H18. 2.17 青森地方裁判所 平成16年(わ)第239号,平成17年(わ)第1号,第19号,第46号,第81号 殺人,詐欺,詐欺未遂被告事件

被告人が,知人一家に持ちかけた老犬ハウス事業に関連して土地売買の手付金名下に450万円をだまし取り(判示第1),その後,同事業の清算金として同一家に1億7300万円もの借金があると信じ込ませ,その返済のために被害者の妻及び長男と共に被害者の保険金殺人を共謀し,保険金詐取の目的で,殺意をもって瀕死の重傷を負った被害者に対して必要な救護をせずに放置して殺害し(判示第2の1),その後,共犯者の1人が生命保険会社に対して生命保険金を請求したが,自己及び共犯者らが逮捕されたために未遂に終わった事案(判示第2の2)及び東京で相続問題解決のためと称して3430万円を(判示第3),九州で老犬ハウス事業の事業設備資金名下に300万円を(判示第4)それぞれだまし取った事案


(主 文)
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中290日をその刑に算入する。
(判示第1並びに第2の1及び2の各犯行に至る経緯)
 被告人は,青森県内で出生し,同県内の高等学校を中退後,大工見習い,重機運転手等に従事し,平成8年ころに上京して大工として稼働していた。Aは,B及びC夫婦の長男として出生し,青森県内の高等学校を卒業後,タイヤ製造業や木材加工業等に従事し,平成14年12月ころからは仏壇清掃業を営んでいた。Cは,平成7年ころから平成14年9月ころまで温泉の旅館等で稼働したこともあったが,平成15年ころからは自宅近くの民宿の手伝いをしていた。
 Cは,温泉の旅館に勤めていた際に客として来た被告人と知り合い,その後,BやAに仕事を世話してもらおうと被告人を2人に紹介した。被告人は,平成15年8月初旬ころ,Aに対し,年老いた犬を預かって世話する事業(以下「老犬ハウス事業」という。)を行わないかと架空の儲け話を持ちかけた。Aは,Cの話から被告人のことを元々信頼できると思っていた上,被告人の老犬ハウス事業計画の具体性等から,被告人の話が真実であると信じると共に,同事業に魅力を感じ,それまで営んでいた仏壇清掃業の売上げが少なかったこともあり,同月下旬ころには仏壇清掃業をやめ,老犬ハウス事業を業とする会社の設立を計画し,被告人との間で会社設立依頼兼受注書を取り交わし,老犬ハウス事業についてのコンサルタントを依頼した。ところが,その後,A及びCは,被告人から,会社設立や老犬ハウス事業に関連して金銭の支払を要求されるようになり,親族や知人から借金をするなどして何とか支払っていた。にもかかわらず,被告人は,平成16年1月9日,Aに対し,同人が約束していた電話を被告人にかけなかったことをきっかけに,突然,老犬ハウス事業計画の中止を一方的に告げ,以降,A及びCに対し,それまでの立替払金の清算等と称して,1億7300万円の支払を強く求めるようになった。A及びCは,被告人に言われるがままに,親族,知人及び消費者金融から借金をして少しずつこれを支払ってきたが,同年6月までには返済が困難になった。Aは,被告人から返済を強く迫られ,同月初旬ころ,被告人との間で,Bを車に飛び込ませて死亡させ,事故の相手から自動車損害賠償保険金を得る話になり,B及びCにその旨伝え,承諾させた。その後,Aは,Bを青森県内各所に連れて行き,走行中の自動車に飛び込ませようとしたが,Bが怖じ気づいて実行できなかったため,被告人らの当初の意図は実現されなかった。
 すると,被告人は,Aに対し,同年7月下旬ころ,Bを生命保険に加入させ,同人を自動車に飛び込ませて死亡させて保険会社から死亡保険金をだまし取ることを持ちかけ,これをA及び同人を通じてCに承諾させ,少なくともこの時点で,被告人,A及びCの間にBを殺害することについての共謀が成立した。そして,被告人,A及びCは,同年8月上旬から9月上旬ころまでの間,Bに,同人と保険会社3社との間で,Bを被保険者,Cを死亡保険金受取人とする死亡保険金額合計8800万円の生命保険契約を3口締結させた。その後,Aは,Bを殺害すべく,同人を青森県内だけでなく秋田県内にも連れ出し,交通事故死を装って死亡させようとしたが,Bが抵抗したため,同人を殺害できなかった。被告人は,そうしたBに業を煮やし,Bが走行中の自動車に飛び込むことができなかった都度,同人に対し,殴る蹴るの暴行を加えた。そして,被告人は,同年9月30日にBが自動車に飛び込むことができなかったことから,Bに暴行を加えた上,翌日必ず死ぬように強く迫った。翌10月1日,被告人は,Bがまたしても自動車に飛び込むことができなかったことから,同日午後7時40分ころから午後8時40分ころまでの約1時間にわたり,青森県南津軽郡甲町abにおいて,Bの四肢を鉄パイプ様のもので多数回殴打した。これによりBはその四肢から皮下出血し,自力では歩くことができず,Aが運転する車にかろうじて乗ることができるほどの重傷を負ったため,Bは,Aに連れられて自宅に戻った後,A及びCに対し,救急車を呼ぶよう求めた。Aは,被告人に電話をして相談したところ,被告人がそのまま死んでしまうならその方が都合がよいなどと述べたため,Aもこれに応じて救急車を呼ぶなどしないこととし,Cにもその旨伝えて同人も了承した。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 土地売買の手付金名下にAから金員をだまし取ろうと企て,平成15年9月上旬ころ,青森県東津軽郡乙町c番地dB方において,Aに対し,真実は内妻が所有する神奈川県津久井郡丙町ef番gほか4筆の土地を売却する意思がないのにこれあるように装い,「会社の社長をやっていくには,いざというときのためにも財産を持った方がいい。神奈川県にあるかみさん名義の土地を4500万円で譲ってあげる。購入にあたっては,手付金として,その1割の450万円を用意すればいい。」などと嘘を言って,その旨Aを誤信させ,よって,同人から,同月27日ころ,青森市大字h番地ij公園駐車場において,現金70万円の,同年10月22日ころ,青森県東津軽郡kl番地m当時の同人方において,現金380万円の各交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた
第2 A及びCと共謀の上
1 前記のとおり,Aの被告人に対する借金返済資金調達のため,Bを殺害し,同人を被保険者,妻であるCを保険金受取人とする生命保険契約に基づく保険金をだまし取ろうと企て,B殺害の機会をうかがっていたものであるが,被告人が平成16年10月1日午後7時40分ころから同日午後8時40分ころまでの間,青森県南津軽郡甲町abにおいて,B(当時60歳)の四肢を鉄パイプ様のもので多数回殴打し,それによって自力で行動することができなくなるほどの瀕死の傷害を負わせ,AがBをその運転する車に乗せて青森県東津軽郡乙町c番地dのA及びC方に連れ帰ったところ,Bを直ちに最寄りの病院に搬送して適切な医療措置を講じれば,同人の死亡の結果を防止することが可能であり,かつ,同人を救護すべき義務があったのに,そのまま放置すれば同人が死亡することを知りながら,同人を死亡させて保険金をだまし取るため同人を放置して殺害しようと企て,同月2日午前零時30分ころ,同人を救護することなく,同所1階の居間に放置し,よって,そのころ,同所において,同人を四肢多発打撲傷による外傷性ショックにより死亡させて殺害した
2 BがXとの間で同年9月8日に締結した,Bを被保険者,Cを死亡保険金受取人とする簡易生命保険契約(75歳満期2倍型特別養老保険)に基づく死亡保険金をだまし取ろうと企て,真実は,被告人,A及びCがBを殺害していたのに,これを秘し,あたかも,同人は,第三者に殺害されたかのように装い,同年10月14日午前10時ころ,同郡乙町n番地oWにおいて,従業員Dに対し,上記保険契約に基づく保険金の支払を請求する旨の保険金支払請求書等の書類を提出して800万円の死亡保険金の支払を請求し,その旨同人らを誤信させ,上記死亡保険金の交付を受けようとしたが,被告人,A及びCがBを殺害した容疑で逮捕されたことから,その目的を遂げなかった
第3 Eが,亡夫の遺産相続問題に関し,義理の息子との間の話合いが進展しないことを悩んでいると聞き及ぶや,その交渉と解決を請け合うなどと持ち掛けて,金員をだまし取ろうと企て,平成14年6月5日ころ,東京都戊q丁目r番s号E方において,同人に対し,真実は,遺産相続問題の交渉も解決も行う意思はなく,預り金についても全て自己の用途に費消する意図であり,その返却をする意思も能力もないのにこれあるように装い,「俺がきちんと話をつけてやる。要望は全部叶うように交渉して話をつけるよ。でも,財産を持っていると遺産分割では不利で,逆に借金があった方がいいくらいなんだ。お金があったら全部俺に預けてよ。話をつけるのに3か月くらいかかるから,その間,財産は全部俺に預けてくれ。もちろん相手との話をつけたらそのまま返すから。株は金に換えて,俺に預けてくれ。他にもあったら,全部俺に預けて,何もない状態にしてくれ。俺を信用して預けてくれ。」などと嘘を言い,その旨同人を誤信させ,よって,同月14日及び同月20日,同人に,前後4回にわたり,東京都戊t丁目u番v号株式会社○○銀行××支店から東京都調布市w丁目x番y号株式会社△△銀行□□支店の被告人名義の普通預金口座に,合計2000万円を振込入金させるとともに,同月22日,山梨県中巨摩郡α町z番地a’b’c’号室において,同人から,現金1430万円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた
第4 会社設立資金名下にFから金員をだまし取ろうと企て,平成15年3月20日ころ,熊本県球磨郡d’番地e’当時の被告人方において,Fに対し,真実は会社設立の意思がないのにこれあるように装い,「有限会社を作るには,300万円が必要だ。それを銀行の口座に入れなければ駄目だ。300万円をどうにかして集めて,3月28日までに持ってこい。」などと嘘を言い,その旨同人を誤信させ,よって,同月28日ころ,同所において,同人から現金300万円の交付を受け,もって,人を欺いて財物の交付を受けた
ものである。
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,判示第1の事実について,被告人はAから土地売買の手付金の名目で450万円を受け取ったことはない,第2の1及び2の事実について,A及びCとの共謀の事実及び実行行為を争い,第4の事実について,被告人はFから借金返済の名目で300万円を受け取ったことはあるが,事業設立資金名目で300万円を受け取ったことはないとして,欺罔行為及び欺罔行為に基づく金員の授受を争い,判示第3の事実については,2000万円の限度では詐欺罪の成立を認めるが1430万円の授受については争う旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,この点について検討する。
2 判示第1並びに第2の1及び2の事実について
(1) 関係各証拠によれば,まず次の事実を認定できる。
被告人は,判示のとおり,温泉の旅館に宿泊した際,そこで働いていたCと知り合い,その後,CからBへの仕事の紹介を依頼されるようになり,CからBを紹介された。また,平成15年7月ころには,CからAを紹介された。被告人は,Aに対して老犬ハウス事業の話を持ちかけ,A,B及びCは,最終的には被告人の話に賛成した。また,被告人は,Aらに対し,九州での老犬ハウス事業についての話や,犬を預かる際に1頭につき50万円の入園料を得ること,ペットショップを通じて犬を預かることなどの話をしたこともあった。また,設備資金として8500万円が必要であるという話も出た。被告人は,この老犬ハウス事業に関連して,Aとの間で,事業資金8500万円の1割である850万円を被告人に支払うこと,着手時にはその半額の425万円を支払うこと,車を1台被告人に貸すことなどを内容とするアドバイザー契約を締結した。また,被告人は,同じく老犬ハウス事業との関連で,Aとの間で,被告人の内妻が所有する神奈川県の土地をAに売却するという内容の書類を作成した。老犬ハウス事業の話は,平成16年1月9日に被告人の一方的な申し出により中止になった。同年8月上旬から9月上旬にかけて,Bを被保険者,Cを受取人とする合計8800万円の生命保険契約及び簡易保険契約が締結された。同年9月30日に被告人はA及びBと会い,Bに対して暴力を振るった。また,被告人は,翌10月1日の夜にもA及びBとbで会った。被告人と別れる際に,Bは負傷しており,Bは,帰宅後の同月2日に死亡した。B死亡の数日後,CはAと簡易保険の請求をした。
(2)ア A供述
Aは,当公判廷において,概要以下のとおり供述する。
被告人とは,平成15年7月下旬ころ,母親のCの紹介で,仏壇清掃業の客として,初めて会った。Cからは,被告人について,当時,Cが勤めていた温泉旅館に泊まり客として来ていたこと,大工関係の社長をしており,Bの仕事の世話をしてくれる面倒見のいい人で,金回りもよい人と聞いていた。初めて被告人に会ったとき,被告人から,うちの仏壇はたばこのヤニで汚れているから,清掃してもらいたいと頼まれた。そのときは仕事を受注するまでには至らず,その後,電話で受注できるかを被告人に確認したが,被告人から,まだ先になると言われ,仏壇清掃の話はそれ以上進まなかった。同年8月初旬ころ,被告人から突然老犬ハウス事業の話を持ちかけられた。被告人は,私がしていた仏壇清掃業はもうからないことや将来性もないと言った。私ももっともだと思っていたところ,被告人から,「自分は九州で年老いた犬を預かる老犬ハウスをやって成功させてきている。今度は青森でもやろうとしている。1匹あたり入園料として50万円をもらって,あとは月々の飼育料をもらう。九州では300から400頭を預かっている。その犬をペットショップを通じて預かる。ペットショップには仲介料として5万円を支払う。こういう老犬ハウスは,川のある広い土地でやるのが適している。もう既に乙のスキー場近くに田んぼを買ってある。会社設立資金は8500万円かかるけれど,このお金はもう既に準備してある。本当は東京の人がやる予定なんだけれども,息子さんの方でやるんだったらやってもいいよ。」などという話をされた。被告人の話を聞いて,仏壇清掃より儲かり,生活も裕福になるし,親孝行もできると思って,老犬ハウス事業をやりたいと思った。被告人には,妻と相談するため,「少し考えさせて下さい。」と言った。同月下旬ころ,私は老犬ハウス事業の話を引き受け,仏壇清掃業はやめることとした。同月29日,会社設立依頼兼受注書を青森市内の喫茶店で被告人と取り交わした。この会社設立依頼兼受注書は被告人が準備した。その書面には,私が被告人に依頼金として850万円を渡す内容が記載されていたが,被告人は,「850万円は老犬ハウスを経営してから支払ってくれればいい」と言った。また,この書面を取り交わしたときに初めて,自分が被告人に車を貸すということを知り,老犬ハウス事業は自分の事業でもあるし,被告人は自分のためにコンサルタントとして動いてくれることから,書面を取り交わした後すぐに販売店で車1台を360万円で購入し,被告人に貸した。これに加えて,その後,自分は会社の屋号や役員も考えた。被告人からは,九州の老犬ハウスの様子をパソコンで見せられたり,乙町などにある老犬ハウスの建設予定地に案内されたり,パンフレットを作ってもらったりした。老犬ハウスの会社名は,有限会社「Z」と決めた。被告人からは,会社の規約を作成する上での参考にするようにと別の会社の規約を渡されたり,「Z」の事業計画書の書式を渡されたりした。事業計画書中の資産割には,450万円をだまし取られたときに使われた神奈川県の土地と同じ地名の土地が記載されていた。私は,被告人の話などから,老犬ハウス事業が確実に進んでいると思っており,自分自身も,老犬ハウス事業の経営について,主な収入や支出の見込みを考えるなどしていた。こうした中,同年8月下旬ころ,私は,被告人がCに売った旧百円札の代金として165万円を被告人に渡したが,この金は自分では用意できなかったので,弟のGに借りることとし,自分名義の青森銀行○支店の口座に165万円を振り込んでもらった。老犬ハウス事業を引き受ける前後ころ,被告人から「会社の社長としてやっていくんだったら財産が必要だ。財産を持っていれば銀行に信用が付く。財産を持っていれば,会社が傾いて倒産したときにはその財産を売れば借金しなくて済む。」と言われた。そのときは,自分にお金もなかったし,土地などを持てるとは思わなかったが,同年9月上旬ころ,被告人から再度財産を持つといいという話をされ,同時に,「実は,うちのかみさん名義で神奈川に土地を持っている。」と言われて,その土地の登記簿謄本,権利書及び図面を見せられた。それらの書類を見ている間に,被告人は,「神奈川に土地を持っていると言えば,ほかの社長と付き合いをしたときに格好はつくでしょう。保険として持っていれば,いざ会社が傾いて倒産したときには,それを売ればいい。」と言った。書類を見終わったころ,被告人から,「神奈川の土地は,路線価格で1億2000万円するけれども,息子さんになら特別に4500万円で譲ってもいい。もし購入するんだったら,4500万円の1割,450万円を手付金として集めればいい。」と言われた。私は,路線価格の意味がよく分からなかったので,被告人に聞いたところ,路線価格とは国が定めた最低の値段で,これ以上下がることのない値段であると言われた。これらの話を聞いて,土地が必要であるとの被告人の説明はもっともであると思ったこと,路線価格の半値以下というのは超破格と思ったこと,450万円なら何とか頑張れば集められると思ったことから,当該土地を購入することにした。そして,青森銀行のカードローンと○×青森支店でお金を借りて,同月27日にj公園の駐車場で70万円を被告人に渡した。同月30日ころ,土地売買についての覚書を被告人と取り交わした。残額の380万円については,弟の雅之から借りて,同年10月22日に当時の自宅で被告人に渡した。合計450万円を渡した後,被告人から土地の登記をしたと聞いたので,それまでの話のとおり,自分と妻と両親の名前で登記されたと思っていた。同年12月に入ってから,この土地売買に関連して,被告人との間で借用書1通と念書1通を取り交わした。同月下旬ころ,資材関係など被告人が立て替えたお金を一旦精算してほしいので,神奈川の土地を売却しようという話を持ちかけられた。被告人から税金をいくらにするのか聞かれ,2000万円と答えたところ,司法書士にその金額を前提にして計算してもらうことになった。平成16年1月9日に土地売買に関する税金の額を決めるために被告人に電話をしなければならなかったが,友人が来ていたことや億単位の話であったことから,後でゆっくり被告人に電話をしようと思っていたところ,被告人から同日午後11時ころに電話が来て,「司法書士が怒って帰った。あなたとはもうやっていけない。」と老犬ハウス事業の話を断られた。翌10日の夕方には,被告人から,今まで立て替えたお金である1億7300万円を返済するように言われた。自分は,被告人のことを信用していて,まさか嘘の話をするなどと思っていなかったこと,借りたお金は返さないといけないと思ったこと,会社設立資金,土地代金残額,土地に関する司法書士料,造成費等からそのぐらいの金額になるものだと思ったこと,被告人が実際に立て替えてくれたと思ったことから,1億7300万円は被告人に返さなければならないと思った。そこで,この1億7300万円の借金について,被告人と念書を交わした。その後,被告人は,この借金について疑問を持った妻と自分を離婚させたり,B,Cと自分を家から追い出したりした。1億7300万円の返済期限は,同年3月31日であったが,その後,再び念書を書いて5月末日に期限を延ばしてもらった。友人らからお金を借りて返済しようとしたが,まとまった金額にはならなかったので,被告人から言われるまま,神奈川の土地を売却して,その代金で返済しようとした。被告人からは,土地を売却するためには8000万円が必要であると言われた。被告人は,そのお金を,知り合いの社長に頼んで用意すると言っていた。私は,その社長の接待費としてお金を要求されるなどした。また,被告人の内妻にもお金を立て替えてもらっていたので,そのお礼ということで,神奈川の土地の売却代金から被告人に借金を返済した残額で,五所川原の土地をプレゼントするように被告人から言われ,それを承諾した。被告人によれば,神奈川の土地は2億4000万円で売れるとのことだった。神奈川の土地売却の話は,自分が印紙代36万円を用意できなかったことから,平成16年5月のゴールデンウィーク明けに駄目になり,1億7300万円の借金返済だけが残った。私は,被告人のことを信じていたし,借りたお金は返さないといけないと思っていた上,被告人からどんな手段を使ってでも回収してやるということを言われており,それまでの経緯から,被告人には逆らえないし自分の方が悪いと思っていたので,被告人からは逃げられないと思い,借金を返さずに済む方法を誰かに相談することはしなかった。自分は,被告人への借金返済のために,色々な手段でお金を工面していたが,貸金業者からの工面もできず,知り合いやGから借りることもできなくなってしまった。同年5月終わりころから6月初めころ,被告人が新築した家のお金を自分が準備できなかったことから,被告人から借金はどう返すのかと聞かれ,死んで返すと答えた。被告人は,順番を聞いてきたので,「自分から死んで返します。」と答えたところ,「じゃ,誰があと責任持って返すの。」と言われた。自分の借金を他の人に押しつけたくなかったので,一番最初に死ぬ人を父親のBに決めた。B以降の順番は,母親のC,弟のH,妹のI,最後に自分とした。被告人から実家に電話をするように言われたので,Bに電話をして,「借金,死んで返すことになった。まず,おやじからだ。あとはみんなに伝えて。」と言った。被告人からは,「ただ死んでも駄目だ。会社の労災を使うとか,車にぶつかるとか,金になるように死ね。」と言われたので,「おやじに車にひかれて死んでもらいます。」と言った。これで交通事故に見せ掛けてBを殺し,車の保険を手に入れるという計画ができた。Cにもその話をした。この話が決まってから,Bを交通事故に見せ掛けて殺すため,被告人の指示で信号機のない横断歩道にBを立たせ,車に飛び込ませようとしたが,Bは飛び込むことができなかった。被告人に,Bが車に飛び込むことができなかった旨報告したところ,被告人はBに暴力を振るった。被告人は,Bに殴るなどの暴力を振るった他,ナイフで脅したこともあった。それでもBは飛び込むことができず,車と接触事故を起こして軽い怪我をした程度だったので,被告人は,暴力を振るったり脅したりするほか,「父さん,頼むから犠牲になってくんないか。」などと言って,Bに死ぬことを要求し,嫌がるBを説得し続けた。同年7月下旬ころ,被告人から「車の保険だといくら見積もっても2500万円にしかならない。足りない分は生命保険でカバーしろ。息子さんの方で生命保険の人に知り合いいないか。」と言われたので,「明日,朝一で保険屋に電話します。」と答えて,被告人への借金返済のために,Bに生命保険をかけて殺すという計画に乗った。この計画は,自分がCに伝え,Cもこれを了承した。被告人からは,死亡保険金額1億3000万円を目処に生命保険に入るように言われた。そこで,5社との間で生命保険契約の交渉をしたところ,同年7月下旬ころから9月上旬ころの間に,○△生命に5000万円,□×生命に3000万円,Wの簡易保険に800万円の合計8800万円の生命保険契約をすることができた。なお,生命保険契約の交渉の場に被告人がいたこともあったし,Wの保険については,被告人の指示で加入し,契約できたことを直後に自分から被告人に伝えた。Bに生命保険をかけた後,被告人から,秋田県に行き,仏壇清掃の営業を装ってBを事故死に見せかけるように指示された。そこで,被告人の指示どおりに秋田県に行ったが,Bは車に飛び込むことができず,そのことを被告人に報告した。同年9月30日の夜も,Bを交通事故に見せかけて殺すために秋田県に連れて行ったが,やはりBは車に飛び込むことができなかったので,Bは被告人から暴行を受けた。翌10月1日も同様にBを秋田県内に連れて行き,Bを信号機のない横断歩道に立たせ,車に飛び込ませようとしたが成功せず,被告人の指示でjに行った。被告人は同日午後7時40分ころやってきて,自分には被告人の車の助手席に乗っているように指示し,Bは車から降りた。被告人は,車の運転席後ろの座席の足元から鉄パイプ様のものを取り出した。被告人が鉄パイプ様のものを取り出したことは,取り出すときのシャーッという音と車の車内灯から分かった。その後,ドスッ,ドスッという殴る音や,Bのうめき声が聞こえたこと,被告人に促されて車から降りたときにBのひじの辺りのワイシャツが血でにじんでいたことから,被告人がBのことを鉄パイプ様のもので多数回,かなり強い力で殴ったことが分かった。被告人のBに対する殴打は,1時間くらい続いたと思う。その後,Bに近付いて,立てるかと声をかけたが,被告人からは,Bは死にたくない,家族はどうなってもいいと思っているんだということを言われ,さらに,Bのことを心配しなくていいし,かわいそうだと思わなくていいと言われた。Bが家族のことをどうなってもいいと思っていると聞いて,むっとしたので,Bが車に乗るのを助けることはしなかった。Bは,四つんばいではっていって,1人で車に乗り込んだが,その様子を見て,立って歩けないほどひどくやられたんだと思った。帰宅途中,五所川原のコンビニエンスストアに寄ったが,そこで,Bの呼吸が早く,顔色も悪く,脂汗をかいていたことから,家に運ぶまでの間に死ぬかもしれないと思ったが,病院に連れて行こうとは思わなかった。家に帰って少しすると,Bは,Cに救急車を呼ぶように頼んだ。Cは,自分に,救急車を呼んでいいか被告人に聞くよう言ってきた。Bに確かめると,「救急車,救急車」と言っており,被告人に黙って救急車を呼ぶと何をされるか分からなかったので,このままBが死んでもいいと思ってはいたし,被告人が救急車を呼ぶことを了承しないとも思っていたが,Cに頼まれたこともあり,形だけでもと思って自分の携帯電話から被告人に電話をして,「おやじ,救急車を呼んでほしいと言っているけど,どうしたらいいですか。」と聞いた。被告人にBの容体を聞かれたので答えたところ,被告人から「演技じゃないの,もう1回確認してきて。」と言われたので,電話を切って,Bの様子を見に行った。Bは,呼吸も早く,顔も黄色っぽくなってきていて,唇が白く乾いていたことから,演技ではなく本当に苦しんでいる,病院に連れて行けば助かるが,このままだと死んでしまうと思った。被告人に再び電話をして,Bの様子を伝え,演技じゃないと思うと言ったところ,被告人から,救急車を呼ぶことについて「息子さん的にはどう思うの。」と聞かれたので,「呼んだ方がいいと思います。」と答えたら,「警察に何て説明するの。入院費はどうするの。」と言われ,確かに警察に説明がつかないし,入院費もなかったので,救急車は呼べないと思った。また,被告人には,救急車を呼ぶ気はないとも思った。続いて,被告人から「どうせ死ぬんだったら,今死んだ方がいいんじゃない。」と言われた。その言葉を聞いて,Bをこのまま放置して,見殺しにするんだと思い,自分のBを見殺しにする気持ちがより強固なものとなった。この電話の最中,携帯電話の電波状態が悪かったので,固定電話から被告人の携帯電話に電話をしたこともあった。また,Cも被告人と電話で話しており,そのとき,Cは,被告人に対して,Bの手足が冷たくなってきたと言っていた。被告人と何回か電話をしたが,その後,Bは,呼吸が段々と弱まっていって止まり,脈も振れなくなったので,被告人に対してそのことも伝えた。すると,被告人は,今すぐ出てくるようにと言ったので,外で待ち合わせをし,被告人,C及び自分の3人で,営業先の秋田の帰りに駐車場で休んでいたら,Bが知らない誰かに殴られて,そのまま家に連れて帰ったら,次の日に死んでいたことにするという口裏合わせをした。被告人から,Cには聞かれたことだけに答えるようにと,自分には警察の対応を頑張ってと言われ,同時に,当分の間電話しなくていいと言われた。Bを殺したのは保険金をだまし取るためだったので,その計画に従って,CとXから800万円をだまし取ろうとした。Bを殺した後に被告人からそのことを直接指示されたわけではないが,Bの殺害前,秋田で交通事故に見せ掛けてBを殺すように指示された前ころに,被告人から,時間がないから,B殺害後の死亡保険金請求の段取りを考えておくように言われていた。
イ C供述
Cは,当公判廷において,概要以下のとおり供述する。
温泉の旅館に勤めていたときに,客として来た被告人と知り合った。被告人は,Bの仕事の世話をしてくれ,その態度等から社長をしていると思っていた。また,被告人は,Bの仕事の支度金としてお金をくれたこともあり,被告人のことを,親切で頼りがいがある人だと思うのと同時に,お金を持っている人だと思い,信用していた。平成15年7月ころ,被告人を息子のAに,Aが当時やっていた仏壇清掃業の客として紹介した。ところが,被告人はAに仏壇清掃を頼むことはなく,同年8月ころから,老犬ハウス事業の話をするようになった。被告人は,老犬ハウス事業とは,年いった犬を預かる仕事であることと言っており,土地は準備してあると言っていた。また,被告人は,200頭の犬を預かり,1頭あたり40万から50万円のお金が入ってくるので,一生,家族全員食べていけるようになるからと言っており,生活が苦しかったので,その話を聞いて,老犬ハウス事業のことをいい話だと思った。会社の経営,資金,準備等については,すべて被告人がやってくれると思っていた。自分は,被告人に老犬ハウス事業用の土地を見せてもらったこともあり,その土地をAに案内した。被告人の行動から,老犬ハウス事業の話は進んでいると思っていた。その間に,被告人から,財産価値のあるものということで百円札を165万円で買わされた。165万円ものお金は持っていなかったので,息子の雅之から借りて,Aが被告人に支払った。この百円札は,被告人が平成16年2月ころに持っていってしまった。また,被告人は,Aに,老犬ハウス事業をやって倒産した場合,財産を持っていれば,その土地を売って借金を返済できるからということで,神奈川の土地の購入を勧めてきた。売買代金は4500万円であったが,手付金として450万円を被告人に渡せばよいと言われ,Aは,Gから借りて450万円を被告人に支払った。そのほか,自分も事業で失敗したときのためと財産を持っていた方がいいとのことから,被告人から土地を購入し,Aが被告人に手付けとして代金の1割の150万円を支払ってくれ,自分は,同年12月ころに被告人と念書を交わした。平成16年1月前半ころになると,老犬ハウス事業の話はなくなってしまった。すると,被告人から1億7300万円ものお金を請求されるようになった。1億7300万円の内訳は,土地代,看板,犬の柵,司法書士代などだと思い,被告人を信用していたので,その借金が虚偽のものであることはあり得ないと思っていた。同年2月になり,Aが被告人の指示で離婚し,自分も含めて家族が被告人によって一時期家から追い出されたこともあり,被告人のことをとても怖いと思うようになった。また,被告人からの1億7300万円の借金の取立ても厳しくなっていった。そして,同年6月ころになると,被告人から,1億7300万円の借金について,Bが車に飛び込むという形で犠牲になって死んでもらい,車の保険を手に入れて,それを被告人への返済に回すという話があり,自分も了承した。そこで,Aが,Bを車に飛び込ませるために,いろんな場所に連れて行ったが,Bは車に飛び込んで死ぬことができなかったので,被告人は,そのようなBに対し,釣り竿やバットを使うなどして,暴力を振るい,同時に,「おまえは生きている価値ない。人間のくずだ。」と言ったりもした。そういう被告人を見て,ますます怖い人だと思うようになり,被告人に逆らうことができないと思った。また,Bは,被告人からそのような仕打ちを受けてもなお車に飛び込めずにいたので,死にたくないと思っていたということは分かっていた。同年7月下旬ころになると,被告人からAに対し,Bに生命保険をかけて殺すという話があり,それをAから聞いた。自分も,被告人に1億7300万円の借金を返すために,その話を承諾した。そして,7月下旬ころから9月上旬ころにかけて,○△生命,□×生命及びWの3社と,自分を受取人として,合計8800万円の生命保険契約を締結した。なお,被告人は,生命保険の契約に立ち会ったこともあった。その後,被告人の指示で,Aは秋田県の方にBを連れて行き,死に場所を探すようになった。それでもBは自動車に飛び込めず,その度に被告人はBに暴力を加えた。同年9月30日にも,AはBを秋田方面に連れて行き,帰ってきたときにはBの顔の右の辺りが腫れていたり血が出ていたりした。同年10月1日にも,BはAと一緒に秋田方面に行ったが,やはり車に飛び込むことができず,同日午後6時半ころ,Aからその旨電話連絡があり,被告人に会って帰るからと言われたので,Bは被告人から相当ひどく殴られ,もしかしたら殺されてしまうかもしれないと思ったが,被告人が怖かったことと借金返済のために,被告人のところに行くことを止めることはしなかった。同日午後9時半ころにAから電話があったので,カップラーメンとビールを買ってくるように頼んだ。同日午後11時ころにAとBは帰宅したが,Bは自力で車から降りて歩くことができず,声をかけたが答えがなく,息も荒く,ワイシャツの肘の辺りが血だらけになっており,このまま放っておいたら死んでしまうと思った。Bがなぜそんな怪我をしたか誰にも聞かなかったが,Bが車に飛び込めないと被告人がいつも暴力を振るっていたので,このときもBにこのような怪我をさせたのは被告人であると思った。救急車を呼べばBは助かると思ったが,被告人に借金を返していなかったので,万が一Bが助かれば自分たちが何をされるか分からないと思い,Bを見殺しにすることにした。気休めでもしてあげて,少しでも楽に死なせてあげたかったので,Bの傷口に消毒薬を塗ったり,ガーゼで包帯をしたり,足を冷やしたりした。すると,Bから「救急車」と言われた。でも,Bが助かると自分たちが何をされるか分からないし,保険金も入ってこないので,被告人に黙って救急車を呼ぶことはできなかった。被告人は救急車を呼んでいいとは言わないと思ったが,Aに頼んで,被告人に救急車を呼んでいいか聞いてもらったところ,被告人と話したAから,「もう少し様子を見ろ。」と言われたので,被告人は,保険金が入らなくなるので,Aに救急車を呼ばなくていいと言ったと思った。そこで,自分も,被告人に借金を返すために救急車を呼ばずにBを見殺しにすることにした。Aは,そのときの被告人との電話で,Bのあばら骨が折れているかを見て被告人に報告をするなどしていたほか,Bの容体について,「息づかいが荒くなってきて,顔色が少し青くなってきた。」とも言っていた。そして,Bは死亡した。その後,Aは,Bの死亡を被告人に電話で伝えた。すると被告人から呼び出され,Aと2人で待ち合わせ場所に向かった。被告人は,自分が起きる朝6時30分ころに救急車を呼ぶこと,被告人に電話はしないし,当分会わないこと,警察には秋田に行ってBは誰かに殴られて死亡したと言うことを言われ,被告人の指示どおりに行動することになった。被告人への1億7300万円の借金返済のため,Bを殺した後,生命保険金の請求をするのは当然の予定だったので,自分がWに死亡保険金800万円の請求をしたが,お金を受け取ることはできなかった。先にWの方から手続をしたのは,被告人に早くお金を返すためには,生命保険会社よりもWの方が早いのではないかと思ったからであった。
ウ A供述の信用性
(ア) A供述は,被告人と知り合った経緯,老犬ハウス事業の準備をするようになった経緯及びその準備状況,被告人から神奈川の土地を買うことになった経緯,土地の手付金を含めて被告人に渡すお金の準備状況,B殺害を計画するに至った経緯,Bが生命保険に加入するにいたった経緯,Bを自動車に飛び込ませようとしたときの状況,被告人が平成16年10月1日にBを暴行したときの状況,Bが瀕死の重傷を負って帰宅した後の状況,被告人との架電状況,B死亡後の口裏合わせの状況,Wに保険金を請求した経緯等,全体にわたり具体的かつ詳細で,生々しく,不自然,不合理な点はなく,一貫していて,反対尋問でも揺るいだ様子はない。
(イ) A供述とほぼ符合するように録音テープ,覚書,借用書,念書,会社設立依頼兼受注書などの客観的証拠が存在し,380万円についての銀行取引状況,Bを被保険者とする保険契約の契約時期及び契約会社について,他の証拠と概ね合致する。平成16年10月1日から2日にかけての被告人との電話の架電状況についても,電話の通話履歴と概ね符合する。
(ウ) 老犬ハウス事業の計画書中の「資産割」には,被告人の内妻が所有している神奈川の土地の周辺の土地が会社財産として記載されており,被告人とAとの間で被告人の内妻所有の土地について売買契約の話が出ていたことを合理的に推認させるものであって,このこととA供述は矛盾しない。
(エ) また,A供述は,同人がお金を借りたとするJの供述と,その内容がほぼ合致し,本件全体について,C供述とも内容がほぼ合致する。
(オ) さらに,Aにおいて,被告人を引っ張り込むような事情は認められない。
(カ) 以上を総合すれば,A供述の信用性は高いと認められる。
エ C供述の信用性
(ア) C供述は,被告人と知り合った経緯,家族に被告人を紹介した状況,B殺害に至る経緯,10月1日の夜にB及びAが帰宅した後の状況,B死亡後の口裏合わせ及びWに生命保険支払を請求した状況等,全体にわたり,具体的かつ詳細で,不自然,不合理な点も特に見られず,A供述ともほぼ合致している
(イ) さらに,A同様,Cが被告人を引っ張り込むような事情は認められない。
(ウ) 以上を総合すれば,C供述は信用性が高いと認められる。
(3)ア 弁護人は,まず,A供述の信用性について,①路線価格で1億2000万円の価値があるという土地を4500万円で売却することについての合理的説明がなく,また,A達のために事業資金として8500万円の金員を準備していたという被告人が,土地の手付けとして代金の1割の450万円を受け取る必要についての合理的説明もなされていないこと,②1億7300万円の借金の内訳,特に事業資金8500万円と神奈川の土地売買代金4500万円について明確で合理的な説明はなく,実際に1億7300万円の借金があったと言えるだけの証拠はないこと,③Bに生命保険をかけることになった経緯についても,Bの年齢及び収入状況から交通事故の保険金では被告人への借金返済には足りないことは明らかであり,その保険金取得の話があって2か月も経ってから生命保険の話が出たこと自体不自然であること,④交通事故の保険の話が出た経緯である2億4000万円の土地売買の話が36万円の準備不足で壊れたということについても,合理的説明がされていないこと,⑤Aは,被告人から,平成16年5月下旬又は6月初旬に初めて死ぬことを言われたと供述するが,これは,被害者が同年2月18日に,借金返済のために死ぬことを強要されているとの相談を警察にしたことに照らすと不自然であること,⑥被害者が警察に相談に行ったことを前提としながら,その時期に立て続けに生命保険に加入させたことは不自然であること,⑦平成16年10月1日に,被告人が被害者に対して暴力を振るい,殺害したことについての合理的説明はできていないこと,⑧Aによれば,その際の暴行後,被告人から被害者を死に追いやる別の方法を考えると言われたとのことであり,そうであれば暴行の態様として,殺意をもって長時間にわたり,鉄パイプで殴打していたと考えることはできないこと,⑨⑦の暴行の際に被害者は大怪我をしたとしながら,帰りにコンビニ等に寄って帰ったというのは矛盾があること,⑩Aが供述する暴行の態様と被害者の怪我の程度は符合しないこと,⑪Aは救急車を呼ぶか否かを被告人に相談したとするが,A供述によれば,被告人は殺意を持って被害者に暴行を行ったのであるから,そのような被告人が救急車を呼ぶことを承諾するはずがなく,そのような被告人に救急車を呼ぶか否かを相談したというA供述には矛盾があること,⑫被告人には保険金を取得しなければならない理由はなく,被害者殺害の動機がないこと,⑬詐欺未遂の件について,共謀の時期,内容等について具体的な供述をしていないこと,⑭Aは,自己の刑責を軽くするために被告人を引っ張り込んだといえることから,信用性がないと主張する。
イ しかし,①については,被告人がAに説明すべき事柄であるところ,Aは被告人からそのような話を持ちかけられた旨供述しているにすぎないのであるから,これらの点についてAが合理的説明ができないからといって,A供述の信用性に影響はないと言える。
②については,確かに,被告人に対する1億7300万円の借金の内訳についてのAの認識は明確とは言い難いが,Aは被告人に1億7300万円の借金を負っていると信じ込まされていたこと,内訳はともかく総額としてAが供述する内容の借用書があることからすれば,借金の内訳がはっきりしないことをもって,Aの供述の信用性が低下するとまでは言えない。
③については,被告人とAらの間で,当初は1億7300万円の借金を返済する話になっていたのが,Aが借金を返済できなかったことからBを殺害する話になり,Bの殺害方法として初めは自動車事故を考え,その後,Bを生命保険に加入させることとなったのであり,自動車事故による保険金取得と生命保険加入との間にある程度の期間があっても,特に不自然とまでは言えない。
④については,土地売買についても,Aは被告人主導の下,被告人を信じて受け身で動いていたのであり,土地売買の話が壊れた点についてのA供述が特に不合理であるとまでは言えない。
⑤については,「警察安全相談受理表」と題する書面によると,平成16年2月18日に警察に相談に行ったのはAと認められる。警察のメモには,「同様の相談」とあるが,その記載自体からは,Bが殺されることに関するものとも,被告人から多額の金銭を要求されていることに関するものともどちらとも取れる上,むしろ,相談要旨に「飼い犬を引き取る事業を巡る借金のトラブルの相談」と記載されていること及び書面の大半の記載が,ある人から多額の金銭を要求されて払えずに困っているという内容であることからすれば,「同様の相談」とは,多額の金銭の要求を受けていることであると解するのが合理的である。
⑥については,警察への相談は,Bが被告人に相談なく勝手に行ったものであり,逆に,Bがそのような行動をとり,なかなか自動車にも飛び込まなかったことから,生命保険の加入へと話が進んでいったとも考えられ,特に不自然とまでは言えない。
⑦及び⑧については,判示のとおり,被告人がこの時点でBを殺害しようとして暴行したと認定するものではないから,弁護人の主張は当たらない。
⑨については,Bはかろうじてではあるが自力で車に乗り込んだこと,A自身,この時点ではBについてどうなってもいいと思っていたことからすれば,帰宅途中にコンビニエンスストアに寄ったことが矛盾であるとまでは言えない。
⑩については,Bは,10月1日に受けた暴行により四肢多発打撲傷を負っていたのであり,その怪我が原因で死亡するに至っているのであるから,Aが供述する暴行の態様とBの怪我の態様が符合しないとは言えない。
⑪については,Aは,Cに言われたことや,Bも救急車と言っていたこと,被告人に黙って救急車を呼ぶと何をされるか分からなかったので,形だけでもと思い被告人に相談したに過ぎないのであるから,矛盾があるとまでは言えない。
⑫については,被告人は,A一家からお金を巻き上げるために1億7300万円の借金があると信じ込ませ,その返済のために保険金殺人を計画したものであるから,被告人は,保険金取得の理由及びB殺害の動機のいずれも有していたと認められる。
⑬については,Aは,被告人がAに平成16年7月下旬ころ,Bに生命保険を掛けて殺すことを持ちかけ,A及びCがこれを了承し,被告人から1億3000万円を目処に生命保険に入るように言われ,その後同年7月下旬ころから9月上旬ころの間に合計8800万円の生命保険を契約したこと,B殺害後,計画に従ってWで生命保険金をだまし取ろうとした旨供述しているのであって,保険金詐取についての共謀成立の時期及び内容が曖昧とは言えない。
⑭については,Aらが,自己の刑責を軽くするために被告人に主犯としての責任を負わせたという事情は,本件全証拠をもってしても認められない。
ウ また,弁護人は,C供述の信用性について,同人が道義的責任を軽くしたいとの思いから被告人を本件犯行に引っ張り込んだと考えることもでき,Cに対する判決が宣告されたからといって,そのことから直ちに同人の供述が信用できることにはならないと主張する。
しかし,Aが被害者となっている詐欺事件については,これを被告人が敢行したからといって,Cの社会的非難に影響するとは言えず,この詐欺事件も含めた一連の事件について,同人がその道義的責任を軽くするために関係ない第三者を巻き込むということは考えにくい。そして,このほかに,Cが被告人を引っ張り込んだことを認めるに足りる証拠はない。
(4)ア 以上に対し,被告人は,当公判廷において,概要以下のとおり供述する。
平成11年ころに温泉に宿泊客として行ったときに,そこで働いていたCと知り合った。Bの仕事を紹介してくれと頼まれてCの自宅に行き,Cからお金を貸してほしいと言われたので,30万円を貸した。平成12年にも浜名温泉に行き,Cと挨拶程度はしたが,それ以外に,Bの仕事の状況について確認はしなかった。平成13年か14年には,Bの仕事の話を聞き,職安では年齢的に仕事を見つけるのが難しいとのことであり,依然としてBは定職に就いていなかったので,丸太の皮はぎの仕事をBに紹介して,17日分の給料として34万円をBに渡した。しかし,結局,Bには17日間は働かずにやめてもらった。平成15年6月ころ,CからAに仕事を紹介してくれと頼まれ,A宅やC宅の近辺でどこかに就職するのは難しいと思い,自分で事業をした方がいいと思って老犬ハウスの話をCとAにした。Aに初めて会ったのはそのときであるが,その際に,Aが仏壇清掃業をやっているとか,自分がAに仏壇のクリーニングを頼むという話は出なかった。ただ,Aから仏壇のちらしのようなものは見せてもらった。同年8月ころには,Aとかなりの回数会ったが,自分が九州で老犬ハウス事業をやろうと思ったという話をしたものの,その事業が成功しているとか,だから今度青森でやろうと思っているということは話していない。最初に犬を預かるときに1頭につき50万円くらい受け取り,犬はペットショップを通じて預かればいいんじゃないかという話はした。これらは,九州でやろうと思ったときに考えた内容であった。Aから設備を造るのにいくらぐらい必要か聞かれたので,6000万円くらいじゃないかと答えた。すると,Aから運転資金として8500万円くらいあれば安心だということを言われた。この段階で,Aとの間では,ある程度どういう施設を造るのかということについての話があった。この8500万円は,Aが用意するという話であった。自分は6000万円くらいあればいいと思っていたが,いずれにしても,Aは兄弟も多いし,ローンを組んでこれらのお金を用意するのかなと思っていた。この老犬ハウス事業に関して,Aとの間でアドバイザー契約のようなものを締結した。その内容は,事業資金8500万円の1割である850万円を開業したときに自分がもらうこと,着手するときに850万円の半分の425万円を自分に渡すこと,1年以内に犬の施設を開業できるようにすること,車を1台自分に貸すことであった。この425万円から,パソコン等のOA機器を準備することになっており,実際にパソコンを3台買った。もっとも,パソコン等が予定より安く準備できたので,425万円ではなく400万円を,同年10月末ころにAから受け取った。これ以外に,70万円,380万円というお金をAから受け取ったことはない。また,内妻が所有している土地について,Aに売買するという内容の契約書を作り,手付けとして450万円を受け取ったという内容の覚書は作った。この覚書は,Aの妻や自分の内妻を説得するために作成したものである。自分は,内妻を説得するために,Aがお金を用意してからでは遅いので,この覚書を作ったが,これを内妻に見せると,そこに自分が受領したと記載されている450万円はどうしたのかと内妻に聞かれるので,見せなかった。また,Aは,この覚書を作成する前に会社設立資金と土地代の合計1億円以上を友達に借りに行ったが,そのことはAの妻も知っていた。「Z」の資産割表に神奈川の土地の付近の土地が記載されているが,それについては特段注意を払っていなかったので,よく分からない。神奈川の土地の所有権がAに移転したということはないし,そのような話もしていない。また,覚書に記載されている450万円のお金は,実際には受け取っていない。Cに百円札の束を売ったことはないし,そのことでAから165万円を受け取ったこともない。その後,老犬ハウス事業は,話の中では進んでいった。自分はホームページを作った。しかし,平成16年1月ころ,そのホームページを実際に開設するために,Aに確認をしてもらうために外で待ち合わせをしたにもかかわらず,3時間待ってもAが来なかったので,ホームページを開設することはやめ,老犬ハウス事業自体についても一緒にやっていくのを断った。そして,Aに対して,A一家に今まで渡していたお金を全部返してほしいと話した。その金額は,Aと2人で話して600万円ということになった。そして,そのお金は,自分がAの仏壇清掃業を手伝い,手間賃等を払ってもらうことで話が進んだ。同年2月か3月ころ,Bを働かせるために借金があることにして,Bに仏壇清掃業をするように話をすることになった。また,同年2月ころに,Aが,生活が苦しくて家賃を払えないので実家に入って1人で働いて借金を返したいと言ったので,自分は,Aの妻に借金を返すまで離婚したらどうかと話し,2人は離婚した。車内の録音テープに1億7300万円の借金のことを録音したが,これは,Aの兄弟に聞かせて,説明の手間を省くためだった。1億7300万円の借用書は,実際にそのような借金がAにあったわけではなく,Bを働かせるために作成したものである。Aは,1億7300万円の借金が真実は存在しないことを知っているので,Aとの間でその返済のために死んで返すなどの話はしていないし,Bに交通事故で死ぬように話をしたこともない。Aは,Bが車にひかれて入った保険金で飯を食っていくかという話をしていたが,自分は,1億7300万円の借金を返済するためにBに死ねという話はしていない。Bに生命保険をかけるという話が出たことは知っているが,自分から話をしたものではなく,自分は,頼まれて医者を紹介したり,保険会社をAに紹介しただけであり,しかも,その保険会社とは結局のところ,契約できなかった。Aは,Bが思ったように働いてくれなかったことから,Bと喧嘩をすることがあり,同年9月30日も,仏壇清掃業の調子を聞いたところ,AがBに焼きを入れたということを話したので,夜9時30分過ぎにjで会うことにした。自分が待ち合わせ場所に行ったときには,AとBはつかみ合いのけんかをしており,自分が止めに入ったもののB

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最終更新:2006年03月06日 12:47
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