告らは,研究会解説において定められた「盛土後に建築物が接する位置を『建築物が周囲の地面と接する位置』とする。ただし,敷地の衛生上,安全上必要な範囲を超える盛土又は局部的な盛土がなされる場合においては,当該盛土後に建築物が接する位置以外の適切と考えられる位置を『接する位置』として設定する。」という規定のただし書を適用すべきである旨主張する。
 しかし,本件の場合,上記ただし書ではなく上記本文を適用すべきであるから,本件建築物と開発行為後の地面が接する位置が上記「建築物が周囲の地面と接する位置」となる。
(ウ) 容積率規制(法52条)について
 法52条2項は,「建築物の容積率・・・の算定の基礎となる延べ面積には,建築物の地階でその天井が地盤面からの高さ1メートル以下にあるものの住宅の用途に供する部分の床面積(当該床面積が当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の3分の1を超える場合においては,当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計の3分の1)は,算入しないものとする。」と規定している。
 本件建築物の総延床面積は4794.56㎡,自動車車庫等の部分の床面積は51.75㎡であるから,住宅の用途に供する部分の床面積は4742.81㎡であり,その3分の1の床面積は1580.93㎡である。他方,本件建築物の地階で,その天井が地盤面からの高さ1m以下にあるものの住宅の用途に供する部分の床面積は1513.92㎡であり,上記本件建築物全体の住宅の用途に供する部分の3分の1の床面積1580.93㎡より小さいから,この床面積1513.92㎡を容積率算定の基礎となる延べ面積に算入しないことができる。
 したがって,本件建築物の総延床面積4794.56㎡から,上記地階でその天井が地盤面からの高さ1m以下にあるものの住宅の用途に供する部分1513.92㎡,共同住宅の共用の廊下等の部分1152.35㎡及び自動車車庫等の部分51.75㎡をそれぞれ差し引いた2076.54㎡が容積率算定の基礎となる延べ面積となる。そうすると,本件建築物の容積率は74.73%となって指定容積率80%以下となるから,本件建築計画は容積率規制(法52条)に適合している。
(エ) 日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)について
 本件建築予定地は,第1種低層住居専用地域に指定され,また,本件建築物は,法56条の2第1項,横浜市建築基準条例4条の4により,「軒の高さが7メートルを超える建築物又は地階を除く階数が3以上の建築物」に該当するから,冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時までの間において,平均地盤面からの高さ1.5mの水平面に敷地境界線からの水平距離が10m以内の範囲において3時間以上,10mを超える範囲において2時間以上の日影となる部分を生じさせないことが必要となる。
 そして,法56条の2第1項,第3項,法施行令135条の12第1項2号及び横浜市建築基準条例4条の4の規定により,上記日影3時間制限部分の最大日影時間は2時間57分であり,また,上記日影2時間制限部分の最大日影時間は1時間59分となる。したがって,本件建築計画は日影による中高層の建築物の高さ規制(法56条の2)に適合している。
イ 本件空間に起因する