hanrei @Wiki H18. 2.17 甲府地方裁判所 平成16年(ワ)第309号 請負代金請求



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 工事請負契約に基づく下請負人の元請負人に対する未払請負代金請求につき,元請負人が,代理権がない者が契約した,工事の目的物には瑕疵があるなどと主張して争ったが,下請負人の請求が全額認容された事例


判   決
主   文
1 被告は原告に対し538万4500円とこれに対する平成16年1月1日から支払いずみまで年6%の割合による金員を支払え。
2 原告のそのほかの請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は第1項にかぎり仮執行をすることができる。
事実および理由
第1 請求
 被告は原告に対し538万4500円とこれに対する平成15年11月1日から支払いずみまで年6%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 1 基本的事実関係(当事者間に争いがないか,【】内の証拠により認める)
 (1) 原告は「A工務所」の屋号で建築工事の請負を業とする者である。被告は建設コンサルタント業等を目的とする株式会社である。

 (2) 被告は,平成15年5月頃,株式会社Bから「C理事長室増築工事」を請け負い,その下請工事を原告に発注した。

 (3) 原告は同年5月下旬に上記下請工事に着手して10月中にはこれを完成し,同月末までに被告に引き渡した【乙1,7,証人D,原告,被告代表者E】。

 (4) 被告はこれまでに上記下請工事の請負代金として合計1178万5000円を原告に支払っている。

 2 争点
 (1) 工事内容と請負代金額の合意
【原告の主張】
 原告は,被告の代理人であるDとの間で,原告が被告から下請けとして下記のア,イのとおりの工事を請け負うとの合意(契約)をした。その請負代金額は合計で1716万9500円であり,既払いの1178万5000円を差し引いた538万4500円が未払いである。よって原告は被告に対し請負契約に基づき残代金538万4500円とこれに対する工事完成引渡しの後である平成15年11月1日から支払いずみまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払いを求める。
 なお,かりに,下記のような確定額の合意ではなく被告の主張する出来高払いの合意が成立していたのだとしても,被告代理人のDは工事引渡しと時期を同じくして合計代金額1716万9500円を確認する書面を原告に差し入れており,被告はこの金額を了承している。
 ア 本件工事 
 工事内容    C理事長室増築工事(以下「本件工事」という)
 合意成立時期  平成15年5月下旬
 請負代金額   1200万円(消費税込み)
 イ 追加工事
 工事内容    下記a,bのとおりの本件工事の追加工事(以下「追加工事」という」)
a 本件工事部分のタイル貼り(モルタル仕様をタイル貼りに変更)
b コンピュータ棟,理事長住宅の塀,高校入口の塀,電気棟外壁の各塗装工事
 合意成立時期  平成15年8月下旬
 請負代金額   aは35万円,bは481万9500円(いずれも消費税込み)
【被告の主張】
 Cの工事は,当初はその概要が決まっていただけで,被告とBの間でも代金額や細かい工事の内容は決まっていなかった。そして,工事内容の追加や変更があるたびに,その都度Bから被告が工事を請け負い,それを下請業者に発注するという形をとっていた。そのため,被告から原告に対する工事の発注も,随時工事を発注していく形になり,着工前に具体的な工事内容やその代金を決めることはしていない。この場合,原告の代金額は次のようにして定まる。まず,原告から工事ごとに請求書を提出してもらい,その請求額や被告の利益,諸費用等を考慮に入れて元請工事代金額を算定し,それを被告から施主に請求する。その後,原告と被告で下請工事代金額を協議して決定する。ところが原告は被告との協議を拒否しているため,現在にいたるまで代
金額が決まっていないのである。

 (3) Dの代理権
【原告の主張】
 ア Dは被告の従業員であり,本件工事,追加工事各請負契約を締結する代理権を被告から与えられていた。その理由は以下のとおりである。
 平成15年5月上旬,Dから本件工事の依頼を受けた原告が被告事務所を訪れたところ,被告のE泰一代表取締役(以下「E社長」という)は原告に対し「D君と話してくれ」と言うので,原告はDから説明を受けた。その後原告はDと打合せを重ね,見積書,追加見積書を提出するなどして,同月下旬,本件工事請負契約を締結した。
 着工後,Dは本件工事現場にほとんど毎日顔を出し,原告に対して具体的な施工の指示をした。E社長も工事期間中3回くらいは現場に顔を出し,原告に対し「D君と相談しながらうまくやってください」などと声をかけている。
 同年8月に入り,Dから追加工事の指示があり,原告は見積書を提出し,同月下旬,追加工事請負契約を締結した。
 イ かりに被告の主張するように被告とDの間に雇用契約が存在しないとしても,上記の経緯からしてDが被告から代理権を与えられていたことに変わりはない。
【被告の主張】
 Dは被告の従業員ではなく,外注の設計士である。被告がDに対し,下請業者に対する工事内容の説明や下請業者から出された見積書の検討,現場の監督など一定の事務を依頼することはあったが,Dに代理権はなく,請負代金額の決定はすべてE社長が行っていた。

 (3) 瑕疵担保責任
【被告の主張】
 原告の行った工事には以下のとおりの瑕疵がある。
 a 外部通路・屋根まわり
 屋根の固定が不完全であり,十分な強度がないと推測される。屋根をボルトで完全に固定する必要があり,建物内部に関してはすでに施工されている内装をとりはずしてボルトを固定し,ふたたび内装をしなおさなければならない。現状のままで補修できる部分は被告が補修を行った。その費用は3万6000円である。
 b 外部通路・床まわり
 タイルが浮くなど施工が不良の部分が広い範囲にわたって存在しており,すでに被告において補修工事をしているが,今後も広範囲にわたってタイルの浮きなどの不具合が出てくる可能性もある。被告が行った補修の費用は90万円である。
【原告の主張】
 ア 被告の主張する瑕疵の存在はいずれも否認する。
 イ 本件工事,追加工事の実態は,Dのもとに原告および原告が発注した業者(孫請業者)が集合し,Dの指揮監督により工事が進められるというものであった。原告は,被告から設計および現場監督をまかされたDの指示を受けながらその意向にそうように施工した。引渡時にもDから何の指摘も受けていない。したがって,かりに原告の工事の目的物に瑕疵があったとしても,原告は被告に対し担保責任を負わない。

第3 争点に対する判断
 1 認定事実
 証拠(【】内にかかげるものと甲11,12,乙8,証人D,原告,被告代表者E)と弁論の全趣旨により以下の事実を認める。
 (1) Dは二級建築士である。平成10年頃被告に雇用され,その従業員として働いていた。E社長は,平成14年10月頃に被告の事務所を現在の場所に移転する際,全従業員を解雇したが,Dに対しては引き続き仕事を手伝うよう求めた。Dは被告の事務所の一室を借り,被告のために設計事務所として働くようになった。ただし,被告から依頼される仕事量にかかわらず毎月一定の金額(従来の給与と同程度の金額)が被告からDに支払われ,一方,Dが被告に対して部屋の賃料を支払うことはなかった。Dの仕事の内容は従業員のときの仕事と比べて大きな変化はなく,被告のための仕事にかぎられていた。E社長はコンサルタント業務で忙しかったため,被告が請け負った工事を下請けに出す際に被告のために下請業者と交渉をする役はDが担当する
ことが多かった。Dは,仕事をする際には被告の名刺を使っていた【甲10】。このような仕事の形態は,Dが被告から完全に独立する平成15年11月まで続いた。

 (2) Dは,平成15年5月上旬,被告がBから請け負った「C理事長室増築工事」の設計をしたうえ,原告に連絡をとった。急ぎの仕事であったため,工事の下請けを,以前にも被告から発注したことのある原告にしてもらいたいと考えたからである。原告は見積書を作成してDに提出した【甲5,6】。Dはこの見積もりについてE社長と相談し,同社長の承諾を得たうえ,原告に対して請負代金1200万円(消費税込み)で本件工事を発注することにした【甲1】。こうして同月下旬に本件工事請負契約が成立し,原告は工事に着手した。

 (3) E社長は,自身はコンサルタント業務で忙しかったため,本件工事の施工監理および現場監督のいずれをもDに一任した。Dは毎日のように工事現場を訪れ,施工の具体的内容は,原告と協議しつつ,すべてDが原告に指示を出して決定した。E社長も,工事期間中にすくなくとも2~3回は現場を訪れて工事の状況を見ているが,Dや原告に対して工事内容に関し不満を述べることはなかった。

 (4) 同年8月に入ってBから追加工事の依頼があり,Dは原告に見積もりを依頼した。原告から提出された見積書【甲7ないし9】をもとに,Dは,下記のとおりの金額(いずれも消費税込み)を決定し,E社長に報告をしてその了承を得た。
 a 本件工事部分のタイル貼り(モルタル仕様   35万円
   をタイル貼りに変更した)
 b コンピュータ棟,理事長住宅の塀,高校入  481万9500円
   口の塀,電気棟外壁の各塗装工事

 (5) 原告は,同年10月上旬に本件工事,追加工事とも完成した。すると,Dは,請負代金額を確認してほしいとして,工事内容と請負代金額を記載した書面【甲3】を原告にファクシミリ送信してきた。その金額は,上記(2),(4)のとおりのものである。原告はこの金額に基づいて請求書を作成し,被告に交付した【甲4】。
 10月中には,Dのほか,Bの代表取締役とC理事長も立ち会って,本件工事,追加工事目的物の引渡しが行われた。その際,原告に対して,変更工事(トイレットペーパー止めの位置の変更とトイレのクロス貼替え)と瑕疵補修工事(タイル工事の一部タイルの浮きの補修)が発注され,原告は同年12月末日までにこの変更,補修を完了し,Dの確認を得た。

 (6) 被告は,本件工事,追加工事に関し,Bからはすべてその請負代金の支払いを受けている。

 2 争点(1)(工事内容と請負代金額)について
 上記認定事実によれば,原告は,Dとの間で,原告の主張するとおりの工事内容,請負代金額の約定により本件工事,追加工事各請負契約を締結したと認めることができる。被告の主張の趣旨ははっきりしないが,出来高払いの合意を主張するものと解される。もし出来高払いであるならば,原告とDとの間でそのような合意が成立していなければならない。しかし,出来高払いの合意をしたなどということは原告もDもまったく述べておらず,かえって,見積書に基づき確定的な代金額の合意をしたと述べているのである。出来高払いの合意が成立したとはとうてい認めることができない。
 被告は,あるいは,Dが何を決定しても無意味で,E社長が了承していない以上請負代金額は決まらないと主張するのかもしれないが,そうであれば,結局問題となるのはDの代理権の有無ということになる。これについては争点(2)において判断する。
 争点(1)については原告の主張が正当であり,これを採用する。

 3 争点(2)(Dの代理権)について
 上記認定事実によれば,
 a 本件工事,追加工事が行われた平成15年5月から10月までの期間をみると,被告のために働いていたのはE社長とDの2名のみであり,Dはもともと被告の従業員で,その当時も雇用関係は切れたとはいえ被告のために従業員時代と同様の仕事をしていたこと
 b E社長は,コンサルタント業務で忙しかったため,原告との関係以外でも,被告と下請業者との間の交渉をDにまかせていたことがあること
 c 本件工事,追加工事に関しても,E社長はその施工監理および現場監督のすべてをDに一任し,自分が現場を訪れた際も工事に関して不満を述べていないこと
 d Dのほうも,原告との間で被告のための工事内容の打合せや請負代金額の交渉のすべてを行い,被告の正当な代理人として振る舞っていること
 e E社長は,本件工事,追加工事のことを当初から知っていたのに,すくなくとも工事終了後に原告から請求を受けるまで,請負代金額について原告と直接話をしていないこと
を指摘することができ,これらの事情を総合すると,E社長は,工事内容の決定,請負代金額の決定を含め,本件工事,追加工事に関する権限をあらかじめ包括的にDに与えていたと推認することができる。したがって,争点(2)についても原告の主張は正当である。

 4 争点(3)(瑕疵担保責任)について
 被告は,本件工事,追加工事の目的物に瑕疵があると主張するが,それを前提にしてどのような抗弁を主張するのか,すなわち,瑕疵修補を請求するのか,損害賠償を請求するのか,それとも損害賠償請求権による請負代金債権との相殺を主張するのか,請負残代金の支払いを拒絶するのか,その立場を最後まで明らかにしなかった。したがって主張自体理由がないといえるのであるが,念のため,瑕疵の有無とその責任の所在について検討を加える。
 被告は,外部通路・屋根まわりに瑕疵があると主張するが,その証拠としては,不具合を指摘する土地家屋調査士作成名義の調査報告書(乙1)と写真(乙4,7)を提出するのみである。しかし,上記調査報告書の内容は,不具合があると指摘するのみで,何が根拠となるのか,また,具体的にどのような不都合があるのかが明確でない。原告と被告の合意内容に反するというのならそのように指摘すべきであるがそのような指摘はないし,建築基準法に違反するというのなら根拠条文等を指摘すべきであるがそのような指摘もない。なお,時機に遅れた攻撃防御方法として却下したため証拠にはならないが,被告が証拠として提出しようとした報告書(乙9)についても同じことがいえる。このような証拠のみでは,被告主張の瑕疵を認めることはとうて
いできない。
 次に,被告は,外部通路・床まわりについても,瑕疵があることの証拠として上記調査報告書(乙1)と写真(乙2,4,7)を提出する。しかし,上記調査報告書の内容はこの部分でもきわめて抽象的であり,屋根まわりに関して述べたのと同じ批判をすることができる。また,すでに被告の側で補修をしたとのことであり,原告による施工の状態がどのようなものであったのかは写真を見てもよくわからない。このような証拠によって被告主張の瑕疵を認めることはとうていできない。
 以上のとおり,瑕疵の存在は立証されていないといわざるをえない。
 さらにいうと,かりにこれらが瑕疵であるとしても,上記認定事実によれば,原告はすべてDの指示に基づき施工をしたのであるし,かつ,すでに述べたとおりDは被告のためにそのような指示をする権限をもっていたのであるから,これらの瑕疵は「注文者の与えた指図によって生じた」のであり,原告は瑕疵担保責任を負わない(民法636条本文)。
 いずれにしても,原告に瑕疵担保責任が生じるとする被告の主張を採用することはできない。

 5 結論
 請求原因事実がすべて認められ,抗弁はない(たとえあったとしても理由がない)ので,原告は被告に対し本件工事,追加工事各請負契約に基づき請負残代金538万4500円を請求することができる。原告は平成15年11月1日以降の商事法定利率年6%の割合による遅延損害金を請求するが,上記認定事実によれば,引渡時に指摘された瑕疵補修工事がすべて終了したのは同年12月末日であるから,遅延損害金請求の起算日は平成16年1月1日とすべきである。

   甲府地方裁判所民事部

 裁判官  倉 地 康 弘