hanrei @Wiki H18. 1.31 甲府地方裁判所 平成17年(レ)第17号,第19号 交通事故による損害賠償請求控訴事件,同附帯控訴事件



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 交差点における追突物損事故について,車両の修理費9万4416円に加え,訴訟に至った経緯などにかんがみて,弁護士費用5万円も交通事故と相当因果関係のある損害として認められた事例


         主       文
 1 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して金4万6696円及びこれに対する平成16年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人らの負担とする。
 5 原判決第1項及び本判決第2項は,仮に執行することができる。
          事       実
第1 当事者双方の申立て
   控訴人は,主文同旨の判決を求め,被控訴人らは,「1 原判決中被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。2 控訴人の請求を棄却する。3 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
第2 事案の概要
 1 本件は,被控訴人Aの運転するタクシーに追突された控訴人が,被控訴人A及び同人を雇用していた被控訴人会社に対し,車両の修理費9万4416円及び弁護士費用5万円の支払を求めている事案である。
 2 原審は,車両の修理費について1割を過失相殺し,また,弁護士費用を過失相殺後の修理費に1割5分を乗じた限度で認め,控訴人の請求を一部認容,一部棄却したため,控訴人が控訴し,被控訴人らが附帯控訴した。
第3 当事者の主張
 1 請求原因(控訴人)
 (1)ア 被控訴人会社は,一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるタクシー事業)を目的とする会社である。
   イ 被控訴人Aは,平成16年12月7日当時,被控訴人会社にタクシー運転手として雇用されていた。
 (2)ア 控訴人は,平成16年12月7日午前10時15分ころ,甲府市飯田○丁目○番○号先交差点(以下「本件交差点」という。)において,自己の所有する自動車(登録番号(省略),車種はメルセデスベンツEクラス4Dセダンである。以下「控訴人車両」という。)を運転し,同交差点を徐行しながら右折しようとしていたところ,被控訴人会社のタクシー(登録番号省略)を業務として運転し,本件交差点を左折しようとしていた被控訴人Aに追突された(控訴人車両と被控訴人Aの運転していたタクシーの位置関係等は,おおむね別紙図面(省略)のとおりである。以下,この交通事故を「本件事故」という。)。
   イ 控訴人車両は,本件事故によって,後方左側バンパーが損傷した。
 (3) 被控訴人Aは,本件事故当時,自動車を運転するに当たり,前方を注視するなどして前方の車両に追突することのないよう運転する義務を負っていたところ,本件事故は,被控訴人Aがこの義務に違反したことから発生した。
 (4) 控訴人は,本件事故により,次のとおり,合計14万4416円の損害を被った。
   ア 本件車両の修理代 9万4416円
   イ 弁護士費用 5万円
 (5) よって,控訴人は,被控訴人Aに対しては,不法行為による損害賠償請求権に基づき,被控訴人会社に対しては,使用者責任による損害賠償請求権に基づき,本件事故によって控訴人の被った損害である14万4416円及びこれに対する本件事故の発生した日である平成16年12月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否(被控訴人ら)
 (1) 請求原因(1),(2)の事実は認める。
 (2) 請求原因(3)の主張は争う。
 (3) 請求原因(4)の事実は否認する。
 3 抗弁-過失相殺(被控訴人ら)
 (1) 控訴人は,本件事故の発生時,本件交差点を右折しようとしていたにもかかわらず,右折の方向指示器を点滅させていなかった。
 (2) 被控訴人Aは,控訴人が右折の方向指示器を点滅させることなく本件交差点を右折しようとしていたため,これを注意する趣旨でクラクションを鳴らしたところ,控訴人が本件交差点内で急停止し,その結果,控訴人に追突した。
 (3) よって,控訴人の被った損害の額を定めるについては,上記(1),(2)の事実を斟酌して,相当額を過失相殺すべきである。
 4 抗弁に対する認否(控訴人)
 (1) 抗弁(1),(2)の事実は否認する。同(3)の主張は争う。
 (2) 本件事故は追突事故であり,追突事故にあっては被追突者に道路交通法24条(急ブレーキの禁止)に違反する行為がなければ過失相殺すべきでない。そして,本件事故が発生した際,控訴人に同条違反の行為はない。
          理       由
1 請求原因(同(4)イ(弁護士費用)を除く。)について
 (1) 請求原因(1),(2)の事実は当事者間に争いがない。
 (2) 被控訴人Aは,本件事故の発生当時,自動車を運転するに当たり,前方を注視するなどして前方の車両に追突することのないよう運転する義務を負っていたことは明らかである。そして,請求原因(2)の本件事故の態様によると,本件事故は,被控訴人Aが前記注意義務に違反したことによって発生したといえる。したがって,被控訴人Aは不法行為責任に基づき,被控訴人会社は使用者責任に基づき,控訴人に対し,控訴人が本件事故によって被った損害を賠償すべき義務を負う。
 (3) 証拠(甲2ないし5,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,請求原因(4)アの事実,すなわち,控訴人が本件事故によって本件車両の修理代相当額として9万4416円の損害を被った事実を認めることができる。この点,被控訴人会社は,控訴人の損害額はバンパーの取替えを前提としているところ,本件事故による控訴人車両の損傷はバンパーを取り替えるまでもなく,更に低額で修理ができる旨主張するが,この主張を裏付ける的確な証拠はなく,また,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
2 抗弁について
 (1) 被控訴人Aは,原審での本人尋問において,抗弁(1),(2)の事実に沿う旨の供述をし,その陳述書である乙1号証にも同旨の記載がある。
 (2) 上記被控訴人Aの供述及び陳述書の記載によると,被控訴人Aの主張する本件事故発生の態様は,要するに,「被控訴人Aは,本件事故が発生する前から,控訴人が本件交差点を右折しようとしていることに気づいていたが,控訴人が方向指示器を点滅させずに本件交差点を右折しようとしていることに抗議してクラクションを鳴らしたところ,控訴人が急停止したため,控訴人車両に追突した。」というものである。
 (3) しかしながら,被控訴人Aの主張する上記事故態様が極めて不自然であることに加えて,抗弁(1),(2)の事実を否定する控訴人の原審における供述及び陳述書(甲2)の記載にかんがみると,にわかに上記(1)の被控訴人Aの供述及び陳述書の記載を信用することはできず,他に,抗弁(1),(2)の事実を認めるに足りる証拠はない。
 (4) なお,抗弁(1)については,被控訴人Aの供述によっても,被控訴人Aは,本件事故が発生する前から,控訴人が本件交差点を右折しようとしていることを認識していたというのであるから,仮に控訴人が本件交差点を右折する際に方向指示器を点滅させていなかったとしても,この不作為と本件事故との発生の間には因果関係を認めることができない。したがって,抗弁(1)の事実を過失相殺の一事情とする被控訴人らの主張は,そもそも主張自体失当であるというべきである。
 (5) また,被控訴人会社は,本件事故当時に74歳であった控訴人が道路交通法71条の5第2項所定の標識(以下「高齢運転者標識」という。)を付けていなかったことをもって,本件事故の発生に対する責任は控訴人の方が重いなどと主張するが,本件全証拠を精査しても,控訴人に,本件事故の発生時,「加齢に伴って生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれ」があったと認めるに足りる証拠はないし,そもそも,本件事故の態様によると,控訴人が高齢運転者標識を付けていなかったことと本件事故の発生の間に因果関係を認めることはできない。したがって,仮に被控訴人会社が高齢運転者標識の不装着を過失相殺の一事情として主張する趣旨であったとしても,その主張は採用できない。
 (6) 他に,本件事故に関し,控訴人の被った損害の額を定めるについて過失相殺すべき事情を認めるに足りる証拠はない。
3 請求原因(4)イ(弁護士費用)について
 (1) 証拠(甲2ないし5,控訴人本人,被控訴人会社代表者)及び弁論の全趣旨によると,本件事故の後に行われた修理費等の負担に関する控訴人と被控訴人らの交渉について,次の事実を認めることができる。
  ア 控訴人は,本件事故が発生した後,被控訴人会社の加入していた保険会社(B損害保険)の担当者に控訴人車両の損傷を確認してもらい,同人から,平成17年2月8日ころ,控訴人車両の修理費は9万4416円であるとする見積書(甲4)の提示を受けた。
  イ そこで,控訴人は,同額をもって控訴人車両を修理することをC鈑金に依頼し,この修理代金は,C板金が,上記保険会社に対し,直接請求することとなった。
  ウ しかしながら,被控訴人会社は,控訴人と被控訴人Aの過失割合を不服とし,上記保険会社に対し,示談交渉は被控訴人会社が行うので,保険会社は関与しないよう指示したため,C板金は,上記保険会社から,上記修理代金の支払を受けることができなかった。
  エ C板金から上記経緯について連絡を受けた控訴人は,その後,被控訴人会社に連絡したが,返答がないため,本件の訴訟代理人である弁護士に依頼し,平成17年4月12日,本件訴えを提起した。
 (2) 上記(1)の本件訴えが提起されるに至った経緯,本件事故の態様及び本件の認容額など,本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,本件事故と相当因果関係のある損害として認めるべき弁護士費用は,5万円とするのが相当である。
4 結論
  以上によると,控訴人の請求はすべて理由があるから認容すべきである。
  よって,原判決のうち,控訴人の請求を棄却した部分は不当であるからこれを取り消し,当該部分に係る控訴人の請求を認容し,本件附帯控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
   甲府地方裁判所民事部

      裁判長裁判官   新  堀  亮  一

         裁判官   倉  地  康  弘

         裁判官   岩  井  一  真