H18. 2. 2 福岡高等裁判所 平成17年(行コ)第12号 固定資産税等の免除措置無効確認等請求控訴事件

熊本市の住民である控訴人が,被控訴人の行った朝鮮総聯の熊本県本部等が使用する土地及び建物に対する平成15年度分固定資産税及び都市計画税の免除措置の取消し又は無効確認等を求めた事案について,当該免除措置は,地方税法367条,熊本市税条例50条1項に定める要件を満たしていないなどとして,原判決を変更し,当該免除措置の取消し及びこれに係る税額に相当する損害賠償を求める請求を認容した事例


         主    文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人が平成15年5月20日有限会社朝日商事に対してした,別紙目録記載1の土地及び同記載2の建物の平成15年分固定資産税及び都市計画税のうち,同記載3の固定資産税等免除措置対象部分に係る固定資産税及び都市計画税の免除措置を取り消す。
3 被控訴人は,Aに対し,30万5300円を支払うよう請求せよ。
4 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2)ア 主文2項同旨
イ 被控訴人が平成15年5月20日有限会社朝日商事(以下「朝日商事」という。)に対してした,別紙目録(以下「目録」という。)記載1の土地(以下「目録1の土地」という。)及び目録記載2の建物(以下「目録2の建物」という。)の平成15年度分固定資産税及び都市計画税(以下「平成15年度分固定資産税等」という。)のうち,目録記載3の固定資産税等免除措置対象部分(以下「本件減免対象部分」という。)に係る固定資産税及び都市計画税の免除措置(以下「本件減免措置」という。)は無効であることを確認する。
  (3) 被控訴人が本件減免対象部分に係る平成15年度分固定資産税等の徴収権を朝日商事に対して行使しないことは違法であることを確認する。
(4) 被控訴人は,Aに対し,32万4900円及びこれに対する平成16年2月1日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払うよう請求せよ。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
  (1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
  本件は,熊本市の住民である控訴人が,朝日商事所有の目録1の土地及び目録2の建物の平成15年度分固定資産税等のうち,本件減免対象部分に係る本件減免措置は違法である旨主張して,被控訴人に対し,地方自治法242条の2第1項各号に基づき,次のように請求した事案である。
 (1) 同項2号に基づき,本件減免措置の取消し又は本件減免措置の無効確認の請求
 (2) 同項3号に基づき,被控訴人が本件減免対象部分に係る平成15年度分固定資産税等の徴税権を行使しないことの違法確認の請求
 (3) 同項4号本文に基づき,本件減免措置当時熊本市長の職にあったAに本件減免対象部分に係る平成15年度分固定資産税等の各税額及びその延滞金に相当する損害賠償の請求をすることを被控訴人に対して求める請求
2 前提事実(争いのない事実,各項末に記載の証拠及び弁論の全趣旨により認定した事実)
(1) 当事者等
  控訴人は,普通地方公共団体である熊本市の住民である。
  被控訴人は,熊本市の執行機関であるとともに,本件減免措置の行政庁である。
  本件減免措置を受けた朝日商事は,目録1の土地及び目録1の土地上に昭和46年10月10日新築された目録2の建物である熊本朝鮮会館(以下「朝鮮会館」という。)の不動産登記簿上の所有名義人であり,その固定資産税等の納税義務者である。
(2) 朝日商事及び熊本朝鮮会館管理会等
    朝日商事は,昭和46年10月7日,不動産売買,並びに斡旋業,建物賃貸業等を目的に,熊本市九品寺a町b丁目c番e号を本店として設立され,昭和62年6月15日,朝鮮会館について,朝日商事名義の所有権保存登記がされた。しかし,朝日商事は,元々朝鮮会館を所有することを企図して設立されたにすぎず,会社としての活動を何ら行っていなかった。
    朝鮮会館の管理・運営に関しては,昭和46年3月ころ作成の熊本朝鮮会館管理会定款(乙5,以下「定款」という。)に基づき熊本朝鮮会館管理会(以下「管理会」という。)が創立され,定款中には,朝鮮会館が管理会の基本財産である旨定められている。
    本件減免措置がされた平成15年5月当時における管理会の役員は,理事長1名,理事2名,評議員3名であり,その理事長には在日本朝鮮人総聯合会(以下「朝鮮総聯」という。)熊本県本部委員長のBが,その他の役員にはいずれも朝鮮総聯県本部副委員長Cや朝鮮総聯の関連団体である熊本県商工会長Dなどの関係者が就任し,また,平成15年5月当時の朝日商事の代表取締役にはCが,取締役にはB,D外1名が就任していた。
   (甲24ないし26,乙5,7,8,20,27,証人B)
  (3) 本件減免措置の経緯
    朝日商事は,目録1の土地及び朝鮮会館に係る平成15年度分固定資産税30万3400円及び都市計画税4万3300円について,平成15年5月9日付で,熊本市税条例(以下「本件条例」という。)50条2項の規定に基づき,「この建物は在日朝鮮公民が無償で利用する公共施設であり」との理由でもって,その減免を申請した。そこで,被控訴人は,平成15年5月20日,朝日商事に対し,本件減免対象部分につき,「在日朝鮮公民の公共施設として使用されているため」の理由でもって,本件条例50条1項2号,熊本市税条例施行規則(以下「本件規則」という。)6条2号ウに定める公益のために専用される公民館類似施設に該当し,固定資産税減免の必要性も認められるとの理由から,本件減免対象部分に係る平成15年度分固定資産税26万7100円及び都市計画税3万8200円を免除するという本件減免措置を行った。しかし,朝鮮会館のうち,本件減免対象部分以外の部屋については,その主たる利用者が朝鮮熊本県商工会,熊本県朝鮮人商工協同組合,朝鮮民主女性同盟及び朝鮮新報社であることから,公益の用に供されているとは認められないとして,上記減免申請を認めなかった(なお,朝鮮会館のうち,共用で使用していると認められるホール,階段室,廊下,便所,湯沸室等については,その床面積を減免対象と課税対象とに按分して税額が算定された。)。その結果,朝日商事は,平成15年度分固定資産税等合計34万6700円のうち,本件減免措置を受けた合計30万5300円を控除した合計4万1400円を納付した。
   (甲1,乙13,14,19,原審証人E)
  (4) 住民監査請求
    控訴人は,平成15年9月29日,熊本市監査委員に対し,本件減免措置は違法・不当であると主張し,本件減免措置の取消し及び免除額の徴収を求める住民監査請求を行って受理された。上記監査委員は,同年11月18日,被控訴人に対し,同年12月18日までに本件減免措置を取り消し,免除額を徴収するよう勧告したが,被控訴人は,上記勧告に従わなかった。そこで,控訴人は,平成16年1月8日原審に本訴を提起した。
  (5) 固定資産税等の減免事由等に関する規定
   ア 地方税法367条は,「市町村長は,天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者,貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り,当該市町村の条例の定めるところにより,固定資産税を減免することができる。」と定めている。
   イ 本件条例50条1項は,上記地方税法の規定を受けて次のとおり定めている。
    「 市長は次の各号の一に該当する固定資産のうち,必要があると認めるものについてはその所有者に対して課する固定資産税を減免することができる。
    (1)貧困により生活のため公私の扶助を受ける者の所有する固定資産
    (2)公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)
     (3)市の全部又は一部にわたる災害又は天候の不順により,著しく価値を   減じた固定資産
     (4)前各号に定めるもののほか,市長が特に必要と認める固定資産」 
   ウ 本件規則6条は,本件条例の上記規定を受けて,その本文で,「条例第50条第1項各号に規定する固定資産税の減免は,次の各号の定めるところによる。」と定め,その2号で,本件条例50条1項2号が規定する「公益のために直接専用する固定資産」の一つとして,「ウ 公民館類似施設,児童遊園地,防犯詰所,消防団施設,その他これらに類する固定資産」は全額免除する旨定め,また,その5号で「その他,前各号に準ずるもので,市長が認めるものについては,減免することができる。」と定めている(同条5号)。
   エ なお,地方税法702条の8第7項は,都市計画税を固定資産税とあわせて賦課徴収する場合において,市町村長が同法367条の規定によって固定資産税を減免したときは,当該納税者に係る都市計画税についても当該固定資産税に対する減免額の割合と同じ割合によって減免されたものとする旨定め,本件条例150条本文は,都市計画税の賦課徴収は,固定資産税の賦課徴収の例により,固定資産税を賦課徴収する場合にあわせて賦課徴収する旨定めている。
    (乙1,2)
  (6) 公民館及び公民館類似施設に関する社会教育法の規定
    まず,公民館の目的について,同法20条は,「公民館は,市町村その他一定区域内の住民のために,実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行い,もって住民の教養の向上,健康の増進,情操の純化を図り,生活文化の振興,社会福祉の増進に寄与することを目的とする。」と定め,次に,公民館の行う事業について,同法22条は,「公民館は,第20条の目的達成のために,おおむね,左の事業を行う。但し,この法律及び他の法令によって禁じられたものは,この限りでない。1 定期講座を開設すること。2 討論会,講習会,講演会,実習会,展示会等を開催すること。3 図書,記録,模型,資料等を備え,その利用を図ること。4 体育,レクリエーション等に関する集会を開催すること。5 各種の団体,機関等の連絡を図ること。6 その施設を住民の集会その他の公共的利用に供すること。」と規定している。他方,同法23条1項2号・2項は,公民館において,特定の政党の利害に関する事業を行い,又は公私の選挙に関し,特定の候補者を支持することが禁止されており,市町村が設置する公民館は,特定の宗教を支持し,又は特定の教派,宗派若しくは教団を支援することが禁止されている。そして,公民館類似施設の設置について,同法42条1項は,「公民館に類似する施設は,何人もこれを設置することができる。」と定めている。
3 争点
 本件の争点は,本件減免対象部分に係る本件減免措置の適法性の有無である。特に,当事者間では,本件減免対象部分が固定資産税の減免事由である本件条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」に当たるか否か,本件規則6条2号ウの「公民館類似施設,・・・その他これらに類する固定資産」(以下「公民館類似施設」という。)に当たるか否かを巡って主に争われた。
  (控訴人の主張)
  (1) 本件減免措置における法的根拠の欠如について
    そもそも課税は,法に基づき,すべての住民に公平になされなければならないものであって,法令の根拠なく恣意や独断で特定の住民に対してのみ,特権的な恩恵を与えることはできない(憲法14条,84条)。すなわち,本件減免措置は,何らの法的根拠を有しないから,違法・無効なものである。
  (2) 地方税法367条の減免事由の有無について
    地方税法367条は,①「天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者」,②「貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者」という2つの例を挙げた上で,「その他特別の事情がある者に限り」固定資産税の減免を認めている。したがって,上記「その他特別の事情がある者」とは,当然に上記①,②の条件に準ずる場合や少なくとも同価値に評価される場合を指しており,経済的に納税が不能ないし困難であるという要件を満たす必要があるというべきである。そして,本件条例50条1項の「公益のために直接専用する固定資産」及び本件規則6条2号ウの「公民館類似施設」も,地方税法の上記規定を受けて定められたものであるから,経済的に固定資産税を納税することが不能ないし困難であることが要件となる。ところが,本件減免対象部分は経済的に納税が不能ないし困難であるという要件を満たさないから,本件減免措置は,違法である。
  (3) 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免事由の有無について
   ア 本件減免措置における減免事由としては,被控訴人は,本件減免対象部分が本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウに規定する公民館類似施設である旨を挙げている。関係法令がこのような公民館類似施設を固定資産税の減免事由として認めるのは,公民館類似施設が,公民館と同程度の公益性を有するためであるから,公民館類似施設は,公民館と似通った事業や運営を行い,設備等を有して,公民館と同程度の公益性を有する施設をいうべきである。そうすると,社会教育法や文部省が告示した「公民館の設置及び運営に関する基準」にかんがみれば,公民館類似施設とは,①同法20条に規定するような目的を有し,住民のうち特定の者だけに限定されたものではなく,地域住民のために広く利用が許された施設であって,公益目的に沿うものであり,②同法22条に規定するような事業を行って,③学校,家庭及び地域社会と連携し,地域住民の意向を適切に反映した運営がなされ,④公民館としての活動を行えるだけの人的物的設備が備わっているものをいうべきである。しかるに,管理会の定款によれば,本件減免対象部分を管理する管理会は,在日朝鮮人の権益を擁護するために事業を行うとされている。そうすると,本件減免対象部分は,一定地域内の住民の学習・文化活動の機会を提供することを目的としておらず,在日朝鮮人という一部の者の利益を意図し,目的としているものであり,公民館と同程度の公益目的,公益性を有するとはいえない。
     被控訴人の主張によれば,朝鮮会館で,祖国や故郷訪問に関する事務手続,中国・ハワイ・カナダ等への観光・留学・商業活動のためのパスポート発行事務手続等が行われているとのことであるが,これは,国家の出先機関としての活動に当たり,公民館で行われる事業に当たらないから,公民館の趣旨に反した利用がされている。
     公民館類似施設は,その性質上,程度の差はあれ,地域に密着し,地域住民の用に供するという目的ないし機能を有して,利用者に対し開かれた施設でなければならない。そして,開放された施設というためには,その前提として,その運営主体ないし運営方針の意思決定過程に広く住民の意思が取り入れられる仕組みがなければならない。ところが,本件減免対象部分の運営主体は,住民の意思を反映したものではないから,本件減免対象部分は公民館類似施設に当たらない。
     本件減免対象部分は,主に熊本県内ないしは熊本市内の在日朝鮮人を対象とするものであり,その利用者に限定が加えられているから,開かれた施設といえない。仮に,在日朝鮮人以外の住民が利用することも許されているとしても,それは副次的あるいは恩恵的に許されているにすぎず,目的・機能の面から公に開放されているとはいえない。また,その運営方法に関しても住民の意見が反映されるものではなく,実際にも付近住民などが本件減免対象部分を自由に利用しているという実態はないから,本件減免対象部分は公民館類似施設に当たらない。
     施設の運営主体の目的や実体は,公益性や公民館の判断にとって重要であるところ,本件減免対象部分を使用している朝鮮総聯は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)政府への結集・愛国を謳い,祖国の富強発展に尽くし,祖国統一を目指す団体であり,政治目的を有している。朝鮮総聯は,特定の政党・政治思想・国家体制を支持・擁護する立場にあるが,これは社会教育法23条1項2号が禁止する「特定の政党の利害に関する事業」を行うものであり,公益性も認められない。実際にも,朝鮮総聯は,外為法改正反対運動を組織的に行うなど,政治活動を行っている。朝鮮総聯の傘下企業が営利事業を行っているのみならず,朝鮮総聯自体もパチンコ業等の営利事業を行っている。さらに,朝鮮総聯は,外為法違反の送金,関係の信用組合における横領又は背任事件,拉致事件等様々な違法行為に組織的に関与している。なお,朝鮮会館に入館している団体はすべて朝鮮総聯傘下の団体である。このような団体が入館し,活動する施設は,公民館の趣旨に反し,公民館類似施設とは認められない。
     そもそも本件減免対象部分の所有名義人は朝日商事であるが,朝日商事は,有限会社であり公益法人ではない。本来営利を目的とする有限会社が,公益性を有するというのであれば,その点の立証が必要であるが,被控訴人がこの点につき調査した形跡はない。公益法人であれば税法上の特典等があるにもかかわらず,本件減免対象部分の所有名義人を公益法人ではなく有限会社としたのは,結局,本件減免対象部分につき公益性があるとの認定を得られないためであったと推測される。
     以上を総合すれば,本件減免対象部分は公民館類似施設に当たらないから,本件減免措置には本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウに定める減免事由は無いことになる。
     なお,ある施設が公民館類似施設に当たるかどうかを判断するには,そのために必要な実質的調査が行われなければならない。しかし,被控訴人は,固定資産税減免の利益を受ける者が一方的に作成した書類を提出させたのみで,主体的調査を行った形跡は何ら見られない。また,提出された書類を見ても,被控訴人は,本件減免対象部分が公民館類似施設とは異なる可能性があることを予測できたはずであり,より踏み込んだ調査を行うべきであったのに,これを怠って漫然と本件減免措置をしたものであり,この点でも不当である。
   イ 上記のとおり本件減免対象部分には公益性が認められないから,公民館類似施設以外の固定資産税の減免事由である本件規則6条2号ウの「その他これらに類する固定資産」や本件条例50条1項4号の「市長が特に必要と認める固定資産」にも該当しないことはいうまでもない。
(4) 固定資産税の減免事由に関する市長の裁量権について
    本件条例50条本文の「市長は次の各号の一に該当する固定資産のうち,必要があると認めるものについてはその所有者に対して課する固定資産税を減免することができる」との規定から明らかなとおり,市長には,「公益のために直接専用する固定資産」の認定については,何らの裁量権も与えられていないのである。本来公益性というものは客観的なものでなければならなず,公益のために直接専用すると客観的に認められた固定資産の中から,そのどれを対象とするかの選定について裁量権が認められているにすぎない。
(5) 地方自治法242条の2第1項4号請求について
本件減免措置により減免されたのは,平成15年度分固定資産税28万4300円及び都市計画税4万0600円であるから,被控訴人は,本件減免措置及び徴税権不行使により,故意でもって,熊本市に対し,上記金額相当及び地方税法369条1項が定めるこれに対する上記各税の納付期限である平成15年12月31日から30日を経過した後である平成16年2月1日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による延滞金相当額の損害を与えたものである。
  (被控訴人の主張)
  (1) 本件減免措置における法的根拠の欠如について
    本件減免措置は,地方税法367条,702条の8第7項,本件条例50条1項2号,150条,本件規則6条2号ウに基づくものであり,法的根拠が欠如したものではなく,もとより憲法14条,84条に違反するものでもない。
  (2) 地方税法367条の減免事由の有無について
    地方税法367条の「その他特別の事情がある者」には,次のとおり経済的に納税が不能ないし困難であるという要件は要求されておらず,公益上の必要がある者が含まれる。
    すなわち,同条は,単に「その他特別の事情がある者」と規定するのみで,「その他特別の事情」が経済的なものであることは規定していない。また,一般に,法令上,「その他の」という表現は,「その他の」の前に表示された語句が後に表示された語句の一部に含まれる場合に用いられるのに対し,「その他」という表現は,「その他」の前後にある語句が単に並列的な関係にある場合に用いられている。そうすると,同条が「その他特別の事情がある者」と規定して,「その他の特別の事情がある者」とは規定していない以上,「天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者」及び「貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者」と「その他特別の事情がある者」とは並列的な関係にあり,かかる観点からも,「特別の事情」の解釈に当たっては,経済的な要素を考慮に入れる必要はないことになる。そして,地方税法が,その総則において,「地方団体は,公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては,課税をしないことができる。」(同法6条1項),「地方団体は,公益上その他の事由に因り必要がある場合においては,不均一の課税をすることができる。」(同条2項)としていることからしても,上記「その他特別の事情がある者」には,公益上の必要がある者も含まれると解される。
  (3) 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免事由の有無について
    本件減免対象部分は本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウに定める「公民館類似施設」に該当し,被控訴人がこれに公益性を認めたものであるから,本件減免措置は,適法である。
   ア 公民館類似施設の定義については,本件条例に何らの規定もないから,結局,社会教育法の規定を参考にすべきことになる。そこで,同法の規定にかんがみると,公民館類似施設とは,同法20条に規定する公民館の目的の全部若しくは一部又はこれらに類することを当該施設の目的とし,同法22条に規定する公民館が行う事業の全部若しくは一部又はこれらに類する事業を行う施設をいうものと解すべきである。そこで,上記見地から検討すると,本件減免対象部分は,次のとおり公民館類似施設に該当するというべきである。すなわち,
     まず,本件減免対象部分の主たる利用対象者は,在日朝鮮人(韓国併合時から第二次世界大戦終戦時までの間に,朝鮮半島から日本に強制連行,徴用又は生活などのために移住してきた者及びその子孫)及びその家族,朝鮮半島からの移住者及び留学生,並びにそれらの知人である。このほかに,その他地域住民も本件減免対象部分を利用できることはいうまでもない。在日朝鮮人のうち,日本に帰化した者以外の者は,外国人登録法による外国人登録を行っており,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法4条の特別永住許可を受けた者である。これらの在日朝鮮人は,所得税や住民税,固定資産税等についても日本人と同様に納税の義務を負うなど,市民としての義務を負う一方,行政サービスを受ける権利を有する。さらに,在日外国人という一定の属性を有する住民を対象とするとしても,社会的少数者の社会教育面における実質的公平性を確保するために有益なことであるから,決して本件減免対象部分の公益性を損ねることにはならず,むしろ公益性に資するものであるというべきである。また,外国人登録を行っている朝鮮半島出身者は,現在,市内に約650人,熊本県内では約1200人いるが,その家族や知人等も含めた数は上記人数の2倍程度になると推定されるから,利用者数からみても本件減免対象部分は公益性がある施設ということができる。
     次に,本件減免対象部分の設備としては,図書やビデオソフト,閲覧スペース,視聴覚機材等を備え,歴史資料の展示等が常時行われている。本件減免対象部分は,この点において,設備に乏しく集会場としての機能が主な機能である地区・部落公民館等よりも,さらに公民館に類似している。
     さらに,本件減免対象部分の利用実態等を見るに,本件減免対象部分においては,在日朝鮮人にとっての市民生活上の問題に関する話し合いや,個々の在日朝鮮人が抱える生活上の問題についての相談を始め,後記のように様々な事業が行われている。地域に点在する在日朝鮮人が,生活上の課題や問題について話し合おうとするとき,そのための場所を提供する施設が存在していることは有益である。このような点からすれば,本件減免対象部分は,在日朝鮮人にとっての公民館としての役割を果たしているといえる。社会教育の推奨については,教育基本法7条及び社会教育法3条において,国又は地方公共団体の責務とされており,地方公共団体は,社会教育を推進する活動に対して助言を与え,様々な形で援助していく必要がある。外国人は,戸籍事務上,日本人と異なる取扱いを受けるが,市が行う行政サービスについて両者が異なる取扱いを受けるべき合理的な根拠は見出し難く,両者は区別なく同じように快適な生活を営む権利を有している。また,自らの言語や文化を伝承することも社会教育の1つであるが,文化的意識において自己が所属する国や地域と異なる言語や文化を享有する人たちにとっては,その言語・文化を伝承する機会を設けることが,一見特別な取扱いであるように見えても,実質的な公平性が確保されるためには必要不可欠であり,このための地方公共団体による相当な援助は合理的なものというべきである。そうすると,仮に事実上本件減免対象部分の利用者が在日朝鮮人とその家族や知人等に限られているとしても,決して公益性を損ねていることにはならないというべきである。また,上記のような制限が管理会の管理運営により行われている事実はなく,他の住民が利用することも許されているのであるから,なおさら公益性は損なわれていない。そして,朝鮮会館を管理する管理会は,在日朝鮮人の権益を擁護するために,朝鮮会館を始めとする基本財産を所有し,その維持,管理を行う,文化・社会・厚生・青年・婦人・商工人・出版等の各種団体に対する事務所・会議室等の無償貸与,講演会,研究会,映画会,冠婚葬祭等のための会場の無償貸与,災害などを受けた在日朝鮮人に対する一時的宿泊施設の無償貸与,以上に準ずる各種の便宜貸与,管理会の目的並びに事業を行うためにする寄附の受入れといった事業を行う旨を定款3条は定めている。実際に,本件減免対象部分では,朝鮮のことば,民族,風習,歴史,伝統等の学習会,講演会,映画鑑賞会等が定期的に開かれ,子ども達にことば,歌,歴史を教える夏季学級,青少年達が朝鮮語や民族の文化等を学ぶ青年学級も開催されており,女性を対象にした民族楽器や朝鮮の歌や踊りのサークル活動が行われており,友好団体を始め,市民団体,婦人団体等の交流会,親睦会が開催されており,友好親善のための劇団公演などが開かれている。また,随時,生活相談が行われており,各種図書が閲覧に供されており,さらに祖国や故郷訪問に関する事務手続,中国・ハワイ・カナダ等への観光・留学・商業活動のためのパスポート発行事務手続等が行われている。その結果,平成14年度の利用実績は,学習会・映画会が21件,会議・討論会が32件,講演会が5件,生活相談が25件,冠婚葬祭のための準備利用が3件,友好親善関係の利用が5件となっており,例年ほぼ同様の実績がある。
     そして,社会教育法は公民館類似施設の設置者について制限を設けていないから,公民館類似施設が誰によって運用されているかは,固定資産税減免の対象となる施設の要件である公益性とは直接的に関係のない事項である。公民館類似施設につき,その基本的な施設の運用は地域住民に委ねられている必要があるとする見解は,公民館類似施設の要件を狭く捉えすぎているといわざるを得ない。また,朝鮮会館の運営は,その主たる利用者である在日朝鮮人らの自主的運営に委ねられているが,これは何ら法令に反するものではなく,公民館類似施設該当性を損なうものでもない。これは,同様に公民館類似施設である地区・部落公民館が,地域住民すなわち利用者により自主的に運営されていることと同一視することができる。上記のような利用対象者,設備,利用実態等からすれば,本件減免対象部分は,公民館的機能を果たしており,公益性を有していることは明らかである。
     なお,控訴人は,本件減免対象部分で,祖国や故郷訪問に関する事務手続,観光等のためのパスポート発行事務手続等が行われていることを問題視するが,上記事務手続は朝鮮会館の従たる事業の1つであり,主たる事業内容はあくまで公民館的機能を果たすことにある。被控訴人は,主たる事業内容に基づいて公民館類似施設と判断したものであり,何ら問題はない。かえって,上記事務手続は,本件減免対象部分が公益性を有することの1つの証左でもあり,他都市においては,パスポート発行事務手続を行う施設について,在外公館に準ずる施設として固定資産税を減免している例も見受けられる。
   イ 控訴人の主張に対しては,次のとおり反論する。すなわち,
    (ア) まず,控訴人は,社会教育法20条,22条,23条の規定を挙げた上で,「公民館類似施設」の利用者については広く「一定区域内の住民」が予定され,「住民のうちの特定の者」を想定していない旨主張する。
      しかし,上記各規定は,公民館についての規定であり,公民館類似施設についての規定ではない。公民館類似施設の解釈・判断に当たり,公民館に関する規定は参考になるものの,市町村等が設置する公民館と,何人も設置し得る公民館類似施設とでは,その要件・効果について差異があることは当然であり,これらを全く同列に論じることはできない。そして,社会教育法20条は,公民館につき「市町村その他一定区域内の住民」を対象としており,必ずしも町内又は校区といった狭い地理的範囲によって画される住民のみを対象としてはおらず,例えば単に市内の住民ということでもよいと考えられる。この点,主な公民館類似施設として,社会教育会館,児童文化センター,婦人会館,市民会館,老人福祉会館,児童館,勤労青少年ホームなどが挙げられることからも明らかなように,公民館類似施設の利用者や運営主体は必ずしも狭い地域の住民に限られるものではないというべきである。本件減免対象部分は,上記のとおり,在日朝鮮人及びその家族,朝鮮半島からの移住者及び留学生,並びにそれらの知人が主たる利用者であるが,その他地域住民も本件減免対象部分を利用することができるのであるから,特定の住民のための施設ではなく,不特定の住民に開かれた施設であるともいえる。仮に,本件減免対象部分が特定の住民のための施設であるとしても,次のとおり,このような施設は,公益性がないと考えるべきではない。すなわち,青年会館,子ども文化会館,女性センター,勤労婦人センター,老人福祉センター,国際交流会館,市民会館等の「狭い範囲での地域住民」という単位を利用者として想定していない様々な施設も公民館類似施設に当たると考えられているところ(身体ないし知的障害者のための社会教育施設なども想定することができる。),これらの施設は,特定の度合いや対象者の数に違いはあっても,特定の住民を対象にした施設といえ,この点では本件減免対象部分との違いを見出すことは困難である。そこで翻って考えるに,特定の住民を対象とした施設であっても,決して公益性を損なうことにはならず,むしろ特定の住民を対象にすることが公益に資する場合があるというべきである。この点,本件減免対象部分について考えると,熊本市内ないしは熊本県内の在日朝鮮人らが本件減免対象部分を利用して自己実現を図ることは正に公益に資するというべきである。
    (イ) 次に,控訴人は,公民館は,政治的,宗教的に特定の団体(住民)への関与・支援を明確に否定しているところ,本件減免対象部分には,政治目的を有している団体である朝鮮総聯が入居し,利用・活動しているから公民館類似施設とはいえない旨主張する。
      しかし,政治的行為を制限する社会教育法23条は公民館に関する規定であり,公民館類似施設についての規定ではない。また,同条1項2号が禁止しているのは,公民館が,「特定の政党」や「特定の候補者」の利害に関わるといった党派的政治行為を行うことであり,その事業内容や施設利用が政治や政党に関するものであることを禁じているものではないことに留意すべきである。そもそも,住民が民主主義の担い手となっていくこと,あるいは政治の主体となっていくことに果たす社会教育の役割は広く深く開拓されていかなければならず,当然,政治的素養の育成は尊重されなければならない。さらに,同号が禁止しているのは日本国内の政党や選挙に関するものと解すべきであり,国外の政党や選挙に関わることは全く禁止していないということにも留意すべきである。控訴人の上記主張は,同号の誤った理解を前提としているものであり,首肯し得ない。加えて,朝鮮総聯が一見して反社会的で公益を害する団体であるならば格別,その綱領によれば祖国政府への結集や愛国を謳い,祖国の発展に尽くし,祖国の統一を目指すというのであるから,朝鮮総聯が反社会的団体であるということはできず,そうであれば,仮に本件減免対象部分において朝鮮総聯により一部政治活動が行われているとしても,何ら法令に反するものといえず,公益を損なうものともいえないから,本件減免対象部分が公民館類似施設に該当するという判断を妨げるものではない。
   ウ 以上総合すれば,本件減免対象部分は,公民館類似施設に該当するものというべきである。
  (4) 固定資産税の減免事由に関する市長の裁量権について
    仮に,本件減免対象部分が上記「公民館類似施設」に該当しないとしても,地方税法367条の定める減免措置は,個々の地方公共団体がその地域社会における社会経済生活の特殊事情に考慮して,その独自の判断に基づいて行うことを認めているから,本件条例50条1項4号の「前各号に定めるもののほか,市長が特に必要と認める固定資産」,本件規則6条2号ウの「その他これらに類する固定資産」,本件規則6条5号の「その他,前各号に準ずるもので,市長が認めるもの」との各規定に基づき,固定資産税の減免に関する裁量権が市長に付与されていることは明らかである。そして,本件減免対象部分については十分な公益性が認められるから,この市長の裁量権に基づく本件減免措置は,適法である。
(5) 地方自治法242条の2第1項4号請求について
本件減免措置は上記のとおり適法であるから,控訴人の上記4号請求は理由がない。
  なお,本件減免措置による減免額は,固定資産税が26万7100円,都市計画税が3万8200円である。また,延滞金の計算は,各納期毎に納付すべき額につき,当該納期限の翌日から納付された日までの期間に応じ,年14.6パーセント(納期限の翌日から1月を経過する日までの期間については年4.1パーセント)の割合を乗じて行う。この延滞金の基礎となる金額のうち,1000円未満の端数及び延滞金の金額のうち100円未満の端数に付いては,切り捨てることとされている。(地方税法20条の4の2第2項及び5項,369条1項,702条の8第1項,附則3条の2並びに本件条例14条及び附則3条の2)。
第3 当裁判所の判断
 1 本件減免措置における法的根拠の欠如について(争点(1))及び地方税法367条の減免事由の有無について(争点(2))
   原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点(本件減免措置の適法性)についての当裁判所の判断」の1項及び2項に各記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 本件条例50条1項2号及び本件規則6条2号ウの減免事由の有無について(争点(3))
(1) 事実関係
 前記前提事実,証拠(各項末に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 朝鮮総聯の組織及び活動等
 朝鮮総聯は,昭和30年5月25日に結成された団体である。朝鮮総聯の平成16年5月29日のホームページには,この朝鮮総聯の結成について,「朝鮮総聯の結成は,海外僑胞運動にたいする主席の思想と指導の輝かしい結実であり,在日朝鮮人運動の発展と在日同胞の生活に根本的な転換をもたらした歴史的出来事でありました。朝鮮総聯の結成により,在日朝鮮人運動は初めてチュチェ思想を指導理念とする民族的愛国運動に確固と転換し,在日同胞は自らの民族的権利と利益を代表し擁護する真の僑胞組織をもって,自らの運命を自主的に開拓できるようになりました。金正日」と掲載し,朝鮮総聯の綱領についても,「朝鮮総聯の綱領は,金日成主席が創始し,敬愛する金正日将軍が深化発展させた主体的な海外僑胞運動思想と理論を在日朝鮮人運動に実現するための,活動の目的と課題を明らかにしている。綱領は8項目からなっており,その基本内容はつぎの5つである。それは,第1に,在日朝鮮同胞を朝鮮民主主義人民共和国のまわりに結集し,愛国愛族の旗のもとにチュチェ偉業の継承完成のために献身し(第1項),第2に,諸般の民主主義的民族権利を擁護し,民族性を生かすためにたたかい(第2,3,4項),第3に社会主義祖国の富強発展に尽くし(第5項),第4に,70万在日同胞の団結と,北,南,海外同胞との民族的連帯を強化し,連邦制方式で祖国の自主的平和統一を成就するためにたたかい(第6項),第5に,自主,平和,親善の理念のもとに,日本国民をはじめ世界諸国民との友好親善と連帯をつよめる(第7,8項)という内容にまとめることができる」と掲載して,朝鮮総聯が北朝鮮の指導のもとに北朝鮮と一体の関係にあることを認めている。
 次に,同月30日の上記ホームページには,朝鮮総聯が都道府県ごとに設けている地方本部について,「地方本部は,総聯中央の決定と方針を自己の地域で執行するための事業を企画,遂行し,管下の諸団体と朝鮮信用組合,金剛保険などの事業体,学校の事業を指導する。・・・地方本部は,総聯の愛国運動の地域的拠点として,各界各層の在日朝鮮同胞を結集し,民族教育の発展と諸般の民主主義的民族権利の擁護,祖国統一の促進ため活動している。」とともに,熊本県本部の所在地として朝鮮会館の所在地と同一地を掲載し,また,地方本部が当該地域を区分して設けている支部についても,「支部は同胞を団結させる総合的拠点であり,総聯の末端指導機関であり,愛国事業の執行単位である。・・・支部は,総聯の活動方針と管下地域の同胞の志向とを密接に結びつけて,すべての分野での愛国事業を具体的に計画し,それを執行している。支部は同胞の生活と直接かかわる分会の活動を組織指導し,商工会,青年同盟,女性同盟,青商会,学校,朝信などにたいする指導もおこなっている」と掲載している。
 さらに,同月29日の上記ホームページには,朝鮮総聯の傘下団体として,在日朝鮮商工業者の企業活動に関わる様々な権利擁護と生活向上をその活動目的とする在日本朝鮮人商工連合会(朝鮮商工会),朝鮮総聯の愛国事業の継承者である広範な在日朝鮮青年を網羅した大衆団体で,各地域に青年学校を設け,青年学生達に朝鮮のことばと文字を教え,講演会や発表会などの文化,体育活動をしている在日本朝鮮青年同盟(朝青),在日朝鮮女性の意思と利益を代表する大衆組織で,子女教育や民族教育事業に特別な努力を傾けている在日本朝鮮民主女性同盟(女性同盟)などがあり,また,その事業体として,朝鮮総聯中央常任委員会機関誌などを出版して朝鮮総聯の出版宣伝事業の拠点である朝鮮新報社,金剛保険株式会社などがある旨掲載している。
(甲3,乙7)
   イ 管理会と朝鮮総聯との関係等
     朝鮮会館を管理するとされる管理会の本件減免措置当時の役員は,理事長のBが朝鮮総聯熊本県本部委員長であるばかりでなく,その他の役員全員が朝鮮総聯熊本県本部副委員長や朝鮮総連傘下団体の熊本県役員であった。そして,定款3条は,在日朝鮮人の権益を擁護するために,①朝鮮会館を始めとする基本財産を所有し,その維持,管理を行うこと,②文化・社会・厚生・青年・婦人・商工人・出版等の各種団体に対して事務所・会議室等を無償貸与すること,③講演会,研究会,映画会,冠婚葬祭等のための会場を無償貸与すること,④災害などを受けた在日朝鮮人に対して一時的宿泊施設を無償貸与すること等の事業を行うと定めている。
     管理会から被控訴人宛の平成15年5月9日付け理由書(乙7)には,同日現在,管理会から無償貸与を受けて朝鮮会館に入館していた団体としては,朝鮮総聯熊本県本部,朝鮮総聯熊本支部,朝鮮青年同盟熊本県本部,朝鮮女性同盟熊本県本部,朝鮮人熊本県商工会,熊本県朝鮮人商工協同組合,金剛保険,熊本県同胞生活相談総合センター,朝鮮新報社,図書館が掲げられていた。また,朝鮮会館代表朝鮮総聯熊本県本部及び朝日商事から被控訴人宛の同日付け証明書(乙8)には,朝鮮会館は朝日商事から1の土地及び朝鮮会館を無償で貸与されている旨記載されていた。
    (乙5,7,8,16,20,原審証人B)
   ウ 朝鮮会館内の部屋
    (ア) 1階部分(145.35平方メートル)
      主な部屋としては,朝鮮総聯熊本支部事務室(31.18平方メートル),会議室(32.30平方メートル),商工会・商工協同組合事務室(17.40平方メートル)及び朝鮮女性同盟事務室(13.78平方メートル)がある。このうち,本件減免措置の対象とされたのは,熊本支部事務室及び会議室(対象面積合計63.48平方メートル)であり,商工会・商工協同組合事務室及び女性同盟事務室(面積合計31.17平方メートル)は,それぞれ各団体の事務室として使用されていたことから課税対象とされた。なお,熊本支部事務室,商工会・商工協同組合事務室及び女性同盟事務室の各壁面上部には,いずれも北朝鮮の故金日成主席と金正日総書記の各写真(以下「金親子の写真」という。)が掲げられている。また,会議室内は,ステンレス製と思われる簡易な流し台,ガス湯沸かし器,小容量の冷蔵庫,簡易なガスコンロ,パイプ棚などで雑然としている。
    (イ) 2階部分(145.35平方メートル)
  主な部屋として,応接室(12.92平方メートル),朝鮮総聯熊本県本部事務室(19.68平方メートル),朝鮮新報社事務室部分(7.87平方メートル),図書室(32.30平方メートル),学習室・講演会室・歴史展示室(31.18平方メートル)がある。このうち,本件減免措置の対象とされたのは,朝鮮新報社事務室部分を除く各部屋(対象面積合計96.08平方メートル)であり,朝鮮新報社事務室部分は上記と同様の理由から課税対象とされた。なお,応接室,上記事務室及び図書室の各壁面上部にはいずれも金親子の写真が掲げられ,学習室・講演会室・歴史展示室の壁面にも故金日成主席か金正日総書記のいずれかの写真が掲げられている。図書室には,机は配置されているものの,多数の書籍が本棚以外にも雑然と置かれ,各書籍に分類を示すラベルの貼付はなく,また,本棚にも書籍の分類を示す表示も全くない。また,上記展示室には,朝鮮の近代史に関する歴史資料の写真等が壁面パネルに展示され,机等も配置されている。
(ウ) 3階部分(113.05平方メートル)
  部屋は会議室のみであり,3階部分のすべてが本件減免措置の対象とされた。
(エ) 4階部分(35.88平方メートル)
  宿直室(21.60平方メートル)と階段室があり,宿直室の壁面上には金親子の写真が掲げられている。4階部分のすべてが本件減免措置の対象とされた。
 (乙13ないし16,19,20,原審証人E,同B)
エ 朝鮮会館の利用状況についての説明
 朝鮮会館の利用状況について,管理会は,上記理由書(乙7)において,被控訴人に対し,朝鮮総聯熊本県本部をはじめ朝鮮総聯傘下の各種の団体等に事務所の無償貸与,会議室の無償貸与をはじめ在日朝鮮人の社会的,文化的資質と地位を向上させるための映画会,各種発表会,学術研究会等の会場無償貸与,各地の代表団や修学旅行団などへの休憩及び宿泊施設の無償提供,冠婚葬祭,還暦祝などの会場の無償貸与などを日常的に行っている旨説明し,平成15年5月16日の熊本市の担当者による実地調査の際にも,管理会代表者から同趣旨の口頭説明があった。
 また,被控訴人代理人らによる照会に対する管理会の平成16年3月23日付け回答(乙6)においても,管理会は,朝鮮会館の利用状況について,次のとおり回答した。すなわち,朝鮮会館は,①朝鮮のことば,民族,風習,歴史,伝統等の学習会,講演会,映画鑑賞会等の定期的開催,子ども達にことば,歌,歴史を教える夏季学級,青少年達が朝鮮語や民族の文化等を学ぶ青年学級の開催,②女性を対象にした民族楽器や朝鮮の歌・踊りのサークル活動,③友好団体をはじめ,市民団体,婦人団体等との交流会,親睦会の開催,④友好親善のための劇団公演の開催,⑤生活相談(随時),⑥各種図書の閲覧(随時),⑦祖国や故郷訪問に関する申請手続,中国,ハワイ,カナダ等への観光・留学・商業活動のためのパスポート発行事務手続等に利用されている。平成14年度の利用実態としては,学習会・映画会21件,会議・討論会32件,生活相談25件,冠婚葬祭の準備利用3件,友好親善関係の利用5件であり,例年もほぼ同様である。定款3条にいう在日朝鮮人とは1910年の韓国併合時から1945年の第二次世界大戦終戦時までの間に,朝鮮半島から日本に強制連行,徴用又は生活などのために移住してきた者及びその子孫をいい,朝鮮籍,韓国籍,さらには帰化して日本国籍となった者も含み,その家族・知人が利用しているが,これに限られず,終戦後に朝鮮半島から移住してきた者や留学生にも利用されている。昔は地域の人達との交流も行われて利用されていたが,最近はほとんど利用はない。
(乙6,7,19,20,27,原審証人E,同B)
オ 平成17年8月当時の朝鮮会館の利用状況
 控訴人が平成17年8月1日から同年9月2日までの約1か月間に行った朝鮮会館の利用状況調査において,朝鮮会館には朝鮮総聯関係者の若干の出入りがあったのみで,その属性を問わず,朝鮮総聯関係者以外の者が朝鮮会館を利用した形跡は全く見られなかった。
(甲27,30)
  (3) 検討
   ア 地方税法における固定資産税等の納付義務者と減免事由
     地方税法343条1項は,固定資産税の納税義務者を固定資産の所有者と定め,同条2項は,この固定資産の所有者を,土地又は家屋については,登記簿等に所有者として登記又は登録されている者をいう旨定めている。また,同法702条1項は,都市計画税の納付義務者を土地又は家屋の所有者と定め,同条2項は,この所有者とは,当該土地又は家屋に係る固定資産税について同法343条(3項,8項及び9項を除く。)において所有者とされ,又は所有者とみなされる者をいう旨定めている。他方,同法367条が規定する固定資産税の減免のような地方税の減免は,地方公共団体が法令又は条例の規定により課税権を行使した結果,ある人について発生した納税義務を,当該納税者の有する担税力の減少その他納税者個人の事情に着目して,課税権者である地方公共団体自らがその租税債権の全部又は一部を放棄し,消滅させることによって解除するものであると一般に解されている。そうすると,固定資産税等の減免事由の存否は,当該固定資産の納税義務者とされている登記簿等に所有者として登記又は登録されている者について判断されなればならないこというまでもない。
     そこで,本件を見るに,本件減免措置の対象である1記載の土地及び朝鮮会館について,登記簿に所有者として登記されているのは朝日商事である。すなわち,本件減免措置の根拠としての減免事由の存否が判断されなければならないのは,この朝日商事についてということになる。しかし,前記前提事実から明らかとおり,朝日商事は,元々朝鮮会館を所有することを企図して設立されたにすぎず,会社としての活動は何ら行われていないものである。すなわち,朝日商事は,地方税法367条が定める「その他特別の事情がある者」に該当しないことはもちろん,本件減免対象部分を本件条例50条1項2号に定める「公益のために直接専用する」者に該当しないことも明白であるから,朝日商事が所有者として登記されている1記載の土地及び朝鮮会館については,その固定資産税の納付義務者である朝日商事に,地方税法367条及び本件条例50条1項2号に定める減免事由は何ら認められないことになる。しかるに,この点について,被控訴人からは何らの主張,立証もない。そうすると,本件減免対象部分が,被控訴人が本件減免措置の根拠の一つとして主張する,地方税法367条の下位規範である本件条例50条1項4号に定める「市長が特に必要と認める固定資産」,本件条例50条1項2号の下位規範である本件規則6条1項2号ウに定める「公民館類似施設」や「その他これらに類する固定資産」にそれぞれ該当するか否かを検討するまでもなく,本件減免措置は,既に違法といわなければならない。
   イ 本件条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」と本件減免対象部分について
 仮に,上記「公益のために直接専用する固定資産」という減免事由の存否を納税義務者自身についてではなく,現実の利用者について判断すべきであるとしても,次のとおり,本件では,この減免事由は存在しないというべきである。すなわち,
     上記「公益のために直接専用する固定資産」とは,上記説示のとおり,地方税法367条の「その他特別の事情がある者」を受けて規定されているが,その内容については必ずしも明らかでない。しかし,地方税法及び本件条例がいずれも我が国法体系の中の法令である以上,この「公益のために」とは「我が国社会一般の利益のために」と解すべきことは,文理上からも,また,その対象が我が国内の固定資産である土地又は家屋等である以上,当然である。そこで,本件を見るに,上記認定の,朝鮮総聯の組織及び活動等,管理会と朝鮮総聯との関係等,朝鮮会館内の部屋に関する各事実,特に,朝鮮会館の大部分の部屋を,朝鮮総聯の地方組織である朝鮮総聯熊本県本部及び朝鮮総聯熊本支部,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等や朝鮮総聯の事業体である朝鮮新報社が,朝日商事ないしは管理会から無償で借り受けて,その事務室,応接室,会議室として使用し,その室内には金親子の写真が掲げられている事実,朝日商事や管理会の役員には朝鮮総聯熊本県本部等の役員が就任している事実からすると,朝鮮会館全体が,朝鮮総聯の活動拠点として,そのために専ら使用されていることは明らかといわなければならない。すなわち,このような朝鮮会館の使用が「我が国社会一般の利益のために」ということができるかが問われることになる。この観点から見たとき,上記認定の朝鮮総聯の組織び活動等に関する事実からは,朝鮮総聯が,北朝鮮の指導のもとに北朝鮮と一体の関係にあって,専ら北朝鮮の国益やその所属構成員である在日朝鮮人の私的利益を擁護するために,我が国において活動をおこなっていることは明らかである。このような朝鮮総聯の活動が「我が国社会一般の利益のために」行われているものでないことはいうまでもない。被控訴人自身,既に,朝鮮会館の事務室のうち,朝鮮総聯の傘下団体である商工会等事務室やその事業体である朝鮮新報社事務室部分については本件減免措置の対象外としているが,このことは,その包括団体である朝鮮総聯の活動の評価としても同様というべきである。
     上記説示のとおり,本件減免対象部分の利用者である朝鮮総聯等の使用が上記「公益のために」という要件に該当しない以上,本件減免措置は,上記減免事由が存在しない違法な処分といわなければならない。
ウ 本件規則6条2号ウの「公民館類似

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2006年03月06日 13:35
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。