hanrei @Wiki H18. 2.23 東京地方裁判所 平成15年(行ウ)第152号 平成16年(行ウ)第475号 閲覧謄写申請不許可処分取消請求事件



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平成18年2月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(行ウ)第152号 閲覧謄写申請不許可処分取消請求事件(以下「A事件」という。)
平成16年(行ウ)第475号 閲覧謄写申請不許可処分取消請求事件(以下「B事件」という。)
口頭弁論終結日 平成17年11月17日
           判          決

     主       文
 1 被告が平成15年2月25日付けでした原告の閲覧謄写申請に係る処分のうち,別表記載の閲覧謄写不許可部分を取り消す。
 2 原告のその余の訴えをいずれも却下する。
 3 訴訟費用は,これを2分し,それぞれ各自の負担とする。
   事実及び理由
第1 請求
1 A事件関係
  被告が平成15年2月25日付けでした原告の閲覧謄写申請に係る処分のうち,別紙1-1記載の閲覧謄写不許可部分を取り消す。
2 B事件関係
被告が平成16年7月22日付けでした原告の閲覧謄写申請に係る処分のうち,別表記載の閲覧謄写不許可部分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,平成14年9月6日付けで,被審人株式会社北海道新聞社に対する平成10年(判)第2号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件につき,同法(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)69条に基づき,事件記録全部の閲覧謄写申請をしたところ,被告は,(1)平成15年2月25日付け公官審第39号をもって,一部許可決定を行った後に,(2)平成16年7月22日付け公官審第573号をもって,(1)の決定によって閲覧謄写を不許可とした部分の一部につき閲覧謄写を許可する旨の決定を行ったため,原告が,上記(1)及び(2)の処分につき,閲覧謄写を不許可とされた部分の各取消しを求めている事件である(それぞれA事件及びB事件)。
 これに対し,被告は,B事件に係る訴えに関して,(2)の処分は(1)の処分を変更したものにすぎず,同処分と別個の処分ではないから,同訴えは不適法であるとして,却下を求めるとともに,A事件に係る訴えに関しても,(2)の処分によって閲覧謄写を許可された部分については訴えの利益がないとして,当該部分の取消しを求める部分の却下を求め,その余の部分について棄却を求めている。
 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 当事者等
ア 原告は,北海道函館市及びその周辺地域において,一般日刊新聞の発行等を業とする株式会社である。
イ 被告は,平成10年3月6日,北海道を販売地域として一般日刊新聞の発行業を営む被審人である株式会社北海道新聞社(以下「被審人」という。)に対し,被審人が,原告の参入を妨害し,その事業活動を困難にする目的で講じた,函館対策と称する一連の行為(下記(ア)ないし(エ)記載のとおり)によって,原告の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,函館地区における一般日刊新聞の発行分野における競争を実質的に制限しており,これは,独占禁止法2条5項に規定する私的独占に該当し,同法3条の規定に違反するとして審判手続を開始した(平成10年(判)第2号独占禁止法違反審判事件。以下「本件審判事件」という。)(乙1)。なお,本件審判事件は,公開の審判廷で行われた。
               記
(ア) 函館地区で新聞を発行する場合に使用されると目される複数の新聞題
字を選定し,これらにつき商標登録を出願することによる新聞題字対策
(イ) 原告が国内外の一般ニュースの配信を受けることを困難にするため株式会社時事通信社に対して行った要請活動による通信社対策
(ウ) 原告の広告集稿活動を困難にさせるため,損失を予測しつつ行った大幅な割引広告料金設定等の広告集稿対策
(エ) 原告が株式会社テレビ北海道に対して行ったテレビコマーシャル放映
申込みに応じないよう要請する活動によるテレビコマーシャル対策
(2) 本件での閲覧謄写申請に至る経緯
ア 原告は,別紙2記載のとおり,平成10年10月15日から平成13年3月28日までの間,合計13回にわたり,被告に対し,独占禁止法69条に基づき,本件審判事件の事件記録の閲覧謄写を申請した(乙3ないし14の2)。
イ 被告は,原告の上記各申請に対し,別紙2記載のとおり,本件審判事件の準備書面,審判調書,速記録等について全面的に閲覧謄写を許可したが,審査官申出に係る書証,同意審決申出書添付の同意審決に係る具体的措置に関する計画書及び「函館対策」に関して採った措置についての報告書については,一部のみ閲覧謄写を許可した(以下,被告のこれらの処分をまとめて「本件前処分」と総称する。)(乙3ないし7,9ないし11,16,17)。
ウ 被審人は,平成12年2月7日,独占禁止法53条の3の規定に基づき,本件審判事件につき,同意審決を受けたい旨の申出をした。被告は,被審人が提出した具体的措置に関する計画書等を精査し,これらを適当と認め,同月28日,上記規定に基づき,同意審決を行い,これにより,本件審判事件は終了した(乙2)。
エ 原告は,平成14年4月26日,被審人を被告として,前記(1)イ(ア)ない
し(エ)の行為等が,原告に対する(民法上の)不法行為に該当するとして,12億8357万9811円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した(甲3)。
オ 原告は,平成14年12月27日,被審人を被告として,独占禁止法25条の規定に基づき,前記(1)イ(ア)ないし(エ)の行為による損害のうち,上記エの訴訟において請求していなかった部分に相当する1億5581万4769円の支払を求める訴訟を東京高等裁判所に提起した(甲5)。
カ 被審人は,上記エ及びオの訴訟のいずれにおいても,独占禁止法違反の事実を争う態度を示した(甲4,6)。
(3) 本件で問題となる原告の閲覧謄写申請及びこれに対する被告の対応
ア 原告は,平成14年9月6日付けで,被告に対し,「独禁法25条の損害賠償請求訴訟提起のため」として,独占禁止法69条に基づき,本件審判事件の事件記録全部の閲覧謄写を申請した(以下「本件申請」という。)(甲1,乙15)。
イ 被告は,本件申請に対し,平成15年2月25日付け公官審第39号決定をもって,本件審判事件の事件記録のうち,第3回から第7回までの審査官提出の準備書面(以下「本件文書1」と総称する。)の一部のみにつき,閲覧謄写を許可する旨の処分(不許可部分は別紙1-1記載のとおりであり,以下「本件第1処分」という。)をした。その際,被告は,①本件文書1の中で閲覧謄写させない部分(被審人の従業員の一部の氏名,被審人以外の第三者の従業員の一部の氏名,一部の書証の引用部分等であり,以下「本件不許可部分1」という。)については,個人情報又は事業者の秘密に該当することを,②上記文書以外の文書(以下「本件文書2」と総称し,そのうち,原告に対して一度も閲覧謄写が許可されていない部分を「本件不許可部分2」という。)については,一度実施した処分の見直しを求めるにすぎないことを,それぞれ不許可の理由とした。
   ウ 被告は,独占禁止法25条に基づく損害賠償請求訴訟制度の有効な活用を図るため,裁判所又は訴訟当事者から求めがあった場合の資料提供について,平成3年5月15日付けで,「独占禁止法違反行為に係る損害賠償請求訴訟に関する資料の提供等について」という要領(甲7)を作成し,本件第1処分当時,これに基づいて資料提供を行っていた。なお,同要領は,事業者の秘密,個人のプライバシー,事件処理手続上の問題(将来の事件処理に具体的に支障が生ずることが明らかに認められる等の場合)に関しては,被告が,資料の一部を抹消する等の配慮をした上で,これを提出する旨定めていた。
   エ 被告は,平成16年6月30日付けで,「独占禁止法第69条の規定に基づく閲覧謄写に係る審査基準」(以下「本件基準」という。)(乙18)を新たに作成し,公表した。
 本件基準には,以下の記載がある。
「公正取引委員会においては,独占禁止法69条の規定に基づく事件記録の閲覧謄写(以下「69条閲覧謄写」という。)の請求について,今後,以下の審査基準に基づいて対応する。」 
(ア) 利害関係人-1項(1)ア③,同(1)イ
a 69条閲覧謄写は,当該事件記録に係る審判事件の「利害関係人」に認められている。ここでいう「利害関係人」は,以下のものである。
(a) 当該審判事件の対象をなす違反行為の被害者(以下「69条被害者」という。)
(その余は省略)
b 請求者が69条被害者に該当するかどうかについては,個別の請求ごとに判断するが,例えば,①入札談合の違反行為における発注者,②違反行為によって市場から排除された競争事業者であって,違反行為者に対して損害賠償請求訴訟を提起する者などがこれに当たる。
(イ) 69条閲覧謄写の対象となる事件記録-1項(2)イ
 具体的には,69条閲覧謄写の対象となる事件記録とは,速記録・審判調書,答弁書・準備書面等の当事者の主張を記した書面,証拠申出書,供述調書,その他書証,審決案,異議申立書,その他手続に関する書面(呼出状等)である。
 なお,証拠の申出がなされている場合であっても,審判において当該証拠が採用されていないときには,当該証拠は事件記録に含まれない。
(ウ) 不開示の範囲について-1項(3)ア及びイ
a 前記「利害関係人」の法的利害関係の有り様は一様でなく,当委員会は,各請求者の法的利害関係の有り様に応じ,具体的事件ごとに開示する必要性と開示による不利益とを比較衡量し,開示する事件記録の範囲を定める。
b 69条被害者からの請求があった場合において,以下の情報については不開示とする。
(a) 個人に関する情報
ⅰ 不開示とする個人に関する情報は,例えば,以下のようなものである。
① 個人の生年月日・住所・学歴・病歴等
② 違反行為に関わらないと認められる個人の氏名
③ その他の個人の私生活上の情報
ⅱ なお,前記②以外の個人の氏名については,訴訟の提起・維持の便宜を図る観点から明らかにされる必要性が高いことなどから,不開示としない。
 また,速記録・審判調書に記載されている個人の氏名は,公開の審判廷で実際に陳述されたものであり,69条閲覧謄写において秘匿すべき必要性が低いと考えられる。このため,このような個人の氏名については,当該速記録・審判調書中において,不開示としない。
(b) 事業者の秘密
ⅰ 事業者の秘密とは,①非公知の事実であって,②事業者が秘匿を望み,③客観的にもそれを秘匿することにつき合理的な理由があるものである。
 例えば,事業者の製造原価・仕入価格を明らかにする情報,営業上のノウハウ等がこれに該当するものと考えられる。
 なお,これらの情報であっても,速記録・審判調書に記載されているものについては,前同様,不開示としない。
ⅱ 公正取引委員会は,必要に応じて,被審人等に対して,事業者の秘密として不開示を要する部分,不開示を要する具体的理由について照会することとする。
(c) 今後の事件処理に著しい支障を及ぼすおそれがある情報
 例えば,審査活動の端緒となった情報源の特定を可能とする情報等今後の当委員会の事件処理に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるものについては,不開示とする。
(d) その他公益上不開示とする必要があると認める情報
オ 被告は,平成16年7月22日付け公官審第573号決定をもって,本件基準に基づいて,本件第1処分において閲覧謄写を不許可とした部分の一部につき,閲覧謄写を許可する旨の決定(以下「本件第2処分」という。)をした。本件第2処分の結果,原告が閲覧謄写することができた本件審判事件の事件記録は,別表記載の閲覧謄写不許可部分を除く部分である(乙19,20)。
 2 争点
   本件の争点は以下の各点であり,これに対する当事者の主張の詳細は別紙3「当事者の主張」記載のとおりである。
  (1) 本件において,原告は,本件申請に対して当初行われた本件第1処分と,後にこれを変更した本件第2処分のいずれにつき取消しを求めるべきか(本案前の争点)。
  (2) 原告が本件申請以前に行った本件審判事件の事件記録の閲覧謄写申請につき被告が行った処分(本件前処分)との関係で,本件前処分に係る部分については,原告が,再度,閲覧謄写申請(本件申請)を行ったり,同申請を不許可とする処分につき取消訴訟を提起することは不適法となるのか(本案前の争点)。
  (3) 被告は,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写申請に対し,事業者の秘密等に該当することを理由として,事件記録のうち該当部分につき,閲覧謄写を不許可とすることができるのか。
  (4) 仮に(3)を肯定した場合,被告が,本件第1処分及び本件第2処分を通じて,最終的に閲覧謄写を不許可とした部分(別表記載のとおり)には,不許可事由が存在するか。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)について
本件において,被告が,いったん本件申請について本件第1処分を行った後に,本件基準(乙18)を新たに作成,公表し,これに基づいて新たに本件第2処分を行ったため,本件第1処分と本件第2処分との関係が問題となる。
 この点,本件第2処分が新たな基準に基づいて行われたことを重視すると,本件第2処分は本件第1処分とは別個の処分とも解し得るが,本件第2処分及び本件第1処分に対応する申請は本件申請のみであって,処分の個数は申請の個数に対応すると解するのが合理的であることからすれば,本件第2処分が本件第1処分とは全く別個の処分であるというべきではない。
 このように解してもなお,本件第2処分が行われたことによって本件第1処分の取消しを求める利益が喪失したともみえなくはないが,本件第2処分は,それによって新たに閲覧謄写を許可された部分についてのみ法的効果を及ぼす受益的な性質を有する処分であるから,同処分を受けた原告は,同処分についてその救済を求める訴えの利益はなく,専ら当初の処分(本件第1処分)の取消しを求めることをもって足りるというべきである。
 したがって,原告は,本件第2処分が行われた後も,なお,本件第1処分(ただし,本件第1処分及び本件第2処分を通じて閲覧謄写を不許可とされた部分(別表記載の閲覧謄写不許可部分)の取消しを求めるべきであって,B事件に係る訴えは不適法である。さらに,A事件に係る訴えのうち,本件第1処分において閲覧謄写を不許可とされたが,本件第2処分によって閲覧謄写を許可された部分(別紙1-1記載の部分から別表記載の閲覧謄写不許可部分を除いた部分)の取消しを求める部分についても,訴えの利益がないため,却下を免れない。
2 争点(2)について
(1) 被告は,本件文書2は,本件前処分により既に閲覧謄写が許可又は不許可とされた部分であり,原告が行政事件訴訟法(以下,特に断らない限り,平成16年法律第84号による改正前のものを指す。)の出訴期間を漫然と徒過したにもかかわらず,再度,開示申請したものであって,本件前処分の一事不再理効に抵触し,同法で定める出訴期間の制限を潜脱するものであるから不適法である旨主張するので,以下,この点について検討する。
 なお,原告は,被告によって,本件前処分において,本件不許可部分2の全部又は一部を対象として,閲覧謄写を不許可とする処分がされたこと自体を否認しているかのような主張もしている。
 しかし,前記前提事実(2)イのとおり,本件において,被告は,原告に対し,本件審判事件の証拠書類に関して,一部についてのみ閲覧謄写を許可しているところ,被告が,原告に対し,一部黒塗りされた文書を閲覧謄写させた場合には,当該黒塗り部分については,被告において閲覧謄写を許可しなかったことが明らかであり,また,複数の文書について同時に閲覧謄写が申請されたにもかかわらず,一部のみを閲覧謄写させた場合には,特段の事情のない限り,その余の文書については閲覧謄写を許可しない旨の被告の意思が明らかであるから,本件前処分において,上記のような閲覧謄写不許可処分がそもそも存在しない旨の原告の主張は採用できない。
(2) 行政処分には,出訴期間等の経過により行政行為の相手方がもはや当該行政行為自体の効力を争い得なくなるという効力(いわゆる不可争力)があると解されるところ,それ以上に,以後,当事者が当該行政行為によって定められた法律関係の内容に反する主張ができなくなるという裁判における既判力のような効力(被告がいう一事不再理効)をも有するものではないというべきである。これは,裁判における既判力のような効力は,独立した第三者機関が当事者の手続への参加,上訴審制度等の慎重な手続に基づいてした争訟の裁断等について例外的に認められるべき効力だからである。
 したがって,前記裁判における既判力のような効力を有しない行政行為は,出訴期間等が経過した後であっても濫用等にわたらない限りは,先の不可争力を生じた行政行為の内容に反する再申請をすることも許されると解するのが相当である。そして,このように解すると,出訴期間を設けて行政上の法律関係を早期に安定させようとした趣旨に反するようにもみえるが,これは行政行為が前記のように既判力のような効力を有しない以上やむを得ないことである。
 なお,被告は,最高裁判所昭和29年5月14日第二小法廷判決(民集8巻5号937頁参照)や最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決(民集41巻1号122頁参照)を引用して,自らの主張の根拠とするが,上記各判決は,いずれも,紛争の一回的解決が強く要請される事案に関するものであって,行政処分一般に妥当する判断を示したものとはいえない。
(3) そこで,本件についてみるに,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求について,いったん閲覧謄写を許可ないし不許可とする処分がされた場合に,同処分の対象であった文書等につき,再度,同条に基づく閲覧謄写請求をすることが許されない旨の法律上の規定はないから,上記の行政行為一般に関する議論は,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求にもそのまま妥当すると解するべきである。そもそも被告自身が,平成16年7月22日に,本件第2処分を行って,本件前処分の内容を変更していることにより,本件前処分が既判力のような効力を有するものではないことを自ら明らかにしたとさえいえる。
 そして,本件において,原告による本件申請が濫用にわたるものと認めるに足りる特段の事情はなく,むしろ,前記前提事実(2)エないしカのとおり,原告が,本件前処分後,被審人を被告として,本件審判事件の事実関係に関連して,平成14年4月26日,民法上の不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を,同年12月27日,独占禁止法25条に基づく損害賠償請求訴訟を,それぞれ提起し,しかも被審人が独占禁止法違反の事実を争っており,これによって,本件前処分後,原告が本件審判事件の事件記録を閲覧謄写すべき必要性は高まったものとみることができる。
 なお,被告は,本件において,本件前処分後に,何らの事情変更もない旨主張するが,既に検討したとおり,そもそも事情変更がなければ再申請(本件申請)が一切許されないものではなく,濫用にわたらない限り,再申請は許されるものであるから,被告の上記主張は,その前提が誤っている。
(4) 以上のように,本件前処分は既判力類似の効力を有するものではなく,かつ,原告による本件申請が,申請権の濫用にわたるような特段の事情もないから,本件前処分に関する行政手続法違反の有無,理由付記の必要性等について判断するまでもなく,①本件申請そのもの,及び②これを不許可とする処分(本件第1処分のうち別表記載の閲覧謄写不許可部分)につき取消訴訟を提起することは,いずれも適法であって,この点に関する被告の主張は理由がない。
3 争点(3)について
 (1) 独占禁止法69条により事件記録の閲覧謄写を許される「利害関係人」とは,当該事件の被審人のほか,同法59条及び60条により審判手続に参加し得る者及び当該事件の対象をなす違反行為の被害者をいう(最高裁判所昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)と解されているところ,本件では,前記前提事実(2)エ及びオ記載のとおり,原告は,被審人に対し,独占禁止法違反行為の被害者として損害賠償を請求する者であるから,同法69条にいう利害関係人として事件記録の閲覧謄写を請求し得る立場にある。
  その上で,被告は,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求に対しては,被告が定めた内部基準等に基づき,事業者の秘密や個人情報等が記載された部分につき,閲覧謄写を不許可とすることができる旨主張する。
 しかし,独占禁止法69条の規定上,審判開始決定後において,事件記録の閲覧謄写請求ができるのは「利害関係人」である旨の制限がかけられているほかは,同法上,閲覧謄写の対象となる文書につき,そこに記載された情報の性質等を理由として閲覧謄写を拒否できる旨の定めはない。
 そこで,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求に対して,所定の情報が記載されていることを根拠に,その一部ないし全部を拒否できるかどうかが問題となる。
(2)ア この点に関して,独占禁止法上の審判手続と類似の制度である民事訴訟手続について,事件記録上の秘密等がどのように保護されているかをみると,公開が原則とされる民事訴訟(憲法82条)においては,何人も訴訟記録の閲覧を請求することができ(民事訴訟法91条1項),公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録についても,当事者及び利害関係を疎明した第三者であれば,訴訟記録の閲覧を請求でき(同条2項),当事者及び利害関係を疎明した第三者は,訴訟記録の謄写等を請求できる(同条3項)とされている。
 このように,民事訴訟においては,たとえ弁論の公開が禁止された場合であっても,利害関係を有する第三者は,訴訟記録の閲覧を請求することができ,その際,裁判所が,訴訟記録上に記載された情報の性質を根拠に,その一部ないし全部の閲覧を禁止することはできない。
 そして,訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密や,当事者が保有する営業秘密が記載されている等,同法92条1項所定の要件を満たすことについて疎明があった場合に限り,裁判所は,当該当事者の申立てにより,決定で,当該訴訟記録中,当該秘密が記載等された部分について,閲覧・謄写等の請求をすることができる者を当事者に限ることができるのである(同法92条1項)。
 以上のように,民事訴訟においては,訴訟記録の閲覧謄写の制限は法律上の制度として定められている上,当事者からの申立てがあった場合に,裁判所が所定の要件を満たしているかどうか判断した上で,はじめて,訴訟記録の閲覧謄写を制限する旨の決定を下すこととされている。
イ(ア) 他方,独占禁止法53条によれば,同法上の審判は原則として公開さ
れ(同条1項本文),事業者の事業上の秘密を保つために必要があると認めるとき又は公益上必要があると認めるときは,これを公開しないことができることとされるにとどまる(同項ただし書)ものであって,同法上,事件記録の閲覧謄写請求に対し,当該事件記録上の情報の性質に応じて,その閲覧謄写請求を制限できる旨の規定や,同請求をすることができる者を当事者に限る旨の規定は置かれておらず,また,秘密保護のための閲覧等の制限に関する民事訴訟法92条1項を準用する旨の規定もない。
 なお,独占禁止法は,委員長,委員,職員等が,事業者の秘密を保持すべき義務を負う旨定めるなど(同法39条),事業者の秘密について一定の配慮を示しているとはいえるが,同条は,事件記録の閲覧謄写とは直接関係のない規定である上,同法69条の規定の仕方からすれば,同条は,同法39条の規定の例外規定であって,同法69条が優先的に適用されると解すべきである(利害関係人に対する事件記録の閲覧謄写は,同法69条が制度として予定しているのであるから,これは同法39条が禁止する「事業者の秘密を他に漏す」場合に該当するものではない。)。
 しかも,本件審判事件においては,審判が公開されていたのであるから(前記前提事実(1)イ),少なくとも,被告が,「事業者の事業上の秘密を保つために,審判を非公開とする必要がある」(同法53条1項ただし書参照)と判断しなかったことが明らかである。
(イ) 結局,独占禁止法には,事業者の秘密をはじめとする開示が制限される情報について配慮した規定が上記(ア)の限度でしかなく,同法自体においては,当該情報に関して,上記以上の保護を予定していることを読み取るのは困難というほかない。
 この点に関して,被告は,利害関係人に対して一律に事件記録の閲覧謄写を許可する場合の弊害についてるる主張する。
 確かに,被告は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)所定の「行政機関」に該当する(同法2条1項2号,内閣府設置法49条1項,3項,64条)が,同法が制定された後においても,被告の独占禁止法69条による事件記録の閲覧謄写制度には何ら手当てがされることがなかったことに加え,独占禁止法上,利害関係人が,一定の条件の下,当事者として審判手続に参加できること(同法59条)や,必要な事項の公表に関する同法43条と異なり閲覧謄写の範囲に関する特段の制限が規定されていないことをも勘案すれば,開示請求者に特段の制限のない情報公開法上の開示請求において不開示とされる情報であっても,主体が利害関係人のみに限られる独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求においては,これを閲覧謄写できると解するのが合理的であって,それにもかかわらず,強いて情報公開法の不開示事由の趣旨を独占禁止法にも及ぼすのは,無理があるといわざるを得ない。
(ウ) なお,被告は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「個人情報保護法」という。)所定の「行政機関」にも該当する(同法2条1項2号,内閣府設置法49条1項,3項,64条)から,同法8条1項により,法令に基づく場合を除き,利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し,又は提供してはならないとの義務を負う立場にある。
 そして,上記(ア)及び(イ)で検討したとおり,独占禁止法69条に基づく
閲覧謄写請求は,利害関係人であれば,何ら対象となる情報の制約を受けることなくこれを行うことができるとした趣旨にかんがみれば,独占禁止法69条に基づき,利害関係人が閲覧謄写請求をした場合は,個人情報保護法8条1項の「法令に基づく場合」に該当し,同項の適用はないというべきである。
(エ) 以上によれば,原告が同法69条所定の「利害関係人」に該当し,本
件審判事件で審判が公開されていた本件においては,被告は,原告による事件記録の閲覧謄写請求を拒むことはできないというべきである。
 なお,被告が作成した本件基準は,情報公開法及び個人情報保護法の趣旨を忖度し,ひいては審判手続を円滑に進めるために作成されたものとみることもでき,そうであるとすれば,その意図には酌むべきものがないではない。しかしながら,本件基準は,あくまでも内部基準にすぎず,このような内部基準においては,法律の規定を実施する上での手続的,技術的細目を定めるべきものであって,独占禁止法が何ら定めていない制限を内部基準で設定し,当該基準を根拠として事件記録の閲覧請求を不許可とするようなことは許されないというほかない。
(3) したがって,被告が,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求について,「利害関係人」による請求か否かという点以外に,事件記録上に記載されている情報の性質を根拠として,閲覧謄写を不許可とすることはできないから,本件第1処分(ただし,同処分のうち,本件第2処分によって閲覧謄写を許可された部分を除いた別表記載の閲覧謄写不許可部分)は,法律上の根拠なしに閲覧謄写を不許可としたものであり,その余の点について判断するまでもなく取消しを免れない。
第4 結論
  よって,本件訴えのうち,B事件に係る訴え及びA事件に係る訴えのうち本件第1処分(ただし,別紙1-1記載の部分から別表記載の閲覧謄写不許可部分を除いた部分)の取消しを求める部分はいずれも不適法であるから,これらを却下し,A事件に係る訴えのうち,本件第1処分(ただし,別表記載の閲覧謄写不許可部分)の取消しを求める請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第2部

      裁判長裁判官   大 門   匡


           裁判官 吉 田   徹


           裁判官 矢 口 俊 哉
                                                     (別紙3)              当事者の主張
1 争点(1)について
ア 原告の主張
 原告としては,本件第1処分又は本件第2処分のいずれかが取り消されて,本件申請に対応する閲覧謄写不許可部分が許可されて,開示されるのであれば,それでよい。
イ 被告の主張
 申請拒否処分は,一つの申請に対し,一つの応答行為たる拒否処分がされるのが建前であるところ,本件においても,申請が一つである以上,それに対応する拒否処分が一つであることは当然であり,本件第1処分と本件第2処分の双方を別個独立の拒否処分と解することはできない。
 そして,本件第2処分は,既に行われた本件第1処分の開示範囲を拡大し,原告に有利な変更を行うにすぎないものであることにかんがみれば,本件第2処分は,本件第1処分と独立した新たな拒否処分ということはできず,本件において,申請拒否処分として取消訴訟の対象たり得るのは本件第1処分のみであるから,B事件に係る訴えは不適法である。
 そして,本件第1処分は,既に本件第2処分により変更されているから,A事件における原告の取消請求は,本件第2処分によって本件第1処分と同一性を保ちつつ変更された不許可決定の取消しを求めるものと解すべきである。
2 争点(2)について
ア 原告の主張
(ア) 被告は,平成11年8月25日及び平成13年4月28日に,それぞれ
一部不許可とする旨の処分を行ったと主張するが,当該不許可部分や不許可理由の告知もなく,被告として明確に不許可との決定をし,原告に通知したものではないから,被告は,まだ一部不許可部分について処分を行っていない。
(イ) 仮に,本件前処分によって既に処分がされているとしても,同処分には,①被告が独占禁止法69条に基づく閲覧謄写請求について,行政手続法5条の定める審査基準の設定,公表を行っておらず,②行政手続法6条の定める標準処理期間を定めておらず,③申請のあった平成10年12月21日から8か月も経過して行われ(行政手続法7条の迅速な審査応答義務違反),かつ,④その際,行政手続法8条の要求する理由の提示がされなかったという重大な瑕疵があるから,無効である。
  また,理由付記の瑕疵が取消事由であることは判例上も確定しており,理由の追完による瑕疵の治癒は否定されているから,上記④の事由は,上記処分の取消事由にもなり,上記①ないし④のような重大な瑕疵を有する上記処分の取消訴訟について,原告が出訴期間を徒過したことについては正当な事由があったというべきである。
 確かに,独占禁止法70条の2の規定は,文字どおり読むと,同法69条に定める事件記録の閲覧謄写請求に関する処分についても適用され,それによって,行政手続法第2章の適用が排除されるようにも読める。
 しかし,立法の経緯等からして,独占禁止法70条の2の規定が,同法69条に関する処分に適用されることは想定されていなかった。また,同法70条の2の趣旨に立ち返ってみても,行政手続法の適用除外とする趣旨は,①本来の行政権の行使と認められないもの,②特別の規律で律せられる関係が認められるもの,③処分の性質上,手続法の諸規定の適用になじまないもの,④特定の行政分野について独自の手続法体系が形成されているものの4つとされているが,独占禁止法69条の処分に関する手続はこのどれにも該当しない。したがって,同法70条の2にいう「審決その他の処分」には,同法69条の処分は含まれないと解すべきである。
(ウ) 仮に,本件前処分によって既に「処分」がされているとしても,原告が行った本件申請は,行政事件訴訟法の定める出訴期間を潜脱するものでなく,適法である。
  行政処分の公定力(不可争力)は,当該処分についてのみ働くにすぎないから,原則として,再度の申請は前回の処分の公定力によって妨げられず,不可争力を認める現行法制度に反する場合にのみ,被告がいう一事不再理の法理が働くのである。
 本件のように,利害関係が及ぶのは事件記録のうちどの範囲かという,現時点での事象に対して評価を下す場合であれば,本来の原則どおり,不可争力を認める現行法制度の趣旨に反するような特段の事情がない限り,本件申請は認められると解すべきである。なお,被告が援用する最高裁判所昭和29年5月14日判決及び浦和地裁平成元年12月15日判決は,いずれも特殊な事案であって,本件に適用すべき判例ではない。
  確かに,何らの正当な理由なく同一の申請が繰り返しされるといった,いわば権利の濫用ともいえる事案について,出訴期間の規定の潜脱として違法となる場合があり得る。しかし,一事不再理の原則が禁じているのは,「同一の事情の下において同一の問題を蒸し返すこと」であって,事情が変われば,同一の問題であってもこれを再度申請することは禁じられない。本件において,原告は,平成10年12月21日及び平成13年3月28日の各申請時には,加害者である被審人に対して,損害賠償請求訴訟を提起するかどうか未定であり,まして訴訟を提起した場合,被審人がどのような争い方をするかも未定であった。
ところが,原告が,被審人を被告として,平成14年4月26日,民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起したところ,被審人は,同年6月12日,被審人が請求原因事実を全面的に争う旨の答弁書を提出した。このように,本件申請は,被審人が,上記訴訟において,損害の発生はもちろん,同意審決に記載されている違反事実の存在についても争うことが明確になった後である同年9月6日付けでされたものであって,前回の申請時とは事情が異なっている(そもそも,行政処分において,処分庁は,法の定める要件に該当する事実があるかどうかを職権で調査しなければならない法的義務を負っており,申請者が申請書に記載した理由に拘束されるわけではないから,仮に原告が本件申請に当たり,上記事情変更について述べなかったとしても,被告がこれを考慮しなくてよいということにはならない。)。したがって,本件前処分の際とでは,原告において開示を必要とする範囲及び程度が異なっているから,一事不再理類似の法理により,本件申請が不許可となることはない。
イ 被告の主張
(ア) 被告は,本件第1処分における本件不許可部分2については,既に処分
が行われ,謄写物が交付されていることを理由に,閲覧謄写を不許可としたものである。
 原告の平成10年12月21日付け閲覧謄写申請に対しては,被告は,平成11年8月25日,証拠書類の一部について閲覧,謄写に応じた際,閲覧・謄写に応じなかった文書及び黒塗りにした部分については不許可にする旨説明し,原告も一部不許可処分があったことは認識した。それ故,原告は,その後,被告に対し,早く処分を行うようにとの苦情,要請を行わなかったものであり,そもそも,同時に閲覧・謄写を求めた文書のうち一部のみ開示されるということは,特段の事情がない限り,その他の部分について不許可とする趣旨であることは,合理的意思解釈としても当然である。
 同様に,原告の平成13年3月28日付け閲覧謄写申請に対しては,被告は,同年4月2日,同意審決申出書添付の具体的措置に関する計画書等の閲覧・謄写に応じており,その際も,被告の担当官は,今回閲覧・謄写に応じた部分以外については不許可とする旨説明しており,原告もそのことを認識していたからこそ,その後,被告に対し,早く処分を行うようにとの苦情,要望を一切行わなかった。
 なお,文書全体を閲覧謄写不許可とした文書の標目については,被告がそれ以前に原告に閲覧・謄写を許可した審査官の証拠申出書の記載と開示文書の標目を照らし合わせれば明らかになる。
 また,不許可理由の告知がないという点は,行政処分の無効原因となるような瑕疵ではなく,これによって行政処分の存在自体が否定されるものでもない。
(イ) 独占禁止法69条に基づく処分については,明文で行政手続法の適用が
除外されており(独占禁止法70条の2),行政手続法5条ないし8条が本件に適用される余地はない。
 そして,最高裁判所は,法律が明文で理由付記を要求していない場合には,一貫してその必要性を認めておらず,本件において,理由付記の欠缺は行政処分の瑕疵たり得ない。仮に,当該閲覧謄写不許可処分に何らかの瑕疵が認められたとしても,原告は,行政事件訴訟法が定める取消訴訟の出訴期間を徒過しており,もはやかかる瑕疵を主張できない。
 また,行政処分の無効の主張が認められるのは,取消訴訟以外において,かつ,法定の出訴期間を徒過した場合でも,私人の権利救済を図らねばならないほどの重大かつ明白な違法が認められる場合に限定され,本件において,かかる重大かつ明白な瑕疵が存しないことは明らかである。
(ウ) 原告は,本件文書2については,累次にわたる申請により,既に閲覧・謄写を完了している。したがって,本件申請において再度これらの閲覧・謄写を求める理由は,被告に,本件前処分について再度の検討を求めることに尽きるところ,原告としては,仮に本件前処分について不服があるならば,行政事件訴訟法14条1項所定の期間内に処分の取消しの訴えを提起すべきであったのに,これをせず,当該期間経過後に被告に再度の検討を求める本件申請は,本件前処分の一事不再理効に抵触し,同法が定める出訴期間の制限を潜脱するものであり,不適法である。
 もし,かかる申請を許容すれば,いったん出訴期間を徒過しても,再度申請を行い,もう1度不許可処分を取得しさえすれば,取消しの訴えを提起し,改めて当初の不服を主張できることになり,出訴期間を設けた法の趣旨を没却することは明らかである。
 なお,以上の点は,最高裁判所昭和29年5月14日第二小法廷判決(民集8巻5号937頁),浦和地裁平成元年12月15日判決(判例時報1350号57頁),最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決(民集41巻1号122頁)からも明らかである。
 また,本件申請は,申請書(甲1)の記載内容からも明らかなとおり,被告の法運用の不当性を理由に本件前処分の見直しを求めるものであり,同処分以降の事情変更を理由とするものではない。このことは,申請書に何ら新たな資料が添付されていないことからも明らかであり,かかる申請を前提とする限り,被告が再度検討しても,その結果は既にされた閲覧・謄写と何ら異ならず,その意味では,原告のかかる申請を認める必要はなく,申請の利益もない。
  なお,独占禁止法69条に基づく事件記録の開示範囲は,利害関係人が民事訴訟を提起したか否か,あるいは当該民事訴訟の進行状況(相手方の対応)いかんによって変更されるものではない。
(エ) 独占禁止法69条の対象たる事件記録の中には,被審人・事件関係者の
事業上の秘密や個人情報等に属する資料が多数含まれており,被告の開示に係る決定が,特段の事情もないのに何度も見直されることになれば,当該被審人や事件関係者の法的地位を不安定にすることは明らかである。
 また,被告は,閲覧謄写不許可の範囲を決定するに当たり,慎重な判断を期する観点から,事前に当該被審人に意見聴取を行った上でこれを行っており,行政経済上の観点からも,本件のような特段の事情の認められない再度の申請を認めることはできない。
3 争点(3)について
ア 被告の主張
(ア) 独占禁止法69条は,事件記録を閲覧謄写し得る者を「利害関係人」に
限定しているが,閲覧・謄写することができる事件記録の範囲や,その手続を定めておらず,「利害関係人」であれば,審判廷に提出された文書等についてすべて閲覧・謄写をすることができると解されるものではない。
 利害関係人,すなわち当該事件の被審人,同法59条及び60条により審判手続に参加し得る者,当該事件の対象をなす違反行為の被害者は,それぞれの立場で法的利害関係を有するもので,その法的利害関係の有り様は一様ではないところ,事件記録の中には,被審人や事件関係者の事業上の秘密等に属する資料も含まれており,国家公務員法が「職員は,職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」旨規定するほか,独占禁止法39条が「委員長,委員及び公正取引委員会の職員等は,その職務に関して知得した事業者の秘密を他に漏し,又は窃用してはならない。」と規定し,さらに,審判公開の原則の例外として,同法53条1項ただし書は,「事業者の事業上の秘密を保つため必要があると認めるとき又は公益上必要があると認めるときは,これを公開しないことができる」と規定するなど,事業者の秘密に特段の配慮をしている。
 これは,被告の扱う事象が,一般消費者と事業者,競争関係にある事業者同士などの間で,利害が対立する,発展性のある流動的,複雑な経済事象であり,被告が,こうした事象に対して常に可及的速やかに適切な判断を行うことが求められ,関係者の事業上の秘密等についてまで正確な事実把握が必要となる場合があるためである。
 被害者であれば被審人等の事業者の秘密についてもすべて自由に閲覧・謄写できるとすれば,被告の委員長,委員及び職員に秘密保持義務を課してその職務遂行に対する信頼性を確保するという趣旨が容易に損なわれてしまう。特に,被害者が被審人等と競争関係に立つ事業者であることも少なくなく,本件も正にそのような事件であるという点からしても,秘密保持の要請を無視することはできない。
 したがって,同法69条により開示する事件記録の範囲は「利害関係人」の法的利害関係の有り様に応じ,事業者の秘密等に配慮して決せられるものと解するのが相当である。
  この点,判例も,被告は,同法39条の秘密保持義務,開示することにより被審人の受ける不利益,審判事件が係属中であるときは被審人の当事者権等に配慮して,その裁量によって閲覧謄写を認める範囲を決することができ,申請内容に応じてその範囲を変動させることができると解すべきであるとしている。
 他方,個人のプライバシーについては,行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号が個人に関する情報を不開示情報としていることからも窺われるように,行政庁としてみだりに開示すべきではない情報といえる。
  また,被告の審査が広く事件関係者等の協力に基づき行われるものであることにかんがみれば,独占禁止法69条による事件記録の閲覧謄写に何ら制限を加えないと,関係者のプライバシー,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるばかりか,今後の審査に当たって,関係者をして,審査に対する協力をちゅうちょならしめ,同法違反の端緒の発見や正確な事実の把握を困難にし,ひいては被告の競争政策の実現という事務の適正な遂行に支障を生じることは明らかであって,このような観点からも,事業者の秘密や個人のプライバシーにかかわるものについては,審判記録の一部抹消等の措置を行うことが当然許されるものと解される。
(イ) なお,複雑かつ絶えず変化する経済事象を対象とする独占禁止法の適用においては,あらゆる案件に画一的に適用し得る一義的な基準を定めることは不可能であり,開示するか否かは,個人のプライバシー,事業者の秘密等の性質,制限の程度等を個々に比較考量して決するほかはない。
(ウ) 審判の公開は,裁判の公開と同様,審判の公正及び手続に関する信頼を
確保するために行われるのであって,これにより直ちに審判記録中の情報が公にされたものとみるべきではなく,公開・非公開にかかわらず,主張書面あるいは証拠に関しては,開示に際して事業者の秘密あるいは個人のプライバシーへの配慮から,不適切な部分を閲覧謄写不許可とするのは当然の運用である。
(エ) 被審人に証拠が提示されるのは,専ら審判における被審人の防御の機会
を保障するためであり,審判手続の構造上,最も基本的な要請によるものである。他方,独占禁止法69条による原告への開示は,損害賠償請求等の便宜を図る趣旨と解され,両者は根本的に制度が異なり,同一に論じ得ないから,提示される範囲が異なることは何ら不当ではない。
イ 原告の主張
(ア) 独占禁止法69条自体は,「事件記録」の範囲に何らの制限を加えてい
ないから,「利害関係人」に該当するのであれば,「利害関係」のある範囲のすべての「事件記録」の開示を求め得ると解するのが正当である。この点は,審判の公開を定めた同法53条が,公開が制限される場合を明文で規定していることと対比しても,法文中に何ら明文の規定もなく,同法は,利害関係人の権利を制限することを予定していないというべきである。
(イ) 独占禁止法39条は,委員及び職員に対して事業者の秘密に関して守秘義務を課しているが,これは公正かつ自由な競争の促進という公益上の目的から被告が事件を公表する(同法43条)場合でも事業者の秘密は守らなければならないとする規定に対応するものであり,職務上の一般的な倫理規定である。
 他方,同法69条に基づく閲覧請求権は,被害者の立証を容易にし,被害の救済を促進するために設置されたものであり,利害関係人にのみ認められた権利であって,一般に公開される場合の配慮を必要としない。
 むしろ,利害関係人が当事者として審判手続に参加できること(同法59条)や,同法43条と異なり閲覧謄写の範囲に関する特段の制限が規定されていないこと等を考慮すれば,利害関係人には無限定の閲覧謄写請求権が認められていると解すべきである。
 すなわち,同法69条は,同法39条の守秘義務に関する特別規定であって,被告の委員や職員に課せられる守秘義務は,違反行為に無関係な事業者の秘密の暴露を防止することをもって足りる。
  なお,同法53条1項ただし書は,事業者の事業上の秘密を保つために必要であれば,審判を非公開とすることができると定めているが,本件ではこのような非公開の措置は採られていない。すなわち,本件事件記録に含まれる事業者の秘密は,それほど秘密性の高くないものであったと推認されるのである。
(ウ) 被告は,独占禁止法69条に基づく閲覧謄写請求があった場合,まず被審人に,何が事業上の秘密であるかについて問い合わせ,事業者が事業上の秘密として閲覧を拒否する事項については,ほとんどそのまま事業上の秘密として,利害関係人からの記録閲覧を拒否している。
そして,利害関係人が閲覧請求する記録は,被審人の同法違反の立証を裏付ける証拠であり,被審人にとって不利な記録であるから,被審人の意向に従って閲覧の可否が事実上決定されれば,利害関係人は事件記録の主要部分を閲覧できないことになってしまう。
  他方で,審判においては,審査官は,被告が収集した証拠を,違反事実の立証のために証拠として提出し,被審人は,これらの副本を入手する。証拠の中には,利害関係人の事業上の秘密を含む文書もあるが,これを被審人に渡すことについて利害関係人の意見を聴取することはない。
 仮に,被害者が事件記録を閲覧できないとした場合,加害者である被審人が審判の当事者として被害者に関する記録も含むあらゆる記録を入手済みの有利な立場にある一方で,被害者が訴訟上極めて不利な立場に置かれることは明らかであり,公平の観念に著しく反する。
  したがって,被審人の事業上の秘密は,違反行為と関連性を有する限り,開示されるべきである。
(エ) 何ら明文の規定なく,独占禁止法69条の開示請求権に制約を加えるこ
とは,立法論としてはともかく,解釈論としては相当でない。
仮に何らかの制約が可能であるとしても,制約の基準は,事後に裁判所による審査が可能な程度に十分に特定されたものであり,かつ,当事者らによる予測可能性を担保するために事前に明らかになっていなければならない。
 しかし,被告による本件基準はあまりに抽象的であって,個別箇所への当てはめの当否を裁判所が事後に審査することが著しく困難である。また,本件基準によると,個別の書類について,これを開示すべきかどうかの判断を明確に行うことができず,場合によってまちまちな判断となり,現に,本件前処分と本件第2処分において,開示範囲が異なっている。
4 争点(4)について
ア 被告の主張
 別表の「閲覧謄写不許可理由についての当事者の主張」記載のとおりである。
 被告は,本件不許可部分1については,事業者の秘密又は個人情報に該当するとして閲覧謄写不許可としたものであるが,「事業者の秘密」とは,非公知の事実であって,関係事業者が秘密にすることを望み,客観的にみてもそれを秘密にすることにつき合理的理由があると認められるものであり,準備書面中の特定個人の氏名については,違反行為への関与が認定できない者についてはプライバシー保護の観点からその氏名を閲覧謄写不許可としているが,違反行為への関与が認定できる者については,原則氏名を開示している。
 他方,本件不許可部分2に係る申請については,前記2記載のとおり,一事不再理効,申請の利益の欠缺又は申請権の濫用により,そもそも不適法であるが,仮にこれが適法とされる場合に備えて,同部分についても,別表に,閲覧謄写を不許可とすべき事由を記載している。
イ 原告の主張
 別表の「閲覧謄写不許可理由についての当事者の主張」記載のとおりである。
 個人に関する情報,事業者の秘密に該当する情報及び今後の事件処理に著しい支障を及ぼす情報であれば,常に閲覧謄写を不許可とすることが正当化されるわけではない上,実際に閲覧謄写を不許可とされた文書の趣旨や不許可部分の前後等をみても,上記の事由に該当しているとは認められない。
 なお,本件での違反事実は,「函館対策」との一貫した目的の下に,数個の行為が互いに関連しあって「私的独占」と評価されるものであって,具体的に行われた行為の一つ一つは必ずしも違法性を有するとまではいえなくても,それが一つの不正な目的の下に有機的に結合して行われたことにより,違法性を帯びるに至るものである。このような場合においては,数個の行為が一つの不正な目的に向かって有機的に結合して行われたのかどうかが重要な問題となるところ,これを立証するためには,その行為が行われるに至った経緯の立証が極めて重要となる。その意味で,帯広対策に関する情報は,本件の違反事実の立証にとって必要不可欠である。