hanrei @Wiki H18. 1.19 東京地方裁判所 平成16年(ワ)第20498号 不公正取引差止請求事件



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平成18年1月19日判決言渡し
平成16年(ワ)第20498号 不公正取引差止請求事件

主        文
    1 原告の請求をいずれも棄却する。
    2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告の宅急便サービスの取次店であるコンビニエンスストアに対し,郵便局局舎の一部を市場価格を著しく下回る額の賃料で貸し付け,私設郵便差出箱からの取集料を免除する等の不当な利益をもって,被告の一般小包郵便物サービスの取引所となるよう誘引してはならない。
 2 被告は,株式会社ローソンの直営店又は加盟店の店舗を取次所として,被告の一般小包郵便物サービスを提供してはならない。
 3 被告は,株式会社ローソンに対し,同社の直営店又は加盟店の店舗での被告の一般小包郵便物サービスの取次の委託を撤回する旨通知せよ。
 4 被告は,別紙一覧表(省略)記載の料金未満の料金で被告の一般小包郵便物サービスを提供してはならない。
 5 訴訟費用は被告の負担とする。
 6 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は,宅配便事業を営む原告が,被告は,一般小包郵便物(ゆうパック)の新しい料金体系による役務の供給によって,「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号)6項の「不当廉売」に当たる行為を行い,かつ,株式会社ローソンに対して,郵便局舎の余裕スペースを低額の賃料で賃貸したり,ローソン店舗内の私設郵便差出箱からの取集料を免除するなどの利益を提供して,一般小包郵便物(ゆうパック)サービスの取次所となるよう誘引することなどによって,同告示9項の「不当な利益による顧客誘引」に該当する行為を行っており,そのため,原告は利益を侵害されていると主張して,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律24条所定の差止請求権に基づき,これらの被告の行為の差止め等を求めた事案である。
 なお,原告として訴えを提起した「ヤマト運輸株式会社」は平成17年11月1日に「ヤマトホールディングス株式会社」に商号を変更し,同日,同社から「ヤマト運輸株式会社」(平成17年3月31日に設立された「ヤマト運輸分割準備株式会社」が同年11月1日に商号変更した会社)への吸収分割により貨物自動車運送事業その他すべての営業が承継されたことに伴って,原告の地位は,同社に承継されている。
 1 法令の定め
  (1) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)19条は,「事業者は,不公正な取引方法を用いてはならない。」と規定しているところ,同法24条は,「第8条第1項第5号又は第19条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者は,これにより著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがあるときは,その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」旨を定めている。
  (2) また,上記の「不公正な取引方法」については,同法2条9項において,次のとおり定義している。
    「この法律において「不公正な取引方法」とは,次の各号のいずれかに該当する行為であつて,公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち,公正取引委員会が指定するものをいう。
一 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
二 不当な対価をもつて取引すること。
三 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し,又は強制すること。
四 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
五 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
六 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し,又は当該事業者が会社である場合において,その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように,不当に誘引し,そそのかし,若しくは強制すること。」
  (3) そして,同項の規定を受けて,公正取引委員会は「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)を定め,不公正な取引方法に当たる行為を指定しているが,一般指定6項及び9項においては,それぞれ次のような行為が「不公正な取引方法」に当たると定めている。
 「(不当廉売)
6 正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」
 「(不当な利益による顧客誘引)
9 正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて,競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること。」
 2 前提となる事実
 以下の事実は,原則として,当事者間に争いがない事実であるが,証拠等によって認定した事実を含むものについては,末尾に当該証拠等を掲記した。
  (1) (原告)
   ア 原告は,昭和4年2月21日に設立された小口貨物輸送等を業とする株式会社である。
(弁論の全趣旨)
   イ 原告は,昭和51年1月に宅急便の事業を開始し,その年間取扱個数は,昭和58年度には1億個を,平成4年度には5億個を超えて,平成15年度には約10億1115万個となり,取扱個数において33.5パーセントのシェアを,売上金ベースにおいて40.8パーセントのシェアをそれぞれ有し,いずれも業界第1位の地位にある。
  (2) (被告)
    被告は,平成15年4月1日,中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)33条1項に規定する国営の新たな公社として,独立採算制の下,信書及び小包の送達の役務,簡易で確実な貯蓄,送金及び債権債務の決済の手段並びに簡易に利用できる生命保険を提供する業務,当該業務を行うための施設その他の経営資源を活用して行う国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に資する業務等を総合的かつ効率的に行うことを目的として,設立された法人である。
  (3) (被告における一般小包郵便物の事業の推移)
 被告(以下,被告設立前の郵政省又は郵政事業庁による現業の時代の事柄については,これらの主体を特に区別せず,いずれも「被告」という。)は,昭和59年に一般小包郵便物(ゆうパック)の集荷を,平成7年には一部地域で翌朝10時郵便を,平成8年には保冷郵便サービスをそれぞれ開始し,平成11年には,20キログラムまで取扱いを拡大するとともに,配達時間帯指定サービスを開始し,平成12年には配達時間帯指定サービスを夜間の時間帯に延長するなどしてきた。
 小包郵便物は,信書以外の物(その物に添付する無封の添え状又は送り状を含む。)を内容とする郵便物で,その包装の表面の見やすい所に小包なる文字を掲げたもの(郵便法(昭和22年法律第165号)30条)であり,一般小包郵便物(ゆうパック)と冊子小包郵便物とがあるが,そのうち,一般小包郵便物(ゆうパック)の年間取扱個数は,昭和57年には約8300万個であったものが,昭和63年には1億1000万個を,平成2年には1億6000万個を超え,平成15年には,1億8218万個となり,取扱個数において6パーセントのシェアを,売上金ベースにおいて6.5パーセントのシェアを有し,いずれも業界第5位の地位にある。
(甲2,10の2,乙1,2)
  (4) (ローポスくんの設置)
 ローソン店舗約7700店内には,平成15年1月1日から,「ローポスくん」の愛称で呼ばれる郵便差出箱が設置されているが,この郵便差出箱について,被告は取集料を徴収していない。
(甲7の1,甲10の2,甲51)

 (5) (ポスタルローソンの出店)
 株式会社ローソンは,被告から,郵便局舎の余裕スペースを賃借し,平成15年8月5日代々木郵便局内に「ポスタルローソン代々木局店」を,同月26日青葉台郵便局内に「ポスタルローソン青葉台局店」を,平成16年8月5日被告北海道支社内に「ポスタルローソン道庁赤れんが前店」をそれぞれ出店した。
(各店舗の開設につき,甲8,10の2)
  (6) (被告と株式会社ローソンとの提携)
 被告は,平成16年8月18日,株式会社ローソンとの間で,ローソン国内全店(同年7月末現在で7851店)を取次所として同年11月中旬ころから被告の一般小包郵便物(ゆうパック)サービスを提供する旨の提携を合意し,その旨を発表した。
  (7) (原告と株式会社ローソンとの業務委託契約の解消)
 原告は,昭和63年5月に株式会社ローソンとの間で宅急便取扱店業務委託契約を締結し,継続してきたが,同契約は,同社と被告との業務提携に伴い,平成16年8月ころ,解消された。
(甲1,11)
  (8) (被告総裁の平成16年11月17日の定例会見における発言)
 被告の代表者である日本郵政公社総裁A(以下「被告総裁」という。)は,平成16年11月17日,定例会見において,株式会社ローソンとの間で,同年8月18日に一般小包郵便物(ゆうパック)取扱いに関して合意に達し,これに基づいてローソン全店舗で一般小包郵便物(ゆうパック)の取扱いを開始すること,取扱い店舗はローソン店舗全部(同年10月末現在で7911店)であること及び開始日は同年11月18日であることを明らかにした。
 また,被告総裁は,記者から,その際,「他のコンビニでのゆうパックの展開は」との質問を受け,「前からいろんなコンビニさんが,郵政と組むということについて,今後民営化していくから,いろんなポテンシャリティーというか,潜在的な何かがあるのではないか,メリットがあるのではないかということで,いろいろ関心を示していらっしゃるところがありますけれど,今のところ,具体的にどこといった話はありません。まあ,様子を見ているのではないですか。」と発言し,さらに,他のコンビニエンスストアでの展開に関連して,記者から,「公社としては,どんどん増やしていくと」という質問を受けて,「公社としては,よほど強く,何が何でもと言われない限り,少なくとも今のところは静かに見ていたいと思います。やっぱり,コンビニさんの業種からみると,いろんな事業展開をしたいので,向こうから御覧になる時の,民営化された後の郵政事業というのは,特に窓口ネットワークに御興味があるのだと思います。だから,何もこっちが,どなたかを排除してなんていう考えを持たなくても,いろいろ御関心が示されるし,お話は自然にあるので,それを待ってお話しする。これは,ローソンさんも含めて,民業圧迫という次元のレベルではないです。民業圧迫と言われると,はてなと思わざるを得ないというのが実情です。」と発言した。
(甲26の2)
  (9) (ゆうパックの従来の料金体系)
 原告の宅急便サービスの料金体系は,荷物の縦・横・高さの寸法の合計と重量区分ごとに料金が決定されるものであり,別紙一覧表(省略)記載のとおりとなっているほか,1個につき100円の持込割引がある。
 他方,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の平成16年9月30日までの料金体系は,次の表のとおりであり,荷物の重量を主な基準として料金が
   決定されるものであった。

       (注) 「市内」とは,差出郵便局の配達区域内,東京23区内又は同一市町村内のみ
         においてその引受け及び配達を行うものをいう。
    なお,上記表のあて先欄における地帯については,差出地の都道府県とあて地の都道府県との掛合せにより,第1地帯から第4地帯までの地帯の区別を250とおり定めていた。
(甲7の1,甲38)
  (10) (被告の新料金体系の設定)
 被告は,平成16年10月1日から,一般小包郵便物(ゆうパック)の料金体系を変更して,実施している(以下,変更後の料金体系を「新料金体系」という。)。
 被告の新料金体系は,従来の重量を主な基準とすることに代えて,荷物の寸法を主な基準として料金を決定するものであり,次の表の料金を基本料金(1個からの差出しに適用するサイズ別料金のものである。そのほかに,①同時又は月間10個以上差し出された場合に適用する特別料金,②同時又は月間200個以上の差出しを対象とする郵便物の重量別の区分に応じた特別料金,③重量が6キログラム又は11キログラムを超えないものに対する1か月間の差出個数及び地帯に応じた一定重量まで均一の特別料金,④年間2万個以上差し出す場合に適用する年間契約による一定重量まで均一の特別料金がある。)としているほか,持込割引(郵便局等の窓口に持ち込んで差し出した場合に1個につき100円を割り引くもの),同一あて先割引(差出日前1年以内に差し出された一般小包郵便物(ゆうパック)で同一のあて先が記載されているものについて,1個につき50円を割り引くもの)及び複数口割引(あて先が同一のものを同時に2個以上6個以下差し出した場合に,1個につき50円を割り引くもの)がある。
    なお,基本料金においては,サイズごとの重量制限はなく,すべて30キ
     ログラムまでとされていた。 サイズ(注1) あて先   60サイズ 80サイズ 100サイズ 120サイズ 140サイズ 160サイズ 170サイズ
県内(注2)  600円  800円 1000円 1200円 1400円 1600円 1700円
第1地帯  700円  900円 1100円 1300円 1500円 1700円 1900円
第2地帯  800円 1000円 1200円 1400円 1600円 1800円 2000円
第3地帯  900円 1100円 1300円 1500円 1700円 1900円 2100円
第4地帯 1000円 1200円 1400円 1600円 1800円 2000円 2200円
第5地帯 1100円 1300円 1500円 1700円 1900円 2100円 2300円
第6地帯 1200円 1400円 1600円 1800円 2000円 2200円 2400円
第7地帯 1300円 1500円 1700円 1900円 2100円 2300円 2500円


     (注1)「サイズ」とは,縦・横・高さの合計センチメートルを指している。
(注2)「県内」とは,同一都道府県内においてその引受け及び配達を行うものをいう。
  上記表のあて先欄における地帯は,次の地帯表の地帯のとおりであり,地帯表の数字は,一般小包郵便物(ゆうパック)を左側に掲げるエリア内から上欄に掲げるエリア内のあて所に差し出す場合の地域の区別を表し,1は第1地帯を,2は第2地帯を,3は第3地帯を,4は第4地帯を,5は第5地
   帯を,6は第6地帯を,7は第7地帯を示している。 エリア 北海道 東北 関東 東京 南関東 信越 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 沖縄
(各エリアに属する都道府県) 北海道 青森岩手宮城秋田山形福島 茨城栃木群馬埼玉千葉 東京 神奈川
山梨 新潟長野 富山石川福井 静岡愛知三重岐阜 大阪
京都
滋賀
奈良
和歌山兵庫 岡山広島山口鳥取島根 香川徳島愛媛高知 福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島 沖縄
北 海 道 県内 2 4 4 4 4 5 5 6 7 7 7 7
東 北 2 1 1 1 1 1 2 2 3 4 4 6 7
関 東 4 1 1 1 1 1 1 1 2 3 3 5 6
東 京 4 1 1 県内 1 1 1 1 2 3 3 5 6
南 関 東 4 1 1 1 1 1 1 1 2 3 3 5 6
信 越 4 1 1 1 1 1 1 1 2 3 3 5 7
北 陸 5 2 1 1 1 1 1 1 1 2 2 3 7
東 海 5 2 1 1 1 1 1 1 1 2 2 3 5
近 畿 6 3 2 2 2 2 1 1 1 1 1 2 6
中 国 7 4 3 3 3 3 2 2 1 1 1 1 5
四 国 7 4 3 3 3 3 2 2 1 1 1 2 6
九 州 7 6 5 5 5 5 3 3 2 1 2 1 3
沖 縄 7 7 6 6 6 7 7 6 6 5 6 3 県内

                                                    (甲36) 
3 当事者の主張
  (1) 原告の主張
   ア 不当な利益による顧客誘引の存在─一般指定9項該当の主張
    a 被告は,株式会社ローソンに対し,郵便局舎の余裕スペースを低額の賃料で賃貸しているなどの拠点確保の利益,将来における郵便貯金,簡易生命保険の窓口業務の委託の可能性,不当廉売に当たる低価格及びローソン店舗内の私設郵便差出箱からの取集料の免除という一般指定9項の「不当な利益」に当たる利益を提供した。
    b 被告が株式会社ローソンに郵便局舎の余裕スペースを低額の賃料で賃貸して提供した「拠点確保の利益」は,次のようなものである。
      すなわち,日本郵政公社法施行法(平成14法律第98号)5条は,「権利義務の承継」として,「公社法の施行の際現に旧総務省設置法第4条第79号に掲げる事務に関し国が有する権利及び義務(郵政事業特別会計,郵便貯金特別会計及び簡易生命保険特別会計がそれぞれ国の他の会計及び資金(財政法(昭和22年法律第34号)第44条に規定する資金をいう。)に対して有する権利及び義務を含む。)は,附則第2条第2項に規定するものその他政令で定めるものを除き,その時において公社が承継する。」とし,日本郵政公社法施行令(平成14政令第384号)附則3条は,「公社が承継しない権利義務」として,「日本郵政公社法施行法(以下「施行法」という。)第5条の政令で定める権利及び義務は,次に掲げる権利及び義務とする。」とし,同令附則3条1号で「郵政事業庁の所属に属する土地,建物及び工作物(その土地に定着する物及びその建物に附属する工作物を含む。)のうち,総務大臣が財務大臣に協議して指定するもの以外のものに関する権利及び義務」を,同条2号で「法の施行の際現に総務省の郵政企画管理局及び郵政公社統括官に使用されている物品のうち総務大臣が指定するものに関する権利及び義務」を定めており,公社化の際にすべての不動産が被告に当然に承継されるわけではない。そのため,被告に属する不動産は,本来国有財産であり,余裕スペースがあるならば,これを財務省に返還して他の有効活用を図るのが当然である。しかも,被告が株式会社ローソンに賃貸した部分の賃料は,近隣の賃料相場の30パーセントから40パーセントという著しい低額である。例えば,ポスタルローソン道庁赤れんが前店については,近隣では3.3平方メートル当たり2万円の賃料であるところ,ローソンに対する賃料は3.3平方メートル当たり6000円から9000円までである。
      宅配便業者がコンビニエンスストアチェーンに自己のサービスを提供するに当たって,自己の宅配便サービスの料金及び品質以外の利益を提供して取扱いを依頼する商慣習は存在しない。
      このような国有財産であるべき余裕スペースを市場価格を著しく下回る額の賃料で貸し付けることは,一般指定9項の「正常な商慣習に照らして不当な利益」を提供したことに該当する。
    c 被告の提供した「将来における郵便貯金,簡易生命保険の窓口業務の委託の可能性」とは,次のようなものである。
      すなわち,被告総裁は,平成16年11月17日の記者会見において,「コンビニは,郵政と組めば,民営化の後,いろいろなポテンシャリティーというか,潜在的な何かがあるので,メリットがあるということで関心を示している。コンビニから見ると,民営化後の郵政事業は,窓口ネットワークに興味があるのだと思う。だから,何もこっちがどなたかを排除してなんていう考えを持たなくても,いろいろ御関心が示されているし,お話は自然にあるので,それを待ってお話しする。」と発言しており,能力競争以外の要素で誘引したことは明らかである。
d 被告の提供した「不当廉売に当たる低価格」は後記のイと同じであるが,不当廉売を差し止めても,被告と株式会社ローソンとの関係は残るので,両者の関係を排除する必要があり,一般指定6項のほか,一般指定9項の「不当な利益」にも該当する。
  e 被告の提供した「ローソン店舗内の私設郵便差出箱からの取集料の免除」の点は,次のようなものである。
すなわち,被告は,株式会社ローソンが平成15年1月1日にその直営店及び加盟店の店舗内に設置した約7700個の郵便差出箱からの取集料を免除しているが,この郵便箱は,ローソン店舗の来店者だけに利便を与える目的で設置され,その維持管理は株式会社ローソンが行っているから,実質的に被告が管理しているものとはいえず,私設郵便差出箱である。
私設郵便差出箱からの取集料については,設置場所が建物内であり,収集回数が少ないので,年間12万円の取集料が適用されると思われるところ,被告は,株式会社ローソンに対し,毎年12万円に7700個を乗じた9億2400万円の利益を与えていることになる。
これらの金額は多額であるうえ,郵便取集料の免除は結果として郵便という独占事業の利益を一般事業に投入していることになるから,不当であり,取集料の免除は,一般指定9項の「正常な商慣習に照らし不当な利益」の提供に該当する。
f 被告は,株式会社ローソンにbないしe記載の不当な利益を提供することによって,原告の取引相手であるローソンを誘引したものである。
仮に株式会社ローソンが取引業者であって原告の顧客でないとしても,株式会社ローソンが宅配便業者の代理商であるのは形式にすぎず,宅配便業者がコンビニエンスストアを取扱店として獲得すれば,その宅配便業者においてそのコンビニエンスストアに来店する消費者のほとんどを宅配便の顧客として獲得することができるのであるから,株式会社ローソンは,実質的には宅配便業者の顧客の塊であるとみることができる。
g 以上のとおり,被告は,株式会社ローソンにbないしe記載の不当な利益を提供することにより,平成16年11月中ころから,株式会社ローソンの直営店及び加盟店の店舗を取次所とし,株式会社ローソンを介する原告の顧客を誘引し,そうでないとしても,これらの利益の提供により,実質的に原告の顧客に不当な利益を提供し,これによって原告の顧客を誘引しているというべきである。
   イ 不当廉売の存在─一般指定6項の該当の主張
    a 「正当な理由がないのに役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し」ている場合に該当すること
     (a) 法人・個人を含む全体の平均価格は,原告の宅急便が683円であるのに対し,被告の新料金体系による被告の一般小包郵便物(ゆうパック)は605円であり,原告の宅急便よりも安い。
       原告の宅急便の平成15年度の年間取扱個数は約10億1100万個であり,年間の経常利益が約347億円であるので,宅急便1個当たりの経常利益は約34.32円であり,原告以外の民間における宅配便サービスも,原告とほぼ同額の料金を徴収している。
       これに対して,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の料金は,原告の宅急便の料金と比べて最低でも40円,最大で2220円も低く,これが原価を下回るものであることは明らかというべきである。
       そもそも,個人向けには料金表をそのまま適用し,法人向けには物量に応じて料金表から値引きするので,個人向けと法人向けとでは,平均単価が異なり,法人向けの平均単価は,個人向けの平均単価よりも低くなるものである。原告は個人からの荷物が20パーセントであるのに対し,被告は個人からの荷物が50パーセントを占めているので,被告の平均単価は,原告の平均単価よりも高くなるはずであるにもかかわらず,被告の平均単価が,原告の平均単価よりも低いということは,被告の単価は,個人・法人とも,相当に低いとみるべきである。
       宅配便においては,法人向けには物量に応じて料金表から値引きするのに対し,個人向けには料金表から値引きせずそのまま適用することから,個人向けと法人向けとでは市場が異なると考えられるとしても,少なくとも,被告の新料金体系による一般小包郵便物(ゆうパック)のサービスのうち,個人向けのサービスについては,そのまま料金表による比較が可能であり,原告の宅急便の料金を最低でも40円,最大で2220円下回る被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の料金が原価を下回っていることは明白である。
     (b) 一般小包郵便物(ゆうパック)は,荷物の大きさや距離によって料金が異なるから,その供給に要する費用を一律いくらという形で表現することは極めて困難である。しかし,「その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」していることとは,その役務についての収支が継続的に著しく赤字であることと置き換えることが可能である。
       被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の価格設定は,被告の企業努力によって達成した低価格ではなく,税金の免除をはじめとする種々の優遇措置,独占事業である信書事業によって得られた利益からの補てん,国の信用を背景とする郵便貯金及び簡易保険事業の利益からの調整等によって成り立っており,一般小包郵便物(ゆうパック)単独では,大幅な赤字である。
       すなわち,まず,被告は,所得税,印紙税,登録免許税,法人税,都道府県民税,事業税,固定資産税,都市計画税,不動産取得税,市町村税等が非課税とされ,また,道路交通法関係において,車両通行止め,二輪自動車・自転車通行止めの規制を除外され,歩行者専用道路の通行及び駐車禁止区域での駐車を許され,さらに,貨物自動車運送事業法の適用を受けないため,事業所への自動車配置数の制限を受けず,また,農地法,都市計画法,建築基準法等の除外を受けているため,事業所の設置場所に制限を受けないなどの優遇措置がとられている。
       そして,「供給に要する費用」については,企業努力によらない特殊事情は考慮の外に置き,一般の独立業者が自らの責任で企業を維持するため経済上通常計上すべき費用を基準とすべきことは判例上確立している。
       一般小包郵便物(ゆうパック)の事業は,歴史的にも郵便法に照らしても官の独占であったことはないうえ,信書を独占するに至った経緯からすれば,むしろ民間優先の分野である。そのため,被告は,一般小包郵便物(ゆうパック)の事業を廃止してもかまわないこととなっているから,被告に対して一般小包郵便物(ゆうパック)の事業について何ら優遇措置を講ずる必要はない。そうであるとすれば,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の事業については,民間との競争条件の平等を要求しないことを妥当とする政策目的は存在せず,被告が税金を支払うことを前提条件として判断すべきである。
       被告は,被告の平成15年度決算を前提として試算をすると,固定資産税約495億5800万円,事業税の付加価値割約44億6200万円,住民税均等割り約26億7300万円が免除されており,これを加算すると最終損益が111億8300万円の赤字となる。これら税金の優遇措置による利益の合計は,約570億8000万円となるところ,これを郵便事業の中の各事業別の営業費用の割合に従って配賦すると,このうち,約52億6000万円が小包郵便物の事業の負担となるはずである。また,原告の試算によれば,被告は,駐車禁止の規制が除外される優遇措置により,約94億7753万円の費用も免れている。このように,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)は,税金の免除をはじめとする種々の優遇措置によって成り立っており,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)単独では,赤字である。
       また,被告の平成14年度及び平成15年度の郵便種類別収支によれば,小包郵便物の1個当たりの平均収支は,平成14年度では10.65円の赤字で,平成15年度も1.4円の黒字にすぎないのに対し,第一種郵便物の1個当たりの平均収支は,平成14年度で3.37円の黒字で,平成15年度も6.1円の黒字となり,第二種郵便物の1個当たりの平均収支も,平成14年度で0.21円の黒字で,平成15年度も1.5円の黒字となっている。総額でみても,小包郵便物の収支は,平成14年度で46億円の赤字で,平成15年度も10億円の黒字にすぎないのに対し,第一種郵便物の収支は,平成14年度432億円で,平成15年度も761億円となり,また,第二種郵便物の収支も,平成14年度で24億円の黒字で,平成15年度も156億円の黒字となっている。そして,被告の郵便事業には,約1693億円の長期融通と約1690億円の短期融通等の借入金があるため,年間約168億8000万円の利息を支払っている。借入金で事業を行う場合に,利息が払えなければ倒産するので,赤字か否かを判断するのには利息の支払を含めてする必要があるところ,被告の第1期事業年度(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで)の郵便事業の営業外収支は,約149億9000万円の赤字であるから,これを郵便事業の中の各事業別の営業費用の割合に従って配賦すると,このうち約13億8000万円が小包郵便物の事業の負担となり,小包郵便物の事業の経常収支は約3億8000万円の赤字となるのに対し,同様の方法で計算した第一種郵便物の事業の経常収支は約692億3000万円の黒字となり,また,第二種郵便物の事業は約118億3000万円の黒字となるため,結果として,小包郵便物の事業の赤字は,第一種郵便物及び第二種郵便物の事業の利益で補てんされていることとなる。このように,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)は,独占事業である信書事業によって得られた利益からの補てんによって成り立っており,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)単独では,赤字であるし,営業利益のみで黒字であっても,支払利息の負担を計算に入れて計算すると赤字となる。
       そのうえ,郵便事業と郵便貯金事業及び簡易保険事業との共通経費の配賦において,郵便事業への配賦が不当に少ない。すなわち,共通経費約1兆1998億円のうち約4970億円(41.42パーセント)が郵便事業に配賦されているところ,基礎年金拠出金として支払っている公経済負担約367億円のうち約204億円が郵便事業の負担であることからすれば,約55.6パーセントを郵便事業の負担とすべきであり,この配賦割合に従って,共通経費約1兆1998億円のうち郵便事業の負担とすべき部分を計算し直すと,約6670億円となり,前記4970億円との差額1700億円が不当に調整されている。これを郵便事業における小包郵便物の事情の占める営業費用の割合で配賦すると,156億6000万円の負担があるはずである。また,被告の平成15年度の貸借対照表によれば,土地建物の資産合計約3兆2850億円であり,郵便業務の区分に係る貸借対照表の内訳に計上されている土地建物の資産合計約1兆8383億円であるから,被告の不動産のうち約55.9パーセントが郵便事業に割り付けられている。郵政三事業における人件費及び不動産の割合は,共通経費の適正な配賦割合を決めるに当たっての主要な指標というべきであり,原告と被告との競争条件の平等という観点からは,郵政三事業の共通経費のうち郵便事業に配賦されるべき割合は,約55.6パーセントとするのが相当である。これらの事情からすれば,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)は,国の信用を背景とする郵便貯金及び簡易保険事業の利益からの調整によって成り立っており,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)単独では,赤字である。
    b 「不当に役務を低い対価で供給し」ている場合に該当すること
     (a) 一般指定6項後段の「低い対価」とは,市場価格を下回ることで足り,供給に要する費用を下回る必要はない。一般指定6項後段が一般指定6項前段とは別に規定されていることからすれば,一般指定6項後段には,供給に要する費用を下回らないけれども,不当性のある市場価格を下回る対価で役務を供給する場合を含むと解すべきであるからである。
       個人向けの定価表で比較すれば,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)だけが,原告を含む外の宅配業者よりも低い価格であるから,被告の新料金体系は,市場価格よりも低い価格となっており,一般指定6項の「低い対価」に該当する。
     (b) また,被告は,所得税,印紙税,登録免許税,法人税,都道府県民税,事業税,固定資産税,都市計画税,不動産取得税,市町村税等が非課税とされている。また,被告は,道路交通法関係において,車両通行止め,二輪自動車・自転車通行止めの規制を除外され,歩行者専用道路の通行及び駐車禁止区域での駐車を許されている。さらに,被告は,貨物自動車運送事業法の適用を受けないため,事業所への自動車配置数の制限を受けず,また,農地法,都市計画法,建築基準法等の除外を受けているため,事業所の設置場所に制限を受けない。
       しかし,被告のみがかかる優遇措置を受けているのは,不当であり,このような優遇措置によって被告の一般小包郵便物(ゆうパック)のサービスが低価格によることが可能となっていることからすると,被告の新料金体系による料金による役務の供給は,一般指定6項後段の「不当」に役務を低い対価で供給する場合に該当するというべきである。
       また,被告が一般小包郵便物(ゆうパック)をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給すること又は官業である被告が民業である原告の事業を圧迫していることは,一般指定6項後段の「不当」性があるというべきである。すなわち,①被告は,前記のとおり,一般小包郵便物(ゆうパック)の役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給している。また,②被告が民業を圧迫する形で官業を肥大化させようとする動きをしていることは,そもそも国の政策に反し「不当」といえるうえ,被告は,信書事業を独占し,年賀状事業で莫大な利益をあげているところ,被告がそのような独占的な利益を背景として競争すること,言い換えれば,競争分野における赤字を独占分野における利益で補てんし得る状況で競争することは,「不当」というべきである。被告の郵便事業のように官業であり,赤字は税金で補てんされるため,赤字の事業にも永続性があるような場合には,そもそも市場における競争を行う前提が欠けている。そのため,赤字になってもつぶれない事業者は,市場価格を下回る対価で競争をすることは一切許されず,そのような競争は「不当」というべきである。さらに,③一般指定6項後段は,不当性の一般規定であり,一般指定6項前段は原則として不当性が認められる一場合を例示的に規定したものと解されるから,前記①及び②の事情を併せ総合的に考慮して不当性の有無を判断することも許される。
       このように,いずれにしても,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の廉売が「不当」であることは明らかである。
    c 「原告の事業活動を困難にさせるおそれがあること」について
 個人向けに全国一律に原告と同等の宅配便サービスを提供する事業者であって,原告よりも低価格の料金を設定している事業者は,被告以外にない。
 原告は,被告に追随して値下げ競争をすることは不可能であり,被告の値下げによって,原告の事業活動は困難となる。短期的には,原告は,自らの必死の頑張りで,被告の新料金体系による一般小包郵便物(ゆうパック)によるサービス供給により余り影響を受けていないようにみえるが,長期的には影響を避けられない。仮に,原告が被告との平均単価の差である78円の値下げをしたとすると,原告は約788億円の減収となり,赤字に転落するし,個人発の荷物だけ78円値下げしたとしても,約176億円の減収となり,赤字にはならなくても,著しい損害が生ずる。このように,原告は,被告の新料金体系によって,中長期的には,宅配便市場から撤退を余儀なくされるから,原告の「事業活動を困難にさせるおそれ」が存在するというべきであり,現に,原告は,被告に東武百貨店を奪われるなど,競争への影響が生じている。
 被告が,原告よりも事業規模が大きく,その態様も全国くまなく営業所及び取次所をおいて大々的に一般小包郵便物(ゆうパック)のサービス供給を行っており,一般小包郵便物(ゆうパック)の取扱い個数も原告の宅急便の取扱個数の約2割に及ぶほか,一般小包郵便物(ゆうパック)の廉売は定価表で定めた恒久的廉売であることなども考え併せれば,被告の不当廉売行為による競争への影響は極めて甚大であり,「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」が存在する。
   ウ 独占禁止法24条所定の「著しい損害を生じ,又は生ずるおそれ」の存在
    a 不公正取引として禁じられている行為を行い,これによって被害者に対し損害賠償義務を負う者について,差止請求は排斥されるが不公正取引に該当する行為を引き続き行うことができるという事態を認めることはできないから,独占禁止法24条の「著しい損害」については,損害賠償を許容する場合よりも高度の違法性を要すると解することはできない。
      独占禁止法24条の「著しい損害」の要件は,不公正取引に対する排除措置を行って不公正取引を規制する本来的な機能を果たす機関は公正取引委員会であって,裁判所が私人からの不公正取引の差止請求を認容することによって不公正取引の規制をするのは補完的なものであるとの位置付けを明らかにするために,事件性がはっきりしているもの,すなわち,明白な損害が発生し,又は発生するおそれがある事件に限定するためのものであるから,独占禁止法24条の「著しい損害」とは,明白な損害と解するべきである。
      また,被告は,国営の公社であり,郵政事業に関する制度の企画及び立案に関することが総務省の所掌事務とされていることなどから,実質的には,総務省と一体の官庁であり,このような実質的行政官庁である被告に対して不公正取引の差止請求をしている本件においては,裁判所は公正取引委員会の補完であるべしとして「著しい損害」の要件が設けられた前提条件を欠くことになるから,そのこと自体で著しい損害の存在が擬制されるべきである。
    b 現実にも,原告は,被告によって,株式会社ローソン,ミニストップ株式会社及び株式会社サークルKサンクスなどの取引先であるコンビニエンスストアを奪われ,その結果,年間約1397万個の荷物を失ったし,他にも,東武百貨店を奪われ,その結果,年間約280万個の荷物を失った。
      このような損害は,明確なかつ顕著な損害であり,原告は,現実に著しい損害を被っている。
    c また,被告は,原告よりも,資産,売上高及び従業員数において大きな事業者であり,不公正取引について故意を有し,原告が本件訴訟を提起した後も,対象とされている行為を継続し,又は同様の行為を繰り返していることからしても,被告には,原告に対し,著しい損害を与える能力と意図を推認することができ,原告に「著しい損害が生ずるおそれ」があると認めるのが相当である。
    d 原告は,いずれ売上げの減少を避けるため,被告に対抗して値下げをしなければならず,その結果,赤字となって,いずれ宅配便市場からの撤退を迫られるおそれがある。他方,被告は,値下げ競争によって赤字がでても,優遇措置である独占事業の利益で補てんされ,また,それでも足りない場合には,優遇措置で税金で補てんされる可能性がある。
      このように,被告の前記ア及びイの行為は,いずれも,原告に宅配便市場からの撤退を迫る可能性のある著しい損害をもたらすものであり,また,被告による不公正取引は,活力ある民間の事業を阻害して独占事業者だけを残すことになるから,それ自体著しい損害を発生させるというべきである。
  (2) 被告の主張
   ア 不当な利益による顧客誘引がないこと(一般指定9項非該当)について
    a 原告は,宅配便サービスの利用者を「顧客」と主張しながら,「顧客」ではない株式会社ローソンを不当な利益の提供先と主張している。
      しかし,一般指定9項の「不当な利益」の提供と「顧客の誘引」との間には因果関係があること,すなわち前者が後者の手段となることが必要であるところ,原告が「不当な利益」と主張する「拠点確保の利益」,「将来における郵便貯金,簡易生命保険の窓口業務の委託の可能性」及び「店舗内の私設郵便差出箱からの取集料の免除」は,宅配便の取扱業者に提供されるものであって,宅配便サービスの利用者である顧客に提供されるものではない。
      したがって,これらの利益提供をもって宅配便サービスの利用者である顧客との間の取引を誘引することとなる余地はない。
    b 一般指定9項は,取引の本来的な給付内容における価格と品質による能率競争を阻害するような付随的なものを,本来的な取引の誘引手段として,通常は大々的な広告宣伝を利用して提供することによって,本来的な取引の顧客を誘引する行為を正常な商慣習に照らして不当とされる範囲で制限する趣旨の規定であるから,一般指定9項の「不当な利益」には,本来的にかつ独自に取引の目的となるものは含まれないというべきである。
      原告の主張する株式会社ローソンに対する「拠点確保の利益」,「将来における郵便貯金,簡易生命保険の窓口業務の委託の可能性」及び「店舗内の私設郵便差出箱からの取集料の免除」は,いずれも,被告と株式会社ローソンとの間において,本来的にかつ独自に取引の目的となるものであって,実際にも,これらの利益提供は,独自の取引として行われている。
      したがって,これらの利益提供が正常な商慣習に照らして不当な利益の提供となる余地はない。
    c(a) 原告の主張する「不当な利益」のうち,「不当廉売に当たる低価格」については,宅配便サービスの利用者である顧客にとっては,通常利益となるものと認められるけれども,不当廉売は一般指定6項で規制されているので,一般指定9項の違反を問題とする余地はない。
     (b) 株式会社ローソンは,被告から一般小包郵便物(ゆうパック)の取扱いを打診された際,従来からの原告との取引関係を維持し,ローソン店舗において,原告の宅急便と被告の一般小包郵便物(ゆうパック)を併売する意向であったが,原告の方が,ローソンにおける併売を拒否し,株式会社ローソンとの取引を打ち切ったものである。
       したがって,仮に被告が株式会社ローソンに対して原告の主張するような利益の提供を行っていたとしても,それによって,原告の顧客である宅配便サービスの利用者に対して「自己と取引するように誘引」したということはできない。
     (c) 被告が株式会社ローソンに対して郵便局舎の余裕スペースを賃貸したのは,郵便局を利用する顧客の利便性向上に資するとともに,そのイメージアップを図り,新たな顧客の誘致を図る契機とするという被告自身の利益のためであり,その賃料も,付近賃貸事例に基づき適正に算出された適正なものである。
       したがって,被告が,株式会社ローソンに対し,郵便局舎の余裕スペースを低額の賃料で賃貸するなどの利益を与えている事実はない。
       なお,被告は,日本郵政公社法施行法5条及び日本郵政公社法施行令附則3条の規定に基づき,必要と判断された不動産を承継しており,国から承継し被告所有となった資産について,国に返還することは予定されておらず,返還に関する手続もないから,被告に属する不動産は,日本郵政公社法施行法等の規定に基づき正当に被告に承継されたものであって,国有財産ではない。
     (d) 株式会社ローソンの店舗内に設置された郵便差出箱は,被告が設置した被告の所有にかかる一般の郵便差出箱であって,私設郵便差出箱ではない。
       したがって,被告が株式会社ローソンから取集料を徴収しないのは当然であり,被告が株式会社ローソンから取集料を徴収していないことをもって「不当な利益」の提供ということはできない。
   イ 不当廉売ではないこと(一般指定6項非該当)について
    a 「正当な理由がないのに役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し」ている場合に該当しないことについて
     (a) 一般指定6項前段の「供給に要する費用を著しく下回る対価」であることの主張・立証責任は原告が負うべきであるから,原告は,供給に要する費用の費目とそれらの各金額及び積算価格を示し,被告の対価がそれを下回ることを主張・立証する必要がある。
       しかるに,原告は,これらの主張・立証をしていない。
       したがって,この点において,既に原告の主張は理由がない。
     (b) 一般指定6項前段の「供給に要する費用を著しく下回る対価」は,市場価格を著しく下回っていることを前提としている。
       宅配便市場においては,この市場価格は,様々な荷主の様々なサイズ・重量の荷物が,様々な数量,距離,時間で,その他の様々な条件によって取引されるという競争の中で,多様なものが形成されており,これを比較することは困難であるが,宅配便の売上高を取扱個数で除したことにより得られる取扱荷物1個当たりの平均単価は,これらの複雑な条件をある程度平準化して,市場における価格レベルを比較可能な方法で把握する一応の目安となり得るものである。この平均単価でみると,被告の平均単価605円は,原告の平均単価683円よりも低いけれども,被告よりも市場シェアの高い佐川急便株式会社の平均単価530円や日本通運株式会社の平均単価519円よりも高く,市場の中では高価格帯に属している。
       したがって,市場価格を著しく下回っているとはいえない。
       なお,委託者が,個人であれ,法人であれ,また大口の委託者であれ,小口の委託者であれ,受託荷物の配送先はいずれもこれらを区別することができないから,供給に要する費用という観点からは,原告の主張のように委託者を区別して論ずる合理性はなく,本件については,個人・法人,大口・小口を区別せず,宅配便市場を全体として捉えることが合理的である。
       また,原告が指摘する最大の2220円の料金差は,沖縄発着の場合の料金差を指すと思われるが,沖縄発着の一般小包郵便物(ゆうパック)の料金に関する取扱いは,政府の沖縄振興策を反映して定められていたものであり,国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に資するという被告の社会的責務を果たすために必要とされているものである。
     (c) 被告の小包郵便物の事業は,平成14年度で46億円の赤字であったものの,平成15年度には,営業収益が1686億円で営業費用が1676億円となり10億円の営業利益があり,また,平成16年度には,営業収益が2345億円で営業費用は2264億円となり81億円の営業利益があるから,黒字である。他方,被告は,平成14年度には,第一種郵便物及び第二種郵便物は黒字であるけれども,第三種郵便物,第四種郵便物及び特殊取扱の郵便物はかなり赤字となっており,通常郵便物の合計でも赤字となっていたので,平成14年度においても第一種郵便物及び第二種郵便物の黒字をもって小包郵便を廉売しているということはない。
       また,被告の営業実態は,郵便,郵便貯金,簡易生命保険の三事業が一体として運営されているので,費用項目にはこれらの共通的経費として支出されているものもあるが,これらの共通的経費の各事業分野への配賦については,会計監査人の監査を受けて一般に公正妥当と認められる方法によっており,郵便事業に賦課された費用を基に郵便事業内部で郵便の種類別の収支計算を行う場合についても,郵便の各種類別に要した時間や運送便に掲載した郵便物の容積を勘案するなど,一般に公正妥当と認められる方法に準じた方法によって,配賦している。
       さらに,原告が主張する税制上の優遇措置は,被告が,郵便法1条により,郵便の役務をなるべく安い料金で,あまねく,公平に提供することとされていること,郵便法23条,26条及び75条の2第2項5号により第三種郵便物及び第四種郵便物について低減料金の義務を負担していること,日本郵政公社法19条により業務範囲が限定されていることなどの各種の義務を負担していることと表裏の関係にあるものであり,その均衡はとれている。ちなみに,被告は,一般の民間企業に対して認められている国民年金の基礎年金拠出金の国庫負担が認められておらず,これを負担しており,税制上の優遇措置を実質的に相殺する結果となっている。そして,一定の範囲で道路交通法その他の法令による規制の対象外とされている措置も,郵便配達等の円滑な遂行等に必要なものとして道路交通法その他の法令に基づいて行われているものである。
       したがって,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)に係る事業は,単独でも赤字であるとはいえないし,信書事業によって得られた利益からの補てん,又は郵便貯金及び簡易保険事業の利益からの調整によって成り立っているものでもなく,また,被告に税制上の優遇措置や道路交通法の前記措置によって,原告が主張するような経済上の利益が存在することを前提に,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)に係る事業の収支を算定し,対価の不当性を判断すべきであるともいえない。
    b 「不当に役務を低い対価で供給し」ている場合に該当しないことについて
      一般指定6項の「低い対価」は,原告の主張のように単に市場価格を下回ることでは足りず,市場価格を下回り,かつ,「供給に要する費用」を下回る必要があるというべきであるから,「供給に要する費用」を下回る必要がないとの原告の主張は誤りである。
      また,一般指定6項の「不当」性は,その行為の公正な競争秩序に及ぼす影響を個別的に判断するための要件であるところ,被告は国の政策に反して民業を圧迫する形で官業を肥大化させようとする動きをしているなどの原告の主張は,単なる政治的な主張又は価値観にすぎず,不当性を基礎付ける評価根拠事実とはいえない。
      そして,被告が一般小包郵便物(ゆうパック)の役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給しているものでないことは前述したとおりである。
      被告が国から一定範囲で税制上の優遇措置を受け,また,郵便配達等の円滑な遂行等に必要なものとして一定範囲で道路交通法その他の法令による規制の対象外とされている措置は,法律に基づいて適法に行われている。被告には,日本郵政公社有資産所在市町村納付金が賦課されているほか,郵便法1条の規定によって,郵便の役務をなるべく安い料金で,あまねく,公平に提供する義務,第三種郵便物や第四種郵便物の低減料金の義務,日本郵政公社法19条の規定によって業務の範囲が限定されている制限などが課されており,これらの義務ないし制限と前記の優遇措置とは均衡がとれているものである(ちなみに,被告は,国民年金の基礎年金拠出金の国庫負担が認められておらず,これを被告が負担することとされているので,平成15年度における郵政事業分で204億円を負担しており,税制上の優遇措置の効果を実質的に相殺する結果となっている。)。
      したがって,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の役務の提供が,「不当に役務を低い対価で供給し」ている場合に該当するとの原告の主張には理由がない。
    c 「原告の事業活動を困難にさせるおそれがある」とはいえないことについて
      被告の平均単価は,宅配便市場における有力競争事業者である佐川急便,日本通運等よりも相当高い水準にある。原告は,これらの有力競争事業者に対して高価な価格水準を維持しながら市場における最大シェアを維持してきたのであるから,原告の6分の1しかシェアを有しない被告がこれらの有力競争事業者よりも高い水準の価格で営業を行ったとしても,それによって,原告の事業活動が困難となったり,困難となるおそれが存在するということは,およそ考えられない。
      また,原告は,被告が一般小包郵便物(ゆうパック)の新料金体系を導入した平成16年10月1日以降も,宅急便の営業収益及び取扱高を増大させてきており,自らも,平成17年度以降においても宅配便分野における今後の原告の利益が増大する見込みであることを予測し,公表している(例えば,平成17年2月17日に発表した「ヤマトグループレボリューションプラン2007新価・革新3か年計画」では,平成19年度の宅配便個数目標を平成15年度実績に比べ約2割増の12億個としている。)。
      したがって,被告の一般小包郵便物(ゆうパック)の新料金体系による役務の供給によって,原告の事業活動を困難にさせるおそれがあるとはいえない。
   ウ 「著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがある」とはいえないことについて
    a 独占禁止法24条に